●導かれし勇者達
「ええっと、ゆーしゃ?まおー?……ですか」
「えっ!?銅の剣と小銭だけ渡されて放り出されちゃうの!? 」
あまりピンと来ていない様子の城前 陸(
jb8739)。それに対して、色々と詳しそうな天谷悠里(
ja0115)が不安そうな悲鳴をあげた。
「小銭と言うでない!わしのお小遣いから出しとるんじゃぞ!」
何と軍資金は王様のお小遣いだった。世界の平和を願うなら国庫から出せ。
「銅の剣は売りさばいて軍資金にしましょう。では、私はちょっとやることがありますのでこれで」
「わしの援助……」
不穏な笑みを浮かべながら去っていった海城 阿野(
jb1043)。この後、酒場で仲間の身包みを剥いで解雇し、衣服を売りさばくというRPG特有の金策をするのだが、他の勇者達にはとても言えない。
「子供の頃、勇者になりたいって思ってたなぁ……。折角だし、楽しもうかな」
「わたくしも折角だから派手な魔法で思い切り暴れてみたいわ」
友達同士である橘 優希(
jb0497)と斉凛(
ja6571)は、2人で旅をすることに決めたようだ。
「だな。とりあえず楽しむか」
ぐっと拳を握る恙祓 篝(
jb7851)。一瞬、「勇者ってなんか勝手に民家入ってタンスとか物色してアイテムとか金とか奪うんだよな?」というイメージが巡ったが、完全に外道なので思いとどまった。
阿野にもこの良心が残っていれば……。
そこで、今まで押し黙っていた水竹 水晶(
jb3248)が、ぽつりと呟いた。
「戦いって、あまり好きじゃなーい……」
「水晶君……」
小さな体でそんなことを言われ、無理に旅に出ろだなんて言えるわけがない。さくらは水晶をぎゅっと抱きしめる。
「無理に戦わなくていいのよ。ここにはおばさんや、他の勇者の人がいるんだから!ね、悠里ちゃん!」
「えっ!?うう、そんな目で見られたら断れないよー!」
勇者にふさわしい、断れない体質である。
「そうそう!無理に戦わなくていいよ!魔王城には僕が行くからだーいじょーうぶ!」
睡 乃姫(
jb6025)がハイテンションで宣言する。
「うん……でも、魔王は倒して欲しいから、僕、商人になって皆を助けるね!」
「おお!それは助かるな!頼りにしてるぜ」
かくして勇者達は城下町で情報収集の後、各々行動することとなった。
魔王城を目指し、まずは大陸を繋ぐ洞窟へ行く者。
日本?とやらへ刀や観光目当てに行く者。(内、片方は既にお土産を腕いっぱい抱えている)
とりあえず金策をする者。
それぞれの健闘を祈り、旅立つのだった。
●大陸を繋ぐ洞窟
暗い、長い。ゲテモノ。この洞窟はこの3つの単語で出来ていた。
悠里、乃姫、さくらの3人は、回復が充実したPTだ。敵を倒しながらなんとか進んでいく。
「えー、虫除けハーブはいらんかねー」
そこににゅっと現れる水晶。
「うわあ、びっくりした。でも、虫の魔物にも効きそうだし便利そうだね。買おうかな」
「買ってくれるの?ありがとー!」
少し戸惑いながらも、お財布を出す悠里に、水晶がぴょーんと飛び跳ねて喜ぶ。
「いくらかな?」
「……わかんない!」
「……金50くらいでいいかな?」
王様から貰ったお小遣いをそっと差し出す。
「まいどありー!おまけしとくね!」
すると虫除けハーブを10個ほど渡し、水晶は去っていった。
「いいのかなあ?」
「本人が良いなら、良いのでは……ないのかしら?」
「ところで……何か聞こえない?」
「ん?そういえば……」
水晶もいなくなって会話する人などいないはずなのに、洞窟の曲がり角の先から聞こえる謎の声。警戒しつつ覗いてみると……。
「はー、超作業なんですけどー」
さも面倒くさそうにしつつも、雑魚敵をばっさばっさと蹴散らしている阿野。
「やっぱりガッツリLVを上げてから次の場所に向かわないとね♪」
1人のため気を抜いているのか、おネエ口調になりながら恍惚の表情でレベリングをしている。
その姿を暫く凝視した後。3人はそっとその場所を後にした。
●盗賊のアジト
凛と優希は、宝を盗んたり、人攫いをしているという盗賊のアジトへとやってきていた。
水晶玉を使った遠見の魔法で、人質がどこにいるかを探る。水晶が、洞窟の奥の牢屋に閉じ込められている女性と青年の姿を映し出した。
「じゃあ気をつけて行ってみよう。凛ちゃんは僕の側から離れないでね」
「頼りにしてますわ」
「えー、消え草はいらんかねー」
突入しようとしたところへ、ひょっこり水晶が現れる。
「消え草?」
「これを使うと、暫く姿が見えなくなるんだよ!潜入にピッタリでしょ!」
「それはいいですわね。……ところで、さっきまで別の場所にいませんでした?」
「気のせいだよっ」
その笑顔に何も言えるわけもなく。2人は消え草を買うと早速使い、洞窟の中へ入っていった。
消え草のおかげで苦労することなく、最奥まで辿りついた2人。人質達のもとへ駆け寄ると、牢屋から出してやる。
「もう大丈夫ですわ」
「ありがとうございます!助か……あっ!後ろ!」
女性の悲鳴につられるように振り返ると、そこにはパンツ姿の集団がいた。
凛は咄嗟にバリアの魔法で、人質達を守ってやる。
『ここまで来るとは大した奴らだな』
「あなた達こそ、噂通りひどい格好ですわね」
『なんだと!?どうやら痛い目に合わせてやる必要があるようだな!!』
凛の嫌味に、いきりたつ盗賊達。優希が前に飛び出し、敵からの攻撃を防ぎながら凛を守るように動く。
だが複数人の攻撃を全て捌くことは出来ず、その頬や腕から血が流れた。
「あらあら…悪い子にはオシオキが必要なようね、えいっ」
『ギャー!!!』
凛が魔道書を開くと、書の中から雷が飛び出し盗賊達に降り注ぐ。
あっという間に真っ黒こげになり、倒れてピクピクと痙攣する盗賊達。
そんな凛の魔法を見て、優希がぼそりと呟いた。
「……下手に逆らわないでおこう」
「片付きましたわね、優希さん、回復しますわ」
幸運にもその呟きは聞こえなかったらしく、心配そうに凛が近づいてくる。手をかざすと、みるみる傷が癒えていった。
「ありがとう。凛ちゃんは気が利いて、本当に良いお嫁さんになれるね」
「優希さんこそ、護ってくれてありがとうございますわ」
「女の子を守るのは、男の役目だよ?」
「あのー……僕達、お邪魔、ですかね?」
ほのぼのとしている2人に、遠慮がちに話しかけてくる人質の人。
2人は慌てて、人質の人を連れて洞窟を去ったのだった。
そして、残されたのは黒こげの盗賊達だけ……のはずだったのだが、暗闇に隠れていた阿野が現れる。
「一足遅かったようですね。でも、好都合」
阿野はお頭らしき人物を叩き起こすと、笑顔で話しかけた。
「貴方がここのお頭ですか?これからは私の元で働く事を命ずるわ」
『ぐ……、な、なんで俺がそんなこと』
「私はいずれこの地の王となる者、従わぬと言うなら痛い目を見る事になりますよ」
にっこりとどす黒いオーラを纏った笑顔に、お頭は思わずこくこくと頷いていた。
「ふふ……これでこれでまた一歩……」
薄暗い洞窟の中、阿野の笑い声が響き渡った……。
●日本?
何やかんやあって、篝と陸は、目的としていた日本?に辿りついた。
篝は真っ先に武器屋へ入り、一言。
「一番良い刀を頼む」
その言葉に、親父は店の壁に飾ってあった一振りの刀を手に取ると、篝の目の前に置いた。
「見るからに強そうだな。これ、なんて言うんだ?」
「鋭突刀、と言う。うちで一番の業物なんだが、使う人を選ぶのでな」
「わけありの品ってやつか……?」
ごくりと喉を鳴らす。
「ああ、その刀は、装備した者のツッコミが鋭いほど威力を増すのだ」
「なんだそりゃ!」
「おお、そのツッコミは正しくこの刀の主にふさわしい!是非使ってくれ!」
鋭突刀を手に入れた!
「なんか納得いかねえが……、まあ、強いならいいか」
「か、篝さーん、大変です!」
複雑な心境の篝の元に、街を見て回っていた陸が飛び込んできた。
その腕の中には、不思議なお土産品がいっぱい抱えてある。
「城前、とりあえず荷物は袋に入れろ。どうした?」
「どうやらここにはゴマタノオロチとやらがいて、生贄を要求されて困ってるそうなんです」
「ゴマタノオロチだあ?五股もしておいて生贄も要求するとか、最低な野郎だな!」
本当はただの5つ頭の敵の予定でしたが、ここで五股野郎に変更になりました。
「そんな奴は蹴散らしてやる。城前も来るだろ?」
「はい。出来れば説得で済めばいいのですけど……」
そして五股野郎の館。
尺の都合で既に五股野郎の目の前である。いかにもいけすかない感じの男だ。
「あなたが五股のおろちさんですね。生贄の要求をやめてください、皆さん困ってます」
「はは、生贄だなんてとんでもない。皆、私のハーレムに入っているだけさ!」
「それが悪いと言ってるんだー!」
ツッコミと同時の攻撃。クリティカルヒット!
五股はばったりと倒れた。
「では改めて……やめてください」
「わ、解った……」
「それから、魔王城への行き方とか知りませんか?」
「そ、それなら……家の裏の井戸が魔王城に繋がっている」
「マジかよ!」
日本?が思いの外遠かったので、辿りつく前に他の勇者が魔王を倒してしまうのではと懸念していたが、これなら間に合いそうだ。
「では少しゆっくりしてからいきましょうか」
「すぐ行かないのか?」
「え、決戦フェイズの前にイベントでアウルを回復させないと……」
「それはTRPGだ!」
メタなボケにも律儀につっこむ。
「そこでこの回復薬セット!」
「ってうわっ!」
どこからともなく水晶が現れた。
「これから魔王城なんでしょ?これで頑張って!」
「う、うん。ありがとう。でも、なんでこんなところに…?」
「だってさすらいの旅商人だもんっ」
「そ、そっか。それじゃあ貰うね」
陸が手を伸ばそうとした時。
「金50だよ!」
「金とるのかよ!」
「だってさすらいの旅商人だもんっ」
しょうがないので購入し、魔王城へ繋がるという井戸へ向かうのだった。
●魔王城
旅の果て、ついに魔王城に辿りついた悠里達。
「ついに辿りついたね……」
「ほらほら、早く行こうよ!」
「乃姫君、待って!」
城の中は、長い回廊が続いていた。
魔物に警戒しながら進んでいくと、一段と大きな魔物が4体、道を塞いでいた。
『私達は魔王様を護る四天王!ここは通さんぞ!』
その巨体にたじろいでいると、後ろから聞き覚えのある声が響いた。
「ここはわたくし達にお任せくださいませ!」
言うや否や、風の魔法で魔物を怯ませる凛。
同時に、優希が皆を護るよう前に立つ。
「凛ちゃん、優希くん!?でも……」
「大丈夫です……すぐに追いつきますっ」
「じゃあ、お言葉に甘えて先に行っちゃうね!目指せ最深部ー!」
乃姫に引っ張られるように、奥へ消えていった悠里達。
だが騒ぎを聞きつけたのか、続々と魔物達がやってきた。
「手加減しませんわよ!」
凛の言葉と共に、城をぶちやぶって隕石の雨が降り注ぐ。
雑魚を一掃すると、優希が四天王に向かって切りかかった。
『そんな攻撃で……私を倒せると思うか!』
「うわっ」
反撃を喰らい、大ダメージを受ける優希。
回復をしても、四天王達に次々と攻撃され、防具は壊れ、攻撃を受け止める剣もボロボロになっていった。
「くっ……」
「優希さん、もう賭けですわ。今から剣に魔法を付与しますから、それで敵をやっつけてください」
「……解った」
覚悟を決め、ふらふらの体で立ち上がる優希。
凛が呪文を唱えると、その剣に輝く炎が纏わりついた。
「凛ちゃん、隙を作って!」
「わかりましたわ」
もう一度、隕石の雨が降り注ぐ。
さすがに四天王も全てを防ぐことは出来ず、その動きが止まった。
「今ですわ!」
「これが……僕らの聖剣だぁっ!!」
『ギャアアアア!』
渾身の力を込め、炎の剣を横へ薙ぎ払う。
剣は深く四天王達の体を切り裂き、そのままその炎に燃えつくされ、四天王達は消滅していった。
●魔王
最深部に辿りついた3人。だが、その豪奢な玉座には、誰も座っていなかった。
「どういうこと?」
「……ふっふっふっふ、皆の者、ご苦労だった」
「え?」
突然、乃姫が玉座へ駆け寄り、その前に仁王立ちした。
「我こそが魔王バラバラ!迷子になっていた我をここまで連れてきてくれたこと、感謝するぞ!」
「乃姫くんが魔王だったの!?」
愕然とする悠里とさくら。
「驚くのも無理はない。プレイングによって急遽変更になったことだからな!」
「で、でも、魔王なら、容赦しないよ!」
「ええ、悪い子は叱ってあげます」
「では、貴様らのはらわたを喰らい尽くしてくれるわ!」
戦闘モードになる乃姫。光纏の影響で、何故か女性のようなスタイルになる。
だがそんなことには構わず、悠里は装備しているおたまで殴りかかった。
「ぐはあっ」
「あ、あれ?」
一撃で沈んでしまった乃姫。魔王とは言え、彼は1LV。はっきり言うと弱かった。
「ぐ、ぐふっ……」
ばったりいってしまった乃姫。世界に平和が訪れた瞬間であった。……はずだったが。
「魔王は、倒れたようですね」
静かになった広場に、靴音を鳴らしながら阿野が現れた。
「阿野くん無事だったんだね。うん、魔王は倒し……」
「では、今度は私がお相手しましょう。手下共、行きなさい!」
『とりゃあー!』
阿野の背後からパンツ姿の盗賊達が現れ、襲い掛かってくる。
その攻撃を間一髪避けながら、悠里が悲鳴をあげる。
「ど、どういうことなの!?」
「魔王を倒した勇者を倒し、私が次の魔王になるのですよ!」
一日勇者権だと思ったら魔王権だったようだ。何故こうなった。
そこへ、篝と陸が駆けつける。
「魔王だなんて、やめてください!話し合えば解りあえます!」
「駄目よ!完全に闇落ちしてるわ!」
説得しようと前へ出た陸を制止するさくら。
「っていうか……なんでPCの中に2人も魔王がいるんだー!!」
「ぐふうっ」
ツッコミのおかげで冴え渡った鋭突刀が、阿野を倒した。
「わ、私が……世界の王に……がく」
「……ええと、もう、魔王になりたい人いないよね?」
「いないと思います……」
「……帰るか」
「そんな時にはこのアイテム!」
そんな時にまたまたわいてでる水晶。
彼の持っていた転移のアイテムで最初の街へ戻ると、勇者一同(+魔王2人)は王様のもとへ行くのだった。
●ED
そんなこんなで、世界に無事平和が訪れた。
魔王達もどうやら懲りたようで、もう世界征服はしないようだ。
勇者達は終わりの時を各々過ごし、元の世界に帰ることとなった。
「今日は楽しかったですわ。また遊んでくださいね」
「こちらこそ楽しかったよ。ありがとう、凛ちゃん」
消えてゆく勇者達。
後に残ったのは、魔王を倒したという伝説のおたまと、鋭突刀だけであった……。
「っていうか、私の装備品に違和感覚えてよぉ!!」
ガバッと起きる悠里。そこは、見慣れた自分の部屋とベッドであった。
夢落ちEND