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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/22


みんなの思い出



オープニング

●人

 その日、久遠ヶ原の斡旋所にとあるものが届いた。
「あら。なんでしょう」
 宛先を見る。何の変哲もなさそうな、普通の街の町内会からだ。
「依頼……ではないですよねぇ」
 中を開く。

「……お祭りっ!」

 祭りのチラシだった。

●天

 額に汗が滲む。

(10568……10569……!)

 昼と夜の境は無かった。
 その天使にとって、意識のある時間とは即ち修行を積む時間であったから。

(22983……22984……!)

 矢を生み出し、
 弦を引き絞り、
 放つ。

 ただそれだけの作業を、彼はもう何十時間と続けていた。

(55099……55100……!!)

 脳みそは痺れ、手の感覚は消え、
 ただ目線の先の的にだけ、彼の意識は集中する。
 的は一見驚くほど綺麗で傷一つないように見えるが、事実は違う。
 よく見れば的の中心の一点、そこ『だけ』が、全く『存在しない』。

(999999……1000000……ッ!!!)

 一つの矢にも、確と命を。
 狙い、撃つ。常軌を逸した集中力は、彼が己に渇く射手であるから。

 もっと、強く。
 もっともっともっと。
 その渇望だけが、彼を動かしていた。

 矢を、生み出す。
 弦を、引き絞る。

(まだだ、まだ……)

 百万と一発目。

 放とうとしたその刹那、彼の意識はぐらりと揺れる。

(まだッ……!)

 腕が落ちる。
 膝が崩れる。
 矢は狙いを外し、滅茶苦茶な方向へ弾け飛ぶ。

「――まったく、無茶をしおって」

 誰かの声が聞こえた、気がした。


●人

「Festivalか!」

 廊下を歩いていた炎條忍(jz0008)は、大量のチラシを持った斡旋所の職員に声を掛けられた。
 受け取ったチラシには、『アヤカシ祭り開催!』と赤い太文字で記されている。

「えぇ。こちらのお祭りの実行委員会の方が学園にチラシを送ってきて……」

 斡旋所の職員が説明を加える。
 その祭りの行われる町は、少し前にディアボロの被害を受けたのだという。

「そのディアボロ自体は何事も無く撃退されたんですけどね。その時お世話になったから、ってチラシを送ってきたんです」
 チラシには、お祭りで使える五百円相当の金券が付いていた。
「お祭り以外では使えませんけどね。この範囲なら、タダで楽しめちゃうわけです」
「それは良いな!」

「そういうわけだから、チラシ配りを手伝ってください!」
「……っ!?」

 どういうわけだ。
 炎條は一瞬虚を突かれるが、すぐに笑って頷いた。

「OK、少しの間なら手伝うぜ!」
 本当は他にやることもあるのだが、快く承諾して職員の手からチラシの束を受け取る。
「ありがとうございます!」
 職員が礼を言う頃には、炎條は駆け出している。

「あぁっ! 待ってくださいー!」

 ハッと気が付く。
 まだ説明してないことがあった。

「What!?」
「人手も足りてないそうなのでー! 申請すれば出店も出せますって伝えてください―っ!!」

 廊下の端、了解と言わんばかりにサムズアップする炎條の姿が見えた。

●天

「ん……ぅ……」
 ぼんやりと意識が覚醒していく。
 暖かい。何か大きくて、力強いものに包まれたような安心感があった。
 のそ、のそ、のそ。等間隔で感じる振動。運ばれている。俺は背負われているのだろうか。
 薄く、目を開く。
 髭の生えた顎だけが、何とか見える。
(……誰だろう)
 父さんかな。はっきりしない頭で、そんなことを思う。
 いや、違う。父さんは髭を生やしていなかった。というか、もういない。

 だったらこの人は、誰だろうか。

「おお、目が覚めたか!」

(知っている声だ)
 ハントレイは考える。
 この、豪快で雄々しい声は――

「――ゴライアスさんっ!?」

 飛び起きた。
「うぉっと。危ないぞ、暴れるでない」
「いや、すみません降ります自分で歩きますッ……!」
 ハントレイは慌てて降りようともがくが、両脚をがっちり抱え込まれて動けない。
 降ろしてくださいと訴えても、ゴライアスは笑って応えない。
「ハントレイよ、お前あそこに倒れておったのだぞ?」
 代わりに、嗜める。「修行熱心なのは感心だが、それで身体を壊しては元も子も無い」
「……すみません」
「どのくらいやっておったのだ?」
「……」
 覚えていない。
 返答が無いので、ゴライアスも困ったように溜め息を吐いた。
「お前はこう……もう少し自分の身体を労わったらどうだ?」
「しかしっ……」
 自分はまだ弱い。
 強くなるには、より過酷な修行をこなさなければならない筈だ。
「ふぅむ……」
 その心中を察し、ゴライアスは考える。
(この真面目さが長所、でもあるのだがな……)
 しかしこの余裕の無さは、この若者の未来を潰す事にもなりかねない。
 簡単に『休め』と言って聞く男でもなかろうし……

「おお! そうだ!」
 ぽん。ゴライアスは何かを思いつき手を突いた。
「この前みつけたあれがあったな、あれが!」



 手を放したので、ハントレイは尻から地面に落下した。



●妖し、アヤカシ

『アヤカシ祭り』

 日の落ちかけた逢魔が時に始まり、夜遅くまで出店が出る。
 基本的には普通のお祭りと変わりないが、違う所がただ一つ。

 参加者は全員、何かしらの仮装をしなければならないというのだ。

 多くの場合、それは何かの妖怪の姿を模したモノである。
 ヒトとヒトならざるモノの境を隠す。それがこの祭りの特徴だった。
 その昔、その地区にいた妖怪と人々が仲良くなる為にそんな風習が出来たというが……今では定かでない。

 兎も角、楽しめばいいのだ。



「――と、言ってもな」

 空色の着物に身を包んだハントレイは、小さく呟いた。
「あの人は、一体どこからこんな情報を……」
 手に持ったのは、祭りのパンフレット。
 ゴライアスが何処からか持ってきたものだ。
『最近人界で遊ぶことが多くてな!』と、あの人は言っていたけれど。

「潜入調査、か」

 ハントレイはゴライアスに、この祭りに潜入してこいと言われていた。
 人間というものについて調べて来い。それが我等騎士団の今後に関わるのだ、と。
 どうして俺に、と問い返すと、ゴライアスはにっと笑って『儂はこれから用事があるからな』と答えた。
 大方、また遊びに出ているのだろう。

「……むぅ」

 薄々怪しいとは感じている、のだが。
 尊敬する先輩の命とあらば、応じないわけにはいかないハントレイなのだった。


リプレイ本文

「一度、ディアボロに襲われたっていうのなら、一応使用しておいた方がいいかな?」
 夕暮れ前、祭りの責任者と顔を合わせた龍崎海(ja0565)は、彼らに阻霊符の使用を提案する。
「あぁ、お願いします! いやぁ助かりますよ」
 にこにこと頷く彼らに、龍崎は連絡先も明かしておく。
「何かあったら、ここに連絡してください」


「あぁしまった。普段着で来てしまったぞ……」
 祭りに向かう人々を見て、鳥居ヶ島 壇十郎(jb8830)は愕然と呟いた。
 仮装のことを、すっかり忘れていたのだ。
「折角楽しもうってぇのにこれは不味いかのう。……なぁ、何とかならんか?」
「……俺ができる仮装っつったらぁ、女形の格好ぐれぇだぜ?」
 頼まれ、コルアト・アルケーツ(jb5851)はさらりと答えた。簡単に言えば女装である。
「それでもいいってぇんなら着付けてやるんだが……」
「爺が着飾って見苦しくならなきゃあいいがね」
 徳重 八雲(jb9580)が容赦なく鼻で笑う。
「何ぃ。大体八雲もそりゃあ普段着じゃろうが! 仮装はどうした!」
「あたしゃ孫連れに来たんだよ、関係ねぇだろうさ」
 言い返す鳥居ヶ島だが、徳重はさらりと躱してしまう。
「で、どうするんだ壇さん?」
 意地悪く笑う徳重に、「やってやるわ!」と鳥居ヶ島は息巻いた。
「貴様ら、後で吠え面かく目にあっても儂ゃ知らんぞ! よう見ておれ!」
「……いつもの格好とちげぇんだ。すっ転ぶなんてこたぁしねぇでくれよ?」


「……ぱんだ」
「ぱんだだ」
「ぱんだだなぁ」
「持っている中で、変装用に使えそうな衣服がこれしかなかったもので」
 ぱんだの着ぐるみを着こんだ山科 珠洲(jb6166)は、出店の方のしげしげと見つめられつつそう答えた。

「……どうやったら妖怪っぽく見せられるでしょうか」

 山科は、お店の手伝いと引き換えにそんな相談を彼らにしていた。
「ぱんだをか……」と、考え込む出店の男たち。
 少しの沈黙の後、一人が言った。

「――笹を……頭に乗せればいいんじゃないか……?」

「笹を、ですか?」
「そう、狸の要領で」
「成程」
 試しにそれっぽい葉っぱを頭に載せてみる。
 ちょっとだけ、それっぽくなった……気がする。
「そう、なんですか?」
 自分では見えないが、きっと大丈夫なのだろう。
「ありがとうございます。……そうだ、これ、どうぞ」
 がさごそと取り出したのは、のど飴。「喉を酷使するでしょうから」と手渡され、出店の人たちは喜んだ。
「おお、ありがたい!」
「忙しそうなお店から手伝っていきますので、よろしくお願いします」
「ああ! よろしくな!」



「何が雑ざっても祭で仲良くしましょうか。……粋狂、面白い地区もあったって事で」

 見渡す限りの人、ヒト、ひと。
 けれどその多くが、ヒトならざるナニカの姿を模している。
 ある意味、不思議な光景だ。赤提燈に照らされて、錣羽 廸(jb8766)は呟いた。

「祭にゃ大体人以外が紛れてるものですが、ね」
 百目鬼 揺籠(jb8361)が思い返すように口にする。
「とっくに紛れ込んでいるじゃないか、私達がさ」
 お祭りに来るのは、初めてじゃない。尼ケ辻 夏藍(jb4509)は楽しげに眼を細めた。
「仮装しなくても俺は元々鬼っ子ですぜ!」
 赤い浴衣の紫苑(jb8416)が胸を張る。そうだ、彼らはまさに妖と呼ぶにふさわしい存在。
「これだけ妖怪が混じってちゃ世話ねぇな」
 自分達一行を見回して、八鳥 羽釦(jb8767)は言う。
 まぁ、その為のお祭りなのだというのなら、存分に楽しめばいいのである。
「同胞いっぱい、うれしー……」
 のんびりと楽しげにしているのは、躑躅 髑髏(jb8752)。
「その、姿は、ほんとの……?」
「ふふ、本当の姿はお預けなのだけどね? ちょっとだけ、羽目を外して楽しむわ?」
 彼女に問われ、嬉しげに答える祀木 魅木(jb9868)は、髪の一部が緑に近く、そこから葉っぱが生えている。
「百目鬼君、ちゃんとお嬢さんをエスコートしておあげよ」
「っと、そうでやした。紫苑サンははぐれねェよう気を付けてくださいね」
 百目鬼が、紫苑の手を握り予め注意しておく。
「百目鬼の兄さんもはぐれちゃめっですぜー」
 何処となくそわそわした様子で、紫苑はそう返事した。
「夏藍の兄さん、も一緒食べましょ、綿飴!」
「そうですね、食べましょう」

 てん、てん、てん。

 話し込む妖たちの耳に、三味線の音が届く。
 見ればそこには、若草色の着物を纏った女性と、朱色の着物を着こんだ女性。
「煙羅と呼ばれていた身としては、こういった祭りは嬉しく思いますわね」
 朱色の着物の女性が喋る。……いや、彼はコルアトだ。三味線を持ったもう一人は、鳥居ヶ島の女装である。
「どうですか?」
 優しい、落ち着いた声で鳥居ヶ島は問う。が。
「なっちゃあいねえな、やらねぇ方が幾分マシだ」
 はんっと笑い飛ばして、徳重は容赦なく斬り捨てた。
「なっ……!」
「ほら、そうやって直ぐに地が出ちまうんじゃあまだまだだな」
「むぅっ……!」
 ぐっと抑える鳥居ヶ島。見返してやるつもりだったが、一瞬でボロが出始めてしまった。
「ま、着物選びは悪かぁないがね」
「私が選んだのですもの」
 にこり、笑ってコルアトが答える。


「アヤカシ祭りね、良い風習じゃないか」
 がやがやと楽しげな喧噪に包まれて、麻生 遊夜(ja1838)は呟いた。
「夜だ! 祭りだ! ひゃっほう!」
 傍らで元気に騒いでいるのは来崎 麻夜(jb0905)。彼女は夜が好きだった。
 だからか衣装もそれに合わせて、浴衣か陰影の翼を出して『夜雀』だ。
「先輩に憑いて、チチチッってね」
「夜盲症は勘弁してもらいたいなぁ……ヒビキの仮装はなんだ?」
「夜雀と関連が、あるのを、選んでみた」
 こくり、頷きながらヒビキ・ユーヤ(jb9420)は答える。
 浴衣姿に、犬の耳と尻尾。『送り犬』をイメージしたのだ。
「あとは、すねこすりも、兼ねる」
 すりすりと麻生に身を寄せるヒビキ。
「おお……2人共似合ってんな、可愛いぞ」
 二人の頭を撫でながら、新鮮だなと麻生は思う。普段、浴衣姿を見る機会は無いから。
「ん、ユーヤも、似合ってるよ?」
 山伏衣装を着こんだ今夜の彼は、鴉天狗。
「翼が無いのが残念だがね」
 麻生はけらけらと笑うが、人間と全く変わらない姿で登場することもあるというし、これで良いのだろう。


「ったく、妖怪の仮装? 私達を馬鹿にしてるのかしらね……?」
 ふん、と機嫌悪そうにうろうろしているのは、糸網 知朱(jb9470)。
 特に仮装もせず、とりあえず歩き回っている。
「それにあいつ、いつもこういうのに来るくせに、今回は来ないし……なんなのよ……!」
 どうも虫の居所が悪いのは、来ると思っていた誰かが祭りに参加していないかららしい。
「あら、知朱さん。どうかしたの?」
 そんな彼女を見つけ、コルアトが話しかける。
「……何、その格好」
「久方ぶりに女形の姿になってみましたの。壇十郎さんの着物も着付けたんですわよ?」
「あぁ……そういえばさっき見たわね……」
 遠目に見たを思い出し、糸網は頷く。
「……ねぇ、知朱さん?」
 ふっと思い立ち、コルアトは糸網に問いかける。

「貴方、長様のことはどう思ってらっしゃるの?」

「は? い、いきなり何よ? 敵に決まってるじゃない。いつか配下にしてやる、私の敵よ!」
 少し慌てて、声が大きくなる。
「……はぁ、何かと思えば……」
 溜め息を吐いて、慌ててしまったことを誤魔化そうとするが……さて。
「そうなのですか」
 にこにこと笑みを見せるコルアト。
 隠せたのか、どうか。



(……妖、たくさんいるな……)
 そんな中、祭りの喧噪から外れた所に一人でいるのは纏衣 虚(jb2667)。
(食べ物、色々買えた……)
 たこ焼きや焼きそば、ベビーカステラなど、いくつかの食料を確保した彼は、居心地の良さげな木を見つけ、その上に陣取る。
 この夜闇の中、木の上に潜む仮面の男。
 恐らく誰かに目撃されれば気絶されかねない怖さだが、本人としては人間が驚かないようにした結果である。
 驚かれたら、自分も驚くし。
 驚いたら、自分が死んでしまうし。
 見た目が結構恐ろしめなものの、実際の所人並み外れて臆病な纏衣。
 ……と、そんな折。
 からん、ころん。誰かの下駄の音が近付いてきて、纏衣はビクっと身体を震わせる。
(誰か、来た……)
 食べ物を隠し、そっと下を覗き見る。ぼんやり光る提燈の赤と、複数本のリンゴ飴、そして苺飴。無数の赤に彩られた着物姿の男性だ。
「いい月だね」
 男性――神無月 サトリ(jb9906)は、ぽつりと呟いた。
(見付かった……?)
 少し警戒するけれど、神無月は月を眺めるばかりで、こちらを見ようとはしない。
 ぱきん。りんご飴の表面の割れる、小さな音。

 顔を上げた。空に光る月の上を、小さな雲が通り過ぎていく。



「3、2、1……はい!」
「消えたっ……!」
 祭りのある一角は、他とは少し違った賑わいを見せていた。
「先程消えたカードは、こちらにあります」
 ポケットからトランプカードを取り出すエイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
「そのカードじゃないよ……?」
 子どもが声を上げると、南瓜マスクの彼はかくりと首を傾げた。
「おや、おかしいですね。では先程のカードは……こちらですか?」
 さっとカードを振る。と、瞬時に絵柄が切り替わり、同時に周囲に「おぉぉ」歓声が沸く。
 彼は祭りの片隅で、マジックショーを開催していた。
 小さなテーブルに、カボチャマスク。中には蝋燭が一本立っていて、周囲をぼんやり明るく照らす。
 トランプは何かの塗料を塗っているのか薄暗闇のなか淡い光を放っていて、彼がカードを動かすたび、焔の揺らめきと共に幻想的な光の線を描いていく。
「ねー、次のマジックみせてー!」
 小さな子どもが、きらきらした眼で彼に頼む。
 エイルズレトラは「良いですよ」と頷いて、「けど待ってください」と人差し指を立てた。
「さて、問題です。僕はいったい何のコスプレをしているのでしょーか?」
「え、えっ?」
 突然のクイズに戸惑う子ども。「答えはここに小さぁくお願いします」と、奇術師はカボチャの側面を指先で叩く。「周りに聞こえてはいけませんからね」
「えっと……ハロウィンの、ジャックオランタン……?」
 ぽそぽそと耳打ちされた答えを聞いて、「ざーんねん」と彼は大仰に悔しがる動作を見せた。
「違うのっ!?」
「誰にも言わないなら、教えてあげますよ?」
「教えて教えて!」
 正解は『猫南瓜』という妖怪である。メジャーな妖怪ではないので、知らないのも無理からぬこと。
(さて、折角持ってきたクッキーですが、果たして正解者は現れるのでしょうか?)
 マスクの下、誰にも気取られず、エイルズレトラは小さく笑った。


「鴆の大旦那、こんなに買ってもらって大丈夫ですかぃ?」
 綿あめを受け取りつつ、紫苑は少しおろおろする。
 先程から、自分でお金を出す前に徳重が払ってしまっているのだ。
「餓鬼が遠慮なんざぁすんじゃないよ。さ、爺に欲しい物お言いなさいな」
「わー、わー……! あ、ありがとうごぜーやす!!」
 大きな声で礼を言う紫苑。「……ガキにあれもこれもってェのはあんまり感心しませんがね」と、百目鬼は苦笑する。
「私からすれば徳重さんも百目鬼君もそう変わりはしないよ」
 そんな彼の言葉に、尼ヶ辻は小さく笑った。
「お嬢さん、いい機会だから二人に幾らでも頼むといいよ」

「お祭りはいつになってもいいものね? 綿菓子がおいしそうだわ?」
 出店を眺め、祀木は言う。
「あっ! 爺、俺トウモロコシ食べたい……! ……蛤食べる?」
「はいはい、トウモロコシだね」
 楼蜃 竜気(jb9312)も徳重に奢ってもらっていた。その手には、大量買いした焼き蛤。
「あたしゃ大丈夫だよ。自分でお食べ」
 優しく答えると、楼蜃は「わかった!」と答え、トウモロコシ片手に食べ歩く。
 と、別の屋台で紫苑に食べ物を買っていた百目鬼が目に入った。
「おーい。なんか、お祭りってワクワクするな……! 蛤食べる?」
 手を振りながら近づいて、焼き蛤を勧めた。
「そうですねぃ。楽しいもんでさ。と、一つ戴きましょうかね」
 

「はい、羽釦。あげる。鳥目の誰か用の目印に持っててやれよ」
 錣羽は八鳥に、釜の絵の描かれた提灯を押し付ける。
「俺ぁ……見てるだけでいいっての」
 そう言いつつも、渋々と八鳥はそれを受け取った。
 錣羽は満足げに頷いて、それから焼きそば屋台にいる躑躅へ目を向ける。
「焼きそば、焼き鳥、食べ物目移り、両手にたくさんー」
「食い物は逃げないから、急ぐなよ」
 躑躅が慌てて何処かへ行かないように錣羽は言い含めつつ、かき氷を買う。
「二つ頼むよ」
「二つですね! ちょっと待っててください」
 かき氷屋を手伝っていた山科は、『氷結晶』で氷を作るとしゃりしゃりと削る。
「ありがとうございます」
 山科からかき氷を受け取った錣羽は、ブルーハワイとイチゴのシロップをかけ、片方を躑躅へ渡す。
「餌付け……されてるみたい、癪だけど……おいしいし。」
 ぽつぽつ呟きながら、彼は渡されたかき氷を口にする。
「じゃっくー、じゃっくー、これ、おいしいよー? ……あーん」
 と、代わりに躑躅はたこ焼きを一つ、錣羽に差し出した。
「ん」
 口を開けて、たこ焼きを待つ。

「いただきっ!」

 横から盗られた。百目鬼に。

「おい、揺籠っ」
「前の唐揚げのお返しでさ!」
 油断した。
 取り返そうと手を伸ばすが、避けられ、逃げられる。
(……から揚げ位よくあるだろ)
 内心溜め息を吐きつつ、翼を広げて追いかけた。
「わお。行ってらっしゃい、じゃっくー……」
 手を振り振り、躑躅が見送る……が。
「雀君、新しいたこ焼きを奢るから追いかけるのは程々にしておいで」
 すれ違った尼ヶ辻に言われ、一瞬止まる。
「躑躅君も一緒にどうだい? たこ焼き以外でも大丈夫だよ」
「…たこ焼きっ! ……夏藍、ご馳走して…くれるの? …りが、とー…!」
「……! すぐ戻るから、食ってて……!」
 少し考え、とりあえず百目鬼を追うことにする錣羽。
(お嬢さんとこ戻るだろ、ほら)

「よし、ここまでくれば……!」
「うるせぇ」
 ちなみに百目鬼はと言えば、逃げた先で八鳥に腹パンされていた。



「へー、やっぱり妖怪?だかに仮装している人が多いんだねー」
 白と青の着物を着た草薙 タマモ(jb4234)は、きょろきょろと周囲を見回した。
 人間界に来てまだそう月日も経ってない。この世界に慣れる為、彼女はこのお祭りに参加していた。
「あー、これ知ってる! わたあめっていうのよね」
 ぐるぐると機械中を回る白い雲のようなそれを見て、草薙は声を上げた。
「おやお嬢さん、お祭りは始めてかい?」
「そうなの! ね、これ一つください!」
 こくっと頷いて、出来上がったわたあめを指さす。
「はいよ。気を付けて食べてね」
 受け取って、一口。
「甘ぁい!」
 口の中でふわりと溶けた。草薙は嬉しそうにもう一口食べると、ふっと顔を上げる。また別の屋台が目に入ったのだ。
「フランクフルトは、黄色いのをつけるとヒリヒリしておいしかったよね」
 マスタードの風味を思い出して、彼女の食欲は俄然増す。早速その屋台にも飛びつくと、一本購入した。
「ありがとうございます」
 出店の店員――山科は、スキル『炎焼』で、フランクフルトをからりと焼き上げる。
「おいしそうっ……!」
 ケチャップとマスタードのたっぷり乗ったフランクフルト。わたあめとどっちを優先しよう。
 わくわくしながら考えていると、彼女の脇を白っぽい髪の男性が横切った。
(……あの人は仮装してないんだな。私とおんなじだ)
 ただ違うところが一つ。草薙はお祭りを楽しんでいるけれど、その男性は何処か浮かない顔だ。
(ふうん……)
 何となく気にはなったが、すぐに彼女の気は逸れた。
 目の前に、おいしそうなやきそばの屋台があったからだ。
「やきそばください! あっ、紅しょうがを大盛りにして!」



(……普段はこんな風に楽しんでいるのだな、人間は)
 雑踏の中、その男――ハントレイは独り思う。
 正直、こんな場所に一人でいて、どうしていいか分からなかった。

「あーっ! あんたは……えっと………マンタレイだっけ?」

 と。
 人ごみの中、元気な声と共に彼を指さす少女がいた。雪室 チルル(ja0220)だ。
「……。ハントレイ、だ」
 小さく、溜め息。「何度か会ったな」
「あんたもお祭りに来たのっ? それとも悪さするつもり!?」
「戦う意図は無い。……と、言うか」
 何をしに来たのか、自分でもわかってない。
「ふーん……あ、じゃあ一緒にお祭り回るっ?」
「っ!?」
 雪室の何気ない問いに、ハントレイは驚愕する。
「まずはあの出店で勝負よっ!」
「待て、勝手に話を進めるなっ……!」
 戸惑っている間に話を進める雪室。

(とりあえず戦闘の意志は無い……みたいだね)

 同じくハントレイの事を認識していた龍崎は、その様子を見てほっと一息つく。
(メイド悪魔の暗躍や、前田が倒れたし……、何が目的かな?)
 もふもふと立派な尻尾のついた妖狐の着ぐるみの中、龍崎の眼は注意深く光る。
「……?」
 視線を感じたのか、ハントレイは一度辺りを見回すが、雪室が屋台に行ってしまったので慌てて追いかけていった。


(あー……浮かれてお仲間がちらほらいやがるて……)
 少し外れた所で、ぼんやりと祭りの喧騒を眺めているのは恒河沙 那由汰(jb6459)。
 普段は隠している狐耳や尻尾を出して、浴衣姿で佇んでいた。
「なーゆたーーーん! トウモロコシ食べる? ……あと、蛤食べる?」
 と、大きな声で彼を呼ぶ声がした。見れば、楼蜃がぶんぶんと手を振りながら走り寄ってくるではないか。
 じとっ。恒河沙は死んだ魚のような目で楼蜃が近づくのを待ち――
「――なゆたん呼びしてんじゃねぇ!」
 と、ぶん殴った。
「ふえぇ……なんで殴るん……もしかして――」
 楼蜃は狼狽えるが、特に嫌がる様子は無い。むしろ喜んでいる風に見えるというか……
「――愛……?」
「ざけんなっ!」
「ぐふっ」
 二発目を叩きこんだ。
「ったく……」
 ふぅと溜め息を吐き、とりあえずトウモロコシを受け取って食べる。
「何隅っこでしょぼんしてんですかぃ?」
 そこに、百目鬼もやってきた。
「別にしょんぼりはしてねぇよ」
「揺にぃ! 蛤食べる?」
「さっきも貰いましたがねェ。いただきまさぁ」
 ひょい、と楼蜃の手元から蛤を取り、口に入れる。
「ほら狐サン、恥ずかしがらずに一緒にいきますよぅ」
「恥ずかしがってねぇし!」
 恒河沙をからかい、百目鬼はけらけら笑う。
「じゃあ行こっかなゆたんっ!」
「だからなゆたん呼びしてんじゃねぇッ!!」
 三発目が入った。

「八鳥君、旅館の子達に何かしら買っていこうと思うんだけれども何がいいかな」
「酒?はあるか、適当でいいだろ」
「夏藍くん?! ……今日は引き篭もってな……」
「そして蛤君は落ち着きなよ?」
「ごめんごめんなんでもなっ……ぎゃーー」
 尼ケ辻と八鳥が土産物をみていると、それを発見した楼蜃に騒がれ、尼ヶ辻は彼の頭を思い切り掴む。
「……蛤……食べ……る?」

 息も絶え絶え何とかそう問うた瞬間、のスピーカーから『迷子の連絡です』とアナウンスが出た。

『茨城県からお越しの百目鬼様、お連れ様がお待ちです。至急迷子センターまで――』

「もー、しょーがねーですねぃ」
 迷子センターの椅子に座り、紫苑は百目鬼が来るのを待っていた。




(この街の昔話が本当なら、なかなか凄いことね)

 牡丹桜の浴衣を着た、狐面の少女が歩く。
 片手には、ぼんやり光る青提灯。狐火を意識したものだ。

(人の世に混じろうとしたアヤカシも、彼らを受け入れた人々も……)

 過ぎ行く人々を見る。
 仮装しているもの、していないものと様々ではあるが、彼らは皆、一様に楽しげで。
 この中に本物のアヤカシがいるのだとしたら、なんて、そんな想像も膨らむ。

(彼らを怪異として畏れた人間が、どうして曲がりなりにもこんな風に、手を携えられたの……?)

 考える。
 或はそれは、姿からでも理解しようとした、近づこうとした、人間の努力の賜物なのだろうか。

 考える。
 ヒトとヒトならざるものは、その気になれば皆こうして、分かり合えるのだろうか。

 レティシア・シャンテヒルト(jb6767)は考察する。
 遠い昔の、『彼ら』が行って来たことを。



「あの射的で勝負よ!」
「的当てか。……にしては近くないか……?」
 雪室に連れられて射的屋台に来たハントレイは、その距離に違和感を覚える。
「人間はこれくらいが普通よ! 五発ずつね!」
 さっさか決めて弾を貰う雪室。「そうか」と頷いて、その横でハントレイも銃を構えた。
(玩具、とはいえこの形式のモノを撃つのはいつぶりだろうな……)
「てーい!」
 彼が考えている間に、雪室はもう撃ち始めていた。
「む……」
 負けじとハントレイも引き金を引く。
 ……結局のところ、お互い全弾命中で引き分けだった。
「……むぅ……」
 ハントレイは納得いかなそうだったが、雪室は特に気にした様子もなく別へ。
「次はこの金魚すくい!」
「金魚……すくい……?」
「これを使ってたくさんの金魚を掬い上げた方の勝ちよ!」
「……成程」
 頷いて、ポイを水に付けた。ゆらり、金魚の背を追い――
(――捉えた!)
 引き揚げる。金魚が紙の中心で暴れる。ハントレイが急いで盆に金魚を放とうとしたが……

 紙が破れて落ちた。

「なっ……!?」
 驚愕する。紙の耐久性の無さを一切考慮していなかった。初めてだから仕方ない。
「残念だったわね! 次はあたいの番! なんたって金魚すくいはあたいの……!」

 水につける。
 金魚を追う。
 引き揚げる。
 当然、破れた。

「金魚すくいはあたいの得意分野……でもないわね。うん。」
 考えてみたら別に得意じゃなかった。多分、どっちかっていったら苦手な部類だ。
「なんだ、このすっきりしない感覚は……!」
「なら次はあのかたぬきで勝負よ!」
 宣言し、駆け出す雪室。ハントレイもだんだん慣れてきて、少し後ろを付いていく。
 雪室の御蔭で自分が祭りを満喫出来ていることに、彼はまだ気付いていなかった。

  

 その頃別の射的の屋台では、インフィルトレイター麻生が大活躍していた。
「次は何が欲しい?」
「じゃあー、あのわんこのぬいぐるみ狙ってよ!」
「了解っ!」
 身を乗り出し、ふにゃっとした顔の犬のぬいぐるみに狙いを付ける。
 ぱんっ! 軽い破裂音が鳴った次の瞬間、ぬいぐるみはこてんと落下。
「おめでとうお兄さん!」
 屋台の人が差し出すぬいぐるみを、彼はそのまま来崎に手渡す。
「キャー、先輩カッコイイー♪」
「ハハッ、狙った獲物は逃さんぜぃ!」
 囃し立てられ、にやりを笑う麻生。
「ヒビキはなんか欲しいもんあるかぃ?」
「ん、じゃあ、あの腕に巻き付くサル人形……かな?」
 指さす先には、まんまる顔のおサル人形。
「任せな」と頷いて、麻生はそれもあっさり落とす。
「わぁ……流石、だね」
 ぱちぱちぱち。手を叩くヒビキに、麻生は手に入れた人形を持たせた。
「ありがとう……」
「何処か行きたいとこはあるか?」
 ぬいぐるみや人形を大事そうに抱える二人に聞く麻生。
「あ、あるある!」
 ふっと何かを思いつき、ちらとヒビキを見る来崎。
「やりたいことがあるんだよ。いい?」
「……? いい、よ」
 こくり、ヒビキも頷いたので、麻生は恭しく「かしこまりました」と一礼した。
「お嬢様方の仰せのままに、ってな」

 それはヨーヨー釣りの屋台だった。
 ふよふよと浮かぶ色とりどりのヨーヨーを前に、来崎はヒビキの勝負を挑んだ。
「勝った方が特等席、でどう?」
「わかった、やろう?」
 くすくすと笑う来崎に、ヒビキはにやりと笑い返した。
 真剣勝負が、ここに勃発する。


「どっちが迷子ですかぃ!!」
 センターについた百目鬼は、開口一番そう言って紫苑を叱った。
 一しきり怒られて、どうして居なくなったかと聞かれた紫苑は、口を尖らせて「林檎飴食べたかったんでさ」と小さな声で答える。
「……目ェ離して悪かったですね。さ、戻りますよぅ」
 百目鬼も謝って、手を繋いで仲間の元へ戻る。

 帰りに、りんご飴を一つ買った。



(なんや名前に惹かれるおまつりやったから来てみたけど、やっぱ楽しいなぁ)
 浅茅 いばら(jb8764)はチョコバナナ片手に、あやかし達の間をすり抜けていく。
 白い水干に、赤の袴。
 被衣の奥には、普段は隠す象牙色の角がちらりと顔を覗かせている。
 そんな彼の仮装は、言うなれば牛若丸か。


 ひゅぅぅぅぅぅ……
 玉の打ち上がる、長い音。

(あぁ、もうそんな時間か)
 釣られて顔を上げてみれば、
 夜空に、大輪の花が一瞬咲いて。

 ぼぅん。遅れた音が、聞こえる頃には、もう散ってしまう。

 
 花火の時間が、始まった。


(今年の夏は、ずいぶんいろんなことがあったなぁ……)
 花火を見ると、思い出す。
 どこぞのヴァニタスと、夜空の下で話したことを。

 ぱぁっ……。光の粒が広がり、消える。

(もう、夏も終わりやなぁ……)

 時折吹く風が、あの時よりも冷たかった。

 秋がもうすぐ目の前まで来ている。一つの季節の過ぎる時間は、炎の花が散りゆく様のように、あっという間だ。
 チョコバナナを頬張った。
 チョコが溶け、バナナの香りが口の中にふわりと広がる。違う二つの甘みが、彼の下を蕩けさせる。
(面倒なことにこれ以上関わるのもあれやし、とりあえずはのんびりしてたいな)
 ぼんやりと、そんなことを思った。



「きれいだねー」
 麻生の膝の上に収まって、来崎は嬉しそうに呼び掛けた。
「そうだなぁ……」
「ユーヤ、あの花火も、きれい……」
 ヒビキは麻生に肩車してもらって、彼の頭に抱き付きながら空を見上げる。
 ただ、来崎もヒビキも、時折は花火の光に照らされる麻生の顔を眺めて、ぐっと更に強く身を寄せた。


(花火だ……)
 木の上で食事をしていた纏衣も、その綺麗な光景にぼぅっと心を奪われる。
 木から降りて、幹に寄りかかった。月と花火が、両方見える。
(……あれ)
 ふっと気付いたら、足元に野良猫がすり寄ってきていた。食べ物の匂いに釣られたのかもしれない。
「これ……あげよう、か……?」
 思い立ち、すっと綿あめを差し出す纏衣だったが、猫は「みゃあ」と一声上げて走って行ってしまう。
「待って……」
 ふらふらと、纏衣もそれを追いかけて行ってしまった。


