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マスター:小鳥遊美空
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング

●大禍時に咲き誇る花
 どこからか、脳を蕩けさせるほどに甘ったるい蜜の香りを帯びた風が駆け抜け、鼻腔を擽る。
 光と闇が混じり融け合う黄昏刻、空はすっかり燃えたような幻想的な赤紫に染まっていた。
 黄昏時、俗に誰ぞ彼時、逢魔時とも呼ばれるが、この日の空はまさしくその到来を予感させるに相応しいものと言えた。
 この日、この時、この天の下で、ぱっと、鮮やかな朱が咲いた。
 とろりとした妙に艶のある緋色が、草花を染め上げる。
 無造作にまき散らされた紅の中央で、ひときわ蠱惑的な色合いの花が鎮座していた。
 その中央に本来あるべき器官は従来のものとは別の――、美しい少女の容姿をもった何かに挿げ替えられていた。
 少女の口元を彩る色もまた赤く、傍らには徐々に熱さを失う人だったモノの残骸が転がっていた。
 華らしく、愛らしい微笑みで少女は佇む。
 少女は、もぞもぞと動く根を足のように器用に動かすと、次の得物を求めて移動を開始するのだった。

●陸の孤島へ
「よく来たのじゃよ。まぁ、そこに座して聞くのじゃ」
 見事な銀髪をなびかせながらエレオノーレ(ja0046)は着席を促し、資料を配りはじめた。
「現場は観光地として名高き港町にある植物園なのじゃ。なかなか特殊な場所にあっての、なんと山の上に作られているらしいのじゃ」
 手元の資料に写されたそこは、綺麗な紅葉に染まった山々に囲まれ、ひっそりと存在している。
 地元では有名な植物園らしく、観光やデートスポットとしての利用客も多いようだ。
 自家製ハーブを使った料理やスイーツ、お茶も好評のようで、展望レストランから町の全景を眺めながらの食事は格別との事だ。
「その植物園にな、ディアボロが現れ人を襲っておるのじゃ」
 目撃した者の話を要約すれば、どうやらディアボロは植物のような容姿をしているらしい。
 厄介な事にこの植物園は山林を切り開いて作られている為、そこに隠れられると見つけるのは至難の技になりそうなのだ。
「実際にエルが見たわけではないから断言はできぬが、たぶんアルラウネじゃろうて。個々の能力はそう対した事はないのじゃがな・・・・・・」
 アルラウネはしなやかな鞭のような蔓を使い、複数の敵を相手にすることに優れるという。
 また、彼女たちの放つ花粉には麻痺作用があるようだ。
 増援を呼び、群れて襲って来るため、個体能力が低いと言えど油断は出来ない。
「さて、本題なのじゃが、君達には植物園に赴き施設内に避難している一般人を救助してきてほしいのじゃよ」
 要救助者達はディアボロが現れたと知ると山の麓へ避難しようとしたが、そこに至るルート全てを彼女たちに占拠された為、仕方なく立てこもったらしい。
 しかし物質透過能力を持つ彼女たちに対してあまり意味はなく、いつまでも安全という訳ではない。
 故に、迅速な救援が待たれるのだ。
「植物園へと至るルートじゃが、二通りある。麓にあるという『ろーぷうぇい』とやらを使うルートと、山頂の中程まで整えらている車道を伝い徒歩で向かうルートじゃ」
 ゴンドラリフトは定員が六名である為、全員が一回で乗るのは難しいだろう。
 車道に関しても整えられているのは途中までで、残りの道のりは足場が悪く、見通しも悪い山道を登る事になる。
 どちらを使用するにしても細心の注意が必要だ。
「そうそう、一般人じゃが、全員合わせて十名程度いるそうじゃ。彼らの脱出手段も考えておいてほしいのじゃよ」
 撃退士達と違い、一般人の彼らには徒歩での下山はかなりの時間を要するだろう。
 ロープウェイを使うか、車などの移動手段を用意する必要がある。
「作戦開始時刻は18:00じゃ。今回の依頼は『けんちじ』と『しちょー』の連名できておるようじゃ。観光地としてのイメージがなんたらかんたら、じゃな」
 人間の都合はよくわからない、と仕草で表すとエレオノーレは立ち上がり、撃退士達を送り出した。
「エルは別働隊として動く故、ついてはいけぬが、君達の奮戦に期待しておるのじゃよ」


