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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:9人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/16


みんなの思い出



オープニング

●渇望する射手と臆病な従士

 ――びゅぅ。
 風を裂く音が響く。そして幾秒と待たぬ内、的の中央に矢が刺さった。
「……」
 残心の姿勢のまま、淡々と穴だらけの的を眺める男が一人。体型は痩せて見えるものの病的なものではなく、むしろ無駄な筋肉が一切ないところから彫像のような印象を受ける。
 《一矢確命》ハントレイ。それが彼の名だった。
 彼は二の矢を弓に据える。弦を引く、狙いを付ける、風を読む。そして、放つ。
 ――びゅぅ。
 大気が雄叫びをあげた。放たれた矢は正鵠を過たず、射抜かれた的は粉々となった。
「……」
 この程度では満足できない。そう告げるように彼は魔力を固め、手中に新たな矢を生み出す。
 その眼は再び設置された的――その、さらに先を見据えていた。
 研究院《祓》の、研究所での一戦は天使と人間の痛み分けに終わった。否、それは人間から見てである。
 天使にとっては雫を奪還できず、“氷宿”フロスヒルデも奪われた。最終的には騎士団長オグンまで前線に足を運び、“焔宿”レーヴァティンを大衆の目に晒したにも関わらず、である。
 さらに言えば、彼が受け持った研究所北東戦域は彼の完敗という結果に終わっている。
 彼は今回の戦いを「敗北」と捉えていた。だからこそ、今のままでは満足できない。
 もっと、もっと、もっと。
(自らを鍛えなければ――)
 悔しさを努力に変じ、彼は己の『渇望』に従ってひたすらに弓を引き絞るのだった。
 やがて射場に湯気が立ち込め始める。それはすべて、彼の発した汗によるものだ。
 1000を超える数の矢を放ったところでハントレイは弓を置く。そして振り向く。

 そこには『青森みかん』と書かれた段ボールが置かれていた。

「……」
 彼はただ黙ってそれを見つめていた。まるで矢を射る時のように。
 だが、それは勝利への『渇望』故の眼差しではない。単純な呆れ、である。
「……そこで何をしてるんだクラン」
 段ボールを軽くノック。
「ぴぃ!」
 段ボールが跳ねた。のそのそ、と中から何かが這い出してくる。それは白を基調とした衣を纏う女性。
 ハントレイの従士、クラン・ティーヴである。
「あ、あの……どうして居るってわかったのですか?」
「これでも射手だ。隠れてる者を見つけるのは、俺にとってさほど難しいことではない」
「そ、そうですか……あ、あの……ごめんなさい」
 なぜそこで謝罪する。彼はそう思った。
「ええと、あの……た、タオル……お持ちしました」
「ああ、ありがとう」
「いえ……ごめんなさい」
 2度目である。まるで自分が悪者になったかのような気分であった。
「そ、それと……その……ハントレイ様に命令書です」
 彼女はおずおず、と紙筒を差し出した。文面を目にした瞬間、彼の眼に焔が宿る。
「ヒヒイロカネの奪取命令――!」
 撃退士の使用するヒヒイロカネは、今も天使陣営にとって重要な研究課題のひとつとなっている。その為のサンプルを集めよということであった。
 ヒヒイロカネを奪う――それは取りも直さず、雪辱の機会を与えられたということ。
「こうしては居られん。俺はすぐ出撃する。甲冑を持ってきてくれ」
「は、はい!」
 クランは慌てて射場を出ていこうとした。と、
「いや待て!」
「はひ――ひゃぁ!?」
 彼女は急停止した。そして足を滑らせ、背中を強かに床へ打ち付ける。 
 それを気にもせずハントレイは考えた。それはクランの事だ。
 《祓》での戦いの時、彼女が決戦に怖気づいていたから置いてきた。だが、いつまでもこのままでいいのか?
 焔劫の騎士団の従士であるならば、主に従ってどこまでも戦うべきであろう。
 彼は自分の事を未だ未熟者だと考えている。今は自分の事で精一杯だから、彼女の性格をどうこうするのはどうしても後回しになっていた。
 今回は雪辱戦とはいえ、クランを連れて行く余裕がある。それに彼女は臆病が過ぎるだけで、ちゃんとした実力はあるはずなのだ。
 彼は武骨である。彼女に「もっと自信を持て」と言って聞かせることができない。だが、自らの背中を見せることはできる。
「クランも装備の準備をしろ。お前も出撃するんだ」
「いつ……ご、ごめんなさ――え、ええ!?」
 彼女は仰向けになったまま、青い顔で己の主を見上げるのだった。