(あー……食べすぎちゃったな……)
 ぽんぽん、とお腹を擦りながら、草薙は祭りを抜け出す。
 ちょうどよさげな大きな木があったので、その下に座り込んで花火を見た。
「人間って、火をああいう風にも使うんだ……」
「ヒトというのは、器用だからね」
 ぽつりと呟く彼女の声に応えたのは、同じ木の下に佇んでいた神無月。
「人間にはいろんな面がありますね」
 神無月の言葉が聞こえたのか、ひょっこりとレティシアもその木の元にやってくる。
「畏れるモノに手を伸ばせたのも、それだからなのでしょうか」
「さて、どうだろうね。……良かったら、りんご飴、食べる?」
 神無月は、草薙とレティシアにりんご飴を勧めた。大量に買ったので、まだ残っているのだ。
「よろしいんですか?」
「いいの?」
 二人が口々に問うので、神無月は小さく頷いた。
「ありがと! ……今はおなか一杯だから食べられないけど」
 苦笑する草薙に、「いつでもいいんですよ」と神無月は答える。
「ありがとうございます。私も、いただきます」
 レティシアも受け取って、かりっと一口食べてみる。
 表面の飴の甘さに、リンゴの酸味が混じり合う。何処か優しい味がした。

 ひゅぅぅぅぅ……

 また、花火があがる。

 夜空に撒かれた種は一斉に花開き、暗い闇は色とりどりの花壇になった。
 けれどその煌めきは、一瞬で幻みたいに消え去って、後には何も、残らない。

 ぱぁん。種の弾ける音がした。




「夜空に咲く花もやっぱりきれいで、すてきだわ? また来年も、皆でお祭りにあそびに来たいわね?」
「んー! ……これからも、みんなで楽しく……こんな時間が続いたらいいな」

「これ、おれいですぜ!」
 一日色々買ってくれた三人に、紫苑はあるものを手渡した。
「けみかるらいとって言うんでさ!」
 一つ手に取り、ぱきっと折り曲げて見せる。
「おぉ、光りやしたぜ……!」
「有難う」
 驚く百目鬼。徳重はぽんぽんと紫苑の頭を撫で、礼を言う。
「お揃いですぜ!」
 にぱっと明るい笑顔を見せる紫苑に、尼ヶ辻も微笑む。
「……おや?」
 と尼ヶ辻は人ごみの先に何かを見つけたようだ。「ちょっと待っててね」と言い残して、何処かへ消える。

「何やってるんだい、纏衣君」
「っっ!!」
 声を掛けられ、纏衣はびくぅっと身体を震わせた。
 が、尼ヶ辻の顔を見て、ほっと安心し息を吐く。
 メモ帳に文字を書き込んで、尼ヶ辻に見せる。

『迷いました』

「……うん。そうだろうね」
 こくり、尼ヶ辻は頷いて、彼の手を引く。
「一緒に帰るよ」
「……!」
 こくこく、纏衣も頷いた。

「今日は一日ありがとうね。これ、少ないけど」
 出店の人に封筒を差し出され、山科は驚いた。
「いいんですよ。変装のお手伝いと引き換えにやったことなんですから」
「いやぁ、あれだけ働いてもらって何もナシじゃあ申し訳ないよ。ほら、少ないから」
 半ば無理やり持たされて、困惑しつつも「ありがとうございます」と返す山科。
 結局彼女も一日働きづめだったのだ。



 祭りが、終わる。


「記念撮影よ!」

 久遠ヶ原へと帰る者達に、雪室は呼び掛けた。
 その手には、愛用のデジタルカメラ。
「……俺も撮るのか、それは」
 ハントレイが問う。一応、敵同士なのだけど。
「勿論よ!」
 雪室がそんな事を気にする筈もない。


 一瞬で過ぎて、消えてしまう夏の終わりの思い出も。


 写真の中には、ずっと残っているかもしれない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
『魂刃』百鬼夜行・
纏衣 虚(jb2667)

大学部8年153組 男 ナイトウォーカー
タマモン・
草薙 タマモ(jb4234)

大学部3年6組 女 陰陽師
胡蝶の夢・
尼ケ辻 夏藍(jb4509)

卒業 男 陰陽師
『魂刃』百鬼夜行・
コルアト・アルケーツ(jb5851)

大学部5年82組 男 陰陽師
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
人の強さはすぐ傍にある・
恒河沙 那由汰(jb6459)

大学部8年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
百鬼夜行に巡るもの・
躑躅 髑髏(jb8752)

大学部5年253組 男 ディバインナイト
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅
『魂刃』百鬼夜行・
錣羽 廸(jb8766)

大学部4年89組 男 インフィルトレイター
妖シノ遊戯・
八鳥 羽釦(jb8767)

大学部7年280組 男 ルインズブレイド
『魂刃』百鬼夜行・
鳥居ヶ島 壇十郎(jb8830)

大学部7年222組 男 鬼道忍軍
『魂刃』百鬼夜行・
楼蜃 竜気 (jb9312)

大学部5年313組 男 阿修羅
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
百鬼夜行に巡るもの・
糸網 知朱(jb9470)

大学部5年235組 女 バハムートテイマー
『魂刃』百鬼夜行・
徳重 八雲(jb9580)

大学部5年214組 男 ダアト
宴に集う妖怪・
祀木 魅木(jb9868)

大学部2年261組 女 陰陽師
撃退士・
神無月 サトリ(jb9906)

大学部5年29組 男 ダアト