●開幕
「帽子の男よ……私は帰ってきた。いざ、行かん! 聖地ヴァルハラへ!」
※ゲームセンター『ヴァルハラ』AM9:00〜PM:11:00 絶賛稼働中!
ルエラは助っ人の撃退士を引き連れ、ゲームセンター内へ足を踏み入れる。
帽子の男がこちらに気づいた。※以下『帽男』
「多っ!! 助っ人多!!」
まさかこんなにもたくさんの撃退士を助っ人に連れてくるとは思ってもみなかった帽男はかなりびびった。回転寿司でキャビアが流れてくるくらいびびった。
「帽子の男よ……今日こそお前を……倒す!」
なんか熱い感じのセリフだが他人任せの上にぞろぞろと数を用意しているルエラはあまり格好よくなかった。
斯くして、帽男と撃退士のゲームセンターバトルは幕を開けたのだった。
●第一幕
「ふむ……よし、コレで勝負を決めようか」
おもむろに店内を見回し、そう言ってニヤリと笑みを浮かべるのは下妻笹緒(
ja0544)。
「うおっ! パンダがなぜこんなところに……」
下妻のパンダの着ぐるみに再びびびった帽男だったが、気を取り直して下妻の指差したモノを見る。
両替機である。
「互いにお札を投入して、どちらがより多くの硬貨を獲得できるか勝負といこうじゃないか」
下妻の言葉に帽男ぽかーん。(゜д゜)←大凡このようになります
「そ、そんなもの勝負になるはずが……はっ!?」
その時、帽男の脳裏に電撃が走った。
下妻は「ふふ……」と意味ありげな笑みを漏らしている。
まさか両替機に細工を……? これは罠だ! しかし、こんなことで俺は引き下がらない! うおお! ゲームセンターヴァルハラよ! お前を信じているぞ!
ちゃりちゃりちゃりーん。
はい、普通に二人共両換えできました。やったね!
「ふっ……やるじゃないか。引き分けのようだな。これからの戦いとくと見させてもらうよ……」
そう言うと下妻は崩した小銭でジュースを買い、休憩用の椅子に腰を下ろしたのだった。
(なんだったんだ……一体……)
動揺する帽男に新たな刺客が襲いかかる!
ワイルドさが光るイケメン、英 御郁(
ja0510)と笑顔の可愛い女の子、ニーナニーノ・オーシャンリーフ(
jb3378)の二名である。
それを見るなり、
「うおお! リア充か! リア充なのか!? お前らには負けん!」
怒りが迸る帽男。
「別にリア充とかそんなんじゃないけどよ。とにかくこれで勝負しようぜ。準備はいいか? ナノ」
御郁が選んだのは音楽に合わせてボタンを叩くゲーム『ポップルオンガック』だ。
「OKだよ! みっくん。ボクらの力を見せてやろう!」
「なにあだ名で呼び合ってんだこらぁ!」
取り乱す帽男相手に御郁は更なる挑発を仕掛ける。
「こっちは二人一組だ。本来一人でヤるところを分担するってのは、それなりに難易度高いんだぜ? これをどう捉えるかはお宅次第だがな。自分が一番だと豪語してるらしいが王者ってのは、勝負を選ばねぇもんだよな?」
「上等だぁ! 一人でやってやるよ! 二人なら押すボタン少なくてそっちの方が有利だろ。だが、負けん!」
「撃退士のクセに一般人相手にしたり初心者狩りしてる奴なんてサイテー。そーゆーダサい奴にはなりたくないなー。ゲームは楽しくが基本だよ」
ニーナニーノの毒舌とともにゲームはスタート。かなりゲーム慣れしている御郁とニーナニーノだったがそれでも残念ながら嫉妬に狂う帽男は止められなかった。
「じゃあ次は僕とお相手してもらおうかな」
パックを打つ器具、マレットを手にそう宣言するのは色モノが多い撃退士の中でも目立った特徴がなさそうに見える男子学生、鈴代 征治(
ja1305)だ。
「あんまりゲーセンには来ないんですが、身体を使うゲームくらいならなんとか」
そう言ってエアホッケーの対決へ。
ここは流石の撃退士対決。帽男と征治は素晴らしい打ち合いを披露する。
「この必殺シュートが止められますか!? ……と見せ掛けてこっち!」
「ぐぬぅ……!」
フェイントや壁を使ったトリッキーな技の応酬にギャラリーも沸くが、政治のゴールがガチャチャとパックを通す音を立てる。嫉妬に狂った帽男のエネルギーはそう簡単に静まるものではなかったのだ。
あと一歩のところで軍配は帽男に上がった。
「あ〜、負けちゃいましたか……」
「くっくっくっ……なかなかやるようだったが俺を倒せる奴なんていな」
「これじゃアリスさんに顔向けできないなぁ……」
「お前も『女』か!! ちくしょー!」
帽男の叫びは続いた。
●第二幕
「次は俺がいかしてもらうわ」
黄 秀永(
jb5504)が屈託のない笑みで帽男との対戦に臨む。
「勝負は『モグラ叩き』や。定番やろ?」
「はい、ハンマー」
ルエラがどこから取り出したのか金属ハンマーを秀永に手渡す。
「そうそう、このハンマーでモグラちゃんの頭をスコーン……って、ぶっ壊れてまうわ!」
「……」
「い、今ので笑わへんとは……」
今のやり取りにくすりともしなかった帽男に呆然の秀永。
「ま、まぁええわ。ハリセンツッコミで鍛えた叩き、とくと見せたる!」
そして、備え付けのハンマーを手にした秀永は見事にパーフェクトの成績を叩き出した。
「これで俺の勝ちやな。自分、負けたらこれでしばいてええ?」
ハリセンでぱしぱしと手を打つ秀永に帽男は言う。
「残念だがお前の勝ちはないぜ! 何故なら……」
モグラを叩き出した帽男も結果はパーフェクト。撃退士の力をもってすればもぐら叩きなどわけないのだ。残念ながらこのお店はどちらが早く規定回数に届くかの対戦型ではなかった。
「ちぇー、しゃあないあ……じゃあルエラはん、あっちで違うゲームでもしよか」
秀永とルエラはその場を離れる。
「よーし、次はあたしの番な」
そうして現れたのはメガネにバンダナという、知的にも能動的にも見える魅力を持った女性、市川 聡美(
ja0304)。
「ゲーセンと言えばやっぱこれだよねー」
彼女の勝負機はタイルを音楽に合わせて踏むゲーム、その名も『踊り踊るクーデター』。
「いいだろう……まだ音ゲーはし足りないと思っていたところだ」
帽男もそれを受けて立つ。
「それでしたら、私も参加させていただいてよろしいでしょうか? どうぞよろしくお願いいたします」
帽男の前に歩み出て丁寧な挨拶をするのは綺麗な瞳をした清楚な女性だった。
緋月 舞(
jb0828)。
着物を優雅に着こなし、どう見ても良家のお嬢様といった品が窺える。
更に、蒼色の髪、カジュアルな服装をした女性、鳳 蒼姫(
ja3762)も名乗りを上げる。
「私も踊っちゃうよ〜☆ 足のステップは大切なのです! 手の振りも身体全体もリズミカルに行くのですよ〜☆」
女性陣の登場に帽男興奮。
「少々失礼致しますね」
了承を得た緋月はなんと、着物を開け、動きやすい格好へ。そのお色気に帽男や店内の男性どももめろめろめろんだった。
(ふふふ……女性三人の相手とは運が回ってきたぜ)
帽男が鼻の下を伸ばしている間に市川はコイン投入。
「緋月さん、やるね〜。じゃ、私からいかせてもらうよ!」
市川のダンスパフォーマンスが始まった。上級者向けの曲をものともせず、後ろ向きでギャラリーに手を振るなど、サービス精神も旺盛だ。
盛り上がるところに緋月も参入。
「この楽しみも、家に居た頃には味わえなかったもの……」
緋月が一時はこの手のゲームに病み付きになっていたことがあるというのはちょっとした密か事だったりする。
蒼姫もリズムに乗り身体からは眩いオーラドレスまで出ちゃってたりしている。
三人ともなかなかの高得点を出し、帽男が踊る時がきた。
市川、蒼姫のダンステクや、緋月の眩しい太腿のチラリなど、障害は大きかったがそれらを乗り越え、彼は踊った。
皆から、
『なんか生理的に動きがキモい』
とか野次を飛ばされるような動きだったが何故かかなりの高得点で三人を一蹴したのだった。でも、そんな帽男になど目もくれず、
「いやー、ゲームって楽しんだもん勝ちだよねー」
「まさにその通りですよね」
と、市川と緋月は踊り続けていた。
「お前のダンスはなっちゃいねぇ……」
踊り終えた帽男の前にファッショナブルな男が立ちはだかり言った。
「それで『踊り』だと? まずはそのふざけたファンタジーをぶち壊す!」
そう叫びポージングを決めるのは命図 泣留男(
jb4611)、通称メンナク。
彼はそのマスィーンに硬貨を入れ、踊る。
独特の2ステップ左右移動。上半身の一定行動、パーツを繰り返す。
彼が踊るのはパラパラ。そう……最早見掛けるのさえ難しい、パラパラを踊るマスィーン、『パラパラパラフレーズ』がここにはあった。
「くくっ……ナチュラルとロックがオレの胸で核融合するぜ!」
少々理解しがたいセリフを口に乗せつつ、熟練のホストのように華麗にポーズを決めていくメンナク。
最後には天使自慢の光の翼を神々しく解き放つ……!
「決まった……黒きナイトは闇夜に光り輝くのさ……」
陶酔するメンナクであったが、続く帽男のダンスに目を瞠る。
フリーなダンスではキモいと評判だった帽男だが、形式的なダンスは得意なようでこれまた高得点。メンナクをも撃破した。
「ば……バカなっ、伊達ワルのこの俺が……!?」
帽男の無敗記録はまだ続く。
ダンスが盛り上がり、御郁とニーナニーノも参加。ニーナニーノがスマイルとともに帽男を指差し「みっくんが今からアンタをみっくみくにしてやんよ!」と、ウィンクなどを飛ばすが、「リア充の傍になどいられるか!」と帽男は撤退。代わりにルエラが御郁たちとはしゃいで踊っていた。地味にルエラは帽男のことなどスルーでゲームセンターを満喫していたのであった。
一息つきたい帽男が辿り着いたのはクレーンゲームコーナー。
そこには数人の撃退士が集まっていた。
「げーむせんたーって初めて入ったっす! どきわくっす! あ、これチョー可愛いっす!」
と、ガラスに顔を押し当てはしゃぐ巫女服少女、ニオ・ハスラー(
ja9093)。
「あたしも初めてなので、ワクワクです♪」
と、相槌を打つ小柄キュート少女、ゾーイ=エリス(
ja8018)。
その隣には金髪碧眼の男性、川崎 クリス(
ja8055)。
更に、スケッチブック片手に大きなぬいぐるみを熱心に見詰めるネピカ(
jb0614)と、その奥には落ち着いた雰囲気を持つ男性、鳳 静矢(
ja3856)。
それらをやれやれといった表情で見守る神凪 宗(
ja0435)。
どうやらクレーンゲームは大人気のようだ。
「…………」
ネピカがスケッチブックを掲げる。皆への提案のようだ。
『クレーンゲームで勝負じゃ』
「それがいいっす! 本気出していくっすよー!」
ニオがもこもことした蜘蛛のぬいぐるみに挑むが無情にもアームはぬいぐるみの側面を滑る。
「ウー! ちょーくやしいっすー! あれ欲しいっすー!」
暴れるニオは再び挑戦するも失敗。ゲームセンターのクレーンゲームはなかなかに辛口なのだ。
その隣では、
「へへっ、ゲーセンデートってやつだなっ」
「川崎さんとデートなのです! 嬉しいです」
と、川崎とゾーイが二人の世界をつくっている。
「あ、ウサギさんです」
「欲しいのか? どれ、取ってやるよ。クレーンゲームは得意なんだ」
「うわ〜! ウサギさん、取れました! ありがとうございます!」
「クレーンゲームのコツはな、まずアームが……」
そこは完全なる異空間。まさにゲームセンターのアダムとイヴである。
爆・ぜ・ろ!
徐々に帽男の眼力に逞しさが宿っていっていることにリア充たちは気がつかぬのであった。
『私との勝負は、よりデカいぬいぐるみを取った方の勝ち』
スケッチブックで勝負を催促するネピカは、果敢に大きなくまのぬいぐるみを狙う。しかし、やはりアームは滑り景品を獲得することができない。
「ふふふ……俺の秘技、見せてくれるわ!」
開眼した帽男は『ちゃぶ台返し』『タグ掛け』などの大技を連発。大きなくまと蜘蛛のぬいぐるみをゲットするに至る。
『……負けじゃな。どうじゃろう、後はおぬしの邪魔にしかならんそのぬいぐるみ、私が100久遠で引き取ることで完全決着とせんか?』
「え? ……あ、うん」
潔く負けを認めたネピカだったが、その思惑は帽男に景品を取らせて安く買い叩き、ぬいぐるみをゲットすることだったりする。
なにが完全決着なのかもわからないまま帽男はネピカにぬいぐるみを手渡す。
「羨ましいっす! あとらくなくあタン……」
帽男が取ったもう一つのぬいぐるみ『這いよるファンシーぬいぐるみシリーズ、あとらくなくあタン』という蜘蛛のぬいぐるみをじっと見詰めるニオ。
「わかったよ、もう。ほら、やるよ」
「ほんとっすか!? 嬉しいっす! ちょーもこもこっす!」
跳ねて喜ぶニオ。くまを見つめてにやりとしているネピカ。
帽男は内心、女の子に景品を取ってあげる彼氏気分で嬉しかったりした。
「ゲームセンターか……昔は良く景品を取ったものだ。昔の感が錆びて無いと良いのだが……」
静矢は馴染みの深いクレーンゲームに挑戦。一度目で景品の場所を調整し、二度目のプレイで確実にひもにアームを通す。そして見事景品を釣り上げた。
帽男が勝負としてプレイしている時には、後ろから蒼姫が「……シズヤサンニ、カツツモリ?」などと冷たい声で威嚇してくるのが怖いやら、また女かよなのやら、心で泣きながら帽男は複数の景品奪取に成功し静矢に勝利。
「さて、次は俺か……全く、撃退士がゲームで本気になってどうする。まぁ、依頼だから仕方ないけどな」
銀髪に赤いメッシュの髪。長身に整った顔立ち。いかにもなモテ風の男、神凪が次の相手のようだ。負けられないと帽男は闘志を燃やす。
そして三分後……
そこには大量のぬいぐるみを持つ神凪の姿が。
「なん……だと……!?」
帽男、まさかのクレーンゲーム敗北である。
「あれ、なんかいっぱい取れちまったな……これ、いるか?」
「うわー! すごいっす! 可愛いっす!」
『いただいておこう。本来ゲームは楽しむものじゃ。勝負を通して楽しめば、皆勝者でよいと思うがの。なんにせよ、目的は達したので私は満足じゃよ』
神凪の周りには先程ぬいぐるみをあげた女性たちが取り巻く。
ああっ! 俺がせっかく好感度を上げておいたのに!
そちら方面でも完全敗北の帽男であった。
※入手した景品などはアイテムとして配付されません。ご了承ください。
●第三幕
「くそぅ……あのイケメンめ……」
そんな元気のなくなった帽男に次に挑むのは若干目の釣り上がった少女、ギィネシアヌ(
ja5565)。
「フハハハ! ガンコンを極めし魔族(自称)たる俺が相手をしてやるのぜ!」
そう叫び、大掛かりな機械に繋がる銃を帽男に向ける。
襲い来るたくさんのディアボロを銃で倒していく最新作のガンシューティングゲームである。
「勝利者は最初のステージボスクリアまでで獲得点数が多い方であるのだ」
ギィネシアヌは序盤、帽男の癖を見極めつつプレイを進め、帽男がよく狙う場所に出るディアボロを先んじて狙撃。その正確な射撃は流石のインフィルトレイターである。
「ドットだろうが一部が見えていれば、大体狙撃可能……ゲームは温かろう?」
そう言ってなんとボス戦では光纏を発動。八岐大蛇を連想させる八本の蛇の尾がギィネシアヌを取り巻く。その狙撃によりボスは撃破されたのだった。
結果的には……なんと全くの同点。勝敗はつかなかった。
ギィネシアヌはボスを撃破したものの、序盤に様子を見過ぎて得点を帽男に稼がれてしまっていたのだ。
「やり込んでいなかったら危なかったぜ……」
「実力では勝っていたはずなのに……残念なのである」
帽男はなんとかギィネシアヌを退け、額の汗を拭った。
「さて、俺ともガンシューティングで勝負して貰おうか?」
続いて挑戦してくるのは緑の長髪をした翡翠 龍斗(
ja7594)。そのイケメンっぷりに嫌な予感しかしない帽男だが、やり込んでいるゲームの上に今まさにプレイで温まったところ。そうそう勝利を譲る気もなく、善戦虚しく翡翠は敗北を喫する。
「楽しかったよ……。それと、ひとつ聞きたいがクレーンゲームの景品を一回で取るコツを教えて貰えないか? 見たところとても上手なようだ」
然程ガンシューで負けたことを気に病んでいる感じは見受けられないが、イケメンに教えを説くのも優越感に浸れるというもの。得意気に帽男は翡翠にコツを教える。
ダメ元で挑戦したクレーンゲーム。それでも教えてもらったコツを活かして見事にうさぎのぬいぐるみを取ることに成功した翡翠はこう呟く。
「本当に一回で取れるとはね……喜んで貰えるといいけどな」
その瞳は虚空に愛する人を思い浮かべるものだった。
「やっぱりね!」
もう帽男はやけくそ気味にそう叫んだのだった。
ここまではなんとかなっているが、矢野 古代(
jb1679)はゲームセンターの崩壊を危惧していた。
『嫌な予感しかしねえ だって撃退士たちだもの こしろ』
こんな塩梅である。
なにか騒ぎが起きた時のために一般のお客様に注意を呼び掛ける。素晴らしい保護者っぷりである。
「よう、そっちの引率の先生は勝負しないのかい?」
もうやけくそな帽男はゲームに参加する気のなさそうな矢野に言った。
「まぁ、一般の方への忠告も終わったし、ここまで何もなさそうだからな。じゃあシューティングでもやるか」
特に先生と言われたことも否定せず、そう言って矢野はシューティングゲームの筐体へ移動、椅子に腰を下ろす。
ゲームセンターに来るなどもう何年振りか。かれこれ15年以上前の気がする。
どうせ負けるだろう……。そう考えていた矢野だが、いざやってみるとそこそこの高得点。
「まぁまぁだが、俺の敵じゃないな」
と、帽男が意気揚々とゲームを開始するが、後ろから現れた秀永がこっそりと脇をつつくと、
「あひんっ!」
とか変な声を出して撃沈。
撃退士たちが二つ目の勝利を収めた瞬間だった。
「ちょっと私と付き合ってくれないかしら?」
落ち込む帽男に眼鏡を掛けた女性が声を掛けた。
その言葉にどきりとする帽男。
付いて行った先には、小柄な男性が二人、森田良助(
ja9460)とエレムルス・ステノフィルス(
jb5292)がいた。
どきどきして損した! と憤慨する帽男に三人は2on2の対戦を申し込む。
そのゲームとは『立体機動ファイター・イェーガンパムKY』。ワイヤーを飛ばして移動するロボットゲームの定番だ。
色々な意味で危ない筐体である。
「ゲーム好きとしては負けられないよね」
と、席につき『イェーガンパムxx』を選択するエレムルスと、
「僕の『ももしき』が唸りを上げるよー」
と、専用機だけど赤色じゃない機体を選択する森田。
「ふふ、いかれた帽子屋さん。ネムリネズミのご協力はいるかしら?」
そう言うのは最初に声を掛けた女性、暮居 凪(
ja0503)だ。まさかの帽男と撃退士の協力チームの完成である。
「手は抜かないから安心して」
暮居は遠距離型の『ケルビムガンパム』を選択。
帽男は『女の子と協力対戦!』と浮かれながら暮居との相性を考えて近接型で勝負を挑む。
ステージは『マテュピチ』。障害物を上手く利用して互いの機体が攻防を繰り広げる。
先ずは森田と暮居の遠距離砲で牽制の差し合いから始まり、そこへ突っ込み森田に一撃を放つ帽男。
そうはさせぬとブーストで急接近し、ステップからの打撃を繰り出すエレムルス。
割り込むようにライフルで応戦する暮居。
『サガレ! ワタシガゼンブタオス!』
緊迫した戦いが進む中、森田が究極バーストを解放し、メガを遥かに凌ぐゼタバズーカを放つ!
それと刺し違えるように帽男が突進。その隙を突いてエレムルスが必殺の一撃『ディカプレットサテライトキャノン』を撃ち込む!
『セカイヲメッサレテタマルカー!』
それを被弾し体力ギリギリの帽男と暮居の背水の反撃。
熱いバトルがいつまでも続いていた。
「まさかあそこから捲られるとは……」
森田が肩を落とす。もう一押しというところで帽男・暮居チームに勝利を献上してしまったのだ。
「勝負は水物ですからね。仕方ないですよ」
とエレムルスがそれを慰める。
やったぜ! と暮居にハイタッチをしようと手を上げる帽男だったが、暮居はそれをスルー。ルエラを呼んで彼女に席を渡す。
「共に遊ぶのも、きっと面白いわ。戦いと一緒よ」
「うわー、これすごい! ガンパムすごい!」
楽しく遊ぶ四人を背に、「ちくしょー!」と叫んで帽男は走り去った。
走り去った先で出くわしたのはゾーイと川崎のアダムとイヴコンビである。
『リア充に裁きを……』
精神のおかしくなった帽男は二人とクイズゲームを開始した。
一つの椅子に寄り添って、
「ゲッ……これわかんねぇ……」
「これがきっと正解なのです♪」
と楽しげな二人。
結局勝負に勝利したものの、むしろ被害は増大していた。
彼が次の生贄に選んだのは蒼姫。静矢と仲睦まじく歩く二人を狙う。なぜか彼が挑戦者側に回っているがそんなの気にしない。しかしこれが、彼の(ぼっち)生命を断とうとは誰が想像しただろうか。
蒼姫と帽男が落ちゲーの定番『ぶにょぶにょ』で戦う。
「うーみゅ。連鎖が命なのですよ〜☆ 負けないのです〜☆」
蒼姫の連鎖に筐体が『ぼよよ〜ん☆ ぼよよ〜ん☆』と呼応する。
だが、帽男も負けじと連鎖でそれを相殺。
「ふむ……接戦か……」
静矢が静かに見守る中、蒼姫の画面が詰まりゲームセット。
勝った……!
リア充に鉄槌を下した彼は二人を見る。
負けた蒼姫の頭を撫で、
「ふむ……まぁ勝負は時の運だよ」
と慰める静矢。その二人に食って掛かる帽男。
「彼女がいるくらいで調子に乗るなよ!」
きょとんとした静矢は落ち着いてこう返した。
「彼女……ではないな。私たちは夫婦だ」
嫁かよっ!
なんというリア充性能。久遠ヶ原学園の生徒は化け物か……!
