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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
参加人数:10名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング

 太陽が西の地平に沈み、周囲が宵闇に包まれる黄昏時。
 昼と夜の狭間にあたるこの時間を、古来人々は魔性に出逢う不吉な時刻――すなわち「逢魔ヶ時」と呼んだ。
 むろん迷信だ。
 だがその町では並行世界から侵入してきた人ならざる者「デビル」の存在により、かつては迷信に過ぎなかった逢魔ヶ時が現実の脅威となっていた。

 最初に狙われたのは子供たち。
 ある日を境に、部活や塾通いで帰りが遅くなった小学生や中高生が次々と行方不明となる事件が連続して起き始めた。
 住民たちは日が暮れる前に子供たちを家に帰し、町の自警団が巡回を始めると、今度は自警団の男たちがやはり行方不明になっていく。

 もはや犯人が「人ならざる者」であることは明白だ。
 こうなっては警察さえ当てにならない。

 そう。奴ら――「デビル」とその下僕である「ディアボロ」に太刀打ちできるのは、人類のうちでも「撃退士」と呼ばれる一握りの者たちしかいないのだから。

●久遠ヶ原学園、生徒会執行部室
「依頼主はH県のS町役場。急行電車も止まらない、けっこうローカルな場所ね。まあ商店街やコンビニくらいはあるはずだけど」
 プリントアウトされた書類に目を通しながら、依頼の斡旋を担当する女生徒が説明した。
「一応人類側エリアってことになってるけど‥‥問題は、町の西側にある山ひとつ越えるともうデビルの支配エリアってこと。エリアを支配するデビル自体は今の所動く気配を見せてないけど、手下のディアボロをこっそりS町に送り込んで、偵察と人間狩りの一石二鳥ってところかしらね?」
「えーと、つまり今回の依頼はそのS町に侵入したディアボロを捕まえてやっつければOK、ってことですかぁ?」
 依頼に志願するべく集まった撃退士の1人が尋ねた。
 性別や年齢こそまちまちだが、彼ら・彼女らは皆久遠ヶ原学園の生徒である。
「まあ、そういうことね」
「S町っていえば‥‥前にも同じ様な依頼が出てなかったか?」
「そうよ。その時もうちから撃退士のチームを送って、それなりの戦果を挙げたんだけど‥‥」
 デスクの引き出しからファイリングされた過去の報告書を取り出し、執行部の女生徒は説明を続ける。
「どうやらそのとき討ちもらした連中が、性懲りもなく戻ってきたようね。前回の報告書によれば、『ディアボロとしては下級クラス。ただし動きが素早く、逃げ足が速いのでこちらが油断していると山中に逃げ込まれる』とあるわ」
「山の中へ? なら、山狩りでもして一網打尽にしてやりゃいーんじゃね?」
「それはお勧めできないわね。西側のデビル支配エリアと東のS町の境にある山は、いってみればデビルの玄関先。より強力なディアボロが伏兵として隠れてるか分からないし、少人数でノコノコ踏み込んでいくのは自殺行為よ」
「うーん、案外厄介ですねぇ。何にも考えず襲いかかってくるだけの奴なら、こちらも却って戦いやすいんですけど〜」
「とにかく、できれば今回できっちりケリをつけて欲しいわね。こちらの守りが固いことを教えてやれば、ボスのデビルも当面は手出しを控えるでしょうし」
 デスクの上に広げた書類にパンッと勢いよく掌を置くと、女生徒は改めて教室にいる撃退士たちを見渡した。
「――さて、依頼内容は概ねこんなモノよ。依頼に参加を決めた人だけ残って、あとは帰っていいわ。細かい説明はその後するから」


解説

・依頼目的は「S町に侵入し、町の住民をさらっていくディアボロの退治」
・S町は駅を中心に商店街・住宅地・耕作地などで構成され、撃退士ならば1時間もあれば徒歩で巡回できる程度の広さです。
・町の西端に山があり、その向こうはデビルの支配エリア。ディアボロは宵闇に乗じて山から下り、町の住民をさらっていくと思われます。
・ディアボロが山から下りてくる時刻はこれまでの被害記録から見て17:00〜19:00の間と予想されます。
・依頼遂行に与えられた時間は準備期間も含めて1日。
・町に侵入するディアボロは計4匹。全て倒せば「大成功」となります。
・PC所持アイテムの他に必要なアイテムがある場合、町のコンビニで入手できる日常用品(上限3千円くらい)なら入手できます。購入費は「必要経費」として学園から支給されます。

※今回のディアボロについて
・猿をベースに改造されたと思われる。体は人間より一回り小さいが、両腕の筋肉が異様に発達している。
・主な武器は怪力から繰り出される鋭い爪と殴打。攻撃力に比べ防御はさほど高くないが、動きが素早く、またHPが50%を切ると戦闘より逃走を優先に行動し始める。

●マスターより

皆様はじめまして。ちまだりと申します。
今回の敵はディアボロとしてはさほど強い個体ではありません。ただし動きが素早いため、油断していると西の山中に逃げ込まれてしまいます。
従って撃退士同士、各々のジョブを活かした連携が成功の鍵となるでしょう。皆様のチームワーク、そして緻密な作戦により見事全てのディアボロを仕留めてください。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・プルネリア・ロマージュ(ja0079)
ルインズブレイド
《事前準備》
懐中電灯とバナナとミカンを購入
スマフォも準備?持ってても壊すけど。

《行動》
プリアはB班で由真さんといっしょなんだよー。
ほかの班のひとたちとのレンケイは…プリアたちがいそがしくなかったらかな。

おサルさんが来るまでになんだか、しょーぼーさんのところにいって16時いこーの外出自粛っていうのをカンコクしてもらわないとみたいだね。
はやいじかんだからあまり聞いてもらえない気もするしミマワリはゲンジュウにだよー。

おサルさん捜索時はフイウチにかるく警戒しながらうごくんだよー。
プリアはおサルさんのねらいやすいぜっこーの相手だと思うからちょっと目立つように街灯を鳴らして遊んだりしてみるんだよー。
あとは、ミカンとかかおりのつよいこーぶつそうなものも食べながらかな!

おサルさんとの戦いはたのしみなんだよー♪
由真さんと連携してタイセイ崩しとかねらっていくんだよ!
ウデや頭狙い!

※行動は使い切らないように戦う

撃退士・グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)
ダアト
事前準備として、スカイプ使用可能なスマートフォンを依頼に携行し、それに位置確認アプリをダウンロードしておく。
さらにコンビニでイヤホンマイクと懐中電灯を購入しておく。
連絡はこれらを用いて来なう。


道明寺 詩愛(ja3388)とペアで行動(D班)。
現地での行動開始から16:00までに、中学校・高校・専門学校・大学にその時間までに児童・生徒を帰宅させてもらうためのお願いに向かう。
最悪でもディアボロが出現する17:00〜19:00の時間帯は外に出ず、施設内の広い場所(体育館や講堂等)に集まってもらうようにしたい。


戦闘時はスクロールによる魔法攻撃が主体。
距離を取りながら相手の脚部、もしくは腕部を狙い攻撃を仕掛ける。
逃亡を図ろうとしたら距離を開けられる前に魔法攻撃で追撃。
詩愛さんとの連携重視。HPが半分を切ったら彼女のスクロールで回復してもらう。


その他、ずれがある場合は他に合わせ、全体作戦案に準じて行動する。

撃退士・アイリス・ルナクルス(ja1078)
阿修羅
○行動

任務開始時に、コンビニで懐中電灯を購入する
A班として、虎綱・ガーフィールドとペアを組む
スカイプ使用可能なスマートフォンを依頼に携行する
他の班との連携をとる

16時までに、警察にS町全体への一般市民の避難指示を要請。ついでに敵の情報を聞く
完了次第、GPSでそれぞれの間隔が500〜600mを保つように巡回。このとき、残ってる住民がいないかどうかも確認

ディアボロを発見した場合、スマートフォンで仲間全体に報告。完了次第、発見した敵から山への方向をふさぐような位置で交戦

他班の発見報告が四体分になった場合は、最も近い位置の班のフォローを優先する。可能ならば、西側から敵に奇襲をかける
もし奇襲をかけられても、交戦時の通りに

敵を発見できず人が攫われた場合は、可能なら西側から速度重視で追いかけ、交戦

ディアボロと交戦時、背後を取り腰部を断つことを重視し大剣で交戦する。逃げられた場合、全力移動で追撃
敵が倒れた時、油断せず頭を貫く

撃退士・ミレル(ja1324)
鬼道忍軍
皆に認められる 弱っている敵を確実に仕留める

持っていく物
スカイプの使えるスマホ
イヤホンマイク、懐中電灯、バナナ一房を購入
できれば安価な望遠鏡の類
依頼前に自室でパソコンを付け、スカイプの通話会議をできるようにしておく
皆にスカイプの通話会議に16:00から参加できるように説明、設定手伝い
それまでは通常の通話
位置確認アプリをダウンロード

主に詩愛の案で行動連携する
轟漸と組んで行動
交代で1:30の仮眠

地形を把握
敵が通りそうな位置にバナナ設置
見晴しの良い場所で西山からくる敵の侵入を見張る
いい場所がなければギリギリ視認できる箇所で巡回
敵の姿を確認したら数と侵入位置を全員に連絡する
バナナがなくなっていたらそれも伝える
敵が逃亡した場合は迎撃に向かう
敵がどの組にも発見されず人間をさらって山に帰ろうとしたのを見つけたら全員に連絡した上で阻止・救助に向かう
4匹固まって来たら轟漸連れて合流するまで尾行

撃退士・焔帝 轟漸(ja1360)
鬼道忍軍
いくつかの組み合わせに分けて行動。自分はE組、ミレルとコンビを組む。

●敵が来るであろう西側を中心に、街をある程度見渡せる高い建物を見繕ってその屋上にて、街に敵が侵入するのを目視確認する。(必要であれば事前に許可を得る)

●敵が侵入して来るのを発見し次第、他の組に携帯を使用して連絡を入れる。機械音痴?そこは気合でカバー。

●四体の侵入確認が取れたら場所を移動、西側のこれまたある程度見渡せる場所に移動し、敵が逃走した場合の防衛に備える。敵が他の組に発見されず、人を拉致して逃走している場合も同様。
この際には他の組連絡を入れ、可能であれば加勢を願う。

●戦闘となった場合はまず足止めを優先とし手裏剣に持ち替えての牽制、接近戦となった場合は打刀で敵の機動力を削ぐため腕、足を中心として攻撃、敵が素早く狙えない場合は素直に胴を狙って倒す事を優先する。

撃退士・或瀬院 由真(ja1687)
ディバインナイト
▼事前準備
各自、位置確認アプリ+スカイプ用のスマフォを用意&コンビニでイヤホンマイクと懐中電灯を各自購入
自分は更に手鏡とバナナを購入

▼行動
B班でロマージュと組む
準備時間中、消防に16:00以降の外出自粛を促すアナウンスを要請&地図で地形把握

全体方針に従い、各組から離れすぎない様にして捜索
一般人のフリをし、見晴らしのいい大通りを中心として歩き、ディアブロの誘引を試みる
身嗜みを整えるフリをしつつ、手鏡で後方や側面を随時確認
「人浚いが目的なら、こうしていれば近寄ってくるはずですけど…」

猿ならバナナに反応?
「…ちょっと位なら食べていいですよね。ロマージュさんも食べます?」

E組からの報告or遭遇で戦闘に入る際、その旨を即連絡
挟撃主体、逃走経路を常に塞いで戦う
猿の様に飛び移れる箇所からは引き離す

戦闘時、不利な際は即連絡→援護があれば誘導
要回復時、道明寺へ要請

周囲にディアボロ不在判明→手近な交戦中の班へ即合流

撃退士・道明寺 詩愛(ja3388)
アストラルヴァンガード
A:アイリス&虎綱
B:或瀬院&プルネリア
C:セイジュ&レノ
D:グラルス&道明寺
E:ミレル&焔帝
上記5組で行動。

グラルスさんとペア行動。
他の組とも積極的に連携。
連絡手段として、スマートフォンでスカイプ会議モードを使用。
位置確認アプリで相互位置を常に確認。


06:00現地入り。
組み分け・役割を確認。
中学以上の教育機関に16:00までの下校協力を要請。
町並みを把握するため散策する。

16:00になったらA〜D組それぞれ走って1分程度の間隔を維持しつつ町の巡回開始。
敵を発見したら交戦。
他組が交戦に入り自組が近い場合西側から加勢に向かう。
敵逃亡の場合A>B>C>D組優先で追撃。追撃時はペアと交互に全力移動。
敵発見・交戦する・逃亡された・追撃する、など細かく連絡を取り合う。
連絡を取りまとめ全体へ確認・指示。
交戦組数が敵数より多くなるよう指示を徹底。
HPが50%を切ったPCには回復スクロールを使用。
安全が確認できるまで巡回継続。

撃退士・レノ・アクセル(ja3433)
阿修羅
☆16:00以降の各組の行動に関して
それぞれ一定間隔(500〜600m・1分で駆けつけることができる距離)を保つように巡回
E組から敵侵入の連絡が来たら侵入したと思われる地点の近くにいる組が急行
敵を発見、交戦した場合は近くにいる組が敵の数と同数以上の組で交戦できるよう加勢する
敵が逃亡を試みた場合、西側に位置している(山に近い)組が優先して追撃
距離的に変わらない場合はA>B>C>Dで優先

☆戦闘について
基本的に俺が壁になり隙を突いてセイジュちゃんが攻撃する
俺は腹や顔など攻撃が通りそうなところを重点的に攻める
猿に対して山の方向をふさぐように戦う
俺の体力が半分程度になったら壁を交代する

☆戦闘に対する注意点
敵の数と同数以上の組で交戦できるよう、近くの組が加勢する
他の組と連携をとる
敵発見・交戦する・逃亡された・追撃する、など細かく連絡を取り合う
体力が危なくなったら道明寺ちゃんに回復要求

撃退士・虎綱・ガーフィールド(ja3547)
鬼道忍軍
「根本的な解決にはならんがこれも勤めか。」(目を細める)

A組としてアイリスさんと組む。
他の組との連携を重視。
スカイプ使用可能なスマートフォンを依頼に携行。
コンビニでイヤホンマイクと懐中電灯を購入。
位置確認アプリをダウンロードする。
皆にも同様の手順を取ってもらう。
お金が余ったらバナナと飲み物を買う。
警邏中、目立つところ(ポストの上など)にバナナを設置して、敵が近くに現れた場合はそれとなくその地点を確認。
「ま、流石に掛かるはずもないとは思いますがの……」(「捕獲」と書いてある扇を口元に当てる)

戦闘前に警察に警戒の呼びかけをお願いする。
「左様、失敗するつもりは御座らんが危険は少ないほうが良いのでの。」(「緊急」と書かれた扇を広げる)

最寄の敵の情報が入り次第、急行。
味方から援護要請があった場合は、東から回り込むように退路を断つ。
「これにて一件落着で御座るな。」(「決着」と書かれた扇を広げる)

撃退士・セイジュ・レヴィン(ja3922)
ディバインナイト
・準備時間中にコンビニでイヤホンマイクとフラッシュ付の使い捨てカメラを購入しておく。
・スカイプ使用可能なスマートフォンを依頼に携行し、位置確認アプリをダウンロードしておく。
・仲間の作戦に従事し、二人一組で街中を巡回しつつこまめに連絡を取り合い、敵襲に備える。
・巡回しつつ、できる限り避難勧告などを行っておく。
・一通り見回りを終え、16:00まで時間があるなら休憩をとっておく。(主に寝袋で寝る。

・敵の数がこちらより多い場合、仲間と連絡をり救援に来てもらう。その際できるなら救援に来た仲間と敵を挟み撃ちするような位置取りをする。



リプレイ本文

●出発
 ディメンションサークルからの瞬間移動を終えたとき、そこはもう今回の依頼現場、S町の駅前広場であった。

「いよいよだね。緊張するなぁ‥‥」
 一同の気持ちを代弁するかのように、グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)が呟く。
 学園から見知らぬ町へと飛ばされてきた生徒たちの胸中には、初の実戦を前にした高揚感と一抹の不安が入り交じり、彼らは改めて身の引き締まる思いを噛みしめていた。
 もっともプルネリア ロマージュ(ja0079)のように、不安や緊張とは無縁の者もいたが。
「えへへー♪ やっとあそべるんだよー♪」
 その特異な生い立ちから幼くして撃退士となったプルネリアにとって、天魔とは「敵」というより、手加減抜きで「遊んで」も簡単には壊れない「遊び相手」という認識なのだ。
(‥‥嫌われてない、よね?)
 ミレル(ja1324)にとっては、初対面でパーティーを組む他の撃退士たちに、自分がどんな風に思われているのかがひどく気がかりだった。
 今回の依頼を共にする10人は皆同じ久遠ヶ原学園生徒だが、入学して撃退士となるまでの事情は各人により様々である。

「根本的な解決にはならんが‥‥これも勤めか」
 日英ハーフの虎綱・ガーフィールド(ja3547)が、青い瞳を細めてやや不満そうに独りごちる。
「たとえ格下のディアボロだとしても、現実に町の人たちから被害が出ているんです。見過ごせませんよ」
「うむ。ここはひとつ、奴らの親玉に思い知らせてやらねばな。人類は大人しく連中の脅しに屈するほどやわな種族ではないことを」
 道明寺 詩愛(ja3388)の言葉に、虎綱も頷いた。

 現在時刻は朝の6時。
 敵出現が予想される夕方の5時までにはまだ間があるといえ、その前に奴らを迎え撃つ準備を全て整えなくてはならないので、のんびりしている暇はない。
「みんなっ! 張り切っていこー!」
 ミレルのかけ声を合図に、撃退士たちは各々の役割分担に従い行動を開始した。

●迎撃準備
 まず一行は駅前のコンビニに向かった。
 夜間戦闘に備え懐中電灯、スマホ用のイヤホンマイク、その他作戦に必要な物資を調達するためである。
 レノ・アクセル(ja3433)は、セイジュ・レヴィン(ja3922)の買い物籠に入った使い捨てカメラに気づき、
「お、初依頼の記念撮影用か? 気が利くなセイジュちゃん」
「いや。役に立つかどうか分からんが、ちょっと考えがあるんでな」
 意味ありげにニヤリと笑うセイジュ。

 次にやるべきことは依頼主であるS町関係者との調整だ。
 アイリス・ルナクルス(ja1078)が虎綱と共に向かったのは地元の警察署だった。
「怪物退治は私たちが責任を持って引き受けます。ただ、10人では住民の方々の避難まではとても手が回りません‥‥皆さんのご協力が必要なのです」
「左様、失敗するつもりは御座らんが危険は少ないほうが良いのでの」
 虎綱が警察署長の目の前でパッと開いた扇には、流暢な墨跡で『緊急』と書かれていた。
 ちなみに彼が持ち歩いているこの扇、広げる度に文字が変わる。
 複数の扇を巧みに入れ替えているのか、それとも扇自体に何か仕掛けがあるのか――手品の種を知るのは当の虎綱のみ。
 既に町役場からの要請を受け、S町警察も今回のディアボロ討伐戦に合わせ非常警備体制を敷いていた。警官の装備ではディアボロに対して全く歯が立たないため実戦には参加できないものの、町民の避難誘導に関しては全面的な協力を約束。
 またここ1ヵ月ほどの被害状況から、夜な夜な町に侵入するディアボロの数はおよそ4匹くらいだろう、という予測データも提供してくれた。
 同じく或瀬院 由真(ja1687)はプルネリアと消防署へ、グラルスと詩愛は町内の中学校・高校・専門学校・大学に、レノとセイジュは幼稚園・保育園・小学校へ赴き、作戦概要と地元住民保護に関する協力を要請した。
 消防署に対しては午後4時以降、町民の外出を控えるようなアナウンスを、また教育機関に対しては、生徒の早期帰宅と午後4時以降の外出自粛の通達を。
 幸い各方面との交渉はスムースに進み、かくして撃退士たちは後顧の憂いなくディアボロ迎撃の態勢を整えた。

●西から迫る影
 午後4時――既に日も暮れかけ、薄暗い宵闇が周辺を覆う頃。
 撃退士たちの要請通り町の住民たちのある者は自宅で、ある者は公民館などに家族で避難して息を潜めている。
 その結果、S町全体があたかもゴーストタウンのごとき沈黙に包まれていた。
 同時刻、公共機関への協力要請及び市街地と周辺地域の下見を終えた撃退士たちは、町の一角に再び集合し、早い夕食をとっていた。
 といっても今夜は商店街の食べ物屋も全て店を早じまいしているため、昼間のうちにコンビニで買っておいたパンやカップ麺による簡素な食事だが。
「ラーメンくらいゆっくり食べられる町にしなきゃいけないですよね」
『本日休業』の札がかかったラーメン屋を見やり、詩愛がいう。
 大のラーメン好きで将来自らの店を持つことを夢見る彼女としては、依頼のついでに地元のラーメン屋に入れなかったのを残念に思っていた。
 スマホのGPS機能でS町とその周辺の地図を表示し、撃退士たちは最後の打ち合わせに入る。
 幸い小さな町だけに、2人1組、計5班で散開すれば、小型ディアボロであっても市街地へ侵入する前に発見することは難しくないだろう。
 むしろ問題は、町に接近した敵を取り逃がすことなく、確実に殲滅できるか否かということである。
「町の西にある山ひとつ越えれば、もう悪魔の占領エリア‥‥敵が来るとすれば、やはり西の山からか」
 炎のような真紅の髪に橙色の瞳を光らせた巨漢、焔帝 轟漸(ja1360)が、スマホの画面を凝視する。
 やがて彼が目を付けたのは、町の一番西寄りに建つとある鉄筋ビルだった。ディアボロの襲撃を恐れて住民が引越し、今は無人となった3階建てマンションである。
「町の西側を見渡すのにうってつけだな。‥‥よし、わしとミレルはここの屋上で警戒にあたろう」
 腹ごしらえと作戦会議を終えた彼らは、いよいよディアボロを迎え撃つべく黄昏の町へと出発した――。

 昼間の行動に引き続き2人1組でペアを組んだ撃退士たちは、見張り役として西側のビル屋上に陣取った轟漸&ミレル班を別にすると、概ね500〜600mの距離を取って哨戒にあたった。
 この間隔ならば、ある1班が接敵し交戦状態に入っても、隣接する別の班をスマホで呼んで素早く包囲殲滅の態勢が取れる。また避難しそこねた住民が残ってないかの確認も含む巡回警備である。

 今回の依頼にあたり、撃退士たちはコンビニで大量のバナナを買いこんでいた。
 どこまで効果があるかは不明だが「猿をベースに改造された怪物ならバナナに引きつけられるかもしれない」という発想から誘引剤として使用するためだ。
 もっともこれにはミレルのように
「本当に反応してくれるのかな?」
 と首を傾げる者もいたが。
 由真は町内を巡回する一方、ポイントとなりそうな各所に囮としてバナナを置いていった。
 手にしたバナナの房をチラリと見やり、
「‥‥ちょっと位なら食べていいですよね。ロマージュさんも食べます?」
「うん。たべるんだよー」
 2人でモグモグ。
 同じ頃、アイリスと共に行動する虎綱も、
「ま、気休め程度で御座るな」
『捕獲』と書かれた扇を口許に当てつつ、片手で器用にバナナの皮を剥く。
「ダメですよ! 虎綱さん‥‥あ、でも、少しくらいなら‥‥」
 甘い物には目がないアイリスも、虎綱と共にバナナをもしゃもしゃ。
 かくしてトラップ用に買ったはずのバナナは、その半分近くが撃退士たちの胃袋に収まった。もっとも糖分の高いバナナは戦闘を前にして手っ取り早い栄養補給となるから、あながち無駄なつまみ食いでもなかったが。

 時刻が5時を回り、いよいよ宵闇がその濃さを増した時。
 マンション屋上からオペラグラスを使い周囲を索敵していたミレルの視界に、西の山の方から飛び跳ねるようにして接近する4つの影が入った。
「――来ました!」
 身の丈150cmほどの猿型ディアボロ。両肩から腕にかけての筋肉が異様に発達しているため、実際には小型のゴリラといった印象だが。
「視界に入る所に敵がいるというのに見ていなければならぬとは‥‥!!」
 武闘派の轟漸が悔しげに唸る。しかし彼らの任務は東で待機する仲間たちが迎え撃った後、山の方へ逃げ帰ろうとする奴らの退路を断つことだ。
 そのためいったんは見過ごした後、スマホを通して仲間たちにディアボロ出現の第一報を報告する。
 その間もオペラグラスによる監視を続けていたミレルは、怪物たちが地面に置かれたバナナを無視して飛び跳ねていくのを確認した。
「やっぱ見向きもしないや」
「動物を改造したからといって、全ての習性まで引き継ぐとは限らない‥‥というわけだな」
 小声で会話を交す2人をよそに、ディアボロたちはにわかに散開し、各々バラバラの方角から町へと迫っていく。

●宵闇の戦闘
 町中へ侵入したディアボロの1匹と最初に接触したのは、大通りを哨戒していた由真&プルネリアの班だった。
「人さらいが目的なら、こうしていれば近寄ってくるはずですけど‥‥」
 そう考え、故意に見晴らしの良い場所を選び化粧のフリをして手鏡で油断なく周囲を警戒していた由真だが、案の定最初に怪物どもの目に留まったようだ。
「かかりましたね!」
 すかさず手鏡をトンファーに持ち替える由真。
 やはり敵の目を引くよう街灯を蹴飛ばしたりして遊んでいたプルネリアも、ハンドアックスの柄を握りしめた。
「えへへー。おサルさーん。あーそーぼー?」
 巨大な斧を引きずる幼女の姿は一般人が見れば不審に映るかもしれないが、ディアボロにはそんなことを気にするほどの知性もないらしく、ただ「視界に入った人間の少女」を狙いクワッと牙を剥き突進してくる。
「合わせますよ、ロマージュさん!」
 一歩踏み出した由真は敵が振り回す太い腕の一撃をトンファーで受け流すと、その懐に飛び込み足を薙ぎ払う。
 体勢を崩したディアボロの腕めがけ、プルネリアの斧が風を切って振り下ろされた。

 撃退士たちは互いにスマホで交戦状況を伝えるが、なかなか作戦どおり集結できない。
 4匹のディアボロが別方向から侵入したため、ちょうど1班が1匹を迎撃する形となったためだ。
「これ以上好き勝手にはさせないよ。これでも食らえ!」
 グラルスは敵と距離をとり、相手の脚と腕を狙いスクロールによる魔法攻撃。
 広げた巻物から放たれた光弾がディアボロ目がけて飛び出すが、激しく動く手足を狙うピンポイント攻撃はなかなか命中しない。
 ただし牽制の効果は充分だ。
 一瞬動きを止めた相手に対し、メタルレガースを脚に装着した詩愛が、踊るように跳躍し、華麗な跳び蹴りを決めていた。

(ディアボロだからといって憎むつもりはありませんけど‥‥敵である以上、情けは無用ですね)
 薄闇の中に浮き上がる怪物の姿を見るなり、アイリスは光纏――彼女の場合は赤黒いオーラを――纏いルナティックモードへと移行した。
 普段のおどおどした少女が瞬時に戦闘狂へと姿を変える。
「Save only to save」
 呪文のように自己暗示の言葉を唱えつつ、ツーハンデッドソードの刃がすれ違い様にディアボロの脇腹を切り裂いた。
 怪物は素早く身を翻し、少女の身体を打ち砕こうと豪腕を振り上げる。
「某にお任せを!」
 コンビを組む虎綱がダガーを投げつけディアボロを牽制、続けて自ら建物の壁を蹴り三角飛びの要領で間合いに飛び込むや敵の首筋に切りつけた。

 サバイバルナイフを抜いたレノは自ら壁役としてディアボロに肉迫し、攻撃役は専ら背後のセイジュに任せていた。
 背丈は子供くらいの怪物だが、近づいたと見るや一気に跳躍しレノに殴りかかってくる。
「いってぇー!」
 2撃目を覚悟しレノが防御の姿勢をとったとき、ストロボフラッシュの閃光が輝き、怯んだように敵の動きが鈍る。
 振り返れば、使い捨てカメラを構えたセイジュがウィンクした。
「そういうコトか‥‥ありがとよ!」
 ディアボロに立ち直る隙を与えず、レノは躊躇なくナイフで刺突。
「今まで好き放題やってた分、受け取るんだな!」
 チャンスと見たセイジュは相棒の反対側に回り込むと、敵を挟み撃ちするようにハンドアックスで斬りかかった。

 町の4カ所で一進一退の攻防が続いていたが、やがてダメージの蓄積したディアボロたちは西の山に向かい逃走を開始した。
「もっとあそぼうよー♪」
 プリネリアは逃げる怪物の背中にアックスを投げつける。
 風車のごとく回転しながら飛ぶ斧は見事に命中、背骨を断ち割られたディアボロが前のめりに倒れ伏した。

「逃が、さない‥‥」
 全力移動で追撃したアイリスはディアボロの脚めがけてショートソードを投擲。
 同じく後を追う虎綱がダガーを突き立てると怪物は悲鳴を上げて倒れ込む。
「I desert the ideal」
 冷ややかに呟くと、アイリスはソードを構え直し、苦しげにのたうち回る敵の頭部を容赦なく貫いた。

 残り2匹となったディアボロは命からがら町を脱出し、西の山を目指す。
 だがその目前に2つの人影が立ちはだかった。
「逃がさない‥‥!」
「さぁ、存分に死合おうぞ!!」
 満を持して待ち受けていたミレルと轟漸である。
 鬼道忍軍でありながら忍ぶつもりなどない轟漸は剛力に任せて打刀を振るい、狼狽えたディアボロめがけ拳と蹴りを浴びせる。
「‥‥大丈夫‥‥私ならできる‥‥!」
 轟漸が派手な動きで敵の注意を引きつける間、隠密行動で背後に回り込んだミレルが苦無を投げつける。
 背中にダメージを受けた怪物が、身を仰け反らせ苦しげに咆吼した。
「‥‥よし!」

 轟漸、ミレルの奮戦によりディアボロが足止めされている間、町の方角から追ってきた他の撃退士たちも次々に到着する。
 傷ついた怪物共が断末魔の悲鳴と共に息絶えるまで、そう時間はかからなかった。

「これで全部、かな? どうにか倒せたね」
 一夜が明け、屍となって横たわるディアボロを前にグラルスがほっと溜息をつく。
「これにて一件落着で御座るな」
 パッと広げられた虎綱の扇には『決着』と書かれていた。
 町へと引き返し、町長以下関係者に顛末を報告した後、撃退士たちは帰り支度を始める。
 ただしこれで全てが終わったわけではない。
 山の向こうに悪魔の占領エリアが存在する限り、いつまた新たなディアボロが送り込まれてくるか分からないからだ。
 だがその時は再び駆けつけ、何度でも戦ってやろう。エリアの主である悪魔を倒し、ゲートを破壊するその日まで――。
 そう決意を固めつつ、撃退士たちはS町を後にするのだった。

<了>
 


依頼相談掲示板

作戦会議コ
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月24日 19:28
ペア行動用B班或瀬院&プル
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月24日 19:25
ペア行動用E班E・ミレル&焔帝
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月23日 15:26
ペア行動用A班アイリス&虎綱
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月23日 10:58
ペア行動用C班セイジュ&レノ
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月22日 22:24
ペア行動用D班グラルス&道明寺
レノ・アクセル(ja3433)|高等部3年33組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月22日 18:58
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月17日 22:04








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