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マスター:楊井明治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/23


みんなの思い出



オープニング


「まあ、涼しくって気持ちのいいこと」
「ほんとうにそうですねえ」
 車椅子の年老いた女性が二人、自然公園の小高い丘の上にある広めの東屋から、丘の下の噴水を眺めていた。
「暑くないですか?」
 清潔感のある薄ピンクのユニフォームを着た若い介護スタッフが、後ろから声をかけた。胸には「わかばホーム」のロゴがあり、名札に「トモミ」と書かれている。
「大丈夫よぉ。私たちよりスズキさんは平気かしら? スズキさーん!」
 車椅子の老女の片方が手を振った先で、東屋に置かれているベンチにもっと年老いた小柄な女性が座っている。背中が丸まっていて、耳もあまりよくないようだが、手を振られたのに気付いてにっこりと笑った。
「あら、大丈夫みたいねえ」

 今日はわかばホームという老人介護施設の「遠足」の日だった。遠足といっても、施設の車で十分ほど移動して自然公園を散歩するだけだが、ホームにとっては大イベントだ。スタッフたちも朝からはりきっていた。
 木々と噴水のおかげか、公園を吹く風は涼やかだ。
 施設の利用者たちはスタッフに付き添われ、それぞれ外の空気を楽しんでいる。
 丘の上の東屋は駐車場と緩やかなアーチ状の橋で繋がっていて、トモミの他にも数人のスタッフが行き来して利用者の付き添いをしていた。

「おかげさまで楽しいわあ」
 そう言われるとトモミも嬉しく、笑顔がこぼれる。
 普段と違うイベントを楽しみにしている利用者も多いのだ。
「ふん、楽しいも何も、ただの公園だけどな」
 もちろん、中には文句屋もいる。顔をしかめる老人にトモミが苦笑していると、先ほど「スズキさん」に手を振った車椅子の老女がからからと笑った。
「カネキチさんは、野球中継しか楽しくないのよねえ」
「そ、そんなことないけど……」
 カネキチさんと呼ばれた老人は参った、というように頭をかいて、他の施設仲間に助け舟を求める。東屋の下は明るい雰囲気に包まれ、トモミも笑った。


 それにしても暑い。
 風は爽やかだが、じわじわと汗の量が増えてきている。
 折角涼しさを感じていたのに、雲がなくなってきたのだろうか。公園はさっきに増して明るく、暑くなっていく。
 トモミはそろそろ車にドリンクを取りに行こうと振り返った。
「えっ……?」
 何か、様子がおかしいようだった。
 見えたのは施設のワゴンとマイクロバスに利用者を慌てたように押し込むスタッフの姿だ。何かあったのだろうか。
 様子を確認しようと目を細めるが、あまりに眩しくて見ることが出来なかった。
 日差しが強すぎる。
「……こんなに眩しいなんて変じゃない……?」
 まるで駐車場にスポットライトを当てたかのようだ。現に噴水の方よりも、駐車場の方が明らかに眩しい。
「何……これ……」
 そのあまりの明るさが光のヴェールのように、ゆっくりとこちらへ進んでくる。
「!」
 トモミは不気味な違和感を覚え、咄嗟にアーチ状の橋の上にいる何人かの利用者たちに駆け寄るとその背中を押した。
「あの下へ行って下さい! お願い、急いで!」
 普段なら絶対にしてはならない行為だが、トモミはそのままぐいぐいと彼らの背中を押した。利用者たちは少々面食らいながらも、東屋の下へ向かう。
 光はどんどんこちらへ近付いてきている。
 トモミは何故か、それに恐怖を覚えた。
「頑張って下さい!」
 間一髪、光に追いつかれる前に利用者たちを東屋の影の下に押し込み、一瞬遅れてトモミも入る。その一瞬だけ、光はトモミの背中を照らし、トモミは背中に焼けるような熱さを覚えた。まるで、太陽に焼かれた車のボンネットに寝転がったようだ。
(何が起きたの……!?)
 幸い東屋の影の下はそこまでの異常な熱は感じない。しかし、例の光のヴェールは、駐車場から東屋にスポットライトを変えたかのように、それ以上動かなくなった。
 これでは東屋から一歩も出られない。
「なになに? 一体どうしたの?」
 利用者の老人たちが不安げにざわめく。
「何だ? いやに明るいな。電気のバケモンでも出たのか?」
 化け物……――まさか。
(天魔……まさか、天魔なの……!?)
 あの熱さ、この異常な状況、可能性は十分にある。トモミは青ざめた。
 はっと気付いて携帯電話を取り出し、他のスタッフに連絡をしようとする。と、その瞬間、駐車場にいたスタッフから電話がかかってきた。

