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マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/02/14


みんなの思い出



オープニング


 茨城県沖に浮かぶ巨大な人口島、久遠ヶ原島。
 突然発達した低気圧の影響か、撃退士の学び舎があるせいか、天魔も暮らしているせいか、それとももっと別の何か故か。
 とにかくその日、久遠ヶ原島の端っこ、ごく限られた一角を──

 謎の大寒波が襲った。

 運の悪いことに、その一角には寮も学校施設も存在しており。
 びゅうびゅう、ごうごうと雪風が舞い、家々の窓や壁を叩き、揺らした。
 誰も、いつ明けるとも判らない騒がしい夜を、不安を抱き締めながら目を閉じてやり過ごした。


 そして、翌朝。


「すっごーーーーーーーーーいっ!!」
 三ツ矢つづり(jz0156)は両腕を広げて銀世界となった学園の校庭を駆け抜けた。腰の高さまでありそうな雪を身体と脚でかき分けながら底抜けの青空に笑い声を響かせる。
 少し高い位置からつづりを追うのはスランセ(jz0152)。
「綺麗……こんな大雪、私初めてです!」
 五所川原合歓(jz0157)が彼女を追いかけようとして転んで、新雪に人拓をこしらえて沈んだ。
「あ! あたしもそれやりますー!!」
 朗らかに笑い、春苑佳澄(jz0098)は宣言通り、合歓の隣にダイブした。


「皆元気だなぁ……」
 学園内にぽつん、と構える小さな喫茶『ねこかふぇ』。看板娘ならぬ看板猫のミルクを膝に乗せ、加賀谷真帆(jz0069)は真っ白な世界を飛び回る学友を微笑ましげに眺めていた。
「ほい、おまっとさん。しっかしよく積もったよなー」
 テーブルに御堂良知(jz0118)がコーヒーカップを置く。真帆は相槌を打ってカップを手にする。
 気を利かせたのか、それとも気まぐれか、ミルクがひょいと飛び降りた。
 とてとてと歩いてゆき、小日向千陰(jz0100)の足におでこをぶつけたところで、ようやく彼女の電話がつながる。
「あ、もしもし、私です。
 今日って早朝から結構重要な会議ありましたよね? なんで私しかいないんですか?」

 ――――――。

「……ゆきがいっぱいふったからえんき?
 いや、子供じゃないんですから。その辺は公私を分別していただ――
 や、ちょ、おやすみーじゃなくて! もしもし!? もしもーしっ!!」

 ブツッ ツー ツー ツー

 万感の思いを込めて携帯を畳む。液晶と文字盤の間に冷えた手の皮を挟み、とても痛かった。
「えっと……お疲れ様です」
 潮崎紘乃(jz0117)が苦笑いを浮かべて労う。千陰はテーブルに体を乗せ、手を伸ばしてミルクをからかった。
「ほんとですよ。どっと疲れが出ました……」
「実は斡旋所に来ていた依頼も、いくつかキャンセルになったんですよ。天魔関係はさすがに実行されたんですけど、イベントのお手伝いとかが根こそぎ取り消されてしまって」
 ああ、どうりで。千陰は視線を外へ伸ばす。今日の予定が雪の下に隠れてしまったのだろう、何人もの生徒らが声を上げてはしゃぎ、遊んでいる。
 真帆が何かを期待した目で千陰と紘乃に問いかけた。
「今日って、授業はあるんですか?」
「私司書だから判らないわ」
「でも、あの様子じゃあ……」
 ですよね、と良知が歯を見せて笑う。
「もういっそ遊んじゃえばいいんじゃないですか?」
 顔を見合わせる千陰と紘乃。

 なーん

 2人の間にころん、と寝転んだミルクが、目を線にして甘えた声を上げた。



 そんなこんなで大雪である。
 これだけの雪を前に童心に帰らない者などいないだろう。と、武田信朗は雪かきスコップ片手に、清清しい表情をうかべていた。彼の背には真っ白な雪の壁。
「あれ? 武田くん何やって……ちょっ、おまっ!」
 通りかかった女子生徒、円居月子は武田の背後の雪壁を指差した。その先には雪壁……否、雪で作られた通路が伸びている。
「まさか、これはっ! きょ……きょだ」
「巨大迷路だ!」
 ワナワナと震える円居を尻目に、武田がその名を口にした。
「最後まで言わせろよぉ!」
 円居の細い足から、回し蹴りが繰り出され、武田にぶち込まれる。
「す……すまん円居。だが、女子として、その手の早さは問題だぞ」
「手じゃありませ〜ん、足で〜す」
 円居はうめく武田の言葉の揚げ足を取って勝ち誇った。
「……お前、今日は白だったな」
「……」
 意趣返しとばかりに武田は円居に言ったのだが、それが不用意な発言であると気がつくのに数秒の時間を要した。再び、武田を回し蹴りが襲ったのは言うまでもない。

 一夜にして降り積もった雪。たまたまこの場所は吹き溜まったのか、身の丈を超えるほどの積雪である。武田はその雪を掘り進め、時には押し固め、無駄にアウルの力で加速しつつ仕事を成し遂げたのだった。
 美しく整えられた雪壁は、まさに武田の努力の成果であった。

■入■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■出■

「それにしても、これ人呼んでいいレベルだろ? ……なぁ、この迷路使っていいか? 折角だから人呼び込んで遊んでもらおうぜ」
 円居が名案とばかりに武田に笑いかけた。普段、男口調な円居だが、こう言う時の楽しそうな顔は、実に可愛らしい。そんなことはお構いなしで、武田は素っ気無く手を振りながら去ることにした。
「あぁ、いいけど。俺はそろそろ寒くなったから中に入るぞ」
「あー、そうかい。じゃぁ、あとは任せなっ! そーだ、あいつらに手伝ってもらおう」
 円居は一目散に駆け出して行った。
 武田はその後姿を見送ると、暖を取りに『ねこかふぇ』へと向かう事にした。

 学園の一角に佇むとあるカフェ。
 温かい飲み物とねこに癒されるひと時。
 武田はそのひと時を満喫していた。
 しかし、珈琲を飲み終わる頃になると、少し円居が気になりはじめた。
「さすがにほったらかしはまずいか……」
 と、雪の迷路を覗くと『雪の迷路 雪の結晶に願いを託しませんか?』の文字が掲げられていた。
「こ……これは一体?」
 武田の疑問を余所に、また一人、二人と学生たちが横を通り過ぎていく。入り口にはパンフレットのようなものを配る円居。学生達はそれを手に迷路へと向かう。
「円居、これはどういうことだ?」
「折角だから、こんなのを作ったぜ〜」
 目の前に広げられたパンフレット。
 そこには、

雪の迷路を歩いて雪のマークのスタンプ台を探そう!

・最短でゴールする:運気上昇。君の前途は明るい!
・雪のマークを1つ:健康祈願。寒さに負けない健康を!
・雪のマークを2つ:友情御守&熱愛御守。二人の絆を深めよう!
         :恋愛成就。片恋の子来たれ!
・雪のマークを3つ:学業成就。学業や撃退士として認められる事間違いなし!

 と、書かれていた。

「友達に頼んで、スタンプ台とこのパンフレット作って貰ったんだ〜」
「お、お前の友達、仕事早いな!」
 笑顔の円居に、言わずには居られない武田であった。
「絵は美術部の子だし、このスタンプ集めるってアイデアは占い研の子。他にも野球部の子とか色々と手伝ってもらっちゃった」
 そこまで聞いて、武田は円居の交友関係の広さに、少し感心してしまった。

 やがて雪の迷路は、武田の予想を超えた賑わいを見せ始めていく。
 だが、武田はまだ知らなかった。
 自分が居ない間に、円居が仕掛けたのがスタンプ台だけでは無いと言う事に……。


リプレイ本文

●踏み出す一歩は二人で
 円居が迷路の入り口でパンフレットを配りながら待っていると、一組の男女がやってきた。Rehni Nam(ja5283)と亀山 淳紅(ja2261)。早速、カップルのご来場というわけだ。
「誘ってくれておおきにねー♪」
 淳紅の声にRehni(レフニー)は嬉しそうに頷いた。
(ジュンちゃんと雪の迷宮デート……♪)
「それじゃぁ、ジュンちゃん行きましょうか」
 二人は手を繋ぎ、そのまま迷路の中へと進んで行く。微笑ましい光景である。
「いってらっしゃーい」
 円居は上々の滑り出しに、満足げに手を振り見送った。

 氷雪の壁は白く輝き、日常とはかけ離れた幻想的な空間を演出する。
「迷路と言ったら左手法か右手法ですよね。私は左利きですし、左手法で!」
 と、レフニーは雪壁に手を置いた。淳紅はその姿を温かく見守る。二人が左手をつけた壁に沿って進んでいくと、曲がり角があった。
「ジュンちゃん曲がり角ですよ〜」
「レフニー待ちぃな。急くとあぶないで」
 淳紅の制止もレフニーの弾んだ心を止める事は出来なかった。レフニーは曲がり角まで飛び出すと、飛んできた雪球の餌食となった。
「わわっ、雪玉の弾幕なのですうぁぶっ?!」
 顔面直撃。淳紅は手で顔を覆いため息をついた。
「む〜、盾で押し通るのですよぅ!」
 楯を構えたレフニーと淳紅は雪球をかいくぐり、その先のスタンプ台を発見した。
「行き止りやね〜」
「でもでも、スタンプ1つ目発見〜♪」

●俺様のラブはどこだ
「ほう?雪の迷路、か! ふふふ、これは面白そうだな…見ていろ、あっという間にクリアしてやる!」
 雪の迷路の前でラグナ・グラウシード(ja3538)は仁王立ち。
「こちらパンフレットになります」
 手渡されたパンフには、スタンプ二つで恋愛成就の文言がある。ラグナはまじまじとそれを見ていたが、隣に立つ円居の笑顔に慌てて咳払いした。
「ふ、ふん! ま、ま、まあ、こんな遊びで本当に恋愛がかなうなど思ってはいないが、なあ? 気は心という奴よ!」
 言い訳がましい事を言いながらも、ラグナは意気揚々と迷路に消えて行った。
「あら、迷路? 面白そうね。私も入っていい?」
 ラグナが駆け込んでいったのを見ていたフローラ・シュトリエ(jb1440)が、円居に声をかけてきた。
「ええ、もちろんです」
 段々と人の入りも増え、円居は満面の笑みを浮かべた。

「この程度の迷宮で、この俺の足を止めさせられるものかっ!」
 ラグナは一直線に駆け出すと、あっという間に迷路を走破してしまった。
「お早いですねぇ」
 出口で待ってた係がパンフレットを確認する。
「……ぬう、一個しかスタンプがないのに出てきてしまった」
 ラグナがパンフレット片手に唸っていると、一足先にクリアした生徒達だろうか、一組の男女が椅子に座って温かい飲み物を手にしていた。
「スタンプ二つゲットやね。ふふー、恋愛御守や」
「楽しかったですねー。あ、ジュンちゃん霜焼とか、大丈夫です?」
「大丈夫やでー、ちゃんと作ってくれた手袋つけとったしな!」
 男女の楽しそうな会話が胸に刺さる。
「クリアされた方には、温かいお飲み物をご用意させて頂いているんですよ」
「ヘー、ソウナンデスカ」
 係の声を遠くに聞きながら、ラグナは血涙を流し再び入り口へと走った。

●駆け抜ける
 左手法を使って進んでいたフローラは、曲がり角でピッチングマシーンを確認すると、飛んでくる雪球の合間を縫って奥へと進んだ。撃退士の身体能力ならば、このくらいの芸当は朝飯前と行ったところだろうか。
「変な仕掛けもあるわね。ま、気楽にやらせてもらうことにしましょう」
 フローラはスタンプをゲットすると元来た道へと戻り、先へと進む。ふと、突き当たりのT字路で右を見るとスタンプ台があった。
 嬉々としてそちらへと転進するフローラの後ろを二人の生徒が駆け抜けていく。音羽 千速(ja9066)と水屋 優多(ja7279)だった。二人はあっと言う間に出口の目掛けて消えていった。
 スタンプを二つ捺すと、フローラは出口目掛けて歩く。そしてようやく出口を見つけたのだが、反対に続く道に首を傾げた。
「雪だるまの奥がどうなってるか気になるし、とりあえず行ってみましょうか」
 好奇心にかられたフローラは雪だるまを通り抜ける。特に変わった事も無く、雪壁を眺めながら歩いていると、唐突に視界に空が飛び込んできた。つるつるになった氷雪の床を踏んで転んだのだ。
「痛たた……気を抜いちゃってたわね」
 油断禁物。フローラは立ち上がると今度は警戒しながら進む事にしたのだった。

 一方出口では。
「もう一度、行きましょう!」
「私……お夕食の買出しに行くつもりだったんですが……」
「いいから、いいから! 今度はスタンプ探しで!」
 千速の強引な誘いに、優多は仕方ないなとため息を付く。
「では、今度は私が先導しますからね」
 と、千速に手を差し伸べた。意を決したあとの優多はすでに笑顔になっていた。
「はいっ!」
 千速はその手を取ると、優多と共に再び入り口から雪の迷路へと駆け出して行った。

●天災人災
「どおしてでしょう」
 震え上がった声を搾り出すようにして、菊開 すみれ(ja6392)が迷路の中を彷徨い歩いていた。体中びしょ濡れで、さらに冷気でどんどん体温を奪われている。なんとなく軽い気持ちで入ったのが運の尽き、気がついたらこんな事になっていたのだ。
「調子に乗ったのが悪かったのかな……」
 すみれは思い起こす。雪球を投げてくるピッチングマシーンの前で。
「見える! 私にも敵が見えるよ!」
 と、一人ではしゃぎ。その後、何故か速度が上がった雪球に直撃された事を。
「ひゃん、冷たい」
 と、すみれは叫んだ。顔面に当って砕けた雪球は、無情にも服の中に入ってしまったのだった。
 彼女の不運っぷりはそれだけではない、通りを雪だるまが塞いでいたため、横を通ろうとして身体がつっかえてしまったり。そのせいで、さらに服の中に雪が入ってしまった事も――。
 そして仕舞いには、出口に行けば良かったものの、雪だるまの先に通路を見つけて進んでしまい、その先にあった氷の床で転んでお尻も濡れて何とも言えないことになったのだった。
「おかしいよ。雪だるまは急に傾いて、胸がつっかえるし。氷の上には水が撒かれてたし、もうやだーブラウスが体に張り付いて寒いよー」
 すみれはスタンプ2つを押したパンフを握り締め、震えながら出口へと向かった。

 しかし、それはただ運が悪かっただけではなかったのだ……。
「そう、俺様だ!」
 ラグナはピッチングマシーンの変速機を弄りながら、迷路内に入ったカップル(間違えて一人歩きしている学生も)を狙って悪戯を仕掛け始めたのだ。それだけでは無い。通りに雪だるまを増やして、行く手を阻んだりもしていたのだ。

 ラグナ……なんて恐ろしい男。

「おっ、次の鴨がやってきたな」
 ラグナは再び、獲物を待って物陰に隠れた。

●剛速球は返された
(くっ、またカップルか!)
 ラグナは曲がり角を歩く二人を見て、マシーンを最速設定にした。発射された雪球は、今までの何倍もの速度を出して飛んでいく。

 カキーンッ!

 雪球は少年、千速の手にしたバットで打ち返された。
「な……なんだと!」
 思わず、ラグナは叫ぶ。
「金属バット持ってたら打ち返してマシーン転倒させたんだけどなー」
「やめなさい」
 和気藹々と談笑する二人は、ラグナの声に気づくこと無く歩いていった。
(なんだ、千速と優多だったか。紛らわしい……。)
 ラグナは気持ちを切り替えて次の獲物を待つ。続いてやってきたのは女子生徒。天風 静流(ja0373)だった。カップルではない。しかし、放たれた雪だまは剛速球で、ラグナは変速機を最速にしたままだった事に気がついた。
「しまったっ!」
 思わず立ち上がったラグナの顔面を雪球が貫いた。
「いきなり飛んでくるとは……投げ返してしまったよ」
 静流は雪球をキャッチすると、そのままバックホームとばかりに投げ返したのだ。返された剛速球で、憐れラグナは撃沈した。
「とりあえず、スタンプ1つ目だな」
 静流はクールにラグナをスルーした。

●立ちはだかるは
「こちらですね」
 玖珂 円(jb4121)は迷路の中、棒倒しで道を決めていた。雪の降らない地域に生まれたため、雪にも寒さにも慣れていない。そんな彼女だが、素敵な恋のためと意を決して迷路に挑んでいるのだった。
「や、やっと少しは雪道に慣れてきましたクェアップ!」
 多少慣れたと思った矢先に、雪球が顔面を直撃した。明らかにアトラクションを超えた速度のような気もしなくは無い。
「ひぃぃ、いやぁ〜」
 円は悲鳴を上げながらも、何度も転倒と直撃を繰り返し、奥にあったスタンプをゲットした。倒れていた男はスルーした。その後、来た道を戻り先へと進んでいくと、誰かの後姿を発見した。

「あら、天風さん?」
「円か……」
「どうしたんですか?」
「いや、雪だるまが道を塞いでいてな。こちらが順路ではなかったのか」
 二人の前には通路を塞ぐようにして、傾いた雪だるまが居座っていた。本来は無いはずの、ラグナが作ったもので、横を通り抜けようとして、すみれが傾かせたのだった。
「どうなんでしょう。一度戻りますか?」
「そうだな……」
 少し悩んだ末、二人は戻ったのだが、スタンプはあったもののやはり行き止りだった。結局、二人は傾いた雪だるまを避けて先に進み無事、出口を発見した。

●二人を阻むものはなし
「さぁ、パパ行くわよ」
 少女が大男を連れて迷路へと入っていく。セラフィ・トールマン(jb2318)とデニス・トールマン(jb2314)親娘だ。
(寒ぃから外に出たくなかったんだが…コイツはなかなかのモンだな。)
 デニスはセラフィに連れられて来たのだが、迷路の出来には素直に感心していた。しかし、あからさまに雪球が飛んでくる中、セラフィを前に立たせているあたりはどうなのだろう。これがこの親娘の愛なのだろうか。
「パパ、スタンプあったよ〜」
 雪球の中を二人で進むと、突き当たりにスタンプ台があった。
「とりあえず捺せ」
「イエッサー」
 セラフィは意気揚々とパンフにスタンプ。
(これだけロマンチックな雪の迷路の中で、恋愛成就ときたら! これはもしかすると、もしかするかもしれないわ。うおぉぉぉ! テンション上がってきたぁぁぁ! あっ…鼻血が…♪)
 と、セラフィが一人、悶々としている。その様子にデニスは嫌な予感がした。
「さぁ、次にいきましょパパ! ここブッ壊しちゃえっ!」
 セラフィが嗾けると、デニスはひょいっとセラフィの首元を掴み上げて、壁の向こうに放り投げる。
「パパのバカぁっ!」
「ふんっ、壊すわけにはいかんだろ」
 デニスは至極まっとうな答えを返した。雪壁の上に放り投げられたセラフィ目掛け、何処からとも無く雪玉が飛んできた。ピッチングマシーンは一台ではなかったのだ。壁を登って近道をしようとしたら、第二のマシーンが雪玉で打ち落とすという算段であった。
「意外と、激しいのねパパ」
 デニスは元来た道を戻り、壁の向こうに辿り着くと、雪上に落下したセラフィは目を回していた。仕方なく、デニスはセラフィを背負うとそのまま迷路を進む事にした。

「はっ!? パパ」
「おっ、目が覚めたか。じゃぁ降りろ」
 目が覚めたセラフィは自らが背負われている現状にドキドキとしながらも、起きなきゃ良かったと後悔した。
「ところで、今どこなのかな?」
「さぁな、まぁ中間くらいだろう。とりあえず、この雪だるまをどかさねぇと先に進めねぇ」
「そっか……」
 セラフィはスタンプがまだ一つしか押されていないパンフを見て、少ししょんぼりした。
「なんだ、スタンプ捺したいのか? それなら戻ったところにあったから、さっさと捺して来い」
 デニスは傾いた雪だるまを横にずらしながら言った。
「うんっ! パパ大好きっ!」
 セラフィが笑顔で走っていくのを見て、いつまで経っても子供だななどと思った。しかし、セラフィが迷って何十分も待ちぼうけになるとは、その時のデニスはつゆにも思ってもいなかったのだった。

●迷路の出口
「ここが出口で良い筈だが、何故あちらに道が・・設計ミスか?」
 静流が雪だるまの並ぶ通路を指差す。
「さぁ、それよりももう出ましょう。私、スタンプ二つ貯まったからもういいです」
 そんな疑問よりも、円は早く外に出たかった。
 二人が一緒に迷路を出ると、温かい飲み物や食べ物が振るわれていた。
「す、すいません、み、味噌汁を……」
 震える円の声を聞き、係の少女が御椀に温かいお味噌汁をよそった。
「あ……温まります」
「スープも温まるよ〜」
 フローラは手にしたスープを勧める
「では、私にはそちらのスープを」
 フローラからスープを貰うと、静流も指先を温めるようにカップを包んだ。
 視線の先には、レフニーと淳紅がココアを飲みつつ談笑している。そして、出口から何週目なのか千速と優多が飛び出していった。

 出口付近には続々と迷路をクリアした生徒達が集まってきた。武田は、その様子を眺めながら温かい飲み物を配る。
「パパ〜、着いたよ」
「まったく、お前が迷うから、ずいぶん時間がかかっちまったじゃねぇか」
 セラフィに悪態をつきながらもデニスは笑っていた。親娘は出口で温かい珈琲を受け取った。
「とても面白かったぞ、ありがとう!」
 何故か今頃、迷路から出てきたラグナが、武田と円居を見つけると満面の笑みで言った。武田は自分の作ったものが人々に受け入れられた事が今更ながら嬉しく感じた。
「円居……ありがとな」
 武田は出口の人々の姿を見て呟いた。
「何さ、改まって」
 円居は武田に笑いかける。
 雪の迷路は人々の心を繋いだ。たぶん、そこには何の力も無いけど、確かに絆は芽生えたのだ。

「や……やっと出口」
 すみれは雪だるまの向こうからなんとか這い出て来ることに成功した。出口の向こうでは、人々が和やかに笑っているのが見える。
「わぁ……」
「お疲れ様、温かい飲み物をどうぞ」
 円居が最後に出てきたすみれにカップを手渡す。
「ありがとうございます」
 ようやく出られた事と、温かい飲み物でホッとしたのもつかの間、すみれは自分の下着が濡れていることに気付き足早に去っていった。
「グスンッ……早く帰って着替える」
 手にはしっかりと恋愛成就の御守を握りしめて。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 リリカルヴァイオレット・菊開 すみれ(ja6392)
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
リコのトモダチ・
音羽 千速(ja9066)

高等部1年18組 男 鬼道忍軍
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
無敵のFinal☆ファザコン・
セラフィ・トールマン(jb2318)

高等部3年10組 女 アストラルヴァンガード
氷雪の迷路・
玖珂 円(jb4121)

大学部3年32組 女 インフィルトレイター