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マスター:ArK
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
参加人数:8名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング


 そこは、ある天使によって支配されていた。徐々に自我を奪われてゆく人々、このままあらゆる感情を奪われ、永遠の眠りに向かってしまうのではないか? そんなことを考える感情すら――
 しかしその間際にことは成る。
 ある撃退士たちによって支配天使が打ち倒されたのだった。ゲートも速やかに破壊され、人々は無感情の眠りから開放された。
 こうしてこの地域の人々は救われたのである。

 ――と、いかないのが実際の現実。確かに眠りからは開放されたが――

 人々は家に閉じこもり怯えていた。空が光り、極めて近くに雷がおちたことを知らせる轟音が響く。雨は降っていない、空も晴れ渡っている。
 ではなぜ?
 身を寄せていた内のひとりが身を隠しながら窓辺に近寄る。そして恐る恐るの動作で外をみやると、底には馬がいた。
 目撃者は息を呑み、腰を抜かしてへたり込む。
 その馬はただの馬ではなかった、血のように赤い体毛に包まれ、背に大きな翼を携えている。
 いうなれば神話上のペガサス。それが向かいの納屋を破壊していたのだ。
 目撃者ははいつくばって仲間の元に戻ると見たことを話すと、
「こんな感情に悩まされるくらいなら‥‥いっそ眠っていた方が‥‥」
 誰かがぽつりと呟いた。


「サーバント討伐依頼です」
 依頼斡旋人は、集まった撃退士の面々に向かい、端的に告げた。
「ご存知の通り、ゲートは破壊後すぐ活動停止するものでは御座いません。仕組みは不明ですが管理者不在でもしばらくの間『敵』が生み出され続けます。このゲートもつい先日破壊されたばかりのものです」
 撃退士正面、斡旋人背後にあるモニターに、地域地図とそれを囲む赤い円が示される。
「これは住民の目撃情報から算出したサーバント活動範囲と思われるエリアです。既に生み出されたサーバントの一部が、破壊活動に入っているといいます」
 サーバントは、天使・シュトラッサーに管理されている限り、命令以外で凶暴性を現すことはないが、今回のように自動的にゲートから喚び出された場合等は違う。視界に映るもの全てが破壊の対象になるのだ。
「敵はペガサスを模したもの、体毛は赤とのことです。現時点で数はさほど多くないようですが――」
 天界勢力に属すサーバントは、理由は不明だが現存する神話に基づいた容をとっているものが多い。そのため伝承に残る画像が参考としてモニターに映し出される。
「発生条件が不明のため最終的な正確数はわかりません。作戦中に発生する可能性も考慮しておいて下さい」
 破壊後のゲートからも、しばらくの間敵が発生することがわかっていても、人手の問題もあり、常時専用の撃退士を駐留させておくことは出来ない。 よって、ゲート処理後はこのような『依頼』という形でしばしば掃討が行われている。
「ゲートから出現したものは極力ゲート付近での処理をお願いします、被害は最小限に。今回、みなさんの担当期間は一晩挟んで二日となっています。速やかに準備の後、こちらへお集まり下さい」


解説

目的:
サーバントの撃退

エリア:
元ゲートを中心におよそ直径20km範囲。田畑・林が目立つ。
住宅街というものはないが、家が点在。住人がいる。

ゲート:
入り口は農道脇林にある小さな祠。
比較的浅いのですぐに最深部に到達できる。
内部での大立ち回りは困難。
2km範囲に民家はない。

サーバント:
全身の体毛が血色のペガサス。
大きさは一般的な成馬と同等。
気性がとても荒く、翼に纏う雷を操る。
足は速いが、飛行は出来ない。
また、必ずしも人間を優先して襲うわけではない。

依頼支給品:
ひとりにつき固形食2食分、一般的なレンタル寝袋1つ。

備考:
住宅等の破壊は最小限にとどめて下さい。
宿泊施設はありません、野営になります。
場所等は相談で決めて下さい。
他、依頼内での必要品に限り3000久遠以下の品が申請可能です。
プレイングへその旨記載下さい。


●マスターより

エリュシオン撃退士のみなさまはじめまして、ArKと申します。

はじめてWTRPGというものに触れる方も多いかと思います。
わたくしの場合、一般的に可能か不可能かで判定することが多いです。
超人的な力を持つ撃退士といえど、人間の理の範疇にいます。無理はし過ぎませんように。

内容はとてもシンプル、けれども、考えることはそこそこに。
泊まりこみという状況もお忘れなく‥‥。



現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・冴城 アスカ(ja0089)
阿修羅
基本行動
パトロール班・前衛

班のメンバーと住宅街周辺を捜索
住民から話を聞きだしサーバントの情報を得る

聞き出す際は住民が怯え警戒心を抱いていることを考慮し
久遠我原学園の生徒手帳で身分証明後サーバント退治に来たことを説明
情報の聞き出しは仲間に任せ表を警戒する

「あぁ、自分は遠慮しとく。自分みたいな奴が聞き出そうとしても逆効果だろうからな」

また、パトロール中は感知と聴覚を使いサーバントの気配を探る
サーバントを見つけ次第携帯で仲間に連絡→ランニングで追跡

「見つけたぜ馬野郎!オラ!待ちやがれ!」

一日のパトロール終了後は集合地点に集まり野営の準備をする
地図に仲間がサーバントを目撃した地点を書き込み捜索範囲を絞り込む

撃退士・君田 夢野(ja0561)
ルインズブレイド

●戦闘
・一日目
罠作成時は『音響芸術』を生かし音の響き易い仕掛けを作る
出来る事が在れば味方にもアドバイス
「このように作れば、音は響きやすい筈だ。皆も試してみてよ」

・二日目
ゲート封殺班
ゲートを警戒しつつも味方と歩調を合わせる

・戦闘時

連携重視
積極的に前に出て戦う
相手の隙を伺いながら牽制を重ね、機会を見出したら踏み込んで痛打を与える
「響けッ!」
「一曲、激しいのを聴かせてやるよ!」
敵の攻撃には防御重視
「甘い!」
「その程度か?」
負傷時は無理せず一歩下がる
「くそ‥‥迂闊だった」
ただし味方の危機時には己の命を省みず特攻
「やらせるかッ!」

・戦後
疲弊した住民の心を癒す為、小さなハーモニカで一曲奏でる
「皆さん、不安だった事でしょう。ささやかですが、私から一つ贈り物をさせていただきます」

同時に、自分に眠る天魔に対する憎悪に驚き、心の中で思い返す
「(‥‥俺に、あれほどの激しい敵意があったなんて)」

撃退士・小田切ルビィ(ja0841)
ルインズブレイド
◆事前
作戦開始前、斡旋人にゲート周辺の地図を申請。
又、予め民家や人通りの多い箇所はチェック

◆班分け
パトロール班として行動

◆作戦
午前中〜日没迄サーバント捜索→野営
就寝時2人1組ローテで見張り

1日目:ゲートを中心に半径10kmずつを2手
(分け方は班分けと同じ)に分かれて捜索

2日目:パトロール班とゲート封殺班として行動。
日の出と共に捜索開始

◆捜索
1日目は虱潰し、2日目は

「人通りの多い箇所、民家周辺、前日の捜索で怪しかった箇所を優先的に捜索しよう」

携帯で他班と情報共有しつつ進行。
足跡等の痕跡や雷音にも警戒
住民を見掛けた際は【聞き込み】スキル活用し、サーバントの情報収集

撃退士である事、サーバント討伐に訪れた旨をきちんと伝える

◆戦闘
人通りの多い場所や民家近くでサーバントを発見した場合、
安全な場所まで陽動

俺と久遠が盾代わりとして敵の注意を引きつけている隙に
冴城が敵の死角等に回り込んで攻撃、木ノ宮は後方から援護射撃

撃退士・ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)
ダアト
[事前準備]
・サーバントの活動範囲が記載された地図と、罠用のロープや鈴、木を調達

[一日目]
・ゲート封殺班のメンバーで担当区域の捜索とサーバント討伐を
・捜索中は見える範囲だけでなく音にも注意し、破壊音等が聞こえればそちらに急ぐ
・サーバントが住宅等の傍にいる時は、牽制攻撃等で気を引き、広い場所へと誘導
・何かあればもう一方の班に携帯で連絡

[野営]
・野営の前にゲートの周辺に鳴子の木の代わりに鈴を取りつけた物を設置
・休憩時には救急箱で手当ても
・見張り中にサーバントが出現したら対応に回る

[二日目]
・ゲート封殺班で行動
・ゲート及びその周辺の捜索と警戒を
・周辺捜索時はゲートに仕掛けた罠が鳴らないかにも注意
・ゲートからサーバントが出現したら、どこかに行ってしまう前に討伐

[戦闘]
・スクロールでの遠距離攻撃を主体に
・攻撃のタイミングに気を払い、波状攻撃や敵が攻撃しようとする瞬間を狙って攻撃したりしての妨害を

撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
ルインズブレイド
●基本方針
4人1組を2つ、該当エリアのパトロール班とゲートでの封殺班に分ける。
自分はパトロール班で、ルビィ、アスカ、幸穂と組。
初日は両班とも索敵戦闘、日没にゲート付近で合流し班ごと見張り交代で野営。2日目も、こちらは索敵戦闘を継続。


●具体行動
さて、索敵しつつ戦うといっても直径20kmとなるとかなり広いな。
雷を操るらしいし、雷鳴と、あとは暴れることで起こる破壊音を頼りに探そう。田畑・林が目立つってことは、うるさい場所でもないだろうし。

走り続けるのは得意だし、見つけた場合はそのまま走って間合いを詰めて懐に飛び込んでいく。距離をあけても雷で撃たれるか、突撃の助走距離を与えるだけだしな。
これ見よがしに刀構えて見せつつ、刀は横向きに相手の鼻先へ置きにいくような形で防御に使用。動きが鈍ったところへ、前足の膝へ蹴り。砕くとはいかずとも、少しは止まるだろ。
機動力を削いだら、全員で囲みつつ叩いてけばいい。

撃退士・木ノ宮 幸穂(ja4004)
インフィルトレイター
被害を最小限に抑えアーバントの撃退

主に二班に別れて行動
班構成
●パトロール班
・久遠 仁刀・小田切ルビィ・冴城 アスカ・木ノ宮 幸穂
●ゲート封殺班
・ソフィア・ヴァレッティ・ミリィ・エモリア・君田 夢野・レキ

・一日目:ゲートを中心に半径10kmずつを二手に分かれて捜索。日暮れ後、別班と合流し鳴子の設置。
・野営:場所としてはゲートが見え、鳴子が聞こえてなおかつすぐに行動できる範囲内。それぞれ見つけた怪しい場所などの情報交換。別班内の2人一組で交代で見張りと休息。
・二日目:パトロール班とゲート封殺班に分かれて行動。今回パトロール班に配属。人通りの多い箇所、民家周辺、前日の捜査で怪しかった場所を優先的に捜索。

・戦闘時:後方からの援護射撃。連携重視。
・班に別れての別行動時、援護要請など何かあったときは携帯で連絡。
・烏龍茶1本おにぎり2個持参。
・鳴子は依頼上での必要品として申請

撃退士・ミリィ・エモリア(ja4105)
阿修羅
初めての、実践…みんなが、怖い思いしないよう…お馬さんは…ご退場なの…!

●目的
サーバントの討伐と、住民の安全確保。

●準備
野営にあんぱん、烏龍茶、救急箱持参。携帯は連絡用。
入手可能であれば地図確保。
ペンライトは夜作業に使用。

○罠
野営時の警戒に使用。
鈴や鳴子等を資金内で用意し、野営前に皆で罠作成。
もし敵が出た場合は、率先して迎撃。

○班:ゲート周辺で敵への警戒と撃破
ソフィア/夢野/レキ/ミリィ

●戦闘
敵の前面注意を惹くよう行動。仲間が攻撃し易い様、連携を重視。
後衛のソフィアに攻撃に及ぶ場合のみ、受け。それ以外は回避。
短時間で終了出来るよう頑張る。

生命50%を下回ったら、回復のスクロールα。
必要であれば一度退き、治療終了後再戦。

雷を操る時は予備動作がある筈。
それを見付ければ攻撃の隙を突けるはずなので、発見時は仲間に連絡。

「攻撃は、最大の防御…殺られる前に、殺る……でも、死んだら、だめ」
「…守る、の」



リプレイ本文

●満目荒涼
 そこには広々とした田舎を思わせる大地が広がっていた。だが残念ながら豊かさや感銘を受けるものではなかった。
「ひどいもんだな‥‥」
 久遠 仁刀(ja2464)はそれらを見渡して嘆息する。それほどにあちこちが荒れ果てていたのだ。土は大きく穿たれ、色付きはじめた樹木も折り倒されている。
「ああ‥‥これが現状なんだよな」
 触れた途端、保っていた形が崩れ、粉になって散る、君田 夢野(ja0561) はレキ(ja3725)とそんなことを話しながら感傷に浸る。そこへ、
「斡旋所の情報通り、ヤツ等が暴れてるのは確かみたいだ、いくつかの目撃証言もとれた」
「うん、みなさんとても怯えてて、早くなんとかしてあげたいなって、改めて思ったよ」
 民家へ情報収集に向かっていた小田切ルビィ(ja0841) が木ノ宮 幸穂(ja4004) と共に戻ってきた。ルビィは用意してきた地図を広げ、集めてきた情報を仲間内に周知していく。
「まあ、怯えて仕方なしだよな‥‥自分じゃなくあんたみたいなのが行って話してくれて助かったよ」
 冴城 アスカ(ja0089)は幸穂に視線を向けながら大きく息を吐いた。それにやや遅れて、
「‥‥私も、ありがと‥‥」
 と言葉を漏らしたのはミリィ・エモリア(ja4105) 。あまり口数が多くない彼女もまた感謝を送る。そんな2人に幸穂はただにこにこと微笑を返した。
「そんじゃ的が居場所を教えてくれてもいるようだし、さっそくはじめるとしよう」
 いくつかの閃光が空を走り、落ちるのを見た仁刀が仲間達を確認しながら言い放つと、
「んっ、了解。打ち合わせ通りいくとしよっ!」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133) が溢れんばかりの元気声を張り上げて応じるのだった。

●天震雷鳴
 数分置きに落ちる雷光、その光を頼りに索敵を行おうという仁刀の作戦は当たった。
「見つけたぜ馬野郎‥‥!」
 広範囲に注意を払っていたアスカがペガサスの姿をした1体のサーバントを発見することになる。全身が血色に染まったそれは木をなぎ倒しては実りを口にしていく。まだアスカ達の存在には気が付いていない。
「血色のペガサスって所か――今が好機だろう、援護を頼む」
 物陰で様子を窺っていたルビィは、敵の確認をするや右手にレイピアを構え、
「俺も行かせてもらう!」
 同時に仁刀も打刀を手に、仕掛けるタイミングを計る。そしてペガサスが新たな木を倒そうとする動作をしたところに勢いよく飛び出した。不意打ち。得意の脚力で一気に間合いを詰める。
 ルビィは己等の属性を考慮し、仁刀と共に囮及び盾役を努めようと前面に立つ。その想定通りペガサスは最初の注意を2人に注ぐ。
「はっ、雷使うんだってな!」
 仁刀は、向き直ろうとするペガサスの鼻先目掛けて一打。おとずれた痛覚にペガサスが嘶くと、翼に静電気のような雷が走った。くるか、と反撃に備え、全身の筋肉を固める2人だったが、その衝撃はこなかった。代わりに光が一矢。
「撃たせないから‥‥」
 後方に構えていた幸穂のショートボウから放たれた援護射撃だ。それはペガサスの喉元へ命中。続けざまに与えられた衝撃に全身を震って怒り露に暴れるペガサス。近距離に雷が落ちた。
「くっ」
 一行は反射的に目を瞑り、一瞬だが目を離してしまう。その間にペガサスは動く。大きく翼を羽ばたかせ、改めて放つ雷。それはルビィを捉えた。
「こ、れは‥‥厳しいか‥‥っ」
 どうにか踏みとどまるルビィだったが、ダメージは大きい。しかし彼は代償に目的を果たした。ペガサスの注意は、これまで攻撃を仕掛けてきた3人に集中。その隙を突いて忍び寄ったアスカこそ現状を打開する真打ちだ。
「よくも仲間をやってくれたな! 食らいやがれっ!」
 ナックルダスターを嵌めた拳を、死角から抉る様にわき腹へ捻り込むアスカ。ペガサスと相対する属性を持つその一撃は確実に深く浸透した。
「一気にたたみかけるぞ!」
 持てる気を振り絞って、ルビィが仲間へ促すと、彼等はすぐに応じた。ペガサスに反撃の機会を与えないように放つ仁刀の刀が胴体に打ち込まれ、動作が鈍ったところへ幸穂が追い討ちの射撃で足を奪う。――そんな追撃を何度も繰り返したあとには、動かなくなったペガサスの体が横たわっていた。血なのか体毛なのか判別がつかない紅を纏って。
「ほら、大丈夫か?」
 アスカはそう言って、肩で息をするルビィに手を差し出すのだった。わずかな休憩を挟んで彼等は再び捜索へ。

 小さな商店街に雷が落ちた。道に大きな穴が開く。
「早くこっちにッ!」
 夢野が叫ぶ。
「頑張っ‥‥て‥‥もう、少し‥‥」
 小さな子供の手を引いてミリィが走る。
 ここにも一体のペガサスが出没していた。立ち寄った民家で子供が帰ってこないと聞いて捜索に当たっていたところ出くわしたのだ。
「だめだめ! いかせはしないよっ」
 文様のような不思議な絵柄が刻まれたスクロールを広げ、ソフィアが言葉を紡ぐと、中空に光の玉が現れ、一直線にペガサスに向かい飛んだ。光との衝突の衝撃に、一瞬だが足が止まった瞬間を逃さず、ミリィは子供を連れて横道へ滑り込んだ。そこでレキに子供を任せ、戦線へ戻る。
「ここ‥‥ダメ、よ」
 ミリィは小さな体に大きな闘気を宿し、言葉を吐く。建物が多いこの場で戦っては周囲への被害が出てしまう。
「わかってるさ、あっちの広場に誘導しよう。ソフィア、援護を頼むッ!」
「うん、任せてっ!」
 ペガサスの注意がミリィと夢野に向けられているのは明らかだった。ソフィアの妨害も意に介さず速足に追い続けているのだから。それを逆手に取り、広場へ導こうという提案。ソフィアは万が一に備え、後ろからの追い立て役を買う。
「‥‥急がないと」
 怒れるペガサスを背に、ミリィは誰よりも早く地を蹴った。距離があるといえ相手の足は速く、すぐ追いつかれてしまうことだろう。彼等は必死に商店街を駆け抜ける。
「お、わっとッ!」
 寸前で転がり込むように広場へ辿り着いた夢野に雷が飛んだ。移動軌道から逸れていたのが幸い、どうにか回避。
「お馬さん‥‥ご退場願う‥‥の」
 攻撃の合間を突いてミリィが忍び寄っていた。装着された鉤爪が煌き、赤い躯体に爪痕を築く。飛び散る赤い体毛。ペガサスは嘶きながら後ろ足2本で立ち上がると、大きく翼を広げ、翼に雷を集め始める。
「コンモート‥‥響けッ!」
 仕草に割り込んで、夢野がカットラスの刃をペガサスに向けて煌かせた。腹が大きく切り裂かれる。その衝撃でバランスを崩したのか、ペガサスは前のめりに身体を落としてきた。丁度懐に入り込む形で居た夢野が踏みつけに対しての受身を取る。そこへ、
「それならあたしはヴィヴァーチェ、って感じかな?」
 親しみあるイタリア語に乗せて、追いついてきたソフィアが側面から奇襲。完全に押し倒すには至らなかったが、ペガサスの足は夢野のパーカーを切り裂く形で地に下りた。
「‥‥殺られる前に、殺るの‥‥でも、無茶‥‥だめ」
 未だペガサスの射程に居る夢野を想いつつ、ミリィは近くの足を爪で深く抉った。
「ありがと! まだ大丈夫だッ」
 夢野は姿勢を整え、ペガサスの喉に刃を叩き込んだ。硬い感触に阻まれた後で引き抜く。そして赤い血を滴らせながらも敵意を露にするペガサスを3人がかりで仕留めた頃には日も傾いており、
「んっ、そろそろ日没かな? 連絡とって合流しておこうか」
「‥‥近くに‥‥もう敵の気配も、ないし‥‥いいと、思う」
 携帯の液晶画面を確認しながら呟くソフィアの提案に、ミリィと夢野は合意した。

●深闇広闇
 周囲が闇に染まる直前、一行はゲートの名残付近で合流し、野営の準備を進めていた。
「これはどう仕掛けるんだ?」
「‥‥‥‥」
 小さな鈴に糸を通す作業を手伝うアスカ。ミリィもその隣で黙々と同じく作業を続ける。
「そうだなぁ‥‥ゲートの入り口とかがいいのかな?」
 仕掛け作りの指示をしていた夢野が、少し考えてそう答えた。いくつか決めかねていた内容をあれこれ相談する。
「はいっ、これでとりあえずは大丈夫。でも、あくまでも応急処置だから無理しないよう休んどいてよね?」
「いや、十分だ。助かる」
 ソフィアは手持ちの救急箱を使ってルビィの傷を手当てしていた。一応無理をしないようにと釘を刺して置く。癒し手が居ない中ではありがたいものと、ルビィも感謝を送る。
「あんだけ派手に落ちてた雷がなくなったところを見ると、もういないのか?」
 周囲を見回っていた仁刀がそんなことを口にしながら戻ってきた。外灯もなく、民家もないそんな場所で、アレだけ目立つ光がまったく闇を照らしてはいなかったのだ。
「だけど、まだ居るかもしれないって考えたら休んでなんかいられないよな‥‥」
 黒く染まった空を見上げて呟く夢野を、
「もうちょい肩の力抜けよ、長丁場だ、キバり過ぎるともたないぜ?」
「そうそう、しっかり休んでおかないとね」
 と、ルビィとソフィアが諭すのであった。
「ん‥‥木ノ宮、アイツはどうした?」
 ふと、仲間がひとり足りないことに気付いたアスカ。確か彼女は仁刀と共に見回りにいっていたはずだ。
「あれ、さっきまで後ろに――」
「‥‥迷子‥‥?」
 ミリィは首を傾げた。
「ああ、あそこだ、ほら、祠んとこ!」
 最初に気付いたのはソフィアだった。幸穂はその言葉通り、ゲートコアの在ったという祠を覗き込んでいる。しかし仲間の呼び声に気付いた様子で、
「心配かけたかな、ごめんね〜。ちょっと気になって、さ」
 そんな言葉を口にしながらゆったりとした足取りで戻ってきた幸穂。
「何かあったのか?」
「ううん、なんにも? ただ、不思議なエネルギーは感じたかな〜?」
 仲間からの問いかけに、首を横に振って応じるのだった。
 一行は軽く食事を取り、見張りを決めてからつかの間の休息に入ることにする。

●宵闇霹靂
 鳥すら鳴かない闇の中、ちりん――と、小さな音が周囲に響いた。
「仕掛けの音? 敵襲か――!?」
 見張りの版をしていたアスカが声を殺して鳴った仕掛けの方角を確認する。
「今、何か光りましたっ」
 幸穂がパリパリと弾け跳ぶ光に気付く。目を凝らし、やっと確認できたのは、ペガサス3体。
「ち‥‥夜中に奇襲ときたか、まずいな‥‥おい、寝てる面子を起こしてきてくれ今は俺達で凌ぐ」
「だが常套手段といえばそうだよな。了解、無理はするなよ」
 ルビィは、仁刀に休息中のメンバーを起こすことを頼み、レイピアを取る。完治していない傷に響くのか小さく呻いた。しかしそうも言っていられない。
「流石にこれはスリルがあるな」
 クールに軽口を叩きながらもアスカは不意打ちを狙って速攻。相手自身が目印を宿しているのが幸いし、目標を違えることなく脇腹を殴りつける。
「止まらないで‥‥退いてっ」
 打撃を入れた隙を狙わせないよう、幸穂が間髪いれずに追射。再び矢を喚び出して他の脚止めも狙う。しかし雷の射程は長く、反撃がくる為、射撃に集中することが出来ない。
「敵は見えるが俺達同士の視認が難しいな、誤射に気をつけてくれ」
 別の1体へルビィが刺突。鋭い刃は胴を貫通。その最中、仁刀が休憩メンバーを率いて戦線に戻ってきた。
「遅れてごめんっ、その分頑張るからさっ!」
 ソフィアが後方から幸穂と共に援護に加わる。何人かが持っているペンライトがわずかな目印。その中において、
「ねえ‥‥昼間は気付かなかった、けど‥‥光ってるの、翼‥‥だけ。もしかして――?」
 戦況を見極めようと観察していたミリィが呟くと、言葉通り翼だけが雷を纏い、闇の中に浮かび上がっていたのだ。
「それだっ」
 言葉の意味に気付いたアスカが隣接したペガサスの翼を鷲掴みにし、力を込めると比較的容易にそれは圧し折れた。一際大きな嘶きが上がり、そのペガサスが以降雷を操ることはなかった。後衛の安全を確保する為、面々は次々にペガサスの翼を折っていく。敵の目印もなくなってしまったがそこは天運が味方する。夜が明け始まったのだ。
「こうなればあとは逃がさないよう仕留めるだけだ! さあ、終曲の始まりだ!」
 機動力を殺ぐべく夢野はペガサスの脚に攻撃を集中させた。ペガサスも簡単にはやらせまいと体当たりを繰り出してきたが、それは切れ味の手助けをしただけであった。どちらも着実にダメージを蓄積していた。
 それでも1体のペガサスが手薄な所を突いて、ソフィア、幸穂目掛けて前線を突破してしまう。
「しまった」
 アスカが声を張り上げるが、彼女も手一杯。ペガサスは今まさに踏みつけようと身を持ち上げ、襲い掛かる寸前。
「今が使いどころかっ」
 追撃に出たルビィもレイピアの射程に一足たりないことに舌打ちしながら、潜ませていたもう一振りの武器、ダガーを取り出した。左手で勢いをつけ投擲。刃は腰付近に突き刺さり、ペガサスの勢いは落ちた。合間をついてソフィアは幸穂を抱え込むようにして、双方回避。
「‥‥許さ、ない」
 そこにはミリィが居た。夢野と共に己の対したペガサスを仕留めて駆けつけたのだ。
「これ以上やらせるかッ!」
 2人はほぼ同時にペガサスに切りかかった。攻撃対象を失い、逃げにも至れず、渾身の一撃をその全身で受けたペガサスはなすすべなく崩れ落ちた。ほぼ同時、アスカも仁刀と共にペガサスの動きを封じ、首を締め上げたところであった。

●夜明晴空
「どんなに辛くても俺は眠ったままで良いなんて思わ無ぇ‥‥」
「そんなことを思わせたりしない、そんな存在にならなきゃならないんだ」
 夜が明けて残りの任務時間を使い、パトロールを続けながらルビィと仁刀は初任務を通し痛感したことを意見し合う。
「まぁ今回は現場ってのが色々実感出来たし、自分はこれから更に精進だな」
「うん、私も頑張ろうって思ったよ。やっぱり天魔は許せない」
 これからも己を鍛え続けようとアスカ、幸穂。立ちふさがる相手は叩き潰いていけばいい、と。

(‥‥俺にあんな激しい敵意があったなんて‥‥)
 今朝方倒した敵の残骸を一瞥して夢野は思う。ゲートからの再出現を警戒して見張りに残っていた彼等は、
「ん〜‥‥何も感じないなぁ」
「どうし、たの‥‥?」
 ゲート内部を覗き込みながら唸るソフィアに、ミリィが言葉をかけた。
「いや、ほら昨晩幸穂が、何かエネルギーを〜、っていってたよね? でも何も感じないなーって」
「‥‥確かに‥‥」
 彼等は後に知る。最後の3匹が、このコアが残る力で喚び出したサーバントであったのだと。


依頼相談掲示板

相談テーブル
木ノ宮 幸穂(ja4004)|高等部1年38組|女|イン
最終発言日時:2011年11月24日 01:08
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月18日 17:06








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