手を繋ぎフリマを巡り歩く桜木 真里(
ja5827)と嵯峨野 楓(
ja8257)の様子は幸せそう。散歩デートには持ってこいの五月の美空。快晴晴模様だ。
「あ、これ下さい」
楓が店員に差し出したのは年代物の妖記。そういうものが好きなのかと心で想う真里。
少し眠たくなってきて木陰で休憩。眠気覚ましにと川へ繰り出せば、水も滴る何とやらと調子にのって水を掛けていると、濡れた石に足を取られてしまった。
「う、わわっ」
「楓っ!」
転びかけた楓を駆け寄り抱きとめる真里。
「足、捻ったりしてない?大丈夫?」
「だ、大丈夫……ん、ありがと」
衣服越しに伝わる彼の体温。普段よりずっとずっと近い距離。楓の胸は小さく高鳴る。
火照った顔のまま川から上がった2人は願いを鯉にのせて流した後。
「あ! ね、これあげる。いつも貰ってばかりだから、お返し」
「ありがとう、大切に使うね」
その手のひらには内緒で買ったスイートピーの栞。ほのかな喜び、優しい思い出を意味する花。
共に居られるだけで死にそうなくらいに幸せだから。笑い合える現在が何よりも嬉しいから。鯉に書いたのは白紙の願い事。君と一緒にこれからも、ひとつずつ、叶えて行こう。
亡くなった母に代わり世話をしてくれている姉の為、水晶(
jb3248)は送りものを探そう。
可愛いもの、綺麗なもの。喜んで欲しくて見つけたのは睡蓮のブリザーブドフラワー。
「おじさん、おじさん! これいくら?」
新聞を読みながら店番をしていた男性が告げた値段。手元のお金を見る。ひぃふぅみぃ――とてもじゃないけれど、足りない。
しょんぼりとした水晶を見かねて値下げをするけれど。
「も、もう一声!」
可愛らしい交渉。何故か有無を言わせない気迫が籠もっていた。仕方ないなぁ、と店員は折れて交渉成立。
「おねーちゃん、喜んでくれるかなー……えへへ」
手の中で揺れる花。きっと、想いは届くはず。
「むむ? なんの騒ぎであろうか? 人間がいっぱいなのである」
休日の散歩中、喧噪に誘われて来てみれば其処はふりぃまぁけっと会場。
人界の知識はばっちりと誇るラカン・シュトラウス(
jb2603)は、がま口財布を首から提げて白猫グッズを探す。
けれど大きな歩いて喋る猫を子ども達が放っておくはずもなく、気付けば囲まれていた。はしゃぐ子ども達の様子にラカンも満更ではなさそう。
「はっはっはっは! そなた達そのようによじ登ると動けないのである!」
「えへへー、もふもふなのですー」
其処には子どもに混じり、モフる中学生――桜祈の姿があった。
「魔術書とかは……流石にないよね。ありそうなのなら、やっぱり小物とかになるかな」
ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は小物屋を見て回る。
女性が出店している棚で見つけた花柄のグッズ。少し値は張ったけれど押し花の栞と花柄のブックカバーを購入し、その店を後にした。
「確か俺と揃いがいいって言ってたけど」
七ツ狩 ヨル(
jb2630)は友人に頼まれた銀細工を求め見つけた薄く竜のレリーフが入ったバングル。それをふたつ購入し、ウインドウショッピングへ。
空や望遠鏡に惹かれつつ辿り着いたのは硝子細工の店。青い硝子玉が気に入り手に取るが何か描かれているがはっきりと何かは解らない。
店員が地球儀といって、この世界を模したものだと教えてくれた。
「チキュウ、ギ……?」
小さい玉の中に、世界が閉じ込められているようで気に入り購入。その手の中できらきらと、手のひらで硝子玉が光った。
インテリアを探すギィ・ダインスレイフ(
jb2636)は友人から教わった知識を元にアンティーク棚を眺めている。
気付けば隣にはんーっと首を手に当てて考え込む桜祈の姿。その視線の先にはレースのカーディガンとぬいぐるみの姿。
雰囲気にぴったりだな、と内心思いつつ、彼女にも情報を伝え。
「気に入りの物が手に入ると、いいな」
「えへへー、はい。いっぱいのすてきに出逢えるといーのです」
頭をぽふぽふ。笑顔が咲く。お祭りは始まったばかりだ。
「へぇ、これに書いて流すの……」
スタッフから説明を受けたエルレーン・バルハザード(
ja0889)は物珍しげに白い鯉を見詰める。
暫し思案した後、神妙な顔付きで鯉にペンを走らせる。
『おししょうさまが、ずっとずっと私を天国からみまもっててくれますように』『あのひとと、いつか、なかなおりできますように』
想いを込め、流し、視界から消えていく白を見送ると――。
「さて、と」
何処からか、腐り神の声が気がした。只ならぬ気配を身に纏うエルレーン。
『学園長の受け本サークルが増えますように!』『夏コミ新刊が完売しますように!』『きちく受け、よわき攻めがもっとはやれ!!』
次々と吐き出される煩悩。環境汚染よろしく流し出される腐った妄想。
せめての救いは、子どもが見なかったことであろうか。
「えぇ時期にお祭りやね」
「暖かくていいものですね」
心躍らせながら宇田川 千鶴(
ja1613)は雑貨屋巡りに勤しむ。その隣、石田 神楽(
ja4485)は見ているだけだけれど、それでも充分に楽しかった。
だから、予想外だ。気付けばある古着屋で服を選ばれていた。
「いつも同じ様な格好なんやから」
「いや、この格好も結構機能的なんですよ?」
「大丈夫、選ぶ事自体が楽しいん」
本当に着てな?という千鶴の念押しに機会があればと苦笑する神楽。
結局は柄入りのシャツを購入した2人が古着屋のテントから出てくると上機嫌で歩く桜祈の姿を見つけた。
「可愛ぇのあった?」
「はい! 魅力的なものがいっぱいなのです! 天国なのですよ。これからもいっぱい可愛い物としあわせ探索なのです!」
心から祭りを楽しんでいる桜祈の様子に思わず笑みが零れる。
「迷子にならないようにしてくださいね?」
ぱたぱたと走り去る桜祈の背中を見送り河原でふたりも願いを込めた鯉を流す。
叶うとえぇねぇ。千鶴の呟きは空の青に溶けてゆく。
――神楽の言ったことは真実となる。
「ところで、此処何処なんでしょう?」
「えと、おてんとさまがある方が南でよかったのですよね?」
何の為の方位術。黄昏ひりょ(
jb3452)と桜祈は迷子になっていた。周囲は人の嵐。方角というよりは人に溺れていると表現した方が近いかもしれない。
まずは知り合いを探そうと辺りを見渡すと、大きな段ボール箱を抱え歩く月乃宮 恋音(
jb1221)の姿を見つけ、呼び止める。
「あ、月乃宮さん。何処へ行かれるんですか?」
「……え、えと、これから流し鯉お手伝いに行くんですよぉ……」
「でしたら、一緒に行きませんか? 俺達も流し鯉を見に行こうと想っていたんです」
勿論良いと快諾した恋音と歩き出す。
「ところで、月乃宮さんは、お手伝いをされているのです?」
「……は、はいー。……このような珍しいイベントですからねぇ……。……色々と得る物があるかもしれません……」
何か経験を積み得られるものがあるかもしれないと恋音は答えた。
河原に辿り着き、恋音から白い鯉を受け取ったひりょは願い事を書こうとペンを持つ。
「何々、何やってるのー?」
声を掛けてきたのは屋台定番の様々な食べ物を手に沢山の満足げな表情を浮かべた緋野 慎(
ja8541)。恋音は流し鯉の概要を説明する。
「へー、変わった風習だね。でもなんだか楽しそうだ」
「え、えと……よければ、緋野さんもいかがですかあ……?」
「いいの?!」
頷いて慎にも鯉を渡す恋音。慎は元気よくペンを走らせる。
「よし、完璧!」
「慎さんはどんな願いを書かれたんですか?」
「『みんなが健やかでありますように』だ。よく書けたよ!」
満足そうににししと笑う慎。
「何を書いたんだ?」
ひょっこりとひりょの鯉を覗き込もうとする慎。ひりょは慌てて自分の鯉を隠し。
「え? な、なんでもないですよ? うん」
そう冷静を装うけれど、顔の赤さは隠せていただろうか。
(みんなの願い、届くといいな)
ひりょの願いの行方は、また別の話。
「何か良いもの見つかった?あっ、初めましてボク、さんぽっていうんだ」
「えへへー、ばっちりなのですよー。ととと、初めまして! 桜祈は桜祈っていうのです。よろしくなのですよー」
そう、自慢げにぬいぐるみを抱えて笑ってみせる桜祈。
犬乃 さんぽ(
ja1272)は願いを込めた鯉を大切そうに抱えていた。どんな願い事が書いてあるのだろうと、チラリと見えた鯉はニンジャ風にデコレーションしてある。
(ボクの恋、叶いますように)
そして、ギュっと想いを込めて鯉を川へと放つ。
(ボクのが、一番泳ぐといいな)
川を流れていくコイをふたりで見送る。けれど。
「あっ、恋流れちゃう? 鯉、恋――にほんごむずかしい!」
「だいじょぶ、鯉は天に昇って神様にお願いを届けてくれるのですよ。恋も成就です!」
わたわたと慌てるさんぽに何故か、力強く勇気付ける。根拠は無いけれど形ないものを信じるのが恋する乙女だから。
「私のお願い事……うーんと、何でしょう…… 」
白紙の鯉を前に願い事を考えるのは久遠寺 渚(
jb0685)。思えば特に願い事を考えたこともなければその余裕もなかった。神頼みでさえそれが上手く出来るようにと祈っていた。
色々考えたけれど、結局浮かんだのは目前に控えている作戦群の無事成功。そして、ある悪魔の無事。
(まだ、チェスを教えて貰ってませんからね……)
流れ出す鯉。どうか、願いを空に届けてください。
蒼天に古琴の音色が響く。胡座で持参した長机に陣取る九十九(
ja1149)の隣、三毛猫のライムが寄り添うように座っている。
春風のように柔らかでゆったりとした曲から嵐のように様々に彩り豊かな音色達が紡がれては消えてゆく。
イベント自体には興味が無いと言う彼の耳に喧噪は程遠く、けれど古琴の音色は見事に調和している。それはまるで不思議な協奏曲。
気付けば、辺りには魅了された人々が集いその音色の流れに身を任せていた。これも、休日の過ごし方。
何処からか聞こえてくる古琴の音色に耳を澄ませれば心地良い風が胸を躍らせる。買い物を終えたシルヴァーノ・アシュリー(
jb0667)とユーナミア・アシュリー(
jb0669)は木陰でランチマットを広げて昼休み。
のんびりと時を悪戯に流すには勿体の無い晴天。
「石を跳んで先に向こう岸渡った方が勝ちね!」
立ち上がり駆け出したユーナミア。けれど、濡れた石の上を走れば当然転んでしまう。それを見通していたシルヴァーノはヒリュウを召還し支えた後妻を抱きかかえ、対岸へ。
「さて、どちらの勝ちかな?」
そう少し悪戯げに微笑むシルヴァーノ。
「色々な意味で負けたわ……」
悔しがってはみるけれど、そんな彼女は何処か嬉しそうな表情を湛えていた。
「わー! 可愛いワンピース! オシャレさんやなー」
待ち合わせ。現れた奥戸 通(
jb3571)の姿に紫ノ宮莉音(
ja6473)は感嘆をあげる。今日はデート。通の服装にも気合いが入る。
歩き出して可愛い物探しへ。
「あっ、みてみて莉音くんタコさんのぬいぐるみがあるっ!すみませーんこれください」
見つけたのはタコのぬいぐるみ、見つけると同時店員を呼び寄せて光の速さで購入。
「通さん、タコさん好きですねー、僕はホワイトタイガーが好きー」
「がぉー」
虎の真似をする通。ふたりの間にほっこりと笑顔が咲く。そしてふたりは川へと向かった。
いつもは賑やかな場所が好きだけれど――藤咲千尋(
ja8564)はひとり、静かな川辺で物思いに耽る。
沢山の事があった。沢山の人に出会った。泣いて笑って、駆け足のように過ぎ去った一年という時間。
けれど戦火は各地に広がっている。けれど、家族からの手紙は皆元気だと書かれていた。それは何よりも大切で、幸せなことで。だから。
『大好きな人たちがずっと笑っててくれますように』
みんなが笑っていられるように、もっと強くなろう。大切な場所を、人を、笑顔を護る為に。
流し鯉を見送り、立ち去ろうと腰をあげるとびしゃり、と水が掛かる。慌てて目をやると其処には莉音と水遊びをする通の姿。
「千尋ちゃん発見!」
はぎゅうっと抱きつかれる。一通りのスキンシップの後タコのぬいぐるみを指さしフリマで買ったんだよと興奮気味に話す通に。
「そのぬいぐるみ可愛い! わたしもフリマ見に行こうかなー!!」
いつも通り笑った。掛け替えのない友との日常が此処にあるのだから。
「ぬ……。流石に買いすぎてしまったか」
キャロライン・ベルナール(
jb3415)の両腕には沢山の荷物を抱えて途方に暮れる。怪しげな雑貨や付録、置物等を調子にのって購入していたら既に持ってきた鞄も既に満杯。
「フリマに来ると我を忘れてしまっていかんな……。自重せねば」
以前にも参加したことがあるから勝手が解る。その辺りの判断は流石の一言。周辺を見渡して鞄を扱っている店に入るとトートバッグを手に取る。それも少し、怪しげなデザインだった。
「ふおー! 賑やかなんだね!」
「うん。賑やかなのは素敵な事だ」
並んで歩く花見月 レギ(
ja9841)と真野 縁(
ja3294)。
縁の腕にはいっぱいのお菓子。お祭りには沢山のお菓子の出店も出ている。その店達を追う縁の瞳はまるで宝物を見るかのよう。
「あ! あれ美味しそうなんだよー! うや! こっちのも!」
「走って転ぶと……危ない、よ」
お菓子の出店を縫うように走り回るの腕に積もるように増えてゆくのを見かねて追っていたレギが分け持つ。
「君では持ち切れない、だろう」
「うに?おお!ありがとなんだね!」
どういたしまして、とにこにこ笑うレギに屈むように指示した縁。
「うにん!お礼に飴あげるんだよー!」
「っんぐ!? うっ? あま…………んむ? 飴、か。ん、美味しい。ありがとう」
レギは口に放り込まれた棒付きのキャンディーを転がす。口の中で広がる甘さ。
縁を見ていたらレギの心まで躍る。そしてあっという間に過ぎていく時間。
「楽しかったんだね! ありがとなんだよー! また来ようなんだね!」
ぽん、と差し出した手のひらには道で見つけた四つ葉のクローバー。レギはそれをじっと見て微笑む。
「こちらこそ……ありがとう。ふふ。とても楽しかった、よ」
幸せが繋ぐ絆。色々な人にも温かなしあわせがありますように。
目的の物は見つからなかった大炊御門 菫(
ja0436)は川沿いを辿るように歩く。
やがて、流れ出す人の声と流し鯉。
このひとつ、ひとつに想いが込められている。
天魔に比べれば人はか弱く、ちっぽけな存在だ。
ちょっとした衝撃で死んでしまう、儚い命。
けれど想いも、命も踏みにじらせない。平和を守るのが自分達の使命だから。
流れる祈りを、願いを、想いを、希望を――そして、この心に宿るこの気持ちを。
ひとつでも多く、掬い上げよう。ひとりでも多く、救い上げよう。
個々は小さくとも、いずれ。信じて、流れに抗い続けよう。
それぞれの想いは蒼天へと溶けていく。