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マスター:水綺ゆら
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/26


みんなの思い出



オープニング

●人界にて

 梅雨特有の重たい雲が空を覆い隠していた。
 重たい雲から雫が落ちる。連日続く雨の日々を退屈に思うのか、その雫を避けたいと考えたのか、それとも元からなのか――地方都市郊外にあるショッピングモールは人で溢れ返っていた。
「なんで、僕がこんなところに……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。迷子にならないように気を付けてくださいね」
「なりませんから」
 からかうような青年の言葉に少年が少しムッとした様子で答えた。
 少年の名はリュクス。四国で活動が確認されている焔劫の騎士団。その従士である少年天使。
 黒髪の青年の名は紅蓮。口調こそ丁寧な使徒だが、実際の態度もと聞かれれば彼を知る大抵の者は首を横に振る。
「やっぱり、僕関係ないよね……はぁ」
 相変わらずニコニコとしている紅蓮の表情を覗き見て、リュクスは大きく溜め息を吐いた。



●話は少し遡って天界

 その日はいつもと変わらない一日で、リュクスは掃除道具を片手に書庫に籠もっていた。
 書庫は広く目的の本を探すにも一苦労。最初は極普通に背表紙を指で辿りながら探していたのだが、所々出されたまま積み上げられている本などもあり探すついでに整理しようと決めたのが朝のこと。
 散らかっていたわけではないが広さや量もそれなりにある。整理がいつの間にか本格的な掃除になり、気付けば書庫に閉じ籠もる形になっていた。
 そうして、おおよそ整理整頓を終えて本の山から目的の一冊を見つけた頃には日が傾きかけていた。
「さて、綺麗になったし部屋に帰ろうかな」

 本を抱えて振り返った、その時――。

「此処は相変わらずの量ですねえ。しかし、真面目な本ばかりで少々面白みに欠けますね。残念です」
「わぅあ!?」
 まさか人が居るとは思わず、驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。慌てて、抱えていた本で口元を隠す。
 リュクスの丁度背後に居たのは書生姿の使徒。
「そんな、うっかり幽霊だのゲジゲジだのを見た時のような反応しないでくださいよ。流石に傷付きます」
「……あう、すみません。ところで何か探し物ですか?」
 ユウレイもゲジゲジもよく解らないが、リュクスはとりあえず謝っておくが、本人にとってはただの軽口だったようで、大して気にする様子もなく紅蓮は口を開いた。
「ああ、貴方に用があったんですよ。さぁ、行きましょう」
「はい? 誰かが呼んでいるんですか?」
「違いますよ。少しばかり人界へ行こうかと思いましてね。無性に日本の小説が読みたいと思ったんですよねえ」
「……はいっ?!」
 つまり、人界に本を探しに行く。書庫かそれとも書店か。どちらにせよ完全私用。
 急展開にとてもついていけない頭をそれでも働かせて、リュクスはようやく一言紡ぎ出す。
「……どうして、僕が?」
「まぁまぁ、いいではありませんか。旅は道連れ世は情けですよ。共に人界に行きましょうよ」
「貴方に情けなんてあるんですか! あの、勝手な行動するわけには!」
 微笑みを浮かべながらがしりと腕を掴んでくる紅蓮。相変わらずこびりついたように笑う瞳が逃がさないと告げていた。

 彼との出会いは昨年の木枯らしの風が吹く季節。今は亡き参謀で兄でもあったエクセリオから派遣されてきたのがこの『紅蓮』という名の青年使徒だった。
 枝門を担当することになったから戦力補助の為。枝門が陥落し、戦いも終わった今、自分の傍に居る必要はないはずなのだが現在も、何故か自分の傍を離れようとしない。

