●第一話『犯人』
「謎はすべて解けた。『中華人民共和国で暮らすジャイアントパンダが海を泳いでやってきた』のだ。様々な観点から見てこれで間違いないだろう」
そう落ち着いた声で言うのは両手足を縄で縛られ、『私は久遠ヶ原出身のいいパンダです』『洗練されたアーバンな魅力』などと書かれた紐で括ったダンボール看板を付けられている下妻笹緒(
ja0544)だった。
今日も今日とてパンダの着ぐるみを手放さない彼の、パンダへの愛情は本物だった。
数刻前、
「犯人はこの中にいるわ!」
と、集まった早々、雀原 麦子(
ja1553)に下妻は確保されていた。既に麦酒片手でいい感じにできあがっていた。
少々遅れて、
「犯人はこの中にいる!」
と、叫ぶ咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)だったが、イニシアチブを奪われマイページを確認したところ、自らのINI2という値にorz←こうなっていた。
そして他の依頼参加者からも疑いの眼差しを向けられてしまった下妻は為す術もなく勾留されてしまったのであった。
疑われる下妻を不憫に思い、悪いパンダではないことを主張したダンボール看板を付けてあげたのはラグナ・グラウシード(
ja3538)。
まぁ、そんな彼も依頼を受けた時には、
「何だと!? 野生のパンダが民家に押し入り!? ……(参加者の一人をガン見)」
なんてことがあったのは今では良い思ひ出である。
そんな中、
「ふっふっふ……皆さん、お困りのようですね。迷探偵天羽参上! きっと犯人は他にいるはず……!」
空に負けず劣らず、パイプ片手にトレンチコートとハットという出で立ちで現れたのは天羽 伊都(
jb2199)だった。
後ろの方では「迷探偵の座は譲らない!」とか叫んでる空が家の奥さんに犯人は旦那の浮気相手ではないか? などと質問していた。迷探偵どころか、もはや何を調査したいのかもわからない。
それを横目に天羽は現場状況を洗い直し捜査に踏み込む。
「ぺろ……これは……小麦粉!!」
などとやりながら、何か証拠がないかと現場の冷蔵庫を漁りハムやらチーズやらを食していく。
「もぐもむ……こうやって、はぐもしゃ……犯人の模倣をすることで、ぼりぼり……犯人の気持ちになり特定するのです! ……ごくん。あ、勿論食べた分のお代は払います」
それを見ていた高橋 野々鳥(
jb5742)は、
「そ、そうだよね! 人違い……違った。パンダ違いだよね! ほら、そっくりさんは世の中三人いるっていうし! じゃあ手分けして捜索しよう!」
と、異様に張り切ると猛ダッシュ。
「あーパンダどこにいるんだろうなー? でも、俺には分かる!」
そして彼は迷うことなく海鮮丼屋の暖簾をくぐった。
彼の名誉のため、中から「うお! うめええ! 海鮮丼うめえええ!」という叫声が轟いた部分はカット致します。ご了承ください。
『……いやいや。犯人ではないだろ。…………。ないよな?』
下妻を見詰め、そう自問自答する月詠 神削(
ja5265)は頭を振り、心に誓う。
『――仲間は信じないと駄目だよな。よし、真犯人を見つけ出そう。じっちゃんの名に懸けて! うちの祖父さん、別に探偵とかじゃないけど!』
彼は独自の調査を進めるため、一人捜査を開始した。
見事なまでの連携で事件を明るみにしていくチーム撃退士。この物語は一体どんな結末を迎えるのか……! 次回『愛と欲望の果てに』。お楽しみに!
●第二話『責められ笹ちゃん』
※ここからはアドヴェンチャーゲームを想像してお楽しみください
下妻・雀原・咲サイド
縛られた下妻笹緒
「ふっ、北海道に野生のパンダ? 何を馬鹿なことを。現在ジャイアントパンダが生息するのは、中国の限られた地域のみ。そして、四足歩行の白黒の生物……つまり犯人はジャイアントパンダだ」
酔っている雀原
「白黒の生物……つまり笹ちゃんよね?」
落ち込んでいる咲
「つまり下妻笹緒、あなたですね?」(INI争い敗北)
白黒の下妻
「海をも渡る身体能力をもったパンダともなれば普通の人間の足では追いつくワケも無い」
ほんのり頬の赤い雀原
「普通じゃない人間の速度、つまり撃退士の笹ちゃんよね?」
更に落ち込んでいる咲
「撃退士なら当然のこと。四本足で歩くこともできるだろうし、つまり下妻笹緒、あなたですね?」(INI争い敗北)
撃退士の下妻
「遠泳によって空腹を感じ、食料を漁った……動機も納得のものだ」
次のビールを取り出す雀原
「犯人は現場に戻って来るっていうし、つまり戻ってきた笹ちゃんよね?」
諦めた咲
「お腹が空いてたのね。あたしもよくあるからわかる。つまり下妻笹緒、あなたですね?」(INI争い敗北)
戻ってきた(?)下妻
「敢えて玄関から入る行儀の良さもジャイアントパンダの知性の高さを示している」
おやつを用意する咲
「知的存在であること。つまりあなたね! 下妻笹緒!」(INI争いに奇跡的に勝利)
もうビールが空になる雀原
「玄関から入って行動する知性、つまり笹ちゃんよね?」
犯人の下妻
「おい、表示名。表示されてる名前がまずおかしい。私ではない。恐らくは観光目的。笹に飽きて鮭でも探しに来たのだろう。先入観に囚われて過ぎてはいけない。身勝手な妄想に振り回されてもいけない。不可能な、絶対にあり得ない要素を全て除去し、残ったものこそが真……」
ビールを空にした雀原
「問答無用★」
問答無用された下妻
「私にはアリバイが……」
目を輝かせた咲
「アリバイ? なにそれおいしいの? 証拠はこれからいくらでも出るはず……さぁ、逃亡阻止のためにこの爆弾首輪をつけてもらいましょうか。データを更新せずに24時間が経過するとドカンよ」
違う銘柄のビールを取り出す雀原
「決まったわね……学園始まって以来のスピード解決じゃないかしら♪」
こうして、パンダっぽいもの対策に用意された爆弾内蔵首輪を取り付けられてしまった下妻。そこにロープを通した雀原が下妻の監視役になり、それらを遠くからおやつを食べつつ見守る咲。
果たして、下妻は自分の潔白を証明することができるのか!? 雀原と咲の行動の結末は!? 次回『風が啼いている』。お楽しみに!
●第三話『なんか少年誌っぽい』
月詠・天羽サイド
パンダについて調査してきた天羽
「獅子は常に本気で挑むといったもので、今回も本気で行くよ! 僕が調べたところ、まずパンダの生態ですが他のクマ科と違い冬眠はしません。ということは、この時期に蓄えをするようなこともしないはず……」
隠れた迷推理を展開する月詠
「そもそもこの事件……何かが引っ掛かる。この事件の発端はなんだ……。どうして俺たちは北海道にいる……?」
更なる知識の天羽
「笹が主食のパンダですが、もともとパンダは肉食であったとされています。すぐに手に入る笹があるから狩りをする必要がないだけで……そこにもし、簡単に手に入る肉があるとしたら……」
迷推理絶好調の月詠
「俺たちが北海道に来た原因になった張本人であり、数々の怪しい行動……。的外れな推理や奇行をすることで俺たちの調査を引っ掻き回している。まるで、俺たちが真実に近づくのを恐れるように……」
決めにかかる天羽
「……最終的にはパンダの被り物などを用意すれば誰にでも行える犯行……つまり犯人は……(繁々と下妻を眺める)そういうことか……」
決めにかかる月詠
「或いは、北海道を満喫するために転移装置を稼動させる必要のあった人物……そう、つまり――月見里空! お前こそが真犯人だ!」
下妻・空
「「何を言っている」」
その後はもうぐだぐだだった。
ただでさえ、雀原と咲に散々犯人扱いされ首輪までつけられてしまった下妻に、天羽は最後の理論と前半の薀蓄がなんにも関係がないことを突っ込まれ、ぎらりと被り物の奥に潜む眼光に睨まれた。
『遺産相続のための殺人に使用されるかもしれないから注意が必要。バールのようなものは家にあるか?』などと婦人に聞いて回っていた空もすぐに反応した。
ここに月詠VS空の果てしないバトルが展開されたのである。
とにもかくにも、『もうこの人たち出てってくれないかしら……』と思う婦人であった。
次回『明けない夜はない』お楽しみに!
●第四話『美味しい世界』
ラグナ・野々鳥サイド
ジンギスカン屋inラグナ
「ホッカイドウ、か……やはり幾分涼しいのだな。あ、そこの肉焼けてますよ」
同上野々鳥
「あ、ありがとう。海鮮丼屋にはいなかったからねぇ。しかし、ここにもいないとなると……はふはふ」
肉を口にinのラグナ
「さすが本場のジンギスカン、美味しいですね。それではこれから私は近隣の園に問合せをした後、公園での釣り出しを決行しようと思います」
食べ終わった野々鳥
「俺もまだ怪しいと思っているところがあってね。それでは目標を見つけたらお互い連絡を取ろう」
そうして二人は別れた。ここまで見るとまともな作戦会議のようだが現実は甘くなかった。その後……
公園で焼きそばパンを仕掛け麻酔銃を構えるラグナ
「パンダは焼きそばパンを食べるのだろうか? あぁ、ここの公園の空は澄んでいるな。きっと夜空は綺麗に違いない」
公園の子供と親
「ねぇ、お母さんあの人地面に置いた焼きそばパンをテントから眺めて何やってるの?」
「しっ、見ちゃいけません!」
その頃の野々鳥は……
目標を探す野々鳥
「……ふぅ、あの店にもいなかったか、次はどこにしようかな……じゃなかったどこにいそうかな。あっ、あの『北海道牧場ロールケーキ』って店が怪しいぞ! ……その次はあの『ミルクソフトクリーム屋』か……まったく犯人パンダときたら怪しい店を点々として……」
少し楽しそうな二人であった。彼らがパンダを捕まえる時は来るのか!?
物語もいよいよ大詰め! 次回『奴隷の王と魔女の邂逅』。お楽しみに!
●第五話『テーブルからおはぎ的ななにか』
※ここからは通常の三人称視点をお楽しみください
「私を誰だと思っている! 泣く子も騙す美少女撃退士、月見里空と知っての狼藉かー!」
「くーちゃん! そこは『泣く子も黙る』だよ!」
空と月詠のバトルは長い間続いていた。八重もしっかりと突っ込みを入れている。
「まさか北海道に来るために自作自演で事件を起こしたのでは……!? 撃退士の風上にも置けない! 俺が下してやる!」
月詠が大きく空を吹き飛ばし、袋小路へと叩きつける。もうもうと煙が舞う中、とどめの一撃へと移行する。
「弐式《烈波・破軍》!」
衝撃と爆発。
静かになり勝利を確信した月詠だったが、次の瞬間爆砕地から空が飛び出した。
「恒久の氷結に震えよ! エ●ーナル●ォースブリ●ード! これを喰らった相手は死ぬ」
「殺しちゃだめー!」
勿論その技を喰らった月詠は死んでなどおらず、バトルはまだまだ続くのだった。
「あの人の相手も大変そうですね……」
下妻に怒られてしょんぼりな天羽は苦労してそうな八重へと声を掛けた。
「はい……。もう人智を超えているというかなんというか……」
「僕も最近は戦闘ばかりで疲れてしまいまして今回はちょっと息抜きに。あ、なんでパンダってあんな模様か知ってます?」
「知らないです」
「諸説ありましてですね。黒い部分で体温調節しているだとか、パンダ同士の認識を高めるためとか、人間に可愛がられるためなんて説まであるんですよ」
「なるほどぉ。パンダとくーちゃんは神秘ですね」
熱いバトルの傍ではこんなほっこりする一番面もあったりしましたとさ。
所が変わって飲食街。
首輪のリードを手にした雀原がビール片手に食い歩きツアーを決行していた。
「ママー。パンダさんがいるよー」
「し、目を合わせちゃいけません!」
そんな声も気にせず雀原は空と八重に教えてもらったお店を次々に回る。
物陰に透過で隠れ、鼻先だけ出して尾行していた咲もおやつだけでは足りないと、結局それに参加。
途中鉢合わせた野々鳥もそれに加わり賑わいをみせる。
誰かの携帯がなったが、誰もそれを気にする者はいなかった。
「誰も……来ないな……」
下妻を思いやったり、近隣の動物園などからパンダが逃げ出したのでは? と考え連絡を入れたり、今もこうして犯人を待ち伏せるという活躍をみせるラグナだったが、電話をしても誰も出てくれず、一人公園に張ったテントの中で息を潜めていた。
そんな寂しい中、携帯が鳴った。待ち侘びた連絡。
犯人パンダ出没の報せ。それが八重の手によってラグナの元へと届けられた。現在は天羽と二人で追っているらしい。
ラグナは気を持ち直して焼きそばパンへと注意を戻す。
そして、それはやってきた。
麻酔銃を持つ手に力が入る。
焼きそばパンを手にした者――それは咲と野々鳥だった。
かなりの食べ歩きをしてたのにまだ足りないらしい。
「こらー!!」
ラグナは二人を追い払い焼きそばパンを死守。そこで八重の声。今度は肉声だ。
「そっちに行きましたー!」
そして、白黒の何かが焼きそばパンを掴んだ。
「おい! 動くな、お前は包囲されているぞ!」
それでも止まらない白黒の対象をラグナの麻酔銃が捉える。
動かなくなる白黒の何か。
「これで終わりだ、月見里空! 壱式《瞬間・昴》!」
「こっちのセリフよ! 神に祈るがいい! 空虚な存在の槍《アンリミテッドスパーク》!」
ごしゃ。
二人の間に挟まれる白黒のパンダ的な何か。
こうして、この事件は真の解決を迎えたのだった。
次回、最終話『さよならなんて言わせない』。乞うご期待!
●最終話『パンダ〜愛〜』
下妻は白黒の何かを拾い上げた。
パンダの着ぐるみの頭。
「ほう……これは実に興味深い」
パンダを愛する者にしか分からない何かがあるのか、下妻は溜息を溢す。
そう、この事件はパンダの着ぐるみを着用した者が引き起こしたものだったのだ。
職を失った元撃退士の成れの果て。つい出来心でこんなことをしてしまったらしい。
「ふっ……作戦成功のようね。今までのは真犯人を油断させる演技。私は笹ちゃんが無実だって信じてたわ☆」
ぺろりと舌を出す雀原であった。
それをパンダのつぶらな瞳で冷ややかに眺めた後、下妻は犯人に諭す。
「ジャイアントパンダだと思って期待感MAXで待機していたというのに君という奴は。いいか? パンダは愛であり正義なのだ。二度とパンダに汚名を着せるようなことはするんじゃない。……わかったな」
月詠と空の攻撃で意識がなかったので聞いてはいなかったが耳元にそう呟き、下妻はあるべき機関に犯人の身柄を任せた。
その背中は大きく、何かを悠然と物語っていたのだった。
がるるると月詠を威嚇する空はまだ収まっていなかったが、全てが解決し撃退士たちは帰路につく。
途中、下妻が警察に執拗な職務質問を受け、仕方なく皆が先に帰ることとなった。
翌日、忘れ去られた首輪が爆発したとかそういう話はまた別の物語。