.


マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/20


みんなの思い出



オープニング

●上下左右相談室
 校舎のはずれ、誰も使っていない空き教室のひとつに小さなプレートが掛けられている。

『上下左右相談室』
 悩み相談受け付けます――。

 簡素なプレートにはずいぶんとけったいな名前がついていた。
 上下左右……いったい何を相談する場所なのか……実は、この上下左右とは部屋の主の名前なのだ。
 扉をあけると、ゆったりと長い髪を三つ編みにした女性が椅子に座っていた。
 印象的なのは両目を隠すアイマスクだろう。
 一種異様なものに見えるかもしれない……。
 しかし、口元が穏やかに微笑んでいるためか、纏っている雰囲気は優しい。

 彼女こそ、上下 左右 (jz0134) (かみしも あてら)……この部屋の主である。


「あてらセンセーさよーなら」
 相談室の扉を開けて、一人の女子生徒が上下に声をかけた。
「はい、古河君も夜道は気をつけるのよ。さっきの話じゃないけれど……ほら」
 上下は少女が先ほど話してくれたことを思い出す。
「後追い少年の怪談ですかぁ〜。はいはい。大丈夫ですよ〜」
 古河は間延びしたような返事をして、廊下へと出て行った。
 もう、辺りはずいぶんと暗くなっている。廊下の電気も消されてしまったのか、相談室から漏れた明かりが僅かに照らす程度だ。
「うわぁ〜暗いなぁ……センパイに待っててもらえば一緒に帰れたのになぁ」
 古河は最近付き合い始めた男子生徒の事を考えながら廊下を少し歩く。ふと、視界の端に何かが写った。
「えっ?」
 古河はそんな薄暗い廊下に白い影を見た。


 生徒たちもほとんど下校したのだろう。
 校内は静かなものだ……天魔の戦いが激化していると言うのに――。
「それにしても今日は面白い子が来たわねぇ。天より堕ちて魔に属す者に相談だなんて……」
 上下は今日、相談しにきた生徒を思い返しながら、使ったカップを洗っていた。
 そんな時だった。
「ぎゃー」
 と言う声とともに、再び古河が相談室に走り戻ってきた事に、上下は少々驚いていた。
 大声で戻ってきた事もだが……。
「あああああああ、てら、センセーぇ!」
「何をそんなに慌てているの。とりあえず二人とも座りなさいな」
 上下は椅子にすわるように促してから、自分は立ち上がり珈琲を淹れ始めた。
「珈琲でもどうぞ……それで、どうしたのかしら?」
「そう、出た! あてらセンセー出た!」
 上下は慌てた口調の古河に落ち着くようにと珈琲カップを置く。机にはカップが二つ並んだ。
「出たって何かしら?」
「出たんだって……幽霊! 幽霊だよ〜!」
「ふ〜ん。だそうだけど?」
 上下は自分の席から珈琲カップを手にして一口。
 もう冷めかけていて味気ない。
「……私は見ていませんわね?」
 上下は冷めてしまった珈琲を流しへと持って行く。やはり、熱いのが飲みたくなってしまったのだ。
「センセー全然信じてないでしょ! ホントなの……に……あれ?」
 古河が今更ながら机の上の『もうひとつの』珈琲に気が付く。
「ぎゃ〜!」
 再び古河の叫び声が響いた。


「もう、落ち着いたかしらぁ。古河君」
「はい……幽霊じゃないなら平気です……」
 相談室で珈琲を飲む三人。一人は部屋の主、上下。二人目はさっきまで騒がしかった女子生徒、古河。三人目はと言うと……制服の上に白いポンチョを着た女子であった。
「それにしても、新田君もこんな時間にどうしたのかしら」
 上下の疑問に、三人目の女子生徒……新田 芳香は話はじめた。
「実は……相談したいことがありますの……」
 新田が話した内容をまとめると以下のような事らしい。

 最近、視線を感じることが多い。
 夜、下校する際に跡をつけられている気がする。振り返っても誰も居ない。
 友人と一緒に帰った時は誰も足音に気が付かなかった。
 私の気のせいかもしれない。


「え〜、それってもしかしてストーカーですか?」
 幽霊じゃないと分かって安心した古川がいつもの調子に戻ってきた。
「先生もソレだけど、跡なんてついていってないわよぉ」

 上下以外の二人が沈黙した。

「……あっ? ナイトストーカーのジョブですのね先生は」
 新田が何かを察して答える。
「……あっ? あてらセンセェ……」
 古河が何か言いたげに上下を見た。
「……うん。そうなの……会心のギャグだったのに。ちょっと面白くなかったかなぁ」
 上下は『人を和ます一発ギャグ』という本を片手に、何か悔しがっている。
「ちょっとじゃないよっ! わかり辛いよっ!」
 思わず古河がつっこみを入れた。
「……コホン」
 新田の咳払いに、上下と古河は襟を正す。
「それで、新田君には足音が聞こえると……」
 上下は最近見たテレビの内容を思い出していた。
 思春期の生徒に時折、自意識が過剰になる時があるというものだ。これは普通の子供に起こる事で、急に周りが自分を見ている気がして緊張するなど良くあること……らしい。
 (大抵は勘違いだったりするらしいけど……)
 上下は小さく呟く。
「勘違いじゃありません! 確かに……今日も……」
 新田が椅子から立ち上がった。
 上下はアレ? 声に出てたかしら……などと思いながら謝り、新田に話かける。
「ごめんなさい、新田君。それで、跡をつけてくるっていつごろからなの?」
「はい。かれこれ1週間くらい前でしょうか……」
 新田は一週間の出来事を思い起こす。
「原因もその1週間前あたりにあるのかもしれないわねぇ」
「先生。あたしの時みたいに皆に協力してもらって、調べてみたらどうかな?」
 古河が身を乗り出して、新田の手を握る。
「そうねぇ。新田君がよければ、良く相談室に遊びに来る子たちにお願いしてみようかしらね」


リプレイ本文

●新田 芳香の場合
「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は戸締りを確認してから帰りましょう」

 夕暮れ時になり、スピーカーからは放送委員の声が響く。

 アーレイ・バーグ(ja0276)と雫(ja1894)は、新田が校門を通り抜けるのを確認してからその跡を追う。新田をつけている存在が周りにいないか注意を払ってだ。
「こうやって護衛していれば安心ね」
 雫が周囲を確認する。
「えぇ、この面子で護衛なんてギメルの襲撃でも想定しているんですかね」

(まぁ、それは無いか……)

 自分の発言に思わず、心の中で突っ込みをいれたアーレイは視線を空へと向ける。一応、空からの追跡が無いか確かめるためだ。
 夕暮れの通学路で新田は友人たちと別れ一人になった。事前の打ち合わせどおり、友人を巻き込まない配慮だ。
「とりあえず、現状報告しておきましょうか」
 メールを打とうとした雫の端末が揺れた。マナーモードにしていたためだ。雫は着信を受けようと指を滑らす。
「あっ、雫様、あれっ!」
 雫は突然の声に、画面から視線を上げた。
 アーレイが指差した先には、息を切らせた人物が立っていたのだ。
「もしもし……が現われたわ」
 視線を外さずに、雫は電話の先の相手に告げた。

●ポーラスター北野の場合

 ジー――。

 物陰から顔を覗かせた雪室 チルル(ja0220)は、女子生徒に囲まれた北野の姿を観察していた。
 北野が笑顔を振りまいてその場から去ると、チルルは女子生徒たちの所にダッシュした。
「ねぇ、あたいにあいつの事教えてっ!」
 突然現われたチルルに、女子たちは面食らったが直ぐに話が弾む。
「何、この子?」
「かわいいっ、もしかして、あなたもファン?」
「ちっちゃいのにマセてる〜」
 女子の一人がチルルの頭を撫でる。
「ん〜、違うっ! あたいはあいつの事調べてるだけっ!」
「え〜、やっぱファンじゃない」
 他の女子も頭をなでる。
「違うってば〜!」
 チルルは頭の上の手を払いのけるが、次から次へと他の女子が撫でてくる。結局、女子たちから話を聞いて解放されるのは暫く後の事であった。

「で、どうだった?」
 チルルに声を掛けたのは並木坂・マオ(ja0317)だ。
「マオ。ばっちしよ!」
 チルルは手に持った手帳を広げて見せた。
「こうやってメモを付ければ忘れないわ! あたいったら名探偵ね!」

 メモには、かっこいい。うたうまい。にった。こくはく。ごーいん。などという文字が並んでいた。

「ごめん、あたしには何がなにやら分からないんだけど……」
 マオは受け取ったメモを苦笑いしながら返す。
「えー、だから、えーとっ……あたいもわかんないや」
「だよねー」
 二人は顔を見合わせ笑う。笑い終わると、さてどうしようという空気が漂ってくる。その沈黙を破ったのはチルルだった。
「よしっ、あたい、北野に直接聞いてくる!」
「えぇっ!?」
 マオの驚きを余所に、チルルはすぐさま駆け出した。そして、忘れていたとばかりに、数歩進んだところで振り返る。
「マオは、みんなんとこ行ってきなよ。あたいが調べたこと伝えてきてー」
 ニカッと笑うと、チルルはそのまま元気良く走っていってしまった。
「伝えてって言っても……ねぇ」
 残されたマオはひとりごちるのだった。

●三井 ハァートの場合
 かしましく話す女子生徒たちの輪に、彼女は居た。
「こんにちは、あなたが三井 鳩子さん?」
 天羽 伊都(jb2199)の言葉に、三井はカッと顔を紅くした。
「何よ、あんた。勝手に名前で呼ばないでっ!」
「あぁ、すみませんでした。たしかに呼ばれたくない事もありますよね」
 天羽は一人何かを納得する。その様子に三井は続く言葉を呑んで、咳払いをすると改めて口を開いた。
「で、何?」
「あぁ、すみません。僕は中等部の天羽と言います」
 天羽は本来の用件を話し始める。
「実は、新田 芳香さんから頼まれて……」
「げっ、あの子?」
 三井は新田の名前に眉をひそめたが、その後は天羽の話を静かに聞いていた。

 一度も目を逸らさずに――。

「それで? あんたは私を疑ってるわけね。でも、残念。私とあの子じゃ、帰る方向は全く逆だし。最近は同じクラスの友達と帰ってるわよ。聞いてみなさいよ」
 三井は女子の輪を指す。
 結果、三井にはストーカーをする事はできないと分かった。
「友人だし、口裏を合わせることもできるかもしれないけど……」
 三井たちが去ってから、天羽は頭を悩ませた。
「これは、一度誰かと合流して考えようかなぁ」
 天羽は端末を取り出した。


●鎌ヶ谷 秀作の場合
 鎌ヶ谷は今日も学園内でカメラを構える。そんな彼のファインダー越しに写ったのは和泉 恭也(jb2581)だった。
 天使のその柔和な微笑みに、彼はシャッターを切る指を止める。
「こんにちは。良い絵は撮れていますか?」
「……」
「少し、お聞きしたいのですが……何を撮ってらっしゃるんですか?」」
 鎌ヶ谷は身体の脇にカメラを抱えて、訝しげな目で和泉を見た。
「……鳥だよ」
「そうですか。しかし、あちらには校舎があるだけですし……どうせなら、木々のあるほうを撮影するほうがいいんじゃないですか?」
「いいんだよ。建造物にとまる鳥もいるんだ……鳩とか」
 鎌ヶ谷は和泉の横をそそくさと通り抜けて去って行った。
 その後ろ姿を見送っていた和泉に、もう一人の天使が話しかけた。イリン・フーダット(jb2959)だ。
「どうでした?」
「あぁ、イリンさん、少し気になりますね」
「当りでしょうか?」
「分かりません、ただ、自分と話している間、一度も視線を合わせてくれませんでしたから……」
 和泉とイリンはもう一度、鎌ヶ谷がカメラを向けていた方を眺める。校舎の方には、かしましく話す女子グループが居る。
「一度、連絡を入れてから鎌ヶ谷のあとを追ってみましょう」
「えぇ、自分もそれでいいと思います」

●黒須 エルの場合
 陽だまりの中、黒い羽の天使が佇んでいた。
 肩には小鳥たちが集まっている。まるで一枚の絵のようだ。
「ちょっと、いいかしら? あなたが黒須エルくんね」
「そういう君は?」
「あら、ごめんなさい。私はマリー・ベルリオーズ(ja6276)よ」
 マリーは眼鏡を指で押し上げた。
「それで、マリーさんが何の用かな」
「少し、あなたのことを調べさせてもらったわ」
「……貴様?」
 黒須が身構える。
「そんなに怖い顔しないで……、私は新田 芳香さんから頼まれたのよ」
「新田……」
「そう、最近、彼女は誰かにつけられていて……。心当たりある?」
「……」
 黒須は顔を背け目を逸らした。
「そう……、あなたなのね。でも、悪意があって新田さんを追いかけていた分けではない。そうね?」
 マリーの言葉に、黒須は振り返る。
「……あら、電話。ごめんなさいね」
 マリーが通話ボタンを押すと、大音量の声が漏れた。
「大変だよっ! 北野が怒って走っていっちゃった!」
 チルルの声だ。
「どういう事?」
「北野に、ストーカーしてるのかって聞いたら、怒って新田の所に行くって!」
「分かったわ。私も新田さんの所へ向かうわね」
 マリーは通話を切ると黒須に視線をやる。
「黒須くん。続きは、場所を移してにしましょう」
「分かった」
 それと……皆に連絡を入れておきましょうか……とマリーは声に出さず頭の中で呟いた。


●撮りたいものを撮るわけでなく
「あぁ、イリンさん、恭也さん丁度良かった」
 天使二人に声をかけてきたのは天羽だった。
「天羽くん、たしか三井さんの所に聞き込みに行っていたんでしたね。どうでした?」
 イリンの言葉に、天羽は頷いた。
「どうも、三井さんは新田さんの事を面白く思っていないみたいです。でもストーカーでは無いと思います」
 天羽はここまで歩いてくる間にまとめた考えを披露する。
「ほら、丁度あそこにいる女子グループが三井さんの無実を証明してくれたんですよ」
 天羽が指差した先には、かしましく話す女子たちが居た。 
「あのグループ……」
「そういえば、僕ちょっと三井さんを怒らせちゃったみたいで……、なんか名前を呼ばれるのが嫌みたいなんですよね。鳩子って、まぁ、僕もちょっと分かるんですけどねその気持ちは」
 笑う天羽の顔を見つつ、和泉は考えを巡らせる。
「こちらは、鎌ヶ谷が少々怪しいと思ってあとを追っているんですが……恭也どうしました?」
 イリンは急に黙った和泉の肩を叩く。
「あっ、いや……あのグループを鎌ヶ谷くんが撮ろうとしていたようなんです」
「えっと? どういう事ですか恭也さん」
「うん、天羽君。もしかしたら、鎌ヶ谷くんと三井さんには繋がりがあるんじゃないかって」
 和泉の突然のひらめきに、天羽とイリンは息を飲んだ。
「行って見ましょう。鎌ヶ谷くんと三井さんのところへ」
 三人がいざ動こうとしたところに、マリーからのメールが届いた。

●役者は揃って
「新田、酷いじゃないか!」
 北野は新田の前で大声を上げる。
 雫とアーレイがすぐさま新田の前へ飛び出た。
「あなたがやっぱり犯人なの?」
 新田は恐る恐る声を絞り出した。
「ストーカーだなんて酷いな。僕のイメージまで悪くしようというのかっ?」
「……? これどういう事かしら」
 アーレイが雫に目配せをする。
 雫は、携帯端末の向こうからマリーが話すのを聞いていた。
「外れというか……寧ろ、藪を突付いて蛇を出してしまった形かしら」
 マリーからチルルの話を聞いた雫は、ため息を付いた。
「アーレイさん、この人は違うみたい」
 あ、そうなの……と呟くと、アーレイはつまらなそうに構えを解いた。
「だから、僕はしてないって言ってるだろ!」
 北野は未だ怒りが収まらないといった様子だ。
「良かった、間に合ったみたいね」
 そこに、マリーと黒須。そして途中で合流したマオ、チルルがやってきた。
「あぁ、マリーさん」
 雫は端末の通話を切る。
「今度は、何なんだ」
「北野くんも、もうちょっと待ってくださいね。役者がもうそろそろ揃いますから」
 マリーは優しく諭すように微笑んだ。
「遅れてすいません皆さん」
 イリンと和泉、天羽が鎌ヶ谷と三井を連れてやってきた。
「これは?」
 アーレイがマリーに尋ねる。
「ちょっと、皆さんを連れてくるようメールを送って置いたんです」
「なるほど、それで……」
 関係者が集まった……雫は心の中でその言葉を呟くと、全員の顔を見回す。
「では、役者が揃ったところではじめましょう」

●それが愛でしょう
「まずは、あたいから」
 チルルはメモしたノート片手に話を始めた。
「北野は、ストーカーじゃない。 最近も女の子たちと帰ってるから、アリバイは完璧ねっ」
「そう言う意味では、三井さんにもアリバイはありました」
 天羽が続ける。
「鎌ヶ谷くんには、その手のアリバイは無いが、動機も無い」
 イリンが言う。
「……そうですね」
 和泉が頷く。
「そして、黒須くんにもアリバイは無い……と、言うか寧ろ黒須くんが犯人よ」
 マリーはさも当たり前のように核心を突いた。
「!?」
 その場にいる、マリーと黒須意外がハッとする。もちろん中には、その可能性を考えていた者もいた。
「跡をつけていた……その点だけなら黒須くんが犯人よ」
「じゃ、じゃぁ僕は勘違いでストーカー呼ばわりじゃないかっ!」
 北野は黒須に向かって声を上げた。
「ごめんなさいね。でも……あなたは少し周りを見れた方がいいわね」
「何を……」
 笑顔のままだが、物言わせぬマリーの雰囲気に、北野は言葉を詰まらせた。
「チルルちゃんの調べだと、新田さんに結構強引に迫ってたらしいじゃない」
 マオがチルルのノートを指差した。
 実際、新田は北野に何度も言い寄られていたようだ。
「あなたの強引さが、新田さんには知らずにストレスになっていた。だから、余計に足音が気になった」
 マリーの言葉に、北野は完全に沈黙した。
「とりあえず、新田さんが気にしていた足音はたぶん黒須くんという事になるのね」
 雫が静かにまとめた。

●愛の形を正すため
「次は和泉くんが気が付いたことね」
 マリーに促されて、和泉が前へ出る。
「はい。自分が気になったのは、鎌ヶ谷くんと三井さんのつながりです」
 その言葉に鎌ヶ谷と三井はぎょっとする。
「な……何を言ってるのよ? あたしとこんな暗そうな奴がなんだっていうの」
 三井が鎌ヶ谷を指差す。
「恭也は、鎌ヶ谷がカメラを向けている対象を気にしていたんだ」
 イリンが言葉を続ける。
「鎌ヶ谷は鳥を撮影していると言っていたが、どうもそれは違うってね」
 天羽も得意げに言う。
「そう、鎌ヶ谷君は三井さん。君のいる女子グループの方にカメラを向けていた」
「それが何よ」
「……そして、鎌ヶ谷君は、自分に言ったんだ鳩を撮っているってね」
 三井の言葉をさえぎるように和泉は指差す。
「君の事じゃないのかな? 鳩子さん」
 言葉を詰まらせて顔を紅くする三井の前に、鎌ヶ谷が立った。
「秀っ!」
「そうですか鎌ヶ谷様。私が思うに、新田様の感じていた視線の正体はあなたですね」
 アーレイの言葉に続くように和泉が言う。
「恐らく、それは三井さんに頼まれたんじゃないでしょうか」
 鎌ヶ谷には動機が無い……無いはずだった。しかし、三井と何らかのつながりがあるのならば、それが覆る。
「もう、よそうよ鳩ちゃん。……皆さんの言う通り、僕は新田さんを影から撮影していました」
「ど……どうしてですか」
 新田が辛うじて声を絞り出す。
「それは、あんたがポーラスター様にちやほやされていたからよ」
 三井が泣きそうになりながら叫ぶ。
 結局のところ、鎌ヶ谷は鳩子のことを思って、北野との仲の障害となる新田を監視していた。
「鎌ヶ谷君。君が鳩を撮っていると言っていた時、たしかにそこには優しい感情が見えました。あなたは自分の気持ちに気づくべきです」
 和泉の言葉に鎌ヶ谷は頷いた。

●愛を知るため
「さて、それじゃぁ。最後に黒須くん?」
 マリーが黒須の背を押す。
 新田の前に出た黒須の肩に小鳥が止まった。
「……その、こいつが世話になったそうだな」
「あの時の小鳥?」
 黒須は静かに頷く。
「そう、もうちゃんと飛べるようになったのね」
 新田が伸ばした手の指先に、小鳥が飛び移る。
「その……すまなかった。君を脅かすつもりはなかったのだ。ただ……人と接するのがまだ良く分からなくて」
 黒須は頭を下げた。
 周りに居た皆の視線がそちらに集まる。
「ふぅ……、もういいですよ。ちゃんと謎は解けたわけですし」
 新田は久しぶりに心から笑った。
 もう、跡をつける足音は聞こえないだろう。

●ずっとついてくる
「って事だったんだって〜」
 古河が得意げに話すのを上下は笑顔で聞いている。
「そう、じゃぁもう誰も後ろについてきて無いのね」
「そうそう。これで一安心だよ。センセー」
 辺りはもう暗くなっている。


「そう……ところで

  あなたの後ろの人……誰?」



依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 撃退士・アレクシア・ベルリオーズ(ja6276)
 愛に満ちた翼・和泉 恭也(jb2581)
重体: −
面白かった!:4人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
アレクシア・ベルリオーズ(ja6276)

大学部5年256組 女 バハムートテイマー
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
愛に満ちた翼・
和泉 恭也(jb2581)

大学部3年218組 男 アストラルヴァンガード
守護天使・
イリン・フーダット(jb2959)

卒業 男 ディバインナイト