帽男死亡(精神的な意味で)。
誰も『もうやめて! 帽男のライフはもうマイナスよ!』とは止めてくれなかったのだった。
●第四幕
帽男は根性のスキルを発動。気絶判定に自動成功し、なんとか生き永らえる。
「ゲームセンターか……久しぶりだ」
満身創痍の帽男にエレンガントな動作で歩み寄るのはラテン・ロロウス(
jb5646)だった。
「勝負はアレを希望したい」
そうしてロロウスが指差したのは、『プリント☆活動』略して『プリカツ』。
だが、男と二人でプリカツなど断固拒否する! と帽男は峻拒。
実はペットのアルパカと撮影させようとしていたロロウスだが仕方ないとそれを諦め、続いてこの店の目玉ゲーム、『ハートブレイカーEX』(略してハトブレEX)に挑戦。
実はロロウスにはハトブレの前作をプレイしていたという経験があるのだ。
彼が使うキャラは『隣の鈴木さん』。必殺技の『鯖の味噌煮』という対空、『海苔の佃煮』といった飛び道具、果ては『牛丼特盛』といった投げ技まで持つ、待ちバランスキャラだ。
でも、先日会社の新人『舞子ちゃん』にフラレたという悲しいサラリーマンである。
あ、やっぱりそういうゲームだったのかこれ。
だが、このゲームで負ける訳にはいかない。
帽男は超絶コンボをもってしてロロウスを撃退。
「俺より強い奴はいないのか!?」
クレーンゲームや脇をつつかれての敗北など負けた内には入らないと、モテない男の叫びが店内に響く。
「じゃあ俺らとやろうぜ?」
そこに現れたのは眼鏡を掛けた青年、若杉 英斗(
ja4230)と、奇抜な原色ファッションに身を包む少年、伊瀬 篁(
ja7257)だった。
二人は正真正銘歴戦のゲーマー。
究極の戦いが今、始まる。
対戦機種は勿論『ハトブレEX』。
まずは若杉が台の椅子へと腰を下ろす。
「『この店にあるゲームで俺に勝てる奴はいない』そう言ったらしいな」
若杉の威圧感溢れる一言に空気が揺れる。
若すぎの後ろには『ゴゴゴゴゴ……』という文字が見える程だ。
久遠ヶ原学園に来る前から名のあるゲーム街で延べ1000人を超えるゲーマー相手に戦ってきた若杉には揺らぎ無い自信と、1ドットでもライフが残っている限り諦めない強靭な心が宿っている。
帽男と若杉がコインを投入。
視線に火花の散る二人の対戦が始まった。
間合いの読み合いに始まり、1フレーム内のコマンド入力、どんな通常攻撃からも連続技をキャンセルさせる入力の精度。
どこを切っても一流同士の戦いがそこにはあった。
2セットを先に取った方が勝ちである格闘ゲーム、1セットずつを分け、運命の3セット目。
そして、その時は訪れる。
残り体力1ドットの若杉による渾身のコンボが帽男のキャラを襲い、帽男の敗北を決定づけた。
「ば……馬鹿な……!? こんなのまぐれに決まっている!」
若杉は「ふっ……」と笑みを浮かべ、伊瀬へとバトンタッチ。
伊瀬が帽男に辛辣なセリフをぶつけた。
「なんかルエラにゲームの勝ちセリフ言ってたらしいね。いい歳して普通にキモいと思うけど」
「む。何もキモいことなどない! 生意気なやつだ。さっきの奴は後でリベンジするとしてまずはお前を倒す!」
ムキになる帽男を尻目に、伊瀬はこのゲームの中でも性能が弱いとされているキャラを選ぶ。
どうやら、このゲームのことを詳しくないようだなと、帽男はそのキャラを選んだ伊瀬ににやりと笑みを浮かべる。
そしてスタートした1セット目。
特になにもないまま帽男が勝利。
「大きい口を叩いておいて、その程度か? ん〜?」
調子に乗る帽男だったが、そこからは何故か攻撃が当たらない。
「くそっ……! なんでだ!」
焦る帽男に伊瀬は言った。
「もうあんたの動き見切ったし」
そして苦もなく帽男から2セット目で勝利。
「抜かせ! 格ゲーは『3セット目、微ライフから』だ!」
そして、帽男のコンボで伊瀬のキャラの体力が半分以上持っていかれる。
「どうだ!」
「まだ半分減っただけだし。死な安」
この『死な安』とは『死ななきゃ安い』を意味する言葉であり、『負けてさえいなければどんな攻撃を喰らっていようが大丈夫』ということを意味する。
そして、あと一撃でも攻撃を喰らえば伊瀬のキャラが負けるという状況でも伊瀬は指先だけでクレバーに操作をする。
そこからは圧巻のリードを見せた。
ただの一撃も喰らわず伊瀬は3セット目をモノにしたのだ。
「あんたの言う通りだったな」
「な、納得いかねぇ! もう一度だ!」
もう一戦、伊瀬とやり合う帽男だったが、またも違う弱キャラを使う伊瀬に手も足も出ず敗北。
「お前……『隠しキャラ』か……」
格ゲーにおいて弱キャラで強キャラを倒すことのできるプレイヤーをスラングで『隠しキャラ』と呼ぶ。これは帽男が伊瀬の強さを認め、負けを認めた証でもあった。
それからもゲームセンターは賑わいを見せた。
鈴代がガチャチョコの数で勝負を挑んだり、メンナクがアブノーマル度チェック対決をしたり、市川が太鼓のゲームをしていてもやっぱりダンスになってしまって観客を沸かせたりとやりたい放題だった。
……だが、実はまだ真打が撃退士たちには残っていた。
「どんな挑戦でも受けるそうであるな。では、向こうのアミューズメント施設に行くのである。あそこにあるバッティングセンターで勝負である!」
何故か上半身裸のモヒカンマッチョ、マクセル・オールウェル(
jb2672)、その人である。
半ば強引に(というか引っ張られる帽男は完全に浮いてた)マクセルは帽男を少し離れた大規模なアミューズメント施設に連れて行き、バッティング対決へとなだれ込んだ。
「さあ、(自称)天界野球リーガーの実力、見るが良いのである!」
ピッチングマシーンから放られる速球をことごとくホームランにするマクセル。
一応帽男もやってみたが、マクセルのような打球には至らない。
「我輩の勝利であるな! はっはっはぁっ!」
それからもマクセルは天界にいた頃のライバルに思いを馳せ、物思いにふけつつも、更なる剛速球設定でバットを振り続けたのであった。
●終幕
「なぁ、ルエラ」
神凪がわいわいと楽しむ皆を見ながらルエラに話し掛ける。
「皆のあの笑顔を見てみろよ。勝負っていうのもあるけど、勝ち負けには拘らず楽しんだ者が勝ちだと思わないか?」
皆はジュースを片手に笑顔を振り撒く。そんな皆にふわふわとした気持ちがルエラの中には生まれていた。
「うん。そうだね。やっぱり楽しいのが一番だよね!」
静かに微笑みジュースに口をつける神凪。
そこへ帽男がぜーぜーと言いながら帰ってきた。
どうやら連れ去られたバッティングセンターから走って帰ってきたらしい。
「あー、帽男! あんた、負けたよね? 負けたでしょ? 負け確定! ざまーみろ、へっへーん」
むせる神凪。
恨みはらさでおくべきか。
神凪の良い話もどこ吹く風とルエラは帽男を責めた。
「なんだよ帽男って……」
今更ながら帽男と呼ばれているのを本人は知らなかった。
「悔しいけど、俺の負けだよ。ちくしょー」
「そう言えばあんた、勝ったら『いい物』くれるって言ってたよね? 早くよこしなさいよ」
「し、仕方ねーな……いいか? いくぞ?」
「いいから早く」
「き、君のことが好きでした! 付き合ってください!」
「ごめんなさい」
ジュースを吹き出す神凪。
どうやら帽男の言う『いい物』とは彼の恋心のことだったらしい。
「ちっくしょおおお!」
でも、躊躇いないルエラの返事に、帽男は一人で対戦しまくったためとても軽くなった財布片手に涙をちょちょぎらせて去っていった。
その後の彼の行方は誰も知らない。
教訓『ゲームは皆で楽しく。告白は慎重に』