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「詐欺!それは酷イ、商人の風上にも置けませんねェ」
『えっ』
見るからに怪しい格好をした四十万 臣杜(
ja2080)の言葉に思わず依頼人が声をあげた。
そんな面妖な外見の上に、参加時の称号が闇の転売商人である。……いや、あまり触れてはいけないのだろう。
「バカそうな人を狙うらしいので、残念ながら私のような人界知識豊富なはぐれ悪魔さんでは囮になれませんねー♪」
『えっ』
落ちこぼれ系どじっ子悪魔パルプンティ(
jb2761)の言葉に再び声をあげるが、ここもやはりつっこんだら負けである。
「ウチのコノちゃんなんて純粋無垢だし何時被害にあっちゃうかわかんないよね、さっさと捕まえなきゃ!!」
「雪お兄ちゃん、恥ずかしいのですぅ……」
藤井 雪彦(
jb4731)はいつもの軟派な雰囲気はどこへ行ったのか同行者の深森 木葉(
jb1711)にべったりくっついている。木葉は雪彦と同行出来ることが嬉しいながらも、恥ずかしいといったところか。
『頼んどいてなんすけど……、大丈夫すか?』
「とりあえず、面倒な状況になってるのは理解した」
「ふふ、悪徳な商人さんはこらしめてあげないとね」
不安そうな依頼人。恙祓 篝(
jb7851)は若干目を逸らしつつ、紅 貴子(
jb9730)は妖艶な笑みを浮かべながら答える。
「まずは調査だねぇ。被害者の証言を聞きたいところかな」
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)が被害者からの聞き込みを提案する。商人の出現場所や時間が解らなければ捕まえようがないのだから当然だろう。
『じゃあとりま俺の友達紹介するっす。詳しい話とかは俺じゃ解らないんで』
「うん、よろしく」
こうして、件のエクズカリバーを買ったという友達の所へ向かうことになった。
●
エクズカリバーな友達に話を聞きに行ったが、確定的な情報は無かった。だが被害にあっただろう人には心当たりがあるということで、その人達の名前を教えてもらうことが出来た。
「ところで気になっていたのだけれど……、武器の名前聞いて偽物だって気付かなかったのかしら?」
貴子がもっともな質問をする。
『なんか「最近は著作権が厳しい。武器の名前もいつ規制されるか解らないから濁してるんだよ」って言ってました』
「……それを信じましたの?」
『はい!』
「疑えよ!」
勢いの良い返事を聞いて、頭を押さえる貴子と思わず突っ込んでしまう篝。
「……騙されやすそうな人を狙ってる可能性大、ですわね……」
「問題は、どこでそれを判断しているかだねぇ」
ジェラルドが苦笑した後、声を潜める。
「もし学園内の様子を観察して声をかけているとしたら……学園関係者の可能性もあるね。聞き込みは少し慎重にいこう」
「だな。なら俺は武器が欲しいからって理由つけて商人のこと聞いてくる。これならそんなに怪しくないだろ」
「ボクはこのまま被害者っぽい人をあたろう。何か解ったら連絡するよ」
そのまま調査へと旅立っていく二人。貴子は友人の部屋を去ると、笑んだ。
「聞き込みは任せて、こちらは囮役の準備でもしましょうか」
●
「ふむふむ、購買に寄った日に会ったんだねぇ〜」
『はい……籤で良い物が出なくて冷静さを欠いてたのかも。嫌になっちゃう。返品したくてもどこにもいないし』
「あー、あるよねぇ。そんなに気落ちしないで」
被害にあった女の子の話を聞くジェラルド。既に何人かに聞いたが、その容姿と性格故か女の子の方が反応が良い。気を悪くすることなく教えてくれた。
「お願いがあるんだ。犯人が捕まったら被害者として名乗り出て欲しい。皆の証言が欲しいんだ。勇気が要るかもしれないけど、協力してくれないかな?」
『わ、私でよければ喜んで』
「ありがとう☆」
女の子が顔を赤らめながら頷く。もはや口説いているのか聞き込みなのか。
その女の子にスマイルをプレゼントして別れると、今までの証言と照らし合わせる。
「全員購買か科学室に寄った後、か……。偶然じゃあないよねえ」
被害者の前に二度と姿を見せないということは、ただ学園の外で待ち伏せをしているわけではないだろう。更に被害者のクラスも学年もバラバラとなれば購買か科学室が怪しいとしか思えない。
ジェラルドは素早くメールを送信すると、残りの被害者にも話を聞くべく移動した。
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「お前さ、闇の武器商人って奴知ってるか?何かすげえ武器売ってくれるって話なんだけど」
『あ、俺会った事あるわ。買わなかったけど』
「本当か!?俺武器欲しいから探してるんだよ」
まさか被害にあっていない目撃者がいるとは思わなかった。
クラスメイト曰く、この武器は伝説級の武器だ、これを買って戦えば誰でも強くなれると言われ、実際、見た目は格好良くかなり心惹かれたが、名前が変なのとあまりに高額だったので買わなかったのだという。
「本当にそんな凄い武器があるのか?」
『さあ。いかにも怪しかったしなー』
話を聞いて、少し興味を抱いてしまった篝。今度はそのへんを歩いていた先生を適当につかまえて話を聞く。
「魔具の製造に興味あるんすけど、これって一人で作れるんすか?」
『ん?無理無理。専門機関で作成してるんだから。個人での製造は不可能だよ』
先生は軽く答えるとそのまま去っていった。
「個人で製造は無理、か……」
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ジェラルドの報告メールを受けた一行。
その中でパルプンティは一人こそこそと動き出した。出現条件と見られる、購買と科学室に寄って帰路についたのだ。バカそうな人という条件には当てはまらないと本人は信じきっていたが、何と出会えてしまった。
『やあお嬢さん。素晴らしい武器を買っていきませんか?』
人気がないのを見計らって茂みから出てきた商人。
全身を包む茶色いローブ。背格好は全く解らないが声の感じは男性だろうとは思う。
「(ふ、口八丁でクズの武器を高値で買わそうとするのは知っているのです)」
騙される筈が無いと思ったその時、電撃が走る。
「これは……ロンギヌヌの槍!」
「ヌヌ」ですよ「ヌヌ!」
「何この絶妙な騙し加減、面白すぎるですよーっ。買っちゃいますよーぅ♪」
『気に入ってくれたようで嬉しいよ。毎度ありー』
購入してうきうき気分でロンギヌヌを撫で回しじろじろ見ていると、ふと気がついた。値札と共に書いてある商品名。
「ロンギヌ……フ、?」
ロンギヌスの偽物のロンギヌヌかと思いきや偽者のロンギヌフ、だった。何を言っているのか解らないかもしれないが、多分誰にもわからない。
「騙しましたね?!」
謎の怒りポイントに触れてしまったらしく、商人が居た筈の場所を睨む。だが、既に商人の姿は無い。
慌てて、捕獲しようと商人がいた茂みの奥へダッシュしようとする。
が、何故か突然パンツが脱げ落ちて、それに足をとられてこけて、思い切り茂みにダイブする羽目になったのだった。
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次の日。
「購買か科学室で犯人が見てる、ってのは確定かな」
予想外のパルプンティの行動だったが、結果的に接触しようと思えば接触出来ることが解った。
「コノちゃん、囮役なんて本当に大丈夫?心配だよ〜」
男性陣は喰えそうにない人材が多いし、パルプンティは既に被害に合っている。となれば、木葉が囮役になるのは自然だろう。
「大丈夫なのです!雪お兄ちゃんもいるんだから平気ですぅ」
作戦としては、購買へ寄って帰り商人と接触。武器を購入した直後に雪彦が乱入、兄弟喧嘩に見せかけて装備し、効果が無い事をその場で問いただし、捕獲。その間の事はボイスレコーダーで保存して証拠物品行きだ。
「失敗した時は私も囮をするわね。一度被害に会うと姿を見せないみたいだし」
そう言ったのは貴子なのだが、いつもの色っぽい貴子はおらず、そこにはおさげ髪にゆるふわ森ガールっぽい化粧と変装の貴子の姿。
「女の子は凄いねぇー」
「女性ハ、天然ノ詐欺師かもしれませんねェ」
「褒め言葉と受け取っておきますわ」
格好はゆるふわなのだが、そうにこりと笑った姿は何となく怖かった。
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夕方、作戦通り木葉と雪彦は購買へ来ていた。視線を交わし、演技を開始する。
「お給料貰っちゃいましたー。新しい符が欲しいですぅ」
「コノちゃん?この間、装備新調してなかったっけ?無駄遣いはダメだよぉ〜?」
「無駄遣いじゃないですぅ〜!雪お兄ちゃんの意地悪!」
装備が欲しいことを主張しつつ、軽く喧嘩をしてみせる。演技だが雪彦は結構傷ついていた。
木葉が一人で駆け出す。
「あっ、コノちゃん!」
追いかけながらも、本気で嫌われないかが気になってしまう雪彦。至急、明鏡止水を活性化し、木葉をストーキ……もとい、見守る事にする。
とぼとぼと人気の無い所を歩く木葉。そこにすっと影が差した。
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『やあお嬢さん。武器が欲しくないですか?』
来た。
木葉はこっそりとレコーダーを起動し、話を合わせる。
「つよ〜い呪符が欲しいのですよぉ〜」
『それは丁度良い、伝説級の符があるのですよ。これを買って戦えば誰でも強くなれます。お嬢さんに特別に売ってあげましょう』
商人が懐から呪符らしき物を取り出した。キラキラと光るような紋様が描かれている。
「おおぉカッコいいのですぅ〜。でも兄ちゃんに、無駄遣いはダメって怒られちゃうのですぅ……」
『大丈夫、誰にも言いません』
「黙っててくれるのですかぁ。じゃあ買うのですぅ〜」
『毎度あり。そうそう、この場で装備はしちゃいけませんよ。強い装備は体に負担がかかりますからね』
「わかりましたぁ」
商人の口がにやりと歪む。
大金と引き換えにキラキラな符を手に入れた丁度その時。
「ちょぉぉぉぉっと待てぇぇぇぇい!!」
木葉をストーキ…見守っていた雪彦が草葉の影から飛び出した。
「貴様どういうつもりだぁ!!そんな強い魔具持ったら、ウチのコノちゃんが危険な戦場に出ちゃうじゃないか!!」
『な、何だ貴様!イチャモンつけやがって!』
実際イチャモンである。
演技とは思えぬ迫力で商人に詰め寄る雪彦に、木葉が怒り出す。
「もぅ〜。お兄ちゃんはうるさいのですぅ!ばかぁ〜!!」
『あ、こらっ』
買ったばかりの呪符を装備し、雪彦に攻撃を仕掛ける。が、ダメージは無い。
「あれ?つよ〜い呪符だって言ったのにぃ〜どういうことなのですかぁ〜!!」
素早く商人の服の袖を握りぐいっと詰め寄る。商人が悪びれた様子もなく笑った。
『嫌だなあ、強い呪符なんて一言も言ってないよ?戦ってる内に経験値が入って強くなるよ、って助言してあげただけ』
「うん、覚悟はいいかなっ♪」
商人の言い訳に、笑顔のままぶち切れる。
だが商人は開き直り気味に鼻で笑った。
『何、詐欺とでも言いたいの?証拠はあるわけ?』
証拠は現在進行形で絶賛録音中だが、まだ足りない。
そこでするりと臣杜が現れた。
「おヤ、何事ですカ?」
騒ぎを聞きつけた野次馬の振りをして近づく。商人はまたも人が増えた事に舌打ちした。
『何でもないから帰れ』
「ひどいのですよぉ!詐欺なのですぅ!」
今現れた設定の臣杜に簡単に説明してやると、臣杜はケラケラと笑った。
「嫌ですねェ、こんナ見え透いタ宣伝ニ?引っかかる方モ悪いんじゃなイですかねェ」
『そ、そうだっ。騙される方が悪いんだよ』
商人の同意の言葉に、臣杜が満足げに頷く。まるで、釣りで魚がかかったかのような感覚。
「あたくしモ商いをする身ですガ、厄介なお客様の相手は大変ですよねェ」
『全くだ。勝手に勘違いして買っているのはそっちだろうに』
「えェ、流石学園と言いますカ、学生は騙しやすイ」
自分の味方が現れた安心感なのだろうか。商人の口が軽くなっていく。
「宜しければ売捌くコツなど教えて頂けれバ?あたくしどうにモ、警戒されやすくっテ」
『ちょっと自尊心をくすぐってやれば、多少怪しくても買っちまうさ。馬鹿な奴らだぜ』
「そうですカ。まァこんなところでしょうねェ」
『は?』
臣杜の右手には、録音中のレコーダー。それを見た商人の顔色がサッと変わる。
『お前っ』
「いえいエ、申し訳ございませんねェ。でもほら?あたくし善良な一般市民ですシ」
謀られた。
ようやくそれに気付いた商人は、臣杜のレコーダーを奪い一目散に逃げようとする。そこに、今までずっと隠れていたジェラルドが相手を弾き飛ばすようにHit Thatを放った。
商人が痛さに喘ぎながらそのまま地面に転がる。
「逃がさないよ♪」
「あっけなかったですわね」
同じく身を潜め様子を伺っていた貴子が現れ、動けない商人のローブを脱がせた。ローブの下には、学園の制服。
「学生……。概ね予想通りですわね」
逃げられないよう、手錠をかける。
臣杜のレコーダーは止められていたが、その間も木葉のレコーダーは回っていた。犯行の記録が残っており、今までの被害者で名乗り出てくれるという人も多数いる。ここまでやれば充分詐欺の罪状にもっていけるだろう。
『……ちっ、ヘマしたなあ』
スタンから立ち直った商人は、今までの往生際の悪さが嘘のように大人しかった。
「ウチのコノちゃんを狙うからこんな事になるんだよっ。まあ可愛いくてつい声をかけちゃうのは解るけどねっ。ウチの妹が一番可愛いからねっ♪」
喧嘩の演技の必要が無くなった途端、兄馬鹿に戻る雪彦。
学園に突き出す前に、と、篝が商人に声をかける。
「なぁ。こんなことして、お前にとって魔具ってなんだ?俺たちにとって、こいつらは命を預ける相棒だろ」
『は、ただの稼ぐための道具だろ』
そう言いながらも、そのままぽつぽつと勝手に語りだす。
曰く、天魔退治に失敗し学園に馴染めずぷらぷらとしていたら、ヤクザ紛いの連中に声をかけられたらしい。天魔と戦うより楽に稼げる方法に味を占めて、詐欺行為を繰り返していたようだ。つまりただの下っ端である。
「……偽武器売る根性があるならさ、真っ当な、そして強力な魔具を作ってくれよ。俺たちは、それで誰かを救ってみせるからさ」
商人は黙ったまま顔を背ける。篝の言葉が届いたかどうかは、この後の彼の生き方でしか解らないだろう。
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学園に商人とレコーダーを突き出し、依頼完遂の報告をする。無論、囮の際に使った資金は全額返してもらった。
「変装は無駄になっちゃったわね。まあ、もしもなんていつだってない方がいいのだけれど」
「その格好も可愛いよ?」
「ほえー、ほんとですか〜?……って、無理。自分でも誰だお前って感じだわ……」
ジェラルドの言葉に苦笑しながら、おさげをほどく貴子。結果的には使わなかった『念のため』だったが、ゆるふわ姿が可愛かったので良し。
「疲れた、何か食って帰る!…腹ペコキャラじゃないぞ?!」
フリですよね?解ります。
まあ実際、もう日も暮れて夜になっていた。晩御飯時である。
「コノちゃん、何か食べて帰ろっか?」
「わぁ、雪お兄ちゃんと一緒のお食事嬉しいのですぅ」
仲良く手を繋いで帰る二人。
何はともあれ、闇の武器商人事件は終わったのだった。
END