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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/02/03


みんなの思い出



オープニング


 ――2014年 1月 某日 ???――
 
「やめ……やめて、ゆるして……」
 恐怖にひきつった涙声。
 その声の主は若い女性だ。
 
 辺り一面には宵闇の帳が下りている。
 時刻はもう深夜に差し掛かっているのだろう。
 
 そんな宵闇に溶け込むようにして、一つの人影が彼女をじりじりと追い詰めていた。
 切れかけた街灯の光が時折照らすその人影のディティールは、まさに怪人だ。
 
 頭部を覆うゴーグル一体型のガスマスク。
 背負ったタンクは子供一人ほどの大きさだ。
 そして、まるで銃器のような形をした噴射器。
 噴射器のグリップ下部から伸びたホースは背中のタンクに繋がっている。
 
 そして怪人は、眼前の女性に噴射口を向けた――。
 
 その時だった。
 突如、辺り一面を眩い光が照らす。
 
 彼女はもちろん、怪人も思わず腕で目を押さえる。
 怪人の動きが止まった瞬間。
 それを逃さず、一人の少女が女性へと走り寄った。
 
 少女は彼女を立たせると、肩を貸しながら走る。
「っと! なんとか間に合ったみたい!」
 じょじょに視力が戻り始めたのか、件の女性は自分を助けてくれたのが誰か気付いたようだ。
「あなたは……確か、昼間の……」
「はい。悪いとは思いましたけど、心配だったので発信機を着けさせてもらいました」
 答えながら少女は制服のポケットからスマートフォンを取り出す。
 その画面には地図、そして赤い光点が表示されている。
 
「もう少しで駅近くに出ます。駅前ならまだ人気があるから、そこまでは追ってこないはず――」
 女性を勇気づけるように言うと、少女は肩を貸したまま更に一歩を踏み出した。
 
 
 
「カットォッ!」
 辺りを震わせる小気味の良い声が響き渡った。
 それと同時に少女、そして肩を借りていた女性も足を止める。
「お、お疲れさまでしたっ」
 恐縮したように少女は低頭する。
「こちらこそ。ハルカちゃんも待ちがあるんでしょ? それまで飲み物もらったら? この時期の屋外ロケは寒いしね」
 穏やかな顔で答礼すると、若い女性はすぐ近くへと歩き出す。
 行先は、ライトに照らされた機材の合間。
 そこに置かれた休憩用の椅子だ。
 彼女が行くのを待ち、少女も椅子へと向かったのだった。
 

 ――『スマホ警部』。
 
 そう題されたドラマがある。
 放送時間は深夜帯。
 ドラマであるが枠は30分。
 前番組の延長などがあればその影響をもろに受け、正規の時間帯に放送されないことも珍しくない。
 ゴールデンタイムのドラマほど番宣もされない。
 そんな扱いながら、これは隠れた人気シリーズであった。
 
 スタッフもキャストも若手中心。
 そのおかげか、有名になる前の『原石』が参加していることが多い。
 特に主演を務める女性タレントはこれをきっかけに有名になった例が数多くある。
 ゆえに、若手の登竜門的なコンテンツとなっているのであった。
 

 ――2014年 1月 某日 久遠ヶ原学園――

「と、いうわけなの〜。見学に行きたい人、いる〜?」
 速水風子(jz0143)は教室に集まった学園生たちに問いかけた。
 
 風子の友人であり、CM製作会社に勤める女性――佳乃。
 かつて、彼女の依頼で幾つかCM撮影に協力した学園生たち。
 
 いつかそのお礼を。
 そう思っていた佳乃は、得難い機会に学園生たちを招待することにしたのだ。
 
 最近、じょじょに名前の知られてきた女性タレント――佐藤ハルカ。
 仕事の関係で、彼女が現在出演中のドラマの撮影現場に行くことになった佳乃。
 以前、ハルカと一緒に仕事をしたこともある彼女は、駄目もとで撮影見学を頼んでみたところ、OKが出たのだ。
 久遠ヶ原の学園生たちも数名までならOKとのことで、佳乃は話を持ってきたのだった。

「みんなには佳乃のアシスタントっていう名目で行ってもらうことになるけど、別に何か重大な仕事をするわけじゃないから大丈夫〜。お姉さんはその日、仕事で行けないからその分も楽しんできてね〜」


 ――数日後 都内某所――
 
 埠頭のコンテナ迷路を借りて撮影は行われていた。
 その一角に置かれた折りたたみ椅子に腰かけ、ハルカは深く考え込んでいた。
 
 昨年四月から1クール分放送した第一期。
 それに引き続き、自分が主演する第二期が四月からの放送決定したのは素直に嬉しいし、名誉なことだ。
 
 だが、自分はそれに見合うだけのことができているのだろうか。
 自分としては頑張った。
 最後までやり遂げることができた。
 
 しかしその一方。
 
 演技がひどい。
 台詞は棒読み。
 
 そうした叩きがネットで流された為。
 マイナスイメージも付けられてしまったのだ。
 
 それに。
 ギャグが主体だった第一期のマンネリ解消を図るというコンセプトのもと、第二期はシリアス路線への大胆な転換が行われたのだ。
 人死には殆ど出ず、窃盗などが題材のメインだった第一期。
 だが、第二期は凄惨な殺人事件や快楽殺人者など、危険な事件が多くなった。
 
 しかも。
 今、撮影しているのは『科学薬品を悪用するサイコキラー』という敵キャラが登場する回。
 シリアス路線への転換と、理屈の通じない悪意と対峙した主人公の成長を視聴者に印象付ける重要な回だ。
 
 そんな時。
 考え込んでいたハルカに、唐突に声がかけられた。

「失礼、大丈夫でしょうか?」
 はっとなって顔を上げるハルカ。
 近くで声をかけてきたのは、ダークスーツに眼鏡という格好の上品そうな男だ。
 見ない顔だが、ハルカはさして気にしなかった。
「ちょっと……考え事してて」
 すると男は事情を察したのか、穏やかな声で言う。
「私は聞くだけですが……もしそれでよければ、お付き合いしますよ」
 
 会ったこともない相手。
 だが、まるで不思議な力が働いたかのように、ハルカは悩みを話し始めていた。
 
 自分がちゃんと演技できているのか。
 そんなことをスタッフに相談すれば、『できない奴』だと思われてしまうのではないか。
 だから相談を躊躇ってしまう。
 
 悩みを話し終えたハルカに、男は黒い試験管のようなものを差し出す。
「頼みごとを言いながら蓋のリングを引っ張ると――内容によってですが、叶えてくれるんですよ。ただし、一度した頼みごとは取り消せませんが」
 ラッキーアイテムのようなものだろうか。
 ハルカがそう考えていると、男は立ちあがって挨拶し、そのままどこかへと去っていく。
 
「あの犯人と対決する時のリアルな気持ちって言われても……実際にあんな犯人なんていないし。せめて少しでも気持ちがわかればなぁ……」
 ハルカがふと呟いた瞬間。
 無意識に弄んでいた試験管の蓋が外れる。
 
「ソノ頼ミ、聞キ届ケタ」
 突如背後でした声に振り返るハルカ。
 するとそこには鉄塊を人型にしたような怪物が立っていた。
「え……?」
 驚くハルカに向け、怪物は手に取り付けられたパーツ――銃器のような何かを向けた。
 

 ――同時刻――
 
 突如聞こえてきた爆発音に撮影現場は騒然となった。
 見学に来ていた佳乃と学園生たちが驚いた直後、一人の少女が走り込んでくる。
 それがハルカだとわかった直後、学園生たちはもう二つの事実に気付く。
 一つはハルカを何者かが追ってきたこと。
 もう一つは、その何者かは天魔だということだった。
 
 どうやら、黙って見ているわけにはいかないようだ。
 君たちは臨戦態勢に入った――。


リプレイ本文


 ハルカに向いた二つの銃口から、魔力によって構成された榴弾が放たれた――。
 凄まじい爆風と爆煙の中で、ハルカはぎゅっと目をつむる。
 だが、いつまでたっても痛みはない。

 ハルカはおそるおそる目を開けた。
 ちょうど良く爆煙が晴れると、その先にはミハイル・エッカート(jb0544)と天月 楪(ja4449)が銃を構えて立っている。
「ずいぶんとリアルなきぐるみ……って、またディアボロかよ!」
「おねぇさんはやらせないよー」
 どうやら、ハルカに着弾する寸前で二人が魔力榴弾を撃墜したようだ。
 高速で飛ぶ魔力榴弾を空中で撃ち落とすなど、並大抵の技量ではない。

 無事迎撃を終えたミハイルは、次いでハルカに向き直る。
「ハルカ。理由は後で話す。『私の顔した奴を狙え』ってそいつに命令するんだ」
 反射的にハルカは小刻みに二度頷く。
「えっと……私の顔をした奴を狙え」
 今ひとつ要領を得ないのが否めない口調だったが、PD-04はきちんと命令を認識したようだ。
「頼ミゴト、聞キ届ケタ」
 片言で返事をすると、PD-04は再び銃口を向ける。

 射線を遮るように銃口の前に鎖弦(ja3426)が立つ。
「敵は俺が惹き付ける……俺以外の如何なるものにも傷はつけさせない」
 そんな彼に向け、藤井 雪彦(jb4731)が言う。
「頼んだよ。っても、鎖弦さんの出番まで、ボクも頑張らせてもらうね」
 ハルカを庇うように立つ雪彦。
 直後、雪彦を直撃した魔力榴弾は爆発とともに強酸性の液体を撒き散らす。
 散布された大量の強酸がアスファルトを一斉に溶かし、白煙が立ち込める。
 
「女の子に怪我させちゃったらボクが此処にいる意味ないねっ☆」

 晴れた爆煙の中から現れたのは思いのほか軽傷の雪彦。
 八卦水鏡を用い、彼は小さな透明の盾を周囲に展開したのだ。

 とはいえ、流石に直撃ともなれば完全に相殺しきれなかったらしい。
 見れば、服どころかその下にある皮膚も溶けている。
 脇腹を押さえて僅かにふらつく雪彦。
 咄嗟に立ち上がったハルカに支えられ、雪彦は自力で立ち直す。
 
「ひどい怪我……! 大丈夫ですか……! わ、私のせいで……」
「平気平気。こんなの痛いうちに入らないから。むしろ、ハルカちゃんがそんな顔する方がボクにとっては痛い」
 雪彦は伸ばした人差し指と中指を額へと添え、敬礼のようなポーズを取ってみせる。
「うん、やっぱり君を見てると元気と勇気が湧いてくるな〜☆ ……絶対に守るから安心してね♪」

 更にハルカを勇気づけるべく、白野 小梅(jb4012)もハルカの近くへと飛び込んだ。
「みんなの守護天使! 小梅参上ぉ! ってぇ、武器間違えたぁ!」
 ハルカとディアボロとの間に割り込みつつ、間違ってスナイパーライフルを出してしまったことに気付く小梅。
「ふぇぇ!?」
 そんな小梅にも容赦せずPD-04は銃口を向ける。

 そんな小梅たちを守るべく、嶺 光太郎(jb8405)がPD-04へと蹴りかかった。
 光太郎は敵正面へダッシュし、ノーモーションからの前蹴りを放つ。
「硬ってぇな……」
 ネフィリム鉱製の脚甲に越しに伝わる重い衝撃を感じながら、光太郎はぼやいた。
 決して加減などした覚えなどないが、PD-04は蹴られても平然としている。
「……こんのデカブツ、まさかドラマの犯人を真似たとかじゃねえよなぁ? 放送されてないキャラを真似るとは随分器用なことをしやがる……」
 無気力そうな口調とは裏腹に、光太郎の攻めは苛烈だ。
 素早くPD-04の両肩を掴むと、そのまま敵の両膝へと飛び乗る光太郎。
 それをとっかかりにして彼はPD-04の身体を素早く駆け上げると、アウルを込めた痛烈な膝蹴りを敵の顎に見舞う。

「手前の相手は暫く俺だよ、この野郎」
 言いつつ光太郎は背後を一瞥する。
 ちょうど、光太郎がPD-04を喰いとめている間に小梅がハルカの背中に抱き付いた所だ。
「ハルカお姉ちゃん、すぐ安全なとこに連れてくからねぇ。背中に抱きつくよぉ♪」

 ハルカを逃がす作戦が首尾よく進んでいることに光太郎が確認したのも束の間、PD-04が反撃に転じた。
「……!」
 蹴られながらも放った榴弾の狙いはお粗末だ。
 だが偶然にも榴弾は、ハルカと小梅の方向へと飛んでいく。
「させるか――!」
 間一髪、ミハイルが榴弾の撃墜に成功する。
 
 だが、その直後。
 榴弾への射撃に集中するあまり、僅かな間の無防備を晒したミハイルの腹部へと第二射が炸裂する。
 
「ミハイルおにぃさん!」
 近くで一緒に戦っていた楪が一目散にミハイルへと駆け寄る。
「うぅ……死ぬかと思ったぜ」
 だが、楪の心配とは裏腹にミハイルは自力で起き上がったばかりか、立ち上がる。
 被弾個所のスーツとワイシャツは派手に吹き飛んでいるが、ミハイルの肉体自体はさほど重傷ではない。
 
 しばしミハイルの怪我を見つめていた楪は、ふとある事に気付いた。
「針……?」
 ミハイルの脇腹には長く細い針が刺さっていた。
 かくんと首を傾げつつ楪が呟くと、それに答える声がする。

「秘技・風鱗。その針でアウルの流れを操作して弾が当たる部分に集中。それによって肉体を硬化させたんだ。内気功の応用だよ」
 答える声は文 銀海(jb0005)のものだ。
「すごい! 文おにぃさんすごい!」
 
 楪が言うと、ミハイルが親指を立てる。
「なるほどな。俺の腹にあのグレネードが当たる寸前に、アウルで作り出した針を投げてくれたってわけか。おかげで助かったぜ」
 
 PD-04も流石にこれには驚いたようだ。
 だが、程なくして我に返ったPD-04は再び発砲態勢に入る――。
 
 発射される魔力榴弾。
 それと同時にどこからともなく飛来した矢が当たり、PD-04の手元が狂う。
 可燃性の液体を内包した榴弾だったようで、近くにあったコンテナの壁が燃え始める。
 だが、逆に言えばそれ以外の被害はなく、射線上にいたミハイルも無事だ。
 
 再び驚いた素振りを見せ、動きを止めるPD-04。
 その暇も与えまいとするかのように、次の矢、その更にまた次の矢が敵へと襲いかかる。
 PD-04は驚きは怒りに変わったのか、唐突に動きだしたPD-04は両手を振り回して榴弾を乱射する。
 爆破や溶解によって周囲のコンテナ壁に次々と穴が開いていく。

 乱射が続いている間も、見えざる射手の攻撃は止まない。
 それがより一層、PD-04の怒りと焦りをひどくしているのだろう。
 撃った榴弾の数こそ増えているものの、狙いに関しては目も当てられなくなっている。
 今や、見えざる射手は火力で勝る相手を作戦で圧倒していた。
 
 翻弄されているPD-04を見て、ミハイルは口笛を吹く。
「姿が見えないと思ったからな。配置についてるもんだとは思ってたが、やるじゃないか――」
 口笛に次いで呟く称賛の言葉。
 その言葉が向けられた人物――今本 頼博(jb8352)の姿は見られない。
 
 それもそのはず。
 今の頼博はスキルを駆使して姿を隠し、足音を消し、物陰に潜み、『どこからともなく的確に攻撃してくる射撃手』を演じることに徹しているのだから。
 
 不意に止む頼博の射撃。
 おかげで我に返ったPD-04。
 そして彼はあることに気付いた。
 
 ――いつの間にか、標的であるハルカがどこかへと避難してしまったことに。
 
 気付くが早いか、PD-04は撃退士たちには目もくれず、コンテナ迷路の奥へと走り出した。
 

 コンテナ迷路を走るPD-04。
 何の根拠もなくがむしゃらに探す彼だったが、偶然にも視界の隅を一人の少女がよぎる。
 
 少女に追い付くべく、コンテナ迷路の角を曲がるPD-04。
 船着き場へと出た彼は、その中心にハルカを見つけた。
 
 彼は冷静に榴弾を放つ。
 この距離で遮蔽物もなく、そしてただの人間に避けられるはずもない。
 
 目的を終えたのを確信し、PD-04が銃口を下ろした瞬間。
 突如としてハルカは『数メートルの高さを垂直に跳躍し、榴弾を避けた』。
 
「近辺への被害を最小限に抑えつつ、他の撃退師が自由に戦える場所……そこを目指すしかないと思っていたが」
 突然、ハルカはハルカらしからぬ声で呟く。
  
「まさか、これほど見事に引っかかるとは」
 またもPD-04が榴弾を放つが、今度は宙返りでそれを避けるハルカ。
 
「お前の行動パターンは見切った……もはや塵一つ当てることは出来ないと知れ」
 その一言とともにハルカの姿が変わり始める。
 変化を終え、現れた姿は鎖弦(ja3426)のものだ。
 
 騙された怒りに任せ、PD-04は銃口を鎖弦へと向けた。
 だが、榴弾を発射するより先、頭上からの銃撃を受ける。
 彼の斜め上にいたのは、本物を避難させ終えて戻ってきた小梅だ。
「んふふぅ、ボクが戻って来てるってぇ思わないよねぇ♪ 悪い子にはぁメッ!」
 新たな敵の出現にすかさず応射するPD-04。

「白野さんはやらせないよー」
 しかし応射も楪によって妨害される。
 
 楪はワイヤーを放ってPD-04の腕に巻き付けると、全力で引っ張ったのだ。
 そのおかげか、斜め上から僅かに狙いが逸れ、榴弾は真上に発射される。
 
 雪彦はその機を見逃さなかった。
「さって……ストーカー退治といきましょうっか? 切り刻めっシルフィ☆」
 アウルの力で風を操り、風を緑色の半月状の刃のように見せ、掌より無数に放射する雪彦。
 ――風妖精の嫉妬と名付けた彼独自の技だ。
 
 風の刃はPD-04へと迫り、その身体を切り裂く。
 それだけではない。
 偶発的か意図的かはわからないが、風の刃は敵が頭上に放った榴弾も切り裂いた。
 切り裂かれた榴弾は内部に充填された魔力――超低温の液体をぶちまける。
 超低温の液体を頭からかぶったPD-04は、そのまま硬直して微動だにしない。
 
「いくぞ、小梅!」
「うんっ!」
 この隙を逃さずミハイルと小梅は射撃に入った。
 地対地、空対地同時射撃による十字砲火。
 更には隠れ潜んだ頼博からの援護射撃も加わり、攻撃は一層苛烈なものとなる。
 銃弾と矢の雨を受け、所々が削られていくPD-04。
 だが、PD-04本体はまだしぶとく原形を留めていた。
 
「色々な意味でハードな相手だぜ!」
 軽口を叩いて自分を叱咤しながら撃ち続けるミハイル。
 そんな彼に銀海が声をかける。
 
「一撃を叩き込むチャンス、僕に作ってくれないか?」
「あるんだな? 勝算が」
 ただそれだけ問い返すミハイル。
「ああ。風鱗を応用した攻撃技がある。それを使えば――」
 そう答える銀海。
 それにミハイルは一度頷くのみだ。
 銀海もただ頷き返すのみ。
 
 直後、銀海は一直線に駆け出した。
 しかし、ここで硬直状態からようやく脱したPD-04が両の銃口からありったけの榴弾を放つ。
 それでも銀海は止まらない。
 ミハイルたちがチャンスを作ってくれるのを信じ、走り続ける。
 
「行けぇっ! 銀海!」
「やっちゃえー!」
 ミハイル、それに楪の援護射撃により次々と撃墜される榴弾。
 だが、銀海が近距離まで迫ると同時、PD-04はカウンターとばかりに近距離射撃を放った。
 
 後もう少しという所での迎撃。
 銀海が腹をくくった瞬間、ネフィリム鉱の輝きが彼の視界をよぎる。
 そして、鈍い音とともに逸らされる敵の銃撃。
 
 敵が銀海に集中している隙に横合いから接近した光太郎。
 彼の放った回し蹴りは敵の腕を見事に払ったのだ。
「ここまで密着されたら自慢の武器も使えねぇよなあ!」
 光太郎は一方的に膝蹴りを叩き込み、更にその反動を利用して飛び退いた。
 
 入れ替わりに敵の零距離へと飛びこむ銀海。
 彼は深く大きく、そして静かに一度呼吸する。
 風鱗を応用し、腕へとアウルを一極集中する銀海。
 アウルの集中を終え、銀色は息を吐いた。
「秘技・天翔波、これで終わらせる……!」
 PD-04の胸板へと渾身の掌底打ちを叩き込む銀海。
 そして、敵の身体は木端微塵に砕け散った。
 

 戦いの後。
 雪彦はハルカの頭を撫で、励ましていた。
「大丈夫?怖かったね? 良く頑張ったね☆」
 小梅もハルカにサインをねだる。
「お姉ーちゃーん、終わったよぉ♪ 偉いでしょぉ、サインちょーだい♪」
 ハルカは何とか笑顔を浮かべ、サインに応じている。
 
 その横ではミハイルが、戦いを終えて合流した頼博と言葉を交わしていた。
「お疲れさん。見事なスニーキングだったぜ」
「それはどうも。演技にプロとして携わっている人たちの現場に興味があって来てみたら、まさかこんなところで戦闘とは思いませんでしたよ」
「まあ、戦闘には巻き込まれちまったが、スタジオ見学の方は収穫あったか?」
「ええ。おかげでいろいろと参考になりました」
「それは良かったじゃないか」
 
 一方、サインを終えたハルカに光太郎が言葉をかける。
「あー、凄くリアルな体験ができて良かったな。今回の今までで一番迫真の演技になるんじゃねえの? ……テレビねえから見たことないけどよ」
 後半は明後日の方向きボソッと言ったおかげか、ハルカには聞こえなかったようだ。
 彼に続き、銀海もハルカに話しかけた。
「あの、実は私、スマホ警部は二期から見始めたんですけれど、どの役者さんも凄く良い演技してると思うんです。だから、演技の事とかでそんなに思いつめなくても大丈夫だと思いますよ?」
 そして、頼博との会話を終えたミハイルも話に加わる。
「役者ってのは頭の中に引き出しがたくさんある。本を読んだり映画を見たり、引き出しの中身を増やすんだ。ま、今回はそうそう無い経験だったな。何でも糧にする貪欲さがあればいい役者になれるさ」
 彼等の温かい言葉にハルカは涙ぐむ。
「みなさん……」
 そんな彼女に、雪彦が再び声をかけた。
「僕にもサインと〜写真もよろしく〜ダメ? お願い☆」
 涙を吹き、ハルカは笑顔でそれに応じる。
「あっ……あとこの花束受け取って♪」
 花束を渡しつつ、雪彦は彼女に耳打ちする。
「中にメッセージカード入ってるから☆ 連絡してね〜♪」


 数時間後。
 ハルカは花束からメッセージカードを取り出したが、どこにも連絡先は見られない。

『応援してるっ! (´pゝω・`)qガンバッ♪ ボクらの心の支えハルカちゃんへ』
 
 記されていたのは、そのメッセージただ一つだった。


 どことも知れぬ部屋に置かれたテレビ。
 映っているのは、インタヴュー番組にゲストとして出演しているハルカだ。
 
 事件の後。
 演技派女優としての新境地を開拓したハルカ。
 
 MCにこれからが楽しみだと言われてはにかみながら、彼女はパスケースに入れたメッセージカードを見せる。
 何かと問われ、彼女は照れたように言った。

「あの時、私に勇気をくれた人――私にとってのヒーローからもらったものなんです」
 
 ハルカが答えた瞬間。
 部屋の住人――ハルカに試験管を与えた男はテレビを消した。
 
「人間万事塞翁が馬――というわけですか。やはり人間は面白い」
 
 含んだようにそれだけ言うと、彼は愉快そうに笑うのであった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 音羽の忍・鎖弦(ja3426)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 君との消えない思い出を・藤井 雪彦(jb4731)
重体: −
面白かった!:11人

音羽の忍・
鎖弦(ja3426)

大学部7年65組 男 鬼道忍軍
うさ耳はんたー・
天月 楪(ja4449)

中等部1年7組 男 インフィルトレイター
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
ふたつのこころ・
今本 頼博(jb8352)

大学部7年259組 男 ナイトウォーカー
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