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マスター:わん太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/03/06


みんなの思い出



オープニング

 世の中には、一体どれだけの「チーズ味」があるだろう?

 それを考えると、如何にチーズという存在が人々に愛され、そして食されているのかを簡単に知る事が出来る。
 店内に漂う香りに密かに胸を躍らせながら滝原修吾は、内心でそんな事を考える。

 今日、市内でオープンしたばかりのチーズ専門店「チーズの上にチーズ」では、開店記念と言う事で来店者に、ラクレットチーズの無料試食会が行われており、店の一番目立つ正面カウンター前では、カートに乗せられた専用のヒーターが、大きな半月型に切られたラクレットの断面を焼いていた。

 ラクレット――『某少女がパンに乗せて食べていたチーズ』として有名で、あれを見ていた人の殆どは憧れたという魔性のチーズだ。
 どうやらここのオーナーもそのクチらしく、「あのチーズが食べたい!」という思いからチーズの世界にのめり込み、ついには専門店を開くに至ったという経歴をした人物で、今回無料試食に選んだのは一重に「初めて来店されるお客様に自分の原点を知って欲しい」という理由から――というような事が表の黒板に書かれていたが、成る程。どのお客も店内に漂う香りに期待を浮かべているのだが、その少女を知っていそうな年代をしたお客達は、期待以上の何かを期待して、必要以上に落ち着きなくそわそわと頭や口を動かし、チーズとパンを交互に眺め、お喋りをして気を紛らわせているのが分かる。

 準備が整ったのだろう。
 店員は端の席までカートを押しやると、客にパンの乗った皿を持たせ、目の前で、溶けたチーズをナイフで削り、流してゆく。
 と同時に、周りからは小さく「おぉ」という感嘆が聞こえ、にわかに色めき立つのが分かり、チーズを受け取った本人も「わぁ……」と声を漏らしたらしく、すぐさまハッとし、チーズの乗った皿を片手に気恥ずかしそうに頭を掻いていた。
 そしてそのテーブル分を配り終えると、店員はカートを動かしてまた次のテーブルへと移動し、再びチーズを流して行く。

 思わず、水を飲む。

 見ているだけで唾液が溢れだし、零れてしまいそうだった。
 ラクレット自体は何度も食べてはいるが、やはりこうして目の前でとろけた姿を見せられ、意図せずとも焦らされると、口の中が勝手に味をイメージし、身体が準備を始めてしまうらしい。
 ふと横を見ると、隣の席の客もそうなのだろう。彼は手の甲を口元に当て、呑み込めなかったらしい唾液を小さく拭うのが見えた。

 暫くして、チーズを乗せたカートが漸く隣の席まで辿り着く。
 先程の男の席だ。ここまで来ると、ヒーターの稼働音は勿論の事、焼かれてふつふつと沸き立つチーズの音や、焦げてきつね色に染まる音。浮き出た油が沸騰する微かな音まで聞こえ、鼻を抜ける香りすらも暴力的なまでに強くなって胃袋をそのまま荒らされるような感覚にさえ陥る。

 喉が鳴る。今度は水で誤魔化す余裕すらなかった。
 男が店員に促され、目をとろけきったチーズに釘付けにしながらも、パンの載った皿を目の前まで持ち上げる。
 と、それを合図にしたかのように店員はチーズにナイフを近付け、そして――

 男の持つ皿を、鼠の頭が押し出していた。
 パンの代わりに、鼠の口へとチーズが流し込まれて行き、気付いた男が、手にした皿を投げ飛ばす。
 遅れて、店員が悲鳴と共にナイフを投げ飛ばして腰を抜かし、飛んだ先でパンに齧りついていた客が、パンを投げ出してくぐもった声を上げ、異常事態を察した人が鼠を目にし、また金切声が響き渡ってを繰り返し――収拾が、つかなくなって行く。

 机が、椅子が、蹴倒され、窓が叩かれ、狭い扉に人が殺到し、立ち行かなくなり怒号が響く。
 そんな中でも鼠は、周囲の惨状を気にする事もなく満足げに舌なめずりをし、のっそりと、手足を生やして身体を持ち上げると、床の上に二本脚で立ち上がった。

 車程の大きさをした、やたらとコミカルな――そう、丁度海外のカートゥーンの様な姿をした、巨大鼠。左右で大きさの違う両眼は忙しなくギョロつき、三本づつ生えた髭は折れて曲がっていて、舌は垂れ下がっている。大袈裟に突き出た鼻は何かを探すようにひくつき、わざとらしく伸ばされた鋭い前歯には、先程呑み込んだチーズの一部が冷えて固まり、張り付いていた。
 鼠が徐に周囲を見回す。
 と、「アーハァ!」と歓喜の声を上げて涎を辺りに飛ばして両手を揉むと、置き去りにされたままのラクレットチーズに飛び込んで両手で掴み、ドブにも似た悪臭のする涎をだらだらと垂らし、チーズに齧りつく。
 が。鼠は直ぐに表情を曇らせると、何かを考え込む様にわざとらしく頭を掻き、そしてまた直ぐ目を見開いて「名案を思い付いた」と言わんばかりに晴れやかな表情をして人差し指を立てる。

 それからの行動は早かった。
 鼠は尤も近くに居た人間――つまり、チーズの横で腰を抜かしていた店員――を勢いよく片手で抑え込むと、そのまま頭に齧り付いた。
 小さな、苦痛を訴える声。鈍く骨の砕ける音。粘つく水音。生臭い肉の臭い、鉄さびの臭い。店内に充満していたチーズの香りと混ざり、胃液が、せりあがる。
 鼠が咀嚼を繰り返す。と、口に肉片を残したまま、今度はもう片方の手で持っていたチーズに齧りつき、それを口の中で混ぜ合わせて、今度は「ンーゥ」鼻からこれだ、と言わんばかりの声を抜き、飲み下すとまた、手足を痙攣させている店員の死体に何度か齧りつき、チーズを齧った。

 まさに『チーズのつまみに人を食う』といった風情で。


●教室

「依頼です。本日午後七時半頃、開店したばかりの店舗に鼠の姿をした天魔が現れました」

 抑揚のない声が、室内に響き渡る。その声は澄んでいるが、同時に感情を感じさせない冷淡にも思えるような声だ。
「大きさは車程――通報者はワゴン車、と言っていましたね。それが店の中心部に近い場所に居座り、人間を貪りながら、その日来店者に振る舞われるようの大きなチーズを食べているようです。チーズの大きさは約一メートル程で、鼠は人間を齧ってはチーズを食べ進め、その人間を食べ終えるとまた、別の人間を捕獲し、頭から食べてはまたチーズ、と繰り返しているそうです。

 なお現在の被害者数は二人、との情報が入っており、少なくとも手元にあるチーズを食べ終わるまで、その数は増え続けるものと思われます……と、現在分かっている情報はこの程度ですね。現状では何があるか分かりませんので、出動される皆さまは、くれぐれも油断ならないようご注意下さい。それでは、皆さまご武運を」


リプレイ本文

●鼠

 店内は、所謂「洒落たレストラン」と言った内装をしていた。

 天井には植物のツタで作られた球体の照明がいくつも吊り下げられて淡く、まばらな光を放ち、調度品もシックで、如何にも高級そうな、しかし決して嫌味ではない物があつらえられ、どこか見えない場所にスピーカーがあるのだろう。店内の雰囲気に合わせたのか、微かに流れて来るジャズのサクソフォンが心地良い。
 ――だがしかし、それは元々の店内なら、という話だ。
 お客達が逃げる際、パニックになってなぎ倒していったのだろう。折角の机や椅子は勿論の事、雰囲気作りの小物等が入れられていたであろう棚も殆ど床の上に、乱暴に転がされ、各テーブルにあったと思われるランプ等のガラス製品も全て、砕けている。
 更に店内には、じっとりと纏わり付く、血と、糞尿と、臓物と絶望とが入り混じった――嗅ぎ慣れた死の臭いと、チーズ独特な乳臭さと脂の香り。そして鼠から発せられているのだろうと思われる、生臭く、それでいてドブにも似た臭いが充満しており、とてもではないが「心地いい」という感想からは程遠い物となっている。

 雪室 チルル(ja0220)は悔しそうに眉を寄せる。

 先程、エルム(ja6475)が大通りの窓から中を伺った時、鼠は入口からは背を向け、客席を覗く夢中になってチーズと『つまみ』に舌鼓を打って居た為、背後から奇襲をかけられるのでは、とも思っていたが、実際に中から眺めてみると、外からでは影になって見えなかった細々とした残骸が散らばっており、駆け抜けるには足場が悪く、かといって、それらを避けて行こうとすれば大きな、まだ形の残っている机などを避けなければならない為、やはり駆けるには不向きなように思えた。

 向こうから近付いてきてくれれば。

 そう考えると、頭の中にふと、鼠捕りの姿が思い浮かぶ。鼠と言えば、という連想なのかもしれないが、しかしそれでも、この鼠が入るだけの巨大な鼠捕りがあったのなら、少しはこちらに引き寄せる事が出来たのではないだろうか?と、考えてしまう。
 ――尤もあったとしても、天魔相手には効かないだろうけどね……
 自分で自分の考えを否定しながら、チルルは現実的に攻撃をするべく、ヒヒイロカネに手を伸ばし――
 チルルのすぐ横を、一つの影が飛び出した。

 何かのぶつかる鈍い音。同時に、その何か――太もも程の太さをした机の足だった物が、鼠に向かって行くのが、見えた。そしてそれは次から次へと断続的に続き、その殆どはまた鼠に、あるいは鼠の居る方角に向かって飛ぶ。
 軽やかに踊りだした向坂 玲治(ja6214)が、足元にある残片を蹴り上げながら回り込むようにして鼠への距離を縮めていたのだ。

 当然、鼠は敵襲に気が付くが、次々に飛んでくる木の塊と玲治の気迫に押されて、驚いた事を表現しているのか、手にしていたチーズと『つまみ』を放り投げると気を付けををしたような恰好になり、そして慌てて、投げたチーズを拾い、更に残り一口分程となっている『つまみ』を拾い上げようと、手を伸ばした。が。

「あらァ、させないわァ……!」

 声と同時に、鼠が手を伸ばしていた先にあった残骸が砕け、大気が揺れる。
 黒百合(ja0422)の放つアウルで出来た砲弾が、行く手を遮り鼠の手の先に落ちたのだ。鼠は即座に手をひっこめると、怖い、とでも言いたげにわざとらしく飛び上がり、ギィと短い鳴き声を上げて恨めしそうに床に落ちた『つまみ』を一瞬眺め、何かを考える素振りを見せていたが、直ぐに両手を打ち鳴らして、窓に向かって、トゥーンのキャラクター達がそうするように、腕を振り上げ、足を上げ、今にも駆け出そうというポーズを取り始める。

 どうやらチーズさえあれば『つまみ』は外で新しい物を捕まえればいいと結論付けたらしい。しかし。

「させません……!」

 間髪入れず、鼠の側部へと回り込んでいたエルムが、静かに刀の背に指を滑らせそして、大袈裟な動きをしていた鼠の脇腹へ向けて素早く、それこそ、眼にもとまらぬ速さで刃を突きたて、肉を裂き、すぐさま引き抜く。
 一瞬の間。後、鼠は突然脇腹に起きた痛みを堪えるかの様に、グ、と呻くと両手で大袈裟に傷口を押さえて身体を捩り――鞭の様にしならせた尾を、エルムの頭に向かって一直線に、振る。

 ――速い。
 視界に入った時には、鼠の尾は眼前にまで迫っていた。当たる。背筋を無理矢理逸らす。尾の表皮が髪に振れたのが解る。皮膚が裂ける。尾が振り抜ける。鮮血が散りそして――鼠の巨体が、弾き飛ばされた。

 エルムに気を取られていた鼠の死角から放たれた光の塊が、鼠の身体にぶち当たり、抉り、勢いもそのままに、先程蹴散らした机の残骸の上へと落ち、木片を飛び散らせる。

 頬を血液が流れるのを感じながらエルムは、背を逸らした体勢からそのまま自重を後ろに移し、距離を取る。直撃は、免れた。だが尾の風圧で、皮膚が裂けたらしい。
 もしも直接当たっていたら――ぞっとしない。

「大丈夫かよ」
 トンファーに残光を残し、鼠から眼を離さない玲治の声に短く「はい」とだけ答え、大したダメージを受けた様子を見せず、パフォーマンスのつもりなのか、跳び起きて身体を払う鼠をみやる。

 そして鼠は、手にしたチーズを一口齧ると、愉快そうに、わざとらしく腹を抱えてケタケタとトゥーン染みた笑い声を立てた。

●調理場

 耳障りな笑い声が聞こえる。戦闘継続。どうやら陽動は上手く行っているらしい。

 ローニア レグルス(jc1480)はそう状況確認を済ませると、未だに怯えを含んだ表情を浮かべ――しかし大分落ち着きを取り戻した顔をした店員に向かい「おい」と、静かに声をかける。

 一般人が逃げ遅れている。
 その可能性を考慮し、二手に分かれたのは正解だったらしい。仲間達が先行し、鼠の気を引いて戦闘を繰り広げている中、ローニアは気付かれないよう静かに、そしてゆっくりと、床の中に身を隠して店の奥、特に人の隠れていられそうな場所を集中的に探していたのだが、案の定、とでも言えば良いのだろうか。
 コック服に身を包んだ若い女が一人、店内からは見えにくい、調理場の棚の影に身を潜め、小さく震えていたのだ。

 声をかけられると同時に、店員は悲鳴を上げる代わりに体を小さくびくつかせ、ゆっくりと、ローニアに視線を向ける。どうやら店員は、床から身を現したローニアに対しても恐れを抱いているらしいが、それでもこちらが敵ではないと理解していて、且つこちらの話を聞くだけの冷静さがあるならば問題ない。ローニアは一点――唯一、外界と繋がっている、換気用の窓を指さし「本当に、あそこ以外には窓も、出口も、無いんだな」と、店員に念を押す。
 と、店員は不安げながらも一瞬考えそして、首を縦に動かした。

 調理場はカウンターを挟んだ場所に作られており、客席から見え易い作りになっていた。と言っても、カウンター自体の高さが五十センチ程はあるので屈んでいればそう、見つかる事はなさそうなのだが、だからと言って唯一見つける事の出来た窓は、防犯対策なのか、多く見積もっても十センチ程度しか開ける事は出来ず、また外には鉄格子が取り付けられていて、少なくとも『一般人』があの鼠に気付かれず、そこから脱出するのは不可能でしかない。
 器具がいる。音が出る。素早さがいる。そして何より、あの鼠に対抗する為の力がいる。それを考えると、殆ど不可能としか思えなかった。

 ――が。自分は、「一般」でも、ましても「人」でも、無い。

 店員を一瞥する。
 目には怯えと同時に、縋る様な色を滲ませていて「どうするのか?」と問いかけているように見える。
「そうだな」
 誰に言うでもなく、声に出す。どうしたって、音は出るだろう。
 だから、変える必要は感じられない。
 ローニアは手にしたギターを静かに構えて腕を振り上げると、そのまま勢い良く振り下ろした。



 店中に突如、熱気を帯びたギターの音色と、硝子やコンクリートの砕ける轟音が響き渡り、カウンターの向こうからは濛々とした土煙が立ち上っている。
 一瞬、何が起きたかを考える。が、すぐさまそれが、一般人を逃がす為に壁を破壊した音なのだと思い当る。
 僅かな、間。しかしその間の内に、何かを感じたのだろう。
 どうやら鼠は、音のした方向に何があるかを察したらしく、台所に向かって走り込もうと先程走ろうとした時と同じく、足を、腕を、振り上げ、地をかけようと足を踏み出しかけていた。

 このままでは、僅かに間に合わないかもしれない。
 しかしそれでも、間に合わせなければ。そう思い、誰もが同じく踏み出した――その時だ。
 鼠の背に、何か緑色をした筒が投げつけられ、床を転がる。
 辺りには、今までよりもハッキリと、そして強烈な鮮血の臭いが、漂う。遅れて、チーズの、ねっとりと絡みつく、乳臭さ。
 その異臭を辿れば――自ら、肉を引きちぎったのだろう。右腕からだくだくと、とめどなく血液を流し、頭からは、何故か粉チーズを被り真っ白な筈のそれは、血液を吸って赤く、凝り固まっていた。
 そんな状態だと言うのに、黒百合は、笑っていた。ただ一人。愉快そうに。実に、楽しそうに。そして「あらァ、可愛い鼠ちゃんゥ」等と、嘯く。
「追加でデザートなんて如何かしらァ♪うふふふゥ、チーズ風味の撃退士よォ♪」

 その光景に、誰一人目を逸らせなかった。声を出せずにいた。
 そして――鼠も移動するのを止め、黒百合に――極上の『つまみ』に、一瞬、眼を奪われそして――金切声が上がる。

「隙だらけだっつーの!」
 今まで期を伺い息を潜めていたラファル A ユーティライネン(jb4620)が、鼠の真上から飛び掛かりその無防備だった背中に刃を突き立て、体内で破裂させたのだ。

 無理矢理に肉が剥がされ、引き裂かれ、掻き分ける感触が手に伝わる。
 鼠が動く度に、刃が肉を掻き回し、血液を泡立たせるのが、伝わる。
 そしてその度に、鼠は苦しげに呻き、涎を撒き散らし、体を捩っては、背に乗ったラファルを払いのけようと何とか暴れ――

「――うわ、あっぶねー!」
「今――!」

 足が絡んだのか、それとも瓦礫を踏んだのか、鼠はバランスを崩し、そのまま倒れそうになりラファルは慌ててその背から飛び退く。と、その瞬間を狙っていたかの如くチルルが駆け出しその小さな体躯に見合わぬ大剣を振るい、作り物染みた鼠の足を一閃、切断する。

「そらネズ公。夢の国にでも帰るんだな……!」

 玲治の影の中から伸びあがる幾数の黒い腕が、鼠を絡め、床の上に押し付けるようにしてギシギシとその体を締め上げて行く。
 腹を押されたからだろう。鼠は先程まで食べていたチーズと『つまみ』を嗚咽と共に吐き出しながら、なんとかその拘束から逃れようと残った手足をばたつかせそして、拘束している主の、玲治に向かって鞭の様に尾をしならせ、その体を薙ぎ払おうとする。
 しかしその尾は、玲治にぶつかる直前。再び、掻き鳴らされたギターの熱い音色によって引きちぎられて明後日の方向へと飛び去り、抵抗の手段を失った鼠は今までのわざとらしさも見えず、悔しげに、忌々しげに、唯の獣らしく、ギィギィとした鳴き声を発し、もがいている。

「これ以上の狼藉は――許しません……!」

 身動きの取れなくなっている鼠にエルムは駆け出し、紫の焔を纏った刀を構え――脂肪のたぷついた腹を切り上げ、すぐさま手首を返し、もう一太刀、切りかかる。
 切り裂かれた腹から、見た目のトゥーンらしからぬ生々しい臓物が零れ落ちるが、それでも鼠は抵抗を止める事無く、ギィギィ、ギィギィ、呻いて、泡を吹き、更に臓物をはみ出させる。

「さァ……これでお終いよォ……!」

 黒百合の声が響き、今だ出血の収まらない右手を省みる事無くロケット砲を担ぎ上げ、息も絶え絶えになっている鼠に向け、そのままゆっくりと、鼠を狙い、引き金を引く。反動。体が後ろに引き倒されそうになる。弾き飛ばされないよう、残った左手に力を込める。足を突っ張り、腹に、下半身に、力を込める。
 そうして、反動が無くなった頃には、先程まで鼠の居た場所にはもう、異臭を放つ、何かの肉片が散らばっているだけだった。

●エピローグ

「んー!やっぱチーズはいーな……!」

 綺麗に片され、唯一無傷で残ったカウンターに寄りかかりながらラファルは、清掃の謝礼代わりにと提供されたチーズに舌鼓を打っていた。
 結局。
 この店は、一端畳む事になるらしい。それはそうだろう。店にあった調度品は殆ど全て壊され、目玉の一つだったラクレットチーズのヒーターも駄目になってしまっているのだから、少なくとも、それらを再び準備するまでは店を開ける訳にも行かないだろう。
 しかしだからと言って、ここの店主は悲観する事も無く「また別の場所で頑張るよ」と嫌に前向きで、そして無駄に、自信にあふれていた。
 それがラファルにはよく分からず、少しばかり疑問にも思ったのだが――成る程。チーズを食べて、その理由が良く分かった。

 この店主の用意したチーズは、今までラファルが食べた中でも中々に上等の部類に入る物ばかりだった。
 それは値段が、と言う事ではない。保存が、品質が、材料が、どれもこだわり、情熱を向けられているのが解るような、そんな味だったからだ。
 これならば、別の場所に移っても上手く行くだろうと、自信を持てるだろう。

「次はどれ食おうかなー」
 言って、再び並べられたチーズに視線を落とす。
 チーズはどれも、魅力的だ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 オリーブオイル寄こせ・ローニア レグルス(jc1480)
重体: −
面白かった!:4人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
穿剣・
エルム(ja6475)

卒業 女 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
オリーブオイル寄こせ・
ローニア レグルス(jc1480)

高等部3年1組 男 ナイトウォーカー