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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/04


みんなの思い出



オープニング

 ――2013年 11月 某日 某時刻 旧支配エリア――
 
 かつては住宅街だった一角。
 とある個人商店の敷地内に向けて、大量のサーバントがどこからともなく集結し始めていた。
 集結してくるのは、大型犬ほどのサイズもある巨大な蜘蛛。
 彼等は何かに引き寄せられるように、目的地へと移動を続ける。
 
 
 
 ――2013年 11月 某日 AM10:03 久遠ヶ原学園 応接室――
 
「失礼しますっス! 如月佳耶、入りますっス!」
 如月佳耶(jz0057)は応接室のドアの前にいた。
 どうやら、今回の来客は彼女に用があるらしいが。 
 
 ドアを開け、室内を目の当たりにした佳耶。
 そこにいるのは三人。
 一人は教員であり、もう二人が来客だ。

 来客の一人に見知った顔を見つけ、佳耶は笑みを浮かべた。
「三輪さんっ! お久しぶりっス!」
 
 弾かれたように、そして凄い勢いで一礼する佳耶。
 それに対し、応接室のソファから立ち上がった男性。
 ――三輪さんは品の良い一礼で答える。
 
「お久しぶりです。如月さん。昨年はどうも。またお会いできて嬉しいですよ」
 三輪さんといえば有名な料理研究家だ。
 料理人としての活動はもちろん。
 料理本の執筆から料理をテーマとしたテレビドラマの監修まで、幅広くこなす有名人。
 そして、かつて撃退士に希少食材――『アンバーハニー』の調達を依頼した人物でもある。
 
「如月とは既に面識がおありのようですが」
 三輪さんの対面に座る教員が問いかける。
「ええ。去年の丁度今頃、『アンバーハニー』の入手を依頼した時からの縁でして。その後も、私の友人であるパティシエールの依頼も手伝ってくれた恩人ですよ」
 
 ことさら『恩人』という部分を強調する三輪さん。
 佳耶はというと、その言い方にすっかり照れて恐縮している。
 
「そんな……もったいないお言葉でございますっスよ」
 緊張と恐縮のあまり、変な言葉遣いになる佳耶。
 それを微笑ましげに見つつ頷くと、三輪さんは隣のソファに座るもう一人の来客――落ち着いた雰囲気の大人の女性を手で示した。
 三輪さんも品の良さそうな大人だが、その女性はそれ以上だ。
 大人の、それも円熟した大人特有の品格があった。
 その一方で、ふとした瞬間に三十代にすら見える時もあるように、若々しさも失ってはいないようだ。
 
「え? ええっ!?」
 腰を抜かしそうになる佳耶。
 だが、それも無理はない。
 なにせ、そこにいた女性は、ある意味では三輪さん以上の有名人。
 
「やはりご存じのようですね。まあ、彼女の知名度を考えれば当たり前でしょうか」
 本当に腰を抜かしかねないほど驚いている佳耶を見て、三輪さんは再び微笑む。
 
 件の女性はゆっくりと立ち上がると、優雅に一礼した。
「木村と申します」
「き、き……如月佳耶っス!」
 
 ややあって佳耶が頭を上げると、今度は三輪さんが口を開く。
「彼女は木村さん。今期のドラマの一つに私が監修しているのがあって、それに出演してくださっているんです」
「も、もちろん見てますっス! 料理人の主人公を目にかけてくれて、スポンサーになってくれる実業家の役っスよね!」
 
 佳耶が即答すると、木村さんは優しげに微笑んだ。
「あら、ありがとう」
「そ、そんな。こちらこそ。あ、あの、あくしゅしてもらってもいいですか」
「ええ。もちろん」
 
 有名女優の木村さんといえば、普段テレビや映画を見ない層にも広く知られているまさに正真正銘の有名人だ。
 
「では、そろそろ本題に――」
 木村さんがそう切り出すと、佳耶も真面目な顔になる。
「今回の依頼は、以前、三輪さんやそのご友人がされたのと同じように『あるもの』を取ってきて頂くというもの……いえ、正確には『あるもの』を取り戻してきて頂きたいのです」
 
 そう説明すると、木村さんは傍らに置いてあったジュラルミンケースを取る。
 A4サイズのケースを膝上に乗せ、彼女は蓋を開ける。
 中から現れたのは、プラスティック製と思しき長方形の箱だった。
 
 大きさは20cm近くはあるだろうか。
 黒を基調としたデザインの中、目を引いたのは右側だけに見られる『窓』のような部位だ。
 クリアパーツが嵌められた『窓』からは光沢のある黒色をした円筒形のパーツが見える。
 円筒形といっても、その薄さから筒というよりは車輪のようなものの方が近い。
 
 それを見た教員が懐かしそうに言った。
 
「ドカ弁カセットですか。懐かしいですね。これはまた随分と貴重な品を」
「ドカ弁……? カセット……?」
 
 困惑顔で聞き返す佳耶に教員はすかさず答える。
「世界初の家庭用VTR……つまりはビデオの規格だよ。大きくて形が似てるからドカ弁カセットとも呼ばれてるけど、本来はU規格というんだ」
「えっと……あたしが昔録画したことのあるVHSとか、美里ちゃんがカセットだけ持ってるベータとかいうのとは、違うっスか?」
「ああ。U規格っていうのはそれよりも前の規格なんだ。当時としては高価だったU規格はなかなか普及しなくてな。家庭用VTRの本格的な普及は、今、如月が言ったVHSやベータの登場を待つことになるんだけど、U規格は画質の面でその後発二つに勝ってたから、画質重視のユーザーには支持され続けて――」
 
 ついつい熱っぽく語ってしまったことに気付き、教員はわざとらしく咳払いする。
「失礼。それでご依頼というのは?」
 教員に向き直りながら、木村さんはU規格のカセットを大事そうにしまい込む。

「先日、私の旧友が亡くなりました。中学時代に出会って親友となって以来、いろいろなことを一緒にやりました。友人は実家がカメラやビデオの店だったこともあって、男子よりも機械に詳しい女の子で。特に映像機器にとても詳しかったんです。私は女優を目指し、彼女は映像作家を目指した。そして、ともに夢を叶えた――」
 
 在りし日の思い出を語りながら、木村さんは涙ぐむ。
 
「当時から女優を夢見ていた私は、彼女と二人で映画のようなものを自作して。それを彼女の家にあった8mmフィルムで撮影していたんです。それが楽しくて楽しくて、夢中でやっていました」
 
 その話にいつしか場の全員が聞き入っていた。
 
「てっきり当時の映像は残っていないと思っていたのですが、当時彼女がこのカセットにダビングしていたものが一本だけ残っていたようで。訃報を聞いて訪ねた私に、彼女のお嬢さんが『あなたが持っていてくれるのが一番いいから』と託してくれて」
 
 語りながら、木村さんはジュラルミンケースを大事そうに抱える。
 
「その後、デッキを探したのですけれども。とっくに生産終了していう上に、世界のどこかに残ってはいても無事動作するものは数少ないそうで。その数少ない一つが彼女の実家の物置にあるそうなんです。でも――」
「でも……?」
 佳耶が聞き返すと、木村さんは目を伏せた。
「彼女の実家があった場所は天魔の進攻によって人々が避難し、今は天魔が棲息している地域なのです」
「なるほど。旧支配エリアというわけですか」
 教員の言葉に、頷く木村さん。
 
「勿論、安全な方法で他のデッキを探すのもありだということはわかっています。けれど、できることなら親友が遺したデッキを無事救い出してあげたい。そしてあわよくば、彼女が遺した他のカセットも可能な限り無事に回収してほしい――それらも理由なのです」
 そう言うと、木村さんは立ち上がって深々と頭を下げた。


リプレイ本文

●アイ・ワント・“ユー”

「あの倉庫に近付けないようにしないと――えっと、この場合は『けんせいしゃげき』っていうのをやればいいんだよね?」
 天月 楪(ja4449)は傍らの仲間に問いかけた。
「ええ! 敵にプレッシャーを与えて迂闊に近付けないようにするのよ!」
 楪の質問にいち早く答えたのは、紅刃 鋸(jb2647)だ。
 迫り来る電磁蜘蛛にアサルトライフルの銃口を向ける楪と鋸。
 フルオートで射撃しつつ、楪と鋸は互いに目配せする。
 
 電磁蜘蛛はそれぞれ自分の眼前に広げるように網を張る。
 磁力を纏う網はアサルトライフルの銃弾を僅かな間、空中で受け止めて威力を削いだ。
 正面から何発もの銃弾をくらっているにも関わらず、電磁蜘蛛たちは平然と突き進んでくる。
 
「正面から突っ込んでくるとは……無茶苦茶ね……!」
 遂には楪と鋸のすぐ前に数匹の電磁蜘蛛が迫る。
「ていっ!」
 楪は電磁蜘蛛の一匹の額に阻霊符を乗せた。
 裏に肩コリ治療用の磁気シールをびっしりと貼った阻霊符だ。
 触れたのは一瞬。
 だが、僅かに相手を怯ませるだけの効果はあったようだ。
 磁気シールが触れた途端、火花が散る。
 そこを目がけて銃撃する楪。
 怯んだ電磁蜘蛛は立て続けに二発の銃撃を受け、額にX字の傷を刻まれる。
 更には火花で焦げつき、模様がついたようだ。
 
「それは?」
「肩コリ治療用のシールだよー。磁石のちからでほかのクモさんが集中しないかなーって」
 しかし、周囲の電磁蜘蛛たちは何事もなかったかのように、一斉に糸の噴射口を開く。

 だが、今まさに発射態勢に入っていた電磁蜘蛛の一体が両断される。
「っと」
 少し離れた場所で御門 彰(jb7305)が白色の大鎌を担ぎ直す。
「これだけ数が多いと一匹、二匹片付けた所で焼け石に水だね。回避に集中した方が建設的かな?」
 そう言いつつも、彰は再び大鎌を振るってもう一匹の電磁蜘蛛を両断する。
 
「そうも言ってられないよ。一匹でも倉庫に入られたらほぼ負けみたいなものだし、あの網が当たってもマズイ以上、迂闊に避けるわけにもいかない」
「確かにそうだね」
 金色の刃を飛ばし、声の主を振り返る彰。
 声の主――永連 璃遠(ja2142)も愛刀である抜刀・閃破を振るってアウルの刃を飛ばし、更にもう一匹も電磁蜘蛛を叩き斬っているところだ。
 
「それにここはみんながまた帰ってくる場所だからな。一層、被害には気を付けないといけない」
 チャンコマン、もとい阿岳 恭司(ja6451)は璃遠たちの会話に入りつつ、電磁蜘蛛と相対する。
 磁気の影響を受けるものは持ち込んだら危ないので、頭の鍋はステンレス製にしてあるという念の入れようだった。
 恭司は自慢の剛力を活かして電磁蜘蛛の一体を押さえつける。
 
「誓くん!」
「おうよ! きょ――チャンコマンさん!」
 恭司が呼びかけると同時に閃く空色をした刃。
 空色の閃きは、恭司が押さえつけている電磁蜘蛛の身体が断ち斬る。
 御空 誓(jb6197)の愛刀――碧空による一閃だ。 
「帰ってくる場所――か。ここは多くの人達にとって『日常』だった場所なんだ。だったら俺達が壊しちまうわけにもいかないもんな」
 碧空を構え、新たな標的に相対する誓。
 油断なく電磁蜘蛛を見つめながら、誓はふと思い出したように呟いた。
「そういえば今回の依頼人なんだけど、さ。あー。え、えーっと見たことあるような、無いような? ……いや、うん。依頼人が誰であろうと、成功させないとな。大切な思い出の品だもんな、取り返してみせようぜ」

 すると璃遠が真っ先に同意する。
「……デッキもカセットも無事に回収してあげたい。依頼人にとって、それは御友人の歩んできた証だから……尚更だよね」
 先程と同様に、閃破を振るって電磁蜘蛛を迎撃し続ける璃遠。
 電磁蜘蛛がアウルの刃を受けて弱った所に、矢が突き刺さる。
 九十九(ja1149)の放った矢だ。
「ま、こういう依頼は嫌いじゃないさねぇ」
 
 次なる矢をつがえながら言う九十九。
 だが、矢をつがえ終える前に数匹の電磁蜘蛛が彼へと襲いかかる。
 
「ライチ!」
 少年の声が響くと同時に召喚獣――スレイプニルが飛び出した。
 九十九を襲おうとしていた一体を体当たりで攻撃するスレイプニル。
 その好機を逃さず、九十九は矢を射って電磁蜘蛛を倒す。
 
 飛び出したスレイプニル。
 それは、黒羽・ベルナール(jb1545)の召喚獣であるライチだ。
「命をかけて思い出の品を取りに行く……かぁ。こんな時代だからこそ思い出は大事にしたいよね。……おれはもう何ももってないからさ。何としても取ってきたい!」
 
「黒羽さん、ありがとなのさね。それと――」
 矢を放ちながら九十九は仲間達に向けて言う。
「このままじゃキリがないのさね。なんとかしてこの群れを突破して、倉庫に入り込みたいところさね」
 
「ああ。僕もまったくの同意見だ」
 アウルの刃を飛ばしながら、璃遠がそれに賛同する。
「けど、これだけ量が多くちゃ突破が難しい……! これに引っ張られてるのかもしれないから、やりようはありそうだけど」
 そう言って璃遠は、服のポケットに入れた携帯電話や無線機を手で示す。
 
「もうしそうなら、これで引き寄せられる。危ない仕事だけどよろしくねライチ!」
 ライチに合図を出すベルナール。
 彼の気持ちに応えるかのように、ライチは敵陣を横切るように駆け出した。
 その首には、磁気ネックレスや紐を付けた磁石などがいくつも掛けられている。
 
 横切っていくライチを間近で見ている最前列の電磁蜘蛛たち。
 だが、すべての個体が彼に引っ張られて動き出すわけではなく、そのまま見送る個体も多い。
 璃遠の携帯電話や無線にしてもそれは同じだった。
 
「これならどうだ?」
 今度は誓がポケットからゴム袋を取り出し、その中身を電磁蜘蛛たちに向けて投げつける。
 中身はゴム袋にいれた電磁石。小学校の頃に理科の授業で習った知識を元に自作した物だ。
 
 それにも何匹かの電磁蜘蛛が反応し群がる。
 しかし、程なくして彼等は電磁石から誓たちに向き直る。
「気に入んねえっての?」
 
 しかも、先程ライチが引っ張って行った電磁蜘蛛たちも途中で方向転換して戻ってくる。
「おいおい、マジかよ……」
 思わずぼやく誓。
 
 その光景を見て、鋸は呟いた。
「特定の波長を持つ磁気に惹かれる習性……ね」

「どしたの?」
 隣でアサルトライフルを撃つ楪が問いかける。
「ちょっと不思議に思ってたのよ。人間界は多くの道具に磁気が使われてるわよね?」
「うん。ビデオテープだけじゃなくて、銀行のカードとかポイントカードもそうだよー」
「しかも、この辺りは住んでいた人間の道具がそのまま沢山残っているのに、あの蜘蛛たちはすべてここの倉庫に集まってきてる。それはつまり?」
「えっとね。あのクモさんたちは、あの倉庫にあるビデオテープが好きなんだよ」
 楪が言うと、鋸は大きく頷いた。
「もちろん、他の磁気にまったく興味がないわけじゃないんでしょうけど。今はすぐ近くに自分の大好物があるから、そっちを優先したがっているのかも」
 
 二人の会話を近くで聞いていた彰も言う。
「しかし、磁気ねぇ……。こういうのは良く分からないんだけど周波数とか何とかあるんだって? だったらできるだけ似てるのが良いよね」
 彰に向き直る鋸。
「同意見よ。それと、さっきから私達に集中して群がってくる気がするんだけど、もしかすると――私達の中に彼等の好きなものを持ってる誰かがいるのかも」
 鋸がそう言うと、楪は肩から提げていたバッグを開け、二人に見せた。
「きっとこれかもー」
 バッグの中身は寮で集めてもらったいらないテープ――音楽カセットテープにVHSだ。
「……! やっぱり!」
 
 それを見た璃遠が手を差し出す。
「貸してくれるかい?」
 楪からVHSの一本を受け取ると、璃遠はベルナールに向き直った。
「これをライチに」
 ベルナールは頷くと、ライチを呼び戻す。
 そして彼は、VHSをライチに向けて放る。
「ライチ!」
 VHSを口でキャッチしたライチ。
 ライチはそのまま再び走り出す。
 すると、先程よりも多くの電磁蜘蛛がどんどん引き寄せられていくではないか。
 
「よし! 今のうちに!」
「ここは僕たちが引き受けるから!」
 彰と璃遠が各々の武器を構えて言う。
 それに続くようにして、誓と楪も頷く。
「だから頼んだぜ!」
「だいじな思い出はとりもどさなくっちゃねー」
 
「これを!」
 璃遠は予め用意しておいたアルミ製ケースを差し出す。
「任せろ!」
 それを受け取ったのは恭司だ。
 璃遠たちに頷きを返し、恭司、九十九、鋸、そしてベルナールの四人は倉庫へと駆けだした――。
 
●アイ・ゲット・“ユー”

「おぉ! これはすごい! 超昔のプロレス雑誌! しかもあのレスラーのサイン入り! こっちのオモチャもすごかね! 博物館にあってもおかしくな……違う違う今はドカ弁やドカ弁!」
 倉庫に入るなり、恭司は保管されていた逸品の数々に興奮を隠せない。
「確かに、こんな時でなければじっくり見たいものね」
 同意しつつ、鋸は入念に倉庫内を見渡す。

「間違えないように気を付けないといけないのさね。間違ってVHSとかベータっていうのを持って帰ってしまったら目も当てられないのさぁねぃ」
 同じく念入りに探しながら、九十九が言う。
「だよね。で、どれ持ってく?」
 九十九に同意するベルナールの眼前には大きな棚。
 そこには幾つかのビデオデッキが乗っている。
「――えっと、これで間違いない筈よ」
 一つ一つ確認し、鋸が言う。 
 そして遂に、鋸たちは目的のものを見つけたのだ。
 頷き、九十九はU規格のデッキを取った。
 早速、璃遠が用意してくれたケースにデッキを入れる鋸と九十九。
 
「さて、次は――あった!」
 すぐさまビデオテープも探す鋸。
 殆どのビデオテープは避難時に持ち出されていたおかげで、残っているのは限られている。
 自分でも用意してきたアルミ製ケースにUカセットを入れていく鋸。
 残りが限られていたこと、念の為に大きめものを用意してきたのが功を奏したようだ。
 無事、すべてのUカセットが入りきる。
「さあ、これで――」
 鋸たちが倉庫を出ようとした時だった。
「!」
 
 防衛線を突破した数匹の電磁蜘蛛が鋸たちの前に現れる。
 電磁蜘蛛たちは鋸たちを見るや否や、網を発射した。
「させるかぁっ!」
 なんと恭司は網を避けないばかりか、あたかも自ら当たりに行くかのように飛び出した。
 吹っ飛ばされ、網に絡め取られて転がる恭司。
 すぐさまベルナールが恭司を助け起こす。
「どうして……!?」
「あの倉庫には大切なものが沢山ある。持ち主の人が、いつかまた笑顔で、支配される前と変わらないような生活を送る為に必要なものが沢山――だが、私が避けたりなどすれば、それはどうなる?」
「チャンコマンさん……」
「誰かの大切なものを守るのが、撃退士だ」
 
 一方、九十九が弓で電磁蜘蛛たちを迎撃しているものの、そのすべてを抑えるというわけにもいかないようだ。
「紅刃さん、デッキとカセットは任せた。飛んで逃げるのさね」
「もちろん、そのつも――」
 鋸が羽ばたくまさにその瞬間。
「くっ!」
 九十九のおさえをかいくぐるようにして電磁蜘蛛の一匹が網を放とうとする。
 
 ――撃ち墜とされる。
 
 鋸が焦った瞬間。
 突如、別の電磁蜘蛛が横合いから突っ込んでくる。
 乱入してきた電磁蜘蛛が激突し、網の発射は見事に中断された。
 その後も突っ込んできた電磁蜘蛛は滅茶苦茶に動きまわり、壁や仲間に激突するのを繰り返している。
「助かった」
 その隙を逃さず無事離脱する鋸。
 ほぼ同時、網から助け出された恭司が電磁蜘蛛に肉迫する。
 いつもの様に派手に戦うと倉庫や家屋ごと壊しかねないので、普段のような派手な飛び技や立ち技は封印して戦う恭司。
「私が派手な飛び技や立ち技しか使わないと思ったら大間違いだ!」
 恭司は電磁蜘蛛の脚を掴み、関節を極める。
「九十九くん! 黒羽くん!」
 恭司の合図を受け、電磁蜘蛛にとどめを刺す九十九とベルナール。
 三人のコンビネーションは瞬く間に電磁蜘蛛たちを殲滅していった。
 
 戦闘後、九十九と恭司は乱入してきた電磁蜘蛛の額のX字の傷と焦げ跡に気付く。
「なるほど」
「――そういうことさね」
 呟く九十九と恭司。
「どういうこと?」
 ベルナールが聞き返すと、九十九はX字の傷と火花による焦げ跡を指さす。
「きっとこの蜘蛛たちには精密な磁気センサーのような器官があるのさね。そこに磁気シールが直に触れたから、感覚が狂ったのさぁねぃ。磁気でカードやテープがおかしくなったようなもんさね」
「うむ。しかも頭に乗せられたせいで見事に前後不覚になって暴走した挙句、偶然ここに突っ込んできたのだろうな」

 得心がいった様子でベルナールは頷いた。
「なるほど。なんにせよ、天月さんと、そしてこの蜘蛛のおかげで助かったね」

●アイ・テイク・“ユー”

 数日後。
 撃退士達は木村さんの自宅を訪ねていた。
 
 璃遠と鋸のたっての希望により、カセットに録画された映像を見せてもらえることになったのだ。
 保存状態は良好だった筈だが、実際に再生できるかはやってみないとわからない。
「再生できると良いですね……ううん、きっと応えてくれるはずです」
 璃遠の言葉に勇気づけられ、木村さんはデッキにカセットを挿入し、再生ボタンを押した。
 
 回収されたカセットに録画されていたのは昔のテレビ番組の数々。
 ソフト化されていない貴重なものも多い。
 撃退士たちも興味津津だ。
 そして、遂に木村さんが託されたカセットの番がやってきた。
 
 映し出されたのは現代のものに比べれば、画も音も粗い映像。
 そこに映るのは、一人の女子中学生だ。
 
 棒読みの台詞。
 不自然な身振り。
 起伏の無いストーリー。
 構図も単調で手ブレだらけの映像。
 
 まさか、この映画を作った二人が、後の大女優と大映像作家と、果たして何人が思うだろうか。
 人によっては恥ずかしく感じることもあるだろう。
 だが、この映画を木村さんはじっと見つめ続けていた。
 スケッチブックに書いたものを直撮りしたスタッフロールが終わり、テープが止まる。
 テープが止まって音を立てた瞬間、木村さんは涙を流した。
 
 彼女の様子をそっと見つめながら、誓は隣に座る恭司にふと言う。
「そういや昔、写真撮られるのが妙に嫌でさ。まぁ……単に、照れくさかっただけかも知れねぇんだけど。この前久しぶりに実家に帰った時昔のアルバム見てなんか複雑な気持ちになったっつーか……変わり続ける物だから変わらず残り続ける記録を愛しく思うのかも」
 
 撃退士の努力によって大切な思い出は無事取り戻された。
 その後。
 しばらくその喜びを噛みしめながら、ビデオデッキとカセットを見つめる撃退士たちであった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
うさ耳はんたー・
天月 楪(ja4449)

中等部1年7組 男 インフィルトレイター
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
召喚獣とは一心同体・
黒羽・ベルナール(jb1545)

大学部3年191組 男 バハムートテイマー
撃退士・
紅刃 鋸(jb2647)

大学部3年309組 女 インフィルトレイター
新世界への扉・
御空 誓(jb6197)

大学部4年294組 男 ルインズブレイド
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