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マスター:橘 ゆん
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/04


みんなの思い出



オープニング

●私立小学校

「今年の受験者数はどうかね?」
 頭の天辺の肌色で窓から入る太陽の光を反射させている定年間近の老人が言った。
 ここは校長室。その校長室の立派な椅子に座るこの老人が、校長なのだろう。
 校長の前に立つ、しわの無いきっちりとしたスーツを着た女性が、手に持つ資料をめくりながら答える。
「前年の95%ですね。ちなみにその前年も96%でしたので、この二年でかなり下がった事になります」
 淡々と女性は答えるが、その現状は厳しいものであった。
 倍率こそはまだ1倍を切ってはいないが、このまま前年割れが続いてしまえば、それも残念な事にかなってしまうだろう。
 公立の小学校ならともかく、私立であるこの小学校にとっては、生徒が減ると言う事はそれだけ経営が不安定になるという事だ。
「ふむ……我が校のイメージが悪い……というわけではないのだろう?」
 校長が受験者数の減少の原因について、確認を取る。
 女性はまたも、淡々とした声で
「はい。悪い噂もありませんし、単純に少子化によるものかと。正直に言えば、どの学校も生徒数が減少しているのが現状です」
 少子化という、ある意味では仕方がない事情ではあるが、だからと言って仕方がないで終らせるわけが行かないのが経営者だ。
 生徒数が限られているのならば、その限られた中で、より多くの生徒を迎え入れなければならない。資本主義と同じように、これも競争なのだ。
 校長は一つ溜息をついて、顎に手を添えて、考え込む。
「イメージは悪くはない。アピールもされている……いや、弱いのじゃろうか?」
 この私立小学校では、修学旅行はもちろん、選択教科制、ボランティア活動、職業体験と言った基本的な事やイベント事も行っている。
 それらもしっかりとアピールをしている。
「校長のおっしゃる通りです。我が校のイメージは可もなく不可もなく、言わば普通です。アピールも何か一歩足りないという所でしょうか」
 校長の前だというにも関わらず、何も隠したりもせず、本当に正直に物を言う女性。
「何か、あと一歩か……」
 考え込む校長。アピールの方向性としては間違ってはいない。ようは何か保護者が惹かれる事を行えばいいのだ。
 そして、閃く。
「あぁ、そうだ。一日先生をやってもらおう」
 校長は子供のような明るい声で言った。
「一日先生……芸能人でも呼ぶのですか?」
「いや、呼ぶのは……撃退士じゃ」
 校長の答えに、女性は、ふむ、と考え込む。
「……下手な芸能人よりもアピールになりますし、予算もそう取らないですから……試す価値はありますね」
 頭の中で、費用、効果、時間など、必要な事を全て計算した女性は、校長の案に賛同する。
「それでは、早速その手配を行ってみます」
「よろしく頼むよ」
 かくして、久遠ヶ原学園に一つの依頼が追加された。


リプレイ本文

●算数
「一日だけ担当させてもらうことになったアルドラだ。よろしく頼むぞ」
 教卓に立つのはいつもの教師ではなく、特別に一日だけ教師に就くアルドラーヴァルキリー(jb7894)であった。
 アルドラが持つ教科書には事前に自分で読み込んだのか、赤色や青色のペンでメモがびっしりと書かれていた。
「教科書54ページまでは進んでいると聞いているので、それに合わせて授業をする」
 まるで本当の教師のように授業を進めていき、普段の光景と似ているからか、生徒達も戸惑う事なくノートに筆を進めていく。
「まず、この例代を見てくれ。これから、諸君にはこれを解くための武器を与える。使いこなしてくれ」
 ポイントも絞り込み、算数で理解しにくい“何故こうなるのか”という根本的部分も筋道を立てて説明している為か、子供達も理解しているように無意識的に首を縦に振っている。
 授業もある程度進んだ所で、アルドラは黒板に文章問題を一問書いた、
「さて、解くための手順はOKだな? では実戦に移ろう。わからない場所があったら、気軽に質問してくれ」
 元々、負けん気の多い生徒が多いのだろう。生徒たちはアルドラが文書問題を書き終えると同時に、自分が一番最初に解くと争うように、ノートに鉛筆を走らせ始めた。
 しかし、徐々に鉛筆が走る音は消えていく。それもそうだろう。アルドラが出した問題は難易度が高い応用問題となっている。
「……先生。ここがわからないです」
 一人の生徒が手を上げた。するとアルドラはすぐにその生徒の傍へよる。
「ふむ、ここがわからんか。ならば、共に解いてゆこう」
 アルドラは丁寧に、しかし、授業とは違う言葉で筋道を立てて教えていく。
 他にも次々と生徒たちが手を上げていくが、アルドラは一人一人にきちんと教えていき、最後に文章問題の解答解説をして、算数の時間は終えた。

●体育
 学校の校庭では体育の授業が行われており、ウサギの着ぐるみを纏った大谷 知夏(ja0041)が生徒達からの注目を浴びていた。
「さぁさぁ! 子供は風の子、知夏と鬼ごっこで体を暖めるっすよ♪」
 鬼ごっこ以前に、生徒らはウサギの着ぐるみが気になってしょうがない状態であった。
 だが、大谷はそんな生徒からの視線に気づき、あぁ、と呟いて
「知夏は大谷 知夏っす! 普段は撃退士をやっているっすよ!」
 と、生徒が気になってはいない自己紹介をした。
 同時に大谷はアウルで出来たウサギを呼び出し、その瞬間、生徒達から歓声があがる。ウサギは生徒達に抱きかかえられたり、撫でられたりとし、生徒達の緊張を解していた。
「ふっふっふー♪ 着ぐるみと撃退士の力を見せてあげるっす!」
 生徒達も突然現れたウサギのおかげでノリに乗ったのか、テンションは高かった
 こうして撃退士一人対生徒全員の鬼ごっこが開始された。
「皆で頭を使って、協力しないと知夏は捕まえられないっすよ!」
「は、早い……っ!!」
 しかし、大谷の撃退士としての実力は本物。例え、生徒が数で勝ろうとも、簡単には捕まる事は無かった。
「くそっ! 女子は待ち伏せして、俺達は追いかけまくれ!!」
「おー!」
 このクラスのリーダー格の男子が叫ぶと、指示通りに女子生徒は広く広がり、男子は一斉に大谷へと群がる。
 大谷は向かってくる男子をのらりくらりと躱していくが、男子達は諦めることなく、何度も向かってくる。次第に逃げ場はなくなっていき、
「捕まえたっ!!」
 予め、逃げ場に大谷の進行方向に居た女子生徒達に捕まってしまった。
「皆で協力すると、大抵の事は何とかなると分かったっすか?」
 息を切らして、その場に倒れ込んでいる男子と捕まえられた事に喜んでいる女子達に囲まれ、息一つ切らしていない大谷が元気な笑顔で言った。
 それに釣られてか、生徒達もまた、自然と笑顔になった。

●理科
 場所は理科室。その理科室の黒板の前に龍崎海(ja0565)が立っていた。
「今日、理科を担当させていただく、龍崎海です。皆よろしくお願いするよ」
 と、龍崎は挨拶をそこそこにして、早速授業に取り掛かった。
「今日は現代科学の最先端に触れてもらおうと思います」
 すると、龍崎は自身のヒヒイロカネから楽器、RemiX A1を呼び出した。
 何もないところから現れたようにも見えるその行為は生徒達の心を一気に鷲掴みにするものだった。
「V兵器には、天魔に干渉できるネフィリム鋼やヒヒイロカネを生み出したということに理科が大きくかかわってます」
 子供達は興味津々のようで、目を輝かせながら龍崎の近くに寄ってくる。
「他にもあるの!?」
「あぁ、あるよ」
 そう言って、龍崎は一度、RemiX A1を戻し、バックラーや交のリングと次々と出しては入れて、と見せていった。
「触ってもいいですか?」
「あぁ、これなら危なくないから大丈夫だ」
 龍崎はバックラーを出して、それを子供達に思うように触らせていく。
 子供達は“硬い”だの“意外と普通”と思い思いの感想を述べている。
 龍崎もあらかた触らせたのち、V兵器について簡単な説明を子供達に伝えた。
 特に男子はこういうのが好きなのだろう、食いつく様に龍崎の授業に耳を傾けていた。

●家庭科
「食事は生活の基本だ。皆の家で食べているのものが、どういう風に作られているか。知ってる者も知らない者もよく考えてみるんだ」
 家庭科室の教卓の前で、Vice=Ruiner(jb8212)は生徒達を見渡しながら言った。
「それでは、今回作ってもらうのはカレーライスだ。これは給食の代わりになるから、しっかりとやるんだ」
 Viceはホワイトボードにささっとレシピを書いていく。難しすぎず、懲りずに簡単に出来る様にカレーライスの調理手順を書いていった。
「家で手伝いをしている者は、不得手な仲間に教えてみてほしい。教えるのも勉強のうちだ」
 手順を全て書き終えると、Viceはペンを置いて、皆に振り向いた。
「包丁の扱いには特に気を付ける様に。質問があれば言ってくれ。では、始め」
 Viceの合図と同時に先ほどまで静かにしていた生徒達はざわざわと話し始めた。役割分担や相談し合ったりとしてやる気のない生徒はいないようだ。
「先生、じゃがいもの芽が上手く取れないです」
 調理も進むと、一人の生徒が手を上げ、助けを求める。Viceはすぐにその生徒の元へ行き、
「包丁の根元、角の部分をこうやってえぐるように……」
 Viceがじゃがいもを一つ取って、手本を見せる。生徒はそれを真似、上手くじゃがいもの芽を取り除いた。
 Viceもその様子を見て、安心した表情で頷き、また違う班の様子を見回りに戻る。
 特にアクシデントもなく、授業は進み、どの班も上手くカレーを作れたようだ。
「出来たな。それじゃあ、これから食べるわけだが、どういった気持ちで料理をしたか、後で感想を言ってもらうから、ちゃんと味わって食べる様に」
『はーい!』
 生徒たちは元気よく返事をしたが、誰も早く食べたいと言った顔をしているのは丸わかりであった。
「それでは、いただきます」
『いただきます!』
 Viceの合図に生徒達は目の前の自分たちで作った料理にかぶりついた。

●国語
「国語の時間を担当する谷崎結唯という。よろしく頼む」
 素気なく淡々と谷崎結唯(jb5786)は挨拶をして、早速白いチョークを手に取って黒板に文章を書いた。
“今日は良い天気だ。だから、買い物に出かけよう”
 なんて事もない普通の文章である。
 谷崎は手に着いたチョークをぱんぱんと両手で払い、生徒達に振り向いた。
「さて、この句読点を使う事により、どのような効果があると思う?」
 谷崎の急な質問に、生徒たちは戸惑い、首を傾げた。
 おずおずといくつか手が上がり、谷崎はその答えを聞き、正解と頷いた。
「他にも、この句読点には意味がある。今回の授業では皆にこの問題を考えてもらう」
 谷崎はそのまま班になる事を指示すると、生徒達は机を動かし、各々班となって別れた。
 班で話し合うと言う事は普段の授業で慣れているのか、緊張の空気が和らぎ、生徒達は話し合いを始めた。
 その話し合いの様子を谷崎は教室中をうろうろと歩き、見て回っている。
 時間も頃合いとなり、谷崎はぽんぽんと手を叩いて、生徒達に注目させた。
「それでは発表してくれ」
 各班、自分たちが話し合った事を発表し、それを谷崎はひたすら板書をしていく。
 やがて、全ての班が発表を終え、谷崎の手も止まった。
「さて、今回の問題だが、これだ、という正解はない。だが、話し合いで皆それぞれこれではないか、という正解を考え、話し合った筈だ。それこそが意味のある正解だ」
 と、一拍置いて、
「皆にはこれからも考える、という事を続けてもらいたい。まわりの皆と共に考えてもらいたい」
 自分の想いを谷崎が生徒達に告げると、タイミング良く、授業終了のチャイムが鳴った。
「以上だ。授業を終える」
 日直が号令をし、国語授業は終えた。

●英語
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は少し緊張した顔で、教卓に立ち、生徒達を見回していた。
「やっぱり少しドキドキするね」
 ソフィアもだが、生徒達もどのような授業をするのだろうかと緊張した様子だ。
 緊張を和らげる為に、深呼吸を一つして、
「それじゃあ、あたしが英語で話すから、どう言っているかわかる人は手を挙げてね」
 と、予め確認した教科書を開き、英語の文章を綺麗に音読した。
 あまりにも自然な発声だったのか、一度目は誰も聞き取れなかったが、二度目、三度目と発声すると、次々と手が挙がっていく。確認為に何人か当ててみたが、ちゃんと正解であった。
「文法とかは普段の授業でしっかりとやってると思うから、実際の英語を聞いたり声に出したりしてみようか」
 ソフィアはそのまま黒板に日常生活で使う英語を板書し、日本語訳もその横に書いていく。その文章を生徒達に発音させ、アドバイスをしていった。
「うまく発音できない……」
「もうちょっと舌を巻くようにすればいいよ」
 流石にイタリア出身という事もあってか、母国語とは違う英語であっても、適切なアドバイスをする事が出来る。
「何か聞きたいこととかあったら答えるよ。せっかくだから、英語で質問してもらえるかな? 内容は授業のことに限らず、変なことじゃなければなんでも大丈夫だよ」
 ソフィアが言うと、生徒達は周りの友達と相談したり、辞書を開いて単語を調べたりし始める。
 カタコトの英語、単語をただ繋いだだけの英語だが、それでもソフィアには何が言いたいのかは理解する事が出来、英語で返答し、少し間を置いて、日本語で返事をしていく。
 慣れない英語でも、生徒達はなんとか自分の伝えたい事がソフィアにしっかりと伝わると、自然に笑顔になっていった。

●音楽
「じゃあ、今から始めます」
 音楽室にてシルラ・ローレン(jb8127)はCDをプレーヤーの中に入れ、再生ボタンを押した。スピーカーからは洋楽が流れ、普段、聞きなれてない事もあってか、生徒達はただ静かに耳を傾けていた。
 やがて、音楽も終わり、シルラは停止ボタンを押す。
「これは、とあるイギリス人が作曲したものです。この曲、聞いた事のある人は?」
 シルラが問うが、生徒達は誰も手を挙げる事は無かった。もともと日本でもそう有名ではない曲の為に、当然と言えば当然なのだろう。
 シルラは、そのまま、この曲のタイトルと、その歴史を説明した。
「それじゃあ、この音楽をずっと流しておくから、これを聞いて、イメージした絵を描いてみてください」 
 突然の絵を描くと言う行為に、生徒達は戸惑う。
 首を傾げながらも、画用紙にペンを進めていくが思うように進まないようだ。
「しっかりと音楽を聞いてごらん」
 進展が芳しくない生徒に、シルラはアドバイスを送る。生徒は、静かに目を瞑り、その音楽と対面した。すると、何か閃いたのか、先ほど筆が止まっていた腕が、すいすいと動き始めた。
 その様子にシルラは納得したように頷き、絵を描く生徒の周りを歩きはじめる。
「何か、悩みとかないですか?」
「え? ん〜……最近、一つ上のお兄ちゃんと仲が悪くて……」
「気まずいだろうけど、まずは話してみるのがいいと思います」
 合間に生徒の悩みも聞き、そのアドバイスも送っていた。
 やがて、生徒全員が絵を描き終えると、シルラはそれらを回収する。
「歌からイメージするというのも楽しくて良いでしょう? 音楽は単純に聞くだけではなく、心で楽しむことも出来ます」
 シルラから生徒達全員へ、音楽のアドバイスを最後に送った。

●後日談
「結構話題になりましたね」
「ホームページのアクセス件数も伸びたようだな」
 校長は撃退士達が一日教師を行った成果レポートを見ながら、満足そうに頷いていた。
 お試しでやっていた為、テレビの取材などは無かったが、授業風景を写真にホームページに載せた事でちょっとした話題となっていた。
 また、生徒から保護者へ授業の感想が伝わり、それが保護者から別な保護者へと伝わり、この小学校付近では、話のタネとなっていた。
「これで来年の受験者数も期待できるだろうな」
「結果は蓋を開けてみないとわかりませんが、概ね大丈夫かと」
「うむ。結果が良ければまた来年もやり、場合によっては教員資格のある撃退士を雇ってみるのもいいだろう」
「検討はしてみましょう」
 校長も、秘書らしき女性も来年の結果が楽しみなのか、その頬は緩んでいた。





依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

癒しのウサたん・
大谷 知夏(ja0041)

大学部1年68組 女 アストラルヴァンガード
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
天使を堕とす救いの魔・
谷崎結唯(jb5786)

大学部8年275組 女 インフィルトレイター
天使を堕とす救いの魔・
アルドラ=ヴァルキリー(jb7894)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
シルラ・ローレン(jb8127)

大学部2年319組 女 アカシックレコーダー:タイプB
龍の眼に死角無く・
Vice=Ruiner(jb8212)

大学部5年123組 男 バハムートテイマー