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マスター:矢内 重之
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/05/18


みんなの思い出



オープニング

●繁華街
 その日、久保田は夜の繁華街を良い気分で歩いていた。酒が入り、気分は高揚しているが意識ははっきりしていており思考も明瞭。いわゆるほろ酔いと言う状態である。もう一軒どこかへ入って飲もうか、それともこのまま素直に家に帰ろうか。そんな風に迷っていた時の事。
「……!」
 何か声が聞こえた気がして、久保田はほんのりと赤く染まった顔を路地裏へと向ける。
「助けて……!」
 かすかに、しかしはっきりと耳を打つその声に、久保田の酔いは一気に冷めた。聞こえてきたのは紛れも無く若い女の声だ。酒が入り気が大きくなっていたのも手伝って、久保田は路地裏に迷う事無く足を踏み入れた。
 ネオンの明かりが目に染みる繁華街から一転、路地裏は酷く暗い。雑多に置かれたゴミ箱や寂れた看板、エアコンの室外機なんかに蹴躓きながらも、久保田は声の聞こえる奥を目指した。

 すると、唐突に道が開け、彼は大きな広場のようなところに出た。よくよく見てみれば、そこは建築中の工事現場なのか、鉄骨が立ち並んでいる。
「助けて……」
 声は、上から聞こえてきた。視線を上げればそこには、上半身裸で吊り下げられる、うら若き美人。
「い、今助けてやる!」
 そうは言ったものの、どうしたものか。何とか鉄骨を登ることが出来るだろうか? と近づいた彼の身体が、突然動かなくなった。
「な、何だ……?」
 何かが全身に引っかかっているかのように、上手く身体が動かない。身動ぎすれば更に身体の自由度は失われていった。
「助けて……」
「ま、待ってくれ、今……」
 哀願する女性を見上げ、久保田はふとある事に気付く。……さっきより、近づいている。
「助けて」
 そういえば、暗がりで良く見えないが、彼女の下半身はどうなっているのだろうか。何故か唐突に、久保田はそんな事を考えた。その彼の目の前で、ゆっくりと女性の姿が下に降りる。
「助けて」
 宙吊りにされながら、呟くその言葉の抑揚の無さに、久保田の背筋にぞっと寒気が走った。さっきから、コイツ、同じことしか言ってない……
「な……なんだ、お前は……」
「助けて、たすけて、タスケテ……」
 のそり、と女の姿が蠢く。闇の中、空中を動くその下半身が、暗さに慣れた久保田の目にようやくはっきりと映った。
 ――蜘蛛だ。女の下半身はおぞましい、巨大な蜘蛛であった。
「うわああああああ!!」
 恐怖に駆られ、久保田は無茶苦茶に身体を動かすが、その全身はべったりと蜘蛛の巣に絡め取られ殆ど動かない。その途端、女の姿を持った蜘蛛は彼に向かって物凄い速度で近寄ってきた。
「タスケテケテケテケテケテケテ……!」
「く、来るなあああ!」
 久保田は手に持っていた鞄を怪物に投げつける。しかし、それは怪物をすり抜け、どっと音を立てて地面に落ちた。そんな彼の抵抗に全く頓着する事無く、怪物はその口を大きく開き、久保田の首筋に齧り付く。
 久保田は数分バタバタと身動ぎしていたが、やがてその身体は力を失い、虚空にぶら下がった。

 他の無数の犠牲者達と、同じように。

●斡旋所
「市街地にてサーバントが発見されました」
 資料を配布しながら、斡旋所の職員は撃退士達に説明を始める。
「確認されたのは蜘蛛の下半身に人の上半身を持つサーバント、仮称『アラクネ』」
 その説明に、撃退士は首をひねった。配布された資料に記されているのはただの巨大な蜘蛛のサーバントだったからだ。
「資料は、良く知られている蜘蛛型サーバント『ジャイアントスパイダー』のものです。アラクネはその上位種と考えられており、共通する性質を持っている可能性が高いと思ってください」
 アラクネ自体のデータは殆どない、と言う話だった。どこまでが共通し、どこまでが共通しないのか、考える必要があるだろう。また、上位種となれば、下位のジャイアントスパイダー自体を数体指揮する可能性もある、と職員は付け加えた。
「既に巣に十数人の犠牲者が確認されていますが、うち数人はまだ生きている可能性があります。一刻も早い救助をお願いします」


リプレイ本文

●遭遇
 暗い路地裏を走り、工事現場へと辿り付く影が8つ。
 辺りには街灯一つなく、遠くに繁華街のネオンが見えるその広場は、却って深い闇の中に沈みこんでいるようであった。どんなに目を凝らしても地面に突き立つ鉄骨がおぼろげに見えるばかりで、互いの顔さえ判然としない。
「助…けて…」
 そんな中ただ一人、虚空に白い肌を晒す女の姿は酷く不気味に見えた。
 撃退士達は互いに顔を見合わせ頷きあうと、四と四に分かれて慎重に歩を進める。
「随分、広いな」
 呟くように言いながら、玄武院 拳士狼(ja0053)はゆっくりと拳を突き出す。するとぐっ、と何かの抵抗があった。蜘蛛の巣が予想以上の範囲に張り巡らされている。
「それに、細いね」
 片眼鏡の奥から虚空を凝視しつつ、アニエス・ブランネージュ(ja8264)。闇の中、糸は全く見ることが出来なかった。
「とは言え高々虫の糸。臆するに値するものではない」
 ぶんと大剣を振るい、フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は居丈高に言い放つ。蜘蛛の糸はすっぱりと断ち切られ、鉄骨の間に張り巡らされた巣と、犠牲者たちの姿が露わになった。
「糸は見えていなかったのではなく、見えていた、と言うわけか」
 冷静に観察しつつ、アニエスは呟く。黒い糸が一種のカーテンの様に辺りを覆い、暗い視界を更に妨げていたのだ。
「あぁはなりたくないねぇ」
 蜘蛛の糸でぐるぐるに巻かれ、まるでミイラの様になった人型を見上げて常木 黎(ja0718)は肩を竦める。
 と、突然その表面がボコボコと盛り上がったかと思うと、糸を食い破って小さな蜘蛛が何匹も這い出してきた。小さいとは言っても、人間より大きいアラクネに比しての話。一匹一匹は一抱え程もある大蜘蛛である。
 それと同時に、フィオナが糸を両断した事に反応したか、アラクネもこちらへ向かって巣を物凄いスピードで降りてきた。
「さあ、蜘蛛女。我を興じさせて見せよ」
 いっそ不謹慎にさえ思えるほどの笑みを浮かべ、フィオナは全身にオーラを纏い、
「そして、狩られる絶望を味わって消えるがよい」
 そう命じた。

●救助
「向こうは始まったみたいだねぃ」
 どこか眠そうな様子で、九十九(ja1149)は戦うフィオナ達を見やる。
「まだ助けられる命があるなら、急がなくちゃね…」
 犬乃 さんぽ(ja1272)は言い、鉄骨へと視線を向けた。彼らに任せられたのは、別働隊が敵をひきつけている間の被害者の救助である。
「…全員、助けてみせる」
 呟き、アトリアーナ(ja1403)はそっと目を閉じる。かつて救えなかった少女に想いを馳せ、そっと胸に仕舞いこむように息を吸い込む。瞼を開いたとき、彼女の瞳からは感情の色は消えていた。
「あそーさん、お願いできるかねぇ?」
「オッケーつくもん。任せるのぜ」
 麻生 遊夜(ja1838)は気軽に答え、一転、軽薄な表情を真剣に引き締め用意したトーチバーナーを引き抜いた。バーナーから噴出する高温の炎は一瞬で糸を焼き切り、延焼の危険性なく排除できる……はずで、あった。
「これは……!」
 しかし、その結果は、彼らが全く想定していないものであった。炎が、糸をすり抜けたのである。
「透過能力、だねぃ」
 九十九は阻霊符に軽く触れると、黒紫の風の如き光を纏う。阻霊符がその力を発揮し、炎が糸に遮られるが、焼ききれる様子は全くなかった。
「サーバントの、一部…」
「急がないといけないみたいだね」
 アトリアーナの呟きに、さんぽはキリリと少女の様な表情を引き締める。天魔同様、糸もV兵器しか有効でないとなれば、腕を封じられれば抜け出す事はかなり困難になってしまう。
「九十九くん、麻生先輩!」
「はいよ……うわぁ、こりゃまた……」
 さんぽに応え、夜目のスキルを発動した九十九は思わず呻いた。
「酷い有様ぜよ…」
 遊夜もまた、その光景に顔を顰める。彼らが目にしたのは、まるで酷く悪趣味なクリスマス・ツリーの飾りの様にぶら下がる、無数の犠牲者達であった。
「道を切り開くの」
 バヨネットを構え、アトリアーナは壁の様に重なる蜘蛛の巣を切り払い、進む。するとそれに呼応するように、無数の小蜘蛛が包まれた糸の中から現われ出た。
「…ここは抑えるから…救助はお願いするの」
「わかった、よろしくねっ!」
 銃剣をハンマーに持ちかえ言うアトリアーナの横をさんぽが駆け抜ける。勢いそのまま、さんぽは脚部に集中したアウルで鉄骨を踏みしめると、鋼糸で巣を切り裂きながら垂直に駆け上がっていく。
「楽しようと思ってたんだけどねぃ」
 言いつつ九十九は弓を構え、
「ぼやきなさんな、来たぜよ、つくもん」
 遊夜はリボルバーを握り締め、アウルの弾を篭めた。

●激戦
 けたたましい金属音と共に、フィオナは大剣でアラクネの爪を受け止める。分厚く巨大なその剣は容易く攻撃を受け止め、完全に無効化した。
「シャァァァァッ!」
 その本性を完全に露わにし、牙をむいて声をあげるアラクネの顔はもはや美女ではなく、悪鬼異形の類に他ならない。がぱりと大きくあぎとを拡げ、糸を吐き出そうとするその口の中にすかさずアニエスは銃弾を叩き込んだ。
「悪いが、それはさせないよ」
 その横では、黎の手にしたオートマチックが火を吹き、次々に大蜘蛛たちを撃ち落していく。しかしそのうち何匹かは即死する事無く、黎へと飛び掛った。
 宙を滑空するかのように落ちてくるその大蜘蛛を、横から丸太の様に太い腕が貫く。大蜘蛛はボールの様に地面を数度跳ね転がると、そのまま動かなくなった。
「…好きには、させん…!」
「悪いね。助かるよ」
 その腕の主、拳士狼に礼を言うと、黎は彼に銃を向け、引き金を引く。
「お返しといっちゃなんだけどね」
 その銃弾は狙い違わず、拳士狼の後ろに糸を垂れて潜んでいた大蜘蛛を撃ち抜いた。
 押している。明らかにこちら側に傾いた流れを感じつつも、同時にアニエスは不安を抱いていた。防御に徹したフィオナはアラクネの攻撃を殆ど受け付けず、アニエスの銃撃は少しずつではあるが確実にアラクネの体力を削っていっている。大蜘蛛も、拳士狼と黎の前には一撃、二撃で潰される程度の脆弱さだ。
 しかしそれも永遠のものではない、とアニエスは感じていた。フィオナの使っている防壁陣は、瞬間的にアウルを爆発的に高めることによってこそその防御能力を得るものだ。当然、無限に使える類のものではない。
 大蜘蛛達も倒しても倒しても新手が現われ、それを相手取る拳士狼と黎も無傷とは行かない。優勢なのは間違いない。しかし、彼女は何かを見逃しているかのような、奇妙な焦りを覚えていた。
「ぬ、ぅ……っ!」
 そして、その危惧は現実となって拳士狼を襲った。彼は突如呻くと、その場にがくりと片膝を突く。
「痛っ…あぁもう…どうしたっていうの」
 前衛となる拳士狼が崩れ、大蜘蛛の半数は黎へと襲い掛かった。大蜘蛛達は黎に噛み付きながらも、糸を吐いてその身を拘束していく。
「……毒か」
 その様子を横目で見やり、フィオナは舌打ちした。膝をつくには彼の負った傷はあまりに浅い。青く血の気の引いた顔色から見ても、傷ではなく毒によるものだろう、と彼女は見当をつけた。
「くっ……」
 それと殆ど時を同じくして、彼女の防壁陣が尽きる。彼女の防御能力は半減し、拳士狼は毒で身体が動かず、黎は糸に絡めとられ殆ど動くことが出来ない。一方、大蜘蛛は次から次へと沸いて出てきて、アラクネはまだピンピンしている。ほんの僅かな間に、戦況は一気に覆っていた。
「くぅぅ……」
「フィオナ君……!」
 その肩口を鋭い爪で貫かれ、小さく声をあげて身体を震わせるフィオナに、アニエスは声をかけた。絶望のあまり、彼女の心が折れてしまったのではないか。そう思ったからだ。
「……は、は」
 しかし一瞬の後、それが誤りであったことに気付いた。それは泣き声などでは断じてない。
「く、は、ははははぁ!」
 それは哄笑。ともすれば、悦びですら感じさせる笑みであった。
「面白い。脚が八本も無ければ立てぬ虫けらの分際で、この我にここまで抗うか」
 彼女はぶんと大剣を横に振り、ちらりとアニエスを振り返る。
「雑魚を先に片付けよ。その間、これの相手は我がする」
 そういわれ、アニエスは僅かに逡巡した。フィオナ一人か、仲間全員か。冷静に考えるなら、迷う必要などない取引だ。
「……わかった」
 躊躇する心をあえて彼女は振り払い、仲間の下へと向かう事を決意した。

「烈火炎刃タツマキ☆フレイム!」
 そんな中、まるで夜闇を切り裂く光の様に明るい声がこだました。それと同時、蛇の様に炎が渦巻き、黎を絡めていた糸を焼き払う。空からさんぽが降ってきたかと思うと、彼は猫の様に身軽に地面に降り立った。
 かと思えば、拳士狼を取り巻いていた大蜘蛛達に矢と銃弾が浴びせかけられ、穴が空いて地面に転がる。
「お待たせしたぜよ」
 救助を完了した、遊夜達であった。
 まだ息があるらしく、脚をじたばたさせてもがく大蜘蛛達に、アトリアーナはウォーハンマーを叩き込んで絶命させる。
「…虫は叩き潰すもの」
「……遅い。だが……助かった!」
 にっと笑みを浮かべ、大剣で思い切りアラクネを吹き飛ばすと、フィオナは後ろに飛んで距離を取る。
「はぁぁぁぁぁぁあああ……!」
 拳士狼の筋肉が盛り上がり、彼の体躯が更に一回りほど増大する。ごぼり、と傷口から血が噴出し、彼は身体に纏わりついた糸を千切り飛ばしながら立ち上がった。筋肉の伸縮で、強引に毒を排出したのだ。
「さぁ、後はお前だけだっ…くらえ必殺ロングニンジャブレード!」
 すらりと大太刀『蛍丸』を引き抜き言うさんぽの前で、アラクネはがしりと自らの巣に齧りついた。
「これは……まさか、吸収!?」
「とは言っても、被害者は全員回収したけどねぃ」
 最後の悪足掻きか。奇妙な動きに警戒する撃退士達の前で、大蜘蛛達の死体が見る見る萎れ、崩れていく。
「コイツ、自分の部下の死体を…!」
 気味悪げに顔を顰め、黎が呟く。めきめきと音を立ててアラクネの姿が更に異形へと変化していく。その身体は甲殻に覆われ、アラクネは四本の腕と蜘蛛の下半身を持つ怪物へと変じた。

「ふん。悪足掻きを……!」
 フィオナはその手に大剣を携え、アラクネへと駆ける。同時に、彼女の手の中で剣は蒼い光を纏うと、薄く、小さく、そしてより鋭い魔剣へと姿を変える。
 アロンダイト。かつて湖の騎士と呼ばれた者が振るった不壊の剣。一瞬だけ現世に姿を現すその剣は、アラクネの甲殻を深く切り裂いた。
 しかし、両断するには至らない。逆にがっちりと刃を抱え込み、アラクネはフィオナの喉笛に牙を走らせる。

 その牙を、針の穴をとおすかのような精密な射撃が、折り砕いた。
「…勇敢なのも実に素晴らしいけどね。もう少し、防御も鑑みてくれると嬉しい」
 硝煙の立ち上るリボルバーを構え、アニエスは苦笑する。安全を考え胴体を狙うつもりだったのに、遥かに何度の高い事を要求されたのだ。これくらい言っても罰は当たるまい。

「まぁ、どんな姿になろうが、殺る事には変わらんねぃ」
 四本の腕を振りかざし、反撃を試みるアラクネに向かい、九十九は立て続けに矢を放つ。アウルの力で形作られた矢は空中で融け、その形を無くすと紫紺の風へと変じてアラクネの身体に纏わりつき、その動きを封じた。
「暗紫風 気吹南斗星君……と。後は頼んだよ、あそーさん」

「全く人使いの荒い……だがまあ、それがただ一つの、負け犬の存在理由って奴だやな」
 死神の如く赤黒い光を纏い、赤い双眸の軌跡を残しながら遊夜はアラクネに肉薄する。襤褸切れの様に彼を覆う衣からずいと飛び出すのは、全長1011mmのショットガン。彼を覆い尽くす光纏の黒がその銃口に集まり、銃は闇の様に黒く、彼の身体は血のように赤く染まる。
「害する者には制裁を、ってな」
 呟きと共に放たれた一撃は、黒い残光を残しながらアラクネの腕を半ばから引きちぎり、吹き飛ばした。

「ハァァ…!アァーッタッタッタッタァ!」
 そこに、拳士狼が雨の様な拳撃を叩き込む。見た目はともかく、その上半身は未だ人の形をしている。であれば、その急所も人と似たような物になるはず。
 矢継ぎ早に放たれるパンチは的確にアラクネの頭部、胴体の急所を捉え、
「ホゥアッタァー!」
 止めとばかりに、シルバーレガースによる蹴りが、アラクネの鳩尾に叩き込まれた。

「……鬼神」
 たまらず身体をくの字に折るアラクネの横に小さな身体をちょこんと立たせ、その体躯に似合わぬ巨大なハンマーに紫焔の如きオーラを集め、アトリアーナは全身の力を持ってハンマーを振りかぶる。
「一、閃!」
 目にも留まらぬ速さで振り抜かれたその一撃は、アラクネの顔面を強かに打ち上げ、今度は逆に仰け反らせた。

「いっくよー!」
 さんぽは鉄柱に壁走りで上ると、露わになるその喉へむけて刀を構え、ぐっと足を折り曲げた。パチパチと音を立て、その脚に紫電が奔る。『壁走り』と『迅雷』の併用、柱を蹴って落下速度を足して宙を駆けるその様はまさに稲妻の如く。
「影刃一閃クリティカル☆シャドー!」
 首へと走る必殺の一撃は、しかし外皮の前にほんの僅か鈍り、アラクネの首を中ほどまで裂いて止まる。

「嫌いなのよねぇ蜘蛛…」
 しかしその後頭部に、ごりと抉るように黎は銃口を突きつけた。
「見える所に居たら駆除する位には」
 嘲るように薄く笑みを浮かべ、引き金を引く。インフィルトレイター、一撃の威力に劣る彼女は、その威力を最も発揮できる瞬間をずっと待っていたのだ。
 アウルの光が彼女の銃口に集まり、中ほどまで断ち切られたアラクネの首から上を、今度こそ吹き飛ばした。

●過去と未来と
「はい……そりゃ、何よりさね」
 ぴっと電子音を立てて通話を切り、九十九は一つ息を吐く。
「生きてた6人は全員、一命を取りとめたらしいねぇ」
 のんびりと言う彼に、撃退士達はほっと胸を撫で下ろした。
「全てを救えた訳ではないけど……それは、良かった」
 アニエスが、全員の意見を代弁するかのように呟く。結局、救助の時点で既に事切れていた犠牲者は生存者の倍以上にも上っていた。
 アトリアーナは無言で両手を組んで祈り、フィオナも無意識に十字を切る。彼らは間違いなく、最善の仕事を成し遂げた。しかしそれでも、掬い切れない命は指の間から零れ落ちていく。
「……わかっていても、やりきれないものだね」
「だが、やりきるしかなかろう」
 フィオナの言葉にそっとリボンを撫でてアトリアーナが頷き、遊夜もまた銃を握り締めた。この世界に天魔がいる限り、彼らの戦いは、終わらない。

 次なる戦いへ向け、若き撃退士達は前を向いて進んでいく。ほんの一瞬だけ、それでも確かに守れた物を、振り返りながら。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

戦王の風格・
玄武院 拳士狼(ja0053)

大学部5年107組 男 阿修羅
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
冷静なる識・
アニエス・ブランネージュ(ja8264)

大学部9年317組 女 インフィルトレイター