●出入口制圧
A班──鴉乃宮 歌音(
ja0427)、神凪 宗(
ja0435)、逆廻桔梗(
jb4008)、アンリエッタ・アルタイル(
jb8090)──が向かう一つの正規の出入口付近を、不純な黒色のサーバントが歩いていた。一般人は近くには見当たらない。
「スーパーマーケットでありますか、こんなところを戦場にするとは、天魔というのは全くえげつない連中であります。テロリストも天魔もやってることは非戦闘員や施設ばかり狙って、やってることは、一緒でありますね」
アンリエッタがグッ、と拳を握りながら言った。
醜いサーバントは口を大きく開き、不揃いに並ぶ汚い歯を晒した。
──天使も悪魔も 、使い捨ての使い魔に対してにも結構見た目を大事にするものだと思ってるのだが。 歌音は『失敗作』に対して、そんな感想を抱いた。
「なんというか、哀れというか造形センスを疑いたくなる敵でありますね」
アンリエッタがそう言いながら、天翔弓で敵を狙う。ほぼ同時に、赤煙と共に、黒と赤の馬竜が現れた。
「マミちゃん、やっちゃえ!」
逃げようとするサーバントを爆発的な力で攻撃する。サーバントは気味が悪い呻き声のようなものを上げながら、召喚獣へと噛み付こうとする。しかしそれよりも早く、後ろに回り込んだ宗が雪村を振り下ろした。鳥肌が立ちそうな鳴き声。宗は軽い眩暈に襲われ、一度下がる。サーバントは幾らか遠のいた出入口へと近付く。歌音が引き金を引いた。アサルトライフルの弾丸に為す術なく、一体のサーバントが倒れた。
B班──小松 菜花(
jb0728)、Sadik Adnan(
jb4005)、牙撃鉄鳴(
jb5667)、黒神 未来(
jb9907)──はもう一つの出入口に向かう。
「中には人がまだいんだろ? なら、スピード勝負ってやつだ。ときはかねなり、だろ?」
サディクは思う。一秒の遅れで人が死ぬ。それなら、一秒早めてそいつを助ける。──それが撃退士ってのの仕事の一つだろ。
敵戦力はSAN値直葬な感じなの。菜花は眉を寄せた。天使の創造物であるにもかかわらずというべきか、だからこそというべきか、サーバントの姿は冒涜的だった。
未来は、サーバントの姿を見て思わず顔を顰めた。
「……これはホンマに気持ち悪い敵やな……」
闇へ紛れ、潜行状態でサーバントに近付く。その結果、強力な存在──撃退士から逃れるように動く筈のサーバントが、通常通りに出入口付近で周囲を見渡しているだけで終わっている。
「でも、そやから言うてサボるわけにもいかへんな。キッチリやらせてもらうで」
未来の左目が赤く輝く。瞬間、アグリームレガースを付けた足が、サーバントを襲った。
自らが襲われている事に気付いたサーバントが、たまらず未来から距離をとる。
「スレイプニル召喚……騎乗戦闘開始なの」
「ヒヒン、容赦しなくていい。やれ」
召喚したスレイプニルに乗った菜花と、サディクが召喚したスレイプニル──ヒヒンが、同時に攻撃する。サーバントが叫びながら放った数発の魔弾は、ヒヒンの脇を掠めただけだった。
牙撃鉄鳴(
jb5667)は店の外に居た。レールガンの射程ギリギリに位置取り、スコープを覗く。拡大されたサーバントの醜い顔。
──『その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる』とは何かの漫画のセリフだったか? まぁ金もらっても綺麗とは言いたくない顔だがな。
そう思いつつ、引き金を引く。入口から余り動かないのなら静止目標も同然だ。外す道理がない。黒い霧に纏われた弾丸が、サーバントの顔を飛ばした。
●救助、撃破
A班担当の出入口のサーバントを倒した後、その周辺に居た一般人を避難させる。
「焦らずにお進みください! 転ばないように!」
桔梗は避難者へそう声を掛けながら、此方に来るかもしれない天使の事を考え、阻霊符を使った。
「親は子供を抱きかかえて走れ。女、年寄りは手を引いていけ。ここが男を魅せる時だぞ」
歌音はそう言いながら、避難する一般人の怪我具合を確認する。
「あ、あっちに、血だらけの人が!」
「分かった」
悲鳴のような声に淡々と返事をし、震える指先の方へと駆ける。そこには、苦しそうに呼吸している女が倒れていた。
出血は多いが、手遅れという程ではない。戦場の衛生兵を想像する。女の腹部を乳白色のアウルが覆う──少しして、女の呼吸が正常に近づいた。
「そこの人。この女性を頼む」
小走りで近付く男に声を掛ける。幸いにも男は強く頷き、女に肩を貸した。
「いいかい? 敵を攻撃するんだよ?」
出入口周辺に居た一般人の避難を完了させた後。桔梗は自らの召喚獣に、仲間についていくように指示をする。そして、背中に深紅の翼が顕現する。
「スーパーといえ、高さはそんなにないだろうから飛ぶ際には気をつけるんだな……まあ、落ちた時は帰りにでも拾ってやる」
宗が桔梗に声を掛ける。ありがと、と桔梗は微笑し仲間と召喚獣を見送り、出入口で待機する。
歌音、宗、アンリエッタ、召喚獣マミはサーバントと一般人を探し進む。
『聞こえる? 皆が居るとこのちょっと先を右に曲がった辺りに、一般人が何人かで固まってるよ』
桔梗からA班全員に、ハンズフリー携帯で連絡が届く。事前に念の為、と桔梗が借りて皆に配った物だ。
『分かった。自分が行こう』
宗が答え、言われた通りの場所へ向かう。
「サーバントは任せて欲しいのであります!」
アンリエッタが元気に声を掛ける。宗は軽く手を挙げた。
A班が担当する出入口にて。サーバントの唸り声が聞こえる。桔梗は顔を顰めながら、手早く耳栓をつけた。
「……ないよりはマシかも」
天井と自らの射程距離の限界まで飛び上がり、サーバントを睨みながら思う。──ひ弱なボクにできること、それをやるんだ。
マミを再召喚し、上空から攻撃を浴びせる。
『神凪だ。今そちらに向かっている。敵は居るか?』
『たった今来たよ!』
宋からの連絡にやや大きな声で返す。魔弾が掠めた。
『了解した』
短くそう答え、手近な棚に飛び乗る。ざっと辺りを見渡す限り、此処は安全だ。
味方全員に避難者の位置を告げ、避難者に動かないように指示し、桔梗が戦う出入口へと駆ける。
サーバントの鳴き声と魔弾が、桔梗とその召喚獣、マミを襲う。
「これは、不味いかも……マミちゃん力を貸して!」
赤煙を纏った馬竜がその声に答えるように、エネルギー体を放つ。
宋が駆け付けた時、サーバントは魔弾を乱発しながら走り回っていた。マミと桔梗の攻撃は当たりはするが直撃とはいかない。まだ雪村では届かない距離だ。宋は素早く武器をアハト・アハトに変え、引き金を引く。まともに喰らったサーバントはよろめいた。事切れる一瞬前に放った魔弾は、床を抉った。
宋が一般人を保護、避難誘導へと向かった後程無くして、サーバントは見つかった。出入口へと向かっているのか、撃退士の方に駆けてくる。
歌音が即座に天翔弓で攻撃を仕掛ける。前足にヒットし、サーバントは一瞬動きを止める。その間に歌音は近くの倒れていた商品棚へ身を潜め、アンリエッタはサーバントにより近い商品棚に体を寄せる。魔弾が放たれるも、そんな状態では誰にも当たらない。
マミがサーバントに、雷を思わせるエネルギー体を撃つ。気味の悪い身体が俊敏に動いた結果、直撃は免れた。──その間にサーバントの背後をとったアンリエッタが、貫手を首に打ち込んだ。逃げ場のなくたサーバントは、アンリエッタへと牙を向ける。
「顎を開ければ一番打撃にもろくなるのであります!」
そのチャンスをアンリエッタが逃す訳がなかった。顎に掌底のフックを喰らわせ、サーバントが反応するよりも早くアッパーを放つ。
これ以上、一般人の怪我人は出したくない。その思いが、彼女を戦わせる。
「早速だけど、次だ」
「了解であります!」
近くにいたらしいサーバントが、撃退士に反応して逃げ出す。二人は天翔弓で脚を狙い、サーバントは数歩で逃走が終わる。
歌音が天翔弓で脚と頭を撃ち、アンリエッタが遮蔽物を利用しながら接近する。
灰色の光が矢を包み、打撃音が響く。アンリエッタに当たりかけていた魔弾が逸れた。
「淑女の嗜みであります!」
接近を果たしたアンリエッタが、ブロンクンナックルの拳を叩き込む。
「下がって」
歌音の言葉に瞬時に下がり、棚へとしゃがむ。サーバントが何か行動するよりも先に、歌音が矢を放った。
出入口に居たサーバントを倒した後、鉄鳴は避難者を誘導していた。サーバントが身近に居ない事からか、大分落ち着いている。
出入口まで後少し、その時に。サーバントの鳴き声が、響く。
「……近いな」
避難者から上がる悲鳴。
「ほら! さっさと行けよ! 巻き込まれてもしらねぇぞ!」
サディクが避難者へ発破を掛け、サーバントへ向かう。
「ゴア、注意を引け!」
ゴアが威嚇し、サーバントはゴアを見る。その間に、鉄鳴が避難者を店外へ誘導する。
「近代の騎兵はその速度と突破力で心理的にも物理的にも脅威と見られたの。故に機関銃と塹壕が生まれるまで花形兵種だったの」
菜花が出入口へと迫るサーバントを見遣りながら、スレイプニルに騎乗する。
「さあ、どうするの?」
ヒットアンドウェイ。菜花の攻撃は確実に効いていた。
そして。
「ゴア、遠慮はいらねぇ、叩きつけろ!」
ゴアがサーバントを薙ぎ払った。
未来は出入口からかなり離れた所で、避難者達を発見した。避難者にヒヒンについていくよう指示する。
「ひッ」
避難者の誰かが短い悲鳴を上げた。その声の理由は明白だ。数メートル先にサーバントが居る。此方に気付いていないのか、豚肉を咥えてのんびりと歩いている。
「そういや、うちらからよう逃げよったな」
未来はぽん、と手を叩いて、ハイドアンドシークを解除した。サーバントは豚肉をぽとりと落として逃げ出した。避難者の困惑が混ざった安堵の息が聞こえる。
ヒヒンについていく避難者を確認し、逃げ出したサーバントの後を追った。
「アンタ産まれたばかりなんか? ほな、うちの子守唄聞いて眠っとき!」
未来の周囲が凍てつく。サーバントはよろよろと未來から離れたが、ぱたり、と眠りに落ちた。間髪入れず、レイアーバンドを巻き付けた拳を喰らわせる。サーバントにとっては幸いな事に、すぐに目を覚ましたサーバントが魔弾を放つ。
「おっと。これは中々……」
既に避難が済んだ事に安堵しながら、サーバントへまた攻撃を放とうとする。そこで、もう一匹のサーバントを見つけた。
『誰か増援頼めへん? 二匹も近くにおるわ』
未来からの連絡。鉄鳴は翼を背中に顕現し、上空から未来の場所を確認する。
『見つけた。最短距離で向かう』
『おおきに』
有言実行、最短距離で文字通り飛んできた鉄鳴がレールガンを構える。未来の周囲が凍てつくが、二体とも眠りはしなかった。
サーバントが絶叫しながら魔弾を乱発する。
鉄鳴は眩暈を覚え、狙いをサーバントの顔からサーバントの体全体に変える。眩暈が引き起こす命中率低下よりも、鉄鳴の射撃の腕が上回っていた。胴体に増射を喰らったサーバントはよろめきながらも魔弾を放っていたが、潜行して背後に立った未来の蹴りに、呆気なく倒れた。鉄鳴は素早く弾丸を再装填し、もう一体のサーバントへとレールガンを向ける。既に眩暈はなくなっている。弾丸は容赦なくサーバントの顔を抉り、絶叫が響く。
魔弾を無駄に乱発しながら、二人から逃げようとするサーバントに衝撃波が襲った。
「これがアンタらへのレクイエムや! 」
未来がギター、PompeuX R7を掻き鳴らす。エフェクターもアンプも必要ない、音の攻撃。
最後のサーバントが、息絶えた。
●仕事の終わり
『……ううん、結構早々と倒されちゃったなぁ』
ノアの『働きぶり』を見に来た天使は呟く。上司にとっては大成功にしても、自分にとっては何の得もない行動をしてしまった。大して惜しむ事なく、くるりと身を翻す。結局、天使が人間の前に現れる事はなかった。
今回巻き込まれた怪我人は病院に運ばれていった。幸い、重体以上の者は居なかった。……撃退士が駆け付けた頃には手遅れだった人も居たが、被害は最小限だったと言ってよい。
サーバントは実直に働き、死に絶えた。
撃退士達は任務を全うし、明日を迎える。