●竹
さぁぁぁ……
風と共に、竹の葉が爽やかな音を鳴らす。
ここは竹林。竹が群生する――戦場。
「ふむ……竹林……涼やかな風景に、何となく暑苦しい敵だねぇ☆」
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)が、その中を進み、思う。
「へー、りあじゅうに襲ってくるの?」
敵の情報を聞き、声を上げる新崎 ふゆみ(
ja8965)。
「じゃあふゆみ狙われちゃうのだっ☆こわいこわーい(*´ω`)」
怖そうに見えないのは何故か。
「それならギア安心だ、人界に来てからこの方、ずっと一人だったから……って、別に寂しくなんか、無いんだからなっ!」
蒸姫 ギア(
jb4049)はふいっと皆から顔を逸らす。
「お、おう、リア充殺しか。ね、狙われたらヤバいじゃん?」
アティーヤ・ミランダ(
ja8923)の声は、完全に震えていた。恐怖ではなく。
「あ、あたし? いやー、ホラ、あたしがイナイ歴=年齢とかありえないじゃん? こ、今回回避固めて来たし、万全だし」
彼女は本当に狙われるのだろうか?
『……』
そして邂逅する、
竹。
竹が着物着て竹槍持ってた。竹林で。竹づくし。
「ギア、聞いた事ある、人界の竹槍って、空飛ぶ巨大な飛行機を落とす恐ろしい武器だって……昔、そんな訓練してるの見た事ある」
彼の持つ竹槍を見て、蒸姫は言う。いつの時代の話だ。そして盛大な誤解だ。
バンブーランサー。奴は恋人達を狙う。であるなら撃退士達の行動は、一つだ。
「誕生日に恋人からプロポーズされましたの!」
斉凛(
ja6571)が、左手の甲を奴へ向け、大声で叫ぶ。
その薬指には、指輪。
『――ッ!』
瞬間、竹はしなった。ビュっと風を切る音と共に、目にも止まらぬ速さでの、突き。
射程内に入る前にと思っていた彼女。その俊足に僅かに対応が遅れる。
かろうじて直撃は避けたが、頬に薄く紅い線が引かれた。
「うむ、見た目通り、竹を割ったような性格……にはならなかったようだね☆嫉妬に狂っておる♪」
ジェラルドはその様を見て、一言。
「よし、よくやった!!そのまm……げふんげふん」
アティーヤは、漏らしかけた言葉を咳き込んで誤摩化す。
「全ての恋する人達の為に!竹はいただくのです!」
睦月 芽楼(
jb3773)、斧でランサーへ牽制。彼はこれをもう一本の槍で逸らすと、その場に生えている竹を踏み台に、跳ぶ。先程のスピードも、竹を利用して生んだものだろう。
ビュンッ! 竹槍が睦月を襲う。瞬間、鈴木 一成(
jb2580)が機械剣で背後から一撃。
『……っ』
体勢を崩した奴は攻撃に失敗。
鈴木は竹の密集地へ、透過能力で逃げて行く。その様はどことなく幽霊じみていた。
「わはー☆ミ こないだだーりんとケーキバイキングいったんだよっ」
地面へ転がったランサーへ、新崎の雷打蹴。竹槍で受けるも、衝撃は本体へ伝わる。
「ふゆみのだーりん、かっこいいしやさしいし、チョー最高なんだよっ★ミ」
新崎は尚リア充アピールを続け、ランサーは竹槍を杖に素早く起き上がり、勢いを込めた突撃。
が、それは誘導だ。「そーれ★ きゅきゅっとね!」彼女は糸でランサーを絡めとり、動きを固定。
「さあーみんな今だよ! やっちゃえー(・∀・)」
新崎の合図と共に、斧で飛びかかるのは矢野 古代(
jb1679)。
「何故貴様はカップルを狙う!」
その心中には、激しい想いが渦巻く。「あいつらは強いて言うならば雨後の竹の子の様なものであり、斃してもまた来るんだ!」
「その点息子娘は可愛いぞ! なにより天使か何かだぞ! あいつらの為なら俺阿修羅になれる! インフィだがなぁ!」
実際戦い方が阿修羅っぽかった。前衛だし。だが彼はそんな声は無視するだろう。その想いの為に!
(馬鹿っ! このお馬鹿っ! カレカノ持ちだけを集中的に狙ってどうするんだ! 世の中にはファミ充と言う漢が居ると言う事を教育してやろう!)
それでいいのか撃退士。
多分良いのだ。
ランサーもやられ続けはしない。着物を犠牲に、彼は糸の拘束を逃れる。
素っ裸の竹。最早ただ足の生えただけの竹。竹林に紛れそう。
「あれがリア充殺しか」
意外に俊敏な奴を見て、アティーヤは呟く。「……け、携帯ゲーム内のカノジョはカウントされんの?」
ランサーは竹を蹴ってびゅんと飛び、彼女の上空から刺撃を試みるが、直前でもう一度竹を蹴り、軌道を変える。
『……』
着地したランサーは、横目で彼女を見ると、向けかけていた竹槍を下ろす。
見逃したのだ。
「おい、憐みの目でみたりすんなよ!!! すげー悲しくなるから!!!」
「恋人と同棲してますわ」
『ッ!』
ランサーは言葉よ消えろと言わんばかりに槍を向ける。その刺撃は、細い竹槍ながらも列車を思わせる剛圧。
その背後に、アティーヤは音も無く、忍び寄り、ニンジャブレードで斬りつける。
攻撃に成功した彼女は、そのままランサーとの距離を離す。ランサーは反撃を行おうとするが、睦月が回り込んでそれを阻止。ダークブロウで更に攻撃を加えようとする。
『ヴァァァァアアンブゥゥァァアアッ!』
しかし竹は怯まない。咆哮する。どっから声が出ているのかは知らない。
ランサーは二本の竹槍を、叫びながらその衝撃へぶつける。瞬間、轟と鳴り響く爆音。
ダークブロウは竹槍に相殺され、掻き消えた。代わりにランサーはその衝撃の負荷に耐え切れず、槍をふっ飛ばしてしまう。
ランサーは飛んで行った武器に目もくれず、睦月へ跳び膝蹴りを喰らわす。一応言っとくが膝はちゃんとある。
彼はそのまま乱立する竹を蹴り、高く跳んで宙を舞う竹槍の一本を確保。
が、瞬間宙を飛ぶ夢宮のグラシャラボラスによってランサーは地に叩き付けられる。
それが彼の敗因だった。
複数の撃退士を前に……彼はリア充にこだわりすぎ、判断を見誤ったのだ。
全身に赤黒い闘気を纏ったジェラルドが、エーリエルクローでランサーを薙ぎ払う!
鈴木もそこを狙い、ランサーの背後へ機械剣の一撃! 透過で逃げる様が本当にサラリーマンの幽霊じみて怖い!
ランサーはマズいと思ったのか、一旦距離を置こうと動く気配を見せる。
「すばしっこく動くなら……石縛の粒子を孕み、かの者を石と成せ、蒸気の式よ!」
そこへ、蒸姫の八卦石縛風が炸裂。ランサーは動く事が出来ない!
「わたくしが作る料理が一番おいしいと言ってくれますの」
『――ッッ!! ヴァァアアッッ!!』
「それからそれから、夜はお姫様抱っこでベットに運ばれるのっ」
『ヴァンヴゥゥゥアァァッッ!!』
そこへ更に斉凛のノロケが追撃を加える! 目の前にリア充がいるのに動くことが出来ない、攻撃する事が出来ない。ある意味最も惨い攻撃だ! その悔しさに、ランサーは吼える。喉が何処にあるかは知らん!
「万能の蒸気が今、魔を断つ……」
蒸姫の雷帝霊符から、高圧の蒸気が吹き出した。「お前の敗因は、竹槍を取った事なんだからなっ!」
スパァンッ!
軽快な音と共に、鎌鼬の一撃を喰らったランサーは真っ二つ。
(……帰りに素麺買ってくるの)
夢宮は改めて明日の食事の算段を立てる。
本当に、素麺を食べたくなるくらいに、断面もしっかり竹だった。
●こっから本番
非リア竹は滅びた。
竹を狩った後は、竹を刈るだけ。
「木は斧で切るし竹も斧でいいのよね?」
夢宮は、戦闘でも使った斧を手に持つ。これを見越して装備して来たらしい。
(普段は斧なんて使わないからちょっと緊張するの)
戦闘時は無意識に使えていたが、改めて意識すると動きがぎこちなくなる。
すっぽ抜けて人に当たったら大惨事だ。そう考えて気を付ける。
鈴木も竹を提供してくれるという地主に感謝しつつ、竹を刈っていく。
必要と思われる分を確保し、皆は竹林を出た。
「いやぁ、重いねぇ〜♪ 待ってる人のため、がんばろー☆」
手ぶらのジェラルドが、しれっとそんなことを言う。彼の刈った竹は、全て矢野の背に乗せてある。
……が、矢野自自身はそれに気付いてない様だ。
「……あ、このジュース……おごりね♪」
冗談でやったことだが、その様子を見てジェラルドは少し罪悪感を覚えたようで、彼に飲み物を渡す。
「悪いねぇついでにこんなことまで頼んじゃって!」
「……いえ……これぐらいは大した苦労でもありませんから……」
大きな声の地主の礼に、鈴木は静かに答える。
「これで七夕祭りも盛り上げられるってもんだよ! ありがとうな!」
「七夕祭り…… 織姫と彦星といえば、恋にのめりこんで仕事を放棄し、二人でいちゃつき遊び呆けたがために、引き離されたという馬鹿カップルですが……何で美談仕立てに恋人たちの祭りみたいな空気になってるんでしょうね……不思議です……」
鈴木はぼそぼそとそんなことを呟く。
竹を地主へ渡した後、矢野は同行した撃退士達に、何かの券を配った。
「これはなんなのです?」
睦月がその券を眺め、矢野に問う。
それは商店街の祭りで使われる専用の金券だった。本来なら子ども会の子等に配られるものだが、矢野が事前に打診していたのだ。
『報酬の他に何かがあれば若い子達もより張り切ると思いますので……』
流石に敵へ『ファミ充』なるものを教育しようとしていただけあって、とても父親らしい行動だ。
「ありがとうございます」
斉凛達は礼を言う。彼は黙々と祭りの準備を手伝っていた。
やがて日が傾き、お祭りが始まった。
「お祭りは大好きだよー。去年もどっかでやったなぁ」
アティーヤは出店を眺めながら、そんなことを呟く。
「んふふー、屋台の射的とか撃退士が出たら最強じゃね?」
射的屋を見つけた彼女は、不敵な笑みを浮かべる。
「あと、今年こそラムネの瓶のビー玉を割らずに出すよ!!」
謎の決意を胸に、彼女はラムネを売っている所を探す。
「お、君ひとり? 勿体ない……こんなに可愛いのに♪」
ジェラルドは浴衣に着替え、団扇を片手にナンパを試みていた。
「折角だから一緒にお祭り、楽しもうよ☆ ん? 下心? ん〜☆そりゃあたっぷり♪ だって君、とっても綺麗だから♪」
この光景をランサーが見たら、きっと激昂して手がつけられなかったろう。
何故非リアチームにいられたのかと思う程である。
「皆様〜〜! よく当たる恋占いはいかがですか!」
睦月は椿柄の着物に着替え、占いの屋台を出していた。
ファンシーな可愛い絵柄のタロットで恋占い。しかも料金は無料。
「カップルの方にはこちらを差し上げるのです!」
睦月が差し出すのは、2枚で一つの絵になる『恋人たち』のカード。
「こんばんは」
と、彼女の出店に、夢宮も顔を出した。
「いらっしゃいませなのです! それでは占いますねっ」
●願い
祭りの最後には、短冊を飾り付ける。
そこで使われるのは、撃退士達が運んで来た竹。
(大好きなあの人は、眼鏡の下でいつも笑っている。でも……心配なの)
斉凛は、丁寧に短冊に文字を書く。