「というか、そもそもなんでまだ僕の所に居るんですか……」
「主から『帰ってこい』と言われておりませんので。でしたら、楽しませていただこうかと思った次第です」
「……あの、前から思ってたんですが僕のことおもちゃか何かだと思っていませんか?」
「はい」
 一瞬の迷いもなくあっさり即答。ここまで突き抜けてしまえばいっそ清々しい。
 慇懃無礼という言葉が似合う使徒に最初は流されるばかりだった。しかし、最近は少し言い返せるようにはなったのだ。
 しかし、自慢ではないが元々喧嘩は大の苦手。こう迷いもなく返されてしまえば、もう黙るしかなかった。
「だから、つべこべ言わずに着いてきてくださいよ」
「え、あの、ちょっと……?! 僕関係無いですよね……あう……」
 半ば拉致されるような形で、人界に降りることになってしまった。



●場所は戻ってショッピングモール

 店先に並んでいたカミツレの花飾りが目にとまった。なんとなく手にとって呟く。

「そういえば、エル……いつも、こんな感じの花飾りつけてるよね」

 そうして、思い出すのは半年ほど前のことだ。
 枝門戦で大怪我を負った自分は、暫く眠り続けて居たらしい。
 自分が目覚めたと気付いた時、エルは瞳に沢山涙を詰め込んで自分を見ていたことを思い出して、胸が締め付けられる。
 どれだけ心配させて、悲しませようとしていたのか――そのことの大きさにその時に、初めて気付いた。
 同時に捨て身で騎士団を守ろうとしていたことも、大きく間違っていたことにも、気付いた。
 もう、悲しませちゃいけない。
 けど、死ぬつもりでずっと戦ってきたから――正直、どう生きればいいのかも解らなくて。

 手の中で髪飾りはじっと佇んでいる。


「こんにちはー! あ、それ可愛いですよねー! 彼女さんへのプレゼントですかー?」
「あ、いえ。特にプレゼント、とかではなくて、幼馴染みが似た髪飾りを付けているので何となく思い出してしまっただけで……」
「そうですかー。あ、でも折角ならプレゼントしてはどうですか? でも似たものだとアレなんで、別の物とか! サプライズって大事ですよー」
 考え事をしていたら通りがかるにしては長く店の前に居すぎたのかもしれない。
「そうですね、怪我して療養してた時に世話になってたので、そのお礼もしなきゃって思ってたんです……でも、正直こういうのは解らなくて……」
「任せてください! 私も同じくらいの妹が居るんで結構詳しいんですよー」
 力強い言葉に一度は安堵するのだが。
「ほら、例えばこのボダニカル柄のワンピースとかいかがですかー? 今年はこういった柄が流行なんですよ! 無地の上着を羽織っても、柄物の鞄でガラガラ攻めてもいいと思うんですよね!」
「え、えぇっと……あの……その……」
 突如始まったセールストーク。次々と繰り出されていく品物達。
 言葉を遮る勇気も相づちをうちながら意見を言う知識も無かった従士はただ只管流されていくのみで。
「あ! でも、プレゼントにお洋服というのも……こちらのヘアアクセや、それからバッグチャームなんかもいいですよー。ほら、これとかあれとかー。あ、このネコのミラーがついたバッグチャームはあたしも使ってるんですよー」
「あ、あう……」
 聞いちゃいない。それからも店員はお勧めの商品を次から次へと勧めてきてくれた。
 例え商売だとしても、自分の悩みに賢明にアドバイスをくれている店員の話を自分で無理矢理遮ることは出来なかった。
「ぐ、紅蓮さんは何処行ったんですか……」
 肩をがくりと落とす。
 フォローしてくれると言っていたのに。
「誰か、助けて……うぅ……」
 男たるもの、泣いてはいけない。それは解っているのだが、どうも泣いてしまいたい気分だった。
 藁にも縋る思いで軽く周囲を見渡すと――『彼ら』と目が合った。


リプレイ本文

 雨雲に隠された空から、少しずつ夏がやってくる。

「お先どうぞ」
「ああ、ありがとうございます。すみませんね」
 書店で本を見繕い終えた桜乃=Y=アルセイフ(jc0910)がレジ近くに訪れると丁度同じタイミングで黒の着流し姿の青年が訪れた。
「舞姫かな、森鴎外の」
「ええ、まぁ少し懐かしくなりまして久しぶりに読んでみようと思った次第です」
 青年がレジに呼ばれて会話を打ち切った。話し終えてからふと気付く。
(ん……何だか、見覚えがあるような……?)
 そうだ、四国で活動する騎士団に関する資料を眺めている時に見かけた顔だった――確か、使徒だったか。
(けれど……何故ここに使徒がいるんだろう?)
 そんなことを考えながらぼんやりと自分の会計代を見ると置き忘れたままのポイントカードが目に入る。
「先程のお客様、カードを」
「知り合いなので届けてくるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね!」
 恐らく時間は掛けずに探し出せるだろう。




「さて、これで供え物はよし、と。ん? あれはまさか……」
 故人への供え物を買い終えた黒羽 拓海(jb7256)が見たのはその場に似付かわしくはない少年の姿。
 女性向けの雑貨ショップ。店先で店員と話しているようだが明らかに困っているような表情を見せる少年の顔に見覚えがあった。
「……何してんだ、あの弟君」
 リネリアの従士であり弟であるリュクスが店員のマシンガントークに困っていた様子だった。
 色々突っ込みどころ満載な気がする状況に桝本 侑吾(ja8758)思わずぽつりと漏らした。拓海も頷く。
「いや、先日シスに会った。他に居たとしても、おかしくはないか……」
「ほほほほ、庶民が困っておるのじゃ! あの程度の客引きをかわす事が出来ぬとは……なんとも憐れなのじゃ」
「うわっ」
 何か下の方から声がした。侑吾がそちらに視線を向けてみると、なんかちまいのが居た。
「ほほほ……まろの偉大な名を聞きたいのか! 清聴せよまろの名は崇徳 橙じゃ!」
「明らかに店員のセールストークに困っているようだし助けるか」
 さらっ。崇徳 橙(jb6139)の高貴な自己紹介は見事にスルーされていた。しかし感激ですなどと心の声を拾い上げている橙は気にしない。
「どれ、この聡明なるまろが手本を見せてやるのじゃ!」
 橙は自信満々と侑吾と拓海の後ろに付いていく。

「こんな所に居たのか」
「え?」
 堂々と、如何に友人といった風勢で近づいてきた拓海にリュクスは困惑するが、再び口を開く前にきっぱりと。
「申し訳ないが、アレもコレもと言える程の予算は無いんだ。少し考えさせてくれ」
「ですが」
 拓海の言葉にもやや引き下がる様子を見せる店員に侑吾が別方向から声を掛けて助け船。
「すんません、ちょっと聞きたいんですけど」
「ふむ、いい品じゃな、この偉大なるまろにこそ相応しい品なのじゃ!! 」
「お? 僕、これ」
 橙が興味を示したのは丁度リュクスに勧めようとしていた髪飾りだった。
「ですです。その手に持ってる髪飾り、興味があるみたいで」
「じゃあ、僕付けてみる−? 綺麗なオレンジ色の髪だもんねー。きっと似合うわ。これ少し付け方が特殊でね、お姉さんやってあげましょうかー」
「あ、いやな? それが欲しいと言ったわけじゃぁ……」
「ほら、遠慮しなくていいんだよ。ほら、こっちにおいでー?」
 じり、じりと橙は追い詰められてゆく。

「こちらです」
 店員が橙に気を取られているうちに、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)が軽く手を振り合図。リュクスの手を引く拓海と侑吾もマキナに付いて行く。

 戻って。
「う、うむ、その品が良いのは解っておるのじゃ、しかし……」
「ああ、そうか! まだ僕には大人っぽいかなー? じゃあ、こっちの方がいい?」
「いや、違う品をもってこいといったわけじゃぁないのじゃ」
 ひよこのゴムを手に持った店員の詰め寄りは停まらない。
「ふん、そういう品がこの偉大なるまろなら似合ってしまうのも知っておる……」
「そうだねー。ところで、おうちのひとはどこいったかなー? 解る−?」
「な! 失敬なそれではまろが迷子のようではないか! 従者がちゃーんとここにおる!」
 ぽつーん。
「ほら、僕。おねえさんと一緒におうちのひと探そっか−?」
「まろを迷子扱いするでなーーいっ!」
 橙は逃亡した。




「よぉ、久しぶり」
 軽く手を上げた侑吾にリュクスの表情が驚きに変わった。
「この様な所で出逢うとは、正に縁とは数奇な物ですね」
「はい……驚きました」
 更に周囲の顔を見る。まさにマキナの言葉通りでリュクスは頷いた。
「健勝そうで何よりです。リネリアさんも元気にしていますか?」
「いつも通りお元気そうな様子に戻られた…と言えば、そうですが」
 リュクスは一度言葉を止めて、暫く迷う。そして僕の思い過ごしかもしれない、と言葉を加えて。
「リネリア様、寂しそうなんです。たま溜め息をつかれるようになりましたし、僕も出来る限りのことはしたいんですが……」
 大切な存在を喪った大きな穴。こればかりは時が解決してくれるのを待つか――或いは、何か切欠があればその胸の支えも取れるのかもしれないが。

「そういえば、彼女に手厚く看病してもらったか、リュクス?」
「どうして…それを?」
 アスハ・A・R(ja8432)はぽふりと従士の頭に手を置き訊く。カマをかけるつもりだったが、どうやら図星だったらしい。
「で、あの店先に居たのは彼女に何か買おうとでも思ったの、か?」
 再び図星。解りやすい。
「エル、泣いていたんです。初めて会った時みたいに」
 恐らく幼い頃を思い出しているのだろう。
「忘れてました。幼い頃の約束や最初に強くなりたいと思った理由。だから、もう一度エルに誓ったんです」
 僕じゃ頼りないかもしれないけれど、君の笑顔を護る騎士にしてください。
 なんて幼い頃と同じ台詞で。
「あなた達にも、お礼を言わなきゃって思ってたんです。本当にあの時はありがとうございました。けれど、どうして敵である僕を?」
「亡き蒼閃霆公と、正々堂々と命懸けで戦う知人達がいたから、な。その顔に泥を塗るわけにもいかなかったので、ね」
 さも当然のようにアスハは答える。
「ところで、あのちらちら見えてる着流しは君の知り合いか?」
「キナガシ……?」
 侑吾に言われて、その視線の先を追った。
 居た。元凶が、居た。銀縁眼鏡をかけて、涼しい顔で笑ってた。

「あー?! 紅蓮さん! 何処行ってたんですかっ」
「おや、少年。急に居なくなったから心配しましたよ。彼程迷子になるなと言っておいたのに」
 しれっ。
 満点をつけたくなる程素敵な笑顔で返された。侑吾が思わず。
「もしかして、ずっとあそこで見ていたのか……悪趣味だな」
「そこの少年も褒めないでくださいよ」
 侑吾の呟きを耳聡く拾う紅蓮。褒めてない。

「ご機嫌よう、人間嫌い。今日はまた変わった趣向だな?」
「おやおや、また大層なあだ名を付けられたもので――面白いものでしょう?」
「ああ」
 アスハと紅蓮は互いに悟った――同類だ、と。
 次に始めるのは、弄りネタの共有。
「恐らく、天然で口説いたんでしょうかねえ。いつもタイミング悪く周囲の邪魔が入るので中々思うようには行かないみたいですが。あの少女も苦労するものですよ」
「覗くのは良いが、馬に蹴られないようにな」
「よく誤解はされますが私は人の恋路を邪魔する程、野暮ではありませんよ。楽しみですからねえ」
 胡散臭いが本音だろう。
「見ていて微笑ましいから、な……誰であれ、若者が"今"を生きてる以上、尊重すべき、だろう」
「ええ。貴方がた感謝していますよ。ええ、人間嫌いなりには」
 絶えず微笑みを浮かべる紅蓮の表情からは何も読み取れない。しかし、アスハはもしかしたら、従士を連れ出したのは単なる気紛れではないのかも知れない。
 使徒本人に聞いたところで、はぐらかされるだけだろうけれど。

