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マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/06/12


みんなの思い出



オープニング

●雨降りの図書室
 火曜日の放課後、図書委員の男子生徒は誰も居ない図書室で一人、推理小説を読んでいた。今日は一日中、しとしとと雨が降っていた。雨音が支配する空間に、ページをめくる音が時折混じる。静寂……と思った男子生徒は、音がするのに静寂ではおかしいと矛盾点に気がつき本を閉じる。男子生徒は立ち上がると、誰も居なかったために後回しにされていた図書委員の仕事を始める。
「おや、返却本がたまっているなぁ」
 返却本棚には今日の昼休みに返却された本がまだ片付けられていなかった。昼休みの当番が仕事をサボったのかと少し不満を覚えたが、それでも火曜放課後の当番は自分である。この本を片付けるのは自分の役目だ。
 男子生徒は図書の貸し出し記録に目を通し、返却手続きが正しく行われているか確認した。すると、全て一人の生徒が借りたものだった。しかも、昼休みに借りて直ぐに返されていた。男子生徒は不思議に思い、図書のタイトルを確認する。

1 あおぞらの本
2 ひなまつりの本
3 サンタクロースの本
4 ねずみがいる家の本
5 おおきなスイカの本
6 ホットケーキの本


「ずいぶんと濫読なんだなぁ……しかし、これは、何かの暗号なのか?」
 男子生徒はもしかしたらという小さな期待と、勘違いだろうという諦めとともにつぶやく。しかし、これが暗号ならちょっと解いてみるのも面白い。折角だから、他の誰かと一緒に考えたらどうだろうか。暗号じゃなくてもちょっとした遊びとしては楽しめるかもしれない。男子生徒は、その思い付きがとても素晴らしく思えてきた。
 そして、ちょうど図書室を訪れたあなた方に気が付くと声を掛けた。 
「なぁ、ちょっとミステリーを解かないか?」


リプレイ本文

●図書室に集まった探偵たち
 雨降りの図書室にて、顔をつき合わせて考え込む女子が五人と男子が一人。雨音というBGMの中、皆で本を読んでいる……というわけでもなく。机の上に並べられた本を囲んで考え事をしているのだ。
「こんなのは、難しく考えないで適当に……あっ!?……これは……アレだよね?」
 と、あてずっぽうに推理して正解にたどり着いたのは、嵯峨野 楓(ja8257)だ。
「えぇ、アレですよねぃ」
 と、鳳 優希(ja3762)は思わず微笑みながら答える。
「リィもわかっちゃいました」
 自らの事をリィと呼ぶエヴェリーン・フォングラネルト(ja1165)も笑顔で答える。
「解読方法が間違って無いなら、出した方は奥床しいのですね」
 雫(ja1894)は暗号を出した人物を思う。
「ですが、アレにしてもまだ謎は残っていますね。この暗号が誰に宛てられたものなのか」
 間芝 真士(ja7802)は、寧ろあて先の方こそが謎だと進言する。
「ん?……あぁ、アレね。アレ、もちろん分かっているとも」
 皆の視線を受けつつ神崎・倭子(ja0063)が言った。

●推理披露のその前に
「おや、解けたのかい?」
 図書委員の男子生徒は、読みかけの本を閉じると皆の方を向いて立ち上がった。早く推理を聞かせて欲しいといった様子である。
「えぇ、まぁ……」
 まだ、あて先が分からないので間芝は曖昧な返事をした。
「おぉ、それじゃぁ是非とも聞かせてもらいたいなぁ」
 有無を言わさぬ勢いで、図書委員の男子は詰め寄る。一瞬、たじろいだ間芝だったが、二人の間に小さな影が割ってはいる。
「あの……今日は雨ですね」
 普段は小さな声の雫が、精一杯の声で割り込んだのだ。
「ん?……そうだねぇ。それが何か……」
「あ、いえ……その……、先ほど相合傘をした生徒を見たのですけど、彼方はそういう事をするようなお相手はいらっしゃいますか?」
 雫はわずかな間、考えを巡らせていたのか視線を彷徨わせる。そして、小さな声で図書委員の男子へ質問した。
「いや、そういう相手は居ないけど……まさか、暗号のヒントなのかい?」
 質問された当人は、腕組みをして暫く考え込むと、的外れな事を答えた。
「あ、いいえ。その、聞いてみただけです……」
 それだけ言うと、雫は口をつぐんだ。

 雫の質問の意図を汲んだ一同+αは、目配せをする。
「折角だから、この暗号の出題者も交えて推理披露しないかぃ?雨の日のミステリィなんて情緒的だろ?」
 間芝は図書委員の男子に提案する。
「いや、そこまでしなくても……俺はただちょっとしたミステリィが楽しめれば……」
 図書委員の男子は、提案には否定的だった。
「いやいや、図書室に残された謎の暗号だよ。それはきっと素敵な運命を導くに違いない。是非とも盛大にやろうじゃないか!」
 そんな、彼に神崎は目を輝かせて言う。もちろん、素敵な運命については何も見当が付いていないのだが……。
「そうですよ!きっと素敵な事がおこりますゆ〜」
 神崎に続いて鳳も目を輝かせる。こちらは、素敵な運命におおよその見当が付いている。
「え、まぁ……確かにそうだが」
 図書委員の男子が思わず頷くと、間髪要れずに嵯峨野が言う。
「そうと決まれば、出題者本人を連れてきましょう」
「あとは昼の図書委員にも聞き込みしておきたいです」
 フォングラネルトがその声に続く。
「じゃぁ、皆。手分けして事にあたろうじゃないか!」
 神崎は皆の顔を見回すと、声高らかに号令した。

●探し人はいずこ?
 昼の図書当番に話を聞きにやってきたのは、神崎、フォングラネルト、雫の三名だ。昼の当番の生徒はすぐさま見つかった。
「昼の図書当番はきみだなっ!」
 神崎は早速、その生徒に話しかける。
「あぁ?そうだけど……」
「あの、あなたに聞きたい事があるんです。昼休みの当番中に沢山の本を借りた生徒が居たとおもうのですが」
 神崎の後ろに隠れてしまっていた、フォングラネルトと雫が顔を出す。
「え……と、実は今日は他の人に代わってもらったんだ」
 少し、バツが悪そうにその生徒は言う。 
「……あれ?という事は、きみが返却本をそのままにしていたわけではないのか」
 神崎はあてが外れたと、後ろの二人に振り返る。
「と、いう事は放課後まで残っていたのは、別の方の仕業ということですね」
 フォングラネルトが思案に耽る。
「……あの?誰に代わってもらったんでしょう?」
 雫は小さな声で神崎に聞く。
「おい、きみ!一体誰と当番を代わったんだい」
 神崎は、雫の言葉をその男子へとまるで伝言ゲームのように伝える。その男子はおずおずと口を開いた。神崎たちはその口から出た名前を聞き、驚くことになった。

 鳳、嵯峨野、間芝の三名は、早速その暗号の出題者を探す事にした。ちなみに出題者は女子生徒であった。既に放課後という事もあり、その女子がまだ学校内にいるかはほとんど賭けのようなものだった。
 校内に疎らにいる生徒たちを捕まえると、嵯峨野は一言二言談笑し件の女子生徒の足取りを探る。間芝はその手際のよさに感心しつつも、自分の出番がないようなら図書委員の男子と、少し話しでもしていれば良かったかなどと考えていた。
「嵯峨野さん、すごいですねぇ〜。本物の探偵さんみたいですぅ」
 鳳が感心の眼差しを嵯峨野に向けて言う。
「もぅ、やめてよ優希ちゃん、からかわないで」
「いや、本当に見事なものだよ嵯峨野君は」
 間芝も鳳の言に一理ありと嵯峨野を褒める。
「間芝くんまで……褒めても何もでないよっ!」
 嵯峨野は少しはにかんで言う。鳳と間芝はそのまま、嵯峨野に連れられて校内を歩いて女子生徒を探す。
「あ、居た」
 暫く校内を歩いていると、嵯峨野は件の女子生徒を見つけた。
「ねぇ、キミだよね。図書室の本の暗号を……」
 女子生徒を見つけた嵯峨野はさっそく声を掛けた。急に声を掛けられた女子は、嵯峨野たちを見ると何故か一目散に逃げ出した。
「……えっと?」
「逃げちゃいましたねぇ〜」
「あ〜、逃げたな」
 嵯峨野たち三人は顔を見合わせた後、すぐさまその女子を追いかけた。

●なぜかの追跡劇
 間芝と嵯峨野は暗号の出題者であろう女子を追いかけた。鳳は走りながら他の三人へ連絡をとろうと、携帯電話を取り出す。そこに、丁度着信が入った。鳳は直ぐに受話器ボタンを押す。
「あ、鳳さんですか?リィです」
 電話の相手はフォングラネルトだった。鳳は少し慌てながら言う。
「はい、そうですよ〜。ただいま、暗号の出題者さんを絶賛追跡中です〜」
「は?……追跡?」
 フォングラネルトは受話器の先から聞こえてきた言葉に思わず首をかしげる。
「いえ、今はそれどころではなくて……、どうも昼の当番はその出題者だったようなんです」
「あら〜、そうだったんですかぁ〜」
 嵯峨野は走る速度を落し、鳳の手の携帯を借りて話す。
「何かわかったの?ちなみに、私たちは今、暗号の出題者が何故か逃げてるんで追いかけてます!」
「あ、本当に逃げてるんだ」
 いつの間にか受話器の先の相手が神崎に代わっていた。
「昼休みの当番が、どうもその出題者に今日の当番を代わってもらっていたそうなんだ」
「えっと、つまり出題者本人が、当番を代わったから返却本をそのまま放課後まで残せたってこと?」
 嵯峨野はこめかみに指を当てて考えを整理しながら言う。
「そう」
 神崎は一言であっけらかんと肯定した。
(つまり、あて先は放課後の彼って事か……)
 嵯峨野の視界の先で、間芝が出題者であろう女子に追いついた。流石に男子と女子の体格の差は覆せなかったようだ。その後、女子生徒と言葉を交わし、なんとか落ち着かせた間芝たちのもとに、昼の当番に話しを聞きに行っていた神崎たちが合流した。


「ご、ごめんなさい」
 女子生徒は集まった皆に謝った。
「いや、謝らなくてもいいよ。私たちはただ、ちょっと聞いてみたいことがあっただけだから」
 嵯峨野は、はじめに声を掛けた手前かきまりが悪そうに言う。
「僕たちは、ただ図書委員の彼が返却本の暗号を気にしていたから手伝っていただけなんですよ〜」
 間芝が柔らかい口調で言う。
「あの、勘違いだったらごめんなさいです。でも、図書委員さん気が付いていないみたいですから、恥ずかしくても言葉で伝えた方が良いかもですよ?」
 とフォングラネルトが言う。そこに付け加えて、なんでしたら一緒に行きますし、応援してますからと微笑む。
「私も応援しますよ〜、やっぱり恋は素敵ですから」
 と鳳も微笑む。
「そうそう、結果だめでも、次があるよ。独り身もいいよ!」
 と嵯峨野もいささか身も蓋も無い応援をする。
 女子生徒は皆の応援を受けても、まだ恥ずかしいのかうつむいたままだ。
「でも、どうして暗号なんて使ったのですか?」
 雫がうつむいた女子生徒に聞く。
「……それは、最近、彼が推理小説を沢山読んでいたみたいだったから」
 女子生徒は恥ずかしそうに答える。
「……なんだ、きみはもう決心が付いているんじゃないか?さぁ、図書室へ行こう」
 しかし、そんな彼女の手を神崎は力強く掴むと、有無を言わさず図書室へと引き連れて行った。
 
●図書室のちょっとした探偵たち
 雨の音がする放課後の図書室に、数名の男女が集まっている。これから始まるのは、ちょっとしたミステリィのクライマックス。
「さぁ、お待たせいたしました。雨の日の図書室に残された謎の暗号。その暗号が指し示す素敵な運命への物語。ただいまより、我々がその謎を推理してご覧にいれましょう」
 芝居がかった前口上を述べた間芝は、舞台挨拶よろしくお辞儀をする。
「では〜、暗号を解いてみましょうね〜」
 鳳がのんびりとした口調で、間芝の後に続く。
「ヒントは、返却順と本のタイトルですゆ〜」
「一冊目のタイトルはあおぞらの本か……」
 図書委員の男子はあおぞらの本を手に取る。
「一冊目の一番目の文字は……あ」
 雫がタイトルの一文字目を指差しながら言う。
「そうすると、もしかして……」
 図書委員の男子は二冊目、三冊目と本を並べる。
「ん?そうですよ。一番目の文字がそうなら、次は解りますか?」
 鳳が答えへと導く。
「二冊目はひなまつりの本だから……「な」……か」

【暗号】
1 あおぞらの本
2 ひなまつりの本
3 サンタクロースの本
4 ねずみがいる家の本
5 おおきなスイカの本
6 ホットケーキの本

1の1番目の文字「あ」
2の2番目の文字「な」
3の3番目の文字「た」
4の4番目の文字「が」
5の5番目の文字「す」
6の6番目の文字「き」

「並べてみると「あなたが好き」 になるのか」
 図書委員の男子は、指でタイトルをなぞりながら言った。
「さて、それは誰から誰へのメッセージでしょう?」
 鳳が優しい笑顔で聞く。
 出題者の女子が顔を真っ赤にしている。図書委員の男子もそれに気が付いたのか、段々と顔を紅潮させていく。
「頑張って」
 と、嵯峨野とフォングラネルト、雫が女子生徒の背を押す。
「さぁ、きみも」
 間芝が図書委員の男子の背を押す。
 そして、ここに一組のカップルが誕生した。

●終わりよければ
「こうして、図書室の暗号は好き合う二人を結んだのでした」
 と、間芝が舞台の締めのような事を言う。
「あ、あの!!皆さんのお陰です!ありがとうございました」
 出題者の女子が頭を下げる。
「良かったですよ〜」
 鳳がカップルになった二人を祝福する。
「や〜、リア充爆破しろ!」
 と笑顔で嵯峨野が言う。
「その……おめでとう」
 雫は目の前で成立したカップルに内心ドキドキしていた。
「はぁ、リィの王子さまはどこにいるのでしょうか〜」
 フォングラネルトがカップル成立を羨ましく思いながら言う。
「ところで、神崎さんは暗号の答え解けてました?」
 満面の笑みで一部始終を眺めていた神崎に、フォングラネルトが疑問をなげかける。
「暗号の答え?分かっていたとも!」
 得意げな神崎の言葉の裏に、フォングラネルトは妖しさを感じた。しかし、続く言葉を聞いて口をつぐんだ。
「でも謎が解けようが解けまいが、図書室に残されていた謎の暗号は、素敵な運命を導くと信じていたからね!」
 神崎のその時の満面の笑顔には偽りがなかったから……。


「ちなみに私、結婚していますよ?」
「えっ?優希ちゃんてばリア充!!」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 図書室のちょっとした探偵・神崎・倭子(ja0063)
 蒼の絶対防壁・鳳 蒼姫(ja3762)
重体: −
面白かった!:7人

図書室のちょっとした探偵・
神崎・倭子(ja0063)

卒業 女 ディバインナイト
For Memorabilia・
エヴェリーン・フォングラネルト(ja1165)

大学部1年239組 女 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
図書室のちょっとした探偵・
間芝 真士(ja7802)

大学部3年219組 男 ルインズブレイド
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師