解説

・作戦開始時刻は18:00、秋のこの時間は寒く、暗くなります。
・ロープウェイの定員は6名、往復で10分程度の時間を要します。
・操作は麓から山頂までは、麓にある施設で。山頂から麓までは山頂にある施設で行います。
 利用の際、行きは操作して貰えますが、帰りは自分たちで操作しなければ使えません。
 簡単な操作マニュアルがありますので、そちらを参照してください。
・整備された車道から山頂までは一般人の足で歩けば10分程度かかります。
 途中の道は山林に囲まれているので、見通しが良いとはいえません。
・要救助者達が立てこもった理由は、ロープウェイ乗り場、山道共にディアボロの姿を視認したからです。
 通路の安全を確保しましょう。
・今回の任務は護衛が主です。
 敵の総数は不明です。
 殲滅は救助後、別働隊が行いますので、一般人の安全を最優先してください。
 それ故に、万が一にも要救助者の死傷者が過半数に達した場合、失敗になりますので、ご注意ください。
・敵情報まとめ。
 鞭のような蔓は複数を攻撃し、花粉は時折麻痺を引き起こし、増援を呼びます。
 個々の能力はそう対した事はありません。

●マスターより

 初めまして、皆様の冒険をサポートさせて頂きます、小鳥遊美空(たかなしみく)です。
 今回は陸の孤島と化した植物園を舞台に、皆様に知恵と勇気を絞って頂きたく思います。
 要救助者の安全はもちろんですが、参加なされる皆様の安全にも充分に注意して頂き、より良い結末を迎えられる事を祈ってます。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・マキナ・ベルヴェルク(ja0067)
阿修羅
事前準備として電池式のLEDランタンを持ち込み(三千円ギリギリの、それなりの性能な物を)

※作戦行動の詳細や異なる部分は他を参照。
遊撃班。他班から離れ過ぎない程度の距離を維持しつつ周囲を哨戒。
尚、敵を発見した場合は攻撃しつつ防衛班の射程まで後退。

・戦闘時
基本的に近接が本命。
……ではあるが、作戦遂行の都合上、ダアトの射線を塞がない様に立ち回り展開。
攻撃は一撃離脱で、同班との連携を優先。
速度よりも一撃に比重を置いた戦闘型、防御重視。

撃退士・植松爻(ja0300)
ダアト
●作戦
1.山道の入口まで車で移動、索敵しつつ山頂を目指す。ロープウェイを上へ動かしてもらう
2.ロープウェイ乗り場の制圧
3.植物園に向かい、要救助者の確保。状況を説明して落ち着かせる
4.全員でロープウェイ乗り場に向かう
5.負傷者・女性・子供・老人を優先的に送り出す。ロープウェイ1回目
6.次の6人を送り出す。ロープウェイ2回目
7.戦域を離脱。ロープウェイの定員からあふれた人がいれば、一緒に下山

●役割&戦闘
俺様はマキナちゃん、ユウちゃんと一緒に遊撃班。
先頭を行き、他班から離れすぎず哨戒。
敵発見時は攻撃しつつ防衛班の所まで後退。
敵が複数いる場合、前衛が足止めしてくれてる間に声を掛け合って集中攻撃で撃破していく。

●説得
施設到着時、不安になってるだろう人達を説得し円滑に事を進めるようにする。
怪我をした人には救急箱を使用し応急処置。
子供には優しく語りかける。

撃退士・ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)
ダアト
山道はやはり厳しいですね…
…弱音を吐いてる暇などありませんが

▽事前
明かりにヘッドライトと連絡手段に携帯電話を申請

あと麓でロープウェイを操作される方に操作した後も残って貰えるかお願い
携帯電話を持ってるかも確認
送った後、無事に着いたか確認したいので

▽行動
山道移動時は体力配分には注意
後方からの奇襲を警戒しつつ

▽ロープウェイ
操作マニュアルはさっさと頭に入れて操作
余裕のあるうちに機械が苦手な戸川さんにも簡単に説明
何かあった時すぐ代わって操作出来る人が必要なので

▽戦闘
攻撃の際は射線に味方を入れず、味方の射線に入らない
遮蔽物になる木などは盾に利用
「本当は水氷系の魔法の方が得意ですがっ…!」
ちゃんとした魔具が無いんですよ!!(心の叫び

ロープウェイ防衛時
●後方警戒
・動き
 ロープウェイ操作及び交代要員、後方の警戒も
・メンバー
 戸川
 ファティナ

※怪我した人は後方警戒と後退して救急箱等で治療

●終
皆無事か確認です

撃退士・ユウ(ja0591)
ダアト
○動き
流れは他のメンバーに合わせる
視界が悪いので、音と匂いを頼りに索敵

○遊撃班に所属
メンバー:マキナ、植松、ユウ

植物園−乗り場間ではやや先行して哨戒、敵発見の場合は先制攻撃を狙う
乗り場到着後は仲間から離れすぎない程度に周囲を哨戒。敵発見の場合、攻撃しつつ防衛班の射程まで後退
ただし、事前の戦闘から遊撃班3名で倒せると判断した場合は後退の必要なし

○戦闘
敵が複数の場合は、近くの敵から狙う
遠距離魔法戦。常に敵とは距離をとる
射線上に味方が入らない位置取りを心がける
戦闘中は基本的に無口
「・・・。」
「・・・散り逝く華の 美しきかな」

○その他
民間人の救助・移送終了後、戦域を離脱。余裕があれば、研究のために倒したアルラウネの一部を採取

撃退士・雨野 挫斬(ja0919)
阿修羅
※全体行動は他プレ参照・矛盾点も他プレ優先

●準備
ヘッドライト一つと懐中電灯を買えるだけ買う

一般人に連絡をとり今から助けに行くから騒がず待つ事を伝え、正確な人数を聞く
エルちゃんにロープウェイの限界積載量を聞く

●行動
私は防衛班

ヘッドライトと懐中電灯装備

・移動
周囲に懐中電灯を向けて奇襲警戒

・ロープウェイ乗り場制圧
敵が隠れていないか隅々まで確認

・施設到着
落ち着かせた後懐中電灯を配る

・ロープウェイ乗り場
明かりは消す
救急箱を後方警戒班に渡す
ロープウェイには限界積載量-50kgまで載せて出来るだけ多く降ろす

・戦闘
攻撃する際は味方の射線を塞がないよう心がける
一般人は死守

敵の攻撃は回避を狙うが無理なら鉤爪で防御

敵が少数
ダアトに任せ周囲を警戒
接近された時のみ攻撃

敵が多数
味方に近づけさせないよう足止めに徹する

●依頼終了後
エルちゃんに解体したりないから別働隊に参加したいとお願い

●アドリブ・称号歓迎

撃退士・海原 満月(ja1372)
アストラルヴァンガード
仮プレ

「ほかのキャラクターがたてた作戦に従って全力で挑む」

【心情】
 「せっかく植物園を楽しみにしてきた人たちを、怖がらせたらいけないのです」

【目的】
 救助者の救出。

【準備】
 懐中電灯とヘッドライト(明かり用)。

【行動】
・防衛班
 ロープウェイ乗り場防衛時、
 基本的にあまり移動せず、向かってきた敵を迎撃。
 防衛ラインの維持に努める。
 攻撃する際はダアトの射線を塞がない位置取りを心がける。
 相手の範囲攻撃に巻き込まれない程度には、味方と近づきすぎないように努める。

・回復のスクロールα
累計16点以上のダメージを受けてる味方に対して使用。

【セリフ】
「オイタは、そこまでなのです、アウラルネ!……アルラルレ?アラルラレ?」

撃退士・戸川 乃亜(ja2839)
ダアト
●準備
暗闇に備えてヘッドライトを装備していく。
携帯電話も一応持参。
移動方法は仲間に合わせる。

●行動
基本的に仲間に合わせて行動し、援護に回る。
目的地に向かう最中:自分はスキル「隠密」で気付かれないようにしつつ、「感知」で周りに注意して索敵し、見つけた場合仲間に教える。
ロープウェイ乗り場制圧及び、救助者の確保:スキル「感知」での索敵重視で、他の仲間を遠距離攻撃で援護。
ロープウェイを2回使い救助者を降ろしている最中:警戒班として救助者の近くで守りながら、横や後ろから敵が来ていないか「感知」を使い警戒。来ている場合は近寄られる前にそちらの撃破を優先&仲間に伝える。来ていない場合は仲間を遠距離で援護。傷ついている仲間がいれば率先して交代。
救助者の降下後:きちんとロープウェイが降りているのを確認後、乗れなかった救助者がいる場合、それを護衛しながら山道を下り帰還。ここでも「感知」で警戒する。

撃退士・真壁(ja4078)
ダアト
照明道具となるライト等を持っていく。

●救出に向かう際に敵と戦闘した場合、敵の攻撃、麻痺花粉の範囲を算出し、ダアトの攻撃をどれくらい浴びせた場合に倒せるのかという耐久度等を、後々の為にデータを取る。敵の行動パターン、花粉を放つ前の予備動作等出来るだけ細かく。以上の事の為にノートと筆記具を持って行くようにする。
戦闘時はデータの収集があるので戦闘行為は控えめで。

●ロープウェイ防衛戦となった時には自分は防衛班に回る。移動は基本頭に入れず、行動力の分だけ攻撃するようにして火力を高める。救出前に収集したデータをもとに攻撃回数などを調整、同じ班の者と協力して迅速な撃破を目指す。射線上に味方がいる場合はそれを避ける形に多少の移動をする事も考慮。フレンドリーファイアだけは避ける。また、味方が麻痺花粉等の予備動作(あれば、だが)に気づいていなかった場合知らせ、離脱を促す。



リプレイ本文

●宵闇を切り裂いて
 寒々とした淡く儚げな蒼い月光を浴びて、暗銀色に煌めく薄の穂が緩やかに流れていく。
 車窓から見える景観はどこまでも静かで、落ち着いたささやかな晩秋の一コマ。
 すっかり降りてしまった夜の帳は、これから赴く場所を体現するかのような、得体の知れない何かを内包しているようにも思える。
 そんな宵闇を頼りなげな車のヘッドライトの光で切り裂きながら、山道をひた走る。
 時折ガタゴトと揺れる車体と、眼下に遠く見下ろせる町の灯りから、目的の場所が近づいている事が窺い知れた。
 雨野 挫斬(ja0919)は、先ほどまで通話していた電話を切ると、同乗の撃退士達と得た情報を共有する。
「ロープウェイの最大積載量は六人乗りにしては大分余裕があるみたいね。軽い人たちばかりなら定員以上に乗せられそうよ」
 今回彼女たちが赴くのは、ディアボロによって包囲された植物園に取り残されている一般人の救出だ。
 それ故に、要救助者達の移送方法の確保は重要と言える。
「施設に立てこもってるのは十名で間違いないらしいわね。ただし、道すがら他にも隠れている人がいるかもしれないから、そういう場合は保護して欲しいそうよ」
 重苦しい空気が立ちこめる中、挫斬は持参した救急箱を取り出すと、覚えたてのロープウェイ操作マニュアルを戸川 乃亜(ja2839)に教えるファティナ・F・アイゼンブルク(ja0454)へと渡した。
「ファティナさん、後方警戒班よね? これ、危なくなったら使って助けてね」
 託された意味を重く受け止めながら、ファティナは頷く。
 陸の孤島と化した植物園で、辺りを人食う化け物に包囲されて。
 常軌を逸する恐怖、ちりちりと胸を焦がす絶望、拭っても這い寄り心を支配する不安。
 救助を待つ彼らの思いを想像する度に、ファティナの心は締め付けられるように痛むのだった。
 か弱き者を護る、其れが彼女の中にある芯、憧憬なのだから。
「フフフ……月が昇る前に……終わらせたいですね……」
 未だ東の空、低い位置に輝く月を眺めながら、乃亜は呟く。
 黒のフードを目深に被ったその表情を窺う事は難しいが、いつも左手につけている猫のパペット『イベールくん』をぎゅっと抱いた仕草からは、微かな緊張と不安が感じられた。
 逆に、その隣に座るユウ(ja0591)はいつもと変わらぬ無表情かつ無口で、バナナオレを飲みながら来るべき戦いへと備えている。
 この土壇場に置いても全く動じないユウを見て安心したのか、乃亜の仕草も徐々に和らいだものになっているように思えた。
 そうして、撃退士達のそれぞれの想いを乗せた車は、軽いブレーキ音と共に目的地へと到着したのだった。
 車から降りたその世界はまさに閉じた箱庭。
 後方に控えた月光に濡れる薄と、ネオンが眩しい町の夜景が現実世界の入り口であるとするならば、前方に口を開けた其れは地獄の入り口と言えよう。
 今、撃退士達は二つの世界の境界に佇んでいた。
 月下の元に晒け出されていたのは、嘗て保っていたであろう彩りをすっかり失ったモノの残骸、抜け殻。
 そんな現実を、冷ややかな一瞥をもって見やりながらユウは促す。
「……行こう、待ってる」
 誰から、と言うでもなく、無言で装備を車から降ろし、装備していく。
「そうそう、俺様防塵マスクも持ってきたのね。一応、敵の花粉対策につけておくといいよん」
 頭にヘッドライト、口元にマスクを装備した植松 爻(ja0300)が仲間にマスクを配る。
 想定しうる全ての事象に対する出来うる限りの準備はしてきた。
 後は踏み出すだけだ。
 それぞれの準備が整ったのを確認すると、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)は漆黒の軍服を翻し、最初の一歩を踏み出した。
 左手に持つランタンで闇を照らし、右腕に燃ゆる黒焔状の無尽光を纏いながら。

●接敵
 見通しの悪い山道を、隊列を組んで駆け抜ける。
 野に放たれた銀狼の如き速さで先陣を行くマキナとそれに続く爻、ユウの遊撃班。
 その後方を海原 満月(ja1372)、真壁(ja4078)、挫斬の防衛班が追い、殿をファティナ、乃亜の後方警戒班が慎重に進む。
 夜風に混ざるどこか甘ったるい蜜の香り、微かに揺れる木々のざわめきが、いつ襲って来るとも知れない敵の存在を際立たせる。
 気持ちは先へ、先へと急くが、奇襲を警戒しての強行軍はどうしても足が鈍る。
 しかし進まねばならない。
 一刻も早く、救助を待つ人々の元へ。
 敵を恐れず、闇を畏れず、皆を鼓舞し、率いる『英雄』たらんとマキナは駆ける、ただひたすらに先陣を。
 そして、山道を登り切ったその先の広場に彼女達はいた。
 くねりくねりと獲物を誘うかのように、可憐な容姿と棘を持ちたる異形の花。
 新たに現れた獲物たる撃退士達を見つけると我先にと、その食指を動かすのだった。
 だが、撃退士は只の獲物では無い。
 狩猟者と獲物の立ち位置を違えればすぐにでも反転する。
 自分たちが狩られる側に回ってしまった事にすら気がつかず、ディアボロ達は歩み寄る。
 あくまでも捕食者として。
「……きもちわるい。花言葉は『生理的に受け付けない』に決定」
 ユウの持つ呪文書から、光弾が生成され、矢となりアルラウネへと突き刺さる。
 その着弾と共に、全身に黒焔を纏ったマキナが間合いを詰め、破滅へと誘う拳を叩き込んだ。
「……散り逝く華の美しきかな」
 ユウの感慨と共に、一体目が音も無く頽れていく。
「最初に神即ちゴッドである俺様は言いました! 光あれ!」
 二人に遅れを取るまいと、爻も詠唱と共に無尽の光をその手に集め、敵へと撃ち貫いた。
 痛みに震えるディアボロの悲鳴が響く。
 憤怒を露わに、しなる蔓を鞭として襲いかかる。
 長い蔓がマキナと、爻の肌を薄く切り裂き、傷を負わせた。
「オイタは、そこまでなのです、アウラルネ! ……アルラルレ? アラルラレ?」
 遊撃班に僅か遅れて追いついた満月がびしっと決めポーズを取りつつ口上を述べるも、どうにも名前が思い出せない。
 いまいち決まらないその恥ずかしさを払拭すべく、渾身のアウルを込めたケーンで殴りかかった。
 ゴスンッ、と重い音と共にアルラウネの顔面に直撃したその一撃は、トドメを刺すのに充分と言えるものだった。
「案外に脆いな。そして攻撃の単発は軽く、そこまで脅威ではない、と」
 真壁が今までの戦闘結果をノートに記載しながら呟く。
 広場にいた全ての敵が殲滅されたが、いつ異変に気がついたアルラウネ達が集まって来ないとも限らない。
「ロープウェイ乗り場を制圧しにいこう。増援がこない内にな」
 真壁の言葉に賛同するように、次の戦場へと撃退士達は赴く。
 初めての敵を討ち取ったその感触に、確かな物を感じながら。

●英雄の条件
「……はふぅ、生きかえる」
 バナナオレを飲みながら、ユウは一息ついた。
