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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:15人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/04/04


みんなの思い出



オープニング

●ロシア、北東部
「やれやれ、どうにもこんな田舎町では感情も集まらんなあ」
 感情の吸収が完了し、サーバントによって運び出される人間の亡骸を視界に、天界の天使、ギメル・ツァダイはウォッカを口に運びながら愚痴をこぼす。
 ゲート・結界をつくったうえでの感情搾取とはいえども、天使の中でも最下級に位置する彼の力では集落ひとつ覆うものをつくるのがせいぜいであり、充分な感情は集まるはずもなく、結果として力をつけることもできない。
 厳しい階級制である天界の中で、感情を集められないということはすなわち立場が上がらないということであり、こうして片田舎で誰から注目されるわけでもなく感情を集め、上級天使に大半を上納し続けるしかない。
「しかも今度は若造の補助か‥‥」
 ギメルは空になった酒瓶を小指で消し飛ばすと、ギリリと苦々しく歯をかみしめながら指示書を広げて指令を確認する。
 大天使という階級とは不釣り合いなどの力を持った若造‥‥天界ではいかに長く生きようとも、生まれや配属されるエリアで、得る力は大きく異なる。
「‥‥人口の多いところにのぞめるのは望ましいことか。せいぜい今回の件‥‥踏み台にさせてもらうぞ」

●久遠ヶ原学園
「旭川市役所に天使が出現しました。既に市役所は占領。同時に出現したサーバントが市内に溢れています。
 現地の撃退士だけでは防ぎきれません。速やかな撃退士の派遣を要請されています」
 教室に集められた撃退士たちを前に、生徒会職員はの地図を見せながら説明をおこなう。
 天使があらわれたのは20分前。敵は市役所を中心に、半径1キロほどの範囲に展開している。現在はまだゲートの出現はなく、結界も張られていない。
 すでに現地滞在の撃退士が住民の避難にあたっているが、市内にあふれかえったサーバントは現地にいる一般撃退士だけでは防ぎきれないと、久遠ヶ原学園に応援要請が舞い込んできたのである。
 襲撃としては大規模とはいえないが、あらわれた場所が場所だけに、学園としても速やかに防衛体制を整えたようだ。

●風に乗りて歩むもの
「旭川市役所……天使……出現……た。既……市役所……占領。同時……出現……たサーバント……市内に溢れて……いる。現地の撃退士だけ……防ぎきれ……ない。速やかに……撃退士……派遣……要請……ている」
 教室に集められた撃退士たちを前に、来栖美里は教卓上のPCとプロジェクタで投影した地図を見せながら説明を行う。虚ろな目とうわ言のような口調にさえも、この時ばかりは焦燥や緊張感、あるいは恐怖の色がありありと滲んでいるのが感じられる。
 「これが……敵……計算……尽くされた……攻防……一体……」
 光纏とともに美里は『観測球体』を出現させる。転移装置を利用して美里が『観測球体』を送り込んだおかげで現地の状況が一部ではあるが視認可能なのだ。美里が『球体』から卓上のPCに糸状のアウルを伸ばすと、画面は現地の映像に切り替わる。そして、それを目の当たりにして撃退士たちは一斉に絶句した。
 映ったのは、まるで北極圏かと疑うような光景。景色は凄まじい吹雪で覆われ、旭川市の街並みは軒並み積雪に呑まれており、轟く風音がスピーカーを壊さんばかりの音量で激しく響く。画面が全体的に真っ白なのは『球体』にも大量の氷雪がかかっているからだろう。
 その時、唐突に映像が無音になる。どうやら『耳』の象形文字が刻まれた『球体』が完全に凍結した上で暴風に巻き上げられ、高空から地面に叩きつけられ、木端微塵に砕かれたようだ。
 動じることなく美里は再び光纏すると、今度は『手』の象形文字を持つ『球体』を出し、それと卓上に置いてあったデジタル式の温度計をアウルの糸で繋ぐ。そして、瞬時に動いたデジタル表示を見て、撃退士たちは再び絶句を強いられた。
 表示された温度は、まさに真冬のロシアか、さもなくば北極圏ほどの極寒。いかに日本一寒い場所とはいえ、これほどの低温を記録することなどまずあり得ない。
 撃退士たちが落ち着きを取り戻すのを待ち、美里はうわ言のような口調で再び説明を始めた。
 ――この異常気象は一体のサーバントが起こしていること。
 ――敵は風を自在に操る力を持ち、近距離には周囲に展開する暴風圏の防御壁で壊滅的打撃を与え、更には暴風を圧縮した空気弾を放つことで遠距離への破壊活動を並行して行っていること。
 ――暴風圏の防御壁を破れるようなパワーやディフェンス型の撃退士は接敵するまでに空気弾で狙撃され、後方へと押し戻されて近付けず、スピードやテクニックに優れた撃退士では狙撃をかいくぐれたとしても、防御壁を抜く程の攻撃力はない。まさに攻防一体の能力を持つ敵であること。
「現時点……動かせる……戦力……倒す……方法……一つ……だけ……その鍵……」
 美里の言葉を合図としたかのようなタイミングで教室のドアが開いた。そして、ハリのある声が響き渡る。
「あたしっス!」
 現れた如月佳耶(jz0057)を指さしながら、美里は口を開いた。
 ――現時点における唯一の勝機は、暴風圏によるダメージを受けないだけの遠距離から、暴風圏の防御壁を貫通できるだけの威力ででの狙撃。
 ――そして、現時点で使用可能な戦力で唯一、それだけの飛距離と威力が実現でき、なおかつそれに耐えられるのは佳耶の愛銃にして、六十六口径という規格外の大口径リボルバー拳銃――『トライシックス』のみ。無論、それを扱えるのは佳耶だけ。
 ――佳耶は狙撃ポイントから微動だにせず、全アウルを高濃度に圧縮して弾丸を生成し、発射に備える。十中八九、敵はアウルの高まりを察知し、空気弾で狙撃してくるだろう。だからこそ、佳耶を守る撃退士が必要である。
 その旨を語り終えると、美里は『目』の『球体』を吹雪の中へ強行突入させる。すると画面には人型をした途方も無い巨体と、目と思しき真紅の双光が映し出された。
「これが……今回……敵……イタクァ……サーバント……」
 その言葉とともに美里はアタッシュケースを開き、ヒヒイロカネ製と思しき腕環を幾つか卓上に並べる。
「無尽光研究委員会……試作品……アウル伝達効果……ある……使って。それと……現時点……現地は……風速……140……メートル……気を……つけて」
 そう言って美里が頭を下げると、佳耶も教卓の前に立ち、心を決めた顔で口を開く。
「今まで以上に危険な任務かもしれないっス……だから、こんなことは言いたくないけど――」
 そして、佳耶は声高に叫んだ。
「――みんなの命、あたしに預けてくださいっス!」
 
●???
 日本国のどこかに位置する廃工場。一人の男――中性的な美貌に、塗料や油分が染みたツナギ服という格好の青年は、局所的な吹雪に見舞われた旭川市の映像をラップトップのPCで見ながら呟いた。
「さぁて、僕の貸した新作、せいぜい使いこなしてみせなよ、ギメル――」


リプレイ本文


●我は問う、彼等人間に勝機はあるか――?
「例え目の前で全員倒れたとしても、気にしないで欲しいな。僕等がどんなに傷ついても、キミの一撃が決まれば、全て報われるからね」
 狙撃地点となるビルの屋上で酒々井 時人(ja0501)は佳耶にそう言葉をかけると、胸中に続く言葉を呟く。
(なんて無理なお願いだよね)
 全員が防寒着やカイロを持ってきているにも関わらず、彼等がぞっとする寒気を感じている中、龍崎海(ja0565)はふと呟いた。
「こういう侵攻があると思い知らされるよ。故郷が無事なのは運がいいだけなんだって」
 すると、それに同意するように、望月 忍(ja3942)も口を開いた。
「大きな街を北極みたいに凍らせちゃうなんて……とても怖いの……。 一体何が起ころうとしているの〜……?」
 たくさんの人の命がかかっていることや、囮や護衛のメンバーが傷つくことが怖くて、忍は海の腕に頼るようにつかまる。
 支給された試作品の腕輪の感触を確かめながら、氷雨 玲亜(ja7293)は静かに一人ごちた。
「私としては吹雪よりも、はらはら舞い落ちる雪の方が好みなんだけど」
 肩を震わせながら、ルーネ(ja3012)も同じく一人ごちる。
「風があると更に冷えるね」
 それきり一同が無言になり、凄まじい風音だけがしばらく響く中、ユウ(ja0591)は佳耶へと問いかけた。
「……みんなの命を預かる覚悟はある?」
 その問いに、佳耶は即答できず口ごもる。
「……目の前で倒れた仲間を見て見ぬふりする覚悟はある?」
 だが、ユウは止まることなく問いかける。
「……誰が倒れても、何人倒れても。それでも狙撃だけに集中できる?」
 やはり即答できずに黙り込んでしまう佳耶。
「……アレを討てるのがあなただけなら。たとえ誰かを犠牲にしてでも残らないといけないよ」
 そして、ユウも佳耶の回答を待つことなく、ただ真顔で言い放つ。
「……なんてね。気温にあわせて少しシリアスクールになってみただけ」
 佳耶だけでなく、全員の緊張が最高潮に達した瞬間、狙い澄ましたようにユウがいつものふわふわとした調子で言った。
「……電池は4つもあるし、盾の数も十分。気楽にいこ」
それに乗るように、ルーネも少し戯けた調子で佳耶に声をかける。
「預けたんだから、ちゃんと返してね?」
 場の空気が少しずつではあるが着実に温まっていくのを感じ取り、クラリス・エリオット(ja3471)も気合を入れる。
「これ以上好き勝手にさせるわけにいかないのじゃー!」
「細かいことはいい。やるしかない!」
 クラリスと同じく気合を入れると、月詠 神削(ja5265)は紅茶とチョコレートを差し出す。
「体を温める効果があると幼馴染に聞いてな、紅茶を持ってきた。後、寒いとそれだけでカロリーを消費するから、チョコレートも」
「紅茶ですか、良いですね……まだあります? あ、それとコレ敷いても大丈夫ですか? ちょっとはマシだと思うんですけど」
 喜んで紅茶を貰いながら、佐竹 顕理(ja0843)は佳耶の足元にアルミの断熱シートを敷いていく。
 仲間たちの気遣いで佳耶の顔にも僅かずつ笑顔が戻るが、その裏に激しい気負いがあるのを見抜いた下妻笹緒(ja0544)は彼女の気持ちをほぐそうと声をかけた。
「そんなに固くならなくても大丈夫だ」
 だが、それでもまだ笑顔の裏にある気負いが消えきらないのを感じ取った笹緒は更に告げる。
「美里は風のサーバントを倒す手段はひとつと言ったが、そんなことはない。私の超魔法グレートフレアであれば、1兆度の炎が5万キロメートル先の天魔さえ消し炭にする。あくまで今回は君に花を持たせるつもりだが、いざという時は私が倒す」
 自信満々に豪語する笹緒。大法螺を吹くことで、多少なりとも彼女に余裕が生まれれば良し。それが彼の気遣いだ。彼だけではなく、海も腕環を見て佳耶におどけてみせる。
「これを使うならお約束のセリフを言わなくちゃ。オラにアウルをを分けてくれ! って」
 二人の気持ちが通じたのだろう。思わず佳耶は吹き出すと、笹緒に屈託のない笑みを浮かべる。
「1兆度の炎って。宇宙恐竜じゃないんスから。それに、あのセリフを言なら両手を上げないと、っスよ」
 佳耶の気負いが消えていくのを見届けつつ、フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は囮として最前線へ赴くアレクシア・エンフィールド(ja3291)に声をかける。
「シア、いつぞやのような無謀はしてくれるなよ? 今度は守れんぞ」
「さて。我としてもあれに無様な姿は晒せぬのでな……まぁ成して見せるさ」
 アレクシアもフィオナに対して、軽口の様であって、確と誓う様に応える。
「おうおう熱いね。まあ頑張って。命がけって信条じゃないし。かったるい。寒いなぁ。仕事したくないなぁ、マジ 。仕事はしたくないけど金はいるんだよ……うわほんと寒い。マジヤル気でねー」
 ぼやきながら赤江 千寿(ja6624)は、一人で持ち場へと歩き去っていく。
「お前さんがそう思うなら構わんよ。果たすべき役目を果たしてくれればな」
「あんなものすら使い魔でしかないとはの。まぁ、当たれば我らはお終いでしょうし、後のことなど考えてられぬよ」
 ともに囮を務めるヴィンセント・マイヤー(ja0055)と虎綱・ガーフィールド(ja3547)は千寿の物言いも特に気にした風もなく、ただ淡々と呟くと、彼に続いて持ち場へと向かっていく。
 囮班が持ち場に向かったことが無言の合図となり、護衛班や供給班も自然と持ち場についた。

●超えよ逆風! 貫け暴風! 風速140米の対決!
「ゲリラ戦とは、こう行う物だ」
 障害物から障害物へと飛び移り、建物や乗り捨てられた車両の影など、遮蔽物という遮蔽物の間を、まるでもぐら叩きの様に隠れながら、ヴィンセントは縦横無尽に駆け回る。
 雪が混じりの暴風は白い幕のように周囲の風景を覆い隠すが、彼はそれすらももろともしない。まるで凪の中を駆け回るような軽快さである。
 だが、白い幕に覆われた景色の中ですら、途方もない巨体に燃え上がるような真紅の双眸という敵の威容が見えるほどに接近しているせいか、その攻撃は一つ一つが災害級だ。
 巻き起こる暴風がイタクァサーバントの手の平に集まり、それが丸く形作られて空気弾が生まれたのを投げつける度、凄まじい破壊力が炸裂する。
 ヴィンセントたちは余裕を持ってその攻撃を回避しているように見えるが、その実、寸前や紙一重での回避など到底許されないだけなのだ。仮にそのような形で避けようものなら、瞬く間にすぐ近くを擦過していく空気弾に巻き込まれ、跡形もなく粉砕されてしまうだろう。
 一発一発が必中必滅の威力を持つ牽制技――そんな規格外の相手を前に、ヴィンセントたちは文字通り血も凍るほどの戦いを続けていた。
「うわ、本当にイタクァじゃん。おっかねぇ! とりあえずコッチ向け! で、すぐに他を向け!」
 敵が空気弾を投げつけたおかけで一瞬、彼を守る暴風の壁の風向きが変わったことで威容を直視できた千寿は、敵が伝承通りの姿をしていることに声を上げながら銃を構え、アウルの弾丸を放つ。
 だが、その弾丸は暴風の壁に軽々と弾かれ、そればかりか真紅の双眸が千寿の方を向くと、敵は両手に形作った丸い空気弾を左右時間差で彼へと投げつけてくる。
「やべぇ逃げろ! やってられるか! 俺は逃げる! あとは任せた!」
 全身のアウルを集中させんばかりに込めた脚を動かし全速力で駆け回り、次々と左右の手で投げつけられる空気弾を命からがら避け続けつつ叫び声を上げたかと思えば、千寿はなんと早々にその場から離脱してしまった。
「汝……! まぁ仕方あるまい。 さて、何処を見ている、目を逸らしてくれるなよ――寂しいではないか」
 その場から早々に逃げ去ってしまった千寿の背をちらりと一瞥したもののすぐに視線を敵へと戻すと、アレクシアは敵に語りかけるように呟きながら、自らの技――『偽・魔剣投影』を発動する。
 その技を受け、敵は注意あるいは興味の対象を彼女へと変更し、再び次々と空気弾を生み出しては左右の手を振り回して暴投する。だが、空気弾が彼女に直撃したと思った瞬間、彼女の身体は霞のように消えていく。
「……今のは危うかった、かな」
 分身の術で攻撃回避に成功して彼女が呟く一方、敵の背後ではマンホールが開いて虎綱が現れる。敵が攻撃の瞬間に見せた隙をつくように連携のタイミングを合わせたのだ。だが、彼の不意打ちも暴風の壁に阻まれる。
「手が出せないってのは結構ストレスが溜まりますな……!」
 深追いせずに虎綱がマンホール内に戻ろうとした瞬間、突然、彼の身体が打ち上げられた。それだけではない、見れば仲間たちも突如として死角から襲来した空気弾に吹き飛ばされている。一瞬、何が起きたのかわからない虎綱だったが、高空へと巻き上げられていく中で地面を見下ろしたことで事態を理解した。
 敵は虎綱が使ったのとは別のマンホールに空気弾を投げ入れることによって、下水道という密閉空間を利用し、暴風を地面から噴出させ、死角からの広範囲攻撃をやってのけたのだ。
 暴風に切り裂かれ、地表へと打ち据えられた彼等は起き上がろうにも起き上がれない。そんな彼等にまとめてとどめを刺そうと、敵は空気弾を放り投げた。着弾の瞬間、目を閉じかけた虎綱は驚愕に目を見開いた。
 なんと、逃げたはずの千寿が全速力で駆け戻ってくると、仲間たちの前に立ち、全身全霊のアウルを結集した銃撃で空気弾を相殺したのだ。
「汝、なぜ……?」
 痛む身体でアレクシアが問いかけると、千寿はぼやくように答える。
「命がけって信条じゃないけどよ……後味が悪いのも嫌なんだよ……」
 そう答えた千寿はすべてのアウルを放出したせいか、その場に昏倒する。
 そして、敵は狙撃地点の方を見据えた。
 
●我は叫ぶ、彼等人間の勝利であると――!
 一方その頃。狙撃地点では佳耶へのアウル供給が続いていた。
 供給班は佳耶に片手を触れたまま動けない為、頼みの綱は護衛班の面々だ。
 だが、そんな彼らを嘲笑うように、突如として無数の空気弾がこちらにも飛来し始める。
 どうやら、囮班に何かがあったようだ。
「くっ……!」
 まず最初に佳耶を庇ったのはルーネだ。吹っ飛ばされながらも必死に受け身を取って着地。痛む身体を押して、這ってでも前線に復帰しようとする。
 続いてフィオナが佳耶を庇って吹っ飛ばされる。屋上の鉄柵に叩きつけられ、あわや柵を突き破って転落というところで淵にしがみつき、何とか這い上がる。
「一弾たりとも通さんよ。我のプライドに賭けてな」
 更に飛来する空気弾。それに顕理が果敢に反応する。刀を下段に構え、アウルを込めた刀身で空気弾を正面から受け止めるも、後方へと押し込まれて屋上の一角にあった貯水タンクへと背中から激突するが、何とか耐えきる。
「如月さんには……手出しはさせませんよ……!」
 だが、なおも迫る四発目。それに反応したのは神削だ。仲間の前に立ち、剣を床に突き刺し、身を挺して空気弾を正面から受け止める。幾度となく暴風に切り裂かれようとも彼は空気弾が通り過ぎるまで、仲間を守り耐え抜いた。
「仲間は……守る……絶対に……!」
 そして迫る五発目。既に前衛役は立ち上がることも難しい状況で、遂に後衛が前に出ることを余儀なくされる中、真っ先に躊躇なく飛び出したのは時人だ。吹き飛ばされ、叩きつけられながらも立ち上がると、彼は佳耶に語りかける。
「剣が折れ、盾が砕け、立てる力さえ残っていれば、この身体を盾にしてでもキミを護り抜いてみせるよ」
 追い打ちをかけるように六発目が迫る。だが、一瞬の迷いもなく後衛から飛び出した海は全力のアウルで構成した防御壁でそれを正面から受け止め、身体中を痛めつけられて倒れながらも、何とかその一撃を耐えきった。
「……ここさえ……乗り切れば……!」
 無情にも迫る七発目。時人に続き、後衛から飛び出したのはクラリスだ。小さな体が暴風に巻き上げられ、空中で幾度となく錐もみ回転しながらコンクリの床へと叩きつけられるが、必死に涙を堪えて彼女も立ち上がろうとする。
「もう……好き勝手……させないのじゃ……!」
 前衛に続き、後衛までもが空気弾の猛威に倒れたのを見て、思わず腰を浮かしかけた佳耶を、笹緒が冷静な声で制止する。
「問題ない。まだ、私たちがついている」
 しかし、そんな笹緒を嘲笑うかのように八発目の空気弾が佳耶たちを直撃し、密集していたせいで五人まとめて極寒の暴風の直撃に晒されてしまう供給班。互いを支えあうことで何とか耐えるものの、満身創痍は明らかだ。
 そして、仲間たちを振り返り、佳耶は告げる。
「皆が時間を稼いでくれたおかげでチャージは間に合ったっスよ。でも……あたしの身体は発射の反動に耐えられそうにないっス……だから、みんな……あたしの事、忘れないでくれたら嬉しいっス――」
 仲間たちに守られたおかげでかろうじて指は動くものの、凍りかけた腕で銃把を掴み、泣き笑いのような表情になる佳耶。その手に自分の手を重ねるようにして供給班の面々が一緒に銃把を掴み始める。
「この魔具は君にしか扱えないのなら、こうすればいい」
「如月さん、私の力、全部預けるから、頑張ってほしいのね〜!」
「みんなで帰りましょう。だから、安心してトリガーを引いて」
「……じゃ、がんばって」
 痛む身体で這って護衛班も集まり、供給班を左右と後方から支える。
 そして、フィオナとルーネは背中を向けながら佳耶へと告げ、屋上から飛び出した。
「……我が隙を作る。その隙を狙い撃て」
「如月さんは、私達が護るよ。絶対」
 飛び出した二人に空気弾が炸裂する。それにより凍り付きゆく二人の身体を砕こうと敵は左右の手に空気弾を生み出す。だが、既に首筋までが凍り付きながらもフィオナは高らかな笑いとともに宣言した。
「凍らせたのなら、砕きたくもなろう……だが、そのせいで両手が塞がってしまったようだな! 天界の眷属よ! この戦い、我ら人間の勝ちだ! ――撃て! 如月!」
 その瞬間、超巨大な流星のごとし閃光が迸る。敵が慌てて両手に集めた風を壁に変えようとするも間に合わず、閃光は敵の巨体を貫いた後、膨大な光とともに爆散し、敵の身体を呑みこむほどの巨大な柱となる。
 そしてこの日、旭川市には雲を貫き天を衝くほどの巨大な光の柱が立った。
 
●エピローグ
 全員が無事に生還し、晴天と穏やかな微風が訪れた旭川市の空の下、白く染まる街並みを見て玲亜は呟いた。
「うん。きれいね、雪。やっぱりこうじゃないと」
 そして、仲間に肩を貸してもらっている佳耶に歩み寄り、アレクシアは言った。
「――良く、やってくれたな。卿の腕前、実に見事であったよ」
 汝と言う呼称から卿に。それは、紛れもなく信頼に値する娘だという、最大限の賞賛を込めての言葉だった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 闇を裂く御風・酒々井 時人(ja0501)
 パンダヶ原学園長・下妻笹緒(ja0544)
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 誠士郎の花嫁・青戸ルーネ(ja3012)
 不正の器・アレクシア・エンフィールド(ja3291)
重体: −
面白かった!:7人

マテリアルアドバンテージ・
ヴィンセント・マイヤー(ja0055)

大学部5年285組 男 インフィルトレイター
闇を裂く御風・
酒々井 時人(ja0501)

大学部7年55組 男 アストラルヴァンガード
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
絆穿つ翼・
佐竹 顕理(ja0843)

大学部5年236組 男 ディバインナイト
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
不正の器・
アレクシア・エンフィールド(ja3291)

大学部4年290組 女 バハムートテイマー
助演女優賞受賞者・
クラリス・エリオット(ja3471)

高等部3年15組 女 アーティスト
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
ぴよぴよは正義・
望月 忍(ja3942)

大学部7年151組 女 ダアト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
逆風を超えし勇気・
赤江 千寿(ja6624)

大学部7年169組 男 インフィルトレイター
新世界への扉・
氷雨 玲亜(ja7293)

大学部4年5組 女 ダアト