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マスター:神無月ゆうめ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/10/15


みんなの思い出



オープニング

●妄想
 我は天使に仕えし者、月光の貴公子。名はとうに捨てた。
 天に仕えて如何程の時間が経ったのか。人間界は深淵なる冬に備え、実りと収穫の時期を迎えようとしている。
 我の目的は一つ。我が主のためにこの身を捧げること。
 主の命のままに、人間界から実りを奪うこと也。

●現実
「太郎ー」
「……月光の貴公子です」

 自分の主に本名を呼ばれ顔をひきつらせる月光の貴公子。主人に向かって怒るわけにもいかず訂正するに留める。

「だってその呼び方長いんだもん。あのね、果物食べたい」
「……果物、ですか?」
「うん、リンゴとかー、柿とかー、色々あるでしょ?」

 にこにこと笑う姿は可愛らしい15、6才程度の少女にしか見えない。だが彼女は天使。本来なら食事など不要である。
 しかし彼の主は人間の風習を好んで取り入れていた。今回もその気紛れの内なのだろう。
 月光の貴公子は跪き、その手の甲に口付けをした。

「お任せを、マイプリンセス」
「よろしくね、太郎」
「……月光の貴公子です」

 未だに主に覚えてもらえない名を繰り返しながら、自称月光の貴公子は人間界へ降りた。



 果物狩りのために。



●そして久遠ヶ原
「大変ですっ!シュトラッサーが料金を支払わずに果物狩りをしています!」
「……え?どういうこと?」

 慌てた様子のオペレーターに聞き返す鈴木さくら。

「現在ぶどう、リンゴ、柿、梨などの果物狩りを行っている『くだものやさん』に、シュトラッサーが徒歩で出現。料金の支払いを拒否して無理やり侵入し、食べ頃で色艶形の良い果物ばかりを選定して丁寧に収穫しているとのことです!」
「丁寧に収穫……?」

 何故シュトラッサーが果物狩りを。しかも何故そんな手際良さそうなのか。

「人への被害はありませんが、受付の女性が脅された際に受付カウンターを軽々と壊されたという事で天魔と認定、こちらへ話がまわってきました!黒の長髪に青い目、黒のタキシードにマント姿という目撃情報から、以前一度現れた月光の貴公子というシュトラッサーではないかと予想されます!」
「そ、そう……」

 月光の貴公子といえばあれだ。確かアレなシュトラッサーだ。あまり深く考えてはいけないのだろう。

「シュトラッサーを追い払ってほしい、という依頼なのかしら?」
「はいっ、出来れば料金を払って欲しいそうですが、無理ならば追い払って果物狩りを止めさせて欲しいとのことです!でも周りの果物に被害がないようにして欲しいらしいです。無事に依頼が済んだらそのまま果物狩りを楽しんで良いらしいです!あ、さくらさん担当お願いしますね」

 料金を払えばいいという問題なのだろうか。そしてさりげなく押し付けられている。
 だが、そう突っ込む気力はもうさくらにはなく、無言で依頼の資料を受け取ったのだった。


リプレイ本文



「又迷惑な…」

 水屋 優多(ja7279)は現地に向かいながら、前回の報告書を読み返していた。あの時は知人や恋人と一緒に追い返したっけ。
 自称月光の貴公子。撃退士達が弄った結果判明した名前、田中太郎。メンタル弱し。
 彼は一体何がしたいんだろうか。
 …何も考えてないんじゃないかな?