『大丈夫か!? でっかい太陽が襲ってきたんだ! 今……今、東屋の上にいる!! 助けを呼ぶから! 待ってろよ!!』

 疑念は確信へと変わった。
 ニュースの中の出来事のように感じていたのに――今、ここに天魔がいる!
 トモミの顔色の変化を感じ取ったのだろうか。近くにいた一人の老女がおろおろと東屋の下をさ迷いだした。
「何か変じゃない……ああ、どうしましょう、どうしましょう」
「だ、大丈夫です、落ち着いて下さい!」
 トモミは懸命に大きな声を出して利用者たちを落ち着かせようとした。心臓の強くない利用者もいる。ストレスは絶対にかけられない。
 だが、不安げなざわめきは広がっていく。
「何が起こったの? 何なの?」
「ああ、立ちくらみが……」
「大丈夫? しっかり、トミさん!」
「だからこんなとこ来たくねえって言ったんだ!」
「大丈夫ですよね?」
 彼らの声に負けないよう、トモミは必死に声を張り上げて「大丈夫です」を繰り返す。
「もうホームに戻りましょう?」
 車椅子の老女が車を動かそうとするのを見て、トモミは思わず強い口調で制止した。
「駄目です、ここから出ないで!」
 あの背中の熱さ。影の外に出ては絶対に危険だ。
 だが、利用者たちはますます不安げにトモミを見た。
「トモミさん……?」
「あ、あの……」
 視線がトモミに集まる。

「こ、ここで、映画の撮影があるんです!」

 どうして嘘なんか! トモミは自分で自分を呪った。
 だが、トモミたった一人に対して、彼女の施設が責任を持って預かっている利用者たちは、この東屋の下に七人もいる。七人がもしもパニックを起こしたら、守ることが出来るだろうか。
「映画……? じゃあ、照明でこんなに明るいの?」
「そ、そうなんです! だから、出ちゃ駄目ですよ。カメラに映ったら大変だし、ここからなら撮影がよく見えますから」
 バレたらどうするの、と心の中で叫びながら、もはや引っ込みのつかなくなったトモミは嘘を並べ立てる。
「なあんだ、そうなの。撮影があるなんて知らなかったわ。どんな映画なの?」
 無邪気に質問され、暑さとは別の汗が吹き出てくる。
「え、ええと……特殊な能力を持った人たちが、怪獣と戦います」
「ふーん、戦隊ヒーローみたいね。孫が好きなのよ」

(ああ、神様……)

