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マスター:水綺ゆら
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/30


みんなの思い出



オープニング

 いつもより少しだけ深い色の石畳が雨が上がったばかりということを教えてくれていた。
 薔薇や紫陽花に辛うじて残る水沫は、陽光を受けてキラキラと輝いていた。

 大嫌いな雨。けれど、雨上がりは、とっておきにも見える。



「依頼……ということだけれど、肩の力を抜いてくれてもいいよ。アルバイトのようなものだからね」
 集まった撃退士達に伽藍 桔梗 (jz0263)はとりあえず座るように促し、チラシを配る。

『モデル募集!
 若い力溢れる君達の自然な姿を雑誌の写真に撮らせてください!
 ふたりペアでのご参加大歓迎! 恋人・友人・兄弟姉妹と。ご応募待っています!』

「これが?」
 目を通した撃退士に桔梗は頷く。
「雑誌のカメラマンと記者からの依頼だよ。今度学生の特集をするそうでね、その一環で、久遠ヶ原学生の君達の姿を撮らせて欲しいということなんだ」
 場所はヨーロッパの街並みを再現したテーマパーク。
 仮装の類いは自由でテーマパークにも貸衣装はある。しかし、あまりコスチュームにプレイしすぎるようなものは当然ながら置いていないし、持ち込んでもスタッフに注意されてしまうだろう。
「ああ、それとね園内での経費も出してくれるそうだから、自由に施設を見て回ったり、衣装を着てみるといいんじゃないかな」
 まぁ、色々言ったけれど。桔梗はファイルを閉じて。
「依頼人も、このように言っていることだし仕事というよりは普通に遊ぶつもりでいいんじゃないかな? 楽しんできてね」


リプレイ本文


「あやか、何だかご機嫌だね」
「だって、お兄ちゃんとお出かけ出来るんだもの」
 美森 仁也(jb2552)の言葉に、美森 あやか(jb1451)は嬉しそうに答えた。
 その笑顔に仁也も顔が綻びそうになるのを堪えて仁也は人差し指をあやかの唇へとあてた。
「ああ、そうだな……俺も嬉しいが、お兄ちゃんは無しだ」
「あっ……ごめんね。旦那様」
 あやかはちょっと困ったように笑う。
「まだ、慣れないかい?」
「うん……けれど、嬉しいな。今は夫婦として同じ苗字を名乗れるから」
 ちょっと、慣れなくて。照れくさくて、けれど嬉しい。あやかは夫の顔を見上げて笑った。
 その後ふたりが向かったのは貸衣装屋。ドレスは他の機会にも着られるからとあやかが選択したのはハンガリーの民族衣装。小花の刺繍が愛らしい。
 仁也にも対になっているような衣装を上目遣いでねだりして、着て貰えばあやかの心は浮きだった。
 貸衣装屋を出たところで偶然通りがかったカメラマンに一枚撮って貰った。
「そういえば、去年の結婚式系イベントは紫陽花が色々植えてある教会に行ったけど……」
 花畑をざっと眺めて、その違いを実感する。
 此処は梅雨の雰囲気も感じさせない、明るい雰囲気の花園だった。
「薔薇や鈴蘭が多いのね、ここの花畑は」
「薔薇は種類が多いから何時でもあるような感じもするけど、この時期は盛りの1つだからね。日本でもこの時期に薔薇祭りをやっている地域はあるよ」
 そういった祭りへ友人達とだけではなくふたりで出かけられる機会があればいいのだけれど。
 一通り楽しめば、石畳の街へと向かう。
 ふと興味を惹かれたお店に立ち入って、土産を選ぶ。友人達にはどれがいいだろうと選ぶあやかの隣で、仁也は何かを眺めていた。
「……? 何見てるの?」
「あやかに似合うアクセサリーがないかな、と思うんだけど……どうもピンとくるものが無くってな……ん?」
 仁也は棚に光る首飾りを見付けて手にとった。
 そうして、彼はあやかに首飾りをあわせた。淡い色水晶が所々にあしらわれた細い銀鎖の首飾り。満足げに頷いた仁也は店員を呼んだ。
「あやかだと民族色豊かと言うよりも、おとなしい清楚な感じの物の方が似合うよな……これ下さい」
「これは……?」
 首を傾げたあやかに仁也は笑う。
「俺からのプレゼント。今日の想い出を残しておきたいから」



「わぁ……」
 シルヴィア・エインズワース(ja4157)の姿に天谷悠里(ja0115)は感嘆した。
 シルヴィアはイブニングドレスにジェントルマン風の小物をあわせたコーディネイトだった。
 すらりと伸びた彼女の美しい身体と彫りの深い顔が映える。思わず見とれてしまう程に似合っている。
「……さて、ユウリ。貴女もです」
「い、いいのかな、私でもっ!!」
 だって、私はシルヴィアさんみたいに立ち居振る舞いも完璧じゃないしっ! ぶんぶんと手を振る悠里の手をシルヴィアは
「磨けば光るのですから、みっちり磨いて差し上げましょう」
 中世風ドレスを手にしたシルヴィアに押し込まれるように、ふたりは更衣室へと向かった。

 澄んだ水音が耳に届く。賑やかな喧噪と、頬を撫でる柔らかな風。
「おー、ヴェネツィアってこういう感じなのかな?」
 悠里は辺りを見渡しながら呟く。
 密かに憧れていた服装を身に纏って、淡い憧れを抱いている先輩と一緒にお出かけ。
 浮いてはいないだろうか? 少しだけ不安だけれど、精一杯高いヒールで澄まして歩く。
 けれど、やはり着慣れていないのが一目で解ってしまう。
「おや、ユーリ、大丈夫ですか?」
「うー、ちょっと、いや、ちょっとじゃないけど着慣れないから歩きづらい……」
 それでも大丈夫だと、言おうとした口を止めたのはシルヴィア。
「そろそろ、少し休みましょうか」
「あ、私は大丈夫ですからっ」
 遠慮しようとする悠里にシルヴィアは悪戯っぽく微笑む。
 このような時はエスコートされるのですよ。瞳が告げている。解りました、と悠里は頷く。
「折角ならば、ゴンドラに乗りましょう」
 シルヴィアの言葉に従い、ふたりは船着き場へ。
 先にゴンドラに乗り込んだシルヴィアが悠里に手を差し出した。
「お手をどうぞ、レディ」
「ありがとうございます」
 先輩が折角エスコートしてくれるのなら、言葉に甘えるくらいはきっと許される。
(今くらい、お姫様気分でも……いいよね?)
 ちょっと照れくさいけれど、悠里は柔らかく笑った。

 ――や、写すなら此処ですよ!

 シルヴィアのアイコンタクトにカメラマンの青年は慌ててシャッターを切った。

 ゆったりとゴンドラは進んでいく。
「おー、着飾った人がいっぱいですね」
 様々な声や香りを楽しみながら、街並みを眺めれば見事な賑わいっぷり。
「あの人達から見たら……私達、どんな風に見られてるんだろ?」
「どうでしょうね?」
 まぁ、ある意味デートに見えるのかもしれません。互いの格好を眺めたシルヴィアは静かに笑う。






 ――雨上がりのお花に付いた雫は女神の涙なんだって。

 傍らのプランターに咲く花が目に入る。昔、母に聞いた言葉をユリア・スズノミヤ(ja9826)は思いだした。
(だからかな? 雨上がりの世界って優しくてキラキラしてるように見えるの)
 だから、雨上がりは結構好きだ。そんなキラキラと優しい世界の中で、ユリアは彼を待っている。
 時計は現在、10分前。

「洒落た場所でのデートは久しぶりだからな……。ユリア、気に入ってくれればいいのだが」
 飛鷹 蓮(jb3429)の足は少し急ぎ気味。
 彼女よりも早く待ち合わせ場所に着きたいところだけれど。漸く着いたその場にあったのはユリアの姿。
 ユリアは上品かつ女性らしい装い。軽く挨拶を交わすと早速彼女が服のことを訊いてきた。
「蓮。どうかな? 似合ってる? 蓮の為に選んだ……わ、わけじゃにゃいもん!」
「噛んでるぞ」
「噛んでにゃい! わざと!」
 慌てて蓮に反論したユリアは、また噛んだ。恥ずかしい。照れくささで俯いてしまう。
 しかし、蓮から再び掛かる声は無く、ユリアが恐る恐る顔をあげてみると。
「……何だか、気恥ずかしいな。カメラのせい、か?」
 同じように、少し落ち着かない様子の蓮を見てユリアは不覚にも安心してしまう。
「さてと、じゃあまずはー……みゅ! カフェで美味しいもの食べるの! レッツゴー!」
 そうして、カフェ巡りを開始。
 何百年も時代を経た風景でのお洒落な暮らしに憧れる。そんな中で食べるデザートは絶対格別。
「みゅわー♪ ほっぺたも心も幸せー」
 ユリアは早速虜になっていた。無防備な笑顔を見せている。食べるのに夢中で口周りについた汚れを蓮が拭き取る。
(……く、可愛い)
 そんな様子を眺め、ある意味蓮も蕩けそうになる心を必死に堰き止めている。
 この様子だと恐らく、ユリアの意識からカメラは消えている。しかし、その自然体の彼女が可愛い。
 結局はその笑顔見たさで、更に追加注文してしまった。
 その後は手を繋いで花園へ。
「私は百合が一番好きだけど、薔薇や鈴蘭も綺麗だねー。あ! 紫陽花が光ってる……」
 ユリアは人差し指で花片に触れたとぽつり、と水の筋が走る。
「誰かさんが流した涙かな?」
「……ん。綺麗だな」
 蓮の言葉に綺麗だよねとユリアは頷くが、彼は首を振る。
「い、いや、ユリアが……だぞ?」
 そうして、淡い紅色の百合を耳元に挿した。その百合に軽く触れながらユリアはただ蓮の顔を眺める他になかった。
 



「お誘い、有難う御座います。竜胆兄」
「いつも色々誘って貰ってるからね。そのお礼ってわけじゃないけど、今回は僕が招待しようかと思ってね」
 丁寧に頭を下げた樒 和紗(jb6970)に砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は顔を上げさせながら答えた。
 経費は依頼主持ちの一応は仕事なのだから。顔を上げた和紗は少し不思議そうだ。
「……ですが、俺より他の女性でも誘えばよかったのに……人のこと、言えないですが」
「ま、そういうことは気にせずのんびり楽しもうか」
 そうして、のんびりと歩き出す。目に入ったのは貸衣装屋。
「あ、せっかくだから貸衣装来てまわらない?」
 竜胆の誘いに和紗は頷き、貸衣装屋の中に入った。
「どーれがいいかなー」
 竜胆はじっと衣装とにらめっこ。よく解っていない和紗はその辺の衣装を適当にとって見ていた。
 そして、ふと竜胆と目があってしまう。
「ティアンドルはセクシー過ぎるからお兄さん許しません」
「あ、いえっ 偶然手に取っただけで……俺は、よく解らないので竜胆兄にお任せしますよ」
 それならいいのだけれど。暫し悩んだ竜胆が手に取ったのは青紫色の19世紀後半のフランスのドレスだった。
「和紗は美人だから、これとか似合うと思うけれどな」
「び、美人とかそんな事ありませんからっ」
 慌てて否定する和紗に、竜胆は笑みを深くする。

 石畳を叩く靴音。水路のゴンドラを眺めながら、のんびりと散策に興じる。
「竜胆兄も、よくお似合いです」
「和紗こそ似合っているよ。でも、なんか足りないな……」
 顎に手をあてて、竜胆は暫し思考。そして、気付いた。
 折角着飾っているのに髪がそのままなのは寂しい。見かけた露天で髪飾りを購入し、和紗の髪に挿した。
「……有難う御座います」
 答えた和紗は柔らかな笑みを浮かべていた。
 少し歩き疲れればカフェで一休み。
「むう、どれもおいしそうですね」
 こういう時小食なのが悔やまれます、と和紗はチラリと竜胆を眺めて見るが甘い物は手伝えないと、従兄は苦笑していた。
 特に目的もなく歩いて居れば出たのは花園。
「今日は楽しんで貰えたかな?」
 竜胆の問いに和紗は笑顔で頷いた。その表情に竜胆の心も弾み、彼女の頭へと手を伸ばして優しく撫でた。
「それならよかった」



 久しぶりのお出かけは、快晴。
 先程まで雨が降っていたみたいだけれど、それでも晴れならいい。
 嬉しくなってドロレス・ヘイズ(jb7450)は、神谷春樹(jb7335)の腕に抱き着いた。
「雑誌に載るかもしれないのに大丈夫なの?」
「誰も見てないから大丈夫よ」
 心配する春樹を余所に、ドロレスは自信満々だ。
 彼女は所謂アイドル。スキャンダルとかが心配なのだけれど、彼女が大丈夫というのならば大丈夫なんだろう。
 ふたりはゴンドラに乗り込んでのんびりと周囲を見て回る。
 やがて流れてきたカンツォーネにドロレスは、思わずそれに合わせて口ずさんでいた。
「ロリータ、前より歌上手くなったね」
 可愛らしい歌声に、穏やかに春樹は素直な感想を告げた。

 花畑を見てまわって、感想を言い合って街の一角にある土産屋へと入った。
 其処は小さなアクセサリーショップ。
「何か気に入ったものは見つかった?」
「これとかどうかなって。お揃いのストラップが持ちたいの」
 ドロレスは春樹に白猫と黒猫のストラップを見せた。
 そして、白猫を春樹に渡したドロレスに、春樹は首を傾げる。
「ロリータは白猫の方が似合いそうだけれど、そっちで良いの?」
「私が白猫だから、ハルに持ってて欲しいのよ」
 質問に返答。きょとん。思考停止。5秒ほど止まって、その意味に気付いた。
 すると、顔は瞬間沸騰した。悟られないように、そっぽを向く。
「ありがと。大切にするよ」
 ドロレスは今、どのような表情で自分を見ているのだろう。
 春樹は少し恥ずかしくて、その表情を眺められなかった。
 これでは、余りに締まりが悪い。
「じゃ、じゃあ……このお礼に、何かプレゼントさせて欲しい」
「お礼だったら、またお出かけに誘って欲しいな」
 春樹の誘いに返ってきたのはそんな無邪気な言葉。
 周囲を見渡した春樹はやがて目に付いたアンティーク風のロケットペンダントをドロレスに差し出した。



「モデルの依頼かぁ」
「この学園には、こうした依頼が入ってくるから面白いですよね」
 周囲を見渡す宇田川 千鶴(ja1613)の呟きに返ってきたのは恋人である石田 神楽(ja4485)の言葉。
 街中が賑やかな雰囲気に包まれている。異国情緒溢れる街並みは可愛らしいけれど、少し落ち着かない。
「ちょっと恥ずかしいが、仕事でもない限りこういう場所に来ないから良い機会かもしれんねぇ」
「ええ、折角の機会です。千鶴さん、今日は楽しみましょうか」
 にこにこと差し出す神楽に千鶴は穏やかな笑顔で頷いた。

 中々訪れぬ場所と機会だ。
 折角ならば、少し変わったことをしたい。変わった相手を見てみたい。
 そう思ってしまうのは、ごく当たり前に自然なことなのかも知れなくて。丁度、千鶴は手に取ったその衣装を神楽に見せていたところだ。
「キルト」
「スカートは嫌ですよ♪」
「スカートやないよ。民族衣装やよ」
 紺色のジャケットに赤チェックのネクタイとスカートのような衣装は、見ようによれば女学生のブレザー。けれど、歴とした民族衣装だ。
「それよりも、千鶴さんはティアンドルを着られないのですか?」
「うーん……私には可愛すぎて似合うかどうか解らんくてなぁ」
「いえ、千鶴さんならば似合うと思いますよ」
 その後、レダーボーゼも薦めてみるが笑顔で拒否された。
 結局の妥協点は千鶴はティアンドル、神楽はブーナッドだった。

 街中でテイクアウトした飲み物を持って、花畑へとやってきた。
 まず目に入ったのは、青紫色の紫陽花。
「去年も紫陽花見たよな。あの時はドレスで雨やったけど」
「面白いですよね、同じ物なのに周辺環境が違うだけで印象が変わるのは」
 神楽の言葉に千鶴は頷く。あの時の紫陽花はどちらかというとしっとりとした印象で。
「あの時のも綺麗やったが、雨上がりの紫陽花も綺麗やね」
 ふたりはその後、ただ紫陽花を眺めていた。
 口を開かずとも、昔のことを今懐かしめることは幸せなことだ。そうして、未来を見る為に頑張らないと――そう、願う心は同じで。

 少しずつ日が傾いた。神楽が少し席を外している合間に千鶴は偶然カメラマンの青年と出会した。
「なぁ、写真を貰うことって出来る?」
「ああ、勿論。デジタル一眼だからデーター残ってるし」
 千鶴は青年から写真を受け取り、大切そうに手帳に仕舞った。何気ない想い出がまた1ページ、増えた。
(……これからも、こういう風に過ごせるように、もっと頑張らんと)
 願う千鶴の心は、何処か枷にも似た想いだった。







「うん! 行けるわ……でかした高岳! 良い写真よ」
「被写体の学生達がよかったんですよ」
 高岳は照れたように頭をかく。後は私が文章ね、と記者は笑った。
「編集長張り倒してページぶんどってくるわ! 今日こそあの狸親父にぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「ぎゃふんとは言わないと思いますよー」
 意気揚々と出陣する先輩記者――大須の背中を、高岳は力無く見送った。

 そうして発売された『With you 7月号』は、いつもより多くの売り上げを記録した。
 とくに撃退士達のありふれた日常を特集したコーナーは特に好評を博したという。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:1人

おたま勇者・
天谷悠里(ja0115)

大学部7年279組 女 アストラルヴァンガード
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター