▼あ! やせいの フォモが とびだしてきた!
「良かったのかな? ほいほいついて来て……チェリーは天魔だって構わないで妄想ちゃうんだよ?」
妄想ちゃうと書いて、くっちゃうと読む。くっちゃうとはつまり、××しちゃうことだ!
死んだ目のオッサンは何処かへと消えてしまった。しかし、御手洗 紘人(
ja2549)――いいえ、プリティ☆チェリーちゃんは超滾っている。だって。
「イケメンの勇姿が見られるということだよね!」
「……あたしが言えた義理じゃないけど、天魔ってなんでどうでも人間文化に詳しいんだろうねぇ」
アサニエル(
jb5431)は、そこはかとなく適当に呟いた。デジタルカメラを弄り倒す彼女の様子はとても天使には見えない人間染みた仕草。
「ぼっちサークル主の力、見せてやるぅ」
エルレーン・バルハザード(
ja0889)はシャープペンシルとスケッチブックを振り上げる。
古の人はのたまった――ペンは剣よりも強し、と。
謎の盛り上がりを見せる女性陣。
さて、そんな女性陣に対極するように男性陣のもとには冬が訪れていた。てか、極寒。南極大陸冬将軍。
各人、戸惑い、恐怖、嫌悪感を隠せない表情で突っ立っているか、立ち尽くしている。
(何だろう……見た目はそこそこ可愛いのに、身体が拒否するというか何と言うか……)
橘 優希(
jb0497)は、フォモを本能的に敵と判断した。速攻で断定した。光よりも早かった。
そう、男として――。
「というか……ディアボロまでに女性って間違えられたらどうしよう」
「大丈夫だよ! 男の娘萌えっていうジャンルもあるから☆」
めざとく聞きつけたチェリーはフォローになってないフォローを飛ばした。一体、何が大丈夫なのだろうと優希は思う。つらい。
「うん……いやまぁ、そりゃ楓君は嫌がるだろうけどねぇ……」
白銀 抗(
jb8385)は溜息を吐く。抗の記憶にある限り、楓という名のヴァニタスは至って極普通の男性だったはずだ。生前は愛した女性も居たという報告も聞いた。彼は、普通にノーマルだ。
というか、これを仕向けられて喜ぶ男子なんて居るんだろうか。居たらこの場に突き出して写メくらいは撮りたいと抗は思った。シマイは、もしかしておバカなんだろうか?
「……何が、同性愛ですか。ばかばかしい」
その場で変わらないような冷静だったのは、呆れながらも銃を握る壬生 薫(
ja7712)くらいかもしれない。
「……ふむ」
綾羅・T・エルゼリオ(
jb7475)は周囲の様子を眺め、思考する。
皆が噂する"フォモ"とは余程強力なディアボロの様だ。だが、しかし。
「不覚を取らぬ様、全力で行かせて貰う……!」
「ま、ここは男として生け贄になるしかないだろうねー(演技するのも仕方無いよね)」
暫し考えた抗は悟ることにした。
生け贄、という単語にエルゼリオは気付かなかった。
「何で本命が参加していない時にこんな敵が出てくるんだっ!!」
『フォモッ!?』
「なになに? りゃくだつも萌えかなー?って? どうぞくよ! わたしもありだとおもう!」
音羽 聖歌(
jb5486)の言葉に身を震わせ反応したフォモ。エルレーンは、その想いを言葉に変えた。
「え?! ディアボロの言葉が分かるんですか?」
「どうぞくだからね!」
サムズアップするエルレーン。(※ちなみに、ふつーにエルレーンの妄想です)
でもね――しかし、哀しきかな。同族よ。
「たとえどうぞくとしても、わたしはいっさいてをぬかない!」
そう、我らは敵なのだ。
同じジャンルを愛したとしても――それは、変えられぬ宿命。抗えぬ運命。
聖戦が、はじまった。
●誠に残念ではございますが、現実です。
「それじゃあ、みんな頑張っとくれよ。あたし等は応援してるから」
カメラ片手にアサニエルはサムズアップした。
「なつのさいてんのしんかんのねたにするよ!」
スケブと鉛筆を持ったエルレーンもサムズアップした。
「あ、もうちょっと寄って貰えますか? そう、そこで絡み合って、視線は右5度くらいズラして……」
カメラを構えたチェリーが男性陣に注文をつけていた。
「ちょっと?!」
完全に観客モードの女性陣。ツッコんだ優希は内心、泣きそう。
背中から斬られるサムライってこんな気持ちなのかなぁと夕方ちょっと前くらいに再放送されている時代劇の中の人物に、自らの現在に重ね合わせている。
「うろたえないでください。ただのディアボロでしょう。いつものように対処すれば何も怖いことはありません」
取り乱しそうになった優希をいなしたのは薫。彼は、眼鏡をくいっとあげ、涼しい――いや、それを明らかに通り越した北極フェイスを浮かべていた。
「この依頼のために友人から銃を借りましたが、何か?」
「ねぇ、その友人っておとこなんだよね! だよね!」
『フォモォ……』
エルレーンの問いかけ、フォモの鳴き声。フォモはつぶらな瞳で『ちょっとそれkwsk!』とでも言いたげに薫を見つめていた。
あ、いつの間にやらフォモはエルレーン達の輪に入っていました。
集まる女子達の視線。しかし、薫はガンスルー。変わらずの北極フェイスだ。
一方、聖歌は青ざめた顔で阻霊符を構えている。
「あんなんに地中に潜られていきなり××された日には……」
そんな聖歌が阻霊符を発動させたのは優希と同じように本能的な危険を感じた、速攻の出来事であった。最早、防衛本能の所業である。
「ま、ここは男として生け贄になるしかないだろうねー」
一方、暫し考えた抗は悟ることにした。現実逃避したって仕方が無い。開き直って、悟ろう。
そんな彼は現在一瞬だけは世界で最も尊い表情を浮かべていただろう。
「ふむ、地球では男同士の恋愛に何故か需要がある様子なのだな……」
さて、何も解らないまま生真面目な表情を浮かべているのはエルゼリオだ。とりあえず、ホモが男性同士の恋愛ということは理解したが、何故需要があるのかまでは理解出来ない様子。
彼は真面目だった。くっそ真面目な表情で『左右』や『もえとーく』などという単語について考えている。
「しかし、男同士の恋愛とは、具体的にどの様に演じれば良いのだろう……」
悩むエルゼリオ。彼は、その意味を識らない。いや、一生知らなくても良い知識だったし開いてはいけない新世界の扉だったはずだ、本来は。
「演技に協力してくれ」
とりあえず近くに居た抗に聖歌がささやいたのは、その言葉。それから、メモ帳に台詞を書いたお手製カンペ。
これを読めばいいの?と首を傾げた抗に聖歌は頷く。
「俺は、この胸の高鳴りを抑えられないんだ……!」
「な、何をするんだ……君には彼が居るだろう……」
抗は紙に書かれたままの台詞を読む。正直、わりと棒読み気味だ。
そして、聖歌はその紙でフォモの位置から見えないようにし、近付いた。ただそれだけで肉体的接触は無かったのだが、フォモには素晴らしい儀式に見えたかも知れない。
「あのような敵に接近しようなんて正気の沙汰とは思えませんね、ええ」
聖歌とエルゼリオの演技。ほんの僅かに出来た隙。薫がフォモに銃弾を撃ち込むが、しかしフォモの身を貫くことなくぽろりと落ちた。
「まだ、萌えとやらが足りないってことなのかな」
男なら、なんでもいいようだ。フォモは優希へと向かってきた。狙った獲物は逃がさない狩人の瞳。
「ひっ……! 本気で気持ち悪い……っ!!」
本気で。マジで。ガチで。心より引いている優希。うっすらと目には涙が浮かんでいた。
その表情にエルゼリオは何故かいつか対峙した楓という名のヴァニタスを思い浮かべていた。その姿を振り払うようにぶんぶんと頭を振る。そうして、何故か服を破いた。
「え、エルゼリオさん! 今、自分で破きませんでしたっ?!」
優希の叫びはしかし、フォモの雄叫びに掻き消されてしまう。砂埃を巻き上げてどんどんどんと近付く、フォモ。優希は思わず瞳を閉じて身構えた。
「ちょっと! 彼を虐めていいのは僕だけだよ!」
ちょっと台詞にSっぽさが混じっているのは、きっと気のせいですメイビー。駆けだした抗はフォモの前へと踊り出た。
瞳を開く、優希の視界に映ったのは抗に抱き着くフォモの姿。
「抗さん……!」
「君が傷つくくらいなら、僕が喰らう方が全然マシ」
「今のセリフぐっとくるねぇ……このシーンだけでごはん三杯はいけるよ」
アサニエルのカメラが激しく瞬く。
┌(┌ ^p^)┐p^)┐アヘヘ...
