.


マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2014/08/22


みんなの思い出



オープニング

 人の成長は何処へと向かうのか。

 闇の中、深き叡智の瞳は瞬く。
 それは深紅。血よりも深き命の色。

 器と精神は、此の領域へと至る可能性を秘めたるか否か。

 闇の中、深紫の唇は笑みをはく。
 それは紫黒。夜よりも深き闇の色。

「至れし階梯は如何なる域か。未だ遠し。されど、至れずとも判じ難し」
 声が告げる。
 声が謳う。
 人を、撃退士を、その目と耳で追い続けてきた己の駒たちへ。


「おんしらの力、見せて参れ」



 闇が翻る。






 その日一通の招待状が届いた。
 流麗な文字で書かれた柔らかな口調の招待状と、封入されていた複数のカラーカード。
 指定された場所は徳島城、城山山頂。
 周囲に自然は多くとも、街の中心地。
「……貴方方に、さらなる上を目指す気概と実力があるのなら、ときたか」
 茶会に出ていた生徒達から報告は受けていた。
 こちらの全てを受け止め、何かを見出そうとしているメイドと、同じ大悪魔を戴く悪魔達。
「挑戦、ととるべきか。むしろこれは、どちらにとっての挑戦なのだろうな」
 おそらく、メイド達の戦闘能力は高い。
 ならば彼女等が作るディアボロ達もまた、それなりだろう。何が出てきても激戦になる可能性が高い。ましてメイドそのものがもし出てくれば。
 ――否。
「おそらく、何柱かとは、戦うことになるだろう」
 苦々しげな太珀 (jz0028)の声に、集まった一同は頷く。
「受けるか否かは、自由だ。学生達をと指定されては、こちらが代わりに動くわけにもいかない」
 例え人質をとっていなくとも、街のど真ん中に複数の悪魔が集うことを思えば、万単位で人質をとられたに等しい。
 悪魔の真意がどうであれ、だ。
「どういう理由でか、色分けされたカードが同封されていた。もしかすると、これが向こう側との対戦カードなのかもしれない。書かれている文字である程度の相手が分かるかもしれないが……このあたりは、相対した者のほうが詳しいかもしれないな」
 並べられたそれを見やる人々の目は険しい。
「叶うならば、制してくれ。……悪魔の舞闘会を」






「ようこそいらっしゃいました。皆様方」
 現地で優雅にお辞儀したメイドは、流れる亜麻色の髪をそのままにふわりと微笑んだ。
「この地を傷つけぬ為、少しばかり場を整えさせていただきます」
 後ろにいたメイド達が手を繋いでいるのが見える。僅かに聞こえるのは歌声か。訝しげに見やる一同の前、ふと、今まで見たこともないメイドが進み出た。
「付近の方々は避難していただいておりますので、ご心配なく」
 どういう意味だと問うよりも早く、全身を違和感が包み込んだ。
「なっ…!?」
「ゲートだと!?」
 同時、メイド達の歌が止む。空間が軋む音が響いた。瞬き一回。たったそれだけの間に出来上がったのは合計5つのドーム。
「種子島の方から結界術を学んだ者がいまして。氷と結界の合成魔法。本日はドーム型の戦場をご用意させていただきました。中でどれほど暴れられても、ドームが壊れることはございません」
 にこりと笑むマリアンヌの後ろで、桃色の髪のメイドと銀髪の幼女が手を掲げる。瞬間、手に持ったカードが熱を持った。
「では、ご武運を」




『優れた私は捕まらなかった。人でも鬼でも叩き潰せる』

 そのカードに書かれていたのは、自信に満ちたちょっと意味の分からない言葉。
 鈍色のカードを手にした撃退士達の多くは、その言葉の意味を掴めないでいた。

 ――カードに異変が起こった直後。気付けば、撃退士達は見知らぬ場所に立っていた。
 トゲの生えた鉄球が辺りにふよふよ浮いている。天井が丸いことから察するに、ここがマリアンヌの言う『ドーム』だろう。

 敵の姿も、探すまでもなくそこにあった。

 肩口まで伸びた濃い青髪に、半袖のメイド服を着た小柄な少女。
 だが何より目を引くのは、その両腕に付けられた銀色の篭手。僅かに覗いた白い二の腕と重厚なそれは、あまりに不釣合いだ。
「……来たのね。運悪く、私の所に」
 メイドは無表情のまま、淡々とした口調でそう言った。
 僅かに幼さの残る顔立ち。澄ました顔にはしかし、絶対の自信が見て取れる。
「私はルクーナ。とても強い。……まずは、訓練してあげるわ」

 途端、銀の篭手はガシャガシャと音を立てて崩れた。
 が、その崩れた銀色は、彼女の両腕の周りを高速で回転し、ガギンガギンとぶつかりながら再び組み合わさってゆく。

 先程よりも大きく、重く、力強く。

「これが私の拳。私の戦い」

 どしん! 回転が止まり、金属の塊が床に落ちる。ドーム全体が小さく振動した。
 重厚で、巨大。長さだけでも1メートルはあろうかという2つのそれは、まさしく拳。
 小柄な彼女の背もあって、腕を下せば拳は床に接触する。事実、今もその先端が床を破壊し、めり込んでいた。
 ともすれば、分不相応にも見える武器だ。
「まずは私に見せること。貴方達人間の、力を」
 けれど彼女は、その鉄拳を易々と振り上げた。
「この鉄は、全てがディアボロ」
 そして辺りに浮遊する鉄球の一体へ、軽快なアッパーを喰らわせる。
 ガィン! 鉄同士が振動し快音を響かせるや否や、その鉄球はゲートの天井までも吹き飛んでゆく。
 ガドン! 鉄球は天井に衝突し、強烈な破壊音を辺りに響かせた。ぱらぱらと天井の破片が降り、すぐに再生する。ディアボロもふわりと上空に留まった。
「これは良く飛ぶわ。当たると痛いでしょうね」
 小さく呟きながら、彼女は両の拳を構えた。

「潰してあげる」


リプレイ本文

「久しぶり、招待状ありがとなルクーナ」
 戦場で、真っ先に口を開いたのはZenobia Ackerson(jb6752)だった。
「ああ。貴方は知っているわ。確か……ぜ……ぜの……」
「言い難かったらゼノでいいぞ。って、前も言ったけどな」
 苦笑する。覚えてくれていたのは確かだけど。

「それじゃぁ僕達の力、見て貰いましょうか♪」

 仲間達の挙動を意識しつつ、佐藤 としお(ja2489)は宣言する。

 舞闘会の開催だ。

 撃退士の力を、拳のメイドに叩きつけろ。




「相手は一人……とはいっても油断はできんか。大当たりか大外れか、どちらにしてもやる事は変わらん」

 まず正面から突っ込んだのは天風 静流(ja0373)。
 誰より早く一歩を踏み出すが、しかし彼我の距離を詰め切るには僅かに足りない。
(この鉄球が邪魔か……ならば!)
 青い焔が弦を描き、光が眼にも止まらぬ速さで鉄球を打つ。
 ギィン! 身体の芯に突き刺さるような鋭い音。ひゅう。空を切る風の音。二つの音が合わさり、鉄球と共にルクーナへ飛んだ。
(動きづらい事この上ないな……)
 同時に彼女は思う。普段の力が出ない。力があればあるほど、その感覚は顕著に表れる。
「堂々としてるのね。嫌いじゃないわ」
 ルクーナはぽつりと呟くと、向かい来る鉄球を見据え、左腕を軽く引き――

 ――地面に叩きつけるように、殴った。

 ガギン! 先程とは違う無骨な音と共に鉄球は地面に突き刺さった。土煙の中ルクーナは己の拳をちらと見て、「そう」、と何かを理解する。
「拳で止めたっ……!?」
 天風の後方、スナイパーライフルを構えていた佐藤はその様に思わず声を漏らした。
 いや、飛ばせるのなら止められてもおかしくは無い。だが、問題は……

「次は私の番」

 ルクーナはそう言うと、今度は右の拳で同じ鉄球を殴り飛ばす。
 ぶぉん。突き刺さっていた鉄球は小さな弧を描いて天風の元へ戻る。
「っと、させませんよ!」
 佐藤は鉄球の上部に狙いを定め、ライフルで射撃。
「助かります」
 微かに軌道の逸れた鉄球を、天風は一歩下がって回避。
「サポートは任せてくださいねっ!」
 佐藤は陽気に答えると、お返しとばかりにルクーナへアシッドショットを撃ち込んだ。
「……なに、これ。気持ち悪い」
 わき腹に突き刺さったアウルに、彼女は微妙に眉を顰めた。魔力が侵されるような、不快な気配。
(これで防御は下げられる)
 攻撃されないよう位置を調整しつつ、佐藤は鉄球の位置把握に努める。

「まずは邪魔なのをお掃除しないとなりませんね! やっちゃってー!」

 阻霊符を指で挟み、竜見彩華(jb4626)は早速スレイプニルを召喚する。
 現れた鉄の戦馬は、戦場の右側から回り込むと四肢を用いて周囲の鉄球をやたらめったら吹き飛ばす。
 ズガガガガ! と激しい激突音と共に、複数の鉄球が飛んだ。
 ――とても、勢いよく。
「おっとっ」
 Zenobiaがすっと身を引き、自分の方へ飛んできた鉄球を躱す。
「わ、ごめんなさい!」
 邪魔にならないように計算して弾いた筈なのに。竜見は慌てて謝る。
「激しいのね。良く跳ぶ、と言ったでしょう」
 飛んできた鉄球を殴りつつ、ルクーナは言った。そう、この鉄球は跳びやすい。
(そっか、効果が増しちゃうんだ……)
 反省し、次の手を考える。自分に出来る事を。
「大丈夫だ、気にしないでくれ」
 Zenobiaは答えつつ、鉄球の動きを確認する。先程のインパクトブロウで、右翼側の鉄球は大分散った。これなら。

「ルクーナ、鬼ごっこは楽しかったか?」

 フルモウラガーノを握り、ルクーナの懐に潜り込む。
「足の速さには結構自信あったんだがな、負けたよ」
「そうね。私は速かった。貴方も、速かったけど」
 顔は仏頂面のままなのに、自慢気と分かる。真面目な戦いの最中だというのに、何だか気が抜けてしまう。
「今回も私は勝つわ。貴方たちを叩き潰して」
「潰すとは物騒だね。折角なんだから楽しもうぜ?」
 対の金色がルクーナの足を狙う。「あら」とルクーナは意外そうな声を上げた。
「私、楽しんでいるわ」
 瞬間、くるりと回ったルクーナは、足を狙う二本の剣を上から殴りつけた。
「っ!」
 前のめりに、体勢が崩れる。マズい、と本能的に悟った。が。
「……?」
 ルクーナはこくりと首を傾げ、己の左肩を見る。その隙をついて、Zenobiaは体勢を立て直した。
(俺の体力じゃ一撃でも喰らえば即終了だろうなぁ)
 剣から響いた振動に、彼女はそう感じざるを得なかった。彼女の一撃は、重い。
(避けられるか? いや、出来る出来ないじゃない……全部避けてみせる!)
 冷や汗を拭い、覚悟を決めた。

(マーキングは成功しましたね)

 鉄球の隙間からちらりと敵を見て、神谷春樹(jb7335)は再び隠れた。
 向かい側では、陽波 飛鳥(ja3599)が鉄球の間を縫うように駆け抜けている。

(舞闘会、ね)

 移動の勢いを保ちつつ、陽波は腰の刀を納めたままに鉄球を打つ。
(こっちは必死だってのに遊ばれてる気分だわ)
 というか、実際遊ばれているのだろうか。溜め息が出そうだ。
 敵を見る。獅童 絃也(ja0694)がルクーナへと攻撃している所だった。

(はしっこい敵か、利点をすて威力を取った武器か、破壊力はデカイだろうがその分的はでかくなるか……さて)

 ダン。強く地面を踏みつけ、獅童はルクーナの頭部を狙う。
 黒い布に包まれた腕はルクーナの顔を捉えるかと思われたが、しかし。
「鋭いのね」
 ぐん。ルクーナは獅童に一歩『近寄り』、巨大な手甲を彼の拳とぶつけ合わせた。
 両の拳は刹那の間のみ交わり、次の瞬間には獅童の拳は弾かれていた。
「……。貴方も、なかなか、重い」
 じっと獅童の瞳を見て、ルクーナは言う。その声は落ち着いているが、ちらと自らの腕を確認したのを獅童は見逃さなかった。
(威力を落とされた、か。完全に無効化された感覚は無いが……)
 拳がじんわりと熱くなる。
(小さな手合いはやり慣れているが、あの武器は厄介だな)
 ルクーナの長所が速さだとしたら、あの拳での防御は厄介という他無い。

「メイドさんはメイドさんらしくしてなさいな」

 と、突然上空からルクーナへと鉄球が落下してくる。
 空には、ロジー・ビィ(jb6232)が鉈を構えて飛行。
「っ」
 ルクーナは横に跳んで回避するが、ガドンと音を立て棘が手甲を傷つける。
「天使。メイドらしくって、何?」
「ロジー・ビィですわ。そうですね……もう少し、おしとやかにしてみては如何でしょう?」
 何でもかんでも殴りつけるメイドというのもいないだろう。
「……。でも、潰せば何でも解決するわ」
 少し考え、ルクーナは答える。無理な相談だったのかもしれない。
(敵のあの重そうな武器……アレを本来ならば破壊したいトコロですけれど……)
 敵と会話しつつ、ロジーは考えた。
(きっと頑丈ですわよね)
 身を守るのに使うくらいだ。まともな攻撃で壊せる気もしない。
 それなら、と彼女は鉈を構え直す。別の所を狙えば良いだけなのだ。



「直接戦闘能力に乏しくたって、出来ることはたくさんありますっ!」
 竜見の声に応えるように咆哮を上げるスレイプニル。
 猛々しいその叫びは、撃退士達の闘志を燃やした。
「そうね。それは、良いこと」
「大体、ただでさえ強いのにゲートの支援もとかやりすぎじゃないですか!?」
 こくりと頷くルクーナに、彼女は更に畳みかける。
「それ元々天使さんと戦う用だったんじゃ? 私達も対等な存在として認められつつあるなら光栄ですが……」
「……別にゲートがなくたって天使くらい倒せるわ、私なら」
 不服だ、と言わんばかりの声でルクーナは答える。「いや、そうじゃなくて……」と、予想外の返答に竜見は一瞬狼狽えた。
「悪魔だって人間だって、私は叩き潰すもの。同じよ。光栄?」
「えーっと……」
 何か、違う気がする。……違う気がするが、一つだけ。

