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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/28


みんなの思い出



オープニング

●共同作戦

「ふむ。‥‥半々、か」
「何を読んでるっすか、兄貴」
 報告書のような物を読む天使――エクセリオの後ろから、彼の妹、リネリアが、彼の背中に飛びつきながらその文書を覗く。

「何と言うことはない。単に例のブツの収集状況の報告書だ」
「むむ、状況はどうっすか?」
 きょとんと首をかしげ、問いかけるリネリアに、エクセリオが苦笑いする。
「悪くはない。しかし、良くもない。‥‥足りるかどうかの可能性は半々と言った所か」
 立ち上がり、彼の戦闘着であるロングコートを羽織る。
「わ、珍しい。出かけるんすか?」
「‥‥ああ。前回の襲撃でも、俺は後方で黙っていたからな。‥‥そろそろ働かねば、参謀の肩書きが泣く」
「それなら私もついていくっす!」

「何?」
 規則正しいリズムを刻んでいたエクセリオの足音が、止まる。
「お前が出る程の事ではない。俺だけで十分、出来る任務だ。それとも何か?兄の策略謀術が、信じられないのか?」
「そういうわけじゃないっすけど‥‥やっぱり、参謀の兄貴が前に出るのは心配っすよ」
 冷たいエクセリオの目を、やさしく見上げるリネリア。
「兄貴は元々直接戦闘向きじゃないっす。手勢は多ければ多いほどいいっすよ。オーレリアさんの騎士たちは、一度帰ったんじゃないっすか?」
「むう‥‥」
 そこまで言われては、断れない。何よりも、リネリアの自身を心配する気持ちも分かる。
 ――渋々、エクセリオは、彼女の同行を承認する。

 だが、リネリアがエクセリオを心配しているのと同じように。エクセリオもまたリネリアを心配する。
 故に、彼は、とある者に援護を頼む事となる。


●アサルト・カウンターアサルト

「すまんな。前の出撃で疲れているだろうに、無理を言ってしまって」
「いえ、お誘いいただけるとは、光栄です。参謀共の手腕、じっくり観察させてもらいました」
 崖上から、ハントレイがエクセリオの方を見つめる。
 純粋な敬意と、餓えに満ちた瞳だった。学べる部分があれば全て学び取り、それを己の力に変えようとする、力への渇望。
「……俺ではまだ、こうはいかない」
 悔しげに呟くのは、エクセリオにすら『勝とう』と考えるが故か。

 取られた手段は、前回と同じ。辺縁地区に於いて、わざと小規模なサーヴァントによる襲撃を発生させ、そこに来た撃退士たちを襲撃する事によりヒヒイロカネを奪うと言う物だ。三天使と、その配下による一斉襲撃に、準備しておらず、敵の情報も欠けていた撃退士たちが迎い撃つのは、余りに困難だった。

「あ、兄貴、見つけたっすよー」
 リネリアが、ヒヒイロカネを一つ拾い上げた瞬間。
 慌ててリネリアが伸ばした手も間に合わず、中央に発生した爆発によって、崖が更に崩れ――エクセリオは崖下へと落とされてしまう。
「兄貴!」
「エクセリオさん!」
「ハントレイ、リネリアを頼む‥‥!」
 前回のエクセリオの襲撃以来。襲撃を識別する方法がないとは言え、何か異常を感知すれば直ぐに出撃できるよう、久遠ヶ原学園はバックアップチームを備えていた。
 その撃退士の姿を見て、エクセリオは最後に、ハントレイにそれだけ叫んだ。


●ハントレイの判断

「ちっ……」
 エクセリオと分断された次の瞬間。ハントレイは舌打ちすると、急ぎリネリアと合流しようとする。が。
「無茶は駄目っすからね! 兄貴の援護を!」
 崖下に叫び、サーバントへ指示する彼女の声を聴き、彼は足を止めた。
(……違うな)
 考える。今自分はどう動くべきか。何のためにここにいるのか。
 エクセリオはどういうつもりで『リネリアを頼む』と言ったのか。
 リネリアの元へ駆けていく撃退士達の姿が見えた。
(少ない、な)
 こちらの数が分かっているなら、もう少し居てもいい。であるなら、他の撃退士は何処へ……?
(――成程)
 理解する。
 結果、彼はリネリアに背を向けた。
 今自分がすべきことは、リネリアと合流することではない。
「共闘は久しぶりっすね。心強いっす」
 その背中に、リネリアが声を掛けた。
「ああ! 死ぬなよ!」
 振り向かず、答えて。
 翼を広げ、彼は山中に駆け込んだ。


●バリスタ・シューティング

(今が恐らく、『これ』の使い時だ……)
 普段手にした大弓をしまい、ハントレイは考える。ここに来る以前、彼はエクセリオにある『兵器』を与えられていた。
 それはまだ試作品だが、ハントレイが扱う限りにおいて多大な力を発揮する。特に『このような状況下では』。
(この辺りが良いか……)
 辺りを見回す。山の中。その場所からは、崖下の光景が一望出来た。
「散れ、鎧共!」
 配下の鎧型サーバントに命令を下す。何体かのサーバントがその場を離れ、周囲の警戒に当たる。
(さて、後はこれだが)
 ガドン。重たく低い音と共に、その兵器は現出される。
 金属質の頑強な土台に載せられたのは、普段彼の扱うそれとは似つかぬ機構を備えた巨大な弓――否、弓銃か。
(俺に扱えればいいが……)
 遠目を効かせる為、ハントレイは既にある程度の集中力を割いている。その上でこの不安定な新兵器を使えるかは、彼にとっても不安の材料だった。

『大型魔弩砲試験型』

 射程を極限まで伸ばすことに主眼を置いたその兵器。
 消費魔力や機動性において多大な欠点はあるが、上手く扱えば驚異的な力になるだろう。
(あとは……クランを見習うか)
 草木で軽く身を隠蔽し、ハントレイは息を潜める。

 遅かれ早かれ、撃退士達はここへ来るだろう。

(俺の役目は、それまで一発でも多くの矢を撃つことだ)


リプレイ本文

「ほほほ……してやったりなのじゃ!!」

「この前返り討ちにしたのにまだ懲りてなかったのね! あたいがもう一度やっつけてやる!」
 以前、研究所襲撃の折にハントレイと戦い、そして撃退した雪室 チルル(ja0220)は、血気盛んにそう言った。
 あの時、撃退士達はハントレイをかなりの所まで追い詰めている。倒せない相手では、無い。

「まろの計略により騎士団の天使共は分断されたのじゃ!!」

「出来れば、他の天使を相手する人達とも連絡を取り合えるようにしたいのだけど」
 龍崎海(ja0565)が提案する。今回の作戦では、他の班が同じく騎士団のリネリア、エクセリオとも刃を交えることとなっているのだ。
そちらの班とも情報を共有出来れば、ハントレイを発見しやすいかもしれない。
「では僕が連絡役を引き受けますよ! こちらから聞きたいこともありますし!」
 手に持った地図をじっと確認し、レグルス・グラウシード(ja8064)は立候補する。

「特にエクセリオ!!奴には借りがあるのじゃ!」

「直接火砲支援、V兵器じゃ不可能な戦法だね」
 キイ・ローランド(jb5908)は半ば感心したように零す。
 撃退士達は当初、三天使を分断しそれぞれを叩くつもりでいた。初手は成功。しかし状況は油断ならぬ状態である。
 現在、他二つの戦場には謎の友軍狙撃が行われている。撃っているのは恐らくハントレイ。だが、そんな長距離でのサポートなど前代未聞だ。
 想定していないからこそ、後手を取る。撃退士はハントレイの潜む山に分け入り、登りながら捜索しなければならなくなった。
「天使も何だかんだで侮れない敵だよね」
 退けられた相手とはいえ、油断は出来ない。

「皆の者、今が好機!ばちこーんとやってやるのじゃ!」

「見つけ次第連絡を入れるわァ……番号はこれで大丈夫ゥ……?」
 黒百合(ja0422)はお互いの連絡先を確認する。
「……被害が大きくでる前に、叩く必要がありますの」
 こくり。頷いてから、橋場 アトリアーナ(ja1403)は呟いた。影野 恭弥(ja0018)は無表情に山の頂上を見つめる。
 これ以上話す時間は無い。顔を引き締め、撃退士達は三手に別れて山へと向かった。

「……まろの話を聞くのじゃー!!!」

 その背中に崇徳 橙(jb6139)は叫ぶ。誰も聞いてなかった。


「狙撃かァ、少なくとも二つの戦場を見渡せる位置と高さよねェ……同時に2箇所に撃ち込んでいるみたいだから片方の場所が死角となる場所は排除ォ……」
 陰影の翼で視界を確保し、黒百合は周辺の地形を確認する。が、まだ情報不足だ。
「少なくともこの射程は一般兵器じゃないわねェ、大型兵器ィ? となると使い勝手は悪いはずゥ…最悪は固定兵器よねェ……」
 もしそうだとすると、ある程度は削れてくる。
「足場が悪い場所、不正地は排除ォ、岩場などで足場がしっかり場所ォ……且つ、木々の密度が薄い場所よねェ……この条件に合う場所はァ……」
 じぃ。金色の瞳で黒百合は山を見回す。
 同時に、彼女の隣でハントレイの居場所を探すのは龍崎だ。彼もまた、陰影の翼を用いて上空から観察を続ける。
「草木を避けるために上を通すなら、矢が見えるはず」
 彼の狙いは黒百合とは少し違い、矢そのものの確認だった。
「狙う先は崖下だ。視線や射線を通すにもそれなりの角度が必要なはず」
 無論、他の狙いも付けて……急勾配や高い木だろうか? 彼がそう当たりを付けた頃、黒百合もまたある程度の目星を付ける。
「ちょっと行ってくるわァ……見つけたらすぐ戻るつもりよォ……」
 一言龍崎に告げ、黒百合は先行した。

「対ハントレイ班のレグルスです!」
 足を止めず、捜索を続けながらレグルスは他班と連絡を取る。
「狙撃班があなたたちを狙っています! ……そこから見える高い岩や崖を教えてください!」
 矢の先。ハントレイの狙う彼らから、少しでも情報を得るために。
『もしもし、ぷりてぃーかわいーえるれーんちゃんだよっ。んー、崖は、3箇所あるけど……どれも上の状況は分からないかなっ!』
『道の先を12時の方向とする4時の方向からきてるー』
 電話口から返ってきた答えはしかし、レグルスの推理を完璧にするほどのものではない。
「了解です……ありがとうございます!」
『どういたしましてー☆』
 戦闘に影響せぬよう、素早く礼を言ってから彼は手持ちの地図に情報を書き込む。
「一方の戦場の敵に攻撃を当てる一方で他の場所をも、と考えるなら、この三点が為す三角形は…そんなに大きくないはず!」
 最低でも、この範囲の中に敵はいる!


 ――バシュン!

「あらァ……?」
 一人先行する黒百合は、いくつかの捜索点を確認する中、矢を撃つ音らしきものを耳にする。
 矢自体は確認出来なかった。しかし近い。……黒百合はにぃっと口角を上げた。
「最近、負け続けの騎士団の弓遣いは私程度の飛行物体も撃ち落せないなんて素人みたいねェ」
 聞こえよがしな、僅かに笑いの籠った声で彼女は言う。
「ほらァ……特別サービスで動きを緩めて上げるからァ……撃ちなさいよォ、シ・ロ・ウ・トのハ・ン・ト・レ・イちゃん……臆病者の天使様ァ♪」
 侮辱の言葉。挑発の文言。妙な甘みさえ混ぜた声音で、彼女は謡うように騎士を愚弄した。
 狙うのは、反撃。さすれば居場所がまるわかり。……だがいくら警戒しても、攻撃の気配はない。
(流石に見え見えだったかしらァ?)
 思いながら、黒百合は更に進む。音の聞こえたのは、こっちだったか……?
 翼を翻し進み、僅かに開けた所に出た、瞬間。

 ――バシュン!

 先程聞こえた音が、すぐ目の前で響き、

「ッッ――!!」

 咄嗟にバックラーを構える彼女だったが、小型の盾は相手の攻撃を捉えず、
 ギャジュ。
 肉が、嫌な音を立てた。

 腹部に刺さっているのは、――矢だ。
「……見ィつけたァ……」
 脂汗を滲ませて、黒百合は呟く。その視線の先。重厚な鉄の塊を動かす、天使。

「あぁ。……見つけた」
 ハントレイは、キッと黒百合を睨み付けた。
「言いたいことは色々あるが、言葉で返しても意味はないだろう」
 ぶっきらぼうに言うその態度には、若干の苛立ちが見て取れる。挑発を聞いていたのか。
 撃たれたのはしかし、彼が矢を撃つ直前だったからだろう。黒百合の眼にはそう映っていた。彼女が彼を見つけた瞬間、彼の中に微かな動揺を感じ取ったから。
 見て分かる辺り、未熟だ。
 黒百合は懐から発煙手榴弾を取り出し、投げると共に身を翻す。
 戦う気は毛頭無い。彼女は自分の役割を果たした。後は離脱さえすれば……
 バシュン! 再び矢を放つ音が聞こえ、彼女は振り向き様に盾を活性化。
 矢は盾の中心に突き刺さるが、勢いは殺しきれない。腕を中心に、腹部の傷跡まで衝撃が伝播した。
「ッ……」
 顔を歪める。だが煙は上がっている。仲間に居場所は……伝えた。


「近くにいるのは一体! 少し遅れて更に二体来ます!」
 生命探知を使用し、レグルスは仲間に伝える。サーバントだ。
「よくやったのじゃ! 褒めて遣わす!」
 崇徳は偉そうに答えると、ヒリュウと視覚共有。情報を元に敵の具体的な位置を探る。
 こんな山の中だ。いると分かっている鎧なら見つけるのに対して時間はかからない。
「ほほほ、この偉大なるまろにかかればお主など丸裸と同じなのじゃ!」
 鎧達に感情があればムッとしていた所だろうか。しかし奴らは特に反応を見せない。
 敵が射程内に入るのを待って、崇徳はヒリュウの召喚を解除する。
 ランスナイトは崇徳を狙い、穂先を向け突進してきた。
「わわっ……何をするのじゃ!」
 槍が彼女の二の腕辺りを裂く。が、そこは彼女の狙った範囲内だ。
「行くがよい!」
 崇徳はヒリュウを再召喚し、ハイブラストを指示。
 ヒリュウは一鳴きすると、雷をランスの左足に放つ。
『……!』
 攻撃を受けた槍持ちは、がくっと左膝を突く転倒までには至らなかったが、大きな隙が出来た。
「……そこ、逃しませんの」
 すかさず橋場がランスナイトに接近。その横腹にバンカーを突き付ける。
 片足倒した甲冑が、それを避けられる道理も無く。
 ズグァギャン! 金属が滅茶苦茶に潰れる音、そして衝撃が辺りに響く。
 刹那の静寂の後、ランスナイトはモノとなってその場に倒れた。
「僕の力よ! 仲間の傷を癒す、光になれッ!」 
 レグルスはライトヒールで崇徳の傷を癒す。「うむ、ご苦労じゃ!」と彼女は当然のように言い放つが、人が良いのかレグルスは文句を言わない。
「む……あれは……?」
 と、崇徳は山の中に立ち上る一筋の煙を確認する。
 釣られてレグルスもそれを確認。仲間からの連絡は来てないが、しかし……
「ハントレイを発見したのでしょうか」
「……なら、急ぎますの」
 橋場は残り二体の敵を視界に入れる。盾と槍が揃っている。ならば……
 彼女は二体の懐に入り込む。ゆらり。瞳の紅い光が彼女の動きに合わせて尾を引いた。
 両の拳は黒いアウルを纏い、二色の光は互いに膨れ上がる。
『っ……』
 盾持ちが警戒し後ずさる。逃げるにはしかし、遅かった。
 膨れ上がったアウルが二体の鎧を襲う。紅と黒の奔流。二重の光に呑まれ、彼らは倒れる。
『……!』
 辛うじて……どうにか、盾持ちだけは意識を保っていた様だが、すぐに地に付す。……眠ったのだろう。
「ボクは先に行ってますの」
 橋場は脚部にアウルを集中し、全力で山を駆けて行った。

「あれって敵の居場所よね!?」
 煙を見た雪室は、ランスナイトの関節部に剣先を突き刺しつつ声を上げる。
「そうだね。他の班の誰かが見つけたみたいだけど……」
 同じくランスナイトの刺突を受け止め、返す刀に鎧へ斬撃を見舞いキイは応答する。
 が、その表情は明るくない。
「……連絡がない、ね」
 ハントレイを発見したのなら、一報があってもおかしくはない。
 それが無いと言うことは……
「ええと、連絡出来ない状況なのね!」
 シルドナイトのチャージを、雪室は剣でいなす。からりと音を鳴らし、表面の氷が剥がれた
 ランスナイトが再び雪室に刺突を仕掛けんとするが、一歩踏み出した瞬間そのまま崩れるように倒れる。
 見れば、その背には数発の銃痕。
「戦闘中か、やられたかだろうな」
 回り込んでいた影野の攻撃であった。
 ちら、と影野は煙を見る。かなり高い位置だ。木々に阻まれて地形までは確認出来ないが、影野の想定もまた的中していたのだ。
 もう一体のランスナイトに視線を戻す。さっき倒したのも含め、敵は三体。ランスナイトが二体と、シルドナイトが一体だ。
 影野の射撃を警戒したランスナイトは矛先を影野へ向けるが、彼は動かない。距離がある。
 がしゃんがしゃんと足音を立てて近づくランスナイトを、彼は無表情で撃った。一発撃つ度、腹に銃痕が生まれていく。が、貫通はしない。
「隙あり!」
 その背中を、雪室は容赦なく斬り裂く。氷の剣と鋼鉄の鎧が太陽光を反射し、煌めいた。
「そこを退いてもらおうか」
 最後に残ったシルドナイトに、キイはアーマーチャージを仕掛ける。
 突き飛ばされたシルドナイトは木に激突。木の葉が散り、彼らの頭上を舞った。
「これは放っておいて先に進もう」
 盾持ちには大した速度も力も無い。キイは煙に向けて走り出す。「わかった!」と答え、雪室も木々の上に飛び乗った。


