●全員の心情描写から開始しますがスライムのお話です
どろどろしてて粘着性。
「淫らな行為に及ぶスライムですか?」
レイラ(
ja0365)の感想は、なんというか身も蓋もないものだった。そういった直接表現を避けるために色々と頑張っていたというのに。それはともかくとして、不思議なこともあるものだ。本来、人間など魂としての食事に過ぎないはず。そういった行為に及ぶ必要は、元来ありえないものであり、意味の為さないものだろう。とは言え、一度引き受けた仕事である。であれば、全力で頑張るまでだ。
「うぇースライムースライムだってー」
心底嫌がっている、鬼燈 しきみ(
ja3040)の反応は当然のものだろう。ベトベトした粘着性の質感。ゲル状のそれは、触れるところを想像するだけで鳥肌が立つ。嫌気もさそうというところだ。何より、誰だって脱がされたいとは思うまい。溶かして、脱がして、悪戯する。そういう敵で、そういう生き物。自分が被害に合えば。考えたくもない。ともあれ、敵。敵だ。とりあえずは頑張るとしよう。
服を溶かす。服を溶かすらしい。流石に天魔であるためか、∨兵器にまで効力を及ぼすことはないそうだが。逆に言えば、人肌には無害であるそうだ。よく分からない。よく分からないが、否。それ故に興味を惹かれもする。実際に見てみたいものだと、飯島 カイリ(
ja3746)。下に水着をと、万が一の重ね着。それが功を奏せば良いのだが。しかし、乙女の敵というのは頂けない。倒そう。倒してしまわねば。
えちぃことをしてくるスライム。服を溶かすとか、暗闇で襲ってくるとか、女の子に悪戯をしてくるとか。そういった要素を全部ひとくくりにしてしまえば、そういう言葉になるだろう。そういう相手だと聴いているし、ソリテア(
ja4139)もそういうものなのだと認識していた。だからこそ、罪悪感が湧いてくる。下手を踏めば、自分が被害に合うのは当然だ。そういう任務なのだから。わかっているからこそ、なおさら。恋人への自責の念に苛まれる。
「ま、またスライムさん出たですか……」
ユイ・J・オルフェウス(
ja5137)の脳裏に浮かぶ記憶は、生い立ちとしてのトラウマだとかそういうものではない。ごく最近のものだ。触手、あの時は触手だった。はだけさせられた肌。身体を這いまわる肉の感触。その感覚に反応した自分の意味は、今も理解できぬままだ。思い出すだけで、恐怖に晒される。だが、押し殺さねばならない。自分の感情は、二の次に。
「怖いなんて、言ってられない、です」
「よくこれだけ女子だけ集めたね、あの魔女。まあ男性陣に見られることはないのは最後の救いか」
アニエス・ブランネージュ(
ja8264)はその手口にある種、感服する。仕事なのだと知って自分達から集まったのだとはいえ、半ば強制的に行動させられたようなものだ。かといって、内容を聴いてしまえば引き返すことなどできない。だがまあしかし、自分達のあられもないそれを。欲情した男性陣に見られることはないというのは、最後の救いだろうか。
「すら……いむ? なんだか弱そうな響きだねっ。今回は楽勝かなっ?」
テイル・グッドドリーム(
ja8982)の感想は、ある種アベレージとして正しいのかもしれない。スライム。日本のメジャーなビデオゲームなどでは弱小として扱われる存在だ。ゴブリン、ゾンビと同じく雑魚として登場し、経験値稼ぎにもならない。だが、刃物も打撃も銃弾も通じにくい身体。不定形で予測不能。そう考えれば、厄介なものだ。それに、今回は脱がしてくるし。
二班に別れたことを、沙 月子(
ja1773)が確認する。敵はひとつ。暗闇の中でも在ることを考えれば、固まって動いてもメリットはないとの判断だろう。その間に一般の誰かが襲われないとも限らない。幸い、敵の攻撃に殺傷性はないのだと聴いている。そこが不可解な点でもあるのだが、少人数とはいえ生命に関わることはないだろう。貞操には十二分に関わるかもしれないが。そこはそれ、元よりそういう任務であるのだから。
ライトを手に。道を別れた。予感は悍ましく、想像は恐ろしい。夜とはそういうものだが、この時だけは、別のそれでも満たされていた。
●探索発見分かっていたことですがスライムのお話です
骨肉もないのにちょっと力強い。
さて。攻撃を仕掛けたいのなら、仕掛けたい相手が居るのなら。まずは何を考えるべきだろう。武器、それは使い慣れたものでいい。名乗り、まさか威風堂々と正面から仕掛けるわけでもあるまいし。場所、嗚呼それは大切だ。それを踏まえて行うべきがある。相手に攻撃を仕掛けたいのなら、始めから優位に立ちたいというのなら。まずはそれを。そう、不意打ちを考えるべきなのである。
ぼとりと、落ちてきた。頭上、人間の死角。突然性に、心は悲鳴をあげても身体は硬直している。粘着性、生暖かい。人肌。まとわりついてくる。スライム。そこまで思考が追いついた時にはもう、ゲル状の侵略は始まっていた。
さーて、デロいの書いていきますかー。
●ここから酷いことになりますのでスライムのお話です
単細胞だから話を聴いてくれない。
べちゃり、と。その粘質はレイラの頭上からへばりついた。異様な質感に、身体が硬直する。彼女の姿は競泳に使われるような水着である。この格好で屋外を捜索していたのだろうか。人通りのある場所であればきっと注目の的になったことだろう。次は是非そうしよう。
事態を把握できなかったとて、それを天魔が待っていてくれるわけもない。どろどろとしたそれは彼女の豊かな全身にまとわりついていく。這いまわる度にナイロン繊維が溶けていく。夜空の下、顕になっていく肢体。気づいた頃には、身動きも取れぬほど全てを支配されていた。
もがくも、動けない。力を込めても押さえつけられ、粘体のそれが弾力を持つ。素肌の上を、撫でる。思わず漏れそうになった声を抑えつけ、負けじと抵抗する。蠢かれる度に、吐息が溢れる。我慢して、力の抜けそうになる脚の奮えを隠した。
終始襲う悍ましさ。そしてもうひとつ。それが何かを自覚せぬまま、羞恥に顔を赤らめる。
「ほみゅああああああああああ!!?」
カイリがあげた精一杯の叫び声。きっと仲間にも届くだろう。味方以外の誰かが来なければ良いのだが。
回転式拳銃から放たれるそれが、スライムに突き刺さる。だが、それでも怯むことなく自分のところまで這い寄った。効いては、居るのだろう。ただ、足りないのだ。直接的な攻撃に強い。防御に特化された性質。
ぞわり。絡まって、絡みつかれて。バランスを崩された。全身に覆いかぶさられる。その後は、悲劇が待っていそうなものだが。
「ふにょ?」
衣服を溶かされて、いるのだが。下にせっかく着込んだ水着まで溶かされているのだが。それでもカイリは気にもせずというふうに、スライムの中に飲み込まれた自身を動かした。自由は効かないのだが、その感触を楽しむように。だが、全身を蝕むトラウマが外気に晒されたあたりで、突然ブチ切れた。
「何見てんのこの(不適切な表現が含まれますので美しい川と船の景色を見てお待ちください)!!」
「凍ってくれればいいんですけどね……お姉様、力使います! Curus=Undine=Forts『The Third Fortune/Arctic Blizzard』!」
ソリテアの詠唱に応じ、極小魔弾の群れが粘質のそれを襲う。一部は氷結に見舞われるものの、全体を閉じ込めるには至らない。僅かに空いた隙間を封じそこねたそれが埋める。目前に悪意の塊。抵抗もできず、彼女もまたその海へと引きずり込まれた。
容赦なく溶かしきり、顕になった上を蠢いた。夜に響く大きな声。それが自分のものだと気づいても止められず、意志に関係なく沸き立つそれは嫌悪よりも寧ろここから先は書けないから脳内で保管しようぜ兄弟。
「全く、もぅ……虎鉄さん、ごめんなさい……」
罪悪感に苛まれるが、それが引鉄となった。切り替わる。より死に近く、死に等しく。黒へ、黒へと堕ちていく。彼女は変貌して、
「ヒャッハー」
なんか世紀末になった。
「ゼッタイ、ぜーったい、捕まらない、です!」
ユイの発言全てから、必死さが感じられる。捕まればどういうことになるのか、どういう仕打ちにあってしまうのか。彼女はよく知っている。身を持って体験しているのだから。
「来ちゃダメ、ですよ」
距離を取り、十二分の警戒心を持って。彼女は攻撃する。倒さなければならない。倒してしまわなければならない。それでも、自分の中での最重要はそれじゃない。捕まらないこと。絶対に捕まらないこと。自身の貞操を守るために、何よりもそれが重要なのだ。それでも。
嗚呼、仲間が捕まっている。捕まってしまっている。衣服ははだけ、素肌を晒され、悍ましいあれが全身を這い回っている。聴こえてくる声。嫌悪感と色の混じった何か。だから、嫌だけど。嫌だけど。
「嫌なのは、わかってる、ですから。私、頑張る、です」
助けだそう。その異質にしがみついて、引き剥がそう。それでも、無情なものだ。その先は想像に任せるが。
イカズチと、雷鳴と。痺れた身は確かに動きを止めるものの、やはりその巨体。そのタフネス。期待していたほどの効果は得られないようだ。しかし、月子は焦ることなく次の手へと切り替える。虚空から生えた釘。それらは情けを見せることなく粘体に突き刺さった。
「うふふ、可笑しいですねえ? この釘は罪がなければ刺さらないはずなんですけれど」
だが、固形であることは不定形にとって優位とは言えない。事実、場所としての不可侵を作れはするものの。自身を移らせるそれからすれば、そこへの固定は功を為さない。彼女も例外なくその奔流に飲み込まれは、するのだが。
「この程度で私を満足させられると思ったら大間違いですよ!」
応えていない。衣服は溶け、素肌は外気を感じ、今もって尚不快な粘質が全身を舐め回してはいるのだが。まるで応えていない。どころか、武器を持ち替え天魔を打ち付けた。
「女王様とお呼び! って……1回言ってみたかったんですよねえ」
今回の、好きにやってしまって良いと言われた枠。
普通は、逃げるものだ。衣服を溶かすと言われ、悪戯されると言われ、貞操の危機だと言われ。そんなものに捕まったなら、引きずり込まれたのなら、普通は逃げるものだろう。だが、しきみは別だった。もがいても逆効果だと感じた彼女は、流れに身を任せることにしたのである。諦念。諦め。無論、それで解放してくれるわけもなく。
引きずり込まれた。引きずり込まれた。衣服の繊維が分解され、消えていく。飲み込まれていく。生まれたままの姿がさらけ出されて、恥ずかしさに身を隠したくとも拘束はそれを許してくれない。這いずりまわる。べとべとが自分の上を這いずりまわる。舐め回されていると言ってもいい。声は漏れ、抗うことも出来ず。屈辱と恥辱ともうひとつ何かのないまぜ。脳を侵食されているかのような。尊厳は失われ、諦観は服従に染まっていく。声に色香がえーこれ以上書いちゃだめなんですかーやだー。
いくら高火力の武装とはいえ、ライフル銃での近接戦は心もとない。アニエスは近づいてくるスライムを見るや、リボルバーへと獲物を換えていた。撃つ。撃ちこむ。避けられているわけではない。当たっている。効いていないのではない。それでも怯むだとか、倒すだとか。そういった点にまで届いていないのだ。
「くっ、ディアボロがこんなことをして何が楽しいと……」
足元から這い上がる粘着性のそれ。タイツを溶かしながら、徐々に登ってくる。上ってくる。自分の体を、昇ってくる。銃を向けるわけにはいかない。その向こうには自分の脚があるのだから。それをわかっているのだろうか。なぶるように、舐めるように。ぞっと、ぞっと。上がってくる。上がってくる。
「いやぁっ」
手で押しのけようにも、剥がれてくれない。タイトスカートを溶かし、ブラウスを溶かし、下着を溶かし。と、ぎゅっと。
「くぁ、駄目、やめぇ……」
その声には、嫌悪以外のものが含まれていて。
身代わり。それは正義の行い。身代わり。それは自己犠牲。美しい行為である。今回の場合はとりわけ、見た目的にも美しい行為である…………今のおっさんくさいね。なしなし。
スライムの怖さ。テイルはそれを思い知るはめになっていた。何をしているのか。何をされているのか。わからない。理解できない。きっと、嫌なことをされているのだ。それだけはわかる。どうやって抗っていいのかわからない。まるで舐められているようで、まるで指先を這わされているような。喉に力を込め、声が漏れるのだけは押し殺している。それを許してしまえば、許してしまえば。自分が守らなければならない何かも漏れだしてしまうような気がして。
味わう無力感に浸らせてくれることもなく、悪戯は続く。ついには自らそれをさあてこれ以上やると怒られるので我に返ってスライムぶっ飛ばしたぜ!
「……死なす。殴って死なす。生まれた事を後悔する間もなく死なす。慈悲はない」
●勝利こそしたものの被害状況的にスライムのお話です
総じてデロい。
あ、こんな描写ばっかだったけど皆ちゃんと戦ってたんだよ。ほら見て、もう戦闘終わるところだから。それは誰の一撃だっただろう。先までの俊敏性など、それにはもう失われている。逃げられない。襲うこともできない。そこに見舞われた拳は剣は弾は魔は。何よりも慈悲がなく、怒りの意志に満ちていた。
もう、動き出すようには見えない。油断させる、ということもないようだ。別の意味で荒くなっていた息を整え、羞恥を感じてあたりを見回した。嘆息。幸運なことに、これだけ騒いだにも関わらず誰も近寄ってくる様子は見受けられなかった。
反復しようとして、かぶりをふる。思い出したくはない。悍ましいのだと自分に言い聞かせた。それ以外がたとえあったとしても、心の奥底にしまっておこう。もう、語ることもなければ思い出すこともない。是非、そう願いたい。
とは言え、乙女の敵は切り捨てた。世界は確実に平和への一歩を進んだのだ。今はそれを誇ることにしよう。身体を念入りに拭いて、夜の屋外で着替えとかしながら。あれ?
「えーと、この格好で学校まで……帰るの? 色々な意味でとても若干危険が危ないんですけどっ!?」
若干名、忘れ物をしたようだ。まあそれはそれ。備えあれば憂いなし。備えないから嬉しいな。
それはそうと。
「デロいって結局なんだろう?」
はて。
了。