●眠り姫
ある日、不思議な依頼が斡旋所へと届く。
『眠り姫を救うために記された場所で冒険に出るべし。報酬は結果如何』
恐れを知らぬ撃退士たちは依頼で提示された場所へ赴き、ポッドの中で深い眠りについているルエラを発見するに至った。
「お〜、胡散臭いので本当か嘘か半信半疑でしたが! これは本格的ですね〜」
カーディス=キャットフィールド(
ja7927)は猫の着ぐるみを纏ったまま、肉球でぷにぷにとポッドを触りつつ感嘆の声を上げた。
説明書を目に通し、皆は顔を見合わせる。
大きく反応したのは、犬乃 さんぽ(
ja1272)だ。
「うわー、ボク日本のRPG大好きなんだ! 勇者トロとか、これって胸キュン? なんだよね。あ、職業に公務員がある! ボク知ってるよ。日本の公務員はみんな、ニンジャかサムライなんだよね!」
そう言って犬乃は躊躇いもなくポッドへと入った。
「RPGに関係ない職業が多い気がするのですが?」
犬乃の言葉を訝しみ、説明書を見た雫(
ja1894)もそう呟きながらも続いてポッドへと入る。
「職業にザコキャラがない……だと……!?」
敵キャラになる気満々のUnknown(
jb7615)は愕然としていたが、諦めたのかその大きな体を丸めて仕方なくポッドに身を収めた。
それぞれが思い思いにヴァーチャル世界へと旅立つため、その入口へと手を掛ける。そして最後のポッドが閉まった。
理不尽で不条理で、でも儚げで少し感動的かも知れない、そんな冒険の旅が今、始まる。
●旅立ち
「その宝箱を開けるがよい!」
王様である。
偉そうである。
だって、おうさまだもの ゆうき
体育座りで王様の長い話を聞き終えた撃退士たちは盗賊の如く宝箱に群がった。中身は50Gと銅の剣一本である。もうね、剣の奪い合いである。ちなみに50Gは現実の相場で2万久遠くらいである。世界を救う勇者たちに授ける金額ではないと思う。
銅の剣を手にできた青年がそれを掲げた。
「俺……このゲームの中で強く生きていくよ……」
いきなりポジティブなのかネガティブなのかよく解らない言葉を発した彼は佐倉 火冬(
jb1346)。
彼は先の進級テストの結果が思わしくなかったらしく、真顔でそんなことを言っている。職業に勇者を選んだのもその心理からきているのかも知れない。
その時、同じく勇者を選択した黒沢 古道(
jb7821)は「最初からレベル99なんてぬるゲーだぜ! はっはっは!」と高笑いしつつも鎧の胸が余っていることに若干虚しさを感じているのであった。
ちなみにこのゲーム、最初から皆固定装備を付けているので特に銅の剣とかいらない
あとカンストレベルは9999レベルと言うことはまだ秘密である。
城を出て、辿り着いた村。
『武器や防具は装備しないと意味がないよ』
などと連呼し、同じところを徘徊し続ける恐ろしい村人たちを掻い潜り、無事撃退士たちは村の外へと脱出することに成功する。最早、バイオハザードである。まだ旅は始まったばかりだとういのに皆の顔に不安の色が浮かんだ。
「ふっ……人とは斯くも徒爾たるものなのだな」
ちょっと難しい言葉で悦に入っているのは礼野 智美(
ja3600)。
ちなみに彼女の職業は厨二双剣使いである。元の性格がどうであれ設定には逆らえない、そんな無慈悲な世界です。
その言葉に十字の印が刻まれた鎧を身に付けし少女、狩霧 遥(
jb6848)が相槌を打つ。
「早くこの世界を救わなくては……私の右目が疼くのですぅ〜」
彼女、現実世界では隠そうとしているが実は隠れ厨二病患者である。ヴァーチャル世界で箍が外れ、隠すことなく礼野の言葉に便乗する。
ちゃんと元の性格も出てしまう、ここはそんな無慈悲な世界です。
道行く撃退士たちの前に木々生い茂る林道が広がった。
「……ん、あんなところに。りんごが。生ってる。りんごとはちみつ。つまり。カレー」
食べ物のことならお任せあれ、現実だろうがヴァーチャルだろうがお構いなしのカレー少女、最上 憐(
jb1522)が目敏く食べ物の気配を嗅ぎ取った。
「わぁ、とっても美味しそうだね。あれでクレープ作りたいな」
可憐な声が響いた。
スラっとした体躯。誰もが目を奪われる胸元の開いたフリフリな衣装にふくよかなきょぬー。
柘榴 今日(
jb6210)。元(現実)イケメンの歴とした男性である。でも今は女性である。
もうなんでこうなっちゃったかは彼……いや、彼女のプロフィール参照である。
精神の反映が強いこの世界ではこんなことも起こり得るのである。異論は認めない。
皆がりんごを手にしようとするのを見て雫が冷静に言った。
「誰に所有権があるか分からない物に手を出す訳にはいかないのでは? 場合によっては窃盗罪ですよ」
雫と狩霧が止めるも皆やりたい放題にりんごを狩っていく。
「にゃ〜ん」
木を上り空を舞う猫。そう、カーディスである。ゲーム内でも猫である。でも猫の着ぐるみのままサイズそのままである。でかい。
彼の爪がりんごを捉える! 登攀スキルを持つ彼にはこれくらい朝飯前なのだ。
ちなみに次の木で枝が折れて落下。カーディスに6のダメージ。
「大いなる実りに感謝を! 精霊の恵みに感謝を……」
そう言いながら落ちたりんごを収穫する礼野。
「思ったより、高っ!」
ぴょんぴょん跳ねる火冬。
「これをここに詰めて……」
胸にりんごを仕込みバストアップする古道。
「食べ物は粗末にしちゃいけないです〜。根こそぎ持っていきましょう♪」
腹黒い柘榴。
「……ん。結構。それなりに。意外と。うまし」
「これが悪魔の好物と言われるりんごか……」
早くもりんごを食べ尽くそうとする憐とUnknown。
やりたい放題である。
果たして撃退士一行はこんな統率のなさで悪の軍勢に対抗できるのか。
冒険はまだ、続く……
●狩人
王様からは端金しか貰えなかったのに何故か大型のクレープワゴンを所持している柘榴は、収穫したりんごをそれに納め軽快に運転していく。日光が嫌いな彼女にとってもワゴンの中はベストプレイスである。
「Ring Ring りんごのクレープだ〜♪」
口ずさんだ歌も絶好調なのであった。
そんな撃退士たちの前に現れる怪しい影。
モンスターが現れた!
自分に任せろと言わんばかりに勇者の火冬と古道が前に出る!
……が、Unknownがすかさずモンスターに駆け寄ると、
「やめて! ザコキャラから経験値を奪わないで!」
と、ぐいぐいとザコキャラたちを木の洞へと押し込み隠すのであった。
「まぁ、もう99レベルだからいいけど……」
古道はそう呟く。しつこいようですがこのゲームの最高レベルは9(以下略
「ふぅ、我輩のお陰で命拾いしたようだな。皆に伝えておくがいい。我々の前には現れるなと……」
魔王のような風体をしているUnknownだが、防御力の低さから自らのことをザコキャラと称している。そんなこともあり親近感が沸くのかザコキャラにはとっても優しいのであった。
だが、この行為がよりこの冒険を困難なものにしていることに本人は気が付いていないのだった。
「あ、森の中に家が見えてきたよ。あそこで休ませてもらおうよ」
犬乃がサムライと思って選んだ公務員職はあくまで普通の銀行員。このゲームの中では体力はそれほどないのだ。
得意のヨーヨーでウォーク・ザ・ドッグをかましつつ犬乃はその家へと駆け寄る。
「ごめんくださ〜い。あと実印くださ〜い」
ちょっと爛漫なところが出てしまった犬乃であった。
「ここはもしや……」
雫はアタッシュケースからフォルダを取り出しぱらぱらと捲る。
「やはりそうですか」
何かを納得したように頷いたところでその家の扉が開いた。
「おやおや、こんな辺鄙なところまでよくぞいらっしゃった。ささ、中へ入りなさい」
出てきたのはあの恐ろしかった村人たちとは違い、まともなご老体。
中で真っ先に茶をご馳走になっているのは火冬と憐である。
「あ、なんかすいません。頂きますー」
世間話を始める火冬。
