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「……なるほど、炎條さんの暴走では無く、警備会社からの正式な物だったんですね」
手元の資料と説明を合わせ、雫(
ja1894)はようやく納得がいった。
正直、炎條の第一声を聞いた時は、また彼が好き勝手言い出したのかと思ったものだが。
「Oh……だが確かに、それは思いついておくべきだったぜ……!」
NINJAの紹介ムービー。こうなってはもう遅いが、先に学園側で作るべきだったか!
本気で悔し気な様子を見せる彼に、自分の想像もあまり外れてはいなかったな、と雫は半ば呆れる。
「忍軍かー。盾と鎧とか揃ってしまってからは受けてないなー……」
依頼の内容に、さて自分は何をしようかと考える逢見仙也(
jc1616)。
改めて講習を受けるよりも、今ある忍軍スキルで手伝うか、それとも。
「ひとまず、顧客の側に立って考えてみるか」
もし、自分が撃退士の警備会社を選ぶなら……
ミハイル・エッカート(
jb0544)は『本業』の立場から思考を巡らせる。
「注視するポイントと言ったら……大体こんなところか」
インパクト、素早い対応、綺麗なアクション、ニンジャの格好良さでイメージUP……
その上で、会社からはスキルを多く取り入れて欲しいとの要望も出されている。
「派手さも出したいよね。強いインパクトで目を引けるようにしてさ」
紺屋 雪花(
ja9315)は、使えそうな忍軍スキルを確認しつつ構想を練る。
いかにも忍者らしい技と言えば……火遁とか、土遁とか、だろうか?
勿論、スキル以外にもインパクトを強める要素はあるだろう。
例えば……。考えつつ、紺屋はふっと炎條に目を向けた。
「なー、これって俺の機械部分とかもダメなわけ?」
「Yesだ。あくまで金城社所属のNINJA、ってImageだからな……」
『会社側の社員が使えないスキルは非推奨』……その一文を目にして問うのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)。
彼女は、身体の何割かが機械化している。
戦闘においても、その機械としての特性を活かした能力を使用するのだが……
「まじかよ。じゃあ俺のスキルあんま使えねーじゃん」
金城社の忍者が同じことを出来るわけではない為、機械的すぎるそれらも非推奨となってしまうのだ。
せっかく奥義スキルだって習得してるのに、とお冠の彼女を、「まぁまぁ」と不知火あけび(
jc1857)が宥める。
「また披露する機会もあるよ!」
「別にいいけどよー……」
往年のロボットものみたいな、華麗な合体シーンを披露出来るかとおもったのだが。
まぁ、今更他の撃退士に頼め、なんて言うつもりもない。
っていうかさ、とラファルは不知火に向き直り、ちょっと意地悪そうな笑みを見せる。
「あけびちゃんて、サムライガール目指してたはずなのにニンジャのCMなんかに出て大丈夫なのか?」
「いいんですよ! 私だって忍の家の出ですし……!」
忍者一族から生まれた会社だというのなら、自分だって協力したいのだ。
「不知火もNINJAの家系か! それはGoodだぜ!」
と、それを聞いた炎條はにやっと笑う。
「俺もNINJAらしいNINJAとして、全力でSupportするつもりだ!」
「あー、それなんだけどさ……」
大きな声で宣言する炎條。
そんな彼に、紺屋はある提案を持ちかけて……
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それから数日経って後。
スキルを中心としたCMは手早く撮影を終え、次にライブ会場でのロングCMの撮影が開始された。
「はい、じゃあもう一回確認します」
会場にいるのは、依頼を受けた学園生達7人と、数名の金城社撃退士。それから若干名のエキストラだ。
紺屋とミハイルが皆に大まかな流れを説明し、まずは下準備を整える。
「普段はサムライガールを目指してるけど、今日は正真正銘ニンジャガールだよ!」
夜闇を思わせる美しい忍装束を纏い、不知火は気合を込める。
「全力でお守りしますね、忍さん!」
「ああ! ……But、戦闘シーンで出るのは俺じゃないんだな」
「Yes。どうだ、似ているか?」
変化の術で炎條の姿になったミハイルは、喉に触れつつ声も炎條に近付けていく。
「Goodだ! あとは表情だな!」
にぃ、と笑う炎條に合わせ、ミハイルも口角を上げる。瓜二つだ。
「んで、この歌詞は自分で考えたのか?」
ラファルは、台本に書かれたバンドマンの歌……その内容について、炎條に尋ねる。
「そうだぜ!」
「おー、俺これのファンとして出んのか」
ぐい、とペットボトルのドリンクを飲むラファルは、スタジャンにキュロットパンツ、それから縞々のタイツといった服装で、いかにも若いファンの娘、という風体だ。
「まぁ歌詞は少ししか出ないらしいがな! ……っと、もう本番がStartするぜ!」
「っし、んじゃ一丁やるか」
いつものペンギン帽子を被りなおして、ラファルは立ち上がる。
「……俺のスキル使えりゃなー……」
呟きに、しょうがないぜと炎條は短く返した。
戦闘シーンの撮影は、1アクションごとに行われた。
長回しでも十分見れる映像にはなるが、時間の調節が難しい……というのが理由である。
「全力を出すのは慣れていますが、力を抜くのは如何にも苦手ですね……」
リハーサルとして数手動いてみてから、雫はぽつりと零す。
演技とはいえ、あまり嘘くさくなってはいけない。といって、『巧く』手を抜く方法など心得てはいない。
「こっちは避けやすいだろうし、全力で叩こうと思う」
「うん。危なそうなら空蝉で避けるね!」
いいよね、という逢見に、不知火は頷く。
「ミハイルさんも最初は畳返し使う予定だし、こっちは大丈夫かな。私の方からはどう?」
「ああ……別に遠慮しなくていいかな。回復すればいいだろうし」
「一応、危険な所には案山子使おうかと思ってるけど」
逢見の答えに、小道具の準備を進めていた紺屋が声を掛ける。
「それならそれでいいかな。……あぁ、でも……」
自分が倒されるなら、どういう演出がいいか。
考えていた逢見は、そのアイディアを紺屋に説明する。
「……で、これやると案山子は使えない」
代用するなら別の場所だな、と逢見は案山子を見遣った。
「それも面白そうだねぇ。倒した! って感じがする」
うんうんと頷く不知火。であれば、と紺屋はひとまず案山子を端に退けてもらう。
それから、撮影は着々と進み。
「……以上で、本日の撮影は終了です」
最後のシーンを確認して、紺屋はスタッフ一同にそう告げた。
「お疲れ様ですー!」
ふぅ、と息を吐き、不知火は笑顔を浮かべる。
なかなか大変だったけど、これでひと段落だ。
「それじゃあ、皆で打ち上げに行きましょうっ!」
「おお、いいなァ。この人数なら、ウチの経費で落とせるぜ」
「ほんとですかっ!? ごちそうになります!」
不知火の提案に答えたのは、金城社社長、金城珠だった。
社長である彼も、絵コンテを確認した後、「面白そう」という理由で出演することとなったのだ。
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「それでですね、忍さん!」
打ち上げの席で、不知火は炎條の隣に座り、熱く語った。
「NINJAも格好良いですけどSAMURAIも格好良いと思うんです!」
「そうだな! 確かにSAMRAIも捨てがたい……!」
「そうなんです! 忍者の家系も勿論誇りに思うんですが、やっぱり私の目指すところは侍で――」
己の侍像、忍者像について、彼女たちは意見を交わす。
その一方では、ミハイルが金城珠に名刺を手渡していた。
「社内だけで撃退士を賄えない場合、そちらのような会社に外注することになるだろうからな」
「成程、将来のお得意様、ってわけだ」
金城もまた、ミハイルに自分の名刺を渡しつつ、ありがたいことだと笑う。
「ウチはまだまだ実績が少ないからなァ、依頼があれば喜んで受けるぜ」
それから金城はミハイルの会社について色々と尋ねてきた。
……無論、本当のことを言うわけには行かないので、予め用意した、当たり障りのない答えを返すことになったのだが。
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「完成したCMが届いたぞ!」
それからしばらく経ち。
学園に一枚のディスクが届けられた。
「どんな出来になってるか楽しみですね!」
「なかなか上手く編集できたと思う」
わくわくした声の不知火に、紺屋は自信ありげに答える。
撮影が終了した後も、紺屋は編集作業を引き受け様々な調整に苦心していた。
苦労した分の成果は出ているだろう、と紺屋は核心している。
「んじゃまぁ、とっとと確認しよーぜ」
ラファルはそのディスクをひょいと取り上げ、プレイヤーに挿入した。
パチパチと炎條が照明を落とすと、目の前のスクリーンに、映像が映し出される……
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暗い和室の中、不思議な文字の書かれた巻物を受け取る、少年。
ババン、と三味線の音楽が響き渡り、少年は一瞬にして美女へとその姿を変える。
美女は夜闇の町を駆け抜けていく。車さえ抜き、風の様に跳ぶ。
瞬間、場面が切り替わる。
何処か理知的な顔をした中年男性に、突如として暴漢が襲い掛かった。
が、瞬時に男性の前に銀髪の少女が割って入ると、彼を背に護りつつ、剣から延びる影で男を縛り上げる。
ここで画面が二つに分割した。
左画面では、池の上を金髪の男が駆け抜けていく。
右画面では、金髪の少女が黒髪の少女、短髪の少年、銀髪の少女へと姿を変えながら走り……
元の姿に戻ると、彼女は一枚の手裏剣を投げ、つま先から顔を撫で上げると共に消えていく。
すとん。音を立て手裏剣が的の中心に突き刺さると共に、金髪の男は溺れていた男性を引き上げた。
そして再び、夜の街。
ビルの壁面を駆け登る一人のくノ一が、突然こちらに振り返ると……
何かを投げ放つ動作と共に、画面は暗転する。
『リアルな忍者が守ります 金城天魔警備』
最後、低い男性の声と共に会社の名前が表示された。
………………
…………
……
2本目の上映が始まった。
『CHANBARA BARA! NINJAFIGHT! YEAHHH!!』
あるライブハウスで、長髪の男がシャウトする。
会場は大いに沸き、三味線とギターの音が響き渡る。
そしてライブは終了し、客席から1人の男が花束を持って近づいてくる。
長髪のバンドマンが花束を受け取ろうとした、その時だ。
――バサッ!
男の背中から、蝙蝠のそれに似た対の翼が姿を現した。
天魔だ……!
騒然となる会場。天魔は何時の間にか手にしていた黒剣を、バンドマンへと振り下ろす。
だがその時、会場から黒い影が飛び出し、天魔の前に立ち塞がった。
キィィン!!
黒い剣は桜の浮かぶ軍刀によって受け、流される。
高い金属音の中、藤色のくノ一が姿を現した。
同時に、客席がスポットライトに照らされ、観客の男が瞬く間に忍装束へと姿を変える。
「ニンジャ警備員、参上!」
くノ一の叫びと共にバンドマンが衣装を脱ぎ捨てると……その下からは、更に金髪のサイバーニンジャが現れた。
「!!」
天魔はサイバーニンジャを斬り払わんとする、が、ニンジャは地面を叩き、床から1枚の畳を造りだし、回避。
その裏から飛び出したニンジャは、一対の剣を両手に握り、大きく斬り払う。
と、剣先から薄く光る衝撃波が、十字を描いて天魔へと放たれた。
天魔はその攻撃を受けると、手にした剣を長杖へと変化させ、周囲に冷気を発し始める。
「……」
避難が進む会場。そんな中、舞台上を見つめ動かない、銀髪の少女。
くノ一の刀が闇を纏い、目にも留まらぬ速さで連撃を叩き込む。
少女はそれを見つめながら、手の内に般若の面を造りだし、被り……すっと構えた黒い剣で、くノ一の背へと斬りかかる。
が、刃が裂いたのは彼女の肌でなく……一枚のジャケット。
「曲者め!」
何時の間にか回り込んでいたくノ一は声を上げながら、棒手裏剣の雨で天魔と般若面を攻撃。
傷付いた天魔たちは、何かの術でその場を黒い闇で包む。
黒闇の舞台上で、5人の剣戟と共に白い花びらが舞う。
――それと共に、BGMの和楽器は激しく高鳴り――
金髪のニンジャが、手から双剣を消す。
「助太刀します!」
すかさず、くノ一が刀の切っ先を天魔へと向け、斬り、払う。
「っ!!」
鎧に深い傷がつき、よろける天魔。
そしてくノ一の背後から、金髪のニンジャは天魔の懐へと潜り込み……その胴体を、がしりと掴んで跳び上がり。
思い切り床に、叩き付けた。
ぼぅん、と天魔は爆発し、煙と共に消える。
綺麗な所作で刀を収めるくノ一。金髪のニンジャは手で埃を払うと……
ぱちん。サングラスを外しながら、カメラへ振り向きウィンクした。
『天魔討伐! 要人警護! イベント警備なら! 金城天魔警備!!』
「――それじゃあEncoreいくぜェェッッ!!」
再び、活気を取り戻したライブ会場。
興奮した少女客のペットボトルが手から吹っ飛び、飛んでいく。
弧を描くボトルは客席の後方、ライブに熱狂する男性客――金城社の社長――へ向かうが。
ぱしん。客の前に立っていたスーツの男がそれをキャッチし、何事も無かったかの様に直立不動。
『要人警護も承ります』
最後にナレーションと共に文字が浮かび、CMは終了した。
………………
…………
……
「おー、あけびちゃん随分カッコよく映ってたじゃん」
「改めて観るとちょっと、照れますね……!」
不知火をからかうラファル。
彼女は少し恥ずかしそうに答えつつ、「忍さんも、本物のバンドマンみたいでしたよ」と感想を述べる。
「Sanks! NINJA BAND、やってみてもいいかもしれないな!」
「またそんなことを……まさか、それで依頼出したりしませんよね?」
無い、と言い切れない彼の性格に、雫は内心呆れつつツッコむ。
どうかな、と元気よく答える炎條には、溜め息交じりに笑うしかない。
「ホントはもっとしっかり見せたかったんだけどな。こっちも時間ギリギリで」
「でもその分テンポは良いし、別にいいんじゃない?」
素早く細かい動きではあったが、動き出しや間は出来るだけカットし、印象的なシーンのみをつなげて構成されている。
「でも、こうして観るとあっという間だな」
「俺の出番もラストだけだしなー」
「ペットボトルの投げ方はGoodだったぜ!」
急遽後ろに投げることになったものだが、ラファルのスローイングは完璧であった。
「……おっと。そういえば金城からMessageも預かっていたぜ」
各々が感想を言い合う中、忘れる所だった、と炎條は告げる。
『今回のCM、なかなか良い出来で気に入ったぜ!
テレビでもある程度流すつもりだが、まずは会社のHPに掲載させてもらう!!』
このCMの評判や会社への影響は……まだ、これからの話だが。
ひとまず、今回のCM制作は成功を収めたのだった。