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マスター:八神太陽
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/08/30


みんなの思い出



オープニング

 西暦二千十二年八月、某所で夏祭りが開催された。安全面から反対の声もあったものの、続行の声が市民から多く寄せられたからである。そこで主催者は警備員を増加、監視の目を強化する事で決行に踏み切った。
 当日はカキ氷、射的、金魚すくいと例年に無く多い出店が並び、老若男女問わず多くの人が足を運んだ。綿菓子の入った袋を高々を掲げて喜ぶ子供達、走り回る子供を心配しながらも笑顔で見つめる親、手を繋いで歩くカップル、それぞれの人が思い思いに祭りを満喫し、日頃累積した負の感情を薄めていっていた。
 だがそんな祭りの中でさえストレスを抱えていた者達もいた。警備員達である。
「なんでよりによってこんな時に警備の仕事引き受けちまったかな」
「給料良かったからだろ。時給普段の百円増しだし」
「あるいは一緒に行く人がいなかったとかか」
「どっちもだよ、悪いか」
「花火見られるだけ良いと思おうぜ」
 仲間内で談笑を交えつつも警備員達の胸中は複雑だった。真面目に双眼鏡を片手に抱えて監視している者もいたが、多くの者は暇を持て余していた。たまに迷子が尋ねてくる程度で出番が無かったからである。中には何か起こらないかなと口にする者までいた。
 そんな中、一人の子供が詰所を尋ねてくる。右腕に熊のぬいぐるみを抱えた少女だった。
「迷子か」
 警備員を代表して責任者が少女に駆け寄る。すると女の子は左手の人差し指を摩りながら答える。
「指輪落としたの」
「指輪?」
「お父さんに買ってもらった指輪落としたの」
 少女の瞳には零れんばかりの涙が溜まっていた。
「どうします?」
 責任者以外の警備員達は少女に聞こえないように小声で相談する。
「この時間だと人が多いから見つかりませんよ」
「小さいものだし、明るくなってからの方が探しやすくはあるな」
「今のところ落し物で来てないのか」
「ありませんね」
 相談する警備員達。そんな話を聞きながら、担当者は少女に問いかける。
「どこで落としたか覚えてるかい」
 担当者としては出来る限り優しく聞いたつもりだった。だが少女は涙を溜めるだけで答えない。
そこに見回り行っていた警備員の一人が詰所に戻って来る。そして少女を見るや否や叫んだ。
「お前は」
 警備員の声には明らかに怒りが混ざっていた。そのまま少女を捕まえようとする警備員、すると少女怯えた表情を見せ泣きながら詰所を去っていく。
「何があったんだ?」
 少女が消えていった方向を見つめながら、責任者は追いかけた警備員に尋ねる。
「その様子だと何かがあったみたいだが」
「何かどころじゃないですよ。あの子、縁日の売り物の指輪盗んだんです」
「盗みか」
「その上高台の立ち入り禁止区域に逃げ込んでいたみたいで、店主の主人にも捕まえてきてくれと言われたんです」
 責任者は眉をひそめる。
「さっき指輪無くしたって言ってたぞ」
「高台に捨てたんじゃないですか」
 警備員は答える。
「あそこの池は藻のせいで臭いも凄い上にヒルやスライムの天魔がいるって聞きます。立入禁止の立て札は出てますが出てなくても誰も近寄らないでしょう。指輪を捨てるなら絶好の場所じゃないですか」
「確かにそうだがな」
 窃盗を立証するためには高台の池を漁る必要がある。だがそれはあの少女を信じていない事になるのではないか。自分でも明確な答えを出せないまま責任者は学園に連絡を入れたのであった。


リプレイ本文

「面会を願います」
 依頼人でもある警備員を訪れ派遣会社に来たのは叶 心理(ja0625)、氷雨 静(ja4221)、ジョー アポッド(ja9173)の三人だった。
「久遠ケ原学園から来た。溜池掃除の件と言えば分かると思う」
 受付の女性に叶が用件を伝える。だが要領の得ない顔を浮かべる受付に氷雨が言葉を加えた。
「何か聞いていませんでしょうか。先日の夏祭りで物取りが発生したものの容疑者に逃げられたと」
「その件でしたか」
 ようやく合点したのか、女性は電話を取りどこかに連絡をいれる。
「直接の依頼人は今別の仕事で外に出ているようです」
「そっか。そういえば別に今日が休みとは限らないものね」
「仕事場教えてもらえるか」
 時計を気にしながら叶が尋ねる。高台の溜池捜索の時間が迫っていた。スプレーを買いに行く時間も考慮するとそれほど余裕は無かった。
「ここから二キロ程離れた工事現場です」
「二キロね」
 ジョーは口を尖らせた。早期解決を目指したいがたらい回しにされている感があったからである。そんな撃退士達の様子を見て女性は一つの案を提供する。
「依頼人ではありませんが、夏祭りに参加した者なら現在待機しています。会ってみますか」
 三人の返答は聞くまでも無かった。

 警備員に話を聞きに行っている間、アンジェリク(ja3308)、青柳 翼(ja4246)は被害にあった出店の主人の家を訪問していた。
「指輪を盗まれたときの話を、できるだけ詳しくして欲しいですの。どんな風に盗まれて、その後その子はどんな方向に逃げたかも。盗むとき、クマのぬいぐるみはどのようにしていたかも話して欲しいですわ」
 暑い中鎧姿で現れたアンジェリク達に主人は冷蔵庫まで麦茶を取りに行く。その間に二人は室内を軽く物色する。
 狭い家だった。畳敷きの六畳間に子供用のアクセサリーが入っていると思われる箱が隅の方に積まれている。中には日焼けで何が入っているのか分からなくなった箱もあった。
「わざわざ遠い所済まなかったね。どうしても許せなかったんだ」
 冷蔵庫からペットボトルとコップを三つ盆に乗せて店主は帰ってきた。そして戻って来ると同時に饒舌に語りだす。
「思い出すだけで忌々しい。あの子供達は狙ってやってるんだ」
 麦茶を注ぎ分けながら店主は話す。その一つを受け取り、青柳が尋ねた。
「狙って、とはどういう意味なのでしょう。例の子供は常習犯か何かですか」
「常習犯ってのとはちょっと違うな。集団でやってるんだよ」
「集団?」
 アンジェリクは依頼内容を思い返した。そして店主の話との相違点を探し出す。
「詰所に現れたのは一人だと伺ってましたが、つまり指輪盗難は複数犯だったのですわね」
 集団という言葉から複数犯という単語を導き出したアンジェリク、彼女としてはそれなりに自信のある推理だった。だが店主はその推理をあっさりと否定する。
「昔の話だ。子供達が集団で盗みを働いて時期がある。一人が店主を油断させ、もう一人が展示品を盗む。少なくとも二人で組んで動いていた」
「狡猾な子供達なのですね」
「俺を始め多くの露天商がやられた。それが子供達を更に増長させたと反省している」
 店主がコップに入れた麦茶を一気に飲み干した。汗が噴出し、店主は手近なタオルで
拭っていく。
「正直馬鹿だと思うさ。こんな子供の遊びみたいな事に撃退士まで呼んで大人気ない事だ。だが子供を調子に乗せちゃいけない。それが三年前に学んだ事だ」
 愚痴ともとれる話を聞かされつつもアンジェリクと青柳は店主の話に耳を傾けていた。

 五人が情報収集を進めている間、溜池周りで調査を進めていた霧原 沙希(ja3448)、礼野 智美(ja3600)、周 愛奈(ja9363)の三人は辟易していた。溜池の中で白骨を見つけたからである。
「…どういう事かしらね」
 髪の毛に付いたヒルを握りつぶし霧原は思考を巡らせる。汚物に塗れていたが困る人はいない。そんな考えが骨の存在理由を優先させていた。
「…後手後手に回されている気がします」
 骨は長さ二十センチ弱で太さ直径一センチ程、素人目に見ても大人のものとは思えないものだった。
「これも何か関係あるの?」
 溜池から拾い上げられた骨を見つめながら周も首を捻る。
「草むらを調べると子供のものらしい足跡はあったの。大きさは合うと思うの」
 周はそう言うものの自分で説得力が乏しい事も自覚していた。だがこれが指輪とどう関係するのかまでは繋げきれないでいた。
「…とりあえず残りの骨を回収しましょうか」
 困惑交じりに霧原は溜息を漏らす。そこに警備員の所へと向かっていた叶が姿を現した。
「朗報だ。警備員から色々聞く事ができた。少し事件の背景が分かったぞ」
 小走りでやってくる叶だったが、礼野が止める。
「それより先はスプレーを使っておいたほうがいいですよ。私のスプレーがその辺りにありますから使ってください」
「悪い、外回り行ってきたからついでに買ってきたぜ」
 スーパーの名前の入ったビニール袋を叶は三人にも見えるように高く掲げたのだった。
 
「まず前置きとして、これは依頼人に聞いた話じゃない。他の警備員に聞いた話だ」
 そう断った上で叶は話し始める。
「全ての始まりは三年前だ。この町でも天魔が暴れ始め、子供達の遊び場が失われた。親を失い生活の術を失った子供もいたが、大半が親に外出を禁じられた子供だ」
「親ならそうするでしょうね」
 押し付けられる考え方を嫌う礼野だが、そういう考え方をする人間がいる事は否定しなかった。
「そこで子供達は新しい遊びを考え出したんだ。露店を中心に商品を盗む、子供達の間では泥棒ゲームと呼ばれていたらしい。祭りになら参加を許してくれる親御さんも多かったんだろうな」
「…今回もその一つだと思われたわけね」
「店主を油断させるアクセサリーとしてクマのぬいぐるみだったそうだ」
 霧原の質問に叶は頭を抱えながら答えた。
「こっから先は被害に合った店主の方へと行った青柳から聞いた話だ。始めは子供の悪戯だと思って店主達も咎めなかったらしい。だがそれも子供達の計算の内で同じ店では盗む回数も決めていたんじゃないかって話だ」
「そこまでは分かったの」
 話が一区切りついたところで周が尋ねる。
「でもそれが今回の事件とどう関わるんですの」
「三年前の話って言ったとおり、最近は発生してなかったんだ。それが先日発生した、この謎を依頼人は解明してもらいたいだろうと思う」
「…それが前置きの理由ね」
 納得したのか霧原はまた溜池へと歩いていく。
「…私達の方も分からない事がある」
 霧原は拾い上げた骨に視線を落とした。
「…これが誰のか分かれば、また分かる事も増える」
「肝心の指輪も見つかってませんしね」
 そう言葉を残し、霧原と礼野は溜池へと再び潜る。そして叶と周は周辺捜査へと移って行った。

 警備員から情報を聞いた後、氷雨とジョーは依頼人である警備員に会いに行っていた。丹沢という名前の警備員だった。
「わざわざ来てもらったのに時間を取れなくて済みません」
 丹沢は謝罪の言葉を口にする。だが氷雨はその謝罪の言葉はまた別のものに向けられている印象を受けていた。
「単刀直入に尋ねますが、盗みを行った少女と詰所に来た少女を同定したのは何故です?」
「ヌイグルミですよ」
「盗みつまり犯罪を犯した人間が果たして警備員の詰所に来るでしょうか?」
「自責の念に駆られる事はあります。警察に自主する人もいるでしょう」
「ヌイグルミ以外に特徴はなかったの」
「それほど身長の高くない少女です」
 丹沢の言葉にジョーはまた口を尖らせる。
「ヌイグルミってかなり分かりやすい特徴だけど、逆に言えばヌイグルミ持たせれば同年代の子ほとんど当てはまっちゃうよね」
「何か隠してませんか」
 依頼人を信じる、そんな先入観を捨てて氷雨は丹沢の目を見つめる。
「先程私達の仲間が出店の店主に話を伺いました。ヌイグルミは単なる特徴ではなく三年前に流行った泥棒ゲームの重要アイテムだったそうですね」
 笑顔を浮かべながらも氷雨の言葉は鋭利な刃物のように鋭かった。
「あなたはヌイグルミという特徴から泥棒ゲームを連想したんじゃないですか」
「丹沢さんが探してるのって本当に指輪を盗んだ少女なの?」
 ジョーが追い討ちをかける。すると丹沢は大きく息を吐き声を荒げた。
「あんたら何なの。俺は溜池捜索を頼んだんだよ。犯人捜せとは一言も言ってない。何だったら依頼書確認する?」
「そうですね。確かに御依頼は溜池捜索です。それは別の仲間がやってます」
「だったらそれ以上の事はやって貰いたくないね。痛くない腹まで探られるんじゃ誰も依頼出さなくなるよ」
「その痛くも無い腹というのはこちらでしょうか」
 氷雨がスマホの液晶を丹沢に見せる。そこには縦二センチ、横一センチ程の鉄板が映っていた。
「溜池から発見されたものです。金属タグだろうと仲間は言っています」
 丹沢は氷雨の手からスマホを奪い取り、それを握り締める。
「腐食が進んでいて正確な解析はできませんが、TAMAWAあるいはTANZAWAとアルファベット表記されているそうです。白骨化した死体と一緒に見つかりました」
「依頼人さんが見つけてもらいたかったのはこれだよね」
 男はスマホを手にそのまま道路に崩れ落ちた。

「昔のように遊びたかっただけなの」
 アンジェリクと青柳が犯人と思われる少女を見つけたのは店主の家から出た数時間後だった。話していくうちに思い出していった店主の記憶を頼った結果だった。
「三年前ぐらい前に泥棒ゲームっていう遊びが流行ったの。発案者は丹沢のお姉ちゃん、良い事かどうかは正直分からなかった」
 少女はアンジェリクの危害は加えないという言葉を信じ淡々と話した。
「お姉ちゃんは物知りだった。警備の仕事をしてるお父さんが色々と教えてくれたみたいで普通の人が気付かない事をよく知っていた」
「お姉ちゃんが好きだったって事かな」
 青柳の質問に少女はうな垂れるように頷いた。
「でも泥棒ゲームを始めて何日か経った頃、お姉ちゃんはいなくなった。警察に捕まったとか天魔にやられたとか色々みんな言ってたけど結局本当の所はわからなかった」
「君はお姉ちゃんに帰ってきてもらいたかったのか」
 青柳の言葉に少女はもう一度大きく頷き顔を伏せる。そして青柳は顔を背けた。少女からむせび泣く声が聞こえてきたからだ。
「これ使うといいですの」
 青柳の代わりにアンジェリクがコートを差し出す。少女はそれを受け取ると、アンジェリクの膝ででしばらく泣き続けた。

 溜池捜査を終え、撃退士達は警察を呼ぶ事にした。
「遺体の鑑定、俺達じゃできないもんな」
 霧原と礼野が捜索した結果、白骨はほぼ全部が発見された。ただし右脚の爪先の骨が割れている。
「…骨折したんでしょう」
 叶から受け取ったタオルで体を拭きながら霧原が答える。
「…盗んだものを捨てる時に転んだ、そんな感じね」
 霧原と礼野が引き上げたものは他にもあった。指輪、お面、ネジ巻き式のおもちゃなどである。
「犯人の少女から自供があった。丹沢は盗んだものをここに捨てたらしい。そのまま持っていればアシが付く、それが警備員の父親の言いつけらしい。徹底してるぜ」
 氷雨からの報告を伝えながら叶が吐き捨てる。
「父親は冗談のつもりだったんでしょうが、娘に請われて仕方なく話したというところでしょうか」
 礼野は自分の考えを口にしたものの、すぐに首を振った。
「その辺りは警察に任せよう。俺達の出る幕じゃない気がする」
「そうなのですか」
 叶の出した結論に対し、不満そうに周が尋ねてくる。
「俺達はまだ子供だって事だ」
 親が居た方が本当にいいのか、叶はそんな事を考えていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 不屈の魂・叶 心理(ja0625)
 アネモネを映す瞳・霧原 沙希(ja3448)
 みんなで蛍!・ジョー アポッド(ja9173)
重体: −
面白かった!:1人

不屈の魂・
叶 心理(ja0625)

大学部5年285組 男 インフィルトレイター
【流星】星を掴むもの・
アンジェリク(ja3308)

大学部3年68組 女 ディバインナイト
アネモネを映す瞳・
霧原 沙希(ja3448)

大学部3年57組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
『力』を持つ者・
青柳 翼(ja4246)

大学部5年3組 男 鬼道忍軍
みんなで蛍!・
ジョー アポッド(ja9173)

中等部3年8組 女 アストラルヴァンガード
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト