.


マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/13


みんなの思い出



オープニング

 昼間。晴天。人通りの多い街の中を、撃退士達は歩いていた。
 その中でも、すれ違う人々から注目を浴びる男が一人。
 黒き忍者装束に身を包んだ忍ばざる者、炎條忍(jz0008)だ。

「分かってるだろうが改めて説明しておくぜ! 今回のMissionはディアボロの捜索だ!」

 炎條は周りの視線を介さず、共に行く撃退士達に説明する。

 つい先日の事である。
 この一見平和そうな町で、『不審な人影を見た』という通報が立て続けに寄せられたのだ。
 それだけなら警察の領分だが、中にはそれが奇怪な化け物であったという証言もあり、万全を期して彼らが呼ばれる事となった。

 問題は、化け物の見た目である。
 偶然にもそれを見かけた住民による撮影映像が、撃退士達の元には届いていた。

「Spider、Bat、Rhinoceros。映像にあるディアボロは、その要素を持つ三体の獣人型」

 スマートフォンを手に、炎條は改めてその姿を確認する。
 一体には蜘蛛の手足。一体には蝙蝠の翼。もう一体は巨大な体と鋭い角。
 遠距離からの撮影の為はっきりとは分からないが、作り物にしては精巧すぎる、と警察は判断したようだ。

「といっても、まだ確証はない。地道に探すぜ!」





『皆の明日を護るためッ! 超光纏・ブレイクラッシャーッ!』

 戦士が雄叫びと共にポーズを取ると、爆発じみたスモークが吹き上がる。
 きゃぁあ、と悲鳴にも似た歓声が客席の子ども達から響いた。

『さぁ行くぞ、天魔人共!』

 ブレイクラッシャーは剣を抜き、翼を持つ怪人へ立ち向かっていく。
 そう、この日このデパート屋上では、ヒーローショーが開催されていた。
 超光纏ブレイクラッシャー。撃退士と天魔の戦いを基に設定されたこの作品は、メジャーな作品ではないものの一定のファンを獲得していた。
「がんばってー!」
「ブレイクラッシャーまけるなー!」
 今日もまた、子ども達の声援がブレイクラッシャーに向けられる。

『喰らえ、Vソード・オーラスラッシュッ!』
『グアァァァアア!!』

 ブレイクラッシャーの必殺技が敵怪人に炸裂し、怪人はよろよろとステージ横のテントに捌けていった。
『みんなの御蔭で、勝利を掴むことが出来たぜ!』
 スピーカーから発せられる台詞と共に、ブレイクラッシャーは客席の皆にポーズを取る。
(よし、あとは司会のお姉さんが出てきて……)
 動きを合わせながら、アクターは再度段取りを確認する。
 子ども達の応援を力に見事敵を討ち破ったブレイクラッシャー。
 司会のお姉さんと少し教訓的会話をして、捌ける。その後握手会、だったか……

『――ドバッ! ドバドバッドォッ!』

 舞台上に響く奇妙な声を耳にして、ブレイクラッシャーは振り向いた。
 そこにいたのは、コウモリのような姿をした見慣れぬ怪人。

(何だこの怪人? 台本に無かったぞ……!?)

 狭い視界に映る彼を、アクターは困惑気味に見つめた。
 スピーカーから音声は流れてこない。アドリブ? いや、全ての流れが明確に決められたショーで、相談も無しにそんな事は有り得ない。

 ならこれは……? 立ち尽くしていると、コウモリ怪人がブレイクラッシャーへ近づき――

『……、ッッ!!?』

 ぐらり、と脳みそが揺れる感覚がして、

(なん、うるさ、身体が、しびれ……?)


 意識が剥がれ、
 ヒーローは、倒れる。



「……? なんだ、トラブルか……?」
 部隊の様子がおかしいと気付いた大人たちが、小さな声で話し始めた。
 子ども達は倒れたブレイクラッシャーと親の顔を交互に見比べ、今にも泣きそうな顔になっていく。
『……ドバッドゥ』
 コウモリの怪人はブレイクラッシャーから興味を失ったように観客へと視線を向けた。
 その瞳を見つめたもの達は、ふっと気付く。いや、そんな筈はない。こんなところに、自分の元に、現れるはずがない。


『――緊急事態です! これはショーじゃありませんッ! 逃げてくださいッッ!!」

 あれは本物の天魔です!
 鬼気迫るアナウンスに、観客はようやく事態を呑み込む。
 けれど観客たちが逃げ出そうとしたその先には、既に別の天魔が立っていた。
『イィィサァァ……』
 息を吐きながら、足で地面を蹴る天魔。観客たちはその姿にたじろぎ、殆どが足を止めてしまう。
「っ……!? なんだこの糸!?」
『グモッグモッグモッ!』
 動きを止めた観客たちの身に、粘着質な糸が吹きかけられる。


 これはショーではない。


 子どもの泣く声が響いた。
 それは連鎖的に周囲の子ども達へと伝染していき、恐怖の叫びは爆発するように屋上を覆い尽くす……




「……Why?」

 ディアボロの捜索を続けていた炎條達は、その光景を見て異変を感じた。

 一軒のデパート周辺に大勢の人が集まり、またデパート内部からは何人もの人間が逃げていく。
 火事、ではないだろう。火も煙も出ていないからだ。
 パトカーなどは到着していないようで、周囲の人間は微かに叫び声の聞こえる屋上を見上げながら、ぶつぶつと不安げに話し合っている。
「どうした、何があった!?」
 デパートから逃げていく客の肩を掴み、炎條は尋ねる。
 客は炎條の格好に不審げな顔をしたが、久遠ヶ原の撃退士だと名乗ると少し納得したように喋り始める。
「天魔が屋上に出たらしくて……」
「化け物っ!?」
「ヒーローショーをやっていたはずですけど……店内放送が入って……」
 それじゃあ、と彼は足早に逃げていく。ちらちらと、屋上の様子を気にかけながら。

「……あのディアボロに間違いないぜ」

 遅かったか、と口惜しさを露わにしながら、炎條は屋上を仰ぐ。
 そして、分かってるよなと言わんばかりの眼で撃退士達を見つめた。

「敵はRoofだ。さぁ、『どう行く』ッ?」

 


リプレイ本文


「屋上か……」
 ビルを見上げ、炎條の問いにチョコーレ・イトゥ(jb2736)は少し考える。
「事態は急を要する。屋上までショートカット出来る術を持つ者が急行し、合流までの時間を稼ぐというのはどうだ?」
「俺もそうしたいと思います」
 チョコーレの提案に、雪ノ下・正太郎(ja0343)も頷いた。
「それじゃあ僕たちは先に壁を登って行くね。マジカル・みゃーこ、出陣にゃー♪」
 早速、猫野・宮子(ja0024)達は壁面を駆けあがっていく。
「俺は翼で飛んでいきます」
「俺達は階段で行く。少し遅れるが――」
 空を見上げポーズを取る雪ノ下に声を掛けながら、千葉 真一(ja0070)は真正面を見る。
「――到着までの時間、任せる。頼むぜ!」

「龍転っ!!」
「変身っ!!」

 二重の叫びと共に、戦士達はスーツを身に纏う。
 それからすぐに彼らは地面を蹴った。ただ一瞬でも早く、皆の元へ駆けつける為に。



『グモッグモッグモッ!』

 屋上では、尚もスパイダー獣人が観客を縛り続けていた。
 最早まともに動けるものの方が少ない。迫りくる死から逃れる事は出来ないのだと、絶望が胸を覆いかけた頃。

「そこまでだ、平和なショーを恐怖に落とす天魔怪人達!」

 何処からともなく響く、快活な叫び声。

「魔法少女マジカル・みゃーこ♪参上にゃ! それ以上の悪さはこの僕が許さないにゃ!」
 猫野……みゃーこは宣言すると、ライノセラス獣人へと飛び掛かっていく。
「正義のニンジャ、犬乃さんぽが相手だっ」
 逆光の中、獣人を指さす犬乃 さんぽ(ja1272)。その背後からは、青き戦士が飛び出す。

「我龍転成、リュウセイガー! それ以上皆を傷つけるのは止めろ!」

 外壁の柵を蹴り更に上昇したリュウセイガーは、真っ直ぐにバッド獣人の元へと飛んでゆく。
「バット獣人、俺が相手だ!」
『バッドゥ……』
 闘争心を深く奮い立たせるリュウセイガー。獣人は深く唸り、ばさりと翼を広げた。
 迎え撃つつもり、だろう。じっと屋上全体を俯瞰したバット獣人は、他の乱入者を気にしつつもリュウセイガーへ視線を向ける。

「鬼さんこちら、手のなるほうに来るにゃー♪」

 一方で、出入口を抑えていたライノセラス獣人の眼は一人の少女に釘付けにされていた。
『サイッ……』
「にゃっ、喰らい付いてきたにゃ!」
 がん、と床が割れんばかりの足音を響かせ、サイはみゃーこへと突撃する。
 だが彼女はそれを苦も無く回避すると、両手の肉球を構える。
 ぶわり。直後、ライノセラスは感じた事だろう。彼女の体毛が怒れる猫の如く膨れ上がった様を。
『……ィィィ……!』
 獣人は僅かに怯むが、しかし両拳をがんがんと撃ち合わせ自らを鼓舞する。
「草食の割に意志が強いにゃね!」
 忍法の不発を感じつつ、みゃーこはちらと屋上中央を見遣る。

「炎條、まずはこちらのサポートを頼む」
「OK!」

 炎條が刀を構えると、チョコーレは客とスパイダー獣人の間に割って入る。
「他は任せるとして……お前がいると厄介だ」
『グモっ!?』
 きらり、太陽に照らされて僅かに輝いたのは、極々細い鉄の糸。
糸は獣人の影からするりとその身を取り囲み、チョコーレが引くとぐぅと締まる。
「決まったな、チョコーレ!」
 回り込んだ炎條が、すかさず斬撃を加えた。
『グ、グ……』
 獣人は僅かにもがく。糸の力ではない。縫いとめられた様にその場を動けないと悟った蜘蛛は、その場で大きく首を回す。
「っ……!」
 攻撃が来る。チョコーレは咄嗟に理解したが、しかし、この立ち位置。
「チィッ!」
 咄嗟に腕で身を庇おうとしたが、次の瞬間獣人の口から発せられた何かは、彼の身に激突すると同時に弾け、拡散する。
「糸か……!」
 身体を縛られた。相手の動きを封じたは良いが、こちらも暫く動けない。
「タフな方じゃないからな。ガードしたとはいえ、厳しいぜ……」
 その上、糸による攻撃はそこそこのダメージを彼に与えている。このまま見合って戦うのは、少し厳しい。
「動ける者は、早くここから離れろ」
 獣人を睨み付けながら、彼は背後の観客達に告げた。
 邪魔をしていたライノセラスは、今は猫野の相手に夢中だ。何人かなら抜け出せるかもしれない。
 だが狭い所に追い立てられた所為だろう。観客を縛る糸は、縛られてない者の移動をも困難にしていた。

「鋼鉄流星ヨーヨー★シャワー!」

 そんな中、犬乃は快活な声と共に空へヨーヨーを投げ放った。
「いけっーボクのヨーヨー達……! ただ悪のみを撃て!」
 ヨーヨーは中空で分裂すると、バット獣人のみに降り注ぐ。
『バッ……!?』
 ぐらり、飛翔していたバット獣人は翼に受けたダメージで僅かによろける。
「リュウセイガァァ、キャノンッ!」
 その目前には既に観客たちを飛び越したリュウセイガー。
 拳に練り固めた蒼いアウルを、掌から獣人の顔面へ向け撃ち放つ。
『ッバ……!!』
 体勢を崩しつつも、獣人は翼を奮い身を翻す。だが避けきれず、砲弾は敵の肩を直撃した。
『――ッッッ――!』
「何っ……!?」
 ぐわっ。大きく口を開いた獣人は、喉の奥から衝撃波を思わせる高音域の叫びを発する。
 叫びはリュウセイガーの耳の中で反響し、感覚を狂わせる。軽快はしていた、敵の攻撃。
「だが、まだッ……!」
 こんな程度の障害で、倒れるわけにはいかない! 持続しきれなくなった翼をもう一度強く広げて、リュウセイガーは背後の仲間を、助けるべき人々を胸に思い浮かべる。
『……』
 ぎらり、と。
 バット獣人の眼が、妖しく光った。



『BOOST!』

 一方、短縮手段を持たない三人はデパートの内部へ入り、エスカレーターを駆けあがっていた。
 ショートカットは出来ないとはいえ、縮地を用いた阿修羅の足は機敏だ。
「ったく、子供達のヒーローショーを邪魔するなんて、どー言う神経してんのかしらっ!」
 馬鹿じゃないの、と憤るのは松永 聖(ja4988)。
 デパート内にはまだ人が残っていたが、階を上がるごとに人気は無くなっていく。これならスムーズに上階まで登れそうだ。
「ああ、全くだぜ」
 赤の衣装を身に纏った千葉は、先頭を走りながらこくりと頷く。
「……って、別に子供達の夢と希望を護りたいとかじゃ無いんだからね!?」
 慌てて松永は否定にかかるが、その声は「お客様!?」と叫ぶ店員の声にかき消された。
「危険です、避難してください!」
「大丈夫であります! 自分達は撃退士でありますから!」
 足を止めず、天水沙弥(jb9449)が撃退士である事を伝えそのまま走る。大丈夫、という言葉には、二つの意味が込められていた。
 そして自分の前を行く松永に、「自分も聖殿と同じ気持ちであります!」と声を掛ける。
「ヒーローに憧れる子供達の夢、絶対に護り抜くであります!」
「だから違うって――あぁもう兎に角急ぐわよっ!」



「こい、忍鳥・蓬莱凰!」

 バット獣人へ一撃を加えた犬乃は、印を結びながら鳳凰を召喚する。
 現れた鳳凰は甲高い声で一鳴きすると、ばさりと翼を奮い低空で飛んだ。きらりと舞う火の粉は、犬乃を護るように降り注ぐ。
「さんぽ! 観客を!」
 チョコーレが蜘蛛を抑え、猫野がサイを引き寄せているとはいえ、糸が絡んだままでは脱出もままならない。
「うん! ちょっとびっくりするかもしれないけど……!」
 犬乃は頷くと、再度ヨーヨーを天高く振り上げる。
 降り注ぐ攻撃に堪らず悲鳴が上がるが、それらは観客を傷つけず、ただその狭間の糸だけを断ち切る。
「もう大丈夫だよ」
 ただいかに敵のみを撃ち抜く攻撃と言っても、糸を全て裂く事は出来なかった。手足に巻き付いたままのそれらを刀で斬りながら、彼は優しく呼び掛けた。
「入口の方は……?」
「にゃにゃ!」
 ライノセラス獣人は、素早く動き回るみゃーこに翻弄されていた。
 時折は思い出したように入口へ戻ろうとするが、どうしても彼女から目を逸らす事が出来ない。精神的に単純なのだ。
「今のうちだ。行け!」
 チョコーレが再び影縛りで蜘蛛の糸を抑えながら、背後の観客たちへ叫ぶ。
 数人の大人が、撃退士と獣人、それから子供達を見比べ、意を決したように走る。

 どさり。
 何かが落ちる、音がした。

「ぐぁッ……!!」
 音がしたのは、ステージ上。
 倒れたのは、バッド獣人と戦っていたリュウセイガーだった。身体が、どうしても動かない。
『バドバッドォ!』
(痛みは無かった。今のは……?)
 ぐらぐら揺れる視界の中で、雪ノ下は考える。最初の一撃とは何かが違う。落ちた衝撃以外痛みは感じていないのに、頭が、脳が、揺れた。
 恐らくこれが……敵のスキルなのだろう。警戒はしていたが、喰らってしまった。

『サイィ!』
「……! 止まって!」

「気付かれたにゃ!」
 ライノセラス獣人が、人間達に逃げられたことに気付いたのだ。
『グモグググ……!』
 スパイダー獣人もまた、再びチョコーレの束縛から解放されようとしている。
「チィ……これ以上持ち堪えるのは……!」

 その時だ。

 ガギン! 何かが破壊される音がして、ギィ、と小さく、金属が軋む。
「あれは……!」

「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!」

 三人が、屋上へと到達したのだ。
「鍵壊しちゃったけど、それくらい良いわよね?」
 松永はそう言いつつ、武器を握る手に力を込める。
 子供達の涙が見えたのだ。許せない、という気持ちと共に、彼女のアウルが強く練り上げられてゆく。
『イサィ……』
「うに、ここからが本番にゃね。全力でいくにゃよー!」
 増援の到着を確認したみゃーこは、一転その肉球でライノセラスを倒しにかかる。
 ぱすん! 発射された肉球型アウルは、ライノセラスの表皮を殴り不思議な音を立てる。
『……っ!』
 ずざ、と足に力を込め受ける獣人だが、痛みに小さく息が漏れる。
「今であります!」
 盾を構え前進していた天水が叫ぶと、松永とゴウライガが一気に飛び出す。
「これ以上の狼藉は俺たちが許さん!」
 CHARGE UP! 音声と共に、ゴウライガは金色のアーマーを装着し拳を握る。
「まずは吹っ飛べぇっ!」
 松永の掌底が、獣人の腹部を直撃した。
 獣人はその場に留まれず、ぼぅんと音を立てて吹き飛ばされる。
「にゃあっ! もう容赦しないにゃ!」
「ゴウライ、パァンチッッ!」
 みゃーこが獣人へと追撃する。同時にゴウライガも敵の懐へ潜り込み、二人の拳が獣人の硬い皮膚を撃った。
『サイィ……』
「まだまだ! 動脈ぶった斬ってやるんだからっ!」
 双剣を両の手に握った松永は、獣人の首元にそれを当て、押し切る。
「とどめにゃっ!」
 みゃーこの肉球が、虹を描きながら飛ぶ。
『サイッ……!?』
 獣人は避けきれず、肉球が、彼の傷跡を抉りぬいた。

『サァァイィィィッッ!!』

 ライノセラス獣人は絶叫し、爆発した。
 焼けた何かの匂いを鼻に感じながらも、天水は観客へと振り返る。

「撃退士、天水沙弥! 此処に見参であります!!」

 おぉ、と人々から声が上がる。増援が来た。これなら大丈夫かもしれないと、不安に焦る気持ちが僅かに和らいだのだ。 
「自分達が来たからには、もう大丈夫なのであります!」
 彼は尚も安心させるよう続けると、一般人の傍へ駆け寄る。
「これから自分が皆様を護衛するであります」
 だから行きましょうと、足の竦む彼らに呼び掛ける。
「こいつらは私達が叩き潰すから!」
 スパイダー獣人に剣を浴びせながら、松永は言う。
「こいつ糸はどっから出すの!?」
「口だ」
 お尻からならバット突っ込んでやったのに、と内心思いながら、松永はその動きを見極める。
「さぁ、今のうちに行くんだ!」
「誰一人とて、傷つけさせないのであります!!」
 天水の護衛の下、ようやく観客たちは避難を始める。
 それをちらと見て、チョコーレはふぅと息を吐いた。
「蜘蛛人形が。これ以上好きにはさせん」
 また縛りか、と警戒する蜘蛛だが、チョコーレは一瞬で蜘蛛の懐に潜り込むと、糸を纏わせた拳で殴りつける。
『グモッ……』
 じわり、その拳から滲み出た毒が、獣人の身に染み込んだ。
「このまま一気に、潰す!」
 松永は、剣を握る拳で蜘蛛を下から殴りつける。グモ、と蜘蛛が悲鳴を上げると共に跳ね、ぼすんと音を立て床に転がる。

「火の鳥の加護を受け、鏡の向こうからおいでもう一人のボク……!」
 瞬間、鳳凰が甲高い鳴き声を発すると、犬乃の隣にもう一人の『彼女』が現れた。
「♂双忍♀ダブル☆ステルス!3身一体疾風鳳凰剣!」

 瞬足の剣が、蜘蛛の胴を斬り裂く。……刹那の後、疾風が蜘蛛の身へ無数の傷を生み出して。

『グ、グモ……グモォォォッッ!!』
 スパイダー獣人もまた、爆発した。

「ほらガキ。男なら泣いていないで、母親を連れて早く逃げろ」
「あとは真一と正太郎の方ね……!」

「OK! じゃあこっちもトドメと行こうぜ!?」
 蜘蛛の爆発を察知した炎條は、ステージ上に並び立つ2人に叫んだ。
「ゴウライガ! 最後の一体は協力して倒しましょう!」
「……! ああ!」
 敵のスキルから回復したリュウセイガー。彼の言わんとしてることを察知し、ゴウライガは頷く。

 IGNITION!

 黄金のアウルがゴウライガの身体を包み込む。
 同時に、リュウセイガーは再び翼を現出させ、バット獣人より高く飛び上がる。

 BLAZING!

 太陽を背にしたリュウセイガー。その拳には、蒼き炎のアウル。
 地上から敵を見据えるゴウライガ。その背には、紅き炎のアウル。

「リュウセイガー、パァァァアンチッ!!」
「ゴウライ、流星閃光キィィィィック!!」

 空と地。蒼と紅。2つの攻撃が連続してバット獣人に直撃し、輝く。
『バッ……バド……バッドォォォォッ!!』
「すごい……」
 天水の背に負われた子供が、その光を見てぽつりと漏らした。

「勝利にゃ♪正義は絶対負けないのにゃ♪」

 みゃーこの勝利宣言に、残っていた人々は沸き立った。
 安心。喜び。……命を護れた事を確認し、猫野は満足げに微笑む。

「そしてヒーローは颯爽と去るにゃ♪」



「良く頑張ったな。怪我はないか?」
「大丈夫! ありがとう、ごうらいがのお兄ちゃん!」

 戦いから少し経った後。
 重傷を負った者がいなかった事から、多くの人は軽く手当てを受けたら帰れる事になった。
 だが子ども達の多くは、未だ帰らずに屋上に留まっている。というのも……
「リュウセイガー! サインして!」
「あくしゅー」
「サインか、と、握手だな。ちょっと待っててくれ。順番だぞー」
 子供のメンタルを気遣い、雪ノ下がリュウセイガーとして皆と触れ合っていたからだ。
 その姿を見て、意識を取り戻したブレイクラッシャーも急遽握手会を開く事に決めた。
 起き上がって最初に、事態を知った彼は撃退士に言った。子供達を護ってくれてありがとう、と。
 そして……

「よかったじゃないかガキども。本物のヒーローに会えたんだからな」

 子供達に大人気な仲間を見て、チョコーレはそう、呟いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
chevalier de chocolat・
チョコーレ・イトゥ(jb2736)

卒業 男 鬼道忍軍
輝光戦隊ゲキタイジャー・
天水沙弥(jb9449)

大学部2年245組 男 阿修羅