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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/10/20


みんなの思い出



オープニング


「出荷出来ない……ってどうしてだいっ!?」
 久遠ヶ原の島の一角。上手いのか下手なのかイマイチ分からない字で書かれた看板の店に、おばちゃんの声が響き渡る。
『定食屋 ぶれいかぁ』。家族と離れて過ごす生徒達に母親の味を提供する、島内でもそこそこの人気店だ。
「柿は毎年アンタんとこから買ってるじゃないか。なんで今年だけ無理なんだい?」
『それが……』
 電話の向こう、業者の人が申し訳無さそうな様子で、事情を説明し始めた。

「つまり、柿の木にディアボロが居座っちまったらしいんだ」
 それから暫く後。定食屋のおばちゃんは、集めた生徒達に事情を説明する。
「毎年この時期はそこの柿をデザートに出してるんだけど……このままじゃ入荷出来ない。というか、早く何とかしないとあそこの農家が潰れちまうよ」
 他の所から入荷するのでも構わないのだが、付き合いのある場所だ。無下には出来ない。
「柿を楽しみにしてる子達もいるし、ね……。だからアンタ達にお願いだ。その農家のとこへ行って、ディアボロを退治して来てくれ。出来れば柿を傷つけないように……だ」
 幸い、ディアボロは柿に手を付けたりはしていないそうである。被害を出さず退治すれば、すぐにでも出荷出来るそうだ。
「無事に柿が届いたら、アンタ達にはタダで食わしてやるから……頼むよ」


リプレイ本文



 辺り一面、等間隔に木々が並んでいた。
 紅葉した葉っぱが、視界を鮮やかなオレンジ色に染める。
 そしてその木の枝には、葉と同じく綺麗な橙に染まった果実が成っていた。
「柿のイイ匂いがするねぇ〜♪」
 卯左見 栢(jb2408)はその木の一本に身を隠しながら、すぅとその香りを嗅いだ。
 柿の木。この辺りにあるのは、殆どがそれである。

 定食屋のおばちゃんから依頼を請け負った撃退士達は、柿農家へやってきていた。
 それぞれが身を隠しながら、対象の姿を確認する。
 一部の柿の木に、猿のような何かが蠢いていた。
 その数、五匹。
 当然普通の猿ではない。ディアボロである。

「猿のクセに柿も食わねえたぁバチ当たりな連中だな。 ――ま、今回は助かったケドよ」
 東郷 煉冶(jb7619)はその姿を見て、荒っぽく呟いた。
 もしあの猿が柿を食べてしまうのなら、この農家は出荷を諦めざるを得なかっただろう。
 しかし、あの猿は居座っているだけ。であるならば。

(柿の木を傷つけないよう慎重に、でも迅速に……中々難しいけど、頑張らないと!)
 播磨 壱彦(jb7493)は状況を再確認して、気を引き締める。
 まだ間に合うのだ。今ここでディアボロを退治すれば、柿の出荷を行える。
 だがそれには、柿の木に衝撃を与えないことが重要だった。
 もし戦闘の衝撃が木に伝われば、枝が折れ、出荷する筈だった柿が駄目になってしまう。
 ディアボロを倒すことが最優先とはいえ、出来るだけ農家の要望には答えたい。

「……ぶれいかぁの女将さんや農家の人達の為にもなるべく被害を少なく解決する必要がありますね。わたしも微力を尽くさせて頂きます」
『……キキッ?』
 楊 玲花(ja0249)が、木々の間から猿の視界に入る。
 ニンジャヒーロー。そのスキルの効果か、猿達の視線が彼女に集まった。
『キィィ……』
 猿達は楊を睨みつけ、それぞれが橙色や緑色の弾を手に持ち出した。
 そして、楊に向けて投げつける。……が、弾は彼女にぶつかる前に地面に落ちてしまう。
 楊は猿の射程ギリギリに立っていた。
 彼女は攻撃が届かない事を確認すると、バルバトスボウを活性化。
 弓を引き絞り、放つ。矢は敵の投げる弾をかいくぐり、ディアボロの一体に命中!
『ギャウッ!』
 攻撃を受けた猿は悲鳴を上げて、他の木へ移った。
「流石に全員の気は引けませんか……」
 それを見て、楊は呟く。攻撃を他へ向けるようなら、近づいて攻撃することも考えていたが……

「ほら、こっち向けー!」
 その猿に、播磨が大声で叫んだ。
『キッ?』
 猿が彼の方を向いた瞬間、炎の刃のようなものが猿の顔に命中!
『ギッ!』
 猿は短く叫び、狼狽えた。そして掴まっていた幹から落ちかけるが、即座にまた登り直す。
 パキっ。小さな枝がそんな猿の動きに耐え切れず、折れた。
 幸い実の成っていない枝だったが、木は思った以上に衝撃に弱いらしい。
「あの猿、やっぱり身軽なんだな……」
 播磨は小さく呟いた。単純な攻撃では落ちないようだ。やはり、挑発して下ろすのが良いか。
『キキッ!』
『キキキッ!』
 猿のディアボロ達は何か鳴き声を交わし合う。
 楊に向かっていた猿の内一体が、標的を播磨に変えた。緑色の弾を投げつけて来る。
「おっ……と」
 播磨は一歩引いてそれを避け、その猿にも閃火霊符で攻撃。
(柿の木に当てないように……)
 細心の注意を払って、狙い撃つ。両手が塞がっている猿は、それに即座には対応出来なかった。
『キキィ!』
 が、攻撃を受けた瞬間、猿が掴まっていた木の枝からまたパキっと音が聞こえる。
 こちらからの衝撃を減らす事は出来るが、猿の方では木を使ってくれないらしい。

「なにはともあれ、まずは木から離れてもらわないと」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)は明鏡止水で猿から隠れつつ、戦闘の状況を確認する。
 二人の攻撃は猿に良い効果をもたらしていたが、時折枝が折れて行くのがわかった。
 このままだと、柿に影響も出かねない。
(上手く挑発に乗ってくれるかしら……)
 播磨は敵の攻撃をギリギリの所で回避しつつ、時折分身の術を使用していた。
 フローラから見ればぺらぺらの分かりやすいダミーだが、猿は頭が悪いのか、綺麗に引っ掛かる。
 その度に猿が苛立ちを増しているのが、フローラからみても明らかだった。

(後はアイツ等がどうしようもねぇ馬鹿じゃなきゃ、落とせるな)
 都竹 東(ja1392)はその顔に嫌悪感を滲ませながら、猿の様子を窺う。
(あのド低脳共、簡単に引っ掛かりやがる。これだから獣は)
 都竹はあの猿が嫌いだった。獣臭いし、見るからに馬鹿だ。
 実際今も、こんな見え見えの罠に引っ掛かろうとしている。
 楊に攻撃が当たらないことに苛立った猿の一匹が、彼女に近づこうと木々の間を跳んだ。
(そうやって迂闊に動き回るなんてな。ただの馬鹿猿なら仕方ねぇが)
 そう、それは猿のディアボロにとって悪手であった。
 逆に、撃退士にとってはまたとないチャンス。

『ギギィっ!?』

 木々を飛び移る瞬間、空中に浮いた猿を、銃撃が貫いた!
 ドサリ。猿が地上に落ち、紅葉した落ち葉が舞い上がる。
(よし、当たった!)
 九十九 遊紗(ja1048)による狙撃だ。気配を悟られぬよう、彼女はじっと黙って狙いを付ける。
『キッ!?』
『キキッ!?』
 仲間の一匹が地上に落ちたことで、他の猿達に動揺が走った。
 地に落ちた猿は、慌てて木の上に戻ろうとする。

「行かせるかよォッ!!」
 東郷 煉冶(jb7619)が飛び出し、その前に立ちふさがった。
『キィィッ!』
 猿が緑色の弾丸を東郷に投げつける。が、東郷はそれを避けもせず、猿に向かって行く。
「今の俺に出来るのは、身体張るだけなんでな!」
 至近距離まで到達した東郷は、白龍三節棍を振るい強烈な一打を猿の頭に叩き込む!
『ギィィッ!』
 その攻撃に足をよろけさせながらも、猿はまた緑色の弾丸を精製する。
 が、その腕に遠距離からまた攻撃が飛んでくる。今度は九十九の射撃ではない。

「さるかに合戦じゃない、さるうさ合戦だ……!」
 謎な言葉を吐きながら攻撃していたのは、卯左見であった。
 ゴーストアローにより人知れず追撃を行った彼女は、どことなく揺らめいた足取りでその猿へ接近。
「ひょっとしてそれ柿なのかな〜? でも美味しくはないよね……!」
 ゆら、ゆら、ゆら。彼女は酔っぱらったように体を揺らしながら、鉤爪で猿を切り裂いて行く。
 猿は反撃せんと弾を捨てて爪で向かって来るが、彼女はのらりくらりとそれを避けてしまう。
 結局猿に競り勝って、切り裂かれた猿はその場に崩れ落ちた。
「猿、うちとったり〜! ……これで柿はアタシんモノ〜♪」
 うさ耳のように垂れた髪が、ぴょこぴょこと跳ねる。
 まずは一体。だが確実に……柿に近づいている!
 彼女の目的は、柿の方なのかもしれない。

「捕らえました!」
 と、落ちた猿に他の猿が気を取られているうちに、撃退士達は次の行動に出ていた。
 楊の影縛の術による拘束である。
 東郷達の仲間への攻撃を阻害しようとしていた猿を、彼女が捕らえた。
 彼女の合図を受けた都竹が、壁走りで素早く木を駆け上る。
「クソ猿が」
 都竹は打刀を抜刀せず、そのままそれで殴りつけた。
 ガンっという鈍い音と共に、猿は抵抗出来ず地面に落ちる。
『キィッ!』
「キーキーうるせぇんだよ」
 短く悲鳴を上げる猿に、都竹は不快感を隠さない。

 フローラは即座にその猿の元へ走り、間違って木を斬らないようにと考えながら斬りつける。
『キィィ……!』
 猿は唸り、オレンジ色の弾をフローラに投げつける。
 そしてそのまま他の木に逃げ込もうとする、が――
「行かせない!」
 雪の結晶が猿の足に絡み付き、動きを止める。
『ギィィィ!』
 足の結晶が締め上げるのか、猿は苦しげに呻く。
「木を傷付ける訳にはいかないから、注意しないとよね」
 フローラはクロセルブレイドを振り上げ、猿ディアボロを斬り倒した。

「そろそろコイツも使ってみるか……」
 東郷は何かを包んだ紙を取り出し、木の上の猿を見上げる。
 猿はフローラ達の戦いに目が行っていて、自分の真下に東郷がいる事に気がついていない。
「喰らえッ!」
 そんな猿に向けて、東郷が包み紙を投げた。
『キッ?』
 紙は猿の体を透過。
 木に当たり、包みが解ける。
『……キキッ?』
 猿は怪訝そうに包みの紙を拾った。辺りには赤い粉が舞っている。
『キキ……ギィッ!』
 それは、唐辛子の粉末だった。
 やがて猿は不快気に一声鳴くと、慌ててその場で右往左往する。
 目がやられたりすることは無かったものの、強烈な匂いが好きではなかったらしい。
「そこだっ」
 東郷は全力跳躍で跳び上がる。細かい枝が彼の体に触れ、紅く染まった葉っぱが落ちて行く。
 狼狽える猿に向けて、東郷は棍で突きで打撃を加えた。
「落ちろクソ猿ッ!!」
 木に衝撃を与えない様、力の方向を集中させたのだ。
『ギィィ!』
 どすん。また猿が一匹木から落ちた。
「辛そうだねぇ、それ……」
 卯左見はまだ舞っている赤い粉を見て呟いた。
 東郷もこくこくと頷く。
「さて、この猿も退治しちゃおっか〜」

「そらよ」
 再び楊が影縛で束縛した猿を、都竹が蹴り落とす。
『キィィィッッ!』
 最後まで木の上に残っていた猿が、彼を攻撃しようとその木に向けて跳んで来た。
 が、九十九が射撃にてこれを落とす。
 これで、全ての猿が木から落ちた。
「後は倒すだけ、ですね」
 楊はバルバトスボウからフォトンクローへと装備を入れ替えた。

「こっちは僕が足止めします!」
 播磨は、都竹が落とした猿を木の下から引きずりつつ叫ぶ。
 その間に早くもう一体を倒してしまえば、後が楽だ。
『キィィ! キィィ!』
「っ……! お前の居場所はっ……」
 暴れる猿に、播磨は言い放つ。
「今、ここだ!」

「よっしゃ、最後の攻撃いってみよ〜!」
 卯左見がふらふらと鉤爪を構える。
『キィィ……ギッ!?』
 唸る猿の頭部に、弾丸が食い込んだ。
「おぉ、九十九ちゃんナイス〜!」
 卯左見に褒められ、九十九はにこりと微笑んだ。
「これで終わりですっ!」
 弱った猿に、楊がフォトンクローで止めの一撃!
 猿はびくびくっと痙攣した後に、動かなくなった。

「こっちでラストだァッ!」
 東郷が播磨の抑える猿の元へ走り込み、勢いに任せて白龍三節棍を叩き込む!
 バキャッ! 何かの折れるような音と共に、猿が膝をついた。
 その背に、氷の刃が突き刺さる。
「依頼完了、ね」
 ぐぐぐ、と猿は力を込めて抜け出そうとしたが、やがてこちらも動けなくなった。


「いやぁ悪いね、収穫まで手伝ってもらっちゃって! まだ小さいのに偉いな!」
 ディアボロの退治を確認した農夫は、そう言って九十九を褒めた。
「いくつか君達も貰っていってくれよ! せめてものお礼だ!」
「わーい、ありがとうございます!」
 九十九は嬉しそうに笑って柿を眺めた。
 彼女はあまり柿を食べた事がないらしい。
 柿を貰って喜ぶその様子は、とてもさっきまで戦っていた人間のものとは思えない。
 年相応の、小さな子どものものだ。
「美味しい柿を、沢山の方々に届けてあげてください!」
 播磨も農家の人にそう声をかける。
 自分達が戦って守った柿。そこらへんの店で売っているものより、ずっと愛着が湧いていた。
「あぁ、頑張るよ! 本当にありがとうな!」
 農夫はにこりと笑って礼を言った。何度も何度も。
 彼らが救ったのは、この柿だけでなく、彼や彼の家族、そして美味しい柿を食べたいと願う消費者達でもあったのだ。

「さ、約束の食事だよ!」
 久遠ヶ原へ帰ると、『ぶれいかぁ』ではおばちゃんが待っていたかのようにそう言った。
 いや、実際待っていたのだろう。久遠ヶ原の生徒達に食事を与える事が、彼女の生き甲斐だったから。
 が、都竹は依頼の代金だけ受け取ると、すぐに帰る素振りを見せる。
「アンタは食べないのかい?」
「いらねぇよ、俺の分まで食えばいいだろ。もうちょっと太れよ、お似合いだぜ」
 問いかけるおばちゃんに、都竹は乱雑にそういった。
「……あら。そうかい。ならまぁ、これだけ持ってきな!」
 おばちゃんは一瞬きょとんとした顔をしてから、微かに笑って柿を一つ投げて寄越す。
 都竹はそれを受け止め、おばちゃんの顔を見る。
「……」
 要らないと突き返そうかとも思ったが、そこで言い合うのも面倒と考えたのか、都竹はそれをポケットに突っ込んで出て行った。
「アンタ達は今食ってくかい?」
 おばちゃんが、改めて他の生徒に聞く。
「いただきます」と、フローラ達は答えた。
「そうかい。じゃあメニューからなにか食べたいものを言っとくれ」
 おばちゃんがそう言うと、東郷がにやりと笑い、自分の要求を伝えた。
「超大盛り……かい?」
「いいだろ? 一食は一食だぜ、おばちゃん」
 挑戦するような東郷の口調に、おばちゃんも楽しげに「勿論」と答えた。
「但し、残しちゃ駄目だからね。山のような料理を出してやるから、待ってな!」
 そう言って、おばちゃんは厨房に消えた。

 翌日から、定食屋のデザートには柿が出るようになった。
 これがまた、好評だったという。

 ちなみに東郷が食べた食事の量は、『ぶれいかぁ』史上最大の量であったという。
 きちんと完食したんだよと、おばちゃんは嬉しそうに語った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
撃退士・
九十九 遊紗(ja1048)

高等部2年13組 女 インフィルトレイター
撃退士・
−(ja1392)

大学部8年158組 男 鬼道忍軍
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
斡旋所職員・
卯左見 栢(jb2408)

卒業 女 ナイトウォーカー
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
播磨 壱彦(jb7493)

大学部1年259組 男 鬼道忍軍
鬼払い・
東郷 煉冶(jb7619)

大学部4年236組 男 ルインズブレイド