「――私たちは、そう簡単に叩き潰されませんっ」

 そこだけは、言い返すべきだと、思った。
「……そう、なら、まず貴方から。その馬は困るもの」
 だん、と音を立て、ルクーナは跳ぶ。
「潰すわ」
 一直線に、スレイプニルの首元まで。
「っ! 避けて!」
 叫ぶが、その時には既に殴られていた。頭が吹き飛びそうなほどの衝撃が、竜見自身にも伝わる。
(やば……意識が……)
 一撃で、どれ程持って行かれた?
「無理に立つと、死ぬわ」
 竜見と対して変わらない背のメイドは、冷たく言い放った。
「……私自身は弱っちいですへなちょこです」
 だが竜見は、遠ざかる意識をまだ手放さない。言う事が、あるからだ。
「弱い者たちが協力し強い敵に立ち向かう。それこそ撃退士の「実力」だべ……です!」
 たとえ誰かが倒れそうになっても、誰かが支えてくれる。 一人じゃ勝てなくても、皆で勝つ。それが、撃退士。
「い、言い訳じゃないもん……!」
「……でも」
 ルクーナは何処か懐疑的な顔をする。でも結局、弱ければ潰れるじゃない――そう、言いかけた時

 バシュン!

 一筋の光が、彼女の背中に突き刺さる。

「――それは例えば、こういう事ですよ」

 弾丸を放ったのは、秘かに後ろへと回っていた神谷だった。
 会話によって生まれた隙を、彼は逃さない。
「協力。それが、力?」
「えぇ、その通りですわっ!」
 同時に攻撃を仕掛けたのは、ロジー。空から急降下すると共に、輝く鉈の柄でルクーナの胴体をぶん殴る。
 が、ルクーナはその場に一度しゃがみ、地面から突き上げるようにその鉈をぶん殴った。
「っ……流石に用心深いですわね……」
 守られた。
 けれど、
「隙だらけですわっ!」

「私たちは1人じゃないの」

 後ろからもう一人、陽波もまたルクーナへと接近する。
 地面を強く蹴りながら、彼女は腰の刀に手を掛けた。
「っ!」
 アッパーの直後。足元の確かでないルクーナは、慌てて体制を整え、拳を引く。
「やっぱり掛ったわね」
 彼女は刀を抜かず、身を翻して更に深く、ルクーナに密着した。
「フェイントっ……!?」
 ぼぅん! 今度こそ抜いた刀。その刀身からは、燃え盛る焔が立ち上っている。
 彼女は刀を峰側に回すと、密着の勢いそのままルクーナの頭部へと薙ぎ払った。
 バギャン! 何かがぶち壊れるような凶悪な音が響く。
「……そう。そうなの。分かったわ」
 ゆらり。頭から血を流して、ルクーナは楽しげにそう言った。
「でも、私の力の方が、とっても、強い」
 無表情に、言い返して。
 たんっ。その場で足をクロスさせると、ルクーナはくるりと一回転。
 バギャン! 同じような音が、もう一度響いた。そして、陽波が吹き飛ばされ、鉄球に背をぶつける。

「貴方たち、強いわ。それは事実」
 顔の血はべっとり張り付いているが、それ以上流れない。
「踊りましょう」



「一撃の重さでは勝てない、なら手数で勝負だ」
 Zenobiaの剣は、ルクーナの篭手の隙間を正確に狙う。
 精密で、速い。それが彼女の剣だった。
(1回でダメなら10回、10回でダメなら100回攻撃を当てるだけだ)
 それが俺の戦いだ。Zenobiaの剣は、真っ直ぐに彼女へと向かう。
(誰よりも早く誰よりも多く。もっとだ……もっと早く!)
 だが、ルクーナはその剣を避けもせず、再び拳でぶん殴る。
 ぎぃぃん! 剣が折れないのが不思議なくらいの金属音がゲート中に響いた。
「ゼノ。貴方はあと。」
 淡々と答えて、ルクーナは一足に跳ぶ。狙いは、天風。
「応急手当はしました! あとは……」
「あとは奴から喰らおう」
 短く答えて、天風は正面を向く。飛んできた鉄球を回避すると、その身から蒼く褪めた光が放たれる。
「……餓えているのね」
 光に包まれたルクーナは、力が吸われるのを感じた。そしてその力は。
「もう一撃、耐えられるか」
 天風はふぅと息を吐く。危うい所だ。だが、出来ることはした。
「鉄球のお返しだ」
 次に放たれるのは、蒼き焔。鉄球すら巻き込んで、一直線にルクーナを包む。彼女は拳で払うが、消し飛ばし切れずに服が焼けこげる。
「……怒られてしまうかしら」
 ルクーナは呟くと、ぎゅん、と鉄球の隙間を掻い潜り、天風の懐へと入り込む。
「吹っ飛んで」
 突き上げる。脳天が振動して、辺りの景色が暗くなる。
(一撃……ッッ!)
 耐え、切れ。力の限り踏ん張って、念じる。
「ルクーナ!」
 Zenobiaが彼女に追い付き、もう、一撃。
「……どう、かしらね」
 剣をぶん殴りながらも、ルクーナは微かに何かを考えた。
「もう少し、なのだけれど」



 数秒後。
 鉄球があらかた使われ、中央に大きな空間。
 半数の撃退士が気を失い、倒れていた。
「……最低限以上は、あるのだけど」
 ルクーナはそのど真ん中で呟く。
「難しい所ね」
 じっと考え込むルクーナだが、立ち上がる男に気付くと、口を噤む。
「……何を言っている」
「こちらの話よ」
 ルクーナが答えると、その男、獅童はそれ以上聞かなかった。
 獅童の身体は既にボロボロで、普通なら立てる状態ではない。けれど彼は、立っている。
「あまり無理をすると、死ぬわ」
「悪魔に心配される謂れは無い」
「……そう」
 短い会話。これで最後だと、意識のある全員が感じた。
(アシッドショットは撃ち尽くしちゃいましたけど……)
 スキルを変える暇はない。佐藤は鉄球の陰からじっと二人の挙動を見守った。
 向かいには、同じように潜む神谷春樹。佐藤と目が合うと、小さく頷いた。

「この一撃をもって巻き返す、その身に刻み沈め」

 最早次の事なんて考えない、乾坤一擲の一撃。
「えぇ」
 頷いて、ルクーナも拳を構える。





 何処までも長く思える、刹那。








 それぞれの呼吸の音さえ聞こえる、静寂。




「押し伏せる、沈め」
 ドゴン! より一層激しい震脚と共に、彼は平手を振り上げルクーナの頭上から叩きつけ、
「いやよ。潰すわ」
 ルクーナの拳は、それを迎え撃つように突き上げられる。
「今だ!」
 それを契機に、放たれる二つの銃弾。

 破裂しそうな程巨大な音と振動が、ドーム全体を揺らした。




「……ぐ……」
 Zenobiaが目を覚ますと、そこは先程のドームでは無かった。
「ここは……」
「外よ」
 辺りを見回す彼女に、ルクーナは答える。彼女は血を流しボロボロで、けれど平然と立っている。
「……戦いは?」
「そうね。合格点はあげてもいいわ。貴方たちは、あの場で、今の私に、届いたから」
 表情は動かない。だがその声音には何処か楽しげな様子が感じ取れる。
「そうか……おっと」
 ふっと気が付いて、Zenobiaはポケットから一枚のメモ紙を取り出した。
「これ、依頼斡旋所の番号だ。また機会があれば遊ぼうな」
 ルクーナはその紙を見て、僅かに目を丸くした。
「……えぇ。必ず。きっと、すぐに」
 そうして紙を受け取ると、こくっと元気に頷いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 厳山のごとく・獅童 絃也 (ja0694)
 想いを背負いて・竜見彩華(jb4626)
重体: 厳山のごとく・獅童 絃也 (ja0694)
   <命の限界まで殴り合った為>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
金焔刀士・
陽波 飛鳥(ja3599)

卒業 女 阿修羅
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
撃退士・
ロジー・ビィ(jb6232)

大学部8年6組 女 ルインズブレイド
拳と踊る曲芸師・
Zenobia Ackerson(jb6752)

卒業 女 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター