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「久遠ヶ原はロボットの開発もしているのだな。まだまだ先の話かと思ったが、流石は久遠ヶ原だ」
「だな。こんなのを立派に作っちゃうだなんて大したもんだよな」
グリムロック・ハーヴェイ(
jb5532)は二体のVロボットを見上げながら感心したように呟き、マクシミリアン(
jb6190)も同意するように頷いた。
「うほほほー、またらんきんぐ上位が狙える動画がとれそうだぞー( ´∀`)!」
ルーガ・スレイアー(
jb2600)は楽しげに言いながら、まずはスマートフォンで写真を撮る
「『俺はVアウルオー…マジン ゲフンゲフン Vアウルロボの兄弟さ( ´∀`)!』……っと」
そしてSNSサイトで呟いた。開発中の兵器情報ダダ漏れである。
「これが実現したら、怪獣並みの超特大天魔を倒せそうだな」
不二越 武志(
jb7228)もその可能性に期待を込める。現に巨大な悪魔が出現したこともあるのだ。安全性が保証されれば、撃退庁などに売れるかもしれない。
「ドリルはあるのか? ロケットパンチは? リミッター解除とか出来ちゃうのか? 当然自爆は出来るんだろ?」
スリーピー(
jb6449)はウキウキしてサツキを質問攻めにする。そのテンションは寝不足のせいかと思いきや、元々そういうのが好きなようだ。男の子である。
「ハァン……私ノ中ノ化学者的トキメキガ抑エラレマセン……! コレハ! 隅々マデ! 実験シナケレバ!」
箱の被り物をした女性、箱(
jb5199)も、好奇心をむき出しにしている。
「ドリルやロケットは乗り込む撃退士次第だな。リミッターはアウルの力で実現可能! そして自爆には自信があるぞ! 私が作ったものには大抵実装されているからな!」
スリーピーの質問にサツキはちょっと得意げに答える。が、多分それは彼の言う自爆とは少し意味が違うだろう。
「例によって例のごとく、また安全性に難がある、か……」
端からそれを聞いていた戸蔵 悠市(
jb5251)は、若干頭を抱えながら呟いた。彼は以前、サツキの作ったV兵器の実験を手伝った事がある。
「今回もご協力ありがとうございます。きっと酷い爆発になりますが、博士のすることですから……」
助手のヒイロが溜め息混じりに苦笑した。
「爆発……っておいそこは溜息一つであっさり諦めていい部分ではないぞ!?」
戸蔵は慌ててツッコむ。博士が博士なら助手も助手である。
「……初めての撃退士としての仕事がこれで大丈夫なのだろうか……?」
不二越も何となく不安になって来て、腹を抑え始める。
「考え過ぎて胃が痛くなってきた。胃薬を飲むので席をはずさせてもらう」
……同じ悲劇が繰り返される予感がした。
●
「は〜い、『皆』? 今回はロボで狭いのでついて来ちゃダメだよ?」
ユグドラ・フォーエ(
jb7284)は、何かに向かって話しかける。そこには何もいない。少なくとも他の者の目には。
だが彼女の目には、耳には、その限りではない。
(なんじゃ、ダン○インごっこするんじゃないのか?)
(まぁ初任務だ、我々は空気でよかろう)
「それじゃ、行って来るね〜」
グッと親指を立てる『あかじしさん』達を背に、手を振りながらユグドラは真っ先にVアウルロボへと搭乗。ど真ん中の赤っぽいポジションを確保。
「連携はしないかもだけどいざって時の操縦権の取り合いは無駄だしね!」
「はっはっは。スーパーロボットじゃ。燃えるのお」
一方のVアウルオーには、イオ(
jb2517)が一番に搭乗した。
サツキに貰ったマニュアルを読みながら、モーションキャプチャなどのセッティングを行ってゆく。
「大変じゃ、皆の者。このロボでスキルを使用するのは音声入力じゃ! 先にスキルと技名を登録しておかないと使えぬぞ!」
「音声か。よしっ……」
それを聞いたスリーピー、軽く咳払いして、「あーあー」と発声練習。
「それから発進時にも掛け声が必要なようじゃの。それも設定しておくのじゃ!」
「『チェーンジ! Vアウルオー! スイッチ・オーンッ!』とか、『アウール・ゴー!』とか?」
それならと、ルーガが提案する。
「そうじゃの! スーパーロボットっぽくていい感じじゃ!」
イオはそれを喜んで設定。ユグドラや箱もそうだが、女性陣のテンションがわりかし高い。
男子も楽しそうではあるのだが、女性と比べればまだ大人しい方である。不思議なものだ。
●
……そして戦いは始まる。ここで改めてロボットに搭乗するメンバーを紹介しておこう。
Vアウルロボに乗るのは、ユグドラ・フォーエ、乱童寺 禅(
jb4770)、マクシミリアン、グリムロック・ハーヴェイ、戸蔵悠市。
対するアウルオーには、不二越 武志、イオ、ルーガ・スレイアー、スリーピー、箱の五人。
計十人の撃退士が、この安全性の保証されない実験に参加した。
「モーションキャプチャーか……自分の体を動かすのはあまり得意ではないので、任せる」
そういって端の方に位置取る戸蔵。
戦場の傍らには、ストレイシオンが待機していた。いざという時の応急手当要員として、彼が呼んだのだ。正直、どんな事故が起こるか分かったものじゃない。
「戸蔵さん……」
ロボの外から、ヒイロが目線を向けて来る。
「……憐れむような目でこちらを見るな。科学の発展のためだ、仕方ないだろう!」
「そこまでの覚悟でご協力いただいて、ありがとうございます。……ただ、あれは……」
ヒイロは目線をストレイシオンの方へ変える。
そのストレイシオン、左右に赤と白の旗を持っていた。レフェリーの補佐をさせたいらしい。
「戸蔵さん、もしかして……」
「……分かった、少し楽しんでしまっているのは認める。だから呆れたようにため息をつくのはやめてくれなさい」
クールぶっているが、彼も意外とこの状況を楽しんでいたらしい。「はい」とヒイロは笑い混じりに頷いた。
『【また久遠ヶ原か】対決!Vアウルロボ対Vアウルオー【なぜ作った】』
戦いは動画撮影もされる。
『コメントいっぱいまってるなう( ´∀`)』
ルーガがスマホを三脚につけて撮影しているのだ。カメラは無かったのか。
「……そういえば、開始の合図とかないのか?」
ふとスリーピーがそんなことを思い立った……瞬間。
「いっくよぉぉっ!」
ユグドラが叫び、ノーヴィ・ロジーナを活性化してアウルオーを撃つ!
「やるからには勝ちたいしね! 足を狙って動きを止めちゃおう!」
彼女はそう言い放ち、容赦なく攻撃を続けた。通常よりずっと大きな弾丸が、アウルオーの足に傷を付けて行く。操縦を開始していなかったアウルオーは、バランスを崩して地に倒れる!
「怯えろ! すくめ! アウルオーの性能を生かせぬままにっ……ってそれじゃテストにならないっぽ?」
一瞬疑問を抱くユグドラ。
「まぁ勝てばよかろうなのだ〜」
だが疑問は投げ捨てた。
条件は『本気で』だしね! 現実は非情である!
「おおお、結構動くもんだな!」
マクシミリアンはその性能に驚きながら、銃を撃つ動作を繰り返す。
「いきなりこれとは胃が痛くなるな……!」
アウルオーの不二越は苦痛に顔を歪める。何にしても反撃しなくては撃破されてしまう。
アウルロボは銃を撃ちながらだんだんと近づいて来ている。その前に立たなければ。
「「「「「アウール・ゴー!」」」」」
キュピン、とアウルオーの目に明かりが灯る。まずは起動に成功!
だがその時、既にアウルロボは釘バットを手にすぐそこまで迫っていた。
「脳天目掛けてフルスイングだ!」
アウルオーの頭部めがけ、釘バットを振りかぶるアウルロボ。
「まずは敵の攻撃を避けるぞ! アウルオーアジリティ、発動!」
不二越は予測回避のスキルを発動。顔を逸らし、紙一重でそれを回避。
「じゃがどうする!? 立とうとしてもまた倒されるのがオチじゃぞ!」
「なら私に良い考えがある!」
ルーガは自信満々にいうと、武器を構えるような動作をする。と、アウルオーの胸部に黒い光が発生して行く……!
「ルーガちゃんのどーんといってみよう★INアウルオーッ( ´∀`)」
それはルインズブレイドの最強ビーム技。
魔具コスト60の重みは伊達じゃない、超威力の最終兵器、『封砲』!
「くっ!?」
アウルロボはかろうじてランタンシールドでそれを受けるが、バランスを崩す。
その隙に、アウルオーは立ち上がる。そしてそのまま全力跳躍。水平に跳んで、アウルロボとの距離をとる。
……つもりだったが、あまり移動出来なかった。10スクエア程か。通常ならそれなりの距離だが、アウルオーのサイズではいかんせんしょぼい。
「アウルオー・ジャンプ!」
垂直飛びもそれに倣い、5スクエア程度。なんとも言えない感じである。
「あろろろろろろ:(;゛゜'ω゜')」
しかもその上、ルーガには乗り物酔いの気があったらしく、隅っこで吐きそうになっていた。
「アウルオー・ウィング!」
気を取り直しイオが叫ぶと、アウルオーの背に翼が生まれる。闇の翼、ロボット版だ!
アウルオーはそれで飛行を試みる。が、やはり30m以上は飛べないようだ。この巨体で飛べるだけ、やはり凄いのかもしれないが。
「イオは機体のチェックに回るのじゃ!」
「デハ次ハ私ガ! 試シタイスキルモアリマスシ!」
箱が宣言すると、オーの動きが彼女と同期する。
「行キマスッ! ゴー! スレイプニィーーッル!!」
すれいぷにぃーーっる……すれいぷにぃーーっる……。エコーを響かせ、気合い満々で高速召喚。
現われたスレイプニルは……流石に通常サイズである。本人のアウルとは若干別物だしねっ!
スレイプニルはロボの足元に全体重を載せたチャージラッシュ!
「オオ! 流石ハウチノ子デス! 華麗ナヒットアンドアウェイ! 撮レテマスカ誰カ!」
「撮ってる撮ってる……うぷ……」
上機嫌な箱に、ルーガが口元を抑えながら返答した。
「アリガトウゴザイマス! デハ次ハ『クライム』!」
箱はオーでスレイプニルに騎乗。サイズ比的に結構無茶苦茶である。だが。
「スゴイ! 乗リナガラ乗ッテマスヨ! ワッハッハッハ!」
箱は満足そうである。
「ルーガサン、撮影オワリマシタラ高画質ノモノヲ一ツ私ニモ! ピース!」
スレイプニルの上でピースサインをするオー。
「何やってんだ向こうは……」
ロボ組は再び若干呆れ気味。それだけでなく……
「……アレ? ウチノ子ガウンザリシテルヨウナ……気ノセイデスネ」
気のせいじゃない。スレイプニルも若干嫌そうである。だが箱は気にせず「コッソリ切リ替エテ『和気藹々』モ……グュヘヘヘヘヘ……」等と危ない笑い声を上げている。
「ヨーシヨシヨシ……ア、スレイプニル避ケナイデ」
流石にロボットに撫でられても嬉しくないのか、スレイプニルはそれを避けた。和気藹々って失敗するスキルだっけ……?
「よく分からないが今のうちだ!」
グリムロックはスクールランスを活性化。瞬時にアウルオーを突かんと迫る。
「アウルオーパトリオットォッ!」
しかしスリーピーはそれに対し、回避射撃のスキルを発動させた。
アウルオーの頭部横からアウルの弾が飛び、穂先をズラす。
それによって、アウルーオーは何とか回避に成功!
「よし、そのままアウルオーキィィックッッ!」
オーはロボにカウンターを仕掛ける。が、ロボはまたもシールドでコレを防御。しかもそのままその盾を押し出して来る。
アウルオーは空中でバランスを崩す。ロボはオーの足を掴み、地面に叩き付ける。
ドォゥゥンッ! 地響きが採石場に響き渡った。
「原理はさっぱり分からんがおもしれえな!」
動かしていたのはマクシミリアン。モーションキャプチャのことはよく分かっていない様だが、感覚でロボを使いこなしている。
「あろろろろろろ:(;゛゜'ω゜')」
激しい揺れで、ルーガの酔いは酷くなる一方だ。
「アウルオー、ウィンドウォール!」
不二越が慌てて風の烙印を発動。オーを倒したロボは、再び釘バットでオーを滅多打ちにする。
ガン! ガン! ガン! 激しい殴打で、オーのボディが歪んで行く。
「駄目じゃ! 一部の機能が麻痺しておる!」
イオが叫ぶ。左腕とカメラ機能が損壊を受け、映像が乱れる。
「これは流石にマズいんじゃないのか……」
不二越は腹部を抑える。また胃痛がしてきた。
ガン! ガン! ガン! 右足が潰され、胴体もボロボロ。再び立つことさえ難しい。
負けるのか。そんな雰囲気がアウルオーに漂いかけた。
「みんな!アウルオーの力を……、信じるんだ!」
しかしスリーピーは諦めていなかった。まだコイツはやれる筈だ。
「なら、機体は耐えられるか知らんが……奥の手を使うかの」
その言葉に突き動かされたように、イオは言う。
「奥の手?」
その言葉に首を傾げると、イオは力強く叫んだ。
「今こそアウルオー・ハイパーモードじゃ!」
――瞬間、何かのBGMと共に、アウルオーの全身が金色に輝き始めた。
「なんだっ……!?」
アウルロボはそれに狼狽え、僅かに動きを止める。アウルオーはその微かな隙を逃さず、右腕を突き上げ、ロボにアッパーを喰らわせながら立ち上がった!
「だが、もうアウルオーはボロボロ。マトモには……」
「アウルオー……ブラッドブーストォォォォッッ!」
スリーピーが叫ぶ。アウルオーの背中から、鮮血めいた赤いアウルが吹き出した。
それはアウルオーウイングと混じり合い、赤黒の翼と成る。
ゴゥっ。音を立て、アウルオーは飛ぶ。そして空中で反転し、残った左足でアウルロボを蹴り付ける。
「アウルオー、ファイナルキィィィッック!」
蹴られたロボは数十mふっ飛ぶ。すると、何故かケンダマやらヨーヨーやらが活性化され始めたではないか。
「おいっ!? こいつの武器判定はどうなっている!? ヒヒロイカネなら何でもいいのか!」
どうやら今のでコンピュータがいかれたらしい。警戒音が機体内に鳴り響く。
「ヒヒイロカネからアウルが逆流する! うわぁぁぁ」
「げっ!なんかヤバいだろこれ。ズラからせてもらうぜ!」
危機感を覚えた彼らが逃げ出そうとするのも束の間。
ボゥゥゥン!
Vアウルロボは、音を立てて爆発した。
「ロボとスキルの融合。これは有利になりそうだ」
Vアウルオー組が勝利に浸るのも束の間、こちらもアラートが鳴り響き始めた。
流石に機体が持たなかったのだ。
が、先程の攻撃で、通常の脱出口は壊れて動かなくなってしまっていた。
「なんということじゃ。試作ゆえか、脱出装置がついておらん!?」
そんなわけで、結局。
ボゥゥゥン!
Vアウルオーも、音を立てて爆発する。
「な、なぜこうなるのだ……」
バラバラになったロボット達と共に、黒焦げになった不二越が気絶した。
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結局、アウルロボット計画は頓挫した。
「V兵器とは一体何だったのか…」
夕日を眺めて考え込む戸蔵に、誰も声をかけられなかったという……
そして余談だが、例の動画はかなりの再生数になったとか、ならないとか。