よーっし! よいこの前のみんな! 元気っかなー?
モニターから離れて、リプレイは読むんだぞー! え? 離れたら余程モニター大きくないか目が良くないと読めないって?
細かいことは気にしちゃ駄目だ。そう、細かいことを気にしたら
(……あー、何というか始まる前から大惨事というか何というか……)
リーガン エマーソン(
jb5029)が、目の前のとても愉快な光景に何というか……ダンディに思わず目を遠くしました。
だって、目の前には一抱えもある注射器を持って怪人を追い詰めている龍崎海(
ja0565)が居たのですから。
それじゃ。
\もふキュアはっじまっるよー!/
●けっせん・ふぁいなる・すてーじ!
「ふふふー。計画はどーやらうまくいったよーなのですよ。もふキュアが苦しむ姿が目に浮かぶのです」
『まだ、何もやってないよね?』
「う、うるさいのです! こたろーさん! こ、これから何かするのですよ! だって桜祈は――いいえ、偉大なる暗黒犬御神(ダークわんこみかみ)なのですから!」
『ねえ、それ噛まずに言える?』
「あ、愛があれば言えるのです! ほら、だーくわんこみこみ! どやっ」
『…………』
公園を暗黒色のもふもふとした雲が覆う――のは、あまりファンシーではありませんので、結局普通に晴れた午後の陽気。群青色の空にはふかふかと柔らかな羊のような雲が浮いています。
小さな公園を制圧(というか避けられただけ)した暗黒犬御神こと天花寺 桜祈 (jz0189)は結構ハイテンションです。てかチョズいてます。
「ふふふー、もふキュアをけっちょんけちょんにしてー世界をもふもふで見たすのですー。わーい、桜祈さんなんてあったまいー! だーくねすぽんぽんです! どやぁっ」
『自分で言うかなそういうの……』
こたろーさんは思わず頭を抱えます。ダメだ。こいつ、頭悪い。
はーはっはと高笑いをしたその時です。
「「そこまでよ!」」
「な、なにやつなのです!」
行き成り割って入ってきたような声にチョズいていた暗黒犬御神はハッとそちらを見ます。
「なにやつかと聞かれたら!」
「答えてあげるのが世の情け、なんだよ!」
「もふキュアチェリー参上!」
「もふキュアオレンジ参上!」
「「「ふたりはもふキュア!」」
ちゃっきーん。少女達がポーズを決めた。
暗黒犬御神の視線の先、ジャングルジムの上にはさくらんぼ色のキュアッキュアな衣装を身に纏うゾーイ=エリス(
ja8018)と、もっふもふなオレンジ色の衣装に身を包む夏木 夕乃(
ja9092)の姿。
「いくのですよ!」「うん!」
オレンジ(夕乃)を抱えて、ジャングルジムからぴょーんと飛び降りたチェリー(ゾーイ)の背中にはぷちくてキュートな天使の羽。
「なんと! 羽が出たのです! もふもふなのです……もふキュアのオレンジとチェリーと言いましたか……やりますね。けど怪人は負けません!」
ぎゅうっとふたりを眺めて暗黒犬御神がギリィっとしてしまう。なにあれ、すごい可愛い。
その怪人の動きに合わせてお友達もぎりぃっとする様子。なんというか。
「……うぅぅ……。……か、可愛いのですよぉ……も、もふキュアはふたりじゃ、あありませんよぉ……」
え、あ?! 増えた?
助けに来たはずの月乃宮 恋音(
jb1221)も目の前のもふもふに心を奪われているようだ。
少しというか、だいぶ割と露出が多めの紫色の魔法少女服に身を包めば恥ずかしがり屋の恋音だってあっという間にヒロインだ!
何より、ひとりだけ時間帯を間違えているような気もするが言及すまい。
「……もう、何も怖くない、ですぅ……」
がぶむしゃ。何故か大きく伸びたお友達の口が――。
\蔵倫が発動しました。皆様の心の中で描いてください/
「だ、大丈夫なのですかパープルー!」
「……は、はぃ……もふもふ、気持ちよかったですぅ……」
「情報通り戦闘能力は全く無いようだな……」
ゾーイの呼びかけに少しだけうっとりとした様子で呟く恋音。入り口近くに居たリーガンが冷静に呟いた。
その手にはファンシーなピンク色の銃。そう、彼はおじキュアだった。
色ではなくなっていた。
「いきなりお友達が巨大化してびっくりしたけど! 暗黒面に落ちちゃ駄目だ、正気に戻って天花寺ちゃん! ふわっとわんこの息遣い、もふキュアわんこ、ここに参上!」
ニンジャヒーローもこの不思議空間に掛かればファンタジックな演出に! 何処からか懐かしい音楽も聞こえた気がする。
変化の術もなんのその、犬耳ぴこぴこ、にくきゅうぷにぷにとっても愛らしい魔法少女に! あ、一応補則をしておきますと、彼女は男性です。
そうして着替え終わり、びしっと一差し指を桜祈に突きつけた犬乃 さんぽ(
ja1272)。
あ、というか人ですら無くなっていた。
「このままじゃ天花寺ちゃんが暗黒面に堕ちちゃう! 正義のもふキュアの名にかけて……えっと、そうだよ! 犬に代わっておしおき、なんだよ!」
「おぉー……セーラー服ですし、なんだか完璧なのですー」
すみっこに腰掛けた深森 木葉(
jb1711)がぼんやりとその様子を眺めていた。彼女は見学をするつもりらしく、デジタルカメラを構えて、一枚写真をとってみた。
「……あれ? なんか、気付いたらもふキュアが増えていないか?」
もう既にふたりじゃないし。リーガンはあごひげを擦りながら、日曜日のツブヤイター・タイムラインよろしくぼそりと冷静にツッコミを入れる。
「ところで、あれは……」
視界の片隅。なんか、大きな注射器を持った人が見えるんですが。いや、空目じゃない。
「さすがに被害が出ていないこの状況で、問答無用で説得(物理)するのは、俺的には気が退ける。だから、」
――だから?
「まずクリアランスを試してみようと思うんだ。これで治るかもしれないし」
そう海が取り出したのは一抱えもある大きな注射器。
え、ちょ?!
「大丈夫。アウルでそういう形をしているだけで、痛みはないから」
地の文にそう言い聞かせた海。しかし、瞳は笑っていない。
そして、そのまま怪人の目の前へと立って言い放ちます。
「このまま、わんこのままでいると、本物の予防注射を受けないといけないよ。もっと痛いよ」
「い、いいのです! 桜祈は怪人なので風邪ひきません! そ、それ以上近付くと噛むのですよ!」
と、粋がってはいるもののじり、じりりと後退してゆく。海が踏み込めばまた一歩後ろへと。
そうしてびえ〜!と泣き叫び駆け出す暗黒犬御神を大きな注射器を持って追い掛ける海。
なんか、わりとあっさりと引き離しが成功しました。
「え、えーと……この、状況は……?」
遅れて登場した森林(
ja2378)が思わず戸惑ってしまっていた。
しかし。
「見ての通りだ。本人には悪気が無さそうだから、余計質悪い気がするな……」
「ですね〜」
ただ、それだけしか言えなかった。見ていることが全てだったから。
逃げ去っていく暗黒犬御神と海の姿をリーガンと木葉は眺めていた。
●ばーさす・ふれんず
「……え、えっとぉ……あれは、なんでしょうかねぇ……」
ちょっと遠くを見るような恋音の視線の先には二足歩行で歩くヤギの姿。
小動物でもふもふ可愛いお友達を中心したというか大変メルヘンなメンバーが中心だった筈なのですが、何故かそんな中で黒色のマントを羽織り高笑いを浮かべているそのヤギ怪人。
「ふはは!! この我が駆け付けたからには暗黒犬御神の勝利は間違いないヤギよ!」
そう告げたダーク・ヤギ怪人。すると、ポンポンを持ってチアリーディング宛らの素晴らしい動きを繰り出した。
おともだちの おうえん▼
しかし なにも おこらない▼
直後、特に理由のない虹色の雷がヤギ怪人を襲う。
「げふ……やぎィっ!」
「……特に可愛くも怖くもありませんでしたねぇ……ところで、ヤギ怪人って倒されたのでは、ありませんでしたぁ……?」
「ああ、あれはレプリカだそうですよ。本物のヤギ怪人は間違いなく倒されているはずですから」
森林の言葉に恋音は安堵の微笑みを浮かべた。
可愛くも怖くもなにもないヤギ怪人(レプリカ)には割と容赦の無い恋音。
その時、ちょんちょん、と足に感じた感覚。そちらに目を向けてみると仔犬達が森林の足をよじ登りたそうにしていた。
「きゅ〜ん」
「なんか……攻撃するの躊躇しちゃいますね」
つぶらな瞳で森林を見上げる仔犬達。 そのうち一体を抱き上げてちょっぴりもふってみた。
「お〜よしよし。よかったらこれ飲みますか?」
そういって取り出したのはミルク。まずは餌付け作戦だ。
犬たちの瞳が輝いた。
ぺろぺろぺろぺろ。ぴちゃぴちゃと音を立てて勢いよく飲み始めた。余程お腹が減っていたのか。
「喧嘩しちゃダメですよ」
踏みつける如く勢いよくミルクを食す森林は試しにメッとしてみると、効果があったのか否か大人しく仲良く飲み始めた。
「……お、お〜。よしよし、ですぅ……」
大人しくなったタイミングを狙って、恐る恐る手を伸ばした恋音も思う存分モフっていた。
やがて、お腹が膨れて遊び疲れたのか仔犬達はすやすやと眠り始めて無力化が成功(?)したのである。まる。
●ばーさす・こたろー
「飼い犬にはちゃんと首輪をつけないと」
桜祈を一旦もふキュア達に任せ、こたろーを追い詰めた海は首輪とワイヤー(※ただしそう見えるだけのV兵器)を使用し、拘束。
「なんだか、日曜朝のアニメには余り相応しくない一場面だな……」
傍らにいたリーガンもこたろーが追い込まれるよう援護射撃していたわけだけれど、わりとこれは予想外だった。いや、予想は出来ていたかもしれないが。
「さて、野良犬にしておくわけにもいかないからね。しつけておかないと」
放ったヴァルキリーシャンベリンが虹色の光を残し飛び去った。
勿論海に他意は無い。
●ばーさす・さき
「さて、こちらは終わったのであちらを見学しますかー……」
頭や肩に思う存分、仔犬を乗せた森林はちょこんと体育座りで怪人ともふキュアズの戦いを見学するつもりでいた。
いや、自分もピンチになったら混じろうかとは考えてはいるけれど犬達は離れてくれるだろうか。
「なんか、ほかっておいて良い気もするがな……」
やがて木葉とリーガンもやってきて、三人であーだこーだ言いながら見学を始めた。
「くっ……こんな手強い敵、会ったことない!」
「こんなに恐ろしい敵とは思わなかったのです……!」
キュアオレンジと、キュアチェリーは、膝をつき、震えていた。
そう、言うなれば最初からクライマックス。
「ふふふー。もふもふの偉大さを思い知りましたかー! そう、世界が平和になればいいのですよ! もふもふ――」
「勝てるの!? 私たちだけで……!」
「あんなの、可愛すぎるのです……! もふもふで世界が満たされるのならば、つい誘いにのってしまいそうなのです……!」
「ふふふー。今桜祈と手をとったら世界のもふもふの半分をやろう、なのです!」
その時です。
「美味しいお菓子に犬まっしぐら……さぁ、この甘い雨で、もふキュア魂を取り戻して!」
割って入ったのはさんぽの声と、砂糖菓子の骨の嵐。可愛いと手に取ろうとしたら、鉄アレイだった。
何を言っているか解らないと思うが。大丈夫、単に砂糖菓子の骨に鉄アレイが混じっていただけだ。
「ダメだよ! それは真のもふもふじゃない! なんか、違うんだよ!」
熱弁するさんぽにオレンジとチェリーのふたりは何か悩みが吹っ切れたかの様子で。
「そうなのですよね! キュアわんこ! 大切なことを思い出させてくれてありがとうなのです!」
「そうね! もふもふは自分が他者をもふってこそ意味があるものなんだから! 自分がもふ化してしまったら意味ないんだよ!」
度重なる必死な呼びかけに桜祈は頭をぷすぷすさせる。しかし、桜祈は怯まない。
「き、貴様の声が桜祈を惑わせる、のですー! くらえー! びーむ!」
暗黒犬御神は腕をL字型に交差させるとチェリーの姿がなんと! ふっかふかの小麦色の子狐の姿になりました。しかも背中には大きなチェリー色のリボンです。
「ああっ、チェリー! なんて抱き心地よくなって……!」
なんか、ついでにもう一発打たれたビームでオレンジも橙色の羊に変わる。
そうしてお互いに思う存分もふもふを堪能してみた。だけれど、すぐにぽんっと煙を立てて元に戻ってしまう。もうちょっともふもふで居たかったのに。
「お……なんか、しょんぼりしている」
「そういえば、あれってさわり心地良さそうですよね〜」
「一見着ぐるみのようですね。ですが、ファスナーは無し……と」
全く戦闘の余波が飛んでこない場所で見学者はのんびり話していた。
「あと、後から出てきた後輩に見せ場的な意味でもスイーツ的な意味でも、美味しいところ持って行かれちゃうんだから! いいんですか、ほんとーにそれでもいいんですね!?」
これ見よがしに限定スイーツを見せびらかすオレンジ。さり気なくひどい生殺しである。
「えーうー! それは嫌なのですー!><」
当然ばたばたする桜祈にすっと近付いたさんぽは告げた。じゃあ、さっさと戻らないとだよね。
「もふっと、ぷにっとお手2回! もふ堕ちわんわん110番! 正気になぁ〜れ☆」
ぺちぺちっとにくきゅうパンチを二連続。
「お〜、ファンシー、ですねえ」
「というか、あのパステルチックな背景とかハート効果って、どう出しているんだ? オマケに、何か光っているようだし……」
「あ、わりと簡単に出るみたいですよ。ほら」
森林が試しに小さく治癒葉を使ってみると、にょきにょきと伸びた蔦がぴたっとリーガンの足首を覆った。
「お〜、ちょうちょが出ましたよ〜」
見よう見まねで木葉もスキルを使ってみると紫の蝶が飛び舞う。
それが思わず綺麗で木葉はきゃっきゃと喜んでいるのを片目に見ながらリーガンはふと。
「ところで、いつまで体に乗せておくんだ? その犬達」
「降りてくれないんですよ。まぁ、暖かいからいいかなと……」
応えた森林は少し困ったような笑いを浮かべていた。
「今だよ! オレンジ、チェリー!」
更にもう一度放った骨菓子に夢中な暗黒犬御神を指差し合図する。
さぁ、戦いも終盤です。字数もかなりギリギリになって参りました。
オレンジとチェリーは
「「もふりゃ〜っ☆」」
放たれたふたつの光線は螺旋を描いて
こうして、日が傾く前に戦いを終えることが出来たのです。
●じ・えんど
「まぁこういう事もあるさ」
えぐえぐと泣きじゃくる桜祈の頭をリーガンはぽむぽむとぽふった。
「何処か悪いのかな?」
「ちゅ、注射はダメなのですよ?」
そう声を掛けてきた海に震える。
注射怖い。怖いものには変わりない。
遠くの空で鴉が鳴いた。夕焼けはすぐ其処にまで訪れている。