「蓮村さん!」
 その時現れた桜乃の呼びかけ。誰のことか解らず一同が困惑する中、桜乃は迷いなく紅蓮のもとに寄り、カードを差し出した。
「これ忘れ物だよ」
「ああ、失礼。先程の書店で忘れていたのですね」
 桜乃からカードを受け取り財布にしまう。記名式のポイントカードで桜乃はその名前を見たらしい。
「お前、そんな偽名を名乗っているのか」
「紅蓮なんて名乗ったら痛い人になるではありませんか」
 拓海の問いかけにしれっと答える紅蓮。
「しかし、よく解りましたね」
「随分と個性的な格好だからね。遠くからでも解ったよ」
「おや? そうですか」
 桜乃のに恐らく素ですっとぼけた様子を見せる紅蓮。悪目立ちしている自覚がなかったらしい。侑吾は呆れた。
「とりあえず、その服が趣味や主義主張でないのなら、目立たないように他の服でも手に入れたらどうだ?」
 その様子がいまいち暢気に思えて、侑吾はメンズショップのショーウィンドウを指さし。
「現代日本の服装は着物じゃなくてあんな感じだぞ」
「ああ……道理で何か違うなとは感じていたんですが。しかし、爺には手に余る品だと思いましてねえ」
「今時年寄りでもショッピングセンターに着物着てく人なんて殆ど居ないから」
 変に悪目立ちしてしまうのは避けておきたい。その内心はしまっておき、侑吾が紅蓮を服屋に連行しようとしたその時。
「おぬし達! この高貴な存在であるまろを置いていくなんて、どういう教育をされておったのじゃ〜?!」
「あ……」
 全速力で駆けてくる橙の姿を見つけ、思い出したマキナがぽつり。

「……そういえば居ました、ね」



 紅蓮の服を買い、適当な雑貨屋に入る。
「休暇で此処に来てるんだよね?」
「はい、折角ならエルやシスに何かプレゼントしようかなと思ったんですけど」
 桜乃にリュクスは頷く。
 シスはともかく、エルに何を買えばいいのかが解らない。拓海は話を聞いて頷く。
「ふむ、異性の幼馴染みに贈り物ね……」
「よほど変なものでもない限り、喜ぶと思う、ぞ?」
「そうでしょうか?」
 リュクスはきょとりと首を傾げた。正直
「折角だ。偽神も何か見繕ったらどうだ? アクセの一つぐらい、持っていてもおかしくはあるまい?」
「……年頃の娘なら、確かにそうかも知れませんが……」
 そういってマキナは自らの髪を結う黒紐を見せた。幼い頃に傭兵部隊の隊長から貰った、数少ない大切なもの。
「……そういえば、エルと面識があったのだよ、な。こう、そっちからイメージできそうなヒント、とかないのか? プレゼント選びの」
「面識だけで聞かれましても……いっそ、指輪でも贈ったら如何です?」
 少し困りながらもマキナは周囲を見渡して目に入った指輪をリュクスに見せる。
 重ねると花の模様になるペアリング。マキナに差し出された指輪をじぃっと眺め――目を逸らした。
「そも、心が籠められているなら厭う気質でもないでしょうに」
 エルはただの幼馴染み。だけれど、エルだけにならともかく自分用にも買うのは照れくさかったらしい。
 そんなリュクスに声を掛けたのは拓海。
「そうだな……桔梗モチーフのブローチとかどうだ? サーコートの留め具にも使える。『友の帰りを願う』という意味もある花だ」
「友の帰りを……ですか」
 リュクスは何度か脳内で言葉を繰り返して、ピンときたらしく頷く。
 シスへは友情の意味を持つアクアマリンの少し厨二らしいデザインのネックレスを購入し、その場を終えた。

