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「怪獣大決戦は余所で、というか無人島とかでやれ!」
憤懣やるかたない様子で白鷺 瞬(
ja0412)は影の書を開いた。
「山奥で二大怪獣もどきが暴れるのは別に構わないんだけど、近くに一般人が巻き込まれたならばそうも言ってられないわね」
瞬の言葉に応えるように言うと、高虎 寧(
ja0416)も手裏剣を指の間に挟む。
「まったく……なんだってんだ……はた迷惑な戦いしやがって」
激突する二大怪獣もとい、二大ディアボロを見上げながらぼやくのは蒼桐 遼布(
jb2501)だ。
「ディアボロ同士の戦い……何の意味があって……? その意味も気になりますが、まずは連絡をしてくれた方々の避難を最優先しましょう」
二大ディアボロの戦いに疑問を感じつつ、エリーゼ・エインフェリアも攻撃の準備に入る。
「案外、デビル同士が暇潰しに互いのディアボロを戦わせていたりしてね」
油断なく手裏剣を投げる為の狙いを付けながら、寧はエリーゼの疑問に答える。
それを聞き、当のエリーゼよりも、その近くにいた戸次 隆道(
ja0550)が怒りをあらわにする。
「暇だからで危険にされてはたまらない……叩き潰す!」
彼の相性する武器――幾重にも強化された脚甲がアウルの輝きを放つ。
「一般市民を無事に避難させてからでないと、戦い辛いですね。こちらで陽動を行いましょう」
落ち着き払った様子で雷帝霊符を掲げるのは神棟星嵐(
jb1397)。
彼が手にした雷帝霊符は既に電撃を纏いつつある。
「竜と虎の対決ってよく構図あるけど、実際どっちが強いんだろな」
ふと呟いた瞬に応えたのは、星嵐だった。
「確かに気にはなりますが、その結果が出るまで見守っていては被害の規模が大変なことになりますからね――その前に止めたい所です」
もっともな星嵐の言葉。
それに頷くと、瞬は二大怪獣をしっかりと見据えた。
「そうだな――みんな、準備はいいか?」
瞬からの問いかけに一斉に頷く仲間達。
彼等誘導班の役目は、自分達に注意を引きつけることで、別行動している仲間――救助班の安全性を高めることだ。
既に救助班が通報者達の保護に向かっている。
ここで二大怪獣を引きつけておけば、彼等が救助しやすくなるはずだ。
「行くぞ、みんな」
瞬の合図で放たれる撃退士六人がかりでの一斉攻撃。
並のディアボロならばこれで勝負は決していただろう。
だが、そう簡単にはいかないようだ。
赤い竜はその頑強な鱗で撃退士達の攻撃を次々と受け止める。
青い虎はその素早さを活かし、直撃を避ける形でダメージを軽減する。
そして二体には、まさに怪獣と言うに相応しい巨体に違わぬ生命力がある。
その生命力を前にしては、軽減されたダメージなど、彼等を行動不能にするには到底足りない。
各々の長所を活かし、二大怪獣は撃退士たちの攻撃に耐えきったのだ。
一対一のバトルを邪魔された怒りからか、あるいは、単に攻撃された事への怒りだろうか。
二大怪獣は攻撃の矛先を撃退士達へと変えた。
赤い竜は火炎や火球を吐き散らすとともに豪腕を振るい、青い虎は氷柱を飛ばしながら縦横無尽に駆け回る。
ろくに狙いもつけない、それこそ怒りに任せた滅茶苦茶な攻撃。
それでも効果は十分だ。
広範囲に及ぶ強大な破壊力を前に、撃退士達は回避も防御も容易ではない。
「くっ……!」
火球が飛んできたのを察知し、咄嗟に地面を蹴って避ける遼布。
次の瞬間、彼が立っていた場所に火球が炸裂し、爆裂する。
その衝撃で巻き上げられ、遼布は地面を転がる。
「爆風だけでこの威力……これは骨の折れる相手だ」
戦慄する遼布が見守る中、二大怪獣はなおも暴れ続けていた。
そして、彼の周囲には、二大怪獣の攻撃に倒れた仲間達の姿がある――。
歯を食いしばって立ち上がろうと苦心する遼布。
そんな彼をよそに、二大怪獣は暴れながら移動していく。
(あの方向は……!)
二大怪獣が向かう方向を見ながら、遼布は焦りを感じていた。
(まさか街に向かうつもりか……! )
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瞬達が二大怪獣を発見した頃、リョウ(
ja0563)と緋野 慎(
ja8541)は通報者である大学生達を保護しに向かっていた。
「好き勝手暴れてくれる……。早く見つけないと不味いか」
険しい顔のリョウだが、幸いにもそれからすぐに大学生達は見つかった。
四人組は男女二人ずつの構成で、誰も怪我はしていない。
まずはそれに安堵すると、慎は素早く彼等に駆け寄った。
「俺達は久遠ヶ原の撃退士だ。知らせてくれてありがとうな。後は俺達に任せてくれ」
大学生達は慎を見て些か驚いたようだった。
大方、「こんな子供が?」と思っているのだろう。
不安がる四人を安心させるように、リョウはあえて聞こえるように無線機へと語りかける。
「要救助者を発見。避難に移るので、その間敵を引きつけておいてくれ」
これで陽動班が動いてくれて、避難もやり易くなるだろう。
(とはいえ相手は巨大なディアボロ……それも二体。無事に押さえきれればいいが)
だがリョウは不安を微塵も見せず、落ち着いた表情で麓を指さした。
「ここから少し進んだ所にある登山道を使って下山するルートを使おう」
冷静沈着なリョウとは対照的に、四人組は不安を隠しきれないようだ。
彼等に向け、リョウと慎は微笑を浮かべてみせる。
「安心してくれ、君達は俺と緋野が必ず無事に帰す」
「リョウさんはもちろん、こんな子供に見えても俺も専門家だからね。俺達に任せておけば大丈夫だよ」
「緋野の言う通りだ。さあ、避難す――」
その瞬間、リョウと慎は何かを察知した。
反射的に土を蹴立てて走り出す二人。
そして二人は、各々、女性の一人に飛びかかる。
その直後、彼女達のすぐ前で地面が大爆発した。
巻き起こった爆風と衝撃に煽られ、六人は山道を盛大に転がる。
男性二人は爆心地からいくらか離れていたおかげで、吹っ飛ばされ方こそ盛大だが、実際は軽傷で済んだ。
一方、女性二人は爆心地にいた。
だが、火球の流れ弾を察知したリョウと慎に庇われる形となったことで、無傷で済んでいたのだ。
流石に耐えかねたのか、女性二人は堰を切ったように泣き出した。
そんな二人を安心させるようにリョウと慎は彼女達の肩をそっと叩く。
「大丈夫だ……先ほども言った通り、君達は俺と緋野が必ず無事に……帰す……」
「そういう……こと……。だって……俺達は専門家……だからね……」
しかし、リョウと慎の姿を見た途端に彼女達は絶句した。
彼女達を庇って火球の直撃を受けたリョウと慎はひどい怪我を負っていた。
「だ……だいじょうぶ……?」
涙をふくのも忘れて女性の一人が問いかける。
するとリョウは気丈に頷いてみせる。
「この程度なら問題ない。さあ、避難するとしよう」
「だね。まあ確かに、ちょっと痛かったけど、俺達は一般人とは違うだけの力があるから」
やはり気丈に言って立ち上がるリョウと慎だが、立ち上がった直後によろめいてしまう。
リョウはアウロラを顕現させてそれを杖とし、慎は手近な樹を掴み、それを支えにして立つ。
そんな彼等を見て、もう一人の女性が泣きながら首を横に振る。
「だいじょうぶじゃ……ないじゃない……!」
彼女の言う通りだ。
リョウと慎の重傷であることは明らかである。
それでもリョウと慎は気丈に振舞い、彼女達を避難させようとする。
それを見かねたのか、男性二人がリョウ達に語りかけた。
「いくらなんでもこれ以上は無理だ。助けに来てくれたことには感謝してる、だけど、今は一度戻った方が良いと思う……その、撤退っていうのをして、体勢を立て直してからでも」
「そうだぜ。いざとなったら俺達だけで避難するように頑張るし」
するとリョウは首を横に振った。
「それは駄目だ」
「だったら、動かないで待ってるから。それならいいだろ?」
「それも駄目だ」
今にも倒れそなリョウと慎を見ながら、男性の一人がなおも問いかける。
「どうしてだよ……?」
「確かに撤退という判断はあながち間違ってはいない。だが、知っての通り、いつまた流れ弾が飛んでくるか解らない状況だ。そんな状況で、今……俺達がこの場を離れるわけにはいかない。ましてや君達を残してな」
「ならせめて助けを呼んで……」
「それも手の一つではある――しかし、いつ流れ弾が来てもおかしくない上に、今の俺達では先程のようにカバーできる保証はない」
「なら、どうすれば……」
困ったように言う男性の一人に、リョウはゆっくりと答えた。
「俺と緋野が君達を連れて安全圏まで避難する。それが妥当だろう」
リョウが言い終えた後、慎も頷く。
「どうしてそこまで……もしかしたら死ぬかもしれないのに……」
女性の一人に問いかけられ、リョウは即答した。
「それが撃退士――緋野の言葉を借りれば、一般人とは違うだけの力がある者の役目だからだ」
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「みんな、生きてる?」
槍を杖にして立ち上がった寧が語りかけると、呼応して仲間達も必死で立ち上がる。
「ええ、なんとか」
答える隆道に向けて、寧はなおも語りかける。
「だったら、うち等はまだ持ちこたえないとね。二人が一般人を避難させ終える為に……も」
ふらつく足取りとは裏腹に、隆道ははっきりと頷いた。
「一般人を守る、最優先はそれであって傷つけては守護者の名に悖る。撃退士が守護者足るところを捨てては駄目ですしね――」
そして、一歩を踏み出す隆道。
ふらつく足取りながらも、隆道は迷わず進む。
そして彼は、怪獣達の前に立ちはだかった。
「――だからこそ、ここから先は一歩も通さない」
彼の決意に応えるように、仲間達も次々に怪獣の進路上に集結。
だが、全員が満身創痍。
そんな彼等が怪獣達によって蹴散らされようとした時だった。
「――穿て、黒雷!」
「緋炎拳(スカーレッドホーク)っ!」
突如飛来した黒アウルの槍が赤い竜に、鮮やかな緋色の光線が青い虎に炸裂する。
それにより怪獣達はほんの僅かに動きを止めた。
「待たせ……たな」
「避難は無事……完了した……よ」
攻撃を放った後、リョウと慎はそれだけ言うと前のめりに倒れ込む。
リョウを抱きとめる隆道と、慎を抱きとめる寧。
「もう要救助者を気にるすことはないよ……だから――」
小声で言う慎。
「――思う存分……叩き潰してやれ」
慎の言葉を引き継ぐように言うリョウ。
彼に隆道は頷きを返す。
「ええ。そのつもりですよ」
隆道は仲間達に向き直った。
「少しで構いません。二体の動きを止めてもらえますか?」
「どうするつもりだ?」
瞬が隆道に問いかける。
「怪獣を倒せるのは怪獣なのかもしれません。だから、怪獣に怪獣を倒してもらいます」
その一言で彼の意図を察したのか、仲間達は一斉に頷く。
手始めに動いたのは寧だ。
「任せたわよ」
影を縛る術を用い、赤い竜の動きをしばりにかかる。
リョウの攻撃で怯んでいた所に、寧の術を受けて影を縛られ、さしもの赤い竜も動きを止める。
一方、青い虎へは残る仲間達が一斉攻撃をかけることで動きを止めにかかっていた。
「白鷺さん」
「おうよ」
エリーゼがグングニルと名付けた光の槍を生成する隣で、瞬は影の書の力によって影の槍を生成する。
二人はたった一言だけの合図でタイミングを正確に合わせると、各々がアウルの力で創り出した『槍』を放った。
放たれた『槍』はどちらも青い虎の脚部に命中。
虎は思わず脚を止める。
「ここが勝負所ですね」
「――だな」
星嵐と遼布も言葉を交わすと攻撃態勢に入る。
星嵐は青い虎に向けて炎の術を放ち、光の槍を受けた場所を攻撃する。
それと同時に遼布は蛇矛を持って距離を詰め、影の槍が刺さった場所に自分も槍を突き立てる。
二体が動きを止めれたのを見計らい、隆道が動いた。
脚甲を顕現させた彼は、渾身の力を脚に込めて垂直に跳び上がる。
そのまま彼は、槍で刺された痛みで僅かに頭を下げた青い虎へと肉迫。
アウルを込めた脚甲で青い虎の頭部を蹴り付ける隆道。
彼はその反動を利用して更に跳び、今度は赤い竜の頭部に蹴りを叩き込む。
頭部を攻撃してくる鬱陶しい敵がいるのに、動きを封じられた状態の二体。
そんな二体がすべきことは一つだった。
双方ともに口を開けて息を吸い込み、息を吐く体勢に入る。
二体はブレスで隆道を撃ち堕とすつもりのようだ。
そして放たれる炎熱と氷結のブレス。
だが、それより一瞬早く、隆道は赤い竜の顎を蹴って地面に急降下した。
直後、隆道のいた場所を通り過ぎる二つのブレス。
炎熱のブレスは青い虎に炸裂し、氷結のブレスは赤い竜に炸裂する。
強力な一撃を叩き込みあって互いに悶絶する二体。
「今です!」
隆道の合図で一斉に仲間達が動き出した。
まずは寧が素早く青い虎の頭部へと駆け上がる。
駆け上がるなり寧は手にした槍を虎の脳天へと突き立てる。
そして寧は槍――フルフルスピアが纏う電気のようなアウルを最大出力で放出する。
あまりの出力で電撃が寧と虎の周囲に広がり、まるで球電のようだ。
虎にしてみれば高圧電流を直接叩き込まれたようなものだ。
そのダメージは大きい。
だが、それでもまだ虎は事切れていない。
虎がなおも動き出そうとしたその時、瞬が跳び上がる。
「でかい図体を呪っておくんだな……貫け!」
既に瞬の手にはブレッドバンドが巻かれている。
加えて、残った力を全て込めた全身全霊の拳を振り上げる瞬。
瞬は、虎の脳天に刺さった槍の石突に拳を叩き込む。
それによって杭のように打ち込まれた槍は虎の体内を一直線に進み、その身体を貫き、とどめを刺した。
一方、赤い竜の頭部には遼布が渾身の力で蛇矛を突き立ていた。
「たとえ鱗は硬くとも中身までは――みんな、やってくれ!」
素早く飛び退く遼布。
その直後、エリーゼ魔力の雷を放つ。
「たとえ強大なディアボロが相手でも、力を合わせれば!」
更に星嵐が雷帝霊符の力で生み出した雷の刃も放たれる。
「街に行かせるわけにはいきませんからね……ここで、倒しましょう!」
二つの電撃は一直線に蛇矛へと向かっていき、見事に直撃する。
重なり合う二つの電撃は蛇矛が伝導体となって竜の体内へと到達。
その威力を惜しげもなく発揮して、竜の体内を破壊し尽くす。
高圧電流をダイレクトに体内へと流し込まれたショックで痙攣した後、赤い竜も動きを止める。
こうして二体の怪獣は双方ともに事切れたのだった。
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戦いを終え、無事に下山したリョウ達は大学生四人と再会していた。
リョウと慎が無事に戻ってきたのを見るや、女性二人はまたも泣き出す。
要救助者は全員救出。
瞬とエリーゼが消防に連絡したおかげで二次被害も防げた。
十分に成功といえる結果だろう。
それに安堵する撃退士達。
彼等は助けた四人とともに、無事街へと戻っていったのだった。