●集いし夏の戦士たち!
「……以上。青羽合チーム8名です」
青羽合チームの紹介が済み、実況席の円居がチーム紹介を始める。
「続きまして、入場してきましたのは、
影野 恭弥(
ja0018)
鴉乃宮 歌音(
ja0427)
仁良井 叶伊(
ja0618)
エルレーン・バルハザード(
ja0889)
若菜 白兎(
ja2109)
礼野 智美(
ja3600)
各務 与一(
jb2342)
落月 咲(
jb3943)
……以上。えっと、チーム名が無いですね……まぁ、いいや。夏の戦士チーム8名です」
いい加減なアナウンスが終わり、名前を呼ばれた一同は、フィールドに整列し睨みあう。
審判のルール解説も早々に終わり、一同はセットポジションに着くように促された。
「やはり、天使生徒が多いな……」
礼野は相手チームのメンバーが翼で飛ぶのを見ながら呟いた。
事前情報にて、相手の戦法は分かっているが、いざ戦うとなると多少勝手は違うかもしれない。
「あれだけ飛べるメンバーが居ると厄介ですね」
仁良井はゴーグルやヘルメットなど、水鉄砲でのレクリエーションには似つかないほど本格的な装備だ。
「飛ばれたとしても、撃ち落してやるよ」
敵が飛ぶことなど、影野は意に介していないようだ。
「えぇ、インフィルトレイターが負けるわけにはいかないね」
鴉乃宮が競技用Tシャツを影野に手渡しつつ賛同した。
ちなみに鴉乃宮は可愛らしいセーラー服を着ており、中には黒い水着だ。
「銃はあまり好きじゃないんだけど……練習も兼ねて、だね」
水鉄砲の動作確認をしながら各務がやんわりと笑う。練習と言って笑いつつも、準備は怠らない。
やはり、射撃が本職と言われるインフィルトレイター達は、得物が水鉄砲でもやる気のようだ。
「はてさて、射的は苦手ですが〜。どうなるんでしょうねぇ」
「私も……ちょっと苦手なの。だから裏方にまわるの」
競技用Tシャツに着替えた落月と若菜がやってきた。二人とも射撃は苦手だが、出来ることをしようと話していたようだ。
誰もが開戦前に少なからず緊迫した雰囲気を出していた。
一方、そんな事はお構いないしで、楽しもうとしている者もいる。
「ふふーん、みずでっぽ対決かあ……負けないよっ!」
水着の上にTシャツを着て、エルレーンは相手チームにビシッと指差した。
「……ふふんっ」
指差された青羽合チームの天使は、エルレーンを上から下まで見定めて、鼻で笑った。
Tシャツを羽織っても分かる、戦力差――。
その豊満な胸を持った天使は既に、勝ったという表情である。
「うぐぐ……ち、ちょっとでかいからって、胸はっちゃってえっ!」
怒りとともにエルレーンが騒ぎ立てるのを見て、一同の緊迫した空気が和らいだ。
●水鉄砲戦争!
陽射しを受け煌く水の弾丸をかいくぐり、少年少女は戦場を駆け抜ける。
そこは、水鉄砲による戦場。
ウォーターガン・ウォーの幕は切って落とされたのだ!
開幕と同時に、飛び出したのは影野だ。
目指すのは狙撃用水鉄砲がある補給ポイント。
続いて礼野と落月が飛び出した。
二人はアウルを脚部に集中して加速。瞬く間に補給ポイント目掛けてフィールドを駆け抜ける。
さらに仁良井もバリケードを飛び越え、補給ポイントへと走った。
相手の速攻に驚いた青羽合チームの面々は、慌てて翼を広げて補給ポイントへと向かう。
まずは、それぞれ近場の補給ポイントで武器調達を優先するようだ。
青羽合の作戦には、手榴弾は欠かせない。
なんとしても、補給ポイントで水風船だけは手に入れないとならない。
「先行隊は速攻で、水を入れろ! それで奴らを足止めするんだ!」
飛行したメンバーに、一旦、牽制するようにブルーハワイが叫ぶ。
しかし――。
そんな思惑とは裏腹に、青羽合チームの補給ポイントに割ってはいる人影があった。 ―― 礼野だ。
礼野は自チーム近くの補給ポイントではなく、敵側のポイントを最初から狙っていた。
対応が遅れた青羽合チームは、まさか何の補給もなしに、単身突っ込んでくるとは思っても見なかったようだ。
あっという間に、礼野は水風船と狙撃用水鉄砲を抱え、きびすを返す。
「しまっ……奴を追えーっ」
青羽合チームの男達が礼野を追う。
「奴の狙撃銃にはまだ水が入っていない! 今がチャンスだ」
「よし、俺達でまず一人倒すぞっ」
「ひゃっはー、ビショビショの美少女だ!」
拳銃片手に男三人が、礼野に向かって引き金を引く。
えっ? 三人目は気にするな。
「女と思って侮ったな!」
礼野は狙撃銃を放り投げ、すぐさま拳銃で反撃しつつ、次の補給ポイントへと向かった。そこで機関銃とペットボトルを拾い、すぐさまペットボトルを装着し、水を機関銃に装填。トリガーを引く。
「ぶぅわぁぁぁ、俺がビショビショ!」
目の色を変えて追いかけていた青羽合の男子が水圧で吹き飛んだ。
「ヒットです!」
審判の声を聞き、礼野はさらに敵へと銃口をむけるが――。
「っ、ヒットか……」
追ってきた残りの二人によって撃破されてしまった。
「くっくっく、残念だったな。俺達の勝ちだ」
「あぁ……ところで審判、この装備は復帰ポイントまで持っていっていいのだろうか?」
「はい。一度入手した武器はそのまま保持して復帰ポイントへ行って構いません」
「そうか、それなら安心だ」
礼野は手にした水風船を見せ付け。そして、青羽合チームの男子の背の方を指差した。
そこには、水入り手榴弾を持って逃げていく落月姿があった。
敵の手に、自分達の補給ポイントの手榴弾が渡った事に気づき、青羽合チームの男子は、自分達の認識の甘さにようやく気がついたのだった。
●作戦を破れ!
影野と仁良井をサポートしていた鴉乃宮は、それぞれに狙撃銃と機関銃がいきわたったのを確認し、自らも狙撃銃を求めて前へと進んでいた。
一瞬の攻防で敵補給ポイントの装備を確保した礼野が追われながら戻ってくる。鴉乃宮は、礼野をフォローしようと走るが、そこに礼野が狙撃銃を放り投げた。
慌ててそれをキャッチする鴉乃宮。狙撃銃は手に入れたが、礼野は敵弾に撃たれてしまった。
「では、私もありがたく使わせてもらいましょう」
鴉乃宮はバリケードまで戻って、水を装填。狙撃の準備に取り掛かった。
一方、機関銃を片手に進軍していた仁良井は、敵が徒党を組んで向かってきたのを確認すると、すぐさま手榴弾を放って、近くのバリケードにまで撤退した。
いつの間にか多くの装備を失っていた事に、ブルーハワイは焦り始めていた。
それでも手榴弾をいくつか確保できたため、空爆の準備をはじめる。前線に出ていた青羽合メンバーは、後方からの狙撃によるフォローで、徐々に後方に撤退していく。
そう、体勢を整えなおすつもりなのだ。
「うおおおおーっ、おいのちちょうだーい! なのっ!」
戦略的撤退を行っていた青羽合チームだったが、突然、姿を現したエルレーンに、足並みが崩れる。
このまま下がると、この後先考えていないような女子に、追い込まれてしまうのでは?
と、青羽合のメンバーは思ってしまったのだ。
足を止めて、慌てて水鉄砲を撃つ。
それを驚異的な回避運動で避け続けるエルレーン。
そんなイタチゴッコがしばらく続いた。
「調子に乗らないでくださるっ!」
流石に、痺れを切らしたのか、グラマーな天使が隣の男子から機関銃を奪い、エルレーンに向かって飛び出した。
流石のエルレーンも至近距離からの拡散する機関銃の水は避け切れない!
「し、死なばもろとも〜っ」
悪あがきとばかりに手榴弾を投げつけた。
ポーンッ……ビシャッ――。
手榴弾こと水風船は、グラマー天使の胸に当って弾むと足元に落ちた。
「ば、バカな……は、20歳になったら、ぼいんぼいんになってるんだもんっ」
エルレーンは涙を堪えつつ復帰ポイントに走り去った。
「ふふん、私に勝とうだなん……っめたい」
「はい、ヒットですね」
勝ち誇ろうと胸を張ったグラマー天使は、各務の放った水弾によって撃たれた。エルレーンに意識を集中しすぎて、狙われやすい位置に棒立ちになっていたのだ。
つまるところ、グラマー天使は、エルレーンにしてやられた。否、グラマー天使だけでなく青羽合チーム全体が、その足並みを崩されたと言っても良い。
「おーっと、ようやく青羽合チームは爆撃を開始だー」
円居の実況が響き渡る中、水風船に水を入れ終えた青羽合の天使たちが次々に飛び立つ。
「やっとですね……。やはり、夏の戦士? チームが補給ポイントを潰したのが効いていますね」
志方の解説を聞きつつ、ままならない現状を把握したブルーハワイは苛立ちを隠せなかった。
●敵の反撃!
「……おかしいです……」
バリケードの影で、水鉄砲の補給タンク用のペットボトルを握り締め、若菜は小さく縮こまっていた。
水鉄砲で涼めると思って参加したものの、蓋を開けてみれば、濡れたら負けなので、水を浴びて爽快な気分にリフレッシュ! とは、いかなかったのだ。炎天下の中、何が悲しくて走り回らなければならないのか……。
とは言え、呆然としていたのは最初のうちだけ。
「今よ、白兎ちゃん!」
敵の位置を確認していた落月が、若菜に合図を送った。
「私は裏方なの……今は、皆のために走るのっ」
若菜は意を決し、その小さな体で大量のペットボトルを抱えて走る。
目指すは、水道! 水の補給だ。
水道に向かった若菜に気がつくと、青羽合の天使達が空から水風船を放った。
「うわぁ〜ん」
少し、涙目になりながら若菜は必死にそれをかいくぐり、なんとか、安全地帯に入り込んだ。
空を舞う天使に向け、影野は銃口を向ける。
そして、アウルの力で、動体視力を強化し、狙いを定めてトリガーを引く。素早く飛ぶ天使たちは、空中だからと安心しきっていたため、思いのほか威力のあった水弾に撃たれ、バランスを崩して落下した。
「やりますね」
それを見ていた鴉乃宮と各務も負けては居られないと、狙撃に集中する。
青羽合チームは思った以上に、敵も狙撃できると分かると、空中に飛ぶ作戦は断念せざる負えなくなった。そもそも、空爆用の水風船は少ない……。
それならば、狙撃と特攻しかない。
ブルーハワイは決断を下す。
「こうなれば特攻をかける。狙撃班は援護を! 特攻班は俺を守って進軍だっ!」
青羽合チームの動きに実況席から叫びが上がる。
「おっと、青羽合チームついに玉砕覚悟かーっ!」
「頼みの作戦が破れましたからね……仕方ありません」
敵の動きを察知した各務は、すぐさま味方に伝令。
「敵は特攻をかけるようです! 皆さん気を引き締めて」
その声に、各自が頷く。
前線のバリケードに身を潜めていた仁良井は、意を決して迫る敵に立ちはだかった。
まずは機関銃で牽制するが、敵の数もさるもの、機関銃を撃ち終えるとそれを盾代わりにして、拳銃を撃ちながら、少しずつ後退。流石に、一人で抑えるのは難しかったようだ。
仁良井をフォローするために、バリケードから落月が飛び出した。
「それは予測済みだっ」
ブルーハワイは、してやったりと落月に銃撃を浴びせる。
「あれ〜ぇ、うち、撃たれちゃったぁ」
Tシャツが透けて、黒い水着が浮かび上がる。普通に水着を着ているのと違い、シャツが透けて見えるそれは、扇情的だ。
「どうだ見たか!」
「このまま、攻めあがるぜ!」
「ぐっ、ご褒美ありがとうございます」
青羽合チームの男子が盛り上がる。特に三人目。
「っ、スマン。落月さん」
「いいですよ〜。仁良井さん逃げ切ってくださ〜い」
しかし、落月は気にした様子も無しに、仁良井に手を振った。
●俺達の反撃!
青羽合チームの特攻隊と、狙撃による牽制は玉砕覚悟とあって、効果を発揮していた。
やや、圧され気味な戦局だが、各務は穏やかな表情のまま、銃を構える。
「相手も狙撃が得意みたいだけど、負けられないね。与一の名に賭けて」
各務は特攻してくる敵ではなく、狙撃手を狙って水弾にアウルを込め撃ち出した。
アウルにより飛距離が伸ばされた水弾が、敵狙撃手を撃ち抜く。
「なっ、あの距離を射抜いただとっ!」
ブルーハワイは思わず呆然とした。
「えぇぃ、だがまだ終わりではないっ。突っ込めー」
それでも、戦意を消失せずに突き進む辺り、ブルーハワイはリーダーの資質があるかもしれない。ただし、暴君だが。
そんなブルーハワイに影野は銃口を合わせる。
自分が狙われていると気づいたブルーハワイは翼を使用して、低く滑空し、水弾をかいくぐる。
その手には、手榴弾。
影野の頭上で急上昇したブルーハワイは、高笑いとともに手榴弾を投げつけた。
確実に直撃コースだ。
ブルーハワイは宙返りをして、地面へと降りる。
――だが、その手榴弾が当る事は無かった。
「バカなっ、水弾で撃ち落しただとっ!」
ブルーハワイは驚愕のあまり立ち尽くした。
「手榴弾はこう使うんですよ」
そこに、仁良井の声と共に水風船が綺麗な弧を描いて飛んでくる。
一旦、退却した仁良井は、水道へ向かう途中で、若菜から補給を貰ったため、素早く攻撃に転じることが出来たのだ。
そんな事などつゆ知らず。ブルーハワイは水風船を受けて撃沈した。
指揮を執っていたブルーハワイが撃沈したことで、士気が下がった青羽合チームは、敢無く陥落したのだった。
●戦いのあとは!
「ふふーん、意外と楽しかったね〜。ねぇ」
グラマー天使に水をかけながらエルレーンがはしゃいでいる。
戦争は終わり、今は全員で気ままに水を掛け合っているのだ。
「こういうのがしたかったの」
笑顔を浮かべた若菜のTシャツが透け、ワンピース水着がうっすらと浮かび上がっている。
「じゃぁ、もっとかけるわよ〜」
落月も透けたTシャツではしゃぐ。
「おーい、皆もカキ氷食べるかい〜」
はしゃいでいる生徒たちを円居が呼ぶ。
その隣では、さっきまでの競技を模擬戦闘と考えて議論している生徒たちが居た。
「ここで、もっと早く拠点作りが出来れば……」
「だけど、これは無理だな」
「それなら、こういうのはどうかな?」
影野の意見に、仁良井と鴉乃宮が代案を出す。
「こちらから見ていた限りでは、ここはこのような動きが良いかと……」
そこに、志方が意見する。
「こんなのでも、戦闘訓練になってるんだな」
礼野が志方の解説を聞きつつ呟いた。
「全体を見ていた人の意見を聞くと、また違った発見があるね。ありがとう志方ちゃん」
各務が志方に微笑みかける。
「……いえ、その……恐縮です」
志方はちょっとだけ照れた。
「ほーら、そっちの皆もカキ氷食べよ!」
そこに、円居の声がする。
皆は、一旦、話を切り上げてカキ氷を食べにテント側へと移動した。
そこには――。
「貴様ら、俺のカキ氷が食えんというのか?」
偉そうに手回しカキ氷製造機で、カキ氷を作るブルーハワイが居たのだった。