「確か桔梗って変わらぬあ……」
 言いかけた桜乃を拓海は無言のまま見つめた。
 黙っておき、本人が気がついた時の反応が楽しみだから言うなと無言のプレッシャーだった。

「偽神、先程の指輪を貰えないか?」
「ええ……構いませんが」
 アスハに言われて、素直に指輪を渡す。すると、アスハはそのままレジに持って行き会計を済ませ、紅蓮に渡す。
「いつかの詫び代含め、これを彼と彼女に渡しておいてくれ」
「解りました」




 自販機の前にはソファが置かれ休憩場所になっている。外れの方に位置する為か他に人はおらず喧噪が随分と遠くに聞こえる。
「……ところで、殺し合った俺達をどう思っているのか、素直な意見を聞きたい」
 “彼”の志を継ぐ上で、知る必要があると考えたから。拓海の問いかけに、リュクスは暫し考えて。
「僕は…よく解りません」
 曖昧な答えだったのは、此処で嘘は言いたくなかったから。彼らには2度も恩がある。
 人に対して憎しみがあるわけでも、見下して支配下に置こうとも考えていたわけでもなく剣を執ったのは、単純に仲間の為だったから。
「騎士団の道を妨げるものは排除しなければいけないと思っていました。でも、僕にはそれだけで、だから」
「従士よ、都合の良い時に頼り、悪くなれば彼等を殺す。その様なモノで、このままで良いと思っておるのか。大切なモノも彼等も、どちらも失うぞ」
「そんな、利用してるとかそういうものじゃ!」
 遮るような橙の言葉に思わず言い返しすぐ我に返る。
 恩がある相手を橙が言うように踏みにじりたくはない。しかし、大切なのは騎士団の仲間で彼らを護る為ならば自分は剣を執るだろう。
 戦いがある限り、どちらもは選べない。
「……ごめんなさい。やはり自分でもまだ解らないです」
「そっか、敵だけれど君達はそう嫌いじゃないから、うまくやっていっていればいいんじゃねぇかなって思う」
 侑吾の呟きにリュクスは静かに此方を見ていた。戦いを望んでいるわけではないことは確かなようだ。
「ありがとう。蒼閃霆公の好みと聞いた。お前達にすれば要らん世話だろうが、偶に悼むぐらいは良いだろう」
 はっきりした答えではなかったが、これが今の彼の心境なのだろう。素直な意見に礼を告げて茶葉を渡すと、少し戸惑いながら茶葉を受け取った。

 暫く静寂が辺りを支配していた。しかし、それを割ったのはマキナの言葉だった。
「己の心のままに生きよ。少しぐらい負けてもいい。生き延びる為なら、逃げても構わない。ただ、己の心の弱さにだけは負けるな」
「え?」
「獅子公の言葉です。別に命を賭けて騎士団を護ろうとする事自体が、間違っていたとは言いません」
 マキナは言葉を一度止めて、従士の姿を見据え語る。
「ただ、それ以上に大切な物があるなら、命を賭ける場所を間違えていると言うだけで」
「ああ……もしも、この先、死にたくなった時は、遠慮なく言え。僕と彼女で、全力で終わらせてやる」
 続いたアスハの言葉に、リュクスは少し困ったように笑って。
「ありがとうございます。けど、お気持ちだけ頂いておきます。どうすればいいのか未だ解りませんが、泣かせたくないのだけは間違っていないと思いますから」
「泣かせたくない相手が居るなら死ぬな」
 お節介かもしれないけれど。念を押すような拓海の言葉に少年は頷いた。


(やっぱり、この世界ってファンタジーだよね)
 桜乃はふと思う。
 この物語の結末はどうなるのかな。思考を巡らせてみたけれど、やはりどうなるか解らないからこの世界が面白い。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
崇徳 橙(jb6139)

大学部6年174組 女 バハムートテイマー
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
撃退士・
桜乃=Y=アルセイフ(jc0910)

大学部3年83組 男 ダアト