 ロープウェイ乗り場にいた数体を片付けた後、辿り着いた植物園最奥の施設である其処は、内部のバリケードによって塞がれ、容易に入れるような状況ではない。
 ファティナが持ってきていた携帯電話で中の一般人と連絡を取り、障害物を除去して扉を開放してもらっている最中だ。
「蔦による有効射程範囲、強度、速度、花粉範囲の確認……麻痺度合いは……誰かが受けんと、わからんか」
 真壁は壁に寄りかかり、今までの戦闘データをノートへと記載し、何事かを呟いている。
 一様に感じられるのは、焦燥。
 無為な時間が経過していく事への不安。
 だが、中にいる人々にそんな姿を見せる訳にもいかない。
 故に、冷静であらんとすべく、何かに集中しようとする。
 そうやって己を保つ撃退士達の前に、漸く重い扉が開放された。
 中にいたのは、老若男女問わず様々な年齢層の人々だった。
 彼らは入ってきた撃退士達を見ると、やっと助かった、という安堵の表情から一点、不安へと陰る。
 たったの八名、それも見るからに経験が浅そうな年若い者ばかり。
 このまま籠城した方が安全なんじゃないか、という声すら上がる。
 それほどに、彼らの精神は追い詰められ、摩耗し、疲弊しきっていたのだ。
「最初に言っておくね。私達に従ってくれないと命の保障はできないよ。でも従ってくれるなら皆無事に帰れる事を約束するよ!」
 そんな彼らに挫斬は残酷な現実を突きつける。
 だが、それが真実だ。
 それらを踏まえた上で、ファティナが言葉を継ぐ。
「ここから移動するのには危険が伴います、ですがここに居続ける事も同じです。……撃退士だから、それだけの理由で信用して貰うのは難しいでしょう……」
 あくまでも真摯に、まっすぐ彼らを見据えて。
「ですが……私達が皆さんを護りたいという気持ちに嘘偽りはありません! 必ず無事に送り届けます! 力は弱くても騎士道精神を学んできた身です。必ず、護ります」
 真面目に訴えかけるファティナとは対照的に、爻は溢れんばかりの自信をもって護衛を請け負う。
「俺様がいるんだから、万事オールオッケー! だから安心していいよ!」
 本当はそんな保証はどこにも無い。
 無いが、あるように見せる。
 これも全ては彼らの不安を拭い去る為なのだ。
 ここで撃退士が弱音を吐いては、彼らは何に縋ればいいと言うのだろう。
 以心伝心、と人は言う。
 どこまでも誠意を持って紡がれた言葉は渋々ながらも彼らを動かし、脱出の途につかせる事に成功する。
 重い腰を上げ身の回りを固める彼らに、懐中電灯とマスクが配られた。
「元気が出る撃退士お勧めゼリーなのです」
 そんな中で年若い夫婦にぴったりとくっついた幼い少女を見つけた満月は、用意していたゼリーを優しい笑顔で渡すのだった。
「ありがと、お姉ちゃん」
 少し人見知り気味な少女は、母親に促されるとはにかみながらも笑顔で受け取る。
 どこか心が通じあった、そんな風に思える一時が過ぎた。

●死線を潜り抜け
 其れは撃退士としての経験の浅さ故か、打ち立てた目論見の甘さ故か。
 先頭から遊撃班、防衛班、一般人、後方警戒班という隊列でロープウェイ乗り場を目指していた彼らは、想定外の形で奇襲を受ける事となった。
 前方を防ぐ様に集まってきていた敵の群れに対処すべく遊撃班と防衛班が合流した隙に、闇深い山林よりの増援による横合いからの襲撃。
 縦列陣形故の、横の脆さを突かれた形となった。
 あっと言う間も無く、二人が物言わぬ骸となる。
 勿論、ファティナと乃亜も遊んでいた訳ではない。
 直ぐさま左右に沸いた二体に駆け寄り、一般人を背に庇うような体勢を取ると戦闘に突入する。
 だが、失った命は元には戻せない。
「パパ、ねぇ、パパ、起きて、ねぇ、起きて」
 少女の途切れ途切れに聞こえる悲痛な呼び声を背に、乃亜はアウルの力を発現させた。
「フフフ……死ね……?」
 至近距離で光弾が爆ぜ、アルラウネの身を焼く。
 ファティナも自責の念に胸を苛まれながらも、今は戦わねば、と武器を手に立ち上がる。
「もっと私に強い力があれば……」
 魔法弾を放つその手に、ぎゅっと力を込めて。
 しかし如何に下級ディアボロとは言え、たった一度の攻撃では沈められない。
 しなる蔓を振りかざし、反撃の兆しを見せる敵を前に、ファティナは咄嗟に木を盾にとった。
 だが、そんな物では天魔の攻撃は防げはしない。
 木々を『透過』した蔓がファティナを襲い、その身を吹き飛ばす。
「くあっ……」
 息が詰まるのを感じる。
 それでも戦わねば、護らねば。
 痛みに耐えて立ち上がり、周囲を確認する。
 どこも旗色が悪いように感じられた。
 乃亜は身体の痺れを感じ、動けずにいる。
 前方の遊撃、防衛班にしても同じだ。
 何事も無ければ彼女達も救援に駆けつけてきてくれたのだろう。
 だが、どうやら彼女達にもアルラウネの麻痺花粉が襲い、その身体の自由を奪っていた。
 防塵マスクでは、花粉を防ぐことは出来なかったのだ。
 最前線で盾となり、傷だらけになるマキナを、満月が送る癒やしの光が包み込み、どうにか保たせている。
 つまり、援護は当てに出来ない、そんな状況だった。
 そうこうしている間にも、ただ、棒立ちとなって見ている事しか出来ない乃亜の横をすり抜け、ディアボロの非情な鞭が一般人を襲う。
 少女を庇った母親を、足腰の弱い老人を、一瞬にして肉塊へと変えた。
 撃退士達の胸に絶望とも憎悪とも憤怒ともつかない、綯い交ぜになった感情が去来する。
 必ず護る、と約束した。
 無事に元いた世界へ送り届けると誓った。
 それなのに、蓋を開けてみればあまりにも無力であったのだ。
 残酷な夜に、愛を、加護を奪われた子供の慟哭が響く。
 せめてもの救いは、暗闇が全てを包み隠し、はっきりと両親が死ぬ姿を視認できなかった事だろうか。
 ファティナは咆哮を上げ光弾を解き放った。
 これ以上奪われる訳にはいかない、奪わせない。
 乃亜の近くで蔓をくねらせ、次なる獲物を狙う其れにぶち当たり、爆散させる。
 がら空きとなった背中に、アルラウネの鞭が容赦なく襲う。
 痛い――、だが、今は身体よりも心に疼く痛みの方が、もっと、ずっと痛かった。
 キッと敵をにらみ据え、その背に一般人を匿う。
 両腕を広げたその姿勢は、絶対守護の不屈の意志。
 そんなファティナに、ディアボロの無情なる一撃が振り下ろされようとして――燃えた。
「フフフ……お怪我は……?」
 麻痺が解けた乃亜の放つ魔法弾が直撃し、ディアボロを討滅する。
 ほっと安心するも、前方では未だに闘いが続いている。
 が、優勢になりつつあった。
 真壁の採集したデータを元に、効率のいい戦闘方法が共有化され、実践されていく。
「次は、右の奴だ」
「真壁ちゃん、ナイスよ。俺様痺れちゃう!」
 真壁の魔法弾と、タイミングを合わせた爻の魔法弾が螺旋を描き敵に炸裂、四散させた。
「これで最後なのです。皆さん、頑張ってなのです」
 満月が支援できる最後の回復魔法が放たれ、挫斬の傷を塞ぐ。
「全力で殴ったのに死なないなんて素敵! 愛してる!!」
 最早誰の血なのか解らない程に赤く濡れた挫斬は、その血をもって化粧を施し、戦場を駆ける。
「うん、綺麗。よし! 愉しんでこよ」
 どこかしら恍惚とした表情で手にした鉤爪を振りかざし、アルラウネの身を切り裂いた。
 どさっ、と七体目の敵が倒れる。
 その遺骸にそっと口づけすると、別れの言葉を紡いだ。
「ありがと。愉しかったわ」
 残数一体、最後の敵を討たんとマキナが駆ける。
 虚しい抵抗としての蔦の一撃をその身に受けながらも、表情すら変える事なく。
 己が道を切り開く為、終焉をもたらす為に。
 闇夜を突き抜ける銀矢の如き一撃が、アルラウネの華奢な身体をぶち抜き、その活動を停止させるに至らしめた。
 出した犠牲は大きかったものの、総数十体によるディアボロの襲撃をどうにかやり過ごしたのだ。
 だが、安心している暇はない。
 撃退士達は安否確認も早々に、その場を離れるとロープウェイへと向かった。
 ゴンドラに一般人を乗せ、ファティナが操作する。
 ゆっくりと発車するゴンドラからは、身を乗り出して泣き叫ぶ少女の姿が視認できた。
 しかし、立ち止まる訳にはいかない。
 ゴンドラが充分に離れたのを確認すると、撃退士達は闇夜に向かって駆け出した。
 帰ろう、自分達も生ある世界へ、この悔しさを胸に刻んで――。
 


依頼相談掲示板

ただいま作戦会議中
ユウ(ja0591)|高等部2年6組|女|ダア
最終発言日時:2011年11月24日 14:36
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月17日 23:49








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