●出来上がったPVが、こちらです
『天魔。それは平行世界より訪れし、人類の天敵』
(おおっ、ナレーションが!)
(この声倉内さんじゃない?)
(わくわく)
「くそっ、銃が効かない!」
警官隊が放った鉛玉は、グール達の体をすり抜け背後の壁に穴を穿つ。
『通常兵器の効かない彼らには成す術はなく、人類はただ彼らに搾取されていく。……しかし』
「スェーーーイ!」
掛け声と共に、バイクが窓ガラスを破って飛び込むは、市川 聡美(
ja0304)。
『アウルという力を使いこなし、天魔に対抗できる唯一の存在がいた』
「あたし達に任せて!」
それに続いて、4人の撃退士が声を上げながらビルに飛び込んでくる。
「すまない、頼む!」
画面の端にフェードアウトしていく警官達を尻目に、五人の撃退士はそれぞれ武器を構えてポーズをとった。
『彼らの名を、撃退士という……!』
そこで画面が静止し、『久遠ヶ原学園 撃退士(ブレイカー)』というタイトルロゴの様な物が入る。
(っていうかさっき、市川先輩スェーイって言わなかった?)
(うう、セーイって言おうとしたんだけど)
「さあ、残らず退治してあげるよ!」
苦無を構え、軽く手を前に突き出しポーズを取りながら叫び、高峰 彩香(
ja5000)は大きく踏み出すと全身に赤みがかった金色のオーラを纏いながら一瞬にしてグールの懐に潜り込んだ。オーラが一瞬にして苦無に集中し、揮えばどんと大砲の様な音を立ててグールの腹に大きな風穴を開けた。
(……あんな音したっけ?)
(してないしてない。SEだね)
「えぇいっ」
その横でぶんと大剣を振るうは若菜 白兎(
ja2109)。その名の通り小さな兎を思わせる小柄な体で、己の背丈の1.5倍はある長大な両手剣をぶんぶん振るい、淡い青のオーラをきらきらと散らしながら軽快に戦場を飛び跳ねる様はまるで妖精の様な美しさ。
「はぁっ!」
それと挟み込むようにして衝撃波が飛び、体勢を崩したグールに向かって聡美が文字通り宙を舞った。片手に打刀を持ちつつも美しく側宙で弧を描くと、空中で刀を両手で持ち、落下の勢いそのままにグールを肩口から逆の脇腹まで、真っ二つに両断した。
「おとなしく、眠りにつけー!」
チン、とつばを鳴らして刀を鞘に納めると、聡美は左手を腰に当てて、右手でグール達を指差した。
(市川先輩、この時どうして敵の後ろにいたの?)
(だって、カメラがこっちあるから右から映ろうとしたら後ろに回らなきゃでしょ? 右からの横顔が一番良く見えると思うんだよね!)
カメラがぐるりと回り、映し出されるのは5匹ほどのグールと、素早い動きで翻弄しつつ果敢に立ち向かう犬乃 さんぽ(
ja1272)。さんぽは鈍重なグール達の動きを嘲笑うかのような動きでするりと距離をとると、その口に巻物を咥えて両手で印を組み、叫んだ。
「烈火炎刃タツマキ☆フレイム!」
(……気になっていたんですが、巻物を咥えながらどうやって発音しているのですか?)
(それはニンジャのヒミツだよ!)
伸ばした人差し指の先から、ヨーヨー型の炎が螺旋を描いてさんぽを取り巻きながら立ち上ると、一転渦を巻いてグール達を包み込んだ。
「マクミラン先輩今だよっ」
炎にまみれながらもさんぽに向かって腕を伸ばすグールに、エリス・K・マクミラン(
ja0016)が鉤爪をはめた両腕を構え、距離をつめる。
「貴方の相手はこの私ですよ?」
言いつつ、素早く拳の連撃をグールに叩き込んだ。そして足の止まった所にくるりと体を半回転させると、すらりと伸びた脚で綺麗に弧を描き、回し蹴りを放つ。同時に、画面がスローモーションになり、インパクトの瞬間を映す方角を変えて、叩き込み、叩き込み、叩き込んだ。所謂『三段パン』という奴である。
(2カメ3カメどこにあったのー!?)
(牟田さん以外にも撮影者がいたんでしょうか……全然気付きませんでした)
(チッ、見えなかった!)
(何がなの?)
(若菜さんはわからなくていいんだよー……というか市川さん、見たいの?)
(いやあ、何となく)
『グールの一団を片付けた撃退士達……しかしそれは、前哨戦に過ぎなかった』
(お、ナレーション)
画面に、がちゃがちゃと剣を鳴らすスケルトン達が映し出される。
『廃ビルで撃退士を待ち受けていたのは、怨念によって突き動かされた骸骨達』
(天魔だから怨念とか関係ないですよね?)
(まーまー)
『しかも、リーダーによって指揮される死者達は統率された動きを見せる強敵。果たして撃退士達は勝利できるのであろうか……!?』
そこでアイキャッチ。斜め45度から決め顔を見せる倉内の姿が映る。
(……今の要らないよね)
(牟田さんに頼んで消しておいて貰おう)
リーダー率いるスケルトン軍団と対峙する撃退士達。盾と剣で武装した配下のスケルトンが六体と、一際体格が良く両手剣を胸の前で掲げるリーダーが一体だ。
「アイツはあたしが抑えておくよ! 皆、他のをお願い!」
「分かりました、そちらはお願いします。ですが、無理はなさらぬように」
言ってリーダーに向かって突っ込む聡美に声をかけ、エリスは練気法陣の準備を始める。小さな魔法陣が彼女の手元に浮かび上がると、周囲から気を溜め込み、徐々に彼女の手元に赤く輝き溜まって行く。
そんな無防備を晒すエリスを、スケルトン達は見逃さなかった。剣と盾を構え、彼女に向かって殺到する。
「そうはさせないの」
その攻撃を、巨大な剣を盾の様に構えて白兎が受け止める。
(あれっ、若菜ちゃん受け防御とか出来るんだっけ?)
(いや、今の良く見ると受けれてない)
(結構痛かったの)
その横から、彩香が苦無を振るう。曲線を描いて放たれるその一撃に、ずしゃあっと音を立ててスケルトンは粉々に砕け散った。
(何今の音)
(またSEですね)
(実際は『ぱっかん』みたいな間の抜けた音だったからなあ)
攻めあぐねる部下達に業を煮やしたのか、大剣を掲げてリーダーが一歩踏み出す。
「どこ行くの? あなたの相手はあたしよ!」
その行く手を刀で切り落とすかの様に聡美が立ちはだかった。ゆっくりと大剣を掲げ、額の前で斜めに構えるスケルトンリーダーに対し、聡美は打刀を正眼に構えて相対する。ピン、と張り詰めたかのような空気が二人の間を走り、互いにピクリとも動かずに睨み合う事しばし。
はらりと画面の上から落ちてきた木の葉がぽとりと地面に落ちた瞬間、打ち合わせたかのように二人は奔り、刃をかみ合わせた。
(いや今どこから木の葉が)
(後付のCGなの?)
(いや、牟田さんがカメラの前でひらひらさせてたよ)
(芸が細かい!)
瞬間、画面が切り替わり、残るスケルトンと撃退士達の戦いが写される。
(あれ? いつの間にかスケルトンが4体に減ってる?)
(……私のファイアバーストが編集できられましたね……)
(いや、ほ、ほら、最後にも使うし!)
雑魚との戦いは4対4の乱戦へとその様相を変じていた。防御に優れるルインズブレイドの彩香が敵をひきつける横で、独楽の様に回りながら巨大な剣を振るい、白兎がその剣の腹をスケルトンに叩きつけたかと思えば、その隙を狙う別のスケルトンの剣を鉤爪で受け止め、エリスが蹴りで盾を弾き飛ばす。その瞬間、天井からさんぽが降って来て大剣でそのスケルトンを両断。
「1だよっ!」
防御力の低いエリスやさんぽを庇いつつ敵の攻撃をいなし、お返しとばかりに弧を描く攻撃で彩香がスケルトンを崩し、
「2匹目っ!」
冷静に頭、足、胸へと連撃を叩き込んでエリスの拳と蹴りがスケルトンを粉々に砕き、
「3ですっ!」
先の攻撃で弱りを見せたスケルトンに、白兎が思い切り大剣を叩きつけ、粉砕した。
「4なのっ!」
若干の傷を負いながらも、撃退士達は休む素振りも見せずに最後の敵……聡美が食い止めていたリーダーへと目を向ける。
「残り一体、決めに行くよ!」
ビシッと指をさし、彩香が宣言し。
「ちょっと遅いけど…、まあ、いいか。ケリつけるよ!」
言葉とは裏腹に、聡美はニヤリと頼りがいのある笑みを浮かべ。
「そろそろ終わりにする事にしましょうか」
その指先に魔法陣を浮かべてエリスが呟き。
「ニンジャの力の真骨頂、見せてあげるよ!」
剣を構えてさんぽがぐっと脚に力を込めて。
「星々に宿りし生命の煌き……優しい光となりて降り注ぎその身を癒したまえ。星光降臨(せいこうこうりん)、スターライト☆シャワ〜」
白兎が放つ聖なる光に、聡美の傷が癒えていく。
「いくぞ!」
「おー!」
聡美の言葉に一同が応え、それぞれが必殺の攻撃を準備する。それを迎え撃つスケルトンリーダーは防御の構え。攻撃を受けきり、カウンターの一撃を決めるつもりだ。相手を倒しきれば勝ち。倒しきれなければ、手痛い反撃を食らう。
「大気に眠るマナをこの手に…」
エリスの手に、赤い光が収束していく。
「41式……」
軽い跳躍と共に身体を捻り、軋む音さえ立てるかのように聡美の全身の筋肉が引き絞られる。
「ロングニンジャソード…これで止めだっ」
さんぽは壁を風のように駆け、跳躍と共にくるりと身体を反転させて天井を蹴り、着地と同時に疾風迅雷の速度でスケルトンに向かう。
「煌めく星々の輝き……この身に集い魔を断つ力となれ」
輝きを纏う剣を掲げて跳躍し、白兎の身体が空中でくるりと円を描く。
「この曲線を描く一撃に対処できるかな?」
そして、まるで踊るように優雅な動きで弧を描き、彩香が一撃を放つ。
全ての攻撃は、同時に。
「この黒き炎で、その骨すら焼き切ってあげます……ファイアバースト!」
「鬼、斬!」
「影刃一閃クリティカル☆シャドー!」
「一刀閃断(いっとうせんだん)、ティンクル☆セイバーーっ!!」
「スピンブレイド!」
5つの刃が炸裂し、まるで時が止まったかのように、全員がその動きを止めた。
「ク、カ、カ……」
まるで嗤うかのように、スケルトンがそう声をあげて振り向く。キィン、と澄んだ音を立てて、その両手剣が中程から折れ、次いでスケルトン自身の頭、腕、腰、足にひびが入り……
次の瞬間、大爆発を起こした。
(ええーーーー!?)
(なんで爆発したの!?)
(ふむ、今一瞬、画面が切り替わりましたね。恐らく爆発の部分だけ別撮りしたのでしょう)
(うん、やっぱり最後は爆発だよね☆)
『かくして、天魔は倒され、平和は守られた。しかし彼らの戦いはこれで終わったわけではない。天魔は、事件はこの世界を間断なく襲っているのだ。戦え、撃退士達! 世界に真の平和を取り戻す、その日まで――!』
●見終わりました
「素晴らしい……実に素晴らしい出来だ、諸君!」
パチパチパチ、という音に振り向くと、倉内が滂沱の涙を流しながら拍手をしていた。
「だと言うのに……何故君達はそんなに浮かない顔をしているのかね?」
その言葉に、撃退士達は互いに顔を見合わせた。自分達の活躍が格好良いPVにされた事には不満は無い。しかし、一つだけ、我慢なら無いことがあったのだ。
「だって、戦部先輩が、出ていません」
戦部小次郎(
ja0860)。彼らと共に依頼を受けたはずの彼は、一度たりとてPVに姿を現さないままだった。
「いいんですよ」
しかし、共にPVを見ていた小次郎自身には一切の悔いはなかった。
「僕は、僕が優先すべき事をしたまでですから」
牟田が聞いたと言う、子供の声。小次郎はPVよりも、そちらの探索を優先した。カメラに映る事無く別行動し子供を捜す彼に、さんぽもカメラに映ってない時を狙って足跡を調べるなどして協力している。
「ふうむ、なるほど、なるほど。だがしかし、私の依頼は飽くまでPVの作成。PVに必要ないシーンは消させてもらった」
「ええ、構いません」
きっぱりと、小次郎は言い放つ。
「……では、私はこれで失礼する。ああ、そのPVが入ったDVDは諸君に差し上げよう。それでは」
「何あれ、カンジ悪ーい」
むう、と不満げに彩香は唇を尖らせる。
「……あれ?」
と、不意にTV画面を見ていた白兎が声をあげた。
「特典映像……って何なの?」
画面には、先程までなかったそんなメニューが出ていた。
●特典映像
『撃退士(ブレイカー)……その名前とは裏腹に、彼らの本質は守護にある。そう言う者が、いる。これは、華々しい活躍よりも、小さな命を守護する事を選んだ、一人の撃退士の映像である……』
(これって……!)
画面に映るのは、ビルに突入する前。打ち合わせをしている6人の撃退士達。そんな中、小次郎は何も無いところで転んだり、頭をぶつけたり、しまいには眼鏡を割ってしまって何も見えません、と言い出した。
へらへらと笑いながら、自分は足手纏いなのでカメラの前に立つのはやめておきますね、とトイレへ向かう彼の背後を、カメラが追いかける。小型のものなのか、若干画質が荒いがみるのには問題ない。小次郎は先程までのへらへらとした表情を一転、きりっと引き締め、ビルの中を探索していく。
(こんな所まで撮られてたんですか)
(こっちはみてないから、ワクワクするね)
「マクミラン先輩今だよっ」
炎を放ち、カメラがエリスにパンした所でさんぽはさっと地面を調べ、小次郎にちょいちょいとサインを送った。小次郎はこくりと頷き、奥の部屋にあったロッカーの前で足を止めた。駅前にある100円コインロッカーの様な、小さな物だ。とても人は入れそうにない。身体の大きな牟田なら物陰は調べても、この中にいるとは夢にも思わないだろう。だが、丹念に調べた足跡は、そこへと続いていた。
果たして、子供はその中にいた。小次郎は彼を抱きかかえると、仲間達にぐっと親指を立て、背から翼を生やして窓から飛び立った。
●PVをみてどう思った?
画面に、明るい笑顔を見せる幼い少年の姿が映る。脅えきっていた先程の彼とは打って変わって、興奮した様子で頬を紅潮させ、憧れに目を輝かせている。
『すっごく格好良かった! 僕を助けてくれたお兄ちゃんも……それに、ビデオで戦ってた、五人のお姉ちゃんたちも!』
「ちょっ」
「助けてくれたお兄ちゃんはともかく」
「5人の」
「お姉ちゃん……」
「なの?」
「ぼっ、ボク男だからーー!」
セーラー服を着てそう叫ぶさんぽの声は、PVに映る少年には当然届かない。
『僕、将来絶対撃退士になるんだ!』
真赤になって否定するさんぽをよそに、少年は画面の中できらきらと瞳を輝かせ、そう言うのだった。