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マスター:yakigote
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/01


みんなの思い出



オープニング

●ダンディズムストライク
 とある教室。とある放課後。そこでは様々な活動が行われている。部活動に励むもの、友人とお喋りするもの、勉学に励むもの、修行に明け暮れるもの。様々だ。
 よってこれも、生徒たちのいち場面である。
「だから、なんでそうなんだ! 自分が恥ずかしくはないのか!」
「あなた達だって人のこと言えないじゃない! もっとらしくしたらどうなのよ!」
 ふたりの生徒が口喧嘩している。誰も止めに入らないところを見ると、どうにも日常茶飯のようだ。
「それだけ恵まれていて、なぜ活かそうとしない! 持ち腐れにもほどがある!」
「同じ事そのまま返すわよ! 羨ましいくらいなのに!」
 言い争いはやまない。むしろ、どんどんエスカレートしていくようだ。
「こうなっては仕方ない……戦争だな!」
「ええ、決着をつけるしかないようね!!」
 そうして決別する。口付けしそうな距離でいて、互いの表情は険悪以外の何者でもなかった。

●タンデズムガスタンク
「頼む、手伝ってくれ!」
 集まった彼らに対し、その少女は頭を下げた。
 背筋が張って、しゃんとした印象を受ける。長い黒髪を結い上げ、それが大きな胸とあいまって妙に艶かしい。ただ、奇妙な部分をあげるとすれば。なぜか付け髭をしていることだろう。どうしてカイゼル髭。
 少女はナナフシと名乗る。どうしても意見の合わぬ相手と勝負をすることとなり、その助力を請いたいのだという。
「どこまで話しても反りが合わぬのだ。その為、やつらのクラブと戦うしか無い」
 どうやら、部長同士での言い争いというようだ。部活動そのものの総意として相いれぬのだと。して、その部活とは。
「うむ我々は、ダンディズ部。凛々しさを追い求めるクラブだ」
 よし、意味分からん。
「君たちに戦ってもらいたいのはマンダ部。筋肉質な男たちだけで構成され、乙女らしさを求めるクラブだ。私たちの理念とは正反対のものだな」
 思考停止した彼らを余所に、少女ナナフシは言葉を続ける。
「やってもらいたいのは料理勝負だ。向こうの提案した形式に則る形となったのだが、如何せん我々の中には調理に精通したものはいない。任されてもらえないだろうか」
 そこで再び頭を下げる。彼女としても切羽詰っているのだろう。了承すると、明るい笑顔を見せた。それがどうにも可愛らしくはあったのだが、言わない方が良いのだろう。
「ありがとう! 料理のジャンルは問わない、手段もだ。とにかく相手を驚かせるようなものをつくってくれ!」


リプレイ本文

●デイトレードレート
 初めて見たときは、なんて羨ましいのだろうと思った。理想的な肉体。男性と表現するになんら差支えのないフォルム。自分が求めるもの。自分にはけして手に入らないもの。この男は、それを全て持ち揃えていたのだ。

 放課後。夕暮れ。一般のそれとは別に、広めに場所どられた教室で。そこに二組のグループがあった。
 かたや、背を張った少女らである。凛とした空気を纏い、何故だか一様に口ひげを生やしている。まるで似合っていないカイゼル髭。
 かたや、筋肉質な少年らである。筋骨隆々、マッチョと表現するに些かの疑念もない。だが、内股であることが異様な不自然さを醸し出している。
 一触即発。触れれば火傷しそうな、ぴりぴりした空気が張り詰めている。その中で、その中央で、彼ら八人は丁度調理を終えたところだ。芳しい香りが漂い、鼻孔をくすぐられる。時間が時間だけに空腹を助長させ、食欲を煽るものであった。
 ナナフシが声をあげる。
「さあ、試食してもらおうか。この料理で貴様らに止めをさす!」
 およそ、料理勝負という場には相応しくないセリフ。それでも、売り言葉に買い言葉。
「望むところよ、あたし達の正しさを今日こそ思い知らせてあげるわ!」
 一品目が並べられ、箸を手に。いがみ合う中、それぞれが手を合わせ同時に審査の開始を宣言した。
 いただきます。

●レディレイディ
 次に感じたのは怒りだった。よりにもよって、その男は自分の求めるそれとは対極に位置していたのだ。それも、それを追求しているのだという。手に入らないものを魅せつけられ、高いところへ放り投げられたような気分を感じさせられた。

 ダンディズム。アーレイ・バーグ(ja0276)にとってのそれは、日本的な潔い散り際なのだという。それを料理で表現するのだと、大きな胸を揺らせて意気込んでいた。どうでもいいが、こんな格好で風邪を引かないのだろうか。
「見られて恥ずかしいスタイルはしてません!」
 そういう問題ではない気もする。
 ともあれ、彼女の調理したものが審査員であるたんぽぽら、並びに同席するナナフシらにも配られていく。この時間帯で、一方だけが食事にありつけないという苦痛もあるまい。置かれた皿には、極々普通のステーキとパインサラダが盛りつけられていた。なにか特殊な調理法が見えるわけでもなく、肉も近場で購入できるものだ。これのどこに和の散り際があるというのだろう。疑問を顔色に見せるかれらに、アーレイは口を開けた。
「日本の美、それはハラキリやカミカゼに象徴される散り際の美です。そこでこの料理を用意しました!」
 自信満々に胸を張っている。揺れた。なんてアメリカン。
「言い伝えに依れば、ステーキとパインサラダを食して任務に出た場合かなりの確率で美しく散れるそうです。審査員の方々には是非このステーキとパインサラダを食べて美しく散って頂きたいと思います!」
 堂々の暗殺宣言。この女、初対面相手に死ねと言っている。
「散り際の美しさこそがダンディズム! 私はこのダンディズムを象徴する料理こそダンディズ部にふさわしいと確信するものであります!」
 こいつ怖ぇ。誰もがそう思いながら、恐る恐る肉を噛んだ。
 割りと美味しかった。

 下妻笹緒(ja0544)が調理したものは鍋。豚肉の白菜鍋である。昼夜問わず肌寒いこの時期、やはり日本の料理といえば鍋になるだろう。手法そのものは特に凝ったことはしていない。旬の食材である白菜を、豚バラと共に土鍋に放り込んだだけのもの。出汁には干ししいたけと昆布を使用し、ひたすら煮こむだけ。手元には受け皿とぽん酢が配られる。
 勝負に勝つ。笹緒の料理にはその理由以外の意味も込められていた。白菜と、豚肉。野菜と、肉類。それらはまったく違うものだ。生まれる場所もその過程も、食卓に並んで初めて接点を持つものだ。だが、鍋に入ったこれらはどうだ。いっそ正反対とも言える両者。それらは喧嘩をせず、お互いを引き立てあってより素晴らしい世界を構築してくれる。いがみ合う両部も、こうした関係になにか思う所があってくれれば良いのだが。
 人間同士、たまには争うこともあるだろう。喧嘩して、勝負して。それもいい。しかし、食事というものは賑やかで、穏やかな雰囲気のもとに行われるのが一番であると笹緒は思うのだ。
 皆が箸を踊らせる。少女らも、少年らも。わいわいと、がやがやと。だがそれはけして険悪のものではなく。この冬を芯からあたためてくれる調和に、等しく胸を弾ませるものなのであった。
「料理とは心だ。相手を想い作るという行為は、間違いなく決定的な味の差となるのだよ」
 パンダの人情に、目頭が熱くなる。

 セクハラひとつ。
「ひゃぅ……揉んじゃだめですよぉ……」
「このおっぱい凄いよぉ!?」
 何のお兄さんなんだろう。声をあげたアーレイのそれに手を埋めたのは獅子堂虎鉄(ja1375)。今は裏人格でてとらなのだとか。
「も、揉んだら大きくなるから駄目えぇ!」
 意味不明な叫びを出したのは権現堂 幸桜(ja3264)。凛々しさを表現するためにと本日は狼の耳をあしらったカチューシャをつけている。これでどう凛々しさが増すのかは全くもってわからないが。
 ともかくとして。
 完成した料理は盛り付けられ、少年少女らの前に運ばれる。だが、今回のそれは皿ではなかった。人間、てとら本人に盛りつけられてそれらは運ばれてくる。女体盛り。ではないか、この場合。正直、誰かやると思った。
 試食側に驚きの表情はない。当然だ、この場で盛りつけられる一部始終をその目で見ていたのだから。その際、体に乗せられた料理に悶えるてとら、慌てる幸桜と一悶着あったりはしたのだが。冷静にふたりとも男だと思い出せば、複雑な感情でいっぱいである。
「凛々しさ、それは『覚悟』! 伝説の漢女盛りで覚悟完了したてとらを食べてっ!」
 おとめもりと読むらしい。笹の葉を巻いたビキニ姿。その上に並ぶ寿司。なんというか最早無我の境地。感情らしい感情の見えぬ顔のまま、マンダ部の面々がそれらに箸をつけていく。その感も、この受け皿が割りとちょくちょく変な声をだすもので。
「てとらのお稲荷さん食べられちゃう、あぅ……」
 あ、本当に稲荷寿司のことです。今これ書いてる現在海月の倫理規定にひっかからないか不安でいっぱいです。
「箸で挟んだら白いの出ちゃう!」
 軍艦巻きのマヨネーズです。そろそろ上から怒られるんじゃないかと心配でなりません。
「ああ! てとらちゃんが穢れた!」
 寿司からこぼれ落ちたマヨネーズがてとらに滴り落ちると、幸桜が慌てて拭き取りながら激昂した。お前それはひょっとしなくてもギャグで言ってるのか。
「……てとらちゃんに謝れ!」
 幸桜が涙目になりながら審査員を睨みつけて威圧する。それは非常に可愛らしい光景ではあるのだが、一体誰が得するんだこれ。
 ようやっとの思いで平らげると、また幸桜に運ばれて盛皿が下げられていく。ホッと一息ついた面々の背後に、男ふたりの魔の手が忍び寄っていた。
「刺し穿つ――恍惚の葱ッ!」
 背後から幸桜が持ち上げて、その尻に向けられ突き刺さる長ネギ。あがる悲鳴。一体何故この悪戯をやろうと考えついてしまったのか。尻をさする審査員に向け、彼らが勝ち名乗りをあげる。
「凛々しさは太さ・長さ・硬さが重要だねっ♪」
「ネギは身体に良いから問題無いよ!」
 これ、本当に誰が得をしたんだろう。

 或瀬院 由真(ja1687)が調理したものは、題して男のブレックファースト。セット内容はカツサンド、ハッシュドポテト、微糖コーヒー。それらの全てに冠詞として『男の』がついている。
「弟の犠牲を無駄にしない為にも……まずは一本、取らせて頂きます」
 きりっとした顔で何か酷いことを言う彼女は、どうしてか着ぐるみ姿である。かわいらしいライオン。獣の王。なんでも笹緒に触発されてしまったのだとか。この姿で勢い良くキャベツを千切りにしたり、ポテトをトンファーで豪快に潰していたりしたのだから恐れいる。そういや狼もいたな。パンダにライオン。アニマルランド。
 それにしても、朝食と名を打つにはどうして重いようにも思えるが。
「朝食はがっつりと。朝から腹がペコちゃんな状態で戦えるとお思いですか!」
 妙な迫力に圧され、それではひとつとサンドイッチを口に運ぶ。口いっぱいに広がる多すぎるくらいのソース味。
「この、わざとらしいソース味! ソースの味って、男の子ですよね」
 こういうの好きだなシンプルで。しかしこのボリュームにはたまらない。ポテトもモーニングに出るものより大きく、なかなか腹にたまるものだった。
「ラストの二枚……これが効くんです」
 おいそれ結局もたれてるんじゃないのか。
 なんとか平らげたのを見ると、最後にそっとコーヒーを差し出した。苦味が程よく、なんだか安心させてくれる。
「朝食にお似合いなのは、こういうものなんですよ」
 そろそろネタが思い出せない。

「……さて」
 ラグナ・グラウシード(ja3538)が作り上げたものは、所謂プリン・ア・ラ・モードである。小洒落たガラス容器に乗せられたプリンに、生クリームと添えられたフルーツ。いかにも甘味らしいそれ。乙女たる審査員らも小躍りして喜びそうなものではあるが。あったが。しかし。
 躊躇する。躊躇している。だって、調理していたその様を知っているから。その様子を見ていたから。砂糖を入れて入れて入れて入れて入れまくったそれ。それを知っているからこそ、躊躇していた。だが、ラグナからすればこれが適量だ。甘党からすれば普通なのだ。マジかスゲエな甘党。
「何……『乙女』とは甘いものを愛するはず、そうじゃないのか諸君ッ!?」
 かっと目を見開いて、ラグナが一喝する。偏見云々より度が過ぎていることこそ問題ではあるのだが。
「『乙女』とは……心優しく美しく、しとやかでたおやかでいとけなく愛らしく、はかなさと繊細さを持ちそれでいて容易く男を寄せ付けないような凛としたところがあり、かといって男に冷たくなく愛情を注ぎ続け―――」
 あ、この後ちょっと長いので割愛します。
「―――よって、貴様らが『乙女』などとは片腹痛いわ!!」
 お、おう……そ、そうか。
 まくし立てた私見。語られる女性論。それには乙女を目指しているはずのマンダ部面々でさえ、明らかに引いていた。圧している。気力では打ち負かせているぞ。
 女性像に妄想いっぱいの男の人って……

 星杜 焔(ja5378)は興奮していた。何に。この任務にだ。その表情のせいで、周囲の誰一人としてその内情に気づくことはなかったが。興奮していた。正しく、激しく。興奮していたのだ。自分に課せられた任務。その全うにどうすべきか。その一点のみに支配され、没頭していた。
 彼はこの日の任務において、遺憾なくその才能を発揮してみせた。即ち料理、日曜大工、機械操作である。よし、後ふたつは何に発揮したんだ。
 皿の代わり、少年少女らに差し出されたのは小型の劇場、木製の軍艦模型。それとカイゼル髭のからくり軍人人形である。これがなんだというのだろう。首をかしげた所で、それらが動き始めた。
 劇場は天井から現れたイカ型の天魔人形を、軍人人形がそれらしい振る舞いを披露し、見事討伐してみせる。そうすると天魔人形の中からイカスミカレーが溢れ出し、白飯の盛られた軍艦模型の木皿に流れ込んだ。白飯の所々に隙間が作られており、そこにカレーがたまることでカイゼル髭の絵に見せている。これで完成だ。
 口にして美味ではあるのだが、乙女である彼らにしてそれは評価の対象として薄い。だが焔曰く、そこに使われた材料により、種々の美容効果があるのだとか。そうと聞けば食さぬ訳にもいかず、胃の中に収められていく。
 間もなくして平らげられた皿。軍艦模型。それは最後の演出にと変形すると、中からアロマを含んだ花が舞い上がり、夕暮れの教室を飾り立てた。
 日曜大工、ぱねぇ。

 本日の〆として、それが彼らの前に並べられていく。肉じゃが。家庭料理として思い浮かべるならば、それがその中に含まれることは必然だろう。昔から、ひと通りの家事をこなしていたと言うだけのことはある。石田 神楽(ja4485)にとって、それは慣れたものだ。だが、問題は味ではない。味ではないのだ。
 食べても。食べても。食べても食べても食べても食べても。どれだけ食べてもおかわりが運ばれてくる。ちくしょうどんだけあるんだこれ。さっきから結構な量食ってんだぞ。
 それでも、おかわりは止まらない。何度平らげてもどれだけ食べても送られてくる。まさにわんこ肉じゃが。エターナルフォース肉じゃが。相手はおなかがいっぱいになる。
 それは、審査員を打ち負かす料理。確かに美味しい、だが味ではないのだ。面食らうわけではない、奇抜性ではないのだ。量だ。ただただ量が凄まじい。美味しいからと、いくらでも入るわけではない。人間、胃袋の拡張には限界がある。腹が張った息苦しさを感じ、そっと箸を置こうとするも。それは神楽が許してくれなかった。
「お残しは……許しません♪」
 顔は笑っている。だがなんだろうこの殺気は。まかり間違って食べ残そうものなら、これまでに味わったことのない恐怖を実感するのではないかとさえ予感させる。何故だ、何故この男の後ろに割烹着着て肥満気味なおばちゃんの幻影が見えるのだ。
 眼を擦れど、その幻は消えず。震える自分を感じながら。彼らは皆、また箸を開いていった。

●ショートボム
 私であるために、私はそれを認めらない。

「負けよ。私たちの負け。具体的にどうというより、いろんな意味でね……」
 少しだけ悔しそうな顔で、たんぽぽ。
 もう、日は沈みかけている。そろそろ帰り支度を始めねば、見回りの教師が様子を見に来ることだろう。
「でも……」
 顔を下に向けていたたんぽぽが、険しい表情でナナフシを睨みつける。
「これであたし達が否定されたわけじゃないわ! マンダ部が終わるわけじゃない!」
「くっ……あくまで自分たちの主張は曲げぬつもりか!」
「ええそうよ! 今度はあんた達が得意なもので勝負よ! それで公平ですものね!」
「望むところだ! 次こそ引導をくれてやる!」
 売り言葉に買い言葉。勝負が終わっても、まだまだ打ち解けあうには遠いらしい。嗚呼、スピーカーから終わりの曲が流れている。そろそろ帰路につかねばならない。片付けて。教室を出て。ドアを閉めて階段を降りるまで、彼らの喧騒は響き渡っていた。なんだか生き生きしているようにも聴こえる。本当に、仲が悪いのだろうか。
 後日、また違う勝負が開かれ。その為に今度はたんぽぽが頭を下げに来ることになるのだが。
 まあそれは、別のお話。
 了。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
獅子堂流無尽光術師範・
獅子堂虎鉄(ja1375)

大学部4年151組 男 ルインズブレイド
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト