●形式的に心情から始めますが芋虫のお話です
見るからに卑猥な形状。
夏だ、海だ、いやらしい生き物だ。そんなキャッチフレーズを振りまいたかどうかは知らないが、そこは明らかに寂れていた。いない。人間がいない。当然だろう。危害の加えられない怪異であるからこそヒトは好奇心を顕に出来るのだ。自分に笑顔を見せた斧男など恐怖の対象でしか無い。事態が事態だけに男性客くらいは居るかとも思ったが。どうやらその様子はない。きっと、段階的にそういうフェイズも終了してしまったのだろう。
「デロ依頼のおかげで妹ができました!」
ゼロノッド=ジャコランタン(
ja4513)は豪語する。いかがわしいとか、そんなことはない。なんか俗性の強い雑誌の裏側に載ってそうだとか、そんなこともけしてない。妹ができますデロ依頼。君も参加するといい。もれなくひどい目にあうが。それはそうと、ゼロノッドの装備は万全だ。敵はこちらの衣服を溶かすのだと聴いている。ならば二重構造、中に白スク水である。なんてマニアックな。
「いもむしのディアボロ……育って蝶になったりしたら、きっと大変なことになるに違いない! がんばってみんな弱いうちに倒さないとッ!」
レグルス・グラウシード(
ja8064)は真面目である。健全と言ってもいい。世の男共はこの状況を聴けば色めき立つというのに、そういった事への関心はまるでないようだった。曰く、純真な男子中学生がそんなことを知っているはずもないだとか。いや、知る限り中学生ってのはもっとエロいが。
「あの魔女からの依頼には、気をつけていたつもりだったんだが……まさか別名義で呼び出されるとは」
以前にも似たような手口でこんな依頼に向かわさせられたのだ。アニエス・ブランネージュ(
ja8264)なりに、警戒はしていたものの。どうも、あの橙の方が一枚上手だったようだ。
「健全に退治しにきたんであって、デロい目に遭いに来たわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
ふーん。はーん。ほっほう。
敵の数は多い。だが、それぞれの個体は貧弱である。繊維質にダメージを与えられるのだと聞いた以上、その攻撃が味方にかかるのは極力防いでいきたいものだが。
「今回は男はわたくしともうひとりしかおらんので特に女性のあられも無い姿は避けたいな」
今ナチュラルに自分を別カウントした蘇芳 更紗(
ja8374)だが、彼女にとってはこれが普通のことである。とはいえ、彼女自身の自己主張はその自覚に反してはいるのだが。
あ。
「……何か、ああいう蟲食べてる民族の人思い出しちゃった……うへぇ」
恵夢・S・インファネス(
ja8446)の言葉に、それもそれでやらしいなと感じたら友達だ。いずれ握手しよう。とはいえ、余計なことを口走ったのには違いない。想像してしまった仲間諸共テンションが落ちていく。厨二風にいうと堕ちていく。気持ち悪さの助長は、攻め気を失わせるのだが。あ。
「……ホラー映画とかだと、内側から食い破られたり……気を付けてね!」
「蟲相手に負けていたらこの先不安ですよ……」
香我美 優姫(
ja8687)の言うももっともではある。戦闘力としては貧弱な部類に入る天魔。それにすらてこずるようでは、撃退士としての将来が危ぶまれるだろう。なにせ、向こうはさしたる殺傷力すら持ち合わせていないのだ。しかし、その行動には熟練のそれといえど腰が引けよう。服を溶かし、悪戯をする。だからこそ対策として、彼女も中に水着を着てきたのだ。これで万全である(フラグ)。
「殺傷能力が無いとはいえ、鬱陶しいことこの上ねーな。さっさと潰して帰ろうぜ?」
弱小だからといって、侮っていいわけではないのだが。テト・シュタイナー(
ja9202)の言葉は、そういう意味ではないだろう。集団でまとわりつき、生死には関係のない攻撃を繰り返す。かと言って、放置するわけにも行かない害獣。それこそ、面倒といえば限りがない。ところで、何やら楽しそうですが。まあそのあたりの展開は、戦闘中に。
「うふ……醜いイモ虫がたくさん……ね。あらあら……いたずらが好きなの……?」
こう、あれだ。エロい。江見 兎和子(
jb0123)に対してどうやって他の表現をするべきだろうか。
「そんなにぬるぬるを出して……やだわ、興奮してるのかしら……?」
何せ、台詞の時点で使いどころを間違えれば発禁もありえるそうだ。倫理の壁ってのは案外と分厚いものである。
「ふふ、楽しませてくれないと、おしおき……よ」
しかし、記録者としてその限界にまで擦り寄らねば。結果はともかく読み物としては失格になるだろう。よーし、いつもどおり上に怒られないギリギリラインではっちゃけるぞー。
●強かに戦闘項目と別けますが芋虫のお話です
強く噛んだりはしない。
虫が居る。それ一匹に恐怖を感じることは、まああるまい。生理的な嫌悪を感じることはあろうが、それに生命の危機を見出すことはまずない。ましてや、貞操観念などと。だが、それが複数ならばどうだろう。蝗の大群は作物を食い荒らし、蟻の軍勢は象をも殺す。では芋虫のそれであったならば。
それらがこちらを向いた。虫にしては大きく、無数であり、ぬめっている。その視線。嫌なものしか浮かばないまま、害虫退治は始まった。
●上長の顔を伺いながらですが芋虫のお話です
群で行動する。
好きにやっていい。そう言われたら、あなたはどうするだろうか。そのままに受け取るか。それとも反抗してしまうか。私は無論、はっちゃけてしまう側なわけだが。
アニエスの身体に薄桃色の幼虫が張り付いた。え、戦闘シーン? カットですよこれからがっつり年齢指定ギリギリでござーますよ。近接武器が不得手な彼女にはそれを振りほどくことが出来ない。やっとこさ、武器を振り上げた時にはもう、二匹、三匹とそれらが這い上ってきていた。
溶ける着衣。外気にさらされた肌の上を、虫が這う。虫が這う。その奇妙な感触。気持ち悪いのとそうでないのとの間。力が抜ける。折れそうになる膝。容赦はない。ひとつ、またひとつ。虫は数を増す。それそのものを着ているかのように。彼女の身はさらけ出されていく。隠している余裕もない、女性の象徴。肉の蠢く刺激に、漏れそうになる声を押さえつけた。両手で口を閉じる。それを外に出してしまえば、何かが崩れてしまうとでもいうように。
更紗は分類的に女性である。それは間違いないのだが、その認識を改めようとさえ思える光景がそこには広がっていた。
戦闘が始まってからこちら。彼女の衣装など、とうに溶かし尽くされてしまっている。言い方が古いが、生まれたままの姿といっていい。だが、それへの羞恥心など彼女の所作には見受けられない。流石に下半身に関しては隠しているものの、上はそのままだ。禁断の果実を食べた物語で言うとアダムの方の格好だ。こう、なんだ。男には嬉しい光景。嬉しい光景のはずなのだ。彼女が『いたずら』を意にも介さず虫を潰すその勇姿。動きまわる度に解放された更紗の女性は揺れる。大きく揺れている。だが何故だろう。それに下卑た感想を抱けないのは。どうしてだろう。それに興奮を感じることが出来ないのは。
非常に残念だ。残念でならない。誰ですかこの子をこんな風にしたのは。もっとこう初めての恥じらいに戸惑うにやにや状況とか書かせなさいよ。これはこれでありだけど。ど!
「折角の武器なのに虫退治なんだもんなぁ……はぁ」
恵夢の憂鬱。まあ、磨きぬかれたそれの矛先が。何やら公序良俗に反するような害虫退治に使われるというのだから、テンションも落ちていこうというものだ。聞こえた声に目を向ける。どうやら、お楽しみの真っ最中のようだ。どっちが、とは言わないが。その色に面くらい、思わず顔を背けた。だが、尾を引かれるように首を曲げる。恥じらい、とでもいうのか。その様は彼女にとって気になるようで。
嗚呼、しかし。だがしかし。戦闘中である。敵は待ってくれない。それはそれらは容赦なく衣服のほつれを生み出して、衣服の隙間に入り込む。
「ぅひぅ……何か、変な所入ったかも……」
なんとか振り払ったものの、溶けた衣服では戦えない。すぐさま着替えをと予備服に手を伸ばすが、群の胎動はそんな余裕を与えてなどくれなかった。あふれる、殺到する。諸共にされて。もう、振りほどくにも及ばず。ぬめる粘液を。頭から浴びせられた。
「燃え尽きろッ、天魔!」
レグルスの魔術はディアボロを確実に仕留めていく。だが、単体への攻勢はこれに対してさしたる成果はあげられない。数えきれない魔の大群。それを前にしての作戦。彼は、杖から盾へと己の得物を持ち替えた。面積。範囲。その圧倒に押しつぶされる虫。虫。汚い悲鳴。感傷にもならない。それでも、あまりに多勢。一方的に叩き続けられるはずもなく、その悪意の指先は彼をも撫でる。跳びかかる虫。しかし、持ち替えたことが幸いした。構えた盾は、その本来の役割として彼の身を守ってくれる。
「くっ……そんな攻撃、受け止めてみせるさ!」
私は何を書いているんだろう。台詞を書き上げた途端に取り戻される冷静さ。それは彼、レグルスにも訪れていた。周りを、仲間の安否を伺う余裕ができたのだ。当然ながら、それにより見てはいけないものを見てしまうわけだが。
慌てて視線を戻す。見えた。見えてしまった。肌の色。色の顔。顔と声。思春期には、刺激が強い。
問題なく。危なげなく。戦っているということであげれば、彼女。テトもそのひとりにあたるだろう。
「こんだけ固まってんなら、纏めて吹っ飛ばせねーかなっと!」
巻き上がる砂飛沫。彼女の目論見通り、その衝撃に圧され複数の虫が吹き飛んだ。いくら衣服を溶かしてきても、いくら『いたずら』してきても。やはりディアボロの中でも弱小な部類に入ることは間違いない。個々体の戦力は、撃退士のそれに及ぶべくもなかった。
だが、どうにも様子がおかしい。虫が、ではない。彼女、テトがだ。妙なタイミングで力が緩む。やや前かがみになる。心なしか息が荒い。頬の赤みが強い。なんとはなしか、艶がある。彼女の聖域。そのスカートの中で、何かが動いたような気がした。もぞり、もぞり。その動きに合わせ聞こえる、くぐもった声。裂帛の気合に満ちたそれではない。色香を孕んだそれは。振り返る仲間。だが、意に介さず答えた。
「あ? ちっと疲れただけだ、気にすんな」
「あら……はりきって大きくなってるのがいるわ……? とっても元気が良いのね……」
兎和子の言葉に、何がとは返すまい。言うまでもなく虫のことである。他の何かを想像するなんてとんでもないのだ。
気合のこもったそれも聞こえるが、同時に甘い声も、仲間からは届いてくる。その様に、妖しく微笑んだ。
「ふふ、お尻が震えて、かわいいわよ……頑張って、ね……?」
そう言いながら、掴んだ虫を仲間の肌へと貼り付ける。声はより色を含んだが、笑みを深める結果にしかならない。鬼かあんた、いえ面白いですもっとやっちゃいましょう。
「はじめまして、イモ虫さん……そんなに慌てなくていいのよ……?」
とす。とす。這い寄ってきた虫にも、慌てず。騒がず。刺していく。刺していく。刺して刺して刺して刺して刺してほら。虫ダンゴの出来上がり。それを払い捨てて、次は輪切り。次は開いて。次は、次は。笑みは深まり、深まり。喘いでいるのか喜んでいるのか判別しづらい深淵が、響いて。響いて。
「デロい……どェロい……どエロい……はっ! 大変だ! 早くみんなに知らせなきゃ!」
何か大変なことに気づいた様子のゼロノッド。恐ろしい事実の一端を握ったかのような驚愕ぶりだが、そこに恐怖の色は見られない。何故なら傍らには優姫がいるからだ。姉妹が揃えば百人力。どんな敵にも負ける気がしない。
「もうなにも怖くない」
勿論フラグ以外のなんでもねえけど気にすんな。おっとこんなところに奴らが撒き散らした粘液の溜まり場が。がっつり転んだゼロノッド。いやもう襲われる前からへばりついてデロノッド。何言ってるのか自分でも分からないがこのまま行こう。虫が、虫が、虫が虫が虫が虫が彼女に這いよりよじ登りあらわとなった肌を卑しい思いで這いずり周る周り周って。しかしそこに助け舟が来ないわけがない。何故なら傍には優姫がいるのだから。
「姉様に付いちゃ駄目です! 姉様はウチの物です!」
おほほいおほほいなんかこいつとんでもねえこと口走ったぞ。それでも虫は容赦ない。ふたりを絡めとるに十二分な虫が押し寄せてくる。撃退士がふたりで何が怖いんですか。姉妹丼、最高じゃないですか。
はじめに漏れた声はどちらのものだったのか。どちらだろうと同じ事だ。その頃にはふたりとも、抵抗する気力を失っていたのだから。細かい描写すると怒られるからやんないけどずりずりと皮膚の上を移動される度に身体が刎ねる。抗うことができない。抗うつもりもない。脳髄を満たしていくそれに身を委ね、自然と発生されるそれを最早隠そうともしない。その醜態であることに、何ら気恥ずかしさを覚える余裕もない。
ただ、ただそれでも。寄り添うことは忘れなかった。最後の力を振り絞り、砂浜に身を転がせて互いの元へと辿り着く。息が荒い。身体が熱い。理性など保っていられない。手を繋ぎ。抱き合い、見つめ合って。
「お姉ちゃんもう……!」
「いいよ……一緒に!」
これ以上は修正食らうからマジ勘弁な!
●けして18禁に触りませんが芋虫のお話です
どういう意図で生まれた生物か激しく疑問。
悪は去った。撃退士達はついに敵を倒したのだ。長く苦しい戦いだった。追い詰められた敵が合体し、脅威の生命体サンドウォームへとフュージョン進化した時はもうダメかと思った。だが、仲間達を思う気持ち。チームワーク。愛。なんかそのへんのものがこんがらがってうまいこといってぶわーって倒せたのだ。そういうことにしといて。
シャワーを浴びて、用意した着替えを身に纏い。戦士達は帰り支度を始めていた。各々で用意してきただけに、中には調達が間に合わずマニアックになっている者も居たが。
(……この依頼のことは、彼女には内緒にしとこう)
少年は、皆の顔をまともに見ることも出来ない。刺激が強すぎたのだろう。これからの成長に悪影響を及ぼさねばいいが。いいが。もっかいくらい言っとく?
「姉様の襲われているときの顔可愛かったです♪」
姉を抱きしめる妹。その発言も結構問題あるが大丈夫かオイ。
ともあれ、これで誰かが救われたのだろう。失ったものも変に大きかった気がするが、細かいことは気にするな。あの魔女のことだ。この先も似たような依頼を出してくるに違いない。
なに、それはまた別のお話。さて、
「朝食用に、クロワッサン、買って帰りましょうか……」
え、マジで?
了。