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マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/23


みんなの思い出



オープニング

 秋。
 深まる秋。
 秋と言えば、文化的に読書。
 秋と言えば、健康的にスポーツ。
 秋と言えば……。

「わぁ〜、綺麗」
 少女の目に映ったのは、美しい宝石のような葡萄が乗ったタルト。
「すばらしいですわ」
 少女の目に映ったのは、渋い風合いのモンブラン。
「もぅ、たまりませんわ」
 少女の目に映ったのは、黄金に輝くスウィートポテト。

 そう、食欲の秋だ。

「とりあえず、このスウィートポテトいただけます?」
 少女は弾む心を抑えて、店員に注文する。
「……まことに申し訳ありませんが、こちらの品は現在、売り切れとなっておりまして」
「えっ? やっぱり、人気なのかしら」
「いえ……」
「? 人気は無いのに売り切れ?」
 店員が口ごもったので、少女は訝しげに尋ねる。
「あっ、人気が無いのではなく、寧ろ毎年、楽しみにされている方がいるくらい人気なのです。ただ……今年は」

 と、店員の話によると。
 毎年、この時期のスウィートポテトは、契約農家さんから最高のサツマイモを仕入れて、作っているという。
 ただ、今年は畑が荒らされてしまったと言うのだ。

 食い荒らし方から、猪らしいのだが。
 電柵や罠も悉く破られ、どうも只の猪では無い様だと分かった。
 明らかに、普通の猪の常識を覆す大きさなのだ。
 そう、猪のディアボロだったのだ。


 その日、依頼斡旋所には、ディアボロからサツマイモ畑を守ってほしいと依頼が出された。

●口元にクリームをつけたオペレータ
「……という事で(もぐもぐ)……依頼です(もぐもぐ)」
 志方 優沙(jz0125)は慌てて口に含んだモンブランのクリームを飲み込んだ。そして、そのまますまし顔で業務を遂行しようとしている。

 真面目な顔をしても、口元のクリームで台無しである。

「あの……志方さん? クリームついてますよ?」
「えっ?」
 撃退士たちに指摘され、志方は顔を赤らめた。
 口元を拭くと、もう一度すまし顔で依頼内容の説明を続ける。

 サツマイモ畑に現われたのは、猪型のディアボロ。
「大型の親猪のほか、小型の瓜坊が8体確認されています……」
「うりぼう?」
 その撃退士はどうやら知らなかったようだ。瓜坊とは何か。
「瓜坊というのは、子供の猪のことです。子供は瓜のような模様をしているのです」
 志方は端末を操作し、瓜坊の写真をスクリーンに表示した。

 こうやって見ると可愛いものなのだが……。

「へぇ。瓜坊かぁ」
 撃退士も写真を見て、頬を緩ませている。
「……コホンッ」
 志方は咳払いをして、自らの頬も緩んでいるのを誤魔化した。
「この猪たちは、一直線に列を成して突進するようです。正面にいるととても危険ですので、ご注意を」
 志方はあらかたの説明を終えると一礼。
「それでは、皆様。ご武運を」
 と労う。


 そして、再び食べかけのモンブランに手を伸ばした。


リプレイ本文

●スウィートポテトがないっ!

 天高く”女学生”肥ゆる秋……。

 いや、太ってしまうのは大問題なのだけれど、それは一時忘れてでも、秋の味覚――。
 特にスウィーツは食べたい。
 あぁ、食べよう。
 是非、食べるべきだ。

 それだけの覚悟と使命感を持って、女学生たちはスウィーツショップへと足を踏み入れる。
 雫(ja1894)もそうだ。
 彼女は、スウィートポテトが有名な某スウィーツショップにやってきた。
 しかし……。

「な、なんですって……品切れ?」
 現実は非情である。
 人気商品は早くも売り切れ。
 そう肩を落とした雫の目が、一枚の紙の上に止まる。
 それは衝撃的な事実だ。
 なんと、品切れではなく。
 販売が一時、休止だというのだ!
「そ、そんな……あんまりです」
 落ち込んだ彼女は続きを読む。
 そこに書かれていたのは、スウィートポテトの材料であるサツマイモ畑をイノシシ型ディアボロが荒らしているという事だった。
 すぐさま、学園に戻った雫は、依頼斡旋所へと駆け込むとイノシシ退治に名乗りを上げたのだった。


「……と、言うわけなのです。イノシシ許すまじなのです」
 普段澄まし顔の雫が、プンスカと今は怒っている。
 それは、なんだか微笑ましい気もして、隣を歩いていた神喰 茜(ja0200)は、
「うん。秋の味覚に手を出すのは許されざるよね」
 とうなずいた。
 神喰は雫の話を聞いているうちに、段々とお腹が空いてきた。
 この依頼が終わったら、何か甘いものを買って帰ろうかな。などと、思いを巡らせる。
 そんな事をしつつも、周囲への警戒は怠らない。


 今、彼女たちは畑に居た。


 依頼にあったイノシシ退治のため、数名の撃退士がこのサツマイモ畑のある一帯を訪れているのだ。
「イノシシの気配はしないね……」
「えぇ、他の皆さんはどうなったのでしょう?」
 神喰と雫は、分かれて探索している仲間たちを思った。


(早いところ一服してぇな……。)
 そんな事を考えて、ロベル・ラシュルー(ja4646)は木にもたれかかる。
 イノシシの探索とは言え、畑の周りは広い。
 雑木林も含めればもっとだ。
「あいつは真面目にがんばるなぁ」
 ロベルはポケットに入れたタバコの箱に、指をかけた。
 視線の先で、周囲の地面を見て回っていたのは、礼野 智美(ja3600)だ。
(ディアボロが出たら倒せばいいだけだろ……)
 ロベルは目を瞑った。
 そんなロベルを余所に、礼野は地面の跡をたどり、雑木林にイノシシの通ったであろう獣道を見つけた。

「ここか……」
 礼野は用意していたロープを畑の周囲に張り、さらに雑木林の獣道の先に鈴で簡易鳴子を作る。
(普通のイノシシと同じなら、行動は夜間の暗いうちのはず……)
 礼野は夜間は暗くなってしまうため、視界を補うよう、音で知らせる機構を作ったのだ
 それが凶と出るか吉と出るかは分からないが……。
 礼野にとっては農作物を荒らされるという事は、人一倍許せないことなのだ。
「ふぅ、奴らが現われるのにはまだ時間がかかりそうですね……これは長丁場になりそうだ」


 鼻歌交じりに、両手で芋を抱えて五十鈴 響(ja6602)が歩いてくる。少し重そうだ。
 それに気がつき、天羽 伊都(jb2199)は慌てて駆け寄った。
「わぁ、五十鈴さん。どうしたんですかそれ?」
「あぁ、天羽くん。これはですね、農家の方にはね出しのお芋を頂いたんですよ。これが囮に使えればなぁと思いまして」
 五十鈴は重いお芋を、地面に下ろして一息つくと、天羽に笑いかける。
「なるほど……」
 天羽は頷く。
「こっちを食べて、畑を荒らさないでくれると、私は嬉しいんですけれどね」
「えぇ、でもまぁ、秋といったら味覚の秋っすからね、動物が騒ぐのも致し方無いものかなって」
 と、天羽が続けると五十鈴は少し神妙な顔で答えた。
「そうだね。……でもね。

 あれは動物じゃないんだ。

 あれはディアボロなんだよ。……なおかつ迷惑をかけているディアボロは野放しに出来ないよね」

 五十鈴は思う。
 自然界の動物ならば、それは必要なことかもしれない。
 生きていくためには、食べもを食べなければならないのだから。
 しかし、ディアボロはどうだろう?
 元となった動物の特性を持っているから、食べなければならないのかもしれない。
 ただ、それはもう必要のない行為なのではないのか?
 今はもう、動物ではなく。
 偽りの命をもったディアボロなのだから……。


 畑の上空から目を光らせていたシャロン・リデル(jb7420)は、ぐるりと一周すると地上へと降りた。すると、同じように空を飛んでいたリラローズ(jb3861)も降りてきた。
 背中に翼をもつ二人の悪魔少女は、お互いの表情から収穫が無いことをなんと無く察する。思わずシャロンが首を振ってため息をつくと、リラローズも全くだとばかりに嘆息した。
「まったく駄目ですわね」
「えぇ」
「仕方ありませんわね。こんなものでも無いよりはましかしら」
 シャロンは用意した罠を手にとってみる。
「あら、シャロン様、それはなぁに?」
 リラローズが見慣れぬものに首をかしげた。
 シャロンが用意していたのは、いわゆるトラバサミというものである。
 もちろん、こういった単純な罠がディアボロには通用しない事は、悪魔であるシャロン自身には、百も承知である。
 それでも、何事もやってみるのが肝心でもある。

「まぁ! 人間界の罠ですか」
「えぇ、無いよりはマシでしょう?」
 シャロンはそう言うと、罠を仕掛けてその時を待つ事にした。


●芋シシは夜更けに

 礼野の予想通り、イノシシとの遭遇までは長丁場になった。
 イノシシの特性をもつディアボロは、暗くなってからその姿を現したのだ。
 奴らは足取り軽く雑木林から出てきた……が礼野の仕掛けた鳴子の鈴が響きわたる。
「来た!」
 暗闇の中、礼野の声が上がる。
 しかし、状況は思わぬ様相をみせはじめた。
 なんと、鈴の音に驚いたのか瓜坊たちがバラバラに散ってしまったのだ。

「これは盲点でしたわね……」
 空中からそれをいち早く確認したシャロンが、笛を吹く。
 その音はすぐさま撃退士たちに伝わった。
「シャロン様。お先にまいります」
 リラローズが羽ばたき、そして瓜坊へと滑空する。
 笛を仕舞、シャロンもそれに続く。
「畑に入る前に止めないとですわ!」
「えぇ!」
 二人は魔力による攻撃を仕掛ける。
「可愛いのですけれど。食べ物や農家の方々に、感謝の気持ちのない者に、差し上げる美食は御座いませんわ!」
 リラローズの歌声とともに周囲が凍え、その冷気が瓜坊たちを眠りに誘う。
「そうよ! か、可愛いからって手加減は致しませんわよ!」
 そこにシャロンの魔力でできた槍が突き刺さった!


 イノシシが現われた知らせを受け、神喰と雫は夜の闇を駆ける。
「これは!? 瓜坊たちが散り散りになってますわ!」
 小さな声で、しかし驚きも隠せずに雫が叫ぶ。
 おもわず足をとめてしまった雫の脇を神喰が一足飛びで通り抜ける。眼前に瓜坊を捕らえると抜刀。

(可愛いんだけどなぁ……)

 神喰のそんな内心とは裏腹に、閃いた刃には慈悲は無い。神喰は刀で容赦なく瓜を真っ二つに割った。
 雫もそれに続くように瓜坊へと近づく、そして体内の闘気を解放した。

「この先のお芋はすべて私のものです。欲しければ私の屍を超えて行きなさい!」

 いや、決して雫のものというわけではないのだが、そう断定されるとそうなのかもしれないと思ってしまう。
 一体どこからその言葉が出てきたのかは全く以って不可解なのだが……。
 食べ物の恨みはやはり怖い。
 雫は瓜坊目掛けて刃を振るう。地面を削るように奔った斬撃は、瓜坊を捕らえた。


「ちっ、ザコの方かよ」
 ロベルは倒した瓜坊を見て、はずれを引いたとばかりにタバコに手を伸ばした。

「くっ、畑にはいらせるわけにはいかないっ!」
 礼野はすぐさまにでも成体のイノシシの元に駆けつけたかった。しかし、瓜坊を放置するわけには行かない。
 まだまだ畑は被害ない所あるのだ。しかし、イノシシの被害は下手したら一晩で畑全滅させることもあるのだ。礼野はそれを知っていた。
 だからこそ、逸る気持ちを抑えて瓜坊へと向きなおす。
 親イノシシほどの勢いはないのだろう。
 瓜坊の突進をあえて受けた礼野は、すぐさま刀を閃かせた。


「来ましたね」
 五十鈴は真正面から突っ込んできたイノシシ目掛けて芋を放り投げる。イノシシは地面に転がった芋に気がつくと、一度その足を止めて、鼻先を近づける。
「やった。止まった」
 五十鈴はその隙にと横に回る。しかし、イノシシは何度か芋を鼻先で小突いたあと、顔を上げて五十鈴の方に向きなおした。
「……こちらを見てますね」
 思わず一歩、後退る。
 イノシシは頭を低く、後ろ足で何度も地面を堀り、足で蹴り出すためのくぼみを作った。そして、短距離走の陸上選手のように、一直線にスタートを切った。
「こっちだ、この芋シシ!」
 割ってはいるように天羽の声が響く。
 その声に引き寄せられたのか、イノシシは天羽目掛けて突進!
「うぉぉぉおお!」
 天羽は手にした大剣でイノシシの激突を受ける。がっぷり4つで互いはぶつかり合う。
 凄まじい衝撃。
 しかし、天羽は大地に剣を突き立てて弾き飛ばされないように堪えるのだが……勢いは止まりきらないっ!

「いけないっ! 天羽くん」
 五十鈴がアウルの力を解放する。イノシシの足元から数本の蔦が現れると、それは螺旋を描きながら這い伸び、絡みついて自由を奪う。
 そこに瓜坊を倒した仲間達が駆けつけてくる。
「またせたわね」
 シャロンは五十鈴の作った戒めの上にさらに、黒い手のようなものを這わせてイノシシを拘束していく。
 その千載一遇のチャンスに、天羽は手にした剣で勢いの衰えたイノシシを押し返した。

 押し返されたイノシシの元に、駆けつけた赤いアウルを放つ金の髪の剣士が刃を閃かせる。それは――。

 神喰だ!

 闘気が高まり、赤い髪が金色に変化しているのだ。
 その剣鬼は、無慈悲に。ただ敵を斬るために刀を振るった。
 刃はイノシシの身体に吸い込まれるようにして、その身を断った。


●愛しきスウィートポテト

「ようやく。待ちに待ったスウィートポテトです!」
 スウィーツショップの店内で、雫が歓喜の声を上げる。
 今日はイノシシ退治をした皆でスウィーツを食べにやってきたのだ。
「これ、美味し……まぁ、悪くないですわね」
 シャロンは声が上ずるのを慌てて止めると、すまし顔になって言う。
「本当に美味しいですね」
 そんなシャロンに五十鈴が笑い掛ける。

 イノシシ退治は無事終わり、サツマイモ畑は守られた。
 農家の方々もこれで安心して、サツマイモの収穫ができるというものだ。
 そして、ショップもスウィートポテトの販売を再開した。
 イノシシを倒してくれた撃退士たちにご馳走したい。と、ショップと農家の皆さんが今日のこの場を用意してくれたのだった。

「他にも色々ありますわね。紫芋のタルトやかぼちゃのパイ……頑張ったご褒美ですわ。ありがたくいただきましょう」
 リラローズも並んだスウィーツに目を輝かせている。
「やった〜、これを待ってたんだよボク!」
 天羽は手にしたスウィートポテトを口に運ぶ。そして、「美味いっ!」と声を上げた。
「たしかに、これは美味しいね」
 神喰もスウィートポテトに満足気だ。

 わいわいと弾む会話と美味しいスウィーツ。
 そのやや騒がしい席の隣に、ロベルは離れて座っていた。店内は禁煙なためロベルは水をちびちび飲んでいる。
「ロベルさん。あなたもどうです?」
 ロベルの前の椅子に礼野は座る。
「甘いの苦手ですか?」
「いや、平気だが……なんだかお前達みてたらそれだけで腹いっぱいな気が……なんだよ?」
 礼野がクスリッと笑ったのに気づき、ロベルはその特徴的な眉を寄せる。
「いえ、でも……」
 礼野が隣の席へと視線を動かす。
 ロベルもつられてそちらを向く。

 そこには、仲間達。

「なんだよロベルさん、まだ食べてないのかよ! 絶対、食べた方がいいぜ」
 天羽が再びスウィートポテトに手を出している。
「そうですよ。食べないなんて勿体無い! 秋にこれを食べなくて、何を食べるというのですか!」
 雫が力説すると、神喰がうんうん。と頷く。
「そうね。それだけの価値があるわ」
 と、リラローズが続けると。
「まさか、食べないつもり? バカねあなた……食べるわよね?」
 シャロンは煽っているのか、それとも心配しているのか分からない。
「美味しいですよ。ほら、早く食べてください」
 五十鈴がスウィートポテトを差し出した。

「あぁ、もう分かった! 食うよ!」
 ロベルは皆の視線を受けて、手にしたスウィートポテトを食べた――。


「……美味いなこれ……」


 その言葉に、皆が笑顔になった。


 


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 血花繚乱・神喰 茜(ja0200)
 幻想聖歌・五十鈴 響(ja6602)
 心遣いが暖かい・シャロン・リデル(jb7420)
重体: −
面白かった!:4人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
良識ある愛煙家・
ロベル・ラシュルー(ja4646)

大学部8年190組 男 ルインズブレイド
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
砂糖漬けの死と不可能の青・
リラローズ(jb3861)

高等部2年7組 女 ナイトウォーカー
心遣いが暖かい・
シャロン・リデル(jb7420)

高等部3年17組 女 ダアト