「払うもん払ってさっさと帰ってもらいたいねー☆」

 言いながら、ケーキミックスの粉とシナモンとハチミツを持参している藤井 雪彦(jb4731)。
 そう、同じく前回の依頼に参加した彼は解っている。
 この依頼、メインは果物だ。貴公子はおまけ。そういう役どころなのである。

「ん…。早く、終わらせて、やけ食いする…」
「だねぇ。やけ食いしなきゃやってられないよ、もう」

 既に果物に思いを馳せるヒビキ・ユーヤ(jb9420)と来崎 麻夜(jb0905)。何かあったのだろうか、やけ食い目的で参加したようだ。
 ちなみに前回の依頼にも参加していた筈なのだが…憶えてないらしい…しょうがないね。月光の貴公子(笑)だからね。


 現地に到達すると、本当に月光の貴公子が果物狩りをしていた。
 太陽の下、タキシード姿で汗水垂らして果物狩りをする姿はある意味賞賛に値するかもしれない。

「…大変だな、使徒って奴も」
「いやー、痛い格好だなー。凄いミスマッチだ」

 実家が喫茶店の黒羽 拓海(jb7256)。仕事ついでに新作菓子のレシピでも考えようかと思い参加したが、シュトラッサーの果物狩り姿に絶句する。
 そんな横で、リンゴ目当てにやってきたジョン・ドゥ(jb9083)が証拠写真をデジカメでぱしゃり。
 優多は携帯で動画を撮影して動画サイトに配信する準備を始めた。まだ会話すらしていないのに、既に貴公子の色々な何かがやばい。

『む?貴様らは…』

 そうこうしている内に貴公子もこちらに気がついたらしく、手を止めて撃退士達を凝視する。そして自分の姿を顧みて、慌てて佇まいを直した。

『撃退士共か…、我の邪魔に来t』
「見ーつけたー…」

 貴公子の言葉を遮って、シュタルク=バルト(jb9737)が光纏して立ちはだかった。
 普段は殆ど無表情な彼女であるが、今回はおこだった。

「果物を乱獲なんて許さない。絶対に。とりあえず(自主規制)して(自主規制)のアレで3回くらい(自主規制)ばいいのに」
『会うなりいきなりひどいな貴様!?』
「黙れゾウリムシ。早く果物と料金と謝罪の言葉を置いて出て行け」
『ゾウリムシ!?』

 食べ物の恨みは実に恐ろしい。
 バルトの瞳が狼のように光る。完全に捕食者の目だ。

『ふ、ふふ…素直にはいと言うt…』
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!ボクを呼ぶ声がする!そう、ボク参上!とおうッ!」

 再び貴公子の言葉がぶったぎられた。
 登場タイミングを窺っていたイリス・レイバルド(jb0442)が、七色の粒子を纏い輝きながらびしっと空中でポーズを決める。

「初めましてだな!月光の貴公子!ボクは愛と絆のイリスちゃんでっす!」
『っ!ほ、ほう。名乗りを上げるとはなかなか解っているようだな。そう、我は月光の貴公子…』

 久々にまともに呼んでもらえてちょっと嬉しい貴公子。
 自身も名乗りながら、格好つけてイリスに目線を送る。
 それに対して、イリスがゴミを見るような目で見下した。

「…あ?何乙女のスカートの中見てんだ潰すぞ?」
『貴様ら物騒な奴しかいないのか!?』

 そのやりとりを見ながら、ヒビキと麻夜が首を傾げた。

「ん…どこかで見た、事があるような?」
「…よく見たら、この前無視しちゃった人じゃない」
「ああ…目の色が、ずれてた人」

 こくりと頷くヒビキ。
 どうやら思い出してくれたようだ。思い出し方はひどいが。

『目の色がずれてるってどういう事だ…』
「そのまんまの意味だよ。いくら厨二病でも、もうちょっと自分に合った格好ってあったと思うんだけどな。そもそも長髪が似合ってないような…」

 まじまじと見ながら、麻夜が冷静に分析する。
 こういうの地味に傷つくよね。

「そうだな。これは親切心からだが、カラコンは目に悪い。加えて、タキシードのような礼服を着るなら、髪は纏めるなりしないとだらしない。あまり似合わない服装を無理に普段着にするのも控えた方がいい」
『そ、そうか…』

 貴公子の格好にマジレスする拓海。義妹からの受け売りではあるが。
 これはガチで傷つくよね。
 そんな貴公子に、スキルの効果が切れて地上に降りたイリスが、うんうんと頷きながら。

「わかるよ〜マジわかるよ〜。キャラ設定って大事だからねー。ボクも『空』『虹』『翼』でアピールしてるからねー」
『…ほほう?イリスとやら、なかなかに良い趣味をしているな…』

 再び貴公子の厨二心をくすぐったらしく、何やら嬉しそうに笑う。
 その反応にドン引き。

「え、何反応してんの?ロリコン?……って誰がロリかっ!?」
『ロリコンじゃないぞ!?逆ギレか!?』

 イリスにされるがままの貴公子。
 早くも収集がつかなくなってきたが、とりあえず依頼達成のため交渉を試みてみる。

「えーと、月光の貴公子(笑)だったか?とりあえず、料金は払って一般客と同じように果物狩りした方が、お互いに平和だと思うんだがどうだ?」
「そうだ、月光の…田中何某。まずは果物狩りの一時中断、そして支払いの請求をさせてもらおう」

 ジョンが苦笑しながら提案し、それに続いて拓海も貴公子に詰め寄った。

『…月光の貴公子だ。そのような要求を呑むとでも?』

 軍手で髪をかきあげる。
 それを見て、優多が呆れたように溜息を吐いた。

「相変わらず、いい大人なのに厨二心満載ですねぇ。家族や友人と来るのが普通の果物狩りにボッチで、しかも場をわきまえない衣装で料金踏み倒し?きもいと言われても仕方ないでしょう」
『見かけによらず辛辣だな!?』

 とりあえず思いついた事を連ねてみる。柔和な笑顔が逆に怖い。
 雪彦が、何かを考えながら貴公子を憐れみの目で見ては溜息を吐いた。

「ないわぁ〜まさかなぁ〜子供でも知ってる事だもんなぁ〜」

 わざとらしく強調しながら顎に手を当てる。

『…なんだ、うっとおしい』
「貴公子が泥棒とかってそんな情けない事するわけないよねぇ〜☆むしろ料金の倍額だしたり?かっこよくツリはいらねぇ!!ってイメージだったんだけどなぁ〜…なんちゃって貴公子だったんだね…」

 笑顔でまくしたてた後、残念そうに今一度溜息を吐く雪彦。貴公子がうぐっと言葉を詰まらせた。

「なんで、お金払わない?」

 無垢な瞳で見上げるヒビキ。
 麻夜が、隙を与えず言葉を重ねる。

「お金払ってればボク達来なくて済んだのにねぇ」
「貴公子なのに、果物盗むの?なんで?なんで?」
「ねぇねぇ、田中さん。なんで、なんでー?」
『回るな!田中さんと言うな!』

 二人で貴公子を挟んで周りをくるくる回る。煽るってレベルじゃない。

「…ん、田中さん?」
「うん。月光の貴公子(笑)もとい田中太郎さんだよ。月光の貴公子とか、称号ならともかく名前にするのはどうなんだろうねー?」
『月光の貴公子だと言ってるだろうに!!』

 首を傾げるヒビキに名前を教えてあげる麻夜。
 バレバレだろうとあくまで月光の貴公子で通したいらしい太郎さん。

「とにかく、今のうちに聞き入れた方がいいと思うぜ?貴公子(笑)。しないってんなら…これを田中太郎の実名付でSNSに晒す」

 ジョンが先程デジカメで撮った写真を見せびらかしながら笑う。
 貴公子の顔がさっと青白くなった。

『い、いつのまに…っ』
「動画もありますよ。いつでも配信出来ますけど」
『貴様らは鬼か!?』

 ジョンと優多の脅しに、弱腰になる貴公子。
 使徒が鬼とか言うな。

「こうして見ると、見事な手際だな。ここまで手馴れているとなると…農家の出身か?」
『のっ、農家!?ばばば、バカを言うな!この高貴なる月光の貴公子が農家など!』

 拓海が写真を眺めながら予想を言うと、凄い上ずった声で反論する。
 あ、アタリだこれ。
 ヒビキが何かを理解したようにこくりと頷いた。

「農家…軍手が似合うタキシード農家、田中太郎爆誕?」
「久遠ヶ原のデータベースが更新出来るな…ひいては世界のデータベースに載るかもしれんが」
「太郎(笑)農家出身か…ついでに晒すか」

 農家出身というデータを暴いた拓海。これもう使徒になる前のことも特定出来るんじゃなかろうか。
 ジョンは着々と晒す準備を進める。

『ま、待て。話せば解る』

 貴公子がかくかくしかじかと、主に命令されて果物をとりにきた事を暴露した。

「上の命令〜?それで許されるかって言われると、別にそうでもないよね?」

 おこなのを必死に我慢しながら、皆の説得という名の弄りを見ていたバルトが再び怒りを露にする。
 笑顔すら浮かべて、親指でつっと首を切る動作をしてみせる。

「だって事実として『果物を盗った』んだよ?要するにGuilty」
「主が人間の風習好んで取り入れているなら、その好みを尊重して最低限のルールは守ったらどうですか?」

 果物を食べたいという願いから、どうして果物狩りを強行することになったのか。優多が渋い顔をする。
 イリスがばっと指を突き付けた。

「そうそれ!『貴公子』を名乗るからには、通すべき筋ってモノがーあるんじゃないのかい?料金と弁償代!この二つをキッチリ払って筋を通せ!それが出来ないなら『奇行子』とでも名乗っとけ!」
『き、奇行子…?』
「まあ、カウンターを壊しちまったのはちょっとまずいよなあ」

 ジョンが頬を掻く。
 イリスが腕を組んでこくこく頷いた。

「ま、アレだ金払おうぜ?」

 悔しさに震える貴公子の肩にぽんと手を置きながら、最終的な結論に達する。
 心優しい?撃退士達。お金を払えば許してくれる方針らしい。

 だが、貴公子の表情は浮かない。

「もしかして…Σお金持ってない?忘れちゃった?」
『わ、忘れたわけではない!我は、人間界の下銭な貨幣など持ち合わせぬだけだ!』

 そんな馬鹿なとばかりに雪彦が驚いた様子で指摘すると、貴公子が苦しい言い訳をしてきた。
 可哀想なものを見るような目をする一同。

「お金ないなら、アルバイト、する?お手伝いとかして、弁償と料金払えば良い」

 ヒビキの意見に、拓海が考え込んだ。

「ならば久遠ヶ原でシュトラッサーの研究に付き合うか、この果樹園でバイトするか選ばせてやろう」
『だ、誰がそんなことを…っ!』
「働かざる者食うべからずだよぉ〜?大丈夫見た目はそこそこイケテルしお客さん呼ぶために客引きへGOだよ〜♪」
『そこそこ言うなっ!』

 イリスと逆の肩に手をぽんと置いて、雪彦がにっこりと微笑む。
 貴公子は揺れた。
 シュトラッサーの研究などは断じて受けるつもりはないが、バイトなど、高貴(笑)なこのプライドが許さない。
 しかし、ここで断れば写真と動画の公開処刑だ。

「私達の代わりに、収穫してきて、くれても、良いよ?そうすれば、果物持っていける、よ?」
「文字通り馬車馬の如く働けば、皆も私も優しいからそれで許してあげる」
『…解った』

 貴公子は(色々と)折れた。


「さあ、手伝って貰うよ!ヒビキは梨、田中さんはリンゴかな?」
「麻夜は、ブドウ。あの子達にも、持って帰って、あげないと」
『……』

 撃退士達の果物狩りを手伝う事で手打ちした貴公子。言われるがまま、黙々と働く。
 麻夜とヒビキはお土産分を確保すると、貴公子は働かせたままでやけ食いのためにログハウスに直行した。

「先輩も来れれば良かったのになー。ボク達放って行っちゃうんだから、もう!」
「あと少し、あとちょっとで、一緒に行けたはず、だった」

 ジュースを飲みながら、収穫した果物をひたすらぱくぱく食べる。
 何やら先輩に置いていかれたらしい。そのストレス度合いはこの果物の消費量で解る。恐らく貴公子は追加で更に梨とブドウを収穫しないといけないだろう。

 雪彦は果物を軽く収穫した後、ログハウスでキッチンを借りてデザート作りをしていた。
 ケーキミックスを衣に使い、リンゴを揚げる。ハチミツとシナモンをかけると、何とも言えない甘い香りがログハウス内に広がった。

「イリスちゃん、麻夜ちゃん、ヒビキちゃん、よければど〜ぞ☆」
「ふ、ボクに惚れると火傷するぜ…?それはともかく有難くいただくよ!」
「じゃあ遠慮なく貰おうかな?」
「ん、いただきます…」

 作りたてを女の子達に配ってあげる。
 はふはふと熱がりながらも美味しそうに食べる姿が、雪彦にとっての報酬といったところだろうか。

 さくらさんとすみれちゃんにも、お土産に持っていってあげよう。
 笑顔を想像して、雪彦は思わず笑んだ。

「揚げリンゴか…」

 雪彦がデザートを配っているのを見て、リンゴのタルトを注文し食べていた拓海がぼそりと呟く。
 新作レシピを考えていたのだが、揚げリンゴは変り種なので気になる。

「黒羽さんも食べますか?」
「ふむ、ならば頼む」

 美味しそうに食べている女性陣を見るに、義妹が喜ぶかもしれない。後で自分でも作って、実家に言ってみよう。
 心の中でシスコンっぷりを爆発させながらも、拓海は表面上はあくまで冷静に返事をした。


 ジョンは梨を少し取った後、リンゴをひたすらもいでいた。その比率1:9。
 自身もリンゴは好きだが、お土産にも持って帰りたい。
 ある程度とったら、デザートにして持って帰ろう。

「リンゴのケーキ…アップルパイ…コンポート…シャーベットは流石に季節外れかな…?」

 たくさんのリンゴを籠に持ち、ログハウスに向かう。
 揚げリンゴもお土産に加わるだろうか。


 一方、ゆっくり果物狩りを楽しんでいる面々。
 優多は、柿は彼女の実家が送ってきてくれたので、時間いっぱい使ってブドウとリンゴと梨を収穫していた。

「小さい子のいる所が優先配布ですよねぇ」

 同じマンションに住んでいる知人友人、恋人の事を思い出し、ふっと微笑む。
 たくさん持って帰ってあげよう。きっと喜んでくれる。

「ブドウ美味しそう。あとはリンゴ沢山持って帰って姉さんと皆で食べよー」

 バルトは先程までの怒りはどこへやら、粒の揃ったブドウを見て満足そうに。るんるんで果物狩りを楽しんでいた。

「いやー、実に平和的な依頼だった。秋の味覚は素晴らしい」

 …彼女が一番平和的じゃなかったような…。いや、実に平和的でしたねはい…。
 え、貴公子?
 あれから黙々と働いて、殆どの果物を撃退士達に上納し、その後果物狩りの客引きを手伝って帰りましたけど何か?

 ちなみに、久遠ヶ原のデータは農家出身って更新しておきました。



『…マイプリンセス、ただいま戻りました…』
『お帰り〜。あ、果物たくさんあるじゃない。美味しそうね』
『喜んでいただけて、恐悦至極です…』

 籠いっぱいの果物を受け取りながらも、天使が首を傾げる。

『そういえば、私お金渡してなかったけど大丈夫だった?』

 悪気の無い主の、無垢な言葉に、貴公子はがくっと崩れ落ちた。

END


依頼結果