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マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/06/04


みんなの思い出



オープニング

●宝探しの相談です。

「え? そう言えば、どこかで見たわね」
 上下 左右(jz0134)は、頬に手をあてて首をかしげた。
 彼女が何を見たのかというと、『宝の地図』の一片の事である。

 なんでも、月摘 紫蝶(jz0043)が学園教職員に押し付けて回ったらしい……。

 相談室に来た生徒たちが言うには、今、生徒たちの間ではその宝探しが密かに?(いや、上下が知らなかっただけで、物凄くかもしれないが)流行っているようだ。
「そうそう、図書室よ。図書室の本に挟まっていたわ」
 漸く思い出せた。と両手を胸の前で合わせる。

 生徒たちは上下に詰め寄るようにして、本の題名を聞く。
「えっと、何て本だったかしら……。確か彼女へのプレゼントで悩んでいる子が持ってたのよ」
 と、思わず口を滑らせた上下だが、相談内容はちゃんと守秘義務によって守られます。

「ごめんなさい、忘れてしまったわ。でも図書室で間違いはないわ」
 結局、題名は思い出せなかったが、ヒントは得られたと生徒たちは図書室へ向かった。
 その後姿に左右はひらひらと手を振って送り出した。
「頑張って探してきてね〜」


●宝探しの前の宝探し

「あぁ、知ってるよ」
 図書当番の少年は雑誌を広げたまま―― 少年にはあまり似合わない可愛らしい木製のリボンや木の実、動物を象ったペンダントなどの小物が載っていた――で、宝探しの生徒たちを迎え入れた。

「んー、ただ教えるのもなんだからな。ここは一つ謎解きをしないかい?」
 雑誌を閉じると少年は気分転換とばかりに、生徒たちに問題を出す事にした。
 図書室の利用者が少なく暇だった……からではなく。
 実は、彼女へのプレゼントをどうしようかと雑誌を捲っていたのだが、なかなか良いものが見つからなかったのだ。
 そんな訳で、少年は机の上に5冊の本を並べる。
 文庫や新書。単行本に大版のものと、大きさはバラバラ。もちろん、ジャンルもバラバラだ。


題名:黒魔法辞典  作者:アレックス・フォード 表紙の色:黒
題名:天から来た男    作者:双葉 進一 表紙の色:青
題名:ある日の動物園     作者:山本 はじめ  表紙の色:赤
題名:図解・V兵器の使い方   作者:三田 幸造 表紙の色:黄
題名:公務員試験   作者:五島 太郎 表紙の色:緑


「この5冊のどれかに、『宝の地図』が挟まっている。おっと! 開くのは無しだ」
 少年はややオーバーなリアクションで、本に触れようとした生徒を止める。
「君達は本を開かずに、『宝の地図』の挟まった本を見つけてくれ」
 その言葉に、生徒たちが僅かにざわめいた。するとすかさず――。
「無理だって? そんな事はないさ。ちゃんとヒントなら出ているんだ。さぁ、頑張ってみてくれたまえ」
 と、少年はひとさし指を立てて言ったのだった。
 


リプレイ本文


●宝探しに付き物です

 図書当番の少年は、ニヤリと笑う。さて、名探偵はいるだろうか……と、余裕の表情を見せると、再び雑誌を開いて、視線を落す。

 並べられた五冊の本。この謎を解かなければ、宝の地図は手に入らない。
「リドルですか。ワクワクしますねぇ……」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)も謎解きに興味津々だ。ちょっと芝居がかった口調と身振り手振りなのが特徴だろうか。
 その隣では、同じように花菱 彪臥(ja4610)が「宝探しに謎は付き物だよなっ」と、目を輝かせている。
 花菱は謎解き自体は得意というわけではないが、ワクワクする事が楽しいと思う性分だった。
 故に、こういった謎解きが好きなのだ。

 龍崎海(ja0565)は、「すでにヒントがあるのか、開かないからよく本を見せてもらうよ」と少年に言うと、腕組みして本をまじまじと眺める。

(本の隙間に何か挟まっていれば……いや、栞が挟まっていただけという事もありうるか……。)
 手に取らずに、『宝の地図』が挟まっている一冊を見つけ出す。中々に、難問ではないだろうか?

 そんなことを考えながら、龍崎は黒い表紙の黒魔法辞典を手にとり、
「この本の中でただ一つ、題名に表紙の色と同じ言葉があるのが、怪しいなぁ」
 と呟いて、図書当番の少年の顔色を伺う。
 しかし、「あぁ、そうだなぁ」と、少年は気の無い相槌を返すだけだった。

(おや、この手は不発かな?)
 と、変わらぬ表情の少年を眺めつつ、龍崎の方が苦笑してしまった。『謎』ではなく、『出題者』を攻略するのはやはり、邪道だったな、と。

「んー、俺はこの本だと思うぜ!」
 赤い本を花菱が指差す。
「おや、どうしてだい?」
 自信有り気な花菱に青戸誠士郎(ja0994)が聞く。
「んー、感!」
「……そっか、感かぁ」
 元気に笑う花菱につられるように、青戸も笑顔になtt。

(あながち、人の直感は侮れないと言うしなぁ……)
 仁良井 叶伊(ja0618)は花菱の差した赤い本をまじまじと見る。

「……ところで君は何読んでるんですか?」
 沙 月子(ja1773)は謎解きよりも、少年の開いていた雑誌に興味を示した。
「あら? 可愛いですね」
 ルーネ(ja3012)も一緒になって、雑誌を覗き込んだ。
「可愛いけど……ちょっと君に似合わないかな。可愛すぎません、ねぇ」
 月子がルーネに同意を求める。
「そうですねぇ。ちょっと男性向けでは、あぁ、いえ、そういうのが好きな方もいますけど」
「……おい、勘違いするな。俺じゃなくて……贈り物探してたんだよ。贈り物!」
 少年は焦り気味でまくし立てる。

(そういえば、さっきから読んでいる雑誌は……あぁ、なるほど)
 『謎』を解いたわけではないが、仁良井は少年の持ち物と状況から、行動を推測したようだ。こうなると、純粋に謎解きに興じるわけにも行かないか。と、手近にあった手芸の本を片手に、少し離れた席へと移動した。

「……彼女?」
「きっと、そうですよ! ですよね?」
 月子とルーネが謎解きではなく、別の事に強い興味を顕わにしたため、「まったく、謎は解けたのかよお前ら……」と、雑誌を机に置いた少年は深いため息をついた。


●宝物になるように

「こっちの可愛い」
「いいですね。でも、彼女さんに似合うかは分かりませんね」
 少年の前では、女子トークが繰り広げられていた。
 (確か、俺は図書室に来た奴に、宝の地図の在り処を探る謎解きを出したはずだったんだが……どうしてこうなった?)
 少年はぼんやりと頬杖をついている。

「彼女にプレゼントえらんでるのかー」
 謎解きに飽きたのか、花菱までプレゼント選びの方へ首を突っ込んできた。
「彼女さんの人となりを知らないからね。あまり、アドバイスはできないけど……」
 さらに、龍崎も仲間入り。
「既に両想いであるのなら、相手の好みに合ったもので、且つペアになっているものはどうでしょうか?」
 と、青戸までもだ。
 まぁ、謎解き組みも息抜きという事だろう。と、少年は自分を納得させる。

「彼女の写真あります?」
 月子が急に少年に詰め寄った。
 意外と近い顔面に、少年は仰け反る。そしてその体勢のまま、一回頷くとスマフォを取り出して写真を表示して見せた。
「へぇ」
 月子とルーネ、そして横から顔を出してきた花菱が写真をまじまじ眺める。
「な、なんだよ?」
「結構、可愛いんじゃね?」
 花菱の言葉に、ちょっとだけ得意げになる少年。

 さて、そんな風にプレゼント選びで盛り上がっている机から、少し離れたところで本を読んでいた仁良井 が、ふと顔を上げるとエイルズレトラが、なにやら一人遊びを始めていた。

 慎重な手つきで、両手にもった1枚ずつのトランプ(なぜか黒の札だけを選んでいる辺りに彼の拘りがあるのかもしれない)を机の上に支え合わせて、三角になるように立てる。
 それを何度か繰り返し、三角形を量産すると、隣り合う三角の頂点同士を橋渡しするように、1枚ずつトランプを乗せる。そして、今度は橋となったトランプの上にまた三角を作るという、緻密で忍耐の要る工程を繰り返す。
 黒の札が終わると、次は赤い札を使う。

 エイルズレトラの手により、下が黒で上が赤いピラミッドが建造されていく。そして、ついに最後の頂点が作られた。
 その瞬間、エイルズレトラと目があった仁良井はサムズアップで応えた。
 エイルズレトラも仕事を成し遂げた男の顔で笑った。

「ねぇ、どうだい。僕のピラミッドは!」
 プレゼント選びをしている皆に、エイルズレトラは少し得意げに声を掛けた。
「お、すげーじゃん!」
 花菱がさっそく食いついた。
 トランプで作られた下が黒、上が赤のピラミッドだ。
「へぇ、色分けしてるんですね」
 竜崎もエイルズレトラ拘りの部分に感心する。
「その通り! 某お菓子を彷彿するでしょう?」
「あー、あのお菓子ね。エイルズくん」
 月子はお菓子を思い浮かべる。確かに、赤と黒の三角だなと、笑みがこぼれる。
「分かってくれますか月子さん! そうなんですよ。あのお菓子!」
 と、エイルズレトラは得意げに腕を振った。


「あ」


 誰の声だったのか、それとも皆が同時に呟いたのか。
 五十音の最初の一文字が発声されたのは、エイルズレトラの腕によって起こった風でパタリとピラミッドが崩れたからだ。

 あまりにもあっけなく……。

「ぁぁぁ……」
 消え入りそうな声を絞り出しつつ、エイルズレトラは膝をついた。
 単純な一人遊びと言えども、あのピラミッドの建造はまさに芸術だった……。
 と、本人は思っているのだ。

「折角、黒赤って順番に並べたのに……。また、頭から並べなおしですか……」
 緩慢な手つきで、エイルズレトラは、ばらばらになったトランプを、かき集め、赤と黒とに仕分けする。
 周りの皆も、流石に可哀想になって、トランプを拾い集める。

「……順番……頭から……並べなおし……」
 片言のように呟くと、青戸が顎に手を当てて黙り込んでしまった。
「ん? どうしたんですか誠士郎さん」
 急に動きを止めた青戸に、心配になってルーネが声を掛ける。
 青戸は暫くそのままで居た。

 そして、
「そうか……謎は全て解けましたよ」
 と、顔を上げ青戸は微笑んだ。


●宝の在り処の在り処

 五冊の本の前に皆が集まっている。
 これから、青戸の謎解きが始まる。皆はそれを固唾を呑んで待っているのだ。

「鍵になるのは、『頭から』何番目かという『順番』なんだ」
 青戸はまず一冊の本を指差す。
「例えば、この『公務員試験』の本。作者の名前は?」
「五島 太郎だね」
 青戸の問いかけに竜崎が答えた。
「そう、”五”島 太郎だね。つまり、タイトルをひらがなに直して五番目の文字を指しているんだ」
 青戸は頷くと、手を開いて五を示す。

「えっと、ちょっと紙にかいてみる」
 花菱は文具セットを取り出す。
「ひらがなにすると『こ、う、む、い、ん、し、け、ん』だから、5番目は「ん」だ」
 ペンを走らせる花菱は、何か面白い発見をしたとばかりに楽しくなってきていた。

「同じように三田 幸造の『図解・V兵器の使い方』なら三番目の『い』になるのか」
 と、仁良井が続ける。
「それじゃぁ、山本 はじめさんは、はじめだから一番目の『あ』ですね」
 ルーネが赤い本を指差す。
「黒魔法辞典は、なるほど……フォードのフォーを文字ってるんですね」
 失意から復帰したエイルズレトラが、クスッと笑う。
「四番目だから、『ほ』ね」
 月子は「めんどくさい事考えるわね」と失笑気味だ。

「じゃぁ、最後の天から来た男は、双葉だから二番目!」
 花菱がノートにペンを走らせる。
「『ん』だ!」

「いいえ、それが引っ掛けなんです」
 青戸が花菱のノートに指を当てる。
「双葉……進……一……あっ! もう一個数字がある!」
「そうです。ですから、一進めて三番目の『か』になるんです」
「なるほど凄いです誠士郎さん」
 ルーネも感心の声を上げる。

「では、次に『並べなおし』です」
 青戸はノートに書き出された言葉を指差す。

『ほ』
『か』
『あ』
『い』
『ん』

「これを並べなおすと……」
 青戸は花菱からペンを受け取ると、ノートに文字を並び替える。

『あ』『か』『い』『ほ』『ん』

「あ、赤い本! これおまえが考えたのか? すげー、頭いいな!」
 青戸に対し、しきりに感心する花菱。
 そして、皆も出てきた答えに納得がいったようだ。
 青戸はそれを確認すると、
「どうですか。出題者さん?」
 と少年に聞く。

 少年は、『青戸の答え』に笑い出した。



●君の宝を

 図書室に来た奴に謎を出してやろう。

 そんな事を思ったのは、もうずいぶん前の事だった。
 少年は、この『本のタイトルを使った謎解き』を忘れられない。それは、自分が彼女と出会ったきっかけだったからだ。

 その時は、出題された方だった。
 だから、今回は出題者になろうと思ったのだ。



 そして、この図書室のちょっとしたミステリィに挑んだ探偵たちは――。

 少年の笑い声は止まり、その手は黒い本に伸びた。
「まずは、この本」
 開かれた黒い本の間には、『阻霊符』が挟まっていた。
 同じように、別の本の間にも、少年が栞代わりにしていた『阻霊符』が挟まっていた。

 そして、最後に開いた本は……。

「正解だ」
 少年は赤い本を広げ、しっかりと宣言する。
 そこには、地図の切れ端が挟まっていた。

 ――見事に解答に辿り着いた。



「まったく、お前ら謎解きに飽きて、俺のプレゼント相談始めたり、遊び出したかと思ったら、さっくりと解きやがって……」
 少年は少し悔しそうに『宝の地図』の切れ端を本から取ると、机に広げた。

「これが、宝の地図かぁ」
 皆がその地図を覗き込んだ。
「確かに、間違い無さそうですね」
 仁良井は地図を検めると、念のためと写真まで撮った。

 謎解きも終わり、少年は本を片付ける。
「栞代わりにしてた符は持ってってもいいからな。それじゃあな」」
 と、片手を挙げて、少年は別れの挨拶のつもりのようだったが、それを制するように月子が口を開いた。

「……まだです」と。

「ん? なんだよ。宝の地図は手に入っただろ?」
 訝しげに少年は首をかしげた。

「まだ、彼女へのプレゼントが決まってません!」
「そうよ!」
 ルーネと月子は、人差し指をビシッと突きつける。
「お、お前ら……」
 少年はまたしても仰け反る事になった。

「そうですね。どんなものがいいでしょうか?」
 再び、プレゼント選びモードの龍崎が微笑む。
「大事な人へのプレゼントですからねぇ。悩みますね」
 と、名探偵となった青戸も微笑む。
「俺知ってるぜ。女子って花が好きじゃん? 花でいいんじゃね?」
 と花菱。
「花ちゃんだけに、花ですか?」
 とエイルズレトラが大げさに手を広げて、やれやれとからかう。
「花ちゃんて呼ぶな〜!」
 と、花菱とエイルズレトラは笑いながら図書室の本棚の方へと去っていく。
「お、お前ら。図書室では静かに〜!」
 と、当番である事を思い出した少年が注意する。

「以外に、ファンシーなものを探してるみたいだが、どんなもの渡すつもりなんだ?」
 仁良井は疑問を口にする。
「あぁ、でもまぁ。心の篭ったものとか……」
 と少年が喋ろうとすると。

「気持ちがこもっていればそれでいいとはよく聞きますけれど、胸の内では落胆したり幻滅したりしてるんですよね」
「お、おう……」
「それなのに男性は『何で使ってくれないんだ』って言うわけで。ダサイからとは言わないとでしょうけれど。だって女は天性の嘘つきですもの(ねちっ)」
 怒涛のように月子の口撃が襲い掛かってきた。
「お、おう……」

「動物とかのモチーフとか見てましたよね。やっぱり好きな動物がいいですよね。私だったら猫モチーフなら凄く喜ぶ自信があります!」
「お、おう……」
「木製のペンダントもあまり大きいのはお勧めできません。彼女さんの髪結構長いみたいですし、バレッタなんて良いかもしれません。こちらならある程度大きくても……」
 と続いてルーネも猛攻を仕掛けてくる。
「お、おう……」

「可愛くてもあんまりゴテゴテしてないもの、あ、金属アレルギーとかないですよね?」
「あ、木製を選んでたのって金属アレルギーだったりしました?」
「え? あいや……」

「誕生花にモチーフを絞って選んでみましょうか」
「あぁ、いいですね」
 等と、月子とルーネが意気投合しているのを眺めつつ。


 少年は「どうして、こうなった?」 と再び思わずには居られないのであった。



 結局、桜の意匠が凝らされた木製のバレッタと、彼女が好きな羊の木製ペンダントを買う事になった少年は、誕生日に無事にプレゼントを贈れたのでした。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ルーネの花婿・青戸誠士郎(ja0994)
 エノコロマイスター・沙 月子(ja1773)
重体: −
面白かった!:4人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ルーネの花婿・
青戸誠士郎(ja0994)

大学部4年47組 男 バハムートテイマー
エノコロマイスター・
沙 月子(ja1773)

大学部4年4組 女 ダアト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
いつでも元気印!・
花菱 彪臥(ja4610)

高等部3年12組 男 ディバインナイト