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マスター:八神太陽
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/04


みんなの思い出



オープニング

 西暦二千十三年六月、立花優子は目の前で起こった惨劇を理解できなかった。優子の前には大きな溝がある。山の斜面を流れる雨水を麓まで導く溝である。優子も本来は役場の職員として同僚とその溝の点検に赴いていた。しかし今一緒に来たはずの同僚はそばにいない。溝から出てきた異形生物に捕獲され食われたからである。
「あ、あ‥‥」
 一瞬の出来事だった。突然降り始めた雨に気を取られ優子が荷物から雨合羽を探している間に同僚の体は中に浮いていた。正確には体ですらなかった。優子が気付いた時には体は反転し、既に頭は異形生物の口へと飲み込まれていた。優子が見たのは腰から下の部分だけだった。
「いやあああ」
 自分の目の前で起こった事でありながら優子は何がどうなっているのか分からなかった。先程まで同僚が立っていた場所にはスマホが落ち、異形生物の方は溝の中へと帰ったのか優子の見える範囲からは姿を消している。
 状況を把握するために優子は合羽を取り出すことより立ち上がる事を優先する。だがそこで自分の足に力が入らない事を自覚した。痙攣しているかのように優子の意思に反して小刻みに震えている。何度か手で叩いてみたが震えが止まる様子はない。
 自分だけで対処する事が出来ないと判断した優子は雨に打たれたまま自分のスマホを取り出す。そして役場に応援を求めたのだった。


リプレイ本文

 始まりは一瞬だった。転送された直後からRehni Nam(ja5283)の生命探知に反応があったからだ。
「まだ距離あったと思うんだがな」
 獅堂 武(jb0906)が言うとおり転送は実際に被害のあった場所の手前二キロ辺りを目的地としていた。転送直後に襲われる事を避けるためである。だがRehniは自分のスキルにかかる反応に自信を持っていた。
「活動範囲が広いってことだろうね。あるいは別のミミズの生息域に入ったか」
 雨合羽を纏いながらグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)は周囲を見回した。視界の端には排水溝とおもわれる溝が山裾へと続いている。だが今の位置からは溝の中までは見ることができない。怪物のでてきた穴も争った形跡も見あたらなかった。
「雨か」
 事前情報通り現場では雨が降り続いている。地面は撥水が良くないのか至る所に水溜りが発生、五メートル程離れたコンクリート施工地点までに三桁を超える勢いで小さな池を作っていた。
「一旦移動します」
 仁良井 叶伊(ja0618)は祖霊符を使うためにも水溜りを避けつつコンクリートの足場へと向かう。足音を立てないように気を配りつつ一歩一歩と歩を進めていく。だが次の瞬間、虎落 九朗(jb0008)が警告を飛ばした。
「仁良井さん、足元」
 虎落の生命探知が仁良井の足元を補足していた。
「嘘でしょう」
 仁良井は一度虎落へと顔を向ける。足には細心の注意を払っている。何か大きな失敗をした記憶も無かった。だが仁良井はそんな頭に浮かぶ雑念を振り払うように大きく首を振り、コンクリート路面へと向けて大きく跳躍する。遅れる事数秒、地面が裂けるようにヒビが入り中心部から外側に向けて穴を開けた。近くに溜まっていた雨水が一斉に穴へと流れ込み、逆に巨大な生物が顔をのぞかせる。
「本当にミミズですか」
 コンクリートの路面で受身を取り、仁良井は先程まで自分が立っていた足場へと目を向ける。そこには赤褐色の丸みを帯びた物体が顔を覗かせていた。
「ホントにB級モンスターって感じだな」
 それが御神島 夜羽(jb5977)の怪物に対する第一印象だった。直径はおよそ一メートル、事前に聞いた話とほぼ同じ大きさだった。見える範囲では皮膚に目立った外骨格は存在しないが無数の細かな毛が生えている。そして口と思われる先端の先には茶色の牙が二本存在していた。
「中立者どうですか」
 通常召喚でヒリュウを呼び出しつつルルディ(jb4008)が尋ねる。
「一回目、失敗です」
 仁良井が体勢を整える。その間に御神島は怪物との距離を詰め、麻痺を狙いに鳴神を使用する。
「遅ェ‥‥あの女の糸に比べりゃ‥‥止まって見えんだよ!!」
 光纏し御神島は手に雷状のアウルを纏わせる。そして怪物までの間にある水溜りの位置を把握、足を取られないように近付き手刀を怪物の口元へと叩き込む。
「手ごたえは無いなァ」
 指先からは怪物の律動が伝わってくる。ダメージを受けたためか一瞬身体を強張らせたものの、すぐに反撃に転じてきた。引き抜こうとする御神島の腕を二本の牙で掴んだのである。
「振り切れそうですか」
 グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)は支援に回る為に既にコンクリートの足場へと移動している。声はかけるものの御神島の手から流れ落ちる血液は雨のせいもあってか止まる様子を見せない。
「大丈夫だ」
 言葉を口にすると、口の中には雨水に混じった唾液特有の粘り気が感じられた。一度力任せに引き抜こうと試みるが、それが返って腕を押さえる牙の突起に侵食を許す結果となっている。
「援護します」
 囮役として地面に残るRehniがアウルの力による槍を作り出す。そして土中に潜む怪物へと狙いを定めた。
「これなら土越しだって関係ないのです!」
 雨の中をRehniの手から放たれたアウルの槍が滑走する。怪物は掴んでいる手の方に気を取られたのか回避が間に合わない。土中さえも抉り進む槍に腸を直撃される事となった。
「今の内に逃げてください」
 再びダメージを受けたためか動きの鈍る怪物にブレスを吐かせる。そしてルルディ自身は光の翼を使い上空へと舞い上がった。
「ようやく抜け出させてもらったぜ」
 ブレスで焼かれる怪物からようやく御神島は脱出を果たす。しかし明らかに動きが鈍い。傷ついた腕だけでなく足さえも満足に動かせないのか、地面へと倒れこんだ。
「助けに行くわ、誰か援護を」
「少し待ってほしい」
 救援任務を申し出るグレイシア、だが仁良井はそれを止めさせた。
「先に生命探知を頼みます。もう一匹いるかもしれませんので」
 仁良井の視線は持ってきておいた盥に向いていた。特に変化があるわけではない。強いて言えば雨の降り方によって広がる波紋に違いがでているだけだった。だがそれが逆に仁良井の感覚に危険を訴えている。
「そうだな、もう一度生命探知する」
「祖霊符もあわせて使用しておくね。視界や音が遮られるからどこから来るのか分からないし。足場も悪いし‥‥」
 視界の悪さにグラルスも少なからずストレスを感じていた。唐突な戦闘開始もそのストレスに拍車をかけていた。虎落が生命探知している間も不意打ちをしてくるのではないかと気を許せる時間が無かった。
「いや、反応は無いな」
 虎落は生命探知を済ませて首を振った。
「助けるなら今が好機だ」
「私が援護します」
 上空から積極的に呼びかけにこたえるのはルルディだった。レラージュボウの弦を引き絞り、ミミズの進行を止めにかかる。
「俺にも案があるんだ。試させてもらっていいか」
 続いて獅堂が援護を申してる。手にしていたのは鉄数珠だった。
「今のあの生き物なら捕獲できるはずだ」
「届くってことでいいのよね」
 グレイシアの目測で獅堂と怪物との距離は五メートル強あった。その返答に獅堂は実演して答えてみせる。一部しか見せていないものの既に痛手を受けていた怪物が回避という俊敏な動きができるわけはなかった。
「よし、捕まえたぞ」
 獅堂の声とともにグレイシアも弾かれるように地面へと飛び出す。そして御神島の元へと向かうと腕の様子を確認する。
「痛みは?」
「余り無いなァ。感覚が麻痺しているだろう」
 話すことさえ満足にできないのか、御神島の言葉は単語一つ一つが区切られていた。
「一箇所に集まるのは危険ですが仕方ありません」
 Rehniも御神島の元へと駆けつける。手にはカイトシールドを持ち地面へと向ける。捕縛された事で危険性の減った既に見えている怪物ではなく、いるかもしれない第二第三の怪物への対策だった。
「毒か何かですか」
 Rehniが周囲へと警戒したまま尋ねる。
「多分ね。大体動ける生物をそのまま丸呑みするなんて危険じゃない。動けなくする手段があってもおかしくないと思っただけよ」
「ということは、あの牙にも注意しないといけませんね」
 今見えている怪物は牙の一つを獅堂の鉄数珠で封じられている。もう一つの牙も連動しているのか広げられたままになっていた。逃亡する恐れがまだあるため獅堂は穴から引きずり出し、頭部をコンクリートの地面へと連れ込むことに成功する。その全長は二メートル近いものだった。
「まずはそのミミズに止めを刺すととしましょうか」
 既に身動きできなくなった怪物に対しても警戒を解かず仁良井は中立者で怪物を確認する。
「カオスレートは負、冥魔のようですね」
「了解。それじゃ遠慮なくぶち込ませてもらうぜ」
 虎落がアウルの槍を形成する。先程Rehniが放ったものと同じ戦女神の槍である。
「その長い腹を捌かせて貰うぜ。まだ飲み込まれた人が生きているかもしれないからな」
 虎落の叫びとともにアウルの槍が放たれる。捕縛され逃げ場を失った怪物にそれを避ける術は無く、避けようとする気力も失われていた。
「生死を確認させてもらおうかな」
 胴の中央に風穴を開けられた怪物の身体を前に、獅堂は再び鉄数珠に力を入れる。抵抗は一切無かった。胴体全てがコンクリートの上へと引き釣りあげられる。その様子を見ながら虎落は空を見上げた。
「こいつは無理か」
 怪物の胴からは消化液と思われる白い液体が雨と混ざりコンクリートの地面へと広がっていく。そしてコンクリートさえも溶かしていった。しかし食われた人の姿は残っていない。
 雨の音と消化液がコンクリートを溶かす音だけが撃退士達を包んだ。
「念のためミミズが確認された場所まで向かいましょうか」
 仁良井が全員を促す。
「そうですね」
 Rehniはその言葉に応じて立ち上がった。
「でもその前に生命探知をさせてください」
 Rehniが探知をした直後だった。再び地面に巨大な亀裂が入り穴が生まれる。二匹目の襲来だった。
「ここは敵の動きを止めましょう。また逃げられれば厄介です」
 事前に準備しておいたカイトシールドを地面へと向けRehniは怪物の進撃を止める。そこを目標にグラルスがブラッドストーン・ハンドの詠唱を開始する。
「血玉の腕よ、彼の者を縛れ。ブラッドストーン・ハンド」
 グラルスの詠唱とともに無数の赤色斑点を持つ手が怪物を襲う。それに気づいたのか怪物も再び穴へと身を隠すが、手の方が僅かに速度を上回った。
「捕まえました。今のうちに攻撃を」
「よくやった」
 御神島がグラルスを褒め称え蛇腹剣を手にする。グレイシアのヒールのお陰で腕の傷が完治、時間をおいた事で麻痺も収まっている。
「ここが好機だ、決めさせてもらおう」
 動きを止めた怪物に対し攻撃を仕掛ける御神島。しかし怪物の方もグラルスのブラッドストーン・ハンドによる束縛を受けつつ牙を御神島へと向け迎撃の体勢を取った。
「二度同じ技を食らうつもりはないんだよ!」
 御神島は蛇腹剣のワイヤーを緩め鞭状態へと変形させる。そして鞭として距離を取り攻撃を仕掛けた。
「万倍にして返させてもらうぜ」
 御神島の攻撃は怪物が気を失うまで続けられた。

 二匹目の怪物を倒した後、撃退士達は二匹目の怪物に対してもヴァルキリージャベリンで止めを刺し胴を捌いた。全ては飲み込んだ人が生きているかもしれないという一縷の望みをかけての行動である。だがそんな儚い希望さえも怪物は裏切った。出てくるのは白い消化液のみ、遺品として渡せそうなものさえも残っていなかった。
 問題の現場に到着した撃退士達は最後となる生命探知で周囲を確認する。幸か不幸か既に生命体の反応は無い。あるのは事前に伝えられていた、怪物が開けたと思われる穴だけだった。
「あなたも、救えたら良かったのに‥‥」
 墓穴となった排水溝の穴に撃退士を代表してルルディが花を添える。そして近場の温泉へ身体に残る泥や汗や疲労感を落としに向かったのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・仁良井 叶伊(ja0618)
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: −
面白かった!:1人

雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
黎明の鐘・
逆廻桔梗(jb4008)

中等部3年9組 男 バハムートテイマー
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード
能力者・
御神島 夜羽(jb5977)

大学部8年18組 男 アカシックレコーダー:タイプB