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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/12/03


みんなの思い出



オープニング

「ハントレイか。……久しぶりだな」

 人間界への出撃命令が下り数刻後。
 ハントレイは一人、アセナスの元を訪れていた。

「……そうだな」

 微笑むアセナスに、ハントレイは少し目を逸らしつつ答える。
 同じ騎士団に所属しながら、友でありながら、彼らはこの一年間まともに顔すら合せなかったのだ。

 理由は明白だった。
 去年の撃退士との戦い。それに敗北して以来アセナスは籠りがちになり、ハントレイも彼に掛ける言葉を見つけられず、ただ修行と戦いを重ねていた。

 ――自分が撃退士と戦えば……そして勝利を収めれば、アセナスの気持ちにもう一度火を付けられるかも知れない。

 勝利への渇望と共に、そんな想いも無いではなかった。
 実力不足の自分が言葉を掛けるより、確かな戦果をもぎ取って示す方が良いのではないか、と。
(……逃げていた、のかもしれないな)
 ハントレイは今になって、そう感じる。
 アセナスの抱いていたであろう焦燥は、自分の渇望と似たものだったから。あれこれ理由を付けて、結局は向き合うのを怖れていただけではないか。
 ……今となっては、どちらでもいいことなのだが。
「今回の作戦、お前も出るんだな」
 アセナスは再び剣を取ることを選んだ。
 きっとその決断に、自分の戦いは影響していないのだろう。それでもハントレイは、アセナスがもう一度戦う気になった事が喜ばしかった。
「あぁ。夏音と一緒に出撃するつもりだ。……ハントレイも、従士と出るのか?」
「そのつもりだ」
 問い返され、答える。
「クラン……って言ったっけ、あの子」
 アセナスは呟いてから、ふっと顔を上げ、真剣な表情で問い掛けてきた。

「お前、その子の事どう思ってる……?」

「どう……?」
 眉根を寄せる。どうも要領を得ない聞き方だ。……従士としての適性だろうか。
「実力は申し分無い。……まぁ、少し臆病過ぎる所もあるんだが……」
 そこをどうにかするのが主としての自分の役目なんだろう、とハントレイは思う。
 それにしたって、戦うこと以外で何かを伝える方法は思いつかないのだけど。
「自信さえ付けば騎士としてやっていける器だと、俺は見ている。……時折、自分が主でいいのか心配になるな」
 別の主の元にいたなら、もっと早く自信を付けてやれたかもしれない。
 そもそも、自分のような未熟者に従士を持つ資格があるのか。表には出さないが、そこから既に疑問であった。
「……あぁ、ええと……」
 返答を聞いたアセナスは、何処か困った顔で眼を泳がせる。
「何か間違った評価をしているか……?」
 やはり、部下というのは難しい。心配になって聞くと、アセナスは「そうじゃない!」とハントレイを手で制す。
「そうじゃないけど……!」
 少しの間、アセナスは俯いて顔を隠す。ハントレイは暫く考え込んでみるが、やはりよく分からない。

 やがて、アセナスが顔を上げる。何処となく、晴れやかな顔をしていた。
「なぁ、ハントレイ。俺はもう平気だ。……ごめんな」
「……何でお前が謝るんだ」
 それが心配をかけた事への謝罪だと分かりつつ、ハントレイは呟いた。
 俺は何もしていない。今も、どうしてお前が吹っ切れた顔をしているのか分からない。
 けれど。
「大丈夫なら、それでいい」
 また共に戦えるのなら。
 同じ騎士団の仲間として、競い合えるなら。
(……そうだ)
 思い立ち、ハントレイはアセナスに弓を突き付ける。
「久々に、手合せと行くか?」
 自然と、笑みが零れる。
 これまで何とも刃を交えてきた。時に勝ち、時に負け、互いの実力を確かめ合ってきた。
「望む所だ!」
 アセナスもまたロングソードを抜き払いつつ、にやりと口角を上げる。

 二人の騎士は、性格も考え方も戦い方も――多分生まれも、全く違う。
 けれどこの弓と剣を握る時、二人は並び立つ仲間であり、無二の親友であった。



 そこにはただ、段ボール箱があった。

「……」

 青森みかんと書かれたその箱を見下ろして、ハントレイは小さく溜め息を吐く。
 またか、この従士は。
「クラン。準備は終えたのか?」
「ぴぃっ!?」
 ガタン。叫び声と共に段ボール箱が震える。
「聞いただけだろう……」
 呆れつつも、ハントレイは段ボール箱を持ち上げた。
 箱の下にいたのは、縮こまる従士のクラン・ティーヴ。
「ハ、ハントレイ様……」
 クランは、その細い目で不安げにハントレイを見上げる。
「……私なんかで、だ、大丈夫なんでしょうか……」
「またそれか……」
 彼女は数日前からこの調子だ。
「わ、私なんかに……こんな大役が、務まるんでしょうか……」
 俯く。クランの視線が床の上を泳ぐ。
 ハントレイ達の作戦が定まってからというもの、彼女はハントレイのような男でも一目で分かる程度に不安がっていた。
(『務まるのか』……か)
 けれどハントレイは、彼女のその言葉を聞いて少し安心する。
 彼女が怯えているのは――戦いへの恐怖も勿論あるのだろうが――ただ臆病風に吹かれたからではないと分かったからだ。
「前だって、私……ヒヒイロカネを、奪えませんでした……。そんな私に、せ、戦場に出る資格が……あるんでしょうか……」
 彼女の脳裏に浮かぶのは、人間界で初めてのある戦闘。
 ハントレイと共に出撃し、人類の施設を襲った彼女だが……戦果はさほど芳しくなかった。
 また失敗するのでは。そんな考えが、ただでさえ後ろ向きなクランを更に追い詰めている。
 自分の行ったあの荒療治は、どうも逆効果となってしまったらしい。クランの言い訳めいた言葉を聞きながら、ハントレイは考える。
 巧い言葉は、相変わらず浮かばなかった。けれど、不安がる従士に何も言わず戦場に出すわけには……いかないのだろう。
「……失敗なら、俺とて何度も重ねてきた」
 観念し、ハントレイはぽつぽつと呟くように話す。
 雫を奪われた事。研究施設での大敗。仲間の援護すら十分には出来なかった。
 クランは自身の杖をギュッと握りしめ、黙ってそれを聞いていた。
「だから……」
 一頻りの失敗談を話し、言葉を繋げようとした所で、ハントレイは沈黙する。
「……?」
 不思議そうに、クランが小さく首を傾げた。
「……だから……いや。……こんな主だから、俺にはお前の助けが要る」
 何を言っているのだろう。ハントレイは喋りながら自分でそう思った。
 従士をどうにか元気づけようとしていたのでは、無かったか。
「……違うな……」
 苦笑し、小さく首を振る。
「ハントレイ様……?」
「俺にはお前は過ぎた従士だ。……今回もよろしく頼む」
 ハントレイはそう言うと、また稽古をしに外へ出て行ってしまった。

「……」

 残されたクランは一人、愛用の儀仗槍をグッと、握りしめる。



 人の姿の無い、町。

 ――『そうだ! あの山の辺りから、甲冑の化け物が』――

 撃退士達は市民の証言から、枝門ゲートの大まかな位置を予測していた。
 サーバントの出現が集中しているエリアがある。恐らく、そこに。

 だが探すのは、別の班だ。


 彼らの情報を待つ間、町を歩く彼らにはもう一つの役目がある。


 ――『それから、弓を持った天使が町に』――



「来たか、撃退士」


 立ち並ぶ配下の、奥。

 空色の髪の若き騎士は、彼らの到来を待っていた。


 撃退士達の役目は、そう。

 この騎士と、戦う事。


リプレイ本文



「ああもう、富士も胡散臭いっていうのに今度は四国かよぉ、めんどくさい」

 金色の髪をかき上げて、ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)は気だるげに言う。
 彼らはいつだって待ってはくれない。……敗北を憂う暇だって、与えてはくれないのだ。

「やってくれたものだ……こんな規模のゲートを展開されては我の目論見が危うくなるではないか」

 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は、人気の消えた薄暗い街を眺める。
 けれど彼女の口元は、言葉と反して笑みを浮かべる。そうだ、ここには奴らがいる。

「いやはや、困ったものだねーっと」

 蒼井 御子(jb0655)は何処かわざとらしい口調で零しつつ、小さく眉根を寄せた。
「枝門をゲート外に作るってのが気になるけど……」
 参戦はしていなかったものの、かつて京都で開かれたゲートも似た形だったと記憶している。
 枝門自体がそういうものかもしれない。……蒼井は考えるが、その思考は一時置いておく。

 ともあれ。

「先ずは。天使だね。足りないけれど、何とかしないと」

 目前に迫る天界の一軍。考えるより、まずは奴らだ。
「スレイプニル、来て」
 蒼井がそれを認識した瞬間、彼女の身を包む青色の光が門となり、中から黒い鎧の馬が姿を現した。

「ここで少しでも削っておかないと……皆の邪魔は、絶対させませんから!」

 ここでない別の場所でも、仲間が戦っている。
 彼らの戦いの邪魔はさせない。決意を胸に、竜見彩華(jb4626)もスレイプニルを呼び出した。

「我の気配を感じておるなら……我を……苦汁を舐めさせられた相手を狙わぬ道理はなかろう……なあ、ハントレイよ」

 並び立つ鎧のサーバント。彼らと距離を詰めながら、フィオナはその向こうの彼に呟くように呼び掛ける。
 まだその言葉の届く距離ではない。――だが。

 ひゅんっ!

 空を裂く音と共に、一筋の光がフィオナの眉間へ向けて放たれる。
「ッッ!!」
 咄嗟に剣を正面に構え、フィオナはその光を受ける。光は刃を中心に二つに裂け、彼女の両頬に一本ずつの血の線を描いた。
「相変わらずの射程だな。……それに」
 剣を握る手に眼を落とす。威力も、以前よりは増したか?

「さぁ、一気に行こうかっ『走るよ!』」

 スレイプニルに指示を飛ばし、蒼井が単身飛び出した。
 黒馬の駿足は地から空を駆け、前衛サーバント陣の上を取る。

「飛び道具は不得手だが、そうも言っておれんしな」
 獅童 絃也(ja0694)は普段使わない弓を握り、弦を引き絞る。
「さすがに強そうですね〜……でも負けないよ♪」
 鎧を着込んだ集団。こちらの数倍の兵が、陣形を組んで構えている。
 威圧感を感じるには十分だが、佐藤 としお(ja2489)は過剰に気負わない。

「まだだ、まだ……。……放てぇい!」

 号令と共に、無数の剣と、隕石と、手裏剣と、矢と、弾丸と、円盤と、疾風が、鎧のサーバント達を逃さず覆うよう降り注ぐ。

 爆音と破砕音、時折何かを弾く音と、金属の擦れる嫌な音。

 巻き起こった小さな煙が薄ら晴れる。その瞬間には、撃退士達は次の行動に移っていた。

「スレイプニル!『疾って』っ!」

 竜見が、攻撃を受けた直後のサーバント陣へスレイプニルを走らせ、
「僕らから見て11時の方向! 一番薄くなってるよ!」
 蒼井は地上へ降下しつつ、先程の攻撃で空いた小さな穴をフィオナへ知らせる。
「聞こえたな?」
「はいはい、それじゃあ広げますよっ!」
 ルドルフがその地点へ向け、再度の影手裏剣・烈。強引に抉じ開けられた前線に、人界の騎士が駆ける。
『――っ』
「貴方達にはここであたし達の相手をして貰うわ。騎士なら淑女のお願い、無碍にはしないわよね?」
 当然、それを阻止せんと一部のサーバントが動くが、今度は鏑木愛梨沙(jb3903)達が下級サーバントに付く。

「此処からは俺の領分だな、存分に行かせて貰う」

 黒布を両手首に巻きつけた獅童は、全身から闘気を漲らせ鋭い瞳でシルドナイトを睨みつけた。



「随分と耐久力を重視した構成ねぇ」
 生き残った鎧サーバントの数を見て、影野 明日香(jb3801)は思う。
 怒涛の連撃であったが、倒れた盾はまだ数体。シルドに守られてか、ランスナイトの方はかなり傷が浅く見える。

「市街地を制圧して一般人を捕らえたいならもっと違った構成になるでしょうし、まるで最初から私達と戦うことだけしか考えてないかのような……」

 がっしりと組まれた陣形。多めに配置された盾。移動には適しそうにないし、実際撃退士と比べて速い印象は無い。

「ま、いいわ。どっちみち無視は出来ないのだし全力で応じてあげる」

 盾兵の側面に回り込み、槍で腹部を突く。がぃんと金属同士が甲高い音を上げ、鎧に深い傷がつく。
(……やっぱり少し硬いわね)
 敵の挙動は遅く、隙を突くのは難しくない。ただ単純に、硬い。

 とはいえ、先の範囲攻撃で盾兵は既に満身創痍。

「側面はやっぱり弱いんですねっ」

 アシッドショットで盾兵の装備を腐敗させ、佐藤は敵前衛の右側へと走り込む。
 見た通り、やはりこの陣形はファランクス。違いがあるとすれば、盾兵と槍兵が別個に存在するくらいか。
(でも、やることは同じ!)
『ッ――!』
 ランスナイトが盾の背後からこれを狙おうとするが、穂先はそこまで届かない。

「さぁジャンジャンバリバリ削って行こうかっ!」

 佐藤のライフルから鋭い一撃が伸び、前衛を貫く。
『――!』
 フィオナ達が突っ込んだ周辺、一番色濃く攻撃を受けていた盾兵三体が、崩れる。

「こちら側は問題なさそうね」

 そうして弱っていく盾兵に、鏑木は刃のついた盾で攻撃する。下級排除は時間の問題だろう。
「ッ――!」
 と、彼女の少し後ろで竜見が苦痛に息を漏らす。
 見れば、左足からだらだらと血を流しているではないか。
「大丈夫っ!?」
「すみません……回復お願いします……!」
「勿論!」
 鏑木の手のひらから優しい光のアウルが流れ、竜見の傷を修復していく。
「んっ……ふぅ……」
 苦痛が和らぎ、竜見は息を吐く。
「ありがとう御座います……」
「どういたしましてっ」
 にこり、鏑木は微笑みつつ、体当たりを仕掛けるシルドナイトの盾に己の盾をぶつけ、防御。
 継いで飛んでくるハントレイの弓もブレスシールドで受けようとするが、矢は弧を描き彼女の方に突き刺さる。
「っ……!」
 痛みを堪え、再びシルドナイトを斬り裂く。

(大切な人たちを守れる力が欲しいの……!)

 だからこの程度の痛みに負けない。もっと強くなる、その為に。



「久しいな……ちと話に付き合え」
「ッッ!」
 空を切るだけのフィオナの一閃は、しかし空中で魔力を収束させ、黄金の光刃となって彼を襲った。
「ッ……話だと!?」
 斬撃を、ハントレイはその弓で受け、流す。
 宙に出現していた聖剣はそれと共に姿を消し、今度は彼から3発の矢が続け様に放たれた。
「騎士団はいつまでこのような無駄な戦を続ける気だ」
 一筋、矢を斬り払う事に成功したが、残りの2本が彼女の二の腕を裂く。
 けれど彼女は顔色一つ変えず、ハントレイの瞳を見定める。
「我等がこうしている事で、一番利を得るのは誰だ? それがわからぬ貴様等ではあるまい」
 ここに限った話ではないが……特にこの四国では、天界勢と冥魔勢、そして人間が微妙なバランスで睨み合っている。下手なタイミングで事を起こせばどうなるか。
「そこですっ!」
 竜見のスレイプニルが、弓を握るハントレイの腕を狙い蹴りを入れる。
 が、彼は翼で軽く後方に跳びながら、弓でどうにかそれをガードする。
「……っ!」
 と、ハントレイは更に背後からの気配を察知し、振り向く。
「見えてる、よね? 知ってるよ」
 もう一体のスレイプニルがその場で急停止し、後ろ脚で敵の腹部へ蹴り。天使は僅かに体勢を崩すが、しかしこれも弓で流される。
「……」
 ふぅと息を吐きつつ、ハントレイはじっとスレイプニルに騎乗する蒼井の顔を見る。
「……何か狙ったようだが……」
「何の事かな?」
 苦笑し、肩を竦める蒼井。追加効果は通らなかったようだが、それでも攻撃は当たる。

「……。俺達が争う事で、冥魔共が得をすると?」
 一呼吸して、彼はフィオナへと向き直る。
「その通りだ」
 頷き、彼女は再び聖剣を投影、ハントレイへ容赦なく斬撃を放つ。

「オグンに伝えよ。『話がしたい』とな」



(一矢確命ってどんな意味なんだろうねぇ、ハントレイ。……どうせなら、戦場以外で君と話してみたいところだ)

 影手裏剣を撃ち切ったルドルフは、上槍兵と戦いながらちらと弓の騎士に目を遣った。
 撃退士として、それは下らないお喋りでしかない。そう窘める自分もいれば、それがとても大事な事だという人間としての自分もいる。
(……どっちが正しいのかな?)
 考えても、正解になんて辿り付けやしない。眼前に迫る槍を避け、タンと軽く地面を蹴ると、彼はハイランスの頭部を思い切り殴打する。
 槍兵は軽く後ずさり、露骨に動きが無くなった。そのランスに、上盾兵が吹き飛ばされて圧し掛かる。

「……」

 獅童が深く息を吐く。彼が靠撃により鎧を弾いたのだ。
 そして獅童は右へを踏み込む。立ち上がろうともがく盾兵が、びくりと反応して盾を構えた。
「……甘い」
 が、獅童は咄嗟に体を左へ向け、そのまま盾と槍、二体のハイナイトへ素早く肘撃を加えた。
「っと……ごめん! 俺ちょっと行くね!」
 ルドルフはハントレイ班をちらと見て、素早くハイランスを斬り付けるとそちらへ加勢に向かう。
 獅童はそれを目で見送り、その槍兵が崩れるのを見届けると、残るハイランスへ顔を向けた。

「……後はお前だけだ。打ち倒させて貰う」



「団長と話がしたいだと……?」

 前衛では、フィオナと蒼井、彼女のスレイプニルと、竜見のスレイプニルがハントレイを三方から攻めていた。
 けれど三度目の聖剣も防がれ、今に至るまでこれといった一撃は入っていない。
「……そう簡単に会えると思うな」
「何……?」
 そしてフィオナの提案にも、彼は首を縦に振らない。
「お前の言う事は一理ある。……事実、冥魔の連中も近頃動いているようだしな」
 メフィストの配下の動きに一切感づかない天界ではない。

(それに、団長が何も考えていない筈は――)

 返答を躊躇するハントレイは、ハッとして振り向いた。
 瞬間、スレイプニルの蹄が三度彼の腹を狙う。
「……うーん。やっぱり隙が少ないねー」
「ちっ……」
 舌打ちするハントレイ。攻撃の手前、ぎりぎりで弓が差し込まれていた。
「そう何度も後ろを取られてはな……!」
 素早く蒼井達の横を取り、ハントレイは蒼井に二発、スレイプニルに一発の矢を撃ち込む。
「痛ったいな……」
 これは結構ヤバめのダメージだ。蒼井は苦笑しつつ、嫌な汗を掻く。

「――会いたいのなら、まずこの門を突破することだな」

「……ほぅ?」
 フィオナの口角が再び上がる。意に沿わぬ返答だ。が、シンプルな答えだ。
「ならば押し通る迄!」
一歩踏み出し、フィオナの剣は鋭くハントレイを狙うが、防がれる。

「土足で四国の皆の生活を踏みにじって、無力な人から感情を吸い上げて、こそこそと他人の武器を奪うような真似までして、何が騎士なんですか!?」

 フィオナの攻撃を受け止めたその瞬間、竜見は大きく声を上げた。
 同時にスレイプニルが嘶き、蹄が上空から騎士に迫る。
「人間を家畜としてしか見れないなら、その認識ごと覆してみせますから!」
「こ、のっ……!」
 流す。ハントレイは例によってそうしようとしたが、竜見の狙いはハントレイ自身でも、彼の腕でも無い。
 スレイプニルが飛行を止め、弓の上に全体重を掛ける。
「まずはちょっとだけ、奪われる痛みをお返しです!」
 攻撃ではない。その事がほんの少しだけ、ハントレイの認識をずらした。
「っと、これも追加ね!」
 更に同時に、迅雷で上級騎士を破砕したルドルフがハントレイを射程に捉え、その手元へ竜巻を飛ばす。
 それによって彼の腕は血を吹き出し、弓にかかった力を、支えきれなくなる。……が。

「――やって、みせろッ!!」

 ハントレイは中空で身を回転させ、そのエネルギーを逸らす。

「あぁそうだ。力の無い者は奪われるだけ。家畜と大差はない……ッ!」

 若き天使は叫び、血を垂らす腕で弓を引く。狙いは後方の、竜見自身。

「だが! お前達に――抗う力があるというのなら……ッ!」

 僅かに荒れた呼吸。それを整えながら、ハントレイは矢を放つ。
 矢は戦場の上空スレスレを通り、竜見の腹に突き刺さった。

「っっ――!!!」

 激痛に顔を歪める竜見。咄嗟に鏑木がもう一度ヒールを掛け、その傷を癒す。

「――奪えるのだと、証明してみせろ」

 最後に、息を吐きながらハントレイは小さな声で言う。

「うちにもいるのよねぇ……離れたとこから撃つのが大好きな子」

 と、前衛側から影野が槍を構え、飛び出した。
「狙いは陽動?」
 突き出した刃は弓に防がれる。
 この戦力、陣形は、そう考えるのが自然だと影野は考えていた。
「……さて、な」
 ハントレイは否定をしないが、それは殆ど認めているようなもの。
(成程ね……)
 とはいえ、それでやることが変わるわけでない。
 フィオナが、竜見が、ルドルフが、三方からハントレイを狙う。
 彼はそれらを受けきるが、少しずつ消耗しているのも確か。

「……ちぃ……!」
 ハントレイは後方に跳び、次なる矢を手中に生み出す。
 一本は竜見。もう一本は後方の鏑木。三本目は影野へ。

「さすがはこの軍団の隊長さんですね……だけどっ!」

 佐藤が回避射撃をその矢に撃ち込むが、もう一歩、及ばない。
「……射手か」
「初めまして、久遠ヶ原学園の佐藤としおです。以後お見知りおきを♪」
「サトウ、トシオ」
 ハントレイはその名前を繰り返す。きっと覚えたのだろう。
「さすがに無傷とはいかないか」
 影野はフィオナを範囲内に入れ、癒しの風で傷を癒す。
「あなたじゃ私は倒せない、けど私もあなたを倒せそうにないわね」
 彼の攻撃は影野を倒すには軽く、影野の攻撃もハントレイを討つには決め手に欠ける。
 ハントレイは眉根を寄せ、応えない。緩やかな消耗戦が暫く続いた。

 だがその均衡も、すぐに崩れる。

「上級騎士は押し伏せた」
「シルドの方も結構減ったわ……!」

 それはサーバント側。
 ハイランスナイトは倒れ、ハイシルドナイトも半壊。
 下級サーバントもその大部分を倒され、戦場に残るのは、数体の盾兵とハントレイだけ。

「……一度、退こう」

 ぼそりと呟き、ハントレイは身を翻すとゲート班のいる方向とは逆の市街地へと消えていった。
 同時に、数体のナイトもじわりじわりと後ずさり、町の中へと逃げ帰って行った。



 騎士を一度撤退させた撃退士達の元に、やがて片班からの連絡が届く。

 その内容は、コア発見の報と――

 ――もう一つ。

「……ラーメン食べて帰るのは、もう少し先かなぁ……」

 誰かが、涙声で呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
滅雫のヴァルキュリア・
蒼井 御子(jb0655)

大学部4年323組 女 バハムートテイマー
イケメンお姉さん・
影野 明日香(jb3801)

卒業 女 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー