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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/06/01


みんなの思い出



オープニング


「やめてよ……今更、父親面なんてしないでっ!」
 娘――わかなは私の手を払うと、玄関のドアを開けて飛び出していく。
 
 私はその背中をただ見送るだけだ。
 開けっ放しのドアを背に、私はため息をついた。

 私……内田健太郎といえばそれなりに名の知れた存在だ。
 世間では『金の力で何でもできる男』などと私は言われているらしい。
 だが、実際はどうだ。
 子供一人に手を焼き、あまつさえどうしたらいいかもわからない。
 もう一度溜息を吐くと、私はふと昔を思い出していた。

 コンピュータが好きだった私は、それが高じて在学中からその方面で仕事をするようになった。
 卒業後はその道に進み、やがて小規模な企業を起こしたのだ。
 そして、上手い具合に時代の波に乗って会社は急成長。
 いわゆる、ベンチャービジネスで成り上がった者の典型例だ。
 
 私をもてはやす者がいる一方、『金の亡者』と蔑む者がいるのも事実だ。
 ――金の亡者。
 実際、言われてみればまさにその通りだろう。
 時代の寵児……そうもてはやされてはいるが、やってきたのは褒められたことばかりではない。
 使った汚い手だって一つや二つではなく、金の為なら何でもやった。
 
 その最たるものが妻……もとい、元・妻の選び方だった。
 当時、後ろ盾が欲しかった私はとある実業家の娘と結婚することを選んだ。
 我ながら最低な男だったと思う。
 これで『力』が手に入る。 
 結婚が決まった時、私はただそれにのみ歓喜していたのだから。

 そんな男が妻を持った所で末路など知れている。
 ビジネスという戦いを有利に進める為の武器。
 意識してはもちろん、心の底でも私は妻をそんな風に認識していたのかもしれない。

 やがて子供ができたというのにそれは変わらなかった。
 だからだろう。
 妻が他に男を作り、半ば蒸発同然で離婚を切り出してきたのは当然の流れだ。
 そして、後には私と一人娘――わかなだけが残った。

 娘のことを妻に投げっぱなしにしていた私が、娘とどうこうできるわけもない。

「はは……ははは……」
 思わず私の口から乾いた笑い声が漏れた。
 
 情けない。
 あまりにも情けなさすぎる。
 
 ビジネスの流れなら二手三手先まで読める男が、実の娘の気持ちは何一つ読めない。
 金の力で人の心すら操るとまで言われた私が、娘の心について皆目見当もつかず手も足も出ないのだ。

 そのまましばらく私は、乾いた笑い声を小さく漏らし続けていた。
 だが、不意に視界へと飛び込んできたものを見て絶句する。
 
 どこからともなく私の前に現れたのは怪物だった。
 身の丈も成人の男と同じくらいなら、形も人間と似通っている。
 しかし、まるで火炎が集まって人型になったかのようなその姿は人間とは似ても似つかない。

「て、天魔……!」
 驚きと焦りで動けずにいる私の前で、火男は手の平を突き出した。
「ッシャア!」
 奇妙な声を上げる火男。
 声とともに奴の手からはバスケットボール大の火が発射される。
 火炎弾は私の横を通り抜け、ガレージにあった高級車に命中した。
 
 燃えていく。
 灰になっていく。
 私の貴重な資産の一つである高級車が。
 
 燃え上がる高級車を前にして、その場に膝をつく私。
 それを見て取ると、火男は足早にどこかへと去って行った。 


 飛び出してきたはいいものの、特に予定があるわけでもない。
 とりあえず、あたしは近くの公園でベンチに座った。
 
 まだ午前中の空は明るく、青い。
 あたしの心とは裏腹に、空は随分と晴れやかだ。
 
 しばらく座っていると、あたしは唐突に声をかけられた。
「ねぇ、隣いいかしらぁ?」
 
 ぼうっと空を見上げていたあたしは、はっとなって横を振り向く。
 そこにいたのはヘアピンで前髪を留めた女の子だった。

 見た所、十五歳のあたしより年下だ。
 けど、その喋り方は妙に大人びているというか色っぽい。

 ませてるとか、大人ぶってるとかそういうのとも違う。
 なんというか……子供みたいな見た目だけど、精神年齢はやたらと高そうな気がする。

 ついじっと見つめていると、その女の子はぽってりとした唇を動かした。
「浮かない顔してるけど、どうかしたのぉ?」
「えっと、ね……いろいろあってさ。実は――」

 相手は見ず知らずの女の子。
 しかもいきなり聞かれた。
 だというのにあたしは、飛び出してきた理由を話し始めていた。
「結局、あたしの父親にとって一番大切なものはお金なんだよ……ってか、お金以外に大切なものなんてないんだから」
 気が付けば理由をすべて話し終えていたあたしは、そこではっとなって我に返る。
 随分といろいろなことまで喋ってしまった。
 ちょっと喋り過ぎたかもしれない。

「その……ごめん……まだ名前も聞いてないのに、愚痴りたいだけ愚痴っちゃってさ。あたしはわかな。内田わかな。キミは?」
 あたしが問いかけると、女の子は笑みを浮かべる。
「英理加。花房英理加よぉ」
 女の子――英理加は色っぽい喋り方でそう答えると、ベンチから立つ。
「それじゃあねぇ。もしかしたら、また会ったらよろしく。わかな」
 それだけ言うと、英理加はどこかへと歩いて行った。


 数分後。
 英理加は廃材置き場にいた。
 人目の全くないそこには、彼女以外の人影は見当たらない。

 スクラップとして放置された自動車のボディの向こう。
 誰もいないはずのそこに向けて、英理加は大きめの声を出した。
「パイロマン、出てきなさぁい!」
 
 英理加の呼びかけに応じて現れたのは、先程、健太郎を襲った火男だ。
「ッシャア!」
「なるほどぉ。早速、金目のものを燃やしてきたってわけねぇ」
「ッシャア!」
「でも、何故かあの男……恐怖を感じているにはいるけど、まだ何か足りないのよねぇ」
「ッシャア!」
「まだ他にも大切な何かが……もしかすると、一番大切なものは別にあるのかもしれないわねぇ」
「ッシャア!」

 火男は威勢の良い雄叫びを上げるのみ。
 だが、英理加は意志の疎通がはかれるようだ。
 普通に会話は成立していた。

「しょうがないわねぇ。アタシの方でも調べてあげるからぁ、アンタはひとまずあの男が持ってる金目のものを片っ端から灰にしてやりなさぁい」
「ッシャア!」
 英理加の指令を受けて火男は威勢良く廃材置き場を出ていく。
 その背を見つつ、英理加は一人ごちた。

「金より大切なものねぇ……もしかするとあの――」
 何か含みを持たせるように一人ごちる英理加。
 その独白を最後まで言い切ることなく彼女は口を閉じる。
 後はただ、ぽってりとした唇にぴんと立てた細い人差し指をあて、含み笑いを浮かべるだけであった。


リプレイ本文


 某日 パイロマン出現より一時間後 内田邸 応接室

 通報を受けて急行した撃退士達。
 彼等は応接室のソファに座り、健太郎から事情を聞いていた。

「なるほど。委細は承知しました」
 健太郎から話を聞き終えたリョウ(ja0563)。
 彼はゆっくりと頷いた。
「以前の依頼では奴は物から人へ狙いを変えた。それも大事な人を明らかに狙って。心当たりはありませんか?」

 リョウに問いかけられ、健太郎はすぐに答えた。
「大事な人……か。たとえば家族とかかな?」
 健太郎に向けて頷くリョウ。
「はい」
 すると、すかさず黒須 洸太(ja2475)が健太郎に問いかける。
「大切なもの……。であれば、親族の方で遠くで暮らしている方は居ますか?」
 
「ああ。いるとも。もっとも、もはや元・親族だけどもね」
 苦笑混じりに健太郎は話し始めた。
 自分がかつて結婚していたことを。

 健太郎の話がひと段落した後、淀川 恭彦(jb5207)が切り出した。
「なるほど。つかぬことをお伺いしますが――」
 少しためらったものの、恭彦は意を決して問いかける。
「別れてしまった奥さんとの間に子供さんはいらっしゃるのですか?」
 
「いるよ。一人娘が」
 ソファから立ち上がると、応接室を出ていく。
 しばらくして戻ってきた彼は写真立てを手にしていた。
 それを大事そうにテーブルへと置くと、家族三人の写真を指差す。

「この子がその娘だ。わかなと言ってね」
 写真を指で示す彼の表情は柔らかい。
 普通であれば心温まる光景だ。

 だが、撃退士達は一斉に危機感を募らせた。

 流石に健太郎も、撃退士たちのただならぬ緊張感を感じ取ったようだ。
「……どうしたのかな? 娘がいると困ることでも……?」

 リョウはソファから立ち上がった。
 いつも冷静な彼が、珍しく焦っている様子だ。
 健太郎に詰め寄らんばかりに、リョウは問いかけた。
「不味いな……わかな嬢が狙われるぞ。彼女の行先に心当たりは?」
 
 リョウの剣幕に一瞬たじろいだものの、すぐに健太郎は冷静さを取り戻す。
「先程、君が言っていた『大事な人を明らかに狙って』というやつかね?」
「その通りです。無礼を承知で言わせてもらいますが、貴方と奥方が既に切れている以上……消去法で貴方の大切な人はわかな嬢ということになる」
 いくらか落ち着きが戻ったものの、やや早口でまくし立てるリョウ。
 一方、健太郎はというと、更に冷静になっていた。
「それはないな」
「!? どういうことです……! 何故そうもあっさりと言い切――」
 
 つい声を荒げるリョウ。
 対する健太郎はやはり落ち着いていた。
「リョウ君。君が言うにあの天魔は標的の一番大切なものを狙うそうだが。しかし、私はただ金の為に結婚するような男だ。愛だとか情だとかを理由に妻となる人を選ぶ――そんな当たり前のことすらしなかった、いや……できなかったような人間だ。そんな人間が娘を大切なものと思える……そう思うかな?」
 
 二人のやり取りを横から見ていた恭彦。
 彼は健太郎が落ち着いていられる理由にふと気づいた。

 ――達観あるいは諦観だ。

 恭彦はじっと健太郎を観察する。
 そうしている間に、今度は洸太が健太郎へと声をかけた。

「子供が大事でない親は居ません。生物的には自身の子孫を大事にする本能があるもの。保険として行動する価値は大いにあるはずです。陳腐ですが、大事な物って無くしてからのほうがわかるんです」
 確信にも似たものを持って言い切る洸太。
 彼に続くようにして、山里赤薔薇(jb4090)も健太郎を説得しにかかる。
「家族がいるって当たり前のようでそうじゃない。失って初めてわかるかけがえのないものっていうのもあるんです」
 かつて家族を父以外の家族を失った赤薔薇。
 やがてその父親も行方知れずとなってしまったという過去を持つ彼女だからだろうか。
 彼女の言葉は切実さがこもっている。
 
 二人に言われ、改めて考え込む健太郎。
 そんな彼に黒夜(jb0668)はただ一言だけ、こう言葉をかけた。
「喪って、喪いかけて気づいたってパターン、よくあるお話ですよねぇ? おたくは、どうですかぁ?」
 それきり黙り込む黒夜。
 もともと、健太郎とは喋らないつもりでいた黒夜。
 理由は父という枠組みが嫌いで暴言を吐いてしまいそうだからだ。

「私は……」
 黒夜に痛い所を突かれ、健太郎は黙り込んでしまう。
 殺伐としかける場の空気。
 それをとりなすように、千葉 真一(ja0070)が健太郎の肩を持つ。

「大事な物ってのは人それぞれだ。他人を不当に貶めるのでもなければ、お金が大事なのも悪い事じゃないと思う。ただし、今はわかなさんの安全が大事だ。人の命に代わりはないからな」

 空気が変わり始めたのを察したリョウ。
 彼はここぞとばかりに健太郎を説得にかかる。
「千葉の言う通りです。貴方の言う通りなら、件の天魔はわかな嬢を標的としないかもしれない。しかし、彼女が標的にされる可能性はゼロではないのです。ならば、彼女が『狙われるであろう大切なもの』であると考え、守れるように対策をすべきです。何かあってからでは遅いのですから」

「そ、そうだな……」
 頷く健太郎。
 なんとか納得してくれたのを見て取った赤薔薇はすかさず彼に進言する。

「すぐに、わかなさんの携帯電話に連絡してください。今どこにいるのか、そもそも無事なのかを確かめるんです」
「連絡するのは構わないが多分、いや……十中八九、私からの電話には出ないだろう」
「どうしてです?」
 問いかける恭彦。
 すると健太郎は疲れたような表情で答える。

「既に話した通り……というより、君達も私の事は聞いたことがあるだろう? 私は世間で言われているように金の亡者だ。そんな父親に娘が心を開いてくれる道理がない」
 恭彦がただ黙って耳を傾ける中、健太郎は携帯電話をポケットにしまった。
 そして溜息を吐く健太郎。

「案の定だ。電話自体は電波の届く所にあるようだし、しばらく鳴らし続けてみたが、結局電話には出てくれなかったよ」
 
(なるほど……口ではああ言いつつも、結局、『自分にとって大切なものは娘』っていうのは)
 胸中だけで呟く恭彦。
(普通の人間が普通に働いても手に入らない資産……手段は選ばなかったんだろうね。一応僕も名誉を追った身ではあるから彼の気持ちはわかると思ったけど……これで娘さんを選ぶのなら、なんともセンチメンタルなお話だね。ちょっと拍子抜けかな、だからなんだってことでもないけど)
 こうしたことを考えているとは悟らせぬよう、恭彦は無表情を保つ。
(まぁこんなことは“絶対”言わないけどね、今はただの新米撃退士なんだし)
 
 健太郎の目をまっすぐに見つめ、マリア・ネグロ(jb5597)は持ちかけた。

「大事なものは娘さんと判断できました。いくつか『物』の犠牲を許容頂きたく思います」
「どういうことだ?」
「あなたが私達に願い、それらを守ろうとしていると偽装し、敵の目を此処に留める為」
「私にとって大事なものは、やはり金だった――そう思わせるということかな?」
 確かめるように問う健太郎。
 マリアは即座に頷く。
「また消防への手配を頼みます。被害が出た場合に、敵討伐後被害拡散の為に」

 今度は健太郎が即座に頷いた。
「わかった。何かを得るには何かを払う必要があるのは、どんな場合でも一緒だ。私の資産でそれができるなら使ってくれ。手配も引き受けよう」
 
 もう一度頷く健太郎。
 表情を柔らかくしたリョウがそれに頷き返す。
「ご協力、感謝します。では、我々は手分けしてわかな嬢を探しに向かいます。無論、本来の標的である貴方を放っておくような真似はしません。淀川と阿岳が貴方の護衛につきます。それでは――」
 
 リョウに続くようにして撃退士達は次々と出発していく。
 やがて応接室には恭彦と阿岳 恭司(ja6451)、そして健太郎が残った。

「……」
 やはり娘が心配なのだろう。
 健太郎は緊張の面持ちで黙り込んでいる。
 そのせいか、応接室は気まずい沈黙に包まれていた。

「あ、もし良かったら鍋でも食べんですか? こんな非常時にって気持ちもあると思いますけど、こんな時こそ美味しいモン食べて力を付けんとアカンですよ!」
 意を決して口を開く恭司。
「ちょっと台所貸してもらってもかまわんとですか? すぐに作りますたい!」
 恭司は努めて明るく言う。
 健太郎はというと、怒り出すこともせず、というよりも怒る気力すらない様子で立ち上がった。
「案内しよう」
 
 彼に連れられ、恭司は台所へと向かう。
 台所は手入れされずに放置され、洗っていない食器やインスタント食品の包装で埋め尽くされていた。
「恥ずかしいものを見せてしまったね。娘と一緒に食事を摂ることもないせいで、全く使わなくなっていたから……」
「内田さん……」
 恭司は黙々と台所を片付け、ちゃんこ鍋を作りはじめる。
 ややあって恭司はちゃんこ鍋の入ったお椀を健太郎に差し出した。

「うまかでしょ? なんか胸ん中がポッカポカしてくるでしょ? 大切なモンって、俺はよーわからんですけど、この鍋みたいにこう……胸ん中があったか〜くなって来るようなモンじゃないかって思うとですよ〜」
「ああ……美味しいよ。ありがとう」
 にこにこと笑う恭司。
 その時、健太郎が口を開いた。
「君のおかげで大事なことを思い出せたよ。阿岳君、携帯電話を貸してくれないか?」


 同日 同時刻 都内某所

 とある公園。
 わかなはまだ、そこのベンチにいた。
 俯いていた彼女は顔を上げ、絶句する。
 眼前にはいつの間にか現れた天魔――パイロマンが立っていたのだ。

「いや……! 助け……」
 手から火炎弾を放つ火男。
 炎がわかなを焼く寸前、小柄な人影が彼女を抱きかかえて飛び退く。
「危なかったな」
 わかなを抱えたまま転がった後、黒夜は立ち上がる。
「ちょっと……大丈夫!?」
 声を上げるわかな。
 彼女を救った際、火炎弾を受けた黒夜の背中は惨憺たる有様だ。

 だが、黒夜は平然とした様子で語る。
 自分が健太郎の依頼で来たこと。
 そして、わかなは健太郎にとって一番大切なものであるゆえ、こうして狙われているのだということを。

「父親の事で嫌な思いをしてる……ウチと同じだ。でも、おたくはウチとは違ってまだやり直せる。だから……ウチが守ってやる」
 それだけ言うと、黒夜は火男に向き直る。
「悪いが通行止めだ。こいつは渡せねーよ。さっさと失せろ」
 不可視のアウル弾を放つ黒夜。
 弾は火男に命中するも、敵はそれに耐える。
 敵は動きを止めず、再び火炎弾を放とうと――。

「シャァッ!?」
 発射の瞬間、火男は横合いから突っ込んできたバイクに吹っ飛ばされた。
 ダメージはないものの、火炎弾の発射は阻止された。

「間に合ったみたいだね。思うところはあると思うけど、君に命の危険があるかもだし、仕事はさせて欲しいな」
 バイクから降り立ち、洸太は言う。
「早くこっちに。私達が全力で守ります」
 タンデムシートから降りた赤薔薇がわかなの手を掴む。
 そのまま赤薔薇はわかなの手を引き、洸太は盾になるように動く。
 すぐに二人はわかなを安全圏へと避難させた。

「攻撃は皆様にお任せします」
 マリアもかけつけると、すぐに黒夜を治療し始める。

 それだけではない。
 恭彦と恭司に護衛されて健太郎も現れた。
 途中で合流したのだろう。
 リョウと真一も一緒だ。

「千葉君、だったね。皆の笑顔を護るための力があるなら……娘を守ってやれない私の代わりに、わかなを頼む」
 頭を下げる健太郎。
 だが、真一は首を横に振った。
「娘を守るのは内田さんの役目だ」
「だが、私は今まで父親らしいことなど……」
 弱気になる健太郎の言葉を遮り、真一は言い放つ。

「大切なのは『どうだったか』じゃなくて『どうするか』だ――」
「『どうするか』……」
「そうだ。だから俺は、内田さんが『どうするか』を選ぶ為に、わかなさんをここで守る」

 それだけ言うと、真一は恭司とともに火男の前へと立つ。
「一緒にやるかい?」
「もちろんたい!」
 頷き合う真一と恭司。
 そして二人は声を重ねる。
「「変身っ!」」
 掛け声ととに二人は魔装をヒヒイロカネから顕現。
 ヒーローの姿へと『変身』する。
「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
「この私が……チャンコマンがいる限り! 貴様の思い通りにはさせん!」

 すかさず、恭司はアウルを込めた拳を敵に叩き込む。
「チャャャンパンチ!」
 しかし、敵はそれにも耐える。
 一気に反撃へと転じた敵は炎の拳で恭司を何発も殴りつけた。
 
 恭司も負けてはいない。
 同じく相手の攻撃に耐えると、そのまま火男を羽交い絞めにする。
「お前のあっつい攻撃のおかげで……私の鍋もグッツグツなのだぁぁ! 強火の……クソ力ぁぁぁ!!」
 過量のアウルで痛覚をシャットアウトした恭司。
 凄まじい熱量にも構わず彼が敵を押さえているうちに、仲間たちの一斉攻撃が始まる。
 赤薔薇のアウルの矢と黒夜のアウル弾、リョウの土遁。
 更に洸太の弓と恭彦の魔導書による攻撃も追い打ちをかける。
 
 そして、それらが終わると同時に真一の方から音声が聞こえてくる。
『IGNITION!』
 同時に真一の脚にアウルの輝きが集中。
 頃合いを見計い、恭司も火男から離れる。
「ゴウライ、バスターキィィィック!!」
 真一の跳び蹴りを受け、火男は大爆発とともに消滅した。


「お父さんにとって世界で一番大切なのはわかなさんです。今回、狙われたことが何よりの証拠。それにお父さんの会社が移転する前は、この公園の近くにあったんですよね。ここにいるかもって教えてくれたの、お父さんなんです」
「……わかな嬢。内田氏を許してやれとは言わないが、話位はしてやってはくれないか。貴女の思っていることを全部ぶつけて、その上で彼を許すかどうか決めればいい。家族、なんだろう?喪ってからでは遅すぎるぞ」
 わかなに言い聞かせる赤薔薇とリョウ。
 それを遠目に見るだけしかできない健太郎。
 そんな彼に、黒夜や恭司の治療を終えたマリアは言葉をかけた。
「それでも今あなた自身から伝えられる言葉はあるのでは無いでしょうか。無事で良かった、と。今まですまなかった、と。今はぎこちなく、届かぬ言葉でも。やがて息吹く芽となるように……」
「ありがとう……」

 礼を言うと、健太郎はわかなの前へと立つ。
「無事で良かった。それと……今まですまなかった。帰ろう、家に」
 わかなはそっぽを向いて黙ったままだ。
 だが、ぶっきらぼうな所作ではあるものの、わかなは健太郎の手を掴む。
 そして彼女は黒夜に向き直った。
「その……やり直せるんでしょ? なら、やってみるよ」
 小さな声でそれだけ言うと、彼女は健太郎を引っ張っていく。
 
 ぎこちないながらも手を繋いで帰っていく親子。
 撃退士達はただ微笑み、それを見つめるのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
 撃退士・黒夜(jb0668)
重体: −
面白かった!:4人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
事件を呼ぶ・
淀川 恭彦(jb5207)

大学部2年95組 男 インフィルトレイター
未来へ願う・
マリア・ネグロ(jb5597)

大学部3年126組 女 アストラルヴァンガード