●念写現像タルモイフ
憧憬と達成への困難性の緩和。
ダイエット。筋肉トレーニング。豊胸。シェイプアップ。それぞれが想像する肉体美というものは様々ではあるものの、総じて目標値を想定していればその完成は比較的容易になるとされている。そうであれば、体感、体験すればなおさらであろう。その発想から生まれたものがこちら、パンプアップ乗馬マシーンである。
一週間限定マッチョ。それを叶えてくれる謎のマシン。いったいどういう原理でできているのだろう。緋伝 璃狗(
ja0014)は思い悩んだものだが、答はでない。考えたら負けだとでもいうのだろうか。ともあれ、鍛錬は自分の趣味でもある。鍛えて、鍛えて、鍛え続けて。その先まで辿り着けば自分の体はどうのようになっているのだろう。想像して、掻き消すことにした。興味は、楽しみは、後にとっておくとしよう。叶えば良いのだが。
見やるに、それは何ら変哲のない乗馬機械である。所謂ロデオマシン。テレビ番組などでも時折現れるため、実際に触ったことのないものでも見覚えはあるだろう。神楽坂 紫苑(
ja0526)にしてもそうであった。これに乗って、乗りこなして。そうすればマッチョになるらしい。まるで意味が分からないが、まあそう言うのならそういうものなのだろう。
「実験台ねえ? で、この機械に乗ればいいのか? で、一週間マッチョになる? マジか」
「マッチョ……」
拳をグッと握って、田村 ケイ(
ja0582)。肉体改造可能な謎マシン。乗ればたちまちあなたもマッチョ。素晴らしい。素晴らしいではないか。ムキムキになった自分を想像してみよう。衣服の上からでも分かる盛り上がった筋肉。目を剥いて驚愕する親友。思い浮かべる。思い受かべた。ウン、アリだ。再度拳を握る。無に近い表情からはさっぱり読み取れないのだが、期待に胸を膨らませていた。本当に膨らむかもしれないが。
「こ、これに乗れば一週間だけ胸を小さくできるんだね……」
峰谷恵(
ja0699)は胸が大きい。ぶっちゃけ巨乳である。それがひとつの悩みでもあった。それが、一週間だけでも解決するかもしれない。そうと思えばこそ、この依頼に参加したのである。マッチョ。筋肉質。つまるところそれは、限りなく脂肪を減少させた状態である。であれば、この大きすぎる胸も小さくなるに違いない。その一心であり、逆の危険性は考慮の外であった。
まるで生贄だ、なんて。機嶋 結(
ja0725)は感想する。筋肉質になれるという機械。その完成。人体実験。捧げているようなものだとは、素直に思考できた。だが、そんなことはどうでもいい。仕事があり、報酬が入る。それであればなんでも良いのだ。それに、筋肉量を上げられるというのなら、ディアボロへ抗する力になるかもしれない。それはそれで、自身の向上にもなりそうだ。この小学生、非常にドライである。
そろそろ丸一日半袖で過ごすことも少なくなくなった今日この頃。思い浮かべるのはもう少し先のこと。そう、夏である。海だとか、プールだとか。そういったものに限らなくとも、薄着の増えるあの季節。引き締まったお腹に、太もも。身体を搾りたいのはヴィーヴィル V アイゼンブルク(
ja1097)にしても同じであった。過剰に筋肉質であるのも困りものだが、適度に贅肉を落として。スリムになった身体を愛しい人に見て貰いたいものだ。
(強い肉体かー……興味あるんだぞ、と)
一週間だけ誰でもマッチョ。筋肉質で、肉体美。そんな活力あふれる身体。レノ・アクセル(
ja3433)だって男の子だ、関心は尽きない。天魔と戦って、戦って、戦って。そんな日常。生傷の絶えない殺し合いの日々。そんな中でたまにはこんな依頼も、息抜きにはちょうどいいのかもしれない。それに、うまくやればより高みへと昇ることができるかもしれないのだから。体を解して、準備に専念していた。
「実験! 素敵なお姉さんやお兄さんと一緒に肉体改造とかもう最高です!」
レイ(
ja6868)が歓喜を口にした。周りを見やる。目に映るのはこの仕事を共にする仲間達だ。当然、幼い自分よりも歳の離れた者が多い。年上が好きだ。大好きだ。お兄さんもお姉さんも素晴らしい。より肉体に磨きをかけられるこの依頼であれば、なおさらであった。大丈夫かこの小学生。
「オイラも立派な体をゲットしていっぱいうはうはするぞー!」
●悪態罵言ルートワラ
即効性と短期間性の調律。
さて。
眼の前にあるそれ。馬の形をしてはいるのだが、頭も、脚もない。鞍まわりの部位だけだ。馬らしいのはそれだけで、その他のパーツは全て非常に機械的ですらある。
もう一度、ルールを確認しておこう。これに座り、スイッチを入れ、乗りこなせば。マッチョになれる。ただし一週間だけだ。理想の肉体を半永久に手に入れるには、近道などないということだろう。
そして、トラブルの可能性もありうるのだが。それは実験とまで言われて参加しているのだから、諦めるしかない。効力の程を確かめる第一被験者が自分達なのだから。
ごくりと、喉を鳴らす。何が起きるのか分からない不安と、筋肉質という肉体への憧れ、期待感。それらが綯い交ぜになった感情の中で、覚悟を決め。彼らはそれに手を伸ばした。
●実験不明スレイベン
ところでまあおっぱいなわけだが。
つい冒頭文が思い浮かばずネタバレしたわけだが気にせずいこう。璃狗の胸元に、違和感。下を見れば、否語弊がある。下を向いても見えなかった。そこには揺れる大きな塊が実っていたからだ。塊っていうか、ぶっちゃけおっぱい。
「胸筋だけ異様に発達した……わけじゃなさそうだな」
思わず触れてみるのだが、明らかに筋肉の質感ではない。脂肪のそれだ。男の体に、そのまま乳房がついているのである。当の本人にも違和感があったが、見ている側にとっても大きなものだった。男性の体格についた女性のそれ。うん。なんだこれ。
「これも一週間続くのか、もしかして」
一週間。この異様な姿のままでいなければならない。何か対策を取る必要はあるだろう。いくらなんでも双子の姉に下着を借りるわけにもいくまい。とりあえずさらしでも巻いておこうか。たゆん。なかなか上手くいかない。再挑戦。たゆんたゆん。
「もういっそ、一週間女装でもしてやろうか……」
乗り終えて、息を整えて。それでも紫苑の姿に変化はない。
「やっぱり慣れて無いからな〜しょうがないか……」
ところがぎっちょん。大きくなる。どんどん大きくなる。あという後には、たわわなそれが大きく自己主張していた。
「なんで、胸が大きくなるんだ? これで、成功? マジかよ? あ〜似合う服もって無いんだよな……どうするか」
着物か、スーツあたりが妥当だろうか。思考していれば、横から声がかかった。目に飛び込む女物。思わず顔がひきつったのを自覚して。首を横に振る。似合わないと思う、なんて言い訳を述べながら。それでも数分後には押し切られていた。
ダウナー。ぐったりとしたものだ。大きな胸を撫でる。締め付ける違和感。下着のせいだろう。ついぞ、女性物をつける機会などなかったのだから。男性の大半に、生涯そんなものはないが。
後ろに忍び寄る影。誰かに抱きつかれた。触れられて、思わず声が出る。顔を赤らめて、しゃがみこんだ。なんだこのときめき。
「あら? 可笑しいわね。胸しか盛り上がらないじゃない」
なんて。ケイがあまりにわくわくするものだから、現実を伝えられないなんて一悶着もったのだけれど。
それはそれとして、いきなりサイズが変わったのだ。バストなんてものとは無縁だった男性陣を別にしても、下着の調達は必要であった。
「大丈夫、女性として図り方くらい知ってるから」
言っては、男性の胸を測り始める彼女。
「何……恥ずかしい? 諦めなさい」
表情に変化もなく。もくもくと。そして顔を赤らめる男。教えてくれ、誰が得するんだこの光景。誰だこんな依頼考えた奴。俺だ。
「いい? ここをこうやって……」
男に向かい、真顔で下着の着用法を教えているこの光景を。どうやって伝えよう。どうやって書き表せればいい。否、最早事細かには描写すまい。書いているだけで正気度が減少していきそうだ。
「ブラは同サイズの物を3着ずつ、さらしはふたつずつ買ったから。ブラは洗濯する時はネットに入れてね」
家庭的。
揺れる。揺れている。活動する乗馬マシンに揺さぶられて。揺れている。揺れている。恵の桃源郷が、がっつりしっかり揺れている。
あまり揺れすぎて下着が痛んでも困るのだと、予め外してから事にあたったのが仇となった。今や彼女の大きなそれを抑制するものは何もなく。物理力に従うまま上下に揺れていた。あれだ、こういうのが書きたかった。ぼいん側もしっかりこういうの入れただろうな?
機械を止めて、地面に降りて。当然ながら彼女に待っているのは、更なる肥大である。たわわと以外にどう表現しようその大きなふたつは、少しの間をおいてさらに強大な武器へと発展していった。主に男性向けの。たまに女性向けの。
嗚呼、既に顔より大きくなろうかというそれ。女も目を見張り、男は思わず生唾を飲み込んだ。ブラウスのボタンが弾け飛ぶ、だけならいざ知らず。布地は悲鳴をあげ、その大きさに耐え切れず天寿を全うすることとなった。この続きはR指定だから、見せられないぜ。
ロリ巨乳。という言葉はご存知だろうか。今知らないと言った奴、虚言の疑いがあるので後で職員室だ。
ともあれ、ロリ巨乳である。今の結はまさしくそれであった。
「これは? どういう事です?」
睨まれ、その凄みに圧倒されるスズメバチ。
「い、いやあ……なんでかな。うん、ほんとに」
原因究明を、とは念を押しておいたものの。果たして何か説明のつくものが帰ってくるかどうか。
「しかし、どうしましょう」
試しに、揉んでみる。エロティックなシーンではあるものの、当の彼女が無表情だ。性的なものは感じられない。それがまたそそると思うのなら、重症だと警告しておこう。
「女性ホルモン云々と、授業で聞いた気はしますが……」
如何せん、それに関しての知識は不十分である。元より、彼女の年齢では気を回さなくても良いものだ。対処の手段は、仕事仲間より教授されることにした。
下着。それは新しい知識である。興味を持ち得たという感情こそ、彼女の得た一歩なのかもしれない。
乗馬のお手本を、と。意気込んでいたヴィーヴィルではあったのだが。考えてみて欲しい。この暴れ馬マシーンにそんなものは全く必要がない。必要はないのだが、流石は経験者というところだろうか。乗り方は様になっている。見ていて優雅なものだ。腰掛けたそれのハッスル具合と比べれば上下で非常に違和感を感じ取れるものではあったが。
そんなことよりも、ヴィーヴィルの頭の中は愛する姉のことでいっぱいだ。愛しい愛しいあの人。くちづけたい。甘い恋仲になりたい。いっそ添い遂げたい。無理にでも押し倒したい。姉妹で主従関係なんて背徳的だろうか。ならば人と畜生の関係にまで落ちるのもいい。何もかも捧げ、捧げられてしまいたい。何この子怖い。
胸ポケットに忍ばせた写真のことを思う。それだけでうっとりする。現実からトリップする。理想の体を手に入れて見せよう。待っていてねお姉さま。思いに胸が膨らんだ。失礼、実際にでかくなった。
結局のところ、自分の抱いていた期待というやつは考えていた以上に大きかったのだろう。レノはぐるぐる回る思考の中でそう前提付けることにした。筋肉質な自分、磨き抜かれた肉体。戦いに適し、特化した己。そこに抱いていた憧れは、自覚のそれよりも遥かに高く鎮座していたというわけだ。だから、だから自分はこうして今。部屋の隅なんぞで丸くなっているわけで。
膝に、胸が当たる。胸筋ではない。脂肪の塊だ。大きなそれ。しゃがみこんでいるせいで、持ち上げられ。更に強調されている。作り上げられた谷間に思わず目がいった自分を思い、再びテンションが下降していく。
大きく揺れるロデオマシン。あれを乗りこなす運動は、それだけでもなかなか楽しいものだった。いい汗をかいて、これで強い体を手に入れられるのだと思えば良いものだ。そう思っていたのも束の間、自分に備わったのはそれなわけで。思わず、叫んだ。
「なんじゃこりゃああああああ!!??」
「すげー! おっぱいすげー! 重たいー、うはうは」
これが、巨乳化したレイ(10)の台詞である。信じられるだろうか。とりあえず触って、。揺らして。挙句に何を思い立ったか、湯船へを直行してしまった。
「すげー! おっぱい浮いてるーぷかぷかしてるー!」
あ、でもこのへんは歳相応っぽいな。
だが、自分ので喜んでばかりもいられない。自分以外にも、魅惑のそれらは十四。七組しっかりと存在しているのだから。
「同性だから大丈夫だよね、大丈夫だよね!」
流石に女性へはと、考えたのだろう。かと言って、まっさきに男性へと抱きつくの考えものだが。
「重たいよね、オイラが支えてあげる」
男の乳を持ち上げる少年。なんで俺今回、誰得シーンばっか書いてんだろう。
頬にキスをしようとしたら、流石に殴られた。案外胸が重い。その重量が回避を拒否していた。
「うう……巨乳って大変なんだな。重たくてしょうがない……巨乳のお姉さんは尊敬に値する。でも家のお姉ちゃんは除外」
●錯綜無常カノファージ
知ってるかい。この書き手、初めて付与した称号が男っぱいだってよ。
一週間。その期間は長いようで短いもので。同じ曜日。七日後。きっかり壱百六拾八時間。その頃には膨らんだのと同様。彼ら彼女らのそれも萎み、元のサイズへと戻っていることだろう。それまでは、まあ校内でちょっと風変わりな学生を見かけることになるかもしれない。彼女らはいつもと体格が違ったり、あるいは。彼らはちょっとどこで手術してきたんだと問われるようなそれをしていることだろう。
スズメバチは、彼らに深々と頭を下げていた。今のところ、どうしてこのような結果になったのかはわからない。目下調査中とのことだ。なんとなく、察しはついているのだが。なんにせよ、同時期に他の仕事へとあたっていた連中が、自分達とは正反対のそれをしているのだから。苦くも笑うしかないだろう。
この原因解明において、たゆん部、ぼゆん部というふたつの部活動を巡り。また大きな事件に発展していくとかいかないとかあるのだが。
まあそれは。お後がよろしいようですので。
了。