「……ん。お茶よりも。カレーと。あとお菓子を。所望。」
憐に至ってはマイペースを維持。
「……ん。カレーは。飲み物。飲む物。飲料」
出されたカレーをごくごくと飲み込んでいく。流石カレーは(口の中で)混ぜる派のウィザードである。
しかし、このままでは老人の機嫌を損ねてしまう。
「にゃ〜ん(このような森の中に住んでいるご老体……樵夫か狩人さんでしょうか?)」
文字通り猫なで声で冒険のヒントを聞き出そうとするカーディス。助け舟とばかりにりんごのクレープをつくる柘榴。
だが、ここで真価を発揮したのは犬乃であった。
彼はしゃりしゃりとりんごの皮をウサギさんの形に切って老人に差し出す。
「そのままだと食べにくいって思ったから……」
男性にしておくにはもったいなどの可愛らしい笑顔。
「……そうだ、積み立てたGでこんな資金運用プランとかあるんだけど、ど、どうかなぁ」
上目遣いで資金繰りの契約をさせようとする犬乃。あ、だめだ、真価発揮してなかった。
実は真価を発揮したのは雫であった。
「犬乃さん、その必要はございません。どうやらこちらの土地の所有権は当銀行にあるようです。このご老人にはここを退去していただく必要があるようです」
「あうあうあー……」
じいさん、涙目である。
駄目だった。雫も駄目な方の真価を発揮だった。
流石に可哀想に思った、狩霧と礼野とUnknownは薪割りとか色々なお手伝いを始める。
狩霧→「心配なさらないでください。この十字に誓って退去などさせないのですぅ」
礼野→「歳を経た方を助けるのは勇者の努め、ひいてはその道連れたる我らの努め」
火冬・古道→「ひゃっはー! タンスから薬草ゲットだぜー!」
Unknown→「他人の家を勝手に漁るとは……汚いな、さすが勇者きたない」
火冬・古道は勇者らしく飲み終えたカップを片付けたり、家のお手伝いもやっていたが勇者の血には逆らえずタンスを漁った。勇者の血こわい。
老人が次の街の場所を教えるから勘弁してくれと頼むので、撃退士一行は次の街へと旅立つのであった。
まさかこの世界の悪はこの旅人たちなのかも知れない。
ちなみにタイトルの『狩人』は老人のことではなく老人を狙う撃退士たちのことである。
冒険はまだ、続く……
●城へ
老人に教えてもらった道を進み港街へとやってきた撃退士たち。
どうやらここから見える島に魔王城があるらしいとの噂を聞きつける。
「もう今日は遅いですぅ。一度宿を取りましょう。闇の中では右目の暴走を制御し続けられる保証はありません」
口元にクレープの生クリームをたっぷりつけたまま狩霧が言った。
「しかし、今の路銀ではこの人数が泊まるだけの分ないのでは……」
「こういうのはどうかなぁ〜」
お金に強い雫と犬乃は宿の代金と、街の物価を調べ、必要なだけの資金をクレープ販売で稼ぐことを提案。
「にゃ〜ん(寄ってらっしゃい見てらっしゃい)」
カーディスが可愛さをアピールして集客。着ぐるみ分を合わせると体長2mを超えるカーディスの存在感は抜群である。でかい。子供たちにも大人気。
「嗚呼、我が身明日は人の目背けし世界との邂逅か!」
礼野も樽の上に乗り、大きなジェスチャーと共に詩を述べ集客。
「よっし、俺が美味いクレープつくってやるッスよ!」
クレープワゴンの中では柘榴今日、よもやの男性人格覚醒である。街行くお姉さんたちもクレープを作る柘榴に群がる。
「はい、どうぞー♪」
今日→柘榴未來、女性人格を発動し、売り子としてお兄さんにもクレープを売りまくる。
「カレークレープ生地抜きッスよー」
憐がクレープ(カレー)に食いついた。
「甘味クレープ砂糖ましましッスよー」
甘党の狩霧が甘味クレープに食いついた。
はい。二人共、犬乃と雫に首根っこ掴まれて連行されました。
十分に資金が出来たところで皆は宿へ向かう。
しかしUnknownの様子がなにかおかしい。どうやら、お姉さんに声を掛けられ『ぱふぱふ』なるものを注文させられたらしい。
Unknown曰く、
「未成年たちは駄目だ。このパーティでは我輩だけの特権なのだ。皆、明日に向けて深く眠るがいい」
とのこと。
皆が個室で深く眠る頃……Unknownの部屋のドアが静かに開かれた。
「お疲れのようですね。ぱふぱふ……致しますね」
筋肉ムキムキのナイスミドルはUnknownの隣に座るとその厚い胸板で悪魔であるUnknownの尻尾を挟みマッサージを始める。
「尻尾は……尻尾はらめぇ!」
Unknownの甘い声が部屋に響いた。
あれ? 誰得の展開ですかね、これ。
しかし、隣の部屋では古道がダンディマッチョの気配を察知し興奮していることは誰も知らないのであった。
翌日。
宿の店主がUnknownに向かって、
「ゆうべはお楽しみでしたね」
と言ったのはお約束である。
日が昇る。
お天道様が高々と頭上にその姿を現したとき、もうそこには宿屋はなかった。
夢幻であったわけではない。
魔王軍の……モンスターの襲来により街が壊滅の危機に陥ってしまったからである。
散り散りになった撃退士たち。
しかし、彼らは動じない。なぜなら、この街で魔王の島の噂を聞いた時から例え離れ離れになっても魔王城で会おうと堅い約束を交わしていたからである。
なにそれ、少年漫画みたい。かっこいい。
「くそ、勇者の俺がついていながら情けねぇ! ここは皆を信じて魔王城へ向かおう」
火冬は己の無力さを恨み、天を仰いだ。
「……そうか、俺は勇者だ。瞬間移動の魔法が使えてもおかしくない。うおー! ワープ!」
\(`・ω・´)/☆彡
無理でした。
火冬は己の無力さを恨み、天を仰いだ。
仕方なく港を目指し歩く。
すると、向かいからやってくる憐と鉢合わせた。
「……ん。仲間がいた。やっぱり。魚介類狙い? 食べ放題。海は。天国だね」
憐は漁師の船で魔王城へ行くことを選択。狙いは海の幸らしい。
「やはり港に皆さん集まりましたか」
「我らの十字を見ればきっと漁師さんたちも手伝ってくれるに違いないのですぅ」
雫がくいと知的な眼鏡を押上げ、狩霧が十字の印が刻まれている鎧を誇らしく朝日に照らし合流。
「壊滅状態のこの街を復興させるためにも漁業の拡大は必須。融資を持ち掛けるチャンスですね」
「そんなことより生クリームたっぷりのクレープ食べたいです……」
なかなかに思考にばらつきのあるチームが港へと集合。まだ活動の火を灯している漁師を見つけ、いざ海へ。
少し遅れて礼野が港へやってきた。しかし、少し悩んでいる様子がある。
「漁師等無辜の民を護るのが我らの努め! 襲撃を受け、この窮した街並みの中、生活の糧たる船を出させる訳には……」
そこに現れたのは犬乃だ。
「あ、礼野ちゃん。良かった、一人は心細かったんだよね……。いや、ボクはサムライだからへっちゃらだったけどね!」
「犬乃さんか。我らを乗せて走る船が何処かに有る筈、行こう、どこまでも飛ぶ翼を探しに!」
「それだけどいい物件があるんだ。一緒に行こうよ」
そして二人は街外れへと向かうのであった。
「にゃ〜ん(漁師さん、漁師さん。魔王城はどちらでしょうか? 魔物とか出るでしょうか? あと魚を少々いただけませんか?)」
皆がいた波止場とはまた違う船着場でカーディスは情報を収集。
「お、猫か……ほれ、魚でも食いな。こんな時だ、助け合わねぇとな。ここから南に見える一番大きな島にいる魔王の手下たちの襲撃さえなければ、な……。今は襲撃が終わったばかりで城の周りも手薄な筈。俺に力さえあれば……」
「にゃーん!(説明乙!)」
そして、カーディスは秘技水上猫走りを駆使して海を走る! これぞ、よんだぶるでー水陸両用猫の極み。
港街の青い海を走る猫……なんてファンタジー。
途中力尽き、猫泳ぎにシフトするも濡れた着ぐるみが重くて沈んだ。なんてペーソス。
「にゃん!(今こそ本気を出す時!)」
ばっしゃばっしゃ……
必死にカーディスは水を切る。
「うお〜!」
ばっしゃばっしゃ!
更にカーディスの横をバタフライで泳いでいるのはUnknownである。
ちなみに島まで10キロメートルくらいあるので二人共頑張ってください。
「もう……大砲でいいかな……」
どおぉぉぉぉぉぉん!!
勇者・現る!!
なかなか移動手段が見つからない古道は移動に大砲を選択。
出オチ感パないす!! さすが勇者っす!!
色モノたちが移動する中、漁師の船では。
「ふふふ……私のドラゴンが空を護り、船旅の安全は万全ですぅ。ゆけゆけ、ドラゴン! 皆の願いを乗せて進むのですぅ」
ドラゴンクルセイダーの本領を発揮した狩霧が胸を張っていた。
ドラゴンの体長は15mを誇り、獰猛な爪、何者をも噛み千切る牙、圧倒的な火力のファイアブレス、強固な鱗の鎧などなど、伝説のドラゴンに相応しい能力を所持していた。
襲い来る魚介類を薙ぎ倒す火冬、ひたすら魚介類を貪る憐、算盤をぱちぱち弾き漁師と算段を進める雫。
皆の動きがぴたりと止まった。
(最初からあれに皆で乗ればよかったんじゃね?)
だけど誰もそれを声には出さないのであった。
一方、街外れの犬乃と礼野。
「人の目に触れぬところにこそ活路は有る……か」
「あのね、ここに住んでいる発明家のシシドじいさんはボクの銀行に借金があるんだよ。その形に飛行船を差し押さえたんだ。赤札がついてるけど気にしないで、後で水晶の戦士に売り払うから」
憐れ、犬乃に飛行船を巻き上げられたシシドじいさん。セリフすらありません。
飛行船が魔王城を目指す。
その頃、柘榴は……
スイッチぽち。うぃーーーーん。しゅごぉぉぉー。
「こいつ……飛べるぞ……!」
何故かクレープワゴンで宙を舞っていたのだった。
各自、皆との約束を信じ、いざ魔王城へ。
冒険はまだ、続く……
●魔王城へ侵入せよ
「ごふぅッ……!」
いきなり吐血しながら魔王城のある島へ不時着したのは古道である。
「さすがは魔王のいる島……やってくれるぜ……」
魔王はなんもしてないし、完全に自爆だったけどそんなことをのたまう古道。
ごぅんごぅんごぅん。
しゅごおぉぉぉー。
次に到着したのが飛行船でやってきた犬乃と礼野、飛行クレープワゴンでやってきた柘榴の三人。
早速、犬乃と柘榴は入り口にいる厳ついモンスターへとすたすたと近寄っていく。
「む、なんだ貴様たちは。俺を魔王城の番人チュウボ・スーと知っての……」
「魔王様への郵便で〜す! ……ああ、ごめんなさい、いくら四天王さんでも中ボスさんでも、これは本人に直接サインを貰えないと渡せませんので……」
「こちらはクレープのデリバリーでーす。魔王様から注文をいただき、お支払いも済んでおりますー」
「む、そうか、入れ」
ちょろい! 中ボスちょろい!
ガチャンと扉が閉まってから、古道と礼野は堂々と中ボスに宣戦布告。
「お前も大砲で飛ばしてやろうか!」
「英雄たる行動をしてこそ道は切り開かれるもの也!」
わーわー! ←凄まじい戦いが展開中
そこへ残りのメンバーが終結した。
火冬は配達員の服装に着替えており、先に侵入した者たちとネタが被ってしまったことに気が付いていない。ちょっと不幸体質なのだろうか。そういえば彼は動物好きなのになぜか動物からは好かれないらしい。かわいそう。
雫は裁判所から発行された差し押さえ状を持参。魔王も借金があるようだ。この世界、銀行員万能説浮上。
Unknownも郵便のネタに走ろうとしたが被りが多かったことを知り、仕方なく魔王城の装飾をムシャコラと食べ始めた。実は今までの旅でもそうだったが、彼は無機物だろうがなんだろうがとにかく興味本位で口にする習性があるのだった。
カーディス
1.中ボスを倒して鍵奪取
→2.扉をぶち破る
3.郵便で〜す
ピッ。
果たして猫に出来るのか!? 首を傾げるカーディス。
「にゃーん!(とにかくやってみるのです!)」
ぐっと足に力を入れるカーディス。そして魔王城の扉に向かって……!
がりがりがりがりがりがり。
「にゃーん!(開けてよー開けてよー)」
ぎぃ……ばたん。
カーディス。無事魔王城突入成功。
わーわー! ←古道と礼野、文字にも書けないような凄惨な戦いを続行中
「……ん。食べ物への。道を遮る物は。容赦。しない」
「ゆけ! ドラゴン! 扉を溶かし尽くすのですぅ!」
憐の食べ物への執念が巻き起こす炎の魔法。
狩霧のドラゴンが吐き出したファイアブレス。
二つの炎が渦を巻き、魔王城の扉を蒸発させた。
「……ん。魔王の。部屋。きっと。隠し。扉とか。あって。食べ物とか。隠してそう」
憐は食べ物の匂いを嗅ぎ分けすたこらと中へ。
こうして撃退士たちは魔王城への侵入を果たすのだった。
わーわー! あひん!(中ボスの悲鳴)
激しい戦いに勝利した古道と礼野は鍵を手に入れるも、誰もいないことに気付き、複雑な表情を浮かべながら魔王城へ侵入するのだった。
撃退士たち、ついに魔王との対峙へ……
冒険はまだ、続く……
●対決、魔王
「ふふふ……来たか……」
魔王城最上階に大きな影。
そのシルエットはワイングラスに入ったグレープジュース100%をくるくると回しては口をつけ少しずつ飲んでいく。
「待っているぞ……勇者どもよ……」
そう言ってその影は闇の中に姿を消した。
最上階への道を数々のモンスターが遮る。
それらに苦戦しながらも撃退士たちは先を急いだ。
皆の力が一つになり困難を打ち破っていく!
先頭に立ち、皆を鼓舞する古道。
魔王の首を狙うため駆けるUnknown。
両の手に携えた聖剣アブディエル、魔剣ダインスレイフで敵を切り裂く礼野。
ドラゴンスレイヤーとして名高い剣、アスカロンを掲げる狩霧。
殿につき、敵の追撃を阻む火冬。
傷付いた仲間たちに体力回復用クレープを振る舞う柘榴。
書類を整理する犬乃。
戦闘で差し押さえる物件が壊れないよう気を配る雫。
逃げ回るカーディス。
食料貯蔵庫へ突進したまま帰ってこない憐。
あ、全然一つになってなかったわ。
皆の力はばらばらでありつつも困難を打ち破っていく!(言い直し)
そして遂に皆の前に魔王が立ちはだかった。
「ご苦労だったな……諸君。私がこの世界の魔王! ルエラ=エンフィールドである! 囚われたお姫様かとでも思ったか! あ、それでもいいんだけど」
なんと魔王はポッド使用の第一人者、ルエラであった。
皆は武器を構えルエラに狙いをつける。
そこで飛び出したのは犬乃だった。犬乃は魔王に背を向け撃退士たちと向かい合う。
「みんなゴメン、不良債権を回収するまでは、魔王を倒されちゃ困るんだ」
万能銀行員まさかの裏切りである。
「そうですよ、魔王さん、いい加減に出すもの出してもらえまんかね? 借りた物は返す、私みたいな子供でも分かることですよ?」
普段冷静な雫がなかなかに腹の据わった文句を出した。
「むむむ……勇者どもよ、どうだ? 私の配下になれば世界の半分をやるぞ?」
「わーい、じゃあ、ここにサインと印鑑を……よし、債権回収完了。みんな、後は好きにしていいから」(にこっ)
すぐにまた撃退士側へつく犬乃。それはとても眩しい笑顔であったという。
「いや、しかしそれでは……だが、魔王と手を組み、人々を新たなるステージに導くことも又勇者の務めなのかも知れないな……」
礼野の心は少し揺れている。
「え? 我輩、世界をはんぶんことかより早く帰って寝たいのだ……」
ちょっと飽きてきたUnknownからここでまさかのマジレス。
「うーん、魔王が女の子だったとはなぁ。戦いにくいなぁ……でも世界に魔王として召喚されてしまった少女を守り、世界にも平和をもたらすとかできたら……俺カッコイイになるんじゃね……?」
火冬もあれこれと妄想を展開。この世界で強く生きていくことを考えていたせいか結構この世界を楽しんでいたらしい。
「そんなこと知ったことかー! ここまで来たのも全ては貴様を倒すため! 特に恨みもないが私のスコアと化すがいいぜ!」
古道がルエラに斬りかかった。
「なんの!」
ルエラは4mあろうかというマントを翻し古道を包み、圧縮された魔法で彼女を撃ち抜いた。
地に伏せる古道。
ちなみに章冒頭で大きな影と書いていたのはこのマントのことである。小柄なルエラが自らをビッグに見せるための演出であった。
「さぁ、次は誰だ!」
「にゃーん!(猫に魔王と戦えと申すか!? だが断る!)」
そう言ってカーディスはそこら中を走り回る。
「にゃー!(\きゃー☆(≧∇≦*)こわいにゃーー☆/)」
意外と楽しそうだったりする。
「ならば、次は私が相手をしますぅ!」
狩霧が前に出る。
アスカロンの光沢が薄暗い部屋を照らす。
「ドラグナーバースト!」
一閃した剣から発生したエネルギーは城の城壁を吹き飛ばすほどの破壊力を秘めていた。
しかし、ルエラはそれを片手で跳ね上げる。
エネルギーはカーディスを捉え、彼の大きな身体が瓦礫に叩きつけられた。
「私のレベルは5300だ! ひれ伏すがいい!」
「くぅっ!」
ルエラの放った衝撃波に狩霧は膝を着く。
「ちょっと、止めて下さい! これ以上この城を破壊しては売却できません。あ、壺が! 骨董品が割れたりしたらどうするんですか」
雫がぐらぐらと揺れる壺を押さえ、ルエラと対峙する。
「収まらないというなら、実力行使あるのみ。『乱れ雪月花』!」
雫がアウルを込め一撃を放つ。花を舞い散らせるが如く相手を切り刻むこの技も、受け止めたルエラの周りをアウルの残滓が舞い散るのみに留まる。
「そんな……」
しかし所詮は銀行員。雫もルエラの攻撃で地に沈む。
「どうした? 勇者たちの力はこんなものか?」
「こんなもんがあったのだが……」
Unknownが一振りの剣を見つけてきた。
「そ、それは聖剣エクスカリバー。それがあればきっと勝てるよ。売れば物凄い価値になるはず……え?」
「イ タ ダ キ マ ス ゥ」
犬乃が答えた時にはUnknownはそれを食していた。バリムシャア……!
こんな時にまさかの破壊王の力解放である。
「もごもご。まぁ、魔王の首は吾輩がもらうぞ。貴様の冒険の書は此処で終いだ。最後にお気の毒そうな顔で見送ってやろう」
Unknownの巨体が宙を舞う。彼の渾身の一撃がルエラを捉えたかに見えたがその姿は影のように消える。
「残像だ」
ルエラの容赦ない攻撃はUnknownの心臓を貫通。彼もまたこの場に倒れた。
「それ以上は許さないんだからね!」
柘榴は担いだ斧に毒入りクレープ、通称毒レープをセットしルエラに挑む。だが、クレープ屋さんの力で魔王の力に敵う筈もなく反撃が飛んでくる。
響く鈍い音。
ゆっくりと目を開けた柘榴の前にいたのは火冬だ。
ルエラの攻撃から仲間を守ったのは火冬が持つ胴の剣。
「女の子とは戦いたくねーけど、せめて仲間を守る盾となろう! これが俺の戦いだ!」
「くっ……」
何故かルエラの顔が歪んだ。
「う、うるさーい!!」
ルエラがエネルギーを放つ。それは全てを薙ぎ払い火冬、柘榴、犬乃を吹き飛ばした。
「……ん。食べ物。たっぷり。食い尽くす」
魔王の部屋の脇、隠し部屋でひたすら食に走っていた憐もエネルギーの余波で壁に叩きつけられ崩れ落ちる。
「はぁはぁ……」
ルエラの呼吸が乱れる。
「真に強き者というのがどういうものか。教えてやろう」
最後に立っていたのは礼野だった。
彼女は呼吸の乱れたルエラに目にも止まらぬ斬撃を放つ。
「ぐぅ……!」
苦しむルエラの前には倒れていた古道。
「……うん、……こ、これはりんご……?」
胸に入れていたりんごのお陰で僅かに攻撃が逸れ、古道は無事だったのだ。
見やると傷付き倒れていた撃退士たちもか細い息を立てながらも次々起き上がる。
「諦めない限り負けじゃない。これが勇者だ!」
「ヤメロォォォーーー!!」
ルエラの絶叫が城に木霊した。
ルエラは倒れ、そして世界に光が降り注いだ……
撃退士たちの傷は癒え、破壊された街が、緑が、空が色付き息をする。
心臓を貫かれたUnknownは最初の城下町の教会で目覚めた。
神父→「おお、勇者様が目を覚ましたぞ」
Unknown→「棺の中からオハヨウゴザイマス! ここは……教会!!」
棺を閉め直すUnknown。
その周りを囲む笑顔の撃退士一同。
そして、明るさを取り戻した空にはエンディングテロップが流れるのだった。
●そして現実へ
目覚めた撃退士たちはルエラのポッドを覗き込む。
少し苦しそうに瞳に涙を浮かべ、「やめてやめて……」と呟いている。
どうやらあのゲームの世界には、彼女の過去の記憶が影響を及ぼしていたようだ。一体どんな過去かは誰にもわからないが、美しい記憶ではないことだけは確かだろう。
はっ、と彼女は目を覚ましポッドから身体を起こした。
「あれ……ここは……?」
撃退士たちはルエラに事の顛末を説明。
第六撃退科学研究所からの依頼があったこと。
ルエラがその世界で魔王だったこと。
うなされていたが今目覚めたこと。
「そっか……なんか長い夢を見ていたみたい」
皆は、
「まぁ、たまにはこういうのも悪くない」
そんなことを口々に言いながら部屋を出た。
最後に夕日を背にしてルエラが皆に言った。
「なんか、ありがとう! 生物は……死んでしまうと情けないのかな。でも……心が死ななければ情けなくなんてないんだよね!」
撃退士たちは皆その言葉に顔を見合わせ、
肯定の声を揃えた。
次の日、誰かが同じ部屋に向かっても、もうあの機械はなかったという。
秋暮れる僅かな時間の祭りの跡。