「Emergency!」
 それは撃退士を集めた炎條忍(jz0008)の第一声だった。
「Placeは四国! サーバントを引き連れた天使が現れた!」

 情報によれば、それは炎劫の騎士団が一角『ハントレイ』。
 突如市街地に現れた彼らは、市民には手を出さず、一直線に進攻していた。

「そのStraight Lineにあるのが、この研究施設だ!」

 炎條が指示した地図には、一つの施設が記されている。
《祓》の管理する、ヒヒイロカネの研究施設だ。
 おそらく、ハントレイの狙いはここ。
 既に施設の守備隊も動き始めている。しかしあくまで研究用の建物。
 その上以前襲撃を受けた研究所と比べれば、遥かに小規模な施設。
 配置されている撃退士はそう多くない。急ぎ増援を寄越してほしいと、向こうから連絡があった。
「今回は俺もEntryする! 一緒に天使を押し返すぜ!」



 雨だった。
 さぁさぁと柔らかく降る雨滴の中に、彼は佇んでいる。

「……来たか」

 やがて現場に到着した久遠ヶ原の撃退士達に、ハントレイは静かに呟いた。
 髪は雨に濡れ、顎の先から垂れていく。
 その気になれば、彼らはそれを透過出来るはずなのに。

「待っていた。再びお前達と相見える時を」

 ハントレイは、弓を空へ掲げる。落ち着いた――ともすれば、隙だらけのようにすら見える所作。
 だがそれは違う。彼は全ての神経を撃退士に向けていた。

「お前達人間に負け、俺は思った」

 語りながら、彼は手の中に矢を形成する。淡く輝く、光の矢。

「強くなりたい。誰よりも強く。もう負けることなど無いように」
 矢を弓に番え、ハントレイは引き絞る。
 ギギ、と弦が音を立てた。

「――そうだ。俺はお前達に勝利することを渇望しているッ!」

 解き放つ。
 矢は一直線に空へと向かい、雲の真下で弾けた。
 瞬間、激しい光が辺りを包むこむ。

 幕開けだ。


リプレイ本文


「天魔を滅する。それが撃退士の使命。俺の任務」
 鎖弦(ja3426)は静かに呟いた。
 天使。その言葉に引き寄せられるように、彼は戦場へ足を向けていた。
 これは己の意志なのか。……それとも、幼い頃より調整されていた、兵器としての宿命か。内心の葛藤を抑え、今は目の前の敵に集中を向ける。
 ……それがたとえ、一時の逃避だとしても。

(凄い気迫……なの……!)
 ハントレイの発する気迫に、若菜 白兎(ja2109)は気圧されそうになる。
 鋭い威圧感。目を逸らすことの出来ない存在感。けれど、敵は他にもいる。
(目の前の敵をしっかり見据えて踏んばらないと……なの)
 淡いブルーの光を纏い、彼女は盾をしっかりと構える。
「久しぶりの四国だね。大きな戦闘は終わったけど敵もやっぱり諦めないか」
キイ・ローランド(jb5908)が四国の地を踏みしめたのは、以前の大きな戦闘……今回のハントレイも姿を見せた、研究所攻防戦以来であった。
「なら今回もお帰り願おうか」


「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
 光纏変身を完了した千葉は、拳を強く握りしめシルドナイトの元へ向かう。
「後で挨拶はさせて貰うとして、まずは研究所を護り切るぜ!」
 後方のハントレイをちらりと確認してから、彼は目の前のサーバントに集中する。
「如何にも守りは堅そうだが……」
 既に交戦している仲間も、たびたびシルドナイトの巨大な盾に攻撃を阻まれてしまっている。
「ゴウライブラスト!」
 走りながら、まずはライフルをお見舞いする千葉。
『ッ!』
 ガィン! 鈍い音を立て、シルドナイトは弾丸をガード。
 見かけ倒しではない。シルドナイトは防御に特化した力を持っている。
「厄介ですね、これは」
 神林 智(ja0459)もコンパウンドクロスボウで支援射撃を行う。
 サーバント達は道路に横に広がっている。このままでは、ハントレイの所までたどり着くのは至難の業だ。その上……。
 ビシュン! 鋭く風を切る音と共に、一筋の矢が飛来する。
「――庇護の翼でダメージを分散してっ!!」
九鬼 紫乃(jb6923)は守備隊のディバインナイトに向け短く叫んだ。
「……!」
一筋の矢。しかしよく見ればそれは、一人を狙った三発の連続する矢。
最初の一撃は間に合わずルインズの肩を抉るが、残りの二回は傍らのディバインが受け、ダメージを減らす。
(弓……ね。弟を思い出すわ)
 未知の武器でなければ対処法はあるはず。ただ、この距離は痛い。
「早く近づかなきゃならねぇなッ!」
 長い髪を雨に濡らしながら、炎條忍は言う。ハントレイは弓術の騎士。このまま前に進めない状況が続けば、撃退士が圧倒的に不利。
 と、その時、上空からただ一人、龍崎海(ja0565)がハントレイに向け急降下する。
 キィン! 落下と共に突き出された槍。ハントレイは弓で流すように受ける。
「騎士団従士とは何人もやりあったけどいまいちだった。アセナスと同じ騎士団員なら少しは楽しませてくれるんだろう?」
 攻撃様、龍崎はハントレイを挑発する。
「……ほぅ」
 ハントレイはそれを聞き、にやりと口角を上げた。
「アセナスか。アイツに負ける気は無い。……特に、今のアイツにはな!」
 ばさり。翼で身を翻し、一回転。流すだけだった槍を、ハントレイは弾く。
「っ!」
 槍を弾かれ、龍崎はハントレイとの距離を僅かに離す。
「空から確認したけど、迂回する援軍はいないよ!」
 そのまま、伝令。合流前、龍崎は空からそれを確認していた。少なくともこの近辺に伏兵はいない。だとすれば……
(対空攻撃を持っているのはハントレイだけかな。なら俺をまず狙ってくるだろう)
 シルドナイトやランスナイトに空を飛ぶ自分は討てない。それが必然だろう。挑発もその為だ。
「邪魔だ、退いて貰おうか」
 龍崎がハントレイの気を引く間、キイは体重を込めてシルドナイトへ一撃を加える。
『ッッ!』
 小さい体ながらも、その攻撃は、シルドナイトを吹き飛ばす。同時にディバインナイト達もフォースで無理やり道を抉じ開けた。
 後方。戸蔵 悠市(jb5251)はハントレイとの距離を目測する。
 直後、前方に召喚されるスレイプニル。一声鳴くとナイト達の頭上を駆け、ハントレイの後方まで回り込む。
「……ッ! 速いッ!」
 スレイプニルの足は、主人の倍の速さを持つ。そして低くであれば空を駆けることも出来る。故に、届く。
 そしてスレイプニルの狙いはハントレイではない。彼の付近にいた、シルドナイトだ。
道が、通る。
神林は、ハントレイへの接近と共に得物を村雨に持ち変える。
「私も弓は好きですが、腕前じゃ及ばない故……失礼します!」
 直後、一閃。刀を受けながら、ハントレイは笑う。
「お前は久しいな、黒髪。お前達にもリベンジしたいと思っていたよ」
「お久しぶりです、喜んでお相手致しますよ。……いつぞやとは逆のシチュエーションですかね?」
 あの時は、自分達撃退士が攻める側だった。
 だが今回は違う。ハントレイ達から、研究所を守りきらなければならない。
 神林は思う。以前のハントレイとは違う。
 ……だが、関係はない。自分達は、やれることをやるだけだ。
「私じゃ貴方には多分敵いませんから、おっかないけど精々足止めさせてくださいな」
 刀を突き付け、神林は宣言する。
「ここは通しませんよ」


「黒狼の眷属といわれる幽幻の忍が何故恐れられたか……その身で知れ」
 ビルの壁面から、鎖弦は水の龍を生み出しナイトを飲み込ませる。
 その後、壁面から飛ぶと、今度は漆黒の刃でナイトを撃つ。
 縦横無尽に行われる攻撃が、シルドナイトの判断力を少しずつ削り取る。
「負けていられないな!」
 炎條も兜割りでシルドナイトに刀傷を与え、動きを鈍らせる。
「ゴウライソード、ビュートモードだ。喰らえ!」
 千葉は蛇腹剣を鞭上に伸ばし、足元を絡め取れるか試みる。調度炎條の兜割りで朦朧していたシルドナイトは、それを躱せず鎧の身体を地面に打ち付けた。
 そこへランスナイトが突進してくるが、若菜のシールドがそれを通さない。
「攻撃はさせない、の!」
 さしものナイトの攻撃も、彼女の盾を突き破ることはない。むしろ盾に阻まれ、その反動で隙が生まれる。
「そこだっ!」
 キイはその隙を逃さない。怪異剣の斬撃で、鎧の表面に大きな傷を与える。
「どちらかと言えば魔法に弱い、かな」
 数度の攻撃の手応えで、キイは判断する。どちらにも特別に弱いわけではないが。
 守備隊のルインズブレイドはその報告を聞くとリボルバーに全身のエネルギーを溜め込む。
 黒色の光がシルドナイトもろともランスナイトを貫いた。封砲である。同時に、アスヴァンのコメットも頭上から降り注ぐ。
「ゴウライ、ナッコォ!」
 ガギン! ゴウライガの拳がシルドナイトの盾をへこませる。
「なるほど、やっぱり堅いな。ならば!」
 すっ。千葉は構えを変える。表面でなく、内側へダメージを『徹す』ことが出来れば。
「ゴウライ、ソニックパァァンチ!」
 ガンッ! 衝撃は盾を伝わり、本体へと響く。
 バゴンッ! シルドナイトの一体が、音を立てて崩れ落ちた。
「今だ!」
 相手の防御が崩れたのを見計らい、キイはランスナイトを一体アーマーチャージで押し出す。
「こいつを!」
 そして、すぐさま伝達。孤立させたランスナイトには、シルドナイトの防御は届かない。
「了解した」
 黒狼天牙と白狼滅爪。二対一刀の愛刀を手に、鎖弦がランスナイトを斬り伏せる。
「これなら大丈夫そうなの!」
 若菜も盾を大剣に持ち変え、攻撃に加わる。
 とはいえ、味方への回復も忘れない。淡青色のアウルで、ディバインナイトや炎條の傷を癒す。
「Thanks!」

 対サーバント班は優勢だった。
 これなら。もう少しだけ時間を稼げれば。


(あえて自らの姿を晒して注意を引き、挟撃や調査のための時間を稼ぐ。……どこかで見た戦法だな)
 そう思って、戸蔵は苦笑する。彼はこれまで何度もハントレイと戦いを繰り広げてきた。
(目的は時間稼ぎか、戦力集中させることか……勿論可能なら正面突破するのだろうが)
「それにしても随分と影響されたものだ」
「……」
 ちら、とハントレイは後方の彼の姿を見る。覚えているぞ、と言いたげに。
 ――キィンッ!
 と、ハントレイは突如身を翻し、弓で攻撃を受ける。黒い、アウルの弾丸だ。
「簡単には当たりませんか」
 ヴェス・ペーラ(jb2743)のダークショット。それがハントレイを狙っていた。
 彼女は建物の陰に隠れ、虎視眈々と射撃の時を狙う。
「……狙撃手か。しかしこの力は……」
 冥魔の力だ。冥魔の力を持つものは、ハントレイ達天界勢の攻撃に弱い。
「逆もまた然りです」
 ハントレイは自分の攻撃に弱い。身を隠しながら、彼女は攻めることだけ考えていた。
「どこ見てるんだ!?」
 が、そんな彼に、龍崎は雨霧護符を使い水の矢を浴びせる。
「ちっ……」
 弓を回し、打ち消すように防御しながらも、ハントレイは舌打ち。雨の中、上空を取られて戦うのはそれなりに不利な条件だ。
実際、数本の矢は彼の防御をすり抜け小さいながらも矢傷を与える。その度に、ハントレイは僅かに顔を歪めた。
「いつまでもやられると……!?」
 対するハントレイは天に弓を引き絞る。
(来いっ……!)
 龍崎はシールドを使う心構えをしてそれを待つ、が。
 バシュン! 放たれた矢は、龍崎には当たらずあらぬ方向へ向かう。
「何っ……?」
 矢は放物線を描き、後方のサーバント班……守備隊の、アストラルヴァンガードに命中。左の肩に突き刺さり、血が噴き出る。
「空に居られるのは厄介だ。……が、一人で戦っているわけではないからな」
 ちらり、配下のサーバントを確認するハントレイ。ランスとシルドが一体ずつ倒れ、他もダメージが蓄積してきている。
 回復役や盾役は複数いるようだが、その中でもハントレイは守備隊が『穴』と断じていた。
「一人じゃないのはこちらも同じ」
 地上から、白と黒の球がハントレイを襲う。
「貴方の騎士としての覚悟、見せてもらうわ」
 九鬼の光闇珠による攻撃。……いや、それだけでない。二つの球の最中には、どこか澱んだ氣と砂塵が渦巻いている。八卦石縛風。命中させた相手を石化してしまう、脅威の技。
「覚悟か」
 但し、力量によってそれは覆される。
 ハントレイは弓を回転。流すのではなく正面から全て弓に受けさせた。
「少しは伝わったか?」
「……貴方、嫌いなタイプじゃないわ。敵じゃなければ、ね」
「俺も強い者は嫌いじゃない」
 答えるハントレイに、スレイプニルの蹄が襲い掛かる。
「っぐ……!」
 急所を狙った攻撃に、ハントレイは一瞬ひるむ。
「ハントレイさんの目的って?」
「目的?」
「単に研究所を襲うだけ? それとも……もしヒヒイロカネが欲しいなら、研究所よりも手近に手に入れる当てがあるんじゃないです?」
 ぎゅ、と刀を握りしめながら、神林は挑戦的な目をハントレイに向ける。対するハントレイは、虚を突かれたような顔。
「……なんてね。勿論お渡しするつもりはありませんし、騎士の名を冠するならそんな事はしませんよね」
「……いや、まさかな」
 ハントレイは首を振りながら、くっくっと笑う。

「まさか……狙っていないとでも、考えていたのか?」

 ハントレイの手中に矢が生成される。彼はそれを目にも留まらぬ速さで番え、引いた。
「騎士の名を冠するなら……か。俺の考えとは違うな」
 バシュン! 放たれた矢は、神林の頬の真横をすり抜け、サーバントと戦う後方の味方集団へと飛んでゆく。
「『強き者と戦い勝ち得る』ことは、俺にとって誇りだよ」
 それは守備隊のアスヴァンの胸元に突き刺さる。がくん。彼女の全身から、力が抜けた。
 同時に、彼女の身に付けていたヒヒイロカネがころりと地面に転がった。
「シルド!」
 叫ぶ。答えたサーバントがそれを拾い、ハントレイに投げる。
「よくもやってくれたな!」
 龍崎はハントレイに刺突を加えんとする。弓で流されるが、左肩に刃が通る。
 同時に、ヴェスからの射撃。さきほどとは違う場所から、同じ左肩にもう一撃。
「……冥魔の力は」
 ハントレイが次なる矢を手中に生成する。――それを確認した次の瞬間には、矢は放たれていた。
「当てやすい。」
 バシュン。
 ハントレイの矢はヴェスの弾と全く同じ軌道を通り、彼女の腕に突き刺さる。
「動き回るのは大事だが、孤立もしやすいな」
 ぽつり、呟くハントレイに、スレイプニルが攻撃を仕掛ける。
 ガギン! 攻撃を受けながら、ハントレイは顔を顰めた。今の攻撃は、ハントレイ自身を狙ったのでない。
「……ちっ」
 舌打ち。そして一瞬、弓の弦輪を撫でる。
「いくら天使と言えど……この状況ではわずかに判断力が落ちるようだな」
「何っ……!」
 振り返る。ランスナイトがいた。……いや、ランスナイトではない。変化の術を用いた鎖弦が、二刀で兜割りを仕掛ける。
「くっ」
 ハントレイはこれを弓で流しながら、その場で回転し威力を殺す。
「『その技は』対策した。ある程度は、だが」
 苦々しい顔をしながらも、彼は弦を引く。『二発目』を既に用意していた。
 ハントレイの矢が、鎖弦の腹を突き刺す。
 ここに来て、二人が重傷を負った。……が。

「ゴウライ、流星閃光キィィィック!!」

 千葉真一の……いや、ゴウライガの雄々しい叫び声が、一帯に響く。
 太陽の輝きが、焔の翼が、ゴウライガを加速させる。
 そしてその蹴りは最後のシルドナイトの盾を突き破り、爆散させた。

「勝利への執念か。自分さえ強くあれば、という想いは判らなくもない」
 立ち上る爆炎から、千葉は歩み出る。
「だがな。1人より2人、2人より3人。それだけ強くデカクなるものもあるぜ!!」

 お互い、傷だらけだった。
 だがしかし、数で勝る撃退士にはまだ傷の浅いものが多いのに対し……ハントレイはただ一人。

「……ここは引こう」
「逃がすか……!」
 戸蔵はスレイプニルにハントレイを止めさせようとする。が、ハントレイは更に上空へ高度を上げ、それをすり抜ける。


「……手当てしよう。俺の回復スキルがまだ残ってるから」
 龍崎は地上に降り、皆の手当てを始めた。
 何はともあれ、研究所へ向かう一軍を止めることは出来たのだ。
(研究所にも増援が行った。彼らを信じよう)


(随分深手を負ったな……)
 結局、クランからの合図を待たずして引くことになってしまった。目的の物は一つ手に入れたが。
 そんなことを考える彼の元に、一体のムクドリが接近する。クランのサーバントだ。
 彼はムクドリを捕まえると、その足につけられた手紙を解く。
「……失敗か」
 中身を読みハントレイは落胆するが、それ以上に安心していた。
 あの臆病な部下は生きている。

「完全な勝利は、次に取っておくとしよう。……その為には、今以上に強くならないとな」
 つぅ。
 雨粒が、彼の顎を流れて落ちた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 剣想を伝えし者・戸蔵 悠市 (jb5251)
 災禍塞ぐ白銀の騎士・キイ・ローランド(jb5908)
重体: −
面白かった!:7人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
異形滅する救いの手・
神林 智(ja0459)

大学部2年1組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
音羽の忍・
鎖弦(ja3426)

大学部7年65組 男 鬼道忍軍
スペシャリスト()・
ヴェス・ペーラ(jb2743)

卒業 女 インフィルトレイター
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
撃退士・
九鬼 紫乃(jb6923)

大学部6年39組 女 陰陽師