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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:9人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/07


みんなの思い出



オープニング

 しゃっ……しゃっ……しゃっ……

 しゃっ……しゃっ……しゃっ……

 月夜の晩、どこからとなく不気味な音が規則的に聞こえて来る。
 何の音か?
 刀を研ぐ音である。

「こいつは良い刀だっ!」
 きらり。刀身を月明かりに照らし、炎條忍(jz0008)は満足げに頷いた。
 刀を研いでいたのも彼である。
「Beautifulだからつい買ってしまったが、良いShoppingだった!」
 炎條には、月夜の晩に刀を研ぐという趣味があった。
 同時に、刀を衝動買いする癖も。
 
 しゃっ……しゃっ……しゃっ……

 炎條は次の刀を研ぎ始める。一心不乱に、楽しそうに。
 正直、かなり怖い光景だった。


「刀狩り……」
 そんな炎條が頭を悩ませていることがあった。
 通称『刀狩り』。正確には、刀の盗難事件。
 久遠ヶ原の島内で刀が盗まれる事件が多発しているというのだ。
「なんてTerribleな事件だ!」
 炎條は憤る。何せ刀を研ぐのが趣味な男だ。刀を盗むなんてことを許す筈が無い。

 刀狩りは、刀が見えている時に盗んで行くらしい。
 帯刀している人間は脇から鞘以外を盗まれ、あるものは正面から強奪され。
 訓練の休憩中に置いておいた刀なんていうのは絶好の獲物らしく、一番多く盗まれる。
 全部合計で三十本以上の被害が出ているようで、ここ最近は被害も加速しているようだ。
 そしてこの犯人、逃げ足が速い。
 追いかけてもすぐに路地裏に逃げ込み、姿を消してしまう。
 久遠ヶ原でこんな大胆な盗みを働くからには、アウル覚醒者の生徒であることに間違いはないのだが……それ以上、犯人特定に繋がりそうな情報は無い。
 顔を見た者はおらず、性別や背格好すらも証言が食い違うのだ。

(そこが逆にPointだ……!)
 炎條忍は考える。こんな真似が出来るとしたら、それは自分と同じ鬼道忍軍の生徒しかいないだろうと。
 とはいえ、炎條に絞れるのもその程度である。
「こうなったら、俺達で犯人をDirectにCatchするしかないな……!」


リプレイ本文



「どうも疑わしいべ」
 御供 瞳(jb6018)は、炎條忍(jz0008)に疑惑の目を向けていた。
 彼の推察する犯人像は、刀が好き過ぎる鬼道忍軍。
 一方の炎條忍自身も、刀が大好きな鬼道忍軍。
 もしやこの依頼は、彼が自分から疑いを逸らすための自作自演なのでは……

 ……なんて。
 疑い出せばキリがないが、とりあえずその線は封印して御供は事件解決に挑む。
 生き別れの旦那様に見つけてもらうため、今日も彼女は奮闘するのだ。


「強奪されたって事ははっきり見えたんじゃない? ……覆面でもしてた?」
 藤井 雪彦(jb4731)は、刀狩りの被害に遭った生徒に聞き込みを行う。
 その手には、月乃宮 恋音(jb1221)がまとめた被害者のリスト。
 犯人像が食い違っているのが気にかかったのだ。果たして炎條の言うように鬼道忍軍の犯行なのか。先入観を持つ事は避けたい。
「突然のことだったので、あまり……。でも、髪が長くて肌が白かったと思いますよ。覆面もしていなかったです」
 何度も話した事なのか、相手の生徒はハッキリとそう答える。
「浅黒い肌の、短髪男だったかな」
 同様に調査を進めるレオナルド・山田(ja0038)。彼が話を聞いた相手は、また違った事を言う。
「そうでござるか……では、刀が奪われた際の状況を改めてお聞きして良いでござるか?」
 メモを取りながら、レオナルドは犯人の手口を確認する。
「俺は刀を腰に下げてたんだけど……」
 被害者が言うには、背後から気配もなく近づいて来て刀を奪うと、そのまま全速力で逃げて行ったそうだ。
 慌てて追いかけるも、路地に逃げると姿を消してしまうという。
 その後何人かにも話を聞いたが、やはり犯人像は合致しない。
 ただ、状況を鑑みるに潜行の効果を得ているように感じられた。足音もしなかった、という声が殆どらしい。
「最近、金に困ってるとか……刀に執着のある知り合い、いない?」
 
「……うぅん……。……好きな物を集めたい、という気持ちは、わからなくもないですけれどぉ……」
 二人が対人調査を進める中、月乃宮は転売目的の組織犯罪を視野に入れていた。
 組織犯罪ならば、顔の情報が一致しなくてもおかしくはない。
 同様に転売の可能性を考えていた藤井や九鬼 紫乃(jb6923)は、質屋などを巡って確認していく。
「最近、金に困ってるとか……刀が異様に好きとか、そういう人に覚えはありませんか?」
 同時に、九鬼は聞き込みも行う。
 刀や武器へ執着したり、それに関して愚痴の言い方が変わっていたり……事件を起こしそうな人物を探す。
「んー、そういえば一人知ってるなぁ……金に困ってて、刀が大好きな人」
「もしかして、その人って変化の術や無音歩行が得意だったりしませんか?」
「得意かも。あの人も忍軍だしね。でも一番得意なのはBUNSINじゃないかな。知らない? あの屋上にいる……」

 果たしてそれは、炎條忍であった。

 無論、彼が犯人というわけではない。九鬼は他にも何人かの名を聞く。意外とこの条件に合致する生徒は少なくない様だ。
 人に天魔、様々な人種が混在するこの久遠ヶ原。犯人を見つけるのは容易ではない。
 しかし、ここまではあくまで下準備。彼らの作戦はこれからであった。


『窃盗注意! 〜最近、武器の置き引きが増えています〜』
 久遠ヶ原各地で、そんな貼紙を見かけるようになった。
 九鬼と月乃宮が、刀狩りのあった各施設に貼って回ったのだ。
 その御蔭か、刀に限らず武器を放置したり無防備な状態にしておく人が減っている。
 これには二重の意味があった。一つは文字通りの防犯。そしてもう一つが……

 ……誘導、である。

「今日はこの刀のSharpnessをTestするぞ!」
 炎條が自前の刀を振りかざし、訓練場で特訓に励む。
 近くには、その特訓を見学しているカップルの姿が。月乃宮と袋井である。
「……犯人が、上手く誘導されてくれれば良いのですけれどぉ……」
「きっと大丈夫ですよ!」
 袋井は不安そうに呟く月乃宮を励ますと、そっとその手を握る。
 二人は訓練場に潜伏していることを隠すため、『見学中のカップル』に偽装していた。
 とはいえ、二人は本当に恋人同士。
「もしものことがあれば、私が必ず守り抜きますからね!」
 ぴったりと身を寄せ合い、手を繋ぎ、袋井は笑顔で月乃宮に話しかける。
「……ありがとう、ございます……」
 月乃宮も恥ずかしげに俯きはするが、むしろそれが二人の温かい雰囲気を醸し出している。
 袋井の腰に下げられた忍刀・蛇紋が、きらりと光った。

 少し離れた入口付近では、九鬼がベンチに座って本を読んでいた。
 時折顔を上げ、訓練に励む生徒の方を眺める。視界の先では、レオナルドがランニング中だ。
 知らない者から見れば、九鬼は友達を待っている風に見える事だろう。
 また、九鬼は読書しつつも式鬼「盾身」を呼び出し風除けに使っている。
 しかしそれでも寒いのか、九鬼はさりげなく二の腕を擦ると、周りを見渡す。
 暑くても汗出さない寒くてもくしゃみしない。それが女の意地だ。
「でも誰も見てないしいいよね」
 九鬼は小さく呟くと、式鬼「華焔」を呼び出し、辺りに加減した小さな火を吹かせる。

「ふぅ……ここらへんで休憩とするか!」
 と、炎條が使っていた刀をベンチに置き、飲み物を手にする。
 白い肌に、玉のような汗が輝いていた。かなり本気で特訓していたようである。
 炎條が手ぬぐいで顔の汗を拭く。一瞬……僅かに一瞬だが、彼の視界がゼロになった。

 すっ。
 その瞬間、訓練場に居た一人の生徒が、何気ない所作で炎條の刀を手に取った。
「とぉう!」
 刹那、レオナルドが躊躇無くその生徒に飛び蹴りをかまそうとする。生徒は慌てて一歩後ずさり、それを回避。
「そこな刀はおぬしのものではなかろう! 何故に手を伸ばすのか!!」
 レオナルドが大声で問いかける。訓練場中の視線が、刀を持つ生徒に集まった。
「……っ!」
 その生徒は、暗い目をした白人風の男。男はキッと辺りを確認すると、レオナルドに構わず逃げようとする。
 九鬼が盾身を倒し、出入り口を塞ぐ。パッと見そこを通る事は出来ない。
「ちっ……」
 男はそれを見て舌打ち。だが向きを変えただけで、足を止めることはしない。
 しかしその方向には、袋井と月乃宮がいた。
 月乃宮は雷霆の書を開くと、雷の剣を生み出し犯人へ攻撃。
 が、当たったかと思った瞬間、犯人の姿がスクールジャケットへと変わる。空蝉だ。
「一切の迷いを捨て放つは全てを破壊する一撃! 暗黒破砕拳!!」
 逃走した先で、袋井はアレスティングチェーンに漆黒のアウルを込め、犯人に飛びかかる。
「くっそ!」
 犯人は、またも空蝉でこれを回避。再び向きを変えて逃走を試みるが、
「それくらいの足じゃボクから逃げられないよ?」
 その背後に、藤井が迫る。
「なんっ……! いつからっ……!」
 犯人が気付かなかったのも無理からぬこと。藤井は明鏡止水でその気配を絶っていた。
 戦おうとしていたのならまだしも、逃げることしか考えていなかった犯人が、藤井に気付ける道理は無い。
 犯人の足元に、結界らしきものが展開される。慌てて空蝉を使おうとした犯人だが……
「……残弾ゼロ、かよっ……!」
 既に二回使っていたため、最早回避することは叶わない。

「捕まえた♪」

 藤井の束縛を受けた犯人を、レオナルドが物理的に取り押さえる。
 刀狩りの犯人、確保。

「……どうして、こんなことをなさったのでしょうかぁ……?」
 アレスティングチェーンでぐるぐる巻きにされた犯人に、月乃宮は問う。
 犯人は頑に口を閉じていた。答える気が無いらしい。
「こいつは同じClassの生徒だ!」
 彼の顔をまじまじと眺めて、炎條は言う。高等部二年、鬼道忍軍科の人間なのだ。
「……刀を、売却なさっていますねぇ……。……金銭目的、でしょうかぁ……?」
「……ちっ。シンパシーかよ……」
 月乃宮に動機を言い当てられ、男は不快げに吐き捨てる。
「こんなことになんなら、真似すんじゃなかったぜ……」
 しかしそれで観念したのか、男はぽつぽつと喋り出した。
 男は、金に困っていた。さりとて真面目に働くのも面倒で、何か楽に稼げる方法はないものかと考えていたらしい。
 そんな折……この、刀狩り事件が起きた。
「俺は模倣犯ってやつだよ、モホウハン。向こうが先に捕まりゃ、こっちの罪もおっ被せられたんだけどなぁ……」


『……とのことですぅ……。……なので、犯人は他にもいるかと……』
「了解したで御座るよ!」
 所変わって、市街地。トランシーバーで連絡を受けた静馬 源一(jb2368)が元気よく答えた。
 一応犯人は捕まえたが、ただの模倣犯でしかなかったこと。模倣犯の話を聞くに、オリジナルも鬼道忍軍である可能性が高いこと。
(自分も移動力特化の忍者で御座るから早々にはおいてかれないと思うで御座るが……がんばるで御座る!)
 説明を受けた静馬は、自分の足を信じて犯人の確保に集中する。
 足音を消し、追いかけながら御供を見張っていた。
 御供は事前に犯行発生地点を調べ上げ、その近辺を巡回していた。
 無論刀も所持して、のほほんとした雰囲気を醸し出しながらも、周囲には気を配っている。
(……もしかして、あれでしょうか……?」
 と、静馬と同じく潜行して御供を見ていた鑑夜 翠月(jb0681)が、妙な動きの人を発見する。
 何となく気配の薄い、早足の人間。彼は音も無く御供の背後に迫ると……

 ふわっ。

 まるで自分の物を手に取るかのように、すんなりと彼女の刀を奪い去った。
 くい、と刀に結んだテグスが御供の腕を僅かにひっばる。
「待つだべ!」
 御供は咄嗟に容易していたカラーボールを犯人に投げつける。
 べしゃり。犯人の服に、ピンク色のインクが撒き散らされた。
「……!」
 それに気付いた犯人は、全速力で走り出す。
「喰らうでござる!」
 そこへ飛び出した静馬。相手が反応するより早く、隼突きを使いヴィリディアンで巻いてしまおうとする。
「甘いっ!」
 しかし犯人はジャケットを残してそれを回避。そう、空蝉だ。
 だがその回避先に、今度は鑑夜がミーミルの書より水の刃を放つ。
「ぐっ……どこからだっ……!?」
 刃は犯人に直撃。彼は苦痛に顔を歪ませ足元をふらつかせるも、足を止めない。朦朧にはかからなかった。
「来い、ミント雲だっちゃー!!」
 御供は指を三本揃え、息を吹き当てながらそれを振る。
 すると、ミント色の雲が彼女の足に集まるではないか。
 彼女はその雲に乗り、犯人を追いかける。静馬、鑑夜もその後を追った。
「しつこいな……」
「ニンポーを悪事に使用するとは言語道断不届き至極で御座る!」
 思わず呟く犯人に、静馬はぴしゃりと言い放った。
「御上の裁きを甘んじて受け入れるで御座るよ! 成敗!」
「くっそ……!」
 犯人はもう一度これを空蝉で回避。だが……
「逃がさないで御座る!」
 静馬は必死に彼に食らいつき、それ以上逃がさない。
「今で御座るよ!」
 そして鑑夜に合図を送ると、鑑夜は犯人に向け、再び水の刃を放つ。
「ぐあっ……くっ……そ……」
 犯人はふらふらとよろけ、遂にはその場に倒れ伏す。今度は朦朧が通ったのだ。
 二人目の犯人、確保。

「どうして刀を集めているんですか?」
 捕まえた犯人に、鑑夜は問う。
 白い肌をしていた犯人は、がっくりと項垂れると姿を変えた。
 浅黒い肌、ぎざぎざの歯。顔は普通の人間だが、頭には角らしきものが生えている。
 ……悪魔の生徒だ。変化の術を使っていたのであろう。
「……刀は、芸術だ……」
 そして犯人は、語り始める。
「何ものをも切り裂く、圧倒的な力……それと引き換えに持つ、脆さ……その輝きはどんな芸術よりも美しく、しかし『殺し』という用途は何よりも卑しい……その、パラドクス。俺はそれに惹かれたのだよ……」
「でも、人の物を盗むのはいけないことだべ」
 御供がそう口にすると、犯人はくくくっと笑う。
「確かにな……。だが刀の持つその混沌は、『使われた刀』にこそ宿ると思ったのだよ……であるなら、やることは一つだろう……?」
「盗んだ刀は、どこにしまってあるんです?」
「倉庫を借りて、そこにしまってある。返すんだろう? 丁重にな……」
 犯人は薄笑いを浮かべると、それきり大人しくなった。


「ひとまずこれは俺がKeepしておく!」
 倉庫や質屋を巡って回収した刀を手に、炎條忍はそう宣言した。
 幸い、月乃宮の作ったリストの御蔭で刀は迅速に集まった。しかしこれをそれぞれ返すのは、また後日だと彼は言う。
「今日は助かった! Thanks!」
 とっぷりと暮れた空を背に、炎條は仲間達にそう告げた。
 その日も、月が綺麗に輝き始めている。

 後日、刀はきちんと持ち主の所へ返された。
 その殆どの刀が、何者かによって綺麗に手入れされていたというが……誰がやったのかは、明確でない。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・九鬼 紫乃(jb6923)
重体: −
面白かった!:5人

真に折れぬ刃と心・
レオナルド・山田(ja0038)

大学部4年72組 男 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
九鬼 紫乃(jb6923)

大学部6年39組 女 陰陽師