「ほらお前たちが望んでいるものだ」
 龍崎はその場に無数の金属片をばら撒いた。ハントレイは眉をぴくりと動かし、「騙せるつもりか」と呟く。
「……お前達が大人しく渡せば戦うことも無い、というのは事実だがな」
 敵の気を引ければ、と考えたのだがそこまで頭も悪くないらしい。龍崎は槍を構えながら、じっとハントレイの眼を見る。いくつか矢傷を受けたが、さしたるダメージではない。
「いい具合に分かれてくれたよ。あんたの役割から真っ先に撤退はできないだろ」
 槍で上空から刺突を試みつつ、彼は言う。地上にはもう一体盾持ちが控えているが、空の敵にやれることはないらしい。
 ハントレイの攻撃は緩かった。援軍を警戒しているのか、何なのか。
 攻撃を受け止められ、後退しながら龍崎は携帯を手に「できるだけ引き延ばせ。ハントレイを討つ」と連絡を入れる……フリ、だ。少しでも動揺を引き出せればこちらのもの。
「……何を引き延ばすというのだろうな」
 ぽつり、ハントレイが反応した。瞬間、龍崎は水の矢で彼を撃つ。彼は舌打ちしつつ弓でそれを払った。

「……その隙は見逃さない……沈むのですの!」

 ――刹那、飛び出したのは橋場。
 この時を彼女は待っていた。……ハントレイの集中が、他の味方に写る瞬間。
「……っ!」
 咄嗟にハントレイは身を翻す。が、彼女のバンカーは既に射程圏内。
 ドガガガガッ! 二発の杭が連続でハントレイの胴体を狙う。ハントレイはこれを弓で払おうとするが、その威力を消しきることは出来ず――
「――がはっ!」
 血を、吐く。多少弱めたとはいえ、二本の杭はハントレイの胴に突き刺さっている。
「ちぃっ……!」
 苦悶に顔を歪めつつ、ハントレイは矢を番え、放つ。放つ。放つ。クイックの矢全てが橋場を標的とした。
 攻撃を終えた直後。橋場はこれを回避しきることが出来ず、同じく胴体に突き刺さる。
「――ッッ!」
 声にならない、苦痛。紅の瞳はハントレイを睨み付けた後、倒れる。

 ――と。

「また会ったな。邪魔させて貰うぞ」
「これでも喰らえー!」
 キイ達もハントレイの元に到着。
 雪室が封砲をぶっぱなし、敵をまとめてを攻撃した。
「ちぃっ……!」
 何とか受けるものの、傷に響く。苦痛に顔を歪めるハントレイに、キイが接近。怪異剣を叩きつけんとするが、盾持ちが割り込み、これを防ぐ。
「遅れました!」
「ほほほ、まだ生きておったのかハントレイ!」
 レグルス、崇徳もハントレイの元に揃い、攻撃。

「新手かっ……!」

 彼が二人に気を向けた瞬間……背後から、銃声が響く。
「……!」
 一瞬遅れる、反応。弓で弾を受けるが、軌道の変わった弾は先程の傷口に再び穴を空ける。

「……これ以上粘る必要も、無いか」

 周りを見渡し、ハントレイは呟く。
「逃がすと思うのか?」
「逃げるさ。……俺も生きて帰らねば、意味がない」

 盾持ちがハントレイの前に立ちふさがり、天使は木々の間に身を隠す。

 撃退士の側も、これ以上追いかける必要は無い。
 彼らの目標は多くが狙撃を止めることで、撤退させることが出来たならそれ以上戦う理由がないのだ。


 残ったサーバントに号令を出して、ハントレイは帰還する。
 もし、相手の連携がもっと巧であれば……自分は今、どうしていただろうか。
(単騎の力であれば……)
 一対一で負ける気は毛頭ない。が、人間はここまで強いのかと驚いたのも事実だ。
 人間は底が知れない。自分ももっと強くならねば……いずれ。
「……考えても無駄なことだ」
 結局、同じことだ。……今より強くなれば、それでいい。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
重体: 無傷のドラゴンスレイヤー・橋場・R・アトリアーナ(ja1403)
   <『一矢確命』の無数の矢を浴びた為>という理由により『重体』となる
面白かった!:2人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
撃退士・
崇徳 橙(jb6139)

大学部6年174組 女 バハムートテイマー