「って、エルレーンさん、何いっしょにそちら側で見ているんですかっ」
「もえはおいしくいただくものなんだよ!!」
優希のツッコミに、エルレーンはよだれを拭かないまま笑顔で返した。フォモも元気よく手をあげました。煩悩。
ちなみに、エルレーンはいつの間にか変化の術でディアボロと似たような姿になっていたのだが自然過ぎて誰も気付けなかった。
「そういえばさ、シマイと外奪って本当にただの友人なのかな? シマイって面倒臭がりっぽいのによく協力しに来たよねー」
其れは、ふと思い付いただけの言葉。しかし、抗はニヤニヤと笑いながら言葉を続ける。
「あれで、外奪の前では態度違ったりするのかなぁ。」
これで、あのオッサン悪魔に悪寒でも与えられたらしてやったり。完全なる、憂さ晴らしであった。
エルレーンがその隙にスピードスケッチで外奪とシマイのイラストを書いた。ちなみにどちらが左側なのかはお察しである。
※※
さてはて。
「萌は他人に強請るものではない……自分で生み出すものだよ!」
きぱっ。フォモに言い放ったのはチェリー。
「彼は分身出来るんだよ……という事は、自分で自分を襲う事も3ピーも可能という事!」
『フォモォッ!?』
フォモは何やら衝撃を受けた様子。
震えるフォモに満面の笑みでチェリーちゃんは続ける。
何気ない夜に突然襲われるシマイ。其処には分身の自分が……抵抗するも、相手は自分。その抵抗も虚しく少しずつ(※この部分は蔵倫により削除されました※)!。
「おっさん祭りフィーバーだよ! 一人上手って奴だね☆」
『フォモォォォォォォ!!!!!!』
フォモは滾った。フォモの全身から腐敗臭が満ちあふれようとしていた。
「そう、時代の一押しはおっさん総受けなんだよ!! 何も知らないおっさんが若者の毒牙にかかるとかおっさん最高だよ!!」
背中を押すようなチェリーの一声に、フォモから発せられる、毒電波。
「俺が倒れても、お前に傷一つ付けさせやしないから!」
優希を庇おうとする聖歌。ちなみに、その言葉は本命(当然男(原文ママ))に言いたいことを考えたらすらっと脊髄反射のように飛び出てきた言葉。
しかし、つい、うっかり薫を弾き飛ばしてしまった。
蹌踉ける薫を受け止めたのは(無駄に半裸姿の)エルゼリオ。絡み合う視線。熱い(フォモ達の)吐息。互いのぬくもりが感じられる。
何故か少しだけ背が高いエルゼリオの周囲に薔薇が見える。これはフォモの認識障害か? 薫が心の中で、数える素数も上の空。
「もう大丈夫ですから離して下さって結構です」
「……怪我したらどうする。放っておけるわけないだろう(仲間として)」
何故か絡み付いた視線は互いを掴んで離さない。
「ちょっとそこで相手の胸とか愛撫して貰えますか? あ、ポーズで構いませんよ」
カメラ片手に指示するチェリーの声に我を取り戻した薫は慌ててエルゼリオから離れた。状況が理解出来ないエルゼリオはきょとんとしている。
フォモは、のたうち回った。
充分、萌えを吸収したようだ。ディアボロは今、賞味期限の切れた卵のようにとろん、と蕩けた様子を見せていた。
「ごめんね、ごめんね……!」
エルレーンは蕩けるフォモを、ピ(※アッー)シングで貫く。先程のスケッチと同じような鮮やかな軌跡。
「何がホモですか……馬鹿馬鹿しい、いい加減現実見ろよ……」
ある意味、フォモに対しては。薫は高揚するフォモの足元に銃弾を撃ち込む。
足に命中した弾丸は、フォモの機動力を奪った。
「優希君、ここは合わせていくよ!」
「例え人種が違うようでも、こうやって手を取り合って連携出来るんだ!」
優希と、抗が連携してフォモを打ち付ける。
優希の言葉は、素の言葉。しかし、戦友萌え。ご褒美にしかならない一撃だがフォモの生命を奪うのには充分。
「――夢を見ながら逝くが良い」
恍惚の笑み(のようにも見えた、変わらずの表情)を浮かべたフォモは杖の構えを解いたエルゼリオの背後で、倒れた。
●有明で会おう
エルレーンは誓う。ディアボロに誓った。
冷たくなっていく《戦友(なかま)》に、そう――!
「次は、有明で会おう!」
空は、ホモを見て興奮する少女の頬のように紅く染まっていた。
「……ああ、またネタにされるんだろうなぁ」
聖歌は遠い目だ。ああ、夕陽が綺麗だなぁ。つがいで飛ぶあの鳥。
どうせ一緒に空を飛ぶのであれば本命であるアイツの方がよかったのに、益々思う心は止められず空の彼方へ思いを寄せていく。
「……なんか思ったより抵抗なかったなぁ」
そういう話をするのも、男にそういうことを言うのも。
抗は光纏を解きながら、呟いてみる。もしかして、自分はどちらでも行けるような。新たな新世界を見てしまった気がした。
だけど、別にいいや。何だか面倒臭くて、視線を動かせばげっそりと疲れた表情を見せる優希と聖歌の隣で、アサニエルは満足げな笑みを浮かべていた。その手にはデジタルカメラ。
「……良いもの手に入ったよ。これがあれば3年は戦えるね」
「没収です」
薫が広げたのは自治体指定のゴミ袋、きちっとしていた。
薫に女性陣の絶対零度よりさらに冷たい視線が降り掛かる
「何ですかその目は……当然でしょう、さっさと全部出して下さい」
チェリーとアサニエルはぶつくさ言いながらも、デジタルカメラからSDカードを出して、ゴミ袋に放り込んだ。
男性陣の背中は夕陽に吸い込まれるように消えてゆく。
残された影を見ながら、女と男の娘は話す。
「でも、あっさり引き渡したね☆」
「あ、全部バックアップはとってあるからね。あたしがそんなヘマしでかすわけないじゃないか」
チェリーの言葉にアサニエルは得意げな笑みを浮かべた。
アサニエルの手の中。スマートフォンのあるフォルダにはきっちりと、男子達の勇姿(意味深)があった。ちなみに、それはチェリーも同じだったという。
※※
数ヶ月後、有明で開かれる夏の祭典。其処には得意げな笑みを浮かべたエル公の姿がありました。
夏のサークルで出された新刊――其処には、何処かで見たことがあるような姿の男性キャラクター達が絡み合っていた。
36Pカラー表紙B5だったという。風も無いのにぺらぺらとひとりでにめくれた同人誌。きっと、フォモが読みに来てくれたのだとエル公は微笑んだといいます。