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マスター:楊井明治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/05/16


みんなの思い出



オープニング


 その会議は市民ホールの会議室で行われていた。

 入り口には「Q−on商店街組合、一本桜お花見会議」と書かれているが、中は張り詰めた空気に包まれている。
 そこへ息を切らせた白い作業服の伊達男が駆け込んできた。
「遅くなってすみませんッ!」
 商店街組合員たちの視線が一斉に集まる。
「床屋、待ってたぞ! 大丈夫か?」
 ホワイトボードの前に立っていた男が、今にも崩れ落ちそうな床屋を支えた。彼は魚屋なのだろう、ゴム長に白い鉢巻をして、微かに磯の香りがする。
 床屋は忙しなく呼吸をしながら、集まっていた商店街組合の面々の方へ顔を向けた。
「う、噂は、本当でした! ダイビーデパートの、今年の花見は、い、一本桜に決まったそうです! しかも、一本桜の満開が予想される日……我々と同日にッ!」
 会議室がどよめく。
「何てこと!」
「一本桜はここらでは開花が遅い唯一の桜……」
「この時期に花見となれば、やはりダイビーめ、一本桜の満開日に合わせてきたかッ!」
 床屋は悔しそうに顔を歪めた。
「し、しかし、そ、それ以上の情報は……!」
 今だ苦しげに息をする床屋を、魚屋はそっと横たえる。
「もういい、休め。それ以上喋るな! 客のダイビーデパート社員から情報を聞き出すという大役、ご苦労だった……」
 衝撃に包まれた会議室の中のざわめきを、皆落ち着け! と、目覚まし時計の音を高らかに響かせて時計屋が制する。そのジリリリというアラームは目覚ましというより、むしろ警告音のようだ。
 次第に静まり返っていく。
「――ということですが、いかがいたします。組合長」
 時計の頭につけられたスイッチを静かに押し、時計屋が振り返る。
 視線の先には髭を蓄えた着物の老人がどっしりと座り、どこも店仕舞いした夜の町を眺めていた。老人といっても逞しい肩幅を持ち、その姿には威厳がある。組合長と呼ばれたその翁は、ゆっくりと立ち上がり会議室の正面に立った。
「うろたえるな、諸君。この毎年恒例行事となった商店街組合の花見は、今年も予定通り実行するものとする」
 組合長の低い声に平静を取り戻したように、空気が引き締まる。
「しかし組合長、聞いての通りダイビーデパートも一本桜の花見場所を確保しにかかるはずですが」
「一本桜は開花の遅い桜。だからこそ通常の花見時期は何かと忙しくなる我々商店街一同は、毎年この桜での花見を開催してきた。二十年……二十年という長い月日、それを守り抜いてきたのだ」
 ばんっ、と机に平手をつく。
「騒音を撒き散らすヤンキー共もッ! ライバルである漁業連盟もッ! あの強敵だったママさんバレーボール団からさえも一本桜を勝ち取ってきた我々がッ! 易々とダイビーデパートなどに場所を明け渡すだろうか!?」
 組合長の力強い口調に、会議室はにわかに沸き立った。
 そうだそうだ、渡さないぞ! 私たちならやれるわよ! そんな声があちこちから上がる。組合長は満足げに頷く。
「場所取りが許されるのは午前十時から……その時まで、ダイビーデパートを一本桜に近づけさせるな!」
 喝采が巻き起こる。
「これはただの花見の場所取りではない。商店街の威信を賭けた聖戦なのだ。チェーン化の波に飲まれ、人情の温もりを忘れた現代人に、今こそ不況の時代にも負けぬ古き良き商店街の底力を見せつけようぞ! 覚悟はいいかッ!?」
 皆一斉に拳を掲げる。銃……ではなく、メモ用のボールペンを手に。
「肉屋は油を火にかけろ!」
「はっ!」
「魚屋はありったけの氷を!」
「へいっ!」
「八百屋はトラップの準備を!」
「おうっ!」
 組合長は組合員たちを鼓舞するようにホワイトボードを叩いた。

「今年も一本桜の花見は、我らQ−on商店街のものだァァッ!!」


 一方その頃、ダイビーデパートでは二人の平社員が深い深い溜息をついていた。
 先程上司に呼び出され、重々しく伝えられた命令が、彼らの心に灰色の雲を渦巻かせている。
 即ち、
『今度の花見の場所取り、君たちに任せようと思う。社長も来るからね。くれぐれも、失敗のないように。期待しているよ』
 ということだ。
 その日は商店街の花見もあることを知っていた彼らは当然それを伝えたが、では他にどこで花見が出来るのかと問われれば、もはやこの時期に花見の出来る場所など他にない。
 だが、どうする?
 平社員の山田と吉田は顔を見合わせた。
 Q−on商店街が花見にかける並々ならぬ情熱は、この近所を生活圏とする者なら誰でも知っていた。何せ二十年も連続で一本桜が満開に咲き誇る日、花見を開催しているということである。彼らを出し抜こうと、今まで幾つもの個人グループや団体が挑戦してきたが、ことごとく返り討ちにあっているというのは有名な話だ。
 そうでなくとも、個人商店をその規模で圧倒するダイビーデパートは、普段から商店街との折り合いが悪い。この状況で商店街を敵に回すなんて、命がいくつあっても足りないんじゃないだろうか?
「吉田君、俺たちだけじゃ無理だ……」
 思いつめた表情の山田に、吉田は困ったような視線を向けた。
「だからって、どうするんだ? 命令されたのは俺たち二人だけ。誰も助けちゃくれないぜ」
「ああ。でも、場所取りのためなら、多少の出費は経費で落ちることになってる」
 山田は何か決意を秘めた目を吉田に返す。
「何だよ、山田……お前、何を考えてるんだ?」
「アルバイトを雇おう」
 携帯電話を握り締めている。すでにある番号は打ち込まれていて、あとは山田が押すのを待つばかりのようだ。吉田はそんな山田を見て脱力した。
「アルバイトって……いいけど、学生やフリーターであの商店街を何とか出来るか?」
「ただのアルバイトじゃない、吉田君」
 山田の指が通話ボタンに伸びる。
「久遠ヶ原学園の学生――撃退士だ」


 その頃、異様な興奮に沸き立つQ−on商店街の会議室を携帯電話を片手にそっと抜け出す人物がいた。
「……はい、万事問題ありません。今からメールで当日の商店街メンバーの布陣を送ります」
 静かに電話を切り、盛り上がる会議室を横目で振り返ってニヤリと笑う。
 その携帯電話の煌々と光る画面は「ダイビーデパート」という文字が浮かべ、すぐに消えた。

 それぞれの思いが交錯し、斡旋所に依頼が張り出され、そして今一本桜が花開こうとしている――。


リプレイ本文


 デパート社員二人は撃退士達に、再度念入りに場所取りを頼んだ。
「場所独り占めは良くないと思うんだよね! というわけで場所取り頑張るよー☆」
 マリス・レイ(jb8465)が元気よく請け負う。
「……でもさー1か0っておかしいよね? 半分ずつ使っちゃ駄目なの?」
 小首を傾げるマリスに吉田は慌てて首を振る。
「うちは社員が多いんだ。半分じゃ上司に殺される!」
 来崎 麻夜(jb0905)と共に麻生 遊夜(ja1838)に寄り添うヒビキ・ユーヤ(jb9420)がこくりと頷く。
「上司と部下、商店街の団結……内通者。……相変わらず、人間界は、複雑怪奇」
 藍 星露(ja5127)が目を細めた。
「お花見ね……。桜は……あたしも思い入れ深い花だし。それにこだわる商店街側の気持ちも理解出来るけど――依頼された以上は本気で挑むべきお仕事よ」
 まさか花見の場所取りとはと遠石 一千風(jb3845)は一般人との競合いに気乗りしない様子だが、星露の言葉に同調する。
「依頼はやり遂げるわ」
 敷物の上で飲食すれば場所取り完了だ。
「両方忘れずに持ってかなくちゃね」
 麻夜の声に、準備は大事、と用意しつつヒビキがまたこくり。
 シートやサンドイッチを用意してきた一千風は、持参していない仲間に予備分を渡すと、準備が整ったと山田に頷く。

 星露が頼もしく笑う。
「場所取り、やってあげようじゃない」

 平社員達は祈り、撃退士の背中を見送った。

●南の歩道
 一千風とフリフリエプロンドレスの只野黒子(ja0049)は南の歩道を急いだ。
 場所取り解禁の十時までに突破及び敵の足止めをしなくては。
「突破か合流阻止、どちら優先ですか」
 黒子が一千風の行動指針を確認していると、荷箱を背に立つ男の姿が見えてきた。
 八百屋だ。
 一千風と黒子は瞬時に身構える。
「私達は撃退士です。大人が変なプライド張らず道を開けてくれませんか」
 出来るなら一般人を傷付けたくない。一千風が声を張った。
「ダイビーに雇われたな、お嬢ちゃん達」
 呼び方にムッとしていると、もう一人現れる。酒屋だ。エプロンドレスの黒子に悔しげに顔を歪めている。どう見ても可愛らしい童女、つまり未成年。
「くっ、酒は使えんか……だが、ここは通さん。命に代えても!」
 交渉は決裂らしい。
「食らえ!」
 荷箱を開くと、西瓜や蕪がごろごろ転がってきた。
 まず動いたのは一千風だ。極力武器は出さずに強行突破を図る。
 勢いよく転がる西瓜を片手で軽く受け止めた。力の差を見せ付ける。
 しかし、そこを狙って酒屋がペットボトルロケットを放った。
「予測済み、です」
 射撃の連携には特に警戒していた。素早く、黒子が弾く。撃ち落したその武器、布団叩きである。
 一千風の突破を助けるべく、酒屋の攻撃を請け負う。
 だが、その間にも次々と野菜が転がってきて煩わしい。
「くっ……もう容赦しないわ」
 一千風は黒子を守るように外殻強化で防御力を上げ、転がる巨大南瓜を受け止めた。そのまま南瓜を楯に八百屋へ近付く。ジリジリと押し返す姿にただならぬ重圧を感じ、八百屋は狼狽した。酒屋も慌て、ロケットを飛ばす。
「遠石さん、来ます」
 黒子の警句が響き、一千風は即座に身を伏せた。すかさず黒子がロケットをスマッシュして注意を引き、一千風は一気に八百屋を轢き倒す!
 酒屋が炭酸をスプラッシュしたが、べたついて気持ち悪いだけとそのまま強硬突破した。
「さあ、拘束して先に進……」
 だが敵もそこで終わらない。言いかけた一千風と黒子を瓶炭酸のコルクが弾丸の如く襲い掛かった。間一髪、布団叩きで一千風をかばい、黒子は敵に向き直った。
「ここは、私が食い止めます」
 一千風は頷き、先へ走る。
「フッ、その先にはバナナトラップが……!」
 南瓜に轢かれた八百屋が叫ぶのとほぼ同時に、発勁が一直線に黄色い罠を消滅させ道を作り、一千風の姿が遠ざかる。
「私がお相手です」
 突破し、既に高所は取った。今度はこちらが道を阻む番である。機動戦はとらない。
 黒子は徐に予備の布団叩きを取り出す。ここからはカウンター力向上のため二刀流だ。すっと構える。

 迎撃準備、完了。

●北の歩道
 マリスは翼を広げ、上空から北の歩道に遠く敵を発見した。
「よーし、全力移動で回り込むよー! 挟み撃ちだー☆」
 地上を行くのは星露、そして楯清十郎(ja2990)である。
「場所取りに人を雇うほどの桜。一見の価値はありそうですね」
 清十郎は準備した荷物を抱え直し、歩を早める。
 マリスに気付かぬうちに、二人は道に立ちはだかる肉屋と花屋に迫った。
 事前情報通り、体にラードを塗った肉屋と、女性の花屋が彼らを待ち受けている。
「来たわね!」
 花屋が花束を振り回すと、花弁が舞い視界を塞ぐ。早速の先制攻撃だ。
「女性を直接殴るのは気がひけますし困りますね」
 でも、と清十郎は構える。攻撃法にちょっと納得いかない。
 そこで用意するは――今日まで冷凍庫で保存されていた創作チョコ、通称生畳チョコである! カットしてあるとはいえ、名の通り畳サイズの抹茶チョコ。
「こいつの封印を解く時がきましたか」
 一方、星露は肉屋と対峙していた。
「俺に攻撃は効かん。熱々コロッケを食らえぃ!」
 マッチョなボディが油で光る。
 だが星露は怯んだりなどしなかった。
「なかなか面白い戦法じゃないの。だけど……この格言を知ってる? 『目には目を、歯には歯を』!」
 制服と靴を脱ぎ捨てると、何と下に着込んでいた指定水着に!
 そして自らも体にラードを塗りたくる。
「……これであたしも同等の回避能力を得たということよ」
 更に、熱々の惣菜に対抗すべく出したのは豆板醤入りの激辛春巻きや焼売だ。どちらが先に高い回避力を掻い潜り、相手の口に料理を押し込むか、いざ。
「――勝負よ!」
 コロッケが宙を舞い、焼売が乱れ飛ぶ。的確に口に入れなければラードで滑ってしまう厳しい勝負だ。
 さて、それを上空からのほほんと見つめる影はマリス。
「ラードとかぬるぬるするのヤだなー……というわけでコレ!」
 通販番組のようにばーんと重曹を取り出す。これを――。
「大量に撒くね! もちろん口に入っても大丈夫なように食品グレードです」
 きりっ。大量の重曹が肉屋に降り注ぐ!
「な、何ィ!」
 更に重曹は花屋にも及んだ。目潰しして怯ませようという、一般人を殴る蹴るしたくないマリスの平和的? な戦法というわけだ。
 すかさず清十郎が髪芝居を使うと、花屋は動きを完全に止められる。
「これから花を愛でようとする人が花を散らしてどうするんですか! キツイお灸を据えさせてもらいます」
 激辛惣菜が飛び交う中、フォークに刺したチョコをフェンシングの如く花屋の口に詰め込む。傷付けず、瞬時に、限界まで。
「安心してください。味は保障しますから」
 あと量も。
 たかがチョコだが、次第に満腹感が迫り来る。それこそが清十郎の狙い! 鼻を摘まんで開けさせ、チョコを徹底的に詰め込む。
 それでも抵抗する花屋に清十郎はとうとう最終兵器を出した。
 それは、チョコレート壊。苦味と金属の堅さを併せ持つそれを、口に放り込む。
「!」
 一気に尋常じゃない苦味に突き落とされた花屋は声もなく再起不能となった。
 後は、星露と肉屋の勝負だ。重曹で守りの面では一気に優勢とはいえ、惣菜攻撃については向こうに一日の長がある。
「真っ向勝負ではこちらが不利ね……。――でも、あたしは『女』よ。そして向こうは『男』」
 それも体にラードを塗りたくるとか、客観的に言ってもモテなそうと、分析。
「だからこそ、あたしには活かせる武器があるわ。――『女の武器』が」
 激辛春巻きを胸の谷間に挟み、さらに駄目押しで友達汁も使う。
 星露はにっこり微笑んだ。
「このまま、かぶりついて♪」
 抗える男がいるだろうか?

 北の歩道、制覇。

●中央の歩道
 お祭りみたいで楽しそうだねぇと麻夜はクスクス笑った。
「でも勝つのはボク達だよ!」
 遊夜はやれやれと呟く。
「何処も彼処も、大変そうだなぁ。ま、何とかしてみようか」
 先程から敵の近付いて来る気配を感じる。作戦開始だ。
「さて、それじゃ予定通りに行くぜ」
 遊夜の言葉に麻夜とヒビキが頷いた。
「ハァイ、それじゃ先に行くね」
 麻夜は飛んで後ろから奇襲すべくShadow Stalkerで姿を隠し、遊夜とヒビキは敵に備えた。
 やがて二人の前にマスターと魚屋が現れる。
「やぁマスター、お相手願おうか!」
 喫茶店のマスターは徐にコーヒー豆を取り出し構えた。
「予定通り、貴方の相手は私」
 そう言ってヒビキは魚屋と対峙し、
「お相手、仕る」
 徐に構える、ハリセン。
 今日も私のハリセンが、相手を叩けと、良い音を響かせろと、囁いている!
「氷も何もかも全て、我がハリセンで弾き飛ばす。でも放水は、駄目かも」
 良い音しそうにないし。さて。
「専攻を変えたばかりでな、何処までやれるか試すのも面白い」
 まずは遊夜がタウントで敵二人の注意を引く。麻夜やヒビキに行動のチャンスを作るため、そして何より――怪我はさせたくねぇしな、と。
「身体張るのは、俺だけで十分だろう?」
 ニヤリ。
 マスターと魚屋の攻撃は狙い通り遊夜に集中した。魚屋はともかく、マスターのコーヒー豆は正確で鋭い。遊夜の眼光が残像を残しながら狙いを定め――撃ち落とし、相殺する。
 マスターは驚きの表情を浮かべた。
「俺の腕も中々だろう?」
「ならば、これならどうです!?」
 コーヒー豆の弾が嵐の如く乱打される。回避が間に合わず、防壁陣を使い拳銃を用いた捌きで攻撃を逸らす。遊夜の得意とする近接型拳銃術だ。
「っと、俺もまだまだ未熟だな」
 やれやれと肩をすくめ、体勢を立て直す。
「この程度か?  まだまだ甘い! もっとだ、もっと来いやぁ!」
 そしてこの応酬の隙にヒビキが魚屋の足元に迫る。薙ぎ払いをかまし、スパーンといい音が響き渡った。
「足元に、ご注意?」
 さて、これだけ気を引ければ十分だろう。遊夜が麻夜に視線を送る。
 気付いた時には既に麻夜が背後を取っていた。
「死角にご注意、だよ?」
 クスクス笑う。
 だが尻餅をついた魚屋が麻夜に手を伸ばそうとすると、その表情が一変した。
「う・ご・く・なっ!」
 Reject Allの鎖が魚屋達を拘束する。
「ボクに触るなっ!」
 更に鎖鞭で氷やコーヒー豆を弾き飛ばす。武器をなくせば無力化しやすい。
 マスターが咄嗟にシルバーで対抗しようしたが、遊夜が押さえ込んだ。
 だが麻夜がホースを切断した時、予期せぬ事が起きる。水が、暴発したのである。
「しめやかに、爆発四散、慈悲はない」
 ――と言えば良いと聞いた。ヒビキが発勁の衝撃で、放水の威力と相殺する。だが、散った水は麻夜とヒビキが被ってしまった。
「先輩にばっかり負担かけるのも、ねー?」
 麻夜がヒビキを見る。
「それに、これはこれで、ね?」
 ヒビキも視線を返した。
 心配してもらったり、濡れ姿でアピールもありだよねと麻夜は、合流されちゃ面倒と魚屋達を縛る遊夜を見る。
「終わったら迎えに来るから勘弁な」
 そう言うと、遊夜は麻夜達の方へ小走りに寄った。
 心配させないことも、大事だけど、甘えれる時は、逃がさないようにしないと。ヒビキはこくり頷く。
「普段はガードが固いから」
 ――時間が許す限り胸元や、絶対領域とか、艶かしく魅せて、あっぴるする。
「スキンシップの時間は大事だよ?」
 自慢の髪やうなじに首、胸元とか拭いて貰ったり拭いてあげたり色々したーい! と、麻夜も欲望を駄々漏れさせていると、遊夜が二人に敷物用の布を被せた。
「二人とも大丈夫か?」
 くしゃくしゃ。

 作戦終了、しばし休憩。

●一本桜
 清十郎はシールドで楯を緊急活性化し、マリスと共に桜の元へ向かっていた。星露は敵を拘束してから来る。
「予想以上に粘られましたから、こちらも本気を見せましょう」
 生命力を減らして大逃走を使おうと考えたが、その前に一本桜が見えてきた。
「和菓子屋のおじいちゃん……かあ。あたしお菓子好きなんだよね……! どうしようかな!」
 一本桜の元では筋骨隆々な組合長と、中央組が今まさに相対したところだった。
「ここは譲ってもらうよー。時間まで遊ぼう?」
 クスクスと笑う麻夜を、むしろ待ち構えていたというように組合長が顔を上げた。
「ここまで辿り着くとは……来るがいい!」
 和菓子屋隠居である組合長の手から熟練の技で餅が放たれる!
「べたべたも、ぬるぬるも、嫌い」
 ヒビキが発勁で四散させるが、直線上にない餅は地面に落ち、粘着性のトラップと化す。だが、麻夜の場所取りを死守するのだ。
 一千風も着き、組合長と対峙する。――強敵ね。それでも、上着なら脱げると顔以外防御せずに近接戦を挑む。その間に仲間が場所を取ってくれれば……!
 遊夜も場所取り役以外の全員で相手したいと、じり、近付く。
「すまんが……まぁ、諦めてくれ」
 しかし、組合長も一歩も譲らない。
 時間が来る!
 餅に足をとられながら、一千風が突撃する。そちらに注意の向いた隙に、ヒビキが薙ぎ払いをお見舞いした。その衝撃を組合長は餅で吸収し、何と持ちこたえる!
 その間に麻夜は姿を隠しながら、こっそり敷物を広げた。あとはこのまま飲食すれば……。
 しかし、敷物を広げるその音を聞きつけ、組合長が砲丸投げよろしく餅をぐるんぐるんと振り回し、何者も桜に寄せ付けない。
「今年も花見をするのは我々だッ!」
 そこで清十郎が力を振り絞り、組合長の死角から麻夜の敷物までやっと這っていく。
 さあ、何か食べないと! とバッグを探るとそこにあったのは。
 チョコレート壊。

「なん……だと……」

 覚悟を決めて口に放り込む!
 そして清十郎は燃え尽きた。

「何!?」
 組合長が気付いて手を止めた。
「そんな……我が組合員達は!?」
「追って来られません。合流路にビー玉を散布しました」
 すっと現れたのは黒子である。星露も山田と吉田を連れてやって来た。
「そうか……負けたのか。お前達に情報を渡したのは靴屋の倅だな? デパートに出店する……我々はもう時代遅れなのかもしれんな」
 そう言って俯く老人の目に薄紅色が映る。桜? いや違う。
「でもさーぶっちゃけあたし的にはみんなで騒いだほうが楽しいと思うんだけどなー宴会でしょー?」
 少し離れたところで和んでいる少女だった。いや、むしろ戦いガン無視でティータイムと洒落込んでいたらしい。
「おじーちゃんは煎茶派? ほうじ茶派? まあ紅茶しかないんだけどね! あ、クッキーたべるー? 和菓子と紅茶も結構合うんだよー☆」
 組合長の目に好々爺のような光が宿る。
 今は互いに反目し共存の道がないとしても、いつか和菓子と紅茶のように互いの良さを認め合う日が来るのだろうか。
「それにしても、見事な一本桜ね……」
 奇妙な爽やかさの中、夫と初めて愛を結んだ日を思い出しながら星露は桜色の吹雪に目を閉じた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 新世界への扉・只野黒子(ja0049)
 道を切り開く者・楯清十郎(ja2990)
 夜闇の眷属・ヒビキ・ユーヤ(jb9420)
重体: −
面白かった!:5人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
撃退士・
マリス・レイ(jb8465)

大学部5年7組 女 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