 トモミは助けが早く到着することと、嘘がばれないうちに彼らが天魔を倒してくれることを、ただひたすらに祈った――。


リプレイ本文

●楽屋裏
「暑い中、暑い敵と戦うのはヤだわー」
 煮えるような熱気にやれやれと軽口を叩いて、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が肩をすくめた。
「……とは言ってられないか。レディ達が危険な目に合ってるんだし、助けなきゃね」
 レディにはもちろん老婆達も含まれている。竜胆らしいいつもの物言いだ。
「贋物だが太陽退治か……深夜会の一員としちゃ悪くないな」
 資料を見てディザイア・シーカー(jb5989)が呟く。
「それにしても映画の撮影とは、また大法螺吹いたね。ま、それでパニック抑えられてるのなら、利用させてもらいましょ」
 下手に否定して不安にさせるのは下策だと、笑いを含みながら竜胆は明るい調子で呼びかける。
 千葉 真一(ja0070)が頷いた。
 その映画は戦隊ヒーロー物だと思われているらしい。幸いなことに、今回は普段からヒーローネームを名乗る真一と雪ノ下・正太郎(ja0343)がいる。上手く誤魔化すことが出来そうだ。
「せんたいひーろー?」
 Robin redbreast(jb2203)は初耳らしく小首を傾げる。だが、全体の流れを打ち合わせするにつれ、真一と正太郎を見て合点したように頷いた。
「ん、なんとなくわかった。あたしはヒーローに守ってもらう一般人の子の役ってことにしようかな」
 竜胆はサングラスを持参してきた真一と正太郎に合わせて、手持ちのサングラスをかけた。
「千葉ちゃんと雪ノ下ちゃんがヒーローぽく動くなら、僕はその援護かな」
 陰ながら主人公を支える孤高の能力者とか、もしくはヒーローのバックにいる司令官的な感じのクール系キャラで。というわけだ。スタイリッシュなサングラスが決まっている。
 ディザイアはそれを見て、なるほどという顔をした。
「サングラスか。目の保護にも目くらましにもなるし、配布するのも手だな」
 彼は最初、スタッフとして東屋に向かい要救助者の保護、途中で藍那湊(jc0170)と交代という予定だ。
 湊の役柄はかっこいい先輩達に憧れるヒーロー見習いということとなった。
「救助を待っている人達が不安にならないうちに解決したいですね」
 銀色の瞳に太陽とは違う光を宿し、湊は力強く頷いた。

●撮影隊到着
「すみません、撮影照明でご迷惑お掛けしております」
 サングラスにスタッフ腕章をつけた姿で荷物を抱えてきた大柄な人物に、東屋の下で助けを待っていたトモミはきょとんとした。ディザイアの影がトモミをすっぽり包んで落ちる。
 まずは存在をアピールしよう、と言ったのは竜胆だった。
『トモミちゃん不安だろうし、来たよってのと、嘘に乗るよっての教えてあげると安心するだろうし』
 この光や熱は撮影機材によるもので、今回の目玉でありお金を掛けている。近くで光を浴びるのは熱くて危険なのでこちらでお待ち下さいと説明し謝罪する。
「もうしばらく熱さが続きますのでこちらをどうぞ」
 アイスや冷たい飲み物入れたクーラーボックスを差し入れしながら、ディザイアは機材に制作費をかけているため少数精鋭の撮影であり、スタッフも兼任しているのだと世間話のように話した。
 トモミはまだ驚きを隠せないが、お年寄り達は「何だか悪いわねえ」とむしろ楽しそうだ。
 あの、と言いかけたトモミをしーっと遮り、ディザイアは動き回りながらさりげなくその背中を冷やして処置した。戸惑うトモミは気付いていないが、無駄に痛みや心配をさせる必要はない。
「まもなく撮影が始まります」
 ディザイアはにっと笑った。

●シーン1
「助けて!」
 と悲鳴が響いた。
 白金の髪の少女が、東屋の上の巨大な太陽を前に立ち竦んでいる。
 少女――普通の洋服に身を包んだRobinは、今までの依頼で見た一般の人達を再現するように怯えて見せた。
 それをきっかけとしたように、サングラスをかけた二人の影が現れ、東屋へと駆けつける。
「太陽に姿を偽って人々を脅かすサーバント、これ以上好きにはさせないぜ!」
 真一は颯爽とサングラスを放る。
「太陽は命の星、幸せを護る炎。人々を脅かす偽りの太陽を、俺は許さん! 変身っ!」
 赤いマフラーが閃き、真一は強調するようにポーズをとった。

「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」

 ヒーローの登場に東屋からざわめきが漏れた。
「リュウセイガー!」
 真一に呼ばれ、隣の正太郎も構えた。
「へっ、任せてよ♪レッツ♪龍・転っ!!」
 変身ポーズをとり、青龍をモチーフにしたヒーロースーツを身に纏う。

「天魔を降す蒼き覇者っ!! 我龍転成ッ!! リュウセイガーッ見参!!」

 拳法の型のようなポーズをとり、カメラを意識しているかのように視線を送る。それは完璧にテレビのヒーローそのものだった。
 正太郎は翼を広げ、真一を持ち上げて上空に引き上げる。まるで空中ブランコの曲芸のように体をひねり、二人は挨拶代わりとばかりに雷打蹴を燃え盛る火球に叩き込んだ。
 二人の声が重なる。

「ダブルキィィィック!」

 真一の華麗な蹴りと、正太郎の青い龍のような炎を纏った蹴りが炸裂する。コンビを組むのは初めてではない。息はぴったりだ。偽の太陽は叩かれた風船のように沈み、再び浮き上がる。
 だがもはや無為に浮遊するのでなく、その注意は殺陣のように洗練されたヒーロー達の動きに向いていた。
 ――彼らの思惑通りに。
 東屋に被害を及ぼさぬよう、太陽を移動させるのだ。場所は丘の下の噴水だ。周囲に被害がいかぬよう、注意を引いたまま正太郎が敵を誘引する。
 偽太陽は一瞬膨張し、ヒーロー達めがけて炎を放射した。正太郎は避けるが、放射された炎は暴れ、火の粉が飛ぶ。
 散った火の粉を、待機していた湊が防いだ。
(うう……あついのはしぬほど苦手だけれど……)
 心を軋ませる痛みを感じながら、しかし湊は凛と太陽を見つめ、冷気を纏った翼を広げた。
「護るべきものがあるとき、男は炎よりもアツく心が燃えるものっ。まして偽物の太陽になんか負けてやらない!」
 風の塔で太陽をぐんと押す。
 冷たい風が渦を巻き、透明な塔のような氷の粒を孕んで、東屋の上にわだかまる熱を奪い霧散していくのに合わせ、少しトーンを変えて、東屋の下の人々に聞こえるように声を張り上げた。
「ちょっと照明、近すぎですよー?」
 湊は少し紙面を飾ったくらいにアイドル経験があり、演技力もある。演技中でない、という演技もうまくこなしていた。大丈夫かしらという声を聞き、東屋を覗き込んで安心させるように笑顔を向ける。
「大丈夫ですよー。かいぶつ、倒してきますねっ」

 真一は背にRobinをかばいながら、正太郎と共に太陽を引き付ける。Robinは隠れて目に見えない高速の矢を放ち、それを後押しする。

「……追い詰められた敵がどう動くか。けれどゴウライガとリュウセイガーならば、正義の力で必ずや倒すだろう」

 不思議と響く声がそれに重なった。
 すでに観客と化している要救助者達が声の方を見ると、丘の中腹にサングラス姿のすらっとした影――竜胆が佇んでいる。まあ、いつの間にと東屋で囁きが漏れた。
 涼しげな様子で戦いを眺めながら、時折火炎放射の流れ弾を予め決まっていた演技をこなすが如く的確に防いでいく。
 その間に湊は地面に降り、防御姿勢で翼をしまい霧氷の大樹を準備する。
 太陽の動きは緩慢で、注目の効果が切れる前に噴水まで引き離すのは難しいと判断した真一は、敵の後方に回った。前方の正太郎と視線を交わし、白い八角棍を構える。
 湊がスキルを発動する。地面から棘のある植物のような氷柱が伸び、太陽の芯を捉えた。
「今です、先輩!」
 真一が頷く。

「ゴウライロッド、螺旋突きぃっ!!」

 次の瞬間、ゴウライガの姿がぶれて消えた。と、同時に敵に片手捻り込み突きが叩き込まれる。どこからともなく「BLAST OFF!」と音声が流れた。凄まじい衝撃に太陽は弾き飛ばされ、ちょうど噴水の上空付近でブレーキをかけたように止まる。
 表情はないが、明らかな敵意を放っている。さらに強く、ぎらぎらと光を発した。

●幕間
 噴水方向に丘を下った太陽が目視出来る位置に来る前に、東屋ではディザイアが荷物からフックを出し、さりげなく氷塊を作り出しては周囲を冷やすのを繰り返しながら、すだれを数枚かけて影を作っていた。おかげで東屋の中は快適だ。
 光が差し込む前に何とかそれを完了すると、サングラスを配布してすだれの隙間から戦いの様子こと撮影風景が見えるようにする。
 ホームの利用者達は少しも疑うそぶりなく、映画の行方に盛り上がっている。
 太陽の誘引が終わると、湊が東屋に姿を現した。
「交代です、次のカット頑張ってくださいねー」
 ディザイアは頷きながら、大地の恵みと雷化の右腕をそれぞれ活性化させる。
「じゃ、出番なんで行ってきます」
 あの人も役者さんだったのか、と話す老人たちに、湊はにっこりと笑って頷いた。

●シーン2
 太陽はいまだ高く燃え盛っている。
 正太郎が再び舞い上がって蹴落とそうか思案していると、横から竜胆が鎖を投擲し引き摺り下ろす。地面まで落とすことは出来なかったが、それで十分だった。

「ゴウライソード、ビュートモード!」

 蛇腹剣に持ち替えていた真一が、鞭状にして攻撃を放つ。闘気開放した正太郎が立て続けに軽快な動きで飛び回り、格闘技で打撃を加えた。
 二人の連携技が偽の太陽を翻弄する。舞台俳優のようによく通る声が、東屋まで届いていた。
 だが敵もただやられるばかりではない。接近してきた懐に火炎を放ち、じりじりのその熱で彼らの体力を奪う。
 ヒーロー達が一旦距離をとると、そこですかさず竜胆がアウルの彗星を降らせた。

「ギャラクシーストーム! ……油断するな」

 今度は的確に重圧が太陽の動きを鈍らせる。そして今度は星の輝きを活性化しながら、竜胆は静かに構えた。
「おっと……助かったぜ!」
 火炎放射の猛攻から逃れ、正太郎が飛びずさってまた攻撃の型を構える。
 真一はライフルに持ち替え、太陽に向かって放った。そこにRobinがこっそり凍てつく力を重ね、まるで冷気を纏った弾が打ち込まれていくようになる。
 そうして仲間たちを援護するRobinは、怯える演技を続けながら澄んだ翡翠の目で東屋をちらりと見た。
 以前、Robinは依頼で車椅子の老婦人を海辺に届けたことがあった。
 細くて小さかったな、自分で歩けなかったなと思い出す。
 ――暑くて疲れちゃうだろうな、早く助けてあげたいな。
 そんな思いがふと胸に浮かび、また見えない矢を暴力的に燃え盛る太陽に鋭く打ち込む。
 追い討ちをかけるように、噴水へと駆けつけてくるディザイアがPDWを放った。
 太陽の高度が落ちてきている。
 次第にその色は毒々しい赤へと変化し、火炎を触手のように伸ばして振り回した。
 ディザイアは斧に持ち替え、特攻を計る。

「ハハッ、ここらで沈めや似非太陽」

 強烈な日射や火炎が極力東屋の方へいかないよう立ち回りながら竜胆が声を上げる。
「お前が……我々に力を貸そうというのか」
 涼しい顔をして、完全なアドリブだ。そういえば役を設定していなかった、と思いながら、ディザイアは竜胆に乗った。
「敵の敵は味方ってところだ……今回だけだと思え」
 そう言いながら跳躍し、右腕に雷を纏ってディザイアは太陽に飛び込んでいった。纏わりつく黒雷と火花の散る白雷が右腕で光り、それを直接、火球に送り込むという荒業だ。
 当然待ち受けるサーバントは反撃を繰り出し、勢い凄まじい火炎にディザイアは弾き飛ばされ噴水に叩きつけられた。
 竜胆は咄嗟に星の輝きで辺りを光に包んだ。撃退士ならば耐えられる攻撃でも、一般人の視線から見たら大事故だ。ショッキングな映像を隠す。後で撮影照明と誤魔化せばいいだろう。
 噴水の水に半ば浸かりながら、ディザイアはそれでも不敵に笑った。ダメージを大地の恵みで癒したからか。いや、そうではない。
 白雷が太陽の動きを封じたことがわかったからだ。

「あとは頼んだぜ、お二人さん!」

●クライマックス
 偽の太陽は怒り散らし、熱をぐんぐん上げていく。日射はあまりにも強く、それだけで肌が焼かれるようだ。しかし真一ことゴウライガは怯むことなく大地に足をつけて炎と向かい合った。
「俺の燃える魂は、貴様の炎などに負けはしない。勝負だ!」
 ぎらぎら光る火の玉ではなく、太陽の力強い光を宿し、力を高める。力どこからともなく「IGNITION!」と声が響いた。
 リュウセイガーが拳に目の前の粗野な赤い炎と違う青い炎を纏い、やや重心を低くした体勢から踏み込みながら、目にも止まらぬ突撃を繰り出す。

「リュウセイガーパンチ!!」

 それと重なるようにゴウライガも自らの影を置き去りにするほど拘束で踏み込み、自身ごと強烈な肘撃ちを食らわせた。

「ゴウライ、インパルスアタァァック!!」

 赤と青、二つの影が一つの大きな光となり、この戦闘に似合いのはりぼての太陽を打ち砕く!
 サーバントは後ろへ弾き飛ばされ、炎がゆっくりと消滅していく。
 後には二つに割れた禍々しい黒い球体の動かぬ残骸だけが残った。

「成敗!」

 ゴウライガとリュウセイガーはヒーローらしくポーズを決めてみせる。
「厄介な相手だったな」
 真一は爽やかな汗をぬぐった。

●クランクアップ
「ご協力ありがとうございましたー」
 湊の声にぱちぱちと拍手が起こった。ホームの利用者達は興奮した様子だ。
「すみません、この後は撮影機密ですので公開までお待ちください」
 後処理を見られてはここまでの嘘も全てばれてしまう。ディザイアはすだれを重ね掛けし、噴水方向が見られないように遮る。幸い皆は差し入れのおかげもあって元気そのものだ。ばれることもないだろう。
「お怪我はありませんか?」
 真一が現れると主演の登場に東屋は湧き立つ。真一は疑われないよう胸を張って堂々と、声援に応えた。
「大丈夫だった? 長い間、動かないでいてくれてありがとう」
 Robinも俳優のふりをしたまま東屋に行く。流石に少し疲れた様子の車椅子の老婆に近づき、「気分が良くなるおまじないしてあげようか」と問うと、老婆はにっこりと笑った。
「まあまあ、女優さんは本当にきれいねえ」
 どう答えていいかわからずはにかむRobinをよそに、皆口々にそうね可愛いねと頷き合う。
「あなたもね、可愛いお嬢さんね」
 と湊まで言われ、湊は「いえ、女の子じゃないです……」と苦笑いだ。
 撮影の感想を楽しそうに言い合う人々の話ににっこりと耳を傾け、Robinはトモミを手伝って利用者達をおんぶしたり車椅子を押したり駐車場に連れて行く。
「トモミさん、今回は最高の『遠足』だったな!」
 車に向かう老人に声をかけられ戸惑うトモミが視線を向けると、撃退士達は静かに頷いて見せた。

「……はいっ!」

 いまだわだかまる熱に、湊が朔風で噴水から水飛沫を飛ばし涼の帳を下ろす。
 暑気はまだまだ続くが、公園には優しく爽やかな風が吹き渡っていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 護黒連翼・ディザイア・シーカー(jb5989)
重体: −
面白かった!:8人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA