●アバン
採石場に蠢く、蟻のような姿をした有象無象の怪人達。
『ディアボロ』。彼らは悪魔によって生み出された、人類の敵だ。
今はこの場から動く気配の無い彼らだが、一度街に出れば、多くの人々にとって脅威となるだろう。
だが、しかし。
「出たな悪の手先!このあたい達がお前の野望を打ち砕いてやる!」
そんな脅威に、立ち向かう者達がいた。
「ヒーロー参上、数が沢山いたって、ボク達の絆の力には勝てないもん!」
採石場の崖の上、高らかに叫ぶ声を聞き、ディアボロ達は顔をあげた。
そこには、八人の若者達。
そう、彼らこそ、天魔の脅威から人類を守る戦士達。
撃退士――ブレイカーである!
●陣徳博士の研究所にて。
「こ、これが超絶必殺最強破壊協力兵器・Vアウルバズーカ(大)なんだねっ……!」
目の前に置かれたVアウルバズーカ(大)を眺め、蒼井 御子(
jb0655)は目を輝かせていた。
(めちゃくちゃに面白そうな武器っ!)
そう思っていることが誰の目にも明らかな程、蒼井の様子ははしゃいでいる。
その様子は、背格好も相まって10歳にしか見えない。女子というか女児である。が、彼女はこれでも18歳。結婚出来る年齢だ。
「超絶必殺……って、一つ増えているぞ……」
と、彼女の発言に戸蔵 悠市(
jb5251)がツッコむ。協力とか無かった。
「私は、個人の技量に依らないか、若しくはそれを上乗せして使用できる大砲のようなV兵器があればさぞかし戦略的に使えるだろう、と思って来てみたのだが……」
彼は、蒼井と対照的に頭を抱えている。
「心を一つにして発射するのか…きっと、脳波をあわせなくちゃいけないんだね、レーッツ、アウルイン!とか」
そう、犬乃 さんぽ(
ja1272)が言う通り、このバズーカは心を一つにしなければ発射出来ない。もしそれが出来なければ、即大爆発! ……の、危険性がある。
とんでもない実験に付き合わされたものだ、と、戸蔵は悩ましげに息を吐いた。
「バズーカっていいよね☆ ロマンだよね! あたしワクワクしちゃう☆」
柚葉(
jb5886)のように、気にしてない者も多数。
「……どうでも良いのですが、女性陣の方がノリが良い気が……」
日下部 千夜(
ja7997)の呟きは、意外な真実であった。
「……と、まぁそんなところだ。後は君達が私の発明の威力を実証してくれ」
サツキの説明を受けた一同は、一通りの打ち合わせを行う。
「あたいは三人用を希望ね!」
「それじゃあ、僕も三人用でお願いします」
「えっと、赤い髪と、青い髪と……」
雪室 チルル(
ja0220)と雪室 チルル(
ja0220)がバズーカ(小)を希望したのを見て、犬乃は小さく呟き、僅かに考える。
「じゃあ、ボクも三人用で。日本だと、イーグル、シャーク、パンサーって言うんだよね!」
どうやら考えていたのはそう言う事らしく、犬乃はにこっと笑って一足す二足す立候補。レッドにブルーにイエロー。実に太陽の似合いそうなメンバーであった。日本の知識としては偏ってるけどね!
「ええい!」
と、戸蔵が声を上げた。「実験が必要だというなら俺がいくらでも付き合ってやる! これで、もし実験が上手く行っても兵器が完成しなかったとか言ってみろ……参考資料責めにしてやるからな、覚悟しろ!」
どうやら彼も彼で、吹っ切れたらしい。
アウルバズーカ(大)は、日下部、蒼井、戸蔵、柚葉、南の五人が担当。
これで足並みは揃った。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、悪を倒せと私たちをよぶ!今必殺の!!!」
「違う違う、そうじゃなくてー」
「あれ違いましたっけ・・? ああ、わかりました、直します」
片隅では、南が掛け声の練習をし、柚葉に修正されている。
……足並みは揃った……筈だ。きっと。
「……ホント、気をつけて下さいね……」
助手のヒイロは、心配そうにアウルバズーカを手渡した。
●Vアウルバズーカ!
そこから、話は冒頭へ戻って来る。
「出たな悪の手先!このあたい達がお前の野望を打ち砕いてやる!」
「ヒーロー参上、数が沢山いたって、ボク達の絆の力には勝てないもん!」
雪室と犬乃が崖上で叫び、 敵の中へ飛び込んで行く。他の撃退士達も同様だ。
「さぁて、行こうか! ティアマット君!」
蒼井はティアマットを召喚、そのまま前線へ飛び出し、ティアマットの激しい体当たりで蟻型の戦闘員……もとい、ディアボロを蹴散らして行く。
『アリィッ!』
ちなみのこの奇怪な鳴き声は、敵の蟻型ディアボロのものである。
(決めポーズの練習はした、きっと大丈夫だろう……)
内心溜め息を吐きながらも、戸蔵もストレイシオンを召喚。ハイブラストの雷で敵を減らそうと試みる。
『アリリィッ!』
(倒しすぎちゃ駄目なんよなぁ……)
日下部は蟻兵を倒したい気持ちを抑えながら、敵が広がらないよう、挑発射撃を行った。数が多い分、細かな注意を払う必要があるのだ。
「倒しすぎるとつまらないから、程々にしないとね☆」
柚葉は、深い闇を身に纏い、敵の攻撃を避けつつ双剣を振るう。
森田はその瞳に緑の炎を灯しながら鎖を振り回し、着実に敵を減らしつつ、雪室と犬乃に声をかける。
「はい、ご一緒に! 『必殺!Vアウルバズーカ!』」
叫びながら、攻撃。「Vアウルバズーカ!」とはいえ、簡単には成功しない。
『アリィィィィッッ!』
とはいえ、そんなことをしている間に、蟻兵の数は随分減っていた。
『アリィ……』
敵のボス格と見られる棘有り蟻兵が、狼狽えたように後ずさる。
と、そこへ南が雷の剣で一閃!
『ア……リッ……』
攻撃は命中、棘有り蟻が動きを止める。
「そろそろだな、敵の足を止めるので準備を頼む」
戸蔵もそれに合わせ、サンダーボルトで雑魚を数体麻痺させる。
「あお!」
犬乃はアウルバズーカを地面に設置、ざっと片足を下げる。
完全に蹴る体勢。犬乃は
「いや蹴ったら駄目だろ! ……ぐぁっ!!」
戸蔵が激しくツッコんだ……瞬間、気を逸らした所為で蟻兵に殴られる。
「あ……駄目か……大丈夫?」
犬乃はハッとしてバズーカを拾う。戸蔵は大してダメージを受けた様子は無かったが、眼鏡にひびが入ってしまっている。魔装じゃないから!
「ともあれ、今よ! 必殺技を使うとき! 目標は目の前の蟻の群れ!」
雪室はそんな出来事を軽く流して宣言。麻痺が切れちゃうと困るのだ。
森田、犬乃の両名も、それに呼応して力強く頷いた。
途端、採石場が暗転。そして、Vアウルバズーカを構えた三人の姿が照らし出される。
耳を済ませば、何か音楽が聞こえて来る。挿入歌? 情熱○ナジー?
いいや、全ては犬乃のスキル、『英雄燦然ニンジャ☆アイドル!』の力であった!
謎空間と挿入歌演出を生み出す、恐るべきニンジャ!
「僕のこの目が妖しく光る!」
「アウルの光纏は人々の希望の証!」
「内なる輝きを今、溢れる力に変えて!」
「みんな行くよ!」
「「「必殺! Vアウルバズーカ!」」」
ギュゥゥゥゥゥンッッ!
激しい衝撃音を響かせながら、アウルバズーカから赤、青、黄の三色の光が飛び出す。
光は回転し、混じり合い、集まった蟻兵の群れへと突っ込んで行く。
『アッ……リィィィィィィィィィィィァッッ!!』
ぼぅぅぅんっ!
アウルバズーカを受けた蟻兵達が、断末魔の悲鳴を上げて爆裂四散! その数を一気に減らす!
「これがVアウルバズーカの威力……!」
その有様を見て、雪室は感じ入ったように呟いた。
「試験は成功ね! ……あれ、なんか熱い?」
バズーカをしまおうとして、ふっと気付く。
砲身が熱い。やけに。……というか、『ヴヴヴヴ』って怪しい音がし始めた。
「ん、どれどれ?」
と、森田がVアウルバズーカの中を覗き込んだ瞬間、
ボンっ!
Vアウルバズーカ(小)は、爆発した。
「な、なんでやねん……」
爆発に巻き込まれた森田。
がっくりと項垂れるその頭部は、見事な真紅のアフロヘヤーとなっていた。
恐るべし、Vアウルバズーカ。ちなみに本体は粉々である。……粉々である……
「……アレを撃つ、のか、私達も……」
森田のアフロヘヤーを見て、戸蔵は愕然と呟いた。
助手の言っていた通り、危険だった。碌に扱える武器じゃなかった。
というか、あそこまでやらなきゃいけないのか? 挿入歌とか流れてたぞ?
とかなんとか思えど、今更引けない。戸蔵は深く溜め息を吐いて、覚悟を決めた。眼鏡のひびが哀愁を誘う。
『アリィァァッ!』
残っていたのは、群れの後方に陣取っていた棘付きボス蟻と、蟻兵が二体程のみ。
「次はボク達の番だねっ!」
蒼井が心底楽しそうにはしゃぐ。(小)の発射でテンションがかなり上がったらしい。
「かっこよかったね!」
柚葉も同様らしく、蒼井と同調してはしゃいでいる。
「……暴発が少ない事を願います」
願いは既に叶わなかったが、せめて自分達の時は爆発しないで欲しい。
(……ディアボロは倒したいし)
日下部の想いは切実だ。
「さぁ、それではドーン! といっちゃいましょう! ドーン!」
南が音頭を取り、Vアウルバズーカ(大)の準備を始める。
その体の周りには、さっきから薄ぼんやりと鎧の幻影が浮かんでいた。なんというか30分後な感じの。
(小)を撃ち終わった犬乃は、まだ残っている注目効果で残った敵を引きつけ、アフロ……もとい森田が、その隙を突いて鎖を棘有り蟻に巻き付け、拘束。
「今のうちに!」
「今だよ、棘の描く渦の目の中心角を撃て!」
犬乃が叫ぶ。どこだそれ。ではなく、そういう弱点があったのだ、きっと。
「天が呼ぶ!」
戸蔵は土台となり、片膝をついて肩でバズーカを支えながら、片腕を上げて叫ぶ。
「地が呼ぶ!」
関西訛りの日下部は、反対側で戸倉と同じポーズ。正面から見れば、二人の腕は丁度Vの形を描いている。
「人が呼ぶ!」
柚葉はバズーカの中央で、これまたVのポーズ。
「天魔を倒せと!」
蒼井は前の男子二人の後ろ、立って同じように腕を上げ、
「私達を呼ぶ!」
対称の南も腕を上げ、ここに三つのVサインが完成したっ!
「Vアウルバズーカ」
「「「「「発射ァッッ!!」」」」」
ギュゥゥゥゥゥンッッ!!
唸りを上げて、Vアウルバズーカから、ぶっといエネルギーが発射される。され続ける。
「ぐあぁぁぁっ!」
その反動に、戸蔵達は苦しむ。戸蔵の眼鏡のひびが広がる。遂にはパリンっと音を立てて割れる! 魔装じゃないからっ!
だが放たれたエネルギーは、真っ直ぐに蟻達へと飛んで行く。それに触れた二体の蟻兵は、塵と消える!
森田は巻き込まれないように全力移動! でも早い! アウルバズーカ早い! 森田の体にちらっと擦る!
『アリっ…………――――――』
そして、そのビームの直撃を受けた棘有り蟻もまた、跡形も無く消え去った。
「ふっふーん!VアウルのVはVictoryのVなんだっ! なーんて、ねっ」
蒼井が誇らしげに胸を張る。
しかし。
「……止まらないっ……」
「なんっでだぁっ!」
日下部、戸蔵が、狼狽えて声を上げる。戸蔵の眼鏡はフレームが歪んで来た。土台として前に出ている二人は、その勢いに負けそうになる。
「暴走しているのです!」
「止め方が分からないねー☆」
南と柚葉も、明るさの中、どことなく苦笑気味に言う。
「つまり、俺達は、どうなるっ!?」
戸蔵は動揺しきり、一人称すら変わっている。
僅かな間を持って、蒼井が答えた。
「爆発するんじゃないかなっ?」
ボッギャァァァァァンッッ!!
爆風が、採石場を包んだ。
●エピローグ
「面白かったー!」
満足そうに笑う柚葉。全身ボロボロだが、実に楽しそうな笑顔だった。
「もっとデザインに気を使うべきですね。力強さを表現するのです!」
南は、機能よりもデザインを気にしているらしい。「科学者にそれは辛い」とサツキが答えても、南はいくつかのヒーローものを例に出して熱心に説いている。
「それ以前に、機能の改善をだな……。今のままでは安全性に欠ける上、反動も酷い。爆発するのは論外だ」
戸蔵は手帳に書き込んだ問題点を一つ一つ上げる。眼鏡は新しいものをかけているようだ。
「すみません……ほんと」
ヒイロが申し訳無さそうに謝る。
「タイミングの方は問題なかったんですが……砲身の方がちょっと……」
「強度とシステムの不具合だ!」
どん、とサツキが胸を張って答える。
「だからまぁ、実用化は遠いな。でもいいじゃないか、その程度で済んで」
Vアウルバズーカは、大きく爆発はしたものの、その被害は意外に小さかった。
というのも、全てアウルの不思議な影響だ……と、サツキは語る。
「……バズーカで駄目なら、他の方法を考えてみるか。ブレイカーボールとか」
「待て、あれだけのことをやらせておいて完成させない気かッ! それは許さんぞ!」
戸蔵の叫びがサツキに通じたかどうかは、知る由もなかった。