(危険な仕事を引き受けたり、無茶な特攻して大怪我したり)
それは大事な恋人への、真摯な願い。
(毎日貴方の帰りを待つと約束したけれど、いつも無事なのか不安になる)
彼女は短冊に、こう書いた。
『必ずあの人が無事にわたくしの元へ帰ってきますように』
恋人の怪我を案ずる気持ちと、自分の元に帰って来て欲しい気持ち。
2つともなんて贅沢かもしれない、と彼女は思う。それでも、2つとも叶いますようにと、彼女は短冊を吊るした。
『だーりんと夏休みいっぱい遊べますように(*´ω`*)』
『進級試験にぶじ合格しますように(*´ω`*)』
『もっとスタイルがよくなりますように(*´ω`*)』
新崎は、ざくざくと短冊に願いを書き込む。
希望いっぱい、夢いっぱい。
乙女の願いをいっぱいに込めた短冊は、竹を鮮やかに彩る。
きっと彼女には、それを叶えていけるだけの力があるだろう。
「……気持ちや心というのは移ろい行くものです……」
鈴木は周りとは全然別種の空気を纏って、短冊飾りを見つめる。
「今は熱々のリア充カップルであっても、半年後、いえ、三ヵ月後にはどうなっているか知れたものではありません…… 愛や熱情など、時間に晒されればいとも容易く消えて行くものです……」
ある意味七夕を全否定するようなことを、彼は思う。だがそれは、決してマイナス思考というわけではないのだろう。
「……ですから、リア充に非ずとも、劣等感を覚える必要などないのです 。むしろ、束縛と煩わしさの無い自由な毎日を謳歌しましょう。一人で生まれ、一人で逝くが人の定めなのですから……」
彼は彼の思いを胸に、日々を生きている。
そんな彼が短冊に書いたのは、『諸行無常』の四文字だった。
矢野が持つ短冊は、二枚。
一つは、『あの子たちと俺の友人が何時までも幸せでありますように』。
もう一つは、『そしてそれを間近で見守ることが出来ますように』。
君たちの幸せが俺の幸せであるのだ。彼はそう願って、二枚の短冊を飾った。
(学園に来てからあっという間に、大切な人がたくさんできました)
それは義母や義父に、友人や主人。そして、大切な彼氏。
『皆がずっと。一緒に居られますように』
皆と一緒の時間が、彼女の最高の幸せだ。だからそれがずっと、少なくとも、自分の最後の一瞬まで続けと、彼女は願う。
「皆様の願いが、星まで届くといいですね♪」
『万能蒸気は世界一!』
蒸姫の願いは単純だ。もうずっとそればかり願っている。
……というか、それは願いなのか? 宣言じゃないのか?
「願い事かぁ」
夢宮は短冊を前に考え込む。
(今まで行き当たりばったりで生きてきたからいざ書くとなるとぱっとは浮かばないの。 現状に不満はないし学園は案外楽しいし「こんな日常が続きますように」とか?)
なんか平凡すぎるし、悪魔っぽくない。彼女は思うが、私らしいしこれでいっかと飾り付ける。
(折角だから職員さんの短冊も飾ってあげるの)
「皆の、本当に幸せになる願いが、叶いますように♪ あ、あと依頼を説明していた職員さんに、好い人が見つかりますように♪」
ジェラルドは、楽しそうに2つの短冊を飾り付ける。と、そこにびっしりと文字が詰められた短冊を見つける。
「あたしは欲張りだから、短冊にぎっちり詰め込んじゃうもんね!! こういうのはさ、いっぱい書いて1個でも当たればいいんだよ」
それはアティーヤの短冊だった。数撃ちゃ当たる理論だ。
リッチな生活が送れますように
アリス先生の年――――
充実した夏休みになりますように
爆乳まで成長しますように
発売無期延期になったゲームが発売されますように
シンデレラストーリーが転がり込んできますように
ロマンスが近々発生しますように
2つ目の願いは、途中からマジックで消されている。
多分本当の願いは、各一文字目なのだが。
七夕の夜は更け、祭りは盛況の末、幕を閉じる。
彼らや商店街の人々の願いは、きっとこの